>>778

続きを書くぜ

一目で気に入った日本人大学生風の
女性が座っていたコンパートメント
に入って少し話をしてみるとな
どうも日本語がたどたどしかったんで
よくよく聞いてみるとな
日本人ではなく台湾の人だったぜ
最初のうちは日本語で頑張って
くれていたんだけどな
ものの数分で俺たちは英語での
コミュニケーションに切り替えたぜ

登山鉄道とは異なり
向かい合わせに3人ずつ座る
コンパートメントには引き戸も
ついていてよ
カーテンを閉めることもでき
まるで個室のような空間だったぜ

個室の中で大学生と2人キリになり
俺は日本文化の紹介と称して
子どもがやるような
さまざまな手遊びを披露し
手のひらをくっつけ合ったりして
距離感を一気に縮めていき
列車が走り始めて1時間半後ぐらいには
頬と頬が10数センチの距離にまで
近づいていたんだがよ

あと一歩ってところでな
コンパートメントの扉とカーテンが
開けられてな
それまでの努力が振出しに
戻っちまったぜ

ちょうどイタリアとスイスの国境駅に
停車したところでな
コンパートメントには
パスポートコントロールの
入国審査の係員が入ってきて
パスポートの提示を要求されたぜ

5〜6時間前に逆ルートの列車で
スイスからイタリアに入国した時には
10分程度停車した後
列車はすぐに走り始めたんだがよ

その時はコンパートメントの引き戸は
列車が走り始めるまでは
開けっ放しにしておくように言われ
停車して1時間経っても
出発する気配はなかったぜ
おまけにな
犬を引き連れた税関の男たちが
車内を何度も行ったり来たりしてよ
いったいどうなってんだって
不安感は増すばかりだったぜ