原辰徳に告ぐ。弱いチームを強くして勝て/広岡達朗コラム

原辰徳が巨人の監督を辞めてから3年がたった。

通算12年間の在任中は、リーグ優勝7回、日本一3回という実績を残した。WBCでも世界一に輝いてい
る。立派なものだ。

だからこそ私は言いたい。今度ユニフォームを着るときには古巣の巨人ではなく、一番弱いチームを
率いて、そのチームを強くすべきだ、と。

なぜこういうことを書くかというと、プロ野球は巨人が単独で存在しているわけではない。12球団が
あって巨人がある。弱いチームを強くすれば、ほかのチームも切磋琢磨して強くなる。引いては、球
界全体のレベルが引き上げられるのだ。原もそういう広い視野に立って物事を考える年齢に来ている
のではないか。

ただし、仮にヨソのチームに行って従来の“巨人方式”を押しつけても失敗するのは目に見えている。
では、巨人方式とは何か。

私の現役時代、巨人では、一つのポジションを巡って、熾烈な戦いが繰り広げられた。意欲のない選
手は容赦なく切り捨てられていった。

V9時代には森昌彦(現・祇晶)というれっきとした正捕手がいたにもかかわらず、その座を脅かすよ
うな“刺客”が次から次へと入団してきた。平安高で甲子園に3度出場した野口元三、早慶戦を沸か
せた神宮のスター大橋勲(慶大)、六大学で戦後2人目の三冠王に輝いた立大の槌田誠ら。当時の巨
人はそうして選手の競争意識をあおった。その結果、こいつなら大丈夫だと太鼓判を押された男がレ
ギュラーを獲得していく。

当然、森にすれば面白くない。「俺がいるのに、なぜ(新戦力を)取るんだ」と思うのは当然だ。
そこで森は、一人のライバルに対して腹の中とは正反対のアドバイスを送ったりもしたという。手法
はいささかえげつなかったが、そこまでしてプロの世界で生き抜こうする必死の姿勢は、認めるべき
ものがあった。