銀の車体が傾斜しながら県境を渡る。
その境目は春と夏を分かつようで、今僕が向かう先は風に戸を揺らしながら夏だった。
首をあげた刹那に右顬と首がつめたいものを食べたあとのように痛んだ。
季節の変わり目に弱いのか、気圧のせいか遺伝で僕はずっとこの偏頭痛に悩まされている。
「おは」
その時携帯が震え画面にそのような文字列が並ぶ。
相手は新潟にいる彼女だ。時間はただ今15時58分。
昼迄寝ていたらしい。世間的にはおはようではない。
列車は減速して船橋駅に滑り込む。
熱風がエアコンの風を掻き混ぜて不快に肌が湿った。
「いつまで寝てたんだよ」
僕はそう返事を送る。
「うっさい」
すぐさまそうかえってくる。その勢いが怖い。
「というかこっち帰ってこないの?」
津田沼駅に着いた頃、彼女からそう訊かれる。
「8月下旬ごろ」
そう返すと、
「遅い」
と言ったきりなにも返ってこなくなった。
現在8月2日。列車はゆっくりと夏の扉を開かんとしている。エアコンの風が首筋を刺す。