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 ではなぜ、現在は違うのだろうか。特に注目に値する2つの要因がある。
 第1に、1990年代に福祉改革法案(特に1996年の「個人責任と就労機会調停法〈PRWORA〉」)が可決され、2008年には経
済危機が起きてからというもの、労働者階級は貧困層のことを以前ほど気に留めなくなった(PRWORAは、失業者が国家から援助
を受ける要件として就労を義務づけた)。代わりに、外国から「我々の仕事を奪いに来た」人々に対する懸念のほうが高まったのだ。

 第2に、2001年9月11日の同時多発テロ後の不安が、労働者階級の愛国心をいっそうあおり、それが社会的地位と自尊心の拠り
所となった。この傾向は特に、「責任ある扶養者・勤労者」としての自尊心が経済の衰退によって脅かされるなかで、ますます高まっていく。
 この愛国心が、2008年の経済危機と相まって、排外主義と反移民感情をいっそう強めたのだ。したがってトランプの選挙演説は、
2016年における米白人労働者階級の苦境をふまえ、彼らの共感を呼ぶよう完璧に計算されていたのである。
 これらの演説が共感を呼んだのは、労働組合の影響力の低下によるところもあるだろう。組合は、労働者階級にとっての重要な利
害がどこに存在するかを示せなくなり、帰属意識と「労働の誇り」をつなぎ留めておくこともできず、文化的影響力を失ってしまった。
 トランプはこれら労働者に対し、組合の代わりとなる枠組みを提供した。すなわち、「衰えゆく米国」という文脈のなかで、なぜ彼らの経済
的地位が落ち込んでいるのかを説明し、高まる社会的疎外感に対抗する手立てを示したのだ(「メリークリスマス」の擁護がその一例だ)。
 労働者階級の経済的地位は低いままであり、社会的地位はさらに低下している。この苦境にトランプの弁舌が共鳴し続けていると
いう事実こそ、彼に対する労働者階級の支持が根強い大きな理由であろう。