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菅井「ただいま。」

7月の蒸し暑い夜。11時を回ったころに玄関を開けると、ほどなくメイドがやってきた。

上村「お帰りなさいませ、お嬢さま。今日もお忙しかったんですね」
菅井「まあ、今日もいろいろあって振り回されちゃって(苦笑)。あ、ペリエ持ってきてくれる?」
上村「かしこまりました。」

お嬢さまの名前は菅井友香。この家の一人娘であり、6年前から新聞社に勤め、記者として忙しく働いている。
良家のお嬢さまがする仕事ではないと反対する身内もいたが、持ち前の正義感からか本人は充実した毎日を送っていた。

友香は部屋に入るとすぐにTVをつける。帰宅してからもニュースのチェックは欠かさない。
アナウンサーが国会のニュースを伝えているのを聞きながら着替えを済ませると、メイドがペリエとグラスを持って入ってきた。

菅井「ありがとう。グラスにあけてくれる?」
上村「あ…はい…」

メイドはペリエの蓋を開けようと悪戦苦闘を始めた。
2分が経過した。

菅井「開けられないの?(笑)」
上村「私、握力なくて…すいません…」
菅井「じゃあ自分でやるから(笑)」

このメイドはつい最近雇われたばかりなのだが、正直な話、何もできない。
体力もないし、要領もいいわけではない。
なんで採用されたのか疑問符だらけなのだが、とりあえず容姿だけは妖精のように小さくて可愛いので、目の保養にはいいか…

そんなことを考えていた友香の耳に、次のニュースが聞こえてきた。

アナウンサー「では、大阪の状況を伝えてもらいましょう。阪神テレビから中継です」
小池「はい。こちら大阪でも、多くのTV局や新聞社にこのようなFAXが届けられ、騒然としています」

そう言って女子アナが掲げたFAXを見て、友香は息を呑んだ。

『1シュウカンゴ ノギザカ センキョ』

それは今日、友香の勤める新聞社に送りつけられたものと全く同じだったからである。