「完璧」な母が酒に溺れるまで 幼き姉妹、車で放置死

 暑い夏の日だった。
 高松市の駐車場に止めた車に6歳と3歳の姉妹を残し、母親は居酒屋やバーを飲み歩いた。15時間後に戻ると姉妹は熱中症で死んでいた。「身勝手で無責任」。ネットなどで非難された母親を、夫は「完璧だった」と証言した。何があったのか。傍聴席に座った。

 被告(27)は昨年9月2日、車内に姉妹を放置して死なせたとして、4日、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。
 2月15日、高松地裁であった裁判員裁判の初公判。上下黒のスーツに、毛先に金髪が残った髪を肩まで下ろした女性が被告人席に座っていた。
 起訴状が読み上げられ、罪状認否で、被告は前をみつめ「間違いありません」とはっきり答えた。
 午後、夫が証言した。

 弁護人「被告の育児はどうだった」
 夫「大事に接し、よくできていた」
 弁護人「次女の歯を気にしていた?」
 夫「次女は前歯の後ろに1本、歯が生えていて磨きにくかった。妻は朝と晩、歯磨きをして虫歯にはなりませんでした」
 弁護人「奥さんの悪いと思ったところは」
 夫「ない。完璧だったと思う」

 冒頭陳述などによれば、被告は2013年、一回り年上の夫と結婚。翌年に長女、3年後の17年に次女が生まれ、24歳で2児の母親となった。
 配管工事会社の社長をつとめる夫は、平日は毎朝6時から夜10時まで仕事で家を空けた。家事や育児はほぼすべて被告が担った。

 翌日、被告本人に対する質問が始まった。
 被告は初公判の日と同じ上下黒のスーツ姿。法廷の天井に時折視線をはわせ、考える。声が小さく、裁判長から何度か「もう少し大きな声で」と注意された。

 弁護人「育児はどういう思いでやっていたのか」
 被告「毎日楽しませる。大人になっても楽しかったと思えるように」
 弁護人「しつけもちゃんとしていたのか」
 被告「人の意見を聞くことも大事ということや、あいさつなどを教えました」
 弁護人「幼稚園の(保護者会)役員をなぜした?」
 被告「子どもを見る機会が増えると思ったから」
 子のそばに少しでもいたい。母親の心情がみえた気がした。
 確かに、事件後、記者が姉妹が通う幼稚園を取材すると、園長は被告を「やさしいお母さん」と語った。登園時、姉妹のカバンを両手に持ち、園に到着すると、二人にカバンをかけてあげる姿を覚えていた。