「艦隊・W・Y・Z」昭和16年10月9日午前九時、連合艦隊旗艦長門に掲揚されたこの一連の旗流信号によって、各級指揮官は、ただちに戦艦長門に参集を命ぜられた。…
一同が列を整えると、しばらくしてコトコトと靴音がきこえ、中甲板のハッチから連合艦隊司令長官山本五十六大将が、例のあたりを圧するような荘重精悍な姿を現した。…

「わが連合艦隊はいよいよ戦備を完了し、きょうよりまた訓練を再興する。このときに当たって各級指揮官の英姿に接し、欣快のいたりである。
思うにわが国は、自衛の活路を見出すため、ついに米・英・蘭・仏・豪など数ヵ国に対し、積極的武力発動のやむなき事態にたちいたらんとしつつある。…

つづいて連合艦隊参謀長宇垣纏中将は、わが国の内情その他を詳細説明して左のごとくのべた。
「資源に乏しいわが日本は、米国の経済封鎖によって燃料、鉄鉱、ゴム、亜鉛、錫、ニッケルその他重要資材の枯渇を招来しつつある。
このまま退いて自滅するよりも、進んで自活の道を開拓するため、やむをえず未曾有の大作戦を展開せざるをえない実情にたちいたっている。…

無敵を誇る連合艦隊であるが、相手はわれに数倍する大海軍国である。これをむこうにまわしていつまで互角に戦いうるか。
わが軍令部、大学校あたりでは、頭脳明晰な手脳部が幾度か兵棋演習、図上演習で、十分研究しつくしていることだろうが、私はなんだが不安にたえなかった。

そこで意を決し生意気ながら一人で参謀長室にいたり、「米英をあわせて戦うこと、われにとってはなはだ不利と思う。
フィリッピンには手をつけず、資源地帯、とくに石油資源の蘭印(オランダ領インド)だけを押さえる手はないのですか」と質問すると、
宇垣中将は微笑しながら、「それも一法だが、途中から面倒が起きて非常にやりにくくなるだろう」と答えられた・それもそうだと私も一応は思ったが、十分納得はできなかった。

原為一『帝国海軍の最後』(復刻新版、2011年、河出書房新社)7頁〜10頁より引用
原為一は開戦時駆逐艦「天津風」艦長、その後第二七駆逐隊司令(駆逐艦「時雨」乗艦)、天一号作戦での大和特攻時随伴の二水戦旗艦「矢矧」艦長)
http://ja.wikipedia.org/wiki/原為一


フィリピンで251人乗せたフェリー転覆、4人死亡 多数が行方不明
http://www.afpbb.com/articles/amp/3156245