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志村先生
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku1947/11/4/11_4_193/_pdf
数学 1960 Volume 11 Issue4 193-205
Published:April30,1960
論説
保型函数と整数論I
東京大学 志村五郎

§1.まえがき.
虚数乗法論の歴史をふりかえってみるとぎ,わ
れわれは大体次のような図式を書くことができ
る1).
円分体の整数論

楕円函数の虚数乗法論

類体論

高次元Abe1多様体の虚数乗法論

?
この図式の意味は次のごとくである.類体論は,
円分体の理論や楕円函数の虚数乗法論をVorbild
として完成されたのであるが,類体論以後の,高
次元Abel多様体の虚数乗法論は,何を産み出す
であろうか.それを疑問符?で表わしたのである.
われわれは,より単純に,‘虚数乗法論とは何か'
という質問を発することができる.代数体のAbel
拡大を解析函数の特殊値で生成する理論であると
一応いうことはできる.それは誰でも知っている。
しかし,‘Abe1体を構成する'とはいったいどう
いう意義をもつか?この意義は案外理解されに
くいことかもしれない.実際‘構成する'ことの
内容はいろいろあって,一口にはいえないのであ
るが,ここではただ,‘いかに構成しているかとい
う機構'の中に多分に重要性があるということに
注意したい.このことは,将来への発展を考える
ときによりよく理解されるであろう.すなわち,
その機構のわれわれに暗示するものが重要なので
ある8ここにわれわれは,類体論の枠を越えたも
のをも発見しうるはずである.この暗示の最もよ
い一例は谷山[4]である.そこでは,虚数乗法と,
多様体のζ函数の理論との切り離せない関係の中
において,量指標のL函数が全く新しい立場で研
究されている.しかも,問題をAbel多様体とは
独立に定式化する試みがなされているのである.
これは虚数乗法論の暗示している未知の大きな領
域への一つの道である.