左翼が劣化するのは危険な時代 池田信夫

『全体主義の起原』はファシズムがいかにして生まれたかを解明した古典だが、アーレントによれば、
こういう勢力が出てくる背景には、議会政治が機能しなくなるという共通点がある。
近代の議会政治は次の二つの前提にもとづいている。

・社会が階級に明確に分化し、それぞれを代表する政党が拮抗している
・有権者に納税者としての意識が高く、政策を理解している

初期の身分制議会では党派と身分が1対1に対応し、高額納税者が有権者だったので、この二つの前提が
満たされていたが、普通選挙で政治が大衆化すると、圧倒的多数の大衆は既存の政党に代表者をもたず、
政策についての知識もない。
そこで労働者の代表と自称する社会主義政党ができるが、彼らの政策には魅力がなく、分裂抗争を繰り返すため、
ワイマール共和国のような混乱状態になる。このように左翼が分裂して政権が維持できないとき、代表者(政党)と
代表される者(大衆)の間にギャップができる。これを埋めると称して出てきたのがナチスであり、日本では軍部だった。

ドイツでは、人民戦線でバラバラの左翼を統一しようという試みが挫折したあと、ヒトラーが出てきた。
日本の陸軍は政友会と連携し、「挙国一致」をスローガンにして危機を克服すると主張し、
対外的拡張主義で失業問題を「解決」した。