「そうそう」
長沢は舌圧子で舌に付着した青い色を削る。どうやら食べていたのはブルーハワイのようだ。
織田はめんどくさいのか呆れて細めになるばかりで突っ込まない。
「太ももの太さ丁度よくってさぁ。あれはモテるよ」
「気になったの意味そっちかよ」
「いや冗談、太もも細い方が好きだし」
「否定するとこそこかよ」
「あの女の子さやっぱ癌再発してると思うんだ」
長沢は無駄に真剣な表情で言う。
織田は一呼吸置いてから告げる。
「ユーイング肉腫だったよ」
「そうだったんだ」
肩を落として小さく言った。
「私の患者だったのに・・・・なんで気づかなかったんだろう。あのこ。バスケやっててさ。強化選手で。全国大会に出るためにさ。」
織田は低い声でそういい、やがて指の腹で目を拭う。
「ま、しょうがないって」
長沢は診察室の扉を開けながら
「リボン買ってくる」
そう告げて出て行く。
織田は黙って頷いて、上を向いた。
涙で服が汚れないように。
頬に生温い風が吹くとどこかで風鈴が鳴った。
まだ、夏は始まったばかりだ。