モルディブの「悪夢」は、2013年にアブドゥラ・ヤミーン大統領が誕生して始まった。
それまでのモルディブは、かつて英国の植民地だったこともあり、
インドの保護国のようになっていて、欧米、日本からの観光客を集め、
その観光収入と漁業で住民が生計を立てていた。
ところが、ヤミーン大統領は、中国に大接近し、インフラの整備を始めたのである。
2014年に就任した習近平主席は、「一帯一路」構想を掲げ、モルディブを訪問。
この訪問と前後して、3つの巨大プロジェクトが立ち上がった。
首都マレと空港島を結ぶ全長2キロの橋。これは「中国モルディブ友誼大橋」と名付けられた。
空港島の北側にある人工のフルマーレ島では、7000戸の住宅団地の造成。
これは中国商工銀行が融資した。
さらに、アッドゥ環礁の雑木林を伐採し、260戸の集合住宅が造成されることになった。
こうして中国から大勢の労働者と観光客がやってきた。
マレの街には中華料理店や中国人向けの宿泊施設が雨後の筍のように増えた。

中国から借金してインフラ整備を行うとどうなるかは、先例がある。
借金漬けにされたうえ、金利が払えないと、インフラを取り上げられてしまうのだ。
ところが、腐敗政治家は、中国マネーの一部が自分のポケットに入るので、これをやめられない。
まさに、スリランカは、これで港湾施設を失い、いま、国際空港まで取られようとしている。
スリランカは2015年まで10年間続いたラージャパクサ政権が、
中国マネーでハンバントタ港とラージャパクサ国際空港をつくった。
いずれも、ラージャパクサ大統領の地元だった。
しかし、ハンバントタ港は債務返済の目処がたたず、中国企業に99年間貸し出されることになった。
借金のカタに取られたのである。
また、ラージャパクサ国際空港は第2国際空港としてオープンしたが、
乗り入れた航空会社がすべて撤退し、
いまでは国際便が1便も飛んでいない世界唯一の国際空港になった。
当然、債務が返済できるわけがない。こちらもいずれ、中国のものになるのは確実だ。
スリランカの教訓は生かされず、いまやモルディブは完全にスリランカ化した。
中国による3つのプロジェクトに対する借款がモルディブの国家債務の80%近くに達し、
国家財政は破綻寸前に追い込まれた。