柑橘系の香水とシャンプーが香る。
わたしはゆっくり目を開けた。
「あ。」
彼女がわたしと顔を見合わせて頬を朱に染める。
白のニットにデニムを履いた彼女が僕を抱きしめる。
「どうしたの?」
彼女は何も言わない。
しかしやがてこう呟く。
「よかった。助かって。大事な…弟が」
「弟?」
「そう。弟。」
「彼女…じゃなかったっけ」
「夢見たんじゃないの?」
彼女の温もりを顔に感じながら、再び
禿の呵呵大笑が鼓膜を突いた。
「あれは貴様の姉なのだろう?」
低い声が病室に響く。
「わたしを欺いたと思ったか」
禿は尚も声だけ響かせる。
「貴様の命を助ける代わりに彼女を姉にしてやったわ。」
不愉快な笑い声がいつまでもやまない。
「どうしたの?」
彼女が訊ねる。
「なんでもない。」
「なんかあったら言ってね。お姉ちゃんに」
彼女がお姉ちゃんの箇所だけ強調して言う。
わたしはカーテン越しに広がる青空が急に霞んでゆくのを感じた。