そのとき兵十は、ふと顔を上げました。と、きつねが家の中へ入ったではありませんか。こないだしたぎをぬすみやがった、あのたかぎつねめが、またいたずらをしに来たな。
 「ようし。」
 兵十は、立ち上がって、納屋(なや)にかけてある火なわじゅうを取って、火薬をつめました。
 そして足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするきつねを、ドンとうちました。きつねはばたりとたおれました。兵十はかけよってきました。家の中を見ると、土間に下着が固めて置いてあるのが目につきました。
「おや。」と、兵十はびっくりしてきつねに目を落としました。
「毅、やっぱりお前だったのか。いつも下着を盗んでいたのは。」
 毅は、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。
 兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。(おわり)