無門関(むもんかん) 第3則  倶胝竪指(ぐてい じゅし) 

倶胝(ぐてい)和尚、凡(およ)そ詰問(きつもん)有れば、唯(た)だ一指を挙(こ)す。

後(のち)に童子(どうじ)あり。
因(ちな)みに外の人問う、「和尚、何の法要をか説かん?」。
童子も亦(また)指頭を竪(た)つ。

胝、聞いて遂’つい)に刃(やいば)を以(も)ってその指を断つ。
童子、負痛号)哭(ごうこく)して去る。

倶胝、復(ま)た之(これ)を召(め)す。
童子、首を廻す。
胝、却(かえ)って指を竪起(じゅき)す。

童子、忽然(そうぜん)として領悟す。

胝、将(まさ)に順世(じゅんせ)せんとして、衆(しゅ)に謂(い)って曰く、
「吾れ天竜一指頭(てんりゅういっしとう)の禅を得て、一生受用不尽(いっしょうじゅようふじん)」と。
言い終って滅を示す。


倶胝和尚は、挑戦的な問答をされると、決まって唯だ一本の指を立てた。

ある時、倶胝の処に居た童子に客が「倶胝和尚が説いている仏法の肝要とはどのようなものですか?」と聞いた。
童子は、直ちに一本の指をスッと立てた。

これを聞きつけた倶胝和尚は遂に刃を以って童子の指を切ってしまった。
童子は痛みに耐え切れず号泣して走り去った。

倶胝和尚は、「おい、○○!」と童子を呼び止めた。
童子が首を廻して振り返ると、倶胝は、すかさずスッと指を立てた。

それを見た途端、童子は忽然として悟った。

倶胝和尚は、晩年になって、将(まさ)に臨終を迎えようとした時、弟子達に向って、「私は天竜和尚の処で一指頭の禅を得たが、一生かかってもそれを使い切ることができなかった。」と言って息を引き取った。


胝(ぐてい)和尚:馬祖下四世の法孫。天龍和尚の法嗣。六祖慧能→南嶽懐譲→馬祖道→大梅法常→天龍→倶抵

倶抵は天龍和尚の一指頭によって開悟した。
彼は、常に「七仏倶胝仏母心大准提陀羅尼法」(善無畏訳)に説かれる倶抵観音(=准提観音)の陀羅尼を唱えていたようである。
倶胝和尚と呼ばれた。

順世(じゅんせ):僧侶が死ぬこと。円寂、帰真、遷化に同じ。

〇 これもまた 初関を透る、公案である。禅は力を尽くして悟らせる。それは妄想(もうぞう)だよ、と。