「崇城行きたいっ」
――そう言った彼女は成績優秀だった。
数学はほぼ満点が常だったし、物理も偏差値が80を超えた時もあった。
そんなに数学と物理ができるのなら崇城の他の学部を受けても合格するはず、と思っていた僕は、彼女を羨ましく思った。
毎日毎日ラウンジや廊下で雑談しててもその成績を維持できる彼女を、僕は羨ましく思った。
チューターに「崇城大学は私の成績でも受からない人の方が多い」と言っていた彼女を、僕は謙虚な努力家だと捉え自分自身を恥じた。

そしてまた言う。
「崇城にしか興味がない」
そういえば、どうして現役で大学に受からなかったのだろう。
もしかして崇城にしか行くつもりがなくてMARCHや日東駒専は蹴ったのか? と思っていると、現役では日東駒専にも落ちたらしい。
「私は模試だけの女なのよ……」

そして僕らは晴れて浪人生活を終えて大学生になった。
彼女から連絡がなかったので、崇城は落ちてやはりSFCか早稲田文構に行ったのかな、と思っているとどうも違うらしい。
何と、崇城大学に見事合格したそうだ。

成績トップクラスの人が早慶上智MARCH落ちて崇城……?
模試だけの女……?
そこで僕に電流が走った。
もしかして彼女は崇城大学の対策に打ち込んでいたのではないか、と。

風の噂によると、やはり崇城大学の対策に専念していたらしい。
周りのみんなが必死に勉強しているのに、現役時代からそれ以上の勉強をしていたと知り僕は自らの不甲斐なさ、努力不足を恥じるばかりだ。
そして言おう。おめでとう。
何度でも言おう。本当におめでとう。