私たちを取り巻く生物・社会環境は絶えず変化する。
そのため,環境に適応するには,生涯にわたって新たな思考や行動を獲得する必要がある。
この過程に必須なのが知能であり,物事の背後にある規則を抜き出し,組み合わせ,未知の状況を予測できれば,経験したことのない環境に適応することができる。
実際,知能が高いほど,学業や職業上のパフォーマンスが高く,健康で寿命も長い。
このような背景から,知能を高めることで環境に対する生物・社会的な適応を高める試みが続けられてきた。
しかし,20世紀後半から半世紀以上を経ても効果的な方法は見つかっていない。

その中で,知能にはワーキングメモリが強く関わることが明らかになってきた。
ワーキングメモリとは,情報を一時的に保持しながら操作を加える認知機能であり,容量に厳しい制約がある。
ワーキングメモリ課題の成績が高い個人ほど知能得点も高く,ワーキングメモリ課題成績は知能得点の個人差(分散)の50%を説明する。
このことから,ワーキングメモリをトレーニングすることで知能を高め,日常生活のクオリティを向上できるのではないかと新たな可能性に期待が集まっている。