中略

身分を奪う「背乗り」の恐怖

 こうして「定着先」を確保した工作員たちは、次に自らの身分を「合法化」する。その代表的な手法が
「背乗り」(はいのり)だ。端的に言えば、日本人や在日朝鮮人の身分を、乗っ取るのである。

 背乗りは、もともと旧ソ連の諜報機関KGB(現在のSVRの前身)が得意としていた手法だ。
対象国の国籍を持つ人間に成り代わって、社会生活を営みながら、諜報活動を展開するという手口である。

 北朝鮮の工作機関は、歴史的な経緯から、KGBをモデルとし、そのスパイ技術を学んできた。
旧ソ連の工作員たちが、アメリカやヨーロッパに浸透する際、同じ白人であるから見分けがつかないということを利用したのと同様、
北の工作員たちは日本人とは一見して見分けがつかないことを武器に、日本人に成りすますのだ。

 では、工作員に身分を奪われ、成り代わられてしまった人はどうなるのか。一つには、拉致されて北朝鮮に連れていかれているケースがあると考えられている。だが一方では、殺害され、闇に葬られてしまうこともまた、多々あると言われている。

 標的にされるのは、親類縁者がなく、天涯孤独な身の上の人であることが多い。次回は、
こうした背乗りの実例と、日本や韓国など自由な社会に浸透した北朝鮮工作員たちが抱える心の葛藤について取り上げたい。

 (つづく)