久し振りのテレビ取材。だが容赦ない質問が斎藤佑樹に浴びせられる。回りくどいプロ野球選手の引退平均年齢「29.6歳」。
言葉を選ぶ間がもどかしい。その年齢の前に越えなければいけない壁がある。そしてその為の実績。
「今は(引退やクビを)考えない。最後までやる」 在り来たりな言葉を、強く言い切るしかない所までやって来てしまった。

どんな時も勝利の輪の中心でいる。それが当たり前だったし、22歳の斎藤には当たり前の景色しか想像出来なかった。
「とんでもない所に来たな」と臆するよりも「自分もその中の一人」と言える方が、雄々しさ溢れるのではないだろうか。
未熟を口にするよりも先に達したい課題を口にする方が、小高いマウンドのファイターらしくないだろうか。
結果とかけ離れた斎藤の言動は、今では嘲笑の的になっている。笑わば笑え。そんな意志が毎回の登板後のコメントに見える。

早朝からのトレーニング。30歳を越えてキャリアハイを残した投手は枚挙に及ぶ。その中の一人になればいい。
そんな思いで筋肉を苛め、炎天下のグランドを黙々と走る。最後に笑うのは自分だと信じて。

手応えはわかる。真っ直ぐの回転が上がったのかその裏返しの被弾。打たれたのはソロばかり。計算高さも変わっていない。
走者を出しても粘り強さを少しずつ見せ始じめている。四球もわずかだが減っている。後少しだ。

どんな才能ある画家でも、その才能を見出だし愛でる画商に出会わなければ不遇のままで終わる。
斎藤は才能ある画商の眼に止まるべき事をするだけ。それが彼の歩み選んだ道なのだから。膝まづく必要はない。

間もなくたった一つの勝者の為の宴が終わる。そしてかって宴の真ん中にいた男の新たな宴の秋が始まる。