「患者に不必要なリスク負わせた」

 冠動脈の狭窄がないのにステントを留置された患者の医療費返還を求める
自治体の要求は、Y病院の破産手続きの中では、ほとんど通らなかった。
不必要な治療によって、税で賄われる生活保護費が不当に使われてしまった
わけだが、税金が無駄に使われたことだけが問題なのではない。
 医学的な観点から見れば、冠動脈が正常な人にステントを留置したという
Y医師の行為は、患者に不必要なリスクを負わせたという点で、極めて悪
質であると言える。匿名を条件に筆者の取材に応じた循環器内科が専門の大
学教授は次のように指摘する。
 冠動脈のステント留置術には、ステントを留置した部位に血の固まりであ
る血栓が発生して冠動脈が閉塞してしまう可能性がある。それを回避するた
め、患者は抗血栓薬をずっと飲み続ける必要がある。そのようなリスクを、
そもそもステント留置の必要がない人に負わせたことは、犯罪として罰せら
れることはないとしても、極めて非倫理的な行為であると言わざるを得ない。
Y病院ほど悪質でないとしても、ステント留置術が必要かどうか厳密に判
断せず、必ずしも必要でない治療を行っている病院があると言われる。医師
の裁量権に阻まれ、規制を加えることが難しい現状にあるが、社会的に大き
な問題だと思う。不必要な治療を行う医療機関が出てくる背景には、マスコ
ミが医療機関の治療件・ ・を公表することで、治療実績が多い医療機関が良い
医療機関だという風潮が生まれていることもあるのではないか。
 大阪市が開示した意見書の中の2枚には、治療の必要性や保険請求の妥当
性に関する評価以外に、次のような記述があった。
 患者は術後急死している。CT所見とカルテの所見があわない。おそらく
PCIによる心破裂であろう。
 特記すべきは、カテーテル治療後に急性腎不全、感染を発症され、●●
(黒塗りのため判読不能)最終的に死亡されていることである。
 患者の急死に関する情報は、先に紹介した奈良県への匿名の投書にも記
載されていたが、Y病院では治療直後に患者が死亡する事例が複数発生
していた。そのうちの一件について、奈良県警がY医師に対する刑事責
任の追及に乗り出す。Y病院をめぐる事件は診療報酬詐取にとどまらな
かった。