>>670
つづき

一般の可換環に対しては商体は存在しないのだけれども、それでも S の元を分母に持つような「分数」からなる局所化を構成することは可能である。整域の場合とは対照的に、分子と分母を安全に「約分」できるのは、S の元の寄与の分だけである。

環の局所化の普遍性
環準同型 j : R → S?1R は S の各元を S?1R の単元に写し、かつ f: R → T を別の環準同型で S の各元を T の単元に写すものとすれば、環準同型 g: S?1R → T で f = g ? j を満たすものがただ一つ存在する。
この普遍性を圏論の言葉で書けば次のようになる。環 R とその部分集合 S をとり、R 上の多元環 A で標準準同型 R → A のもと S の各元が A の単元となるようなもの全体の成す集合を考える。この集合の元を対象とし、R-線型写像を射として圏が定まり、この圏の始対象を R の S における局所化と呼ぶ。


整数環を Z, 有理数体を Q と表す。

・可換環 R が与えられたとき、R の非零因子(すなわち、R の元 a であって、a を掛けるという操作が R 上の単射自己準同型となるようなもの)全体の成す集合 S は積閉集合である。このときの環 S?1R は R の全商環と呼ばれ、しばしば Q(R) や K(R) などで表される。この S は R から S?1R への標準準同型が単射となるような積閉集合として最大のものである。さらに R が整域ならば、これは R の商体に他ならない。

・Z/6Z の素イデアルは 2Z/6Z と 3Z/6Z の2つである(したがってクルル次元 0 である)。
 これらの極大イデアルによる局所化はそれぞれ F2, F3 であり体である。
 実は、可換環が被約かつクルル次元 0 であることと、任意の極大イデアルにおける局所化が体であることは同値である。(さらにこれはフォン・ノイマン正則であることとも同値である。)

つづく