汗まみれのカズがせっせとサインを書いている。
そして、私の番まであと4、5人になった時に「色紙がない」と気付いた。待っている間に落としてしまったのだ。
「あれ、色紙は?」。
カズから尋ねられると、私は困惑した表情で答えた。「なくしました」。
すると、キングはスッと私のTシャツをつかむと、そこにサインを書いてくれた。
「ありがとうございます。僕もいつかサッカー選手になりたいです」。
うれしさもあってそう伝えると、スーパースターは「頑張れよ」と頭をなでてくれた。

年月が流れ、私はサッカー選手ではなく、新聞記者になっていた。

「日本代表に期待することは何か」と聞いてみると、付き添いの広報さんが「試合以外については話せません」と返答。
困惑する私を見つめながらカズの口が開いた。
「同じ選手として成熟している彼らに特に言うことはないが、W杯へのいい準備ができるように、
いいサッカーを見せてほしい」。思いがけない、サッカー界の“レジェンド”の優しい気遣い。私は感謝し、深くお辞儀した。

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