違法捜査証明した被疑者ノート 克明に連日記録…高裁「信用できる」 2021/10/12 6:00 (2021/10/12 9:41 更新)
勝訴の鍵は一冊のノートだった。2016年に熊本県警に逮捕され、家裁で刑事裁判の無罪に当たる不処分となった当時19歳の男性=熊本県=が、違法な取り調べで苦痛を受けたとして県に損害賠償を求めた訴訟。黙秘権などの侵害を認め、県に賠償を命じた9月の福岡高裁判決=確定=が重視したのは、「被疑者ノート」だった。男性が取り調べ状況を克明に記していた。18年前に誕生した容疑者の“盾”が、密室の違法捜査を証明した。
都合が悪くなると黙ってばかり
弁護士さんと相談しているんだろ
ノートには取調官の生々しい言動が並んでいた。
男性は16年5月、熊本地震の避難所で女児にわいせつな動画を見せたとして逮捕された。「取り調べに問題がある」。2日後にノートを差し入れた弁護人の松本卓也弁護士は、数々の記述を見て、そう感じた。12日間拘束された男性は、取り調べの様子を書き続けた。
男性のスマートフォンからわいせつ動画の閲覧履歴は確認されず、熊本家裁は「非行事実なし」と結論付けた。男性は黙秘権や接見交通権の侵害を訴えて熊本県を提訴。県警側はノートの記載の大半を否定したが、高裁判決は「記憶が鮮明なうちに記載され、具体的かつ詳細で信用できる」と評価。一審熊本地裁判決に続き違法捜査を認定した。
松本弁護士は「取り調べの状況を知る唯一の手段。ノートがあったから発言を立証できた」と強調する。釈放後は、弁護士事務所でノートを保管。「本人の加筆が可能」とした県警側の反論も退けることにつながった。
事件と訴訟の概要 熊本地震後の避難所で2016年5月、当時11歳の女児にわいせつな動画を見せたとして、熊本県少年保護育成条例違反容疑で当時19歳の男性が逮捕された。男性は同10月に熊本家裁で刑事裁判の無罪に当たる「不処分」となり、違法な取り調べで苦痛を受けたとして19年5月に県を提訴。取調官の発言を黙秘権侵害などと認め、県に16万5000円の賠償を命じた福岡高裁判決が今年9月に確定した。男性側は虚偽の被害申告で苦痛を受けたとして女児の母親に損害賠償を求めて提訴し、20年9月、福岡高裁が「母親の供述は信用性が乏しく、一部は虚偽で違法」とした判決が確定した。