本拠地、福岡ヤフオク!ドームで迎えた日本ハム戦。 
先発中田賢一が大谷からの被弾を口火に2失点、打線も大谷の前に勢いを見せず惨敗だった。
今季初同一カード3連敗、2戦連続完封負け、4戦連続二桁三振……
この体たらくでスタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「何が史上最速マジックだよ」の声。 
無言で帰り始める選手達の中、昨年3割を逃した安打製造機内川は独りベンチで泣いていた。 
4番の呪いと戦いながら手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるイ・デホ…… 
それを今のホークスで得ることは殆ど不可能と言ってよかった。 
「こっちは必死でどちらかをやっているのに……なんだよあの化け物は……」 
内川は悔し涙を流し続けた。 
どれくらい経ったろうか、内川ははっと目覚めた。 
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した。 
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」内川は苦笑しながら呟いた。 
立ち上がって伸びをした時、内川はふと気付いた。

「あれ……?お客さんがいる……?」 
ベンチから飛び出した内川が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった。 
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにいざゆけ若鷹軍団が響いていた。 
どういうことか分からずに呆然とする内川の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。 
「内川さん、守備練習ッス、早く行くッスよ!」