両親の離婚があってこの田舎町に来た。
それは確か夏の終わりで、荷をとくと母は慌ただしく漁協の方へ出かけて家を開けて仕舞う。退屈した僕はなんのあてもなく街を彷徨い歩くことにした。
この海岸は家から徒歩五分のところにある。
当てもなく歩こうにもあてがなさすぎて僕の足はこの海岸で静止する。
やがて今日と同じように海を見ていたら、後ろから話しかけられた。
「あんた、誰?」
振り向いたら彼女が居た。
その瞬間は一生忘れられない。
白のTシャツに太ももあたりまである薄い青のシャツそしてデニムのショートパンツ。
サンダルが砂利を踏んで湿った音がする。
唇はほんのり朱がさして、肌の色素は薄い。
髪は黒とブラウンのグラデーションが掛かっていた。
「この前、引っ越してきた。」
ようやくそう言うと、
「ああ、婆ちゃんが言ってたな。そんなこと。」
「あなたは?」
目線でそう訊ねると、
「わたしは小坂。ほら、斜め向かいの」
「ああ。」
よく知らなかったが。知っている振りをした。


「おーい、聞いてんの?」
小坂の手が顔の前で縦に揺れる。
「えっ?」
「ぼうっとせんともうお昼やで」
スカートの砂を払って小坂か立ち上がる。
「先行くで」
そう言って不意に小坂は走り出す。
「待って」
テトラポットの間に挟まっていた空き缶が乾いた音を立てて、波間に飲まれる。
僕らの夏はまだ始まったばかりだ。