花粉症の最大の元凶である杉の木は、あきらかに予測を欠いた、というより予測を怠った国家の林業に関
する失政の所産でしかない。生育の早い杉は戦後住宅の増設のために集中して植林された。その促進のた
めに作られた「昔々その昔、椎の木林のすぐそばに、小さなお山があったとさー」という童謡を私も覚えてい
るが、その後世界の流通が変わり国産よりも安い外材が優先され、国内の杉の森は放置され続けた。その
結果森は荒れ、いたずらに樹齢の延びた杉は自己防衛のために過剰な花粉を放出するようになった。

 そんなことは花粉被害者の誰もが知っていることだが、これだけ膨大な数の国民が苦しみぬいているの
に、政府はなぜこの問題に積極的に対応してこなかったのか理解に苦しむ。これはあくまで自分がこの難病
にとりつかれてのことだが。

 よく、新しい公共事業の展開前に、これが実現するとどれほどの経済効果があるという分析予測が発表さ
れる。渋滞解消のためのバイパスやハイウェイ、橋の建設、あるいは空港の滑走路増設は、確かに通行時
間の短縮のもたらす燃料等の経費の節減をもたらすし、環境問題の好転にも繋(つな)がるし、他の要因に
よる経済効果を確実にもたらす。

 ならばなぜ今までこれほど広大な範囲で、膨大な健康被害をもたらしている花粉症に関しての、その防止
による経済効果が計測されてこなかったのか。

 治療の受け手の医師会は、治療の売り上げなんぞよりも、その問題の放置が社会にもたらす深刻な影響
に警告を発してもいる。

 荒れた森に手を加え健全化するのにどれほどの経費がかかるのかという予測すら聞いたことがない。林野
庁のホームページを見ると、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、温暖化の防止のためには一度に伐採と
はいかず、徐々に他の品種の木と植え替えていくしかないとあるが、これも体裁のいい言い訳というか、役所
はもうお手上げだという本音の域を出ずに、悩める者たちへの何の救済にも期待にも繋がらない。

 これがわが国独特のいわば風土病ともいうべきものであり、その原因は林野行政の失敗でしかない。とに
かく六分の一の国民が、年間の四分の一の長期にわたって苦しみ、仕事の能率を欠き、とどのつまり膨大な
マイナス経済効果を蒙(こうむ)っているのだ。これがどうして国会での重要議題とならないのか。なぜ、せめ
て将来数年にわたろうと花粉症淘汰(とうた)の計画が机上にすら存在しないのか。これがせいぜい数人の
生死に関わるだけの、サーズなど新しい疫病となると国を挙げての大騒ぎとなるのに、自殺者まで出ている
花粉症対策が国事たりえず、選挙の争点の一つともならないのは、国事担当者の政治家、官僚の鈍化と怠
慢のせいというよりない。
http://www.sankei.co.jp/news/morning/02iti003.htm