『儀礼的八百長』

小川、田中らとメシを食べに行った時のことである。

田中は、「オレは八百長するようになって王を料理する方法を覚えたよ。どこのピッチャーもあいつを
攻める時、インコースギリギリのところで勝負するけど、あいつはな、あの球を打てるように
練習しとるで。インコース攻めでもホームランを打ちよる。ホームラン打たれるのイヤだった
から、ド真ん中にほったらええ。かえって空振りしよる。」
小川は
「あいつ(王選手)バケものや。高目にほっても、もっていきよる。」

私は「巨人は、実力でいつも優勝してんの?」と聞いた。
「ウン。一般のファンが思っている以上に巨人は強いよ。」と小川は言った。

田中は「KとMな。あれは教えあっとるよ。」
私はその意味がはっきりと分からなかった。
「あいつら、バッターボックスに入りよったら、次はカーブや、次はシュートやいうて
教えとる。Kが巨人戦でホームランをよう打つやろ。ありゃMが球を教えとる」

私はなるほどと思った。そういえば、Kの本塁打はそのほとんどが巨人戦でたたき出して
いるのだ。
私が「へえ!M、そんなこともやるんや」と言ったら田中は
「あんなビビッチョおらんよ。こないだの巨人戦やったかな、ピッチャーはHやった。
オレがバッターボックスに立った時、いきなりインコース胸元にほうってきよった。
もうちょっとでデットボール食うところやった。あぶなかったよ。Mに、“お前おぼえとけ”
いうたった。Mのやつ、“真ん中へほうれいうとるのにビンボール投げよって、すまん、すまん、
”とあやまりよった。」

私は二人の話を聞いているとどうもふにおちないところがあった。
「しかし、アンパイアこれ聞いとって、なんいもいいよらんの?」

「審判?・・・・審判はな、ボールか、ストライクいうとったらええ。選手同士の会話
なんか関係なしや」
プロの世界はこんなものかと思った。