例えば、作業の一部を切り出して外部企業に委託し、業務コストを削減する
というのは、「本来であればおかしいこと」(中澤准教授)だ。委託先の企業
は依頼を受けて利益を得るのだから、その会社がよほど自動化や効率化で高い
技術力を持っているか、自社の賃金が相場より飛び抜けて高くなければ、作業
を委託しても業務コストはほとんど下がらないのが自然だ。

 ところが、最低賃金が低いと、安い労働力を集められた企業が業務委託で利
益を稼げてしまう。利益が出ても生産性が上がるわけではないので、労働市場
全体で見れば業務量に対して投入している人材の数は変わらない。業務が実際
には効率化していないので、市場への労働者の供給は増えないというわけだ。

 かつて米フォードの創業者、ヘンリー・フォードは需要を高めるために、社
員の賃金をT型フォードが買える水準まで上げたという。日本ではかつての
フォードと逆の現象が起きている。安い賃金で働いているため、自分が働いて
提供する商品を買う消費者より、労働者自身の生活水準は低くなる。こうした
労働者が増えると、消費者全体の購買力が低くなるため需要が落ち込む。経営
が厳しくなって、企業はより安い賃金で社員を雇用しようとしかねない。格差
の拡大につながるのだ。