20数万年前に氷河期のヨーロッパに現れ、おそらく現生人類ホモ・サピエンスとの生存競争に敗れて2.8万年前に絶滅したと考えられるネアンデルタール人は、
旺盛な代謝を維持するために、これまで肉食に特化していたと考えられていた。
実際、ネアンデルタール人の骨の元素同位体分析研究で、彼らの食性は肉食のオオカミやホッキョクギツネと似たものであったことが分かっている。

イラクとベルギーの化石歯の歯石から穀物調理の証拠
しかしネアンデルタール人は、ある種の調理をして、その土地で利用できる多様な野生植物を食用にしていたことを、
アマンダ・ヘンリ、アリソン・ブルックスら、アメリカ、スミソニアン自然史博物館の人類学研究チームが発見した
。アメリカ国立科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、PNAS)の昨年の12月27日付オンライン版で報告された。
同チームは、イラク、シャニダール洞窟(写真上)出土のシャニダール3号(写真中央=1960年代の発掘時)と
ベルギー、スピー洞窟(写真下)出土のスピー1号、2号の歯に残った歯石を分析し、顕微鏡観察である種の植物化石とでんぷん粒を見つけた。
それらには、今日でもヒトに利用されているナツメヤシ、豆類、ムギ類の草本類種子が含まれる一方、あまり食用にされていないものも検出された。
草の種子のでんぷん粒は、調理に特徴的な損傷も受けていた。
ネアンデルタール人は、野草や穀類を、火加減を調節しながら上手に調理して食べていたと考えられるという。