昔から「父はへその緒を断つ」という言葉があります。これは象徴的な言葉で、父親が母親と子どもの間に介在することによって、母子の間の一体のイリュージョンが壊されるわけです。

母と子の世界というのは絶対的であるし、社会以前の感覚的自己愛的な世界です。

そこに父親と母親と子どもという三者関係が成立したときに、初めて自己愛的な世界ではない、第三者が入り込んだより理性的な世界が成立するわけです。

父の名をもったときに、初めてその子どもは社会的な存在になるということです。

パーソナルな自己愛だけの子どもが、社会的な存在になるのは、父の名にふさわしいものになる過程なのです。