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 しかしスカウトというのは、なかなかつらい仕事でもある。足しげく通っていい選
手を見つけてほれ込んでも、ドラフト当日の順番や他球団との駆け引きで獲得できな
いことは多々ある。筒井スカウトも1年目は推しの選手の指名はなかった。つまり湯
浅投手がはじめての担当選手。そりゃ、わが子のような気持ちにもなるだろう。

 昨年10月25日のドラフト当日。最年少である筒井スカウトは、会場ではなく阪
神の控室にほかのスカウトと一緒にいた。

 「会場のモニターを見ながら、ホワイトボードに指名された選手を書いていく係だ
った。全球団のね。指名がかかって『湯浅…』まで書いて、すぐ富山のコーチに電話
した」。

 興奮した。心の底からうれしかった。でもその場では感情を押し殺した。担当選手
の指名がなかった先輩スカウトもいるからだ。

 「ほかのスカウトから『カズ、はじめてやな。おめでとう!』って言ってもらって、
それがすごくうれしかった」。そこでようやく笑顔を見せることができた。

 それにしても、ここまでほれ込める選手に出会えるのはスカウト冥利に尽きるとい
うものだろう。話していても、次々と賛辞が口をつく。前述したほか「野球に対する
姿勢がいいよ。高校時代に苦労したことを忘れていない。その芯の強さがある」「覚
悟を持ってやってるのがわかる」「まだまだ伸びしろがある」…夜を徹して聞いても
尽きないのではないかと思うほどだ。そしてそれは湯浅投手本人にも伝えている。