スナック眞緒物語♯2(その11)
いつもならあちこちで話していて騒がしいが、客も久美の話に聞き入って、スナック真緒にしばらくの沈黙が訪れる。
愛萌は裏にある自分の鞄を急いで持ってきて、大学で使っているテキストを取り出す。
「愛萌、その本、なに?」と眞緒ママが声をかける。
「柳田国男の『海南小記』です。天女の実在を書いたものです。
『江戸時代中期、宝暦年間、南島は与那原の浜に天女、三人降り来(きた)りて水浴し、村人これを拝(はい)す。
また、天保年間、久高の島に二神顕れ、全村これを拝(はい)せざるなし』
『拝す』というのは『拝む』ということで、『拝せざるなし』というのは『拝まないことはなかった』ということです」
もう一度、その個所を愛萌は繰り返す。
「つまり、天女が現れて村人たちは拝んだということが二度もあったということね」と久美が言う。
「その通りです。
『大島筆記』や『球陽』などの公式文書にも記されていて、個人の幻覚では絶対にないと柳田国男は書いています」(続く)