東京女子医科大学 糖尿病センター

◆正常血糖ケトアシドーシスとは
 通常インスリン作用の絶対的不足により高血糖とケトン体産生の増加をきたし、代謝性アシドーシスに至るのが糖尿病ケトアシドーシスです。
SGLT2阻害薬を服用すると著明な高血糖を伴わない「正常血糖ケトアシドーシス」と呼ばれる状態を起こすことが報告されるようになりました。
 機序はまだ十分解明されていませんが、@血糖降下作用のためにインスリンの必要量が減ってインスリン分泌が減少し、逆にグルカゴン分泌が増加する、
A利用できるブドウ糖が減少し、代わりにケトン体産生が増加する、B腎でのケトン体再吸収が亢進する、といった機序が推測されています(Diabetes Metab Res Rev, 2017)。
 本疾患を起こしやすい条件として、脱水、糖質制限などが挙げられ(Endcr Pract, 2016)、日本国内ですでに15件以上が報告されています。

◆当センターの症例
 当センターで経験した、SGLT2阻害薬による正常血糖ケトアシドーシスの症例は、糖尿病と診断されたばかりの40代男性で、SGLT2阻害薬を含む2剤の経口糖尿病薬を内服中でした。
自ら糖質制限を開始したところ、口渇、倦怠感が出現したため当院を受診しました。血糖値は183mg/dLとさほど高くはありませんでしたが、ケトアシドーシスの状態でした。
この症例については、糖質制限が病態を悪化させたと考えています。


◆正常血糖ケトアシドーシスを防ぐには
 脱水が危険因子となるため、SGLT2阻害薬の開始直後は水分を多く取ることが推奨されます。糖質制限や、体調不良などによる食事摂食量の低下にも留意が必要です。
あらかじめ、どのような時に休薬するかなどのシックデイルールや適正な食事療法について、医師と患者が十分に相談しておく必要があります。