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その試合は今では珍しいダブルヘッダーの2試合目だった。この試合のバッキーは波
に乗り切れず、初回に王・末次に死球をあたえ押し出しで1点献上していた。その後
バッキーは四回、黒江ヒット後に味方がエラー大ピンチを迎える。そこでバッキーは
集中力を欠いたのか、続くバッターに3連打を浴びて2失点。そして問題、王貞治を
打席に迎える。初回に王貞治の右脇にぶつけているバッキーは、この2打席目も初球
に顔面スレスレの速球を投げ込み、2球目も同じようなボールを放った。

このバッキーの投球に、いつもは冷静な王も怒りの形相でマウンドに詰め寄り、一言
二言注意した。それを見た両軍がベンチから飛び出し、バッキー・王のいるマウンド
上で衝突した。
巨人ベンチから我先にと勢い良く飛び出したのが、王の打撃の師匠である荒川打撃コ
ーチだった。その荒川打撃コーチの動きにヒートアップしたバッキーは、ストレート
のパンチを荒川コーチに見舞った。

なんとその時にバッキーは右手の親指を骨折。この怪我が原因で同シーズンを終えた
バッキー。そしてこのシーズンを最後に阪神とは決別。そして近鉄に移籍し復活を帰
して臨んだ翌年は、球威が戻らず勝ち星なしのシーズンを送り、同年現役引退となっ
た。

この「バッキー荒川事件」の後日談でバッキーは王との会話をこう語っている。
王貞治「危ないじゃないか。気を付けてくれ」
バッキー「辻さんのサイン通りインコースに投げただけだよ」
王貞治「オッケー。分かった」

この会話が終わった瞬間に荒川コーチがマウンドに飛んできて、両軍入り乱れての大
乱闘になった。非常にもったいないことをしたものだと言うのが感想である。
これがなければこのシーズンも、また翌年以降もバッキーは阪神で活躍し、もっと多
くの記録を残したであろう。しかしこの事件があるから引退後何10年たっても、阪
神ファンから語り継がれているのかもしれない。