遠くから声が聞こえる。
「いいよ・・・」

薄れゆく意識の中でエコーのように声が反復する。
「・・・いいよ、もう出していいよ、もう、いいよ、出して」

全身に電流が流れたかのように俺は跳ね起き、プラスチックのゴミ箱にしゃがみ込む。
大きく息を吸い込み、吐きながら筋肉を弛緩させる。堰を切った濁流がゴミ箱の底を
打ち、跳ね返る。

再び息を吸いながら室内を振り返る。異臭漂う研究室で教授は両手を広げバレリー ナ
のようにくるくる回っていた。鼻水と涎を垂らし、目は虚ろだ。

「先生・・・」
「んはあ、うんはぁぁぁ・・・」
やつは完全にトリップしていた。魂が遊離し、意識は別の次元を漂ってている。
肉体が抜け殻ではないわずかな証左は、無意味な呟きだけだった。

「濃い、緑の、宇宙はひも、バセロン、永遠の終わり・・・」

突然やつは両手を股間にあてがってしゃがみ込んだ。俯いて小刻みに震え、凝固し、
脱力した。青臭い匂い立ち込める。

教授は言った「・・・・・今日はもういい。契約は検討しておく」
「ど、どうかお願いいたします・・・」

俺はケツを拭くまもなく、トランクスとズボンを引き 上げ、研究室を後にした。