白隠のお寺の門前に、一軒の餅屋がありました。
その餅屋の「おさん」という婆さんが、白隠禅師の公案に対して「白隠の隻手の声を聞くよりも両手を打って商いをせん」と一首詠みました。
おさん婆さんは白隠の弟子でしたから、「隻手の声」の公案に込めた白隠の意図を理解しなかったわけではないでしょう。
「片手の声を聞く暇があったら、両手を叩いて商売をしよう」と詠んだ。

それに対して、白隠は「商いが両手叩いてなるならば隻手の音は聞くにおよばず」と返しました。

他にも色々いたと思うが、僧侶は老婆に縁があるなぁ。
箒で老婆にシバかれ…徳山は団子で老婆に絡まれ…

徳山といえば、「臨済の喝、徳山の棒」と、並び称された禅師ですね。

金剛般若経の講義が得意であった。

金剛経の註釈書を背に、湖南省のある村にやってきた。
そこに茶店があって、老婆が餅を売っていた。
徳山はここで点心しよう(昼食をとろう)と店に入る。
老婆は徳山の荷物を見て、「それは何だ」と聞く。
徳山は「これは金剛般若経の註釈書だ」と答えた。
老婆は、金剛経について質問に答えられたら、お店の餅はただであげますといった。
徳山は金剛経において自信満々だったので、「よろしい、何でも聞きなさい」と答える。

老婆は言った
「金剛経の中に、過去心不可得、現在心不可得、未来心不可得とありますが、
あなたはいったい、
どの心に点するつもりです」。

徳山は、うんと唸ったきり、ひと言も答えられない。
ついに一語も答えることができないで、茶店を追い出された。