中島みゆきの名曲

レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。
0001ジョン・スミス2022/02/11(金) 09:12:47.45ID:hN5svhY7
中島みゆきの名曲から物語(ストーリー)を作る

0863ジョン・スミス2023/02/02(木) 19:59:47.26ID:D5j+1zOa
>>862
10行目
「あの先生で数学が嫌いになった」に訂正

0864ジョン・スミス2023/02/03(金) 20:00:22.12ID:Kvk8tBTu
「こんばんわ」

「あらっ! 随分、ご無沙汰ね…」「え…?!」「なによ! 驚いた顔してさ…」
「...いゃあ…、一瞬、誰か、分からなかったよ。てっきり有閑マダムに
誘われたのかと思ったよ。アハハハ…」「本当はそうなの… ウフフ…」

「何だ、それじゃあ… 昔と変わらないじゃないか、もっとも、あの頃みたいに、
可愛くないけどさ、アハハハ…」「まあ、言ったわね。こらっ! すぐ、
からかうんだから... ウフフフ… 変わらないわね。昔と一緒、
その笑い方も、昔のままね…」

昔、飲み歩いていた時と、変わらずビル群に囲まれていても、此処の一角の飲み屋街は、
昔のまま残っていて、前のマスターと顔なじみと言うこともあって、マスターが入院中、
頼まれて、一時、この店の雇われマスターをしていた。

そんな時に、マリコと親しくなった。暫く顔を見せていなかったので、久しぶりに寄ってみたら、
そんな昔のマリコにバッタリと出くわしたのだった...
「あれからどうしてた…?」「あれから色々とあってね。何をやっても上手くいかなくてねぇ… 
あの町、この街、渡ったわ… あたし、一つの所にとどまることが出来ないのかもね。
此処に来る前は、仙台の国分町にいたわ。それから歌舞伎町、中州、ススキノ、北新地、

錦3丁目、福富町...と渡り歩いて、又、此処に戻って来たの。ずっと一つの街にいると、
他の街に行きたくなるの… 人間関係も含めてね。もう、この街、いいかなぁ〜って...
気分で続かないわね…」「一か所に定住できない遊牧民気質か、ボヘミアンなマリコらしいよ。
アハハハ…」「何よ! 茶化さないでよ! うふふふ…」

「まだ、猫は飼っているの?」「あの頃の猫はもう死んでしまったけど、今も猫は飼っているよ…」
「あなたも猫好きだから、話が合うわね…」

…あれから十年も経っていながら、マリコは気の向くままに、気ままな昔の風来坊なマリコのままだった...

   ――― それからは、俺たちは昔話に花を咲かせた ーーーーーーーーー

俺はマリコの愛嬌のある話し方につられ、もう、戻れない昔話の懐かしい話の数々に
いつの間にか時を忘れて相槌を打ち、お互いの出会いと、それぞれ別に歩んだ人生を
店を閉めるまで語り合っていた...

  店の外は雪景色。。。
    街灯の光に照らされた中... 雪が深々と降っていた。。。。。。。。。

0865ジョン・スミス2023/02/04(土) 18:22:46.69ID:VgfbkbYn
「六花」

僕の母は僕ら姉弟を女で一つで育ててくれました。
「ほら、ゆっくり食べなきゃ、ダメじゃないの…」

僕らは比較的遅い時期に生まれた子供だった。
父が亡くなった後、母はどんなに不安だったのか...

でも、子供の僕には、そんなことはおくびにも出しませんでした。
「はい! 出来たよ… いっぱい食べなさい!」「うん!」
母は僕たち姉弟の前では、いつも笑った顔しか見せませんでした。

.........
そんな母が他界したのは姉が九つ、僕が五つの時でした。
僕たち姉弟は、とうとう二人きりになってしまったのです。

母が亡くなったあの夜のことは、今でも不思議なほどに
鮮明に僕の目に焼き付いています...

「さむいよ--- ねえちゃん! おうちへ はいろうよ…」
「いい、修。 これからは、私たち二人きりになるのよ。
もっともっと、辛いことが、いっぱいあるけど、二人で頑張っていこうね…」
「うん!」

「修には、まだわからないと思うけど、よく聞くのよ。
お姉ちゃんはね、ゆうべ、冷たくなっちゃった母ちゃんの横で、
ずっと寝ないで、考えたことがあるんだ!」
「なあに? おねえちゃん…」

「これから二人、生きていくためのことを考えたんだ。
二つあるから、よく覚えておくのよ。いつも一緒にいることと、
それと絶対に、親戚の人にわがまま言わずに言うことを聞くのよ。

お姉ちゃんね。中学卒業したら、働いて修の面倒を見るからね。
二人で生きていこうね。それまで我慢してね… 分かった?」
「うん!」

「わあ、ゆきだ!!! おねえちゃん!! ゆき、ゆきがふってきたよ!!!」
「あっ! … 本当だ … 雪。。。 綺麗ね...」
「うん!」

その後、二人は親戚の間を転々とする生活が始まったのです・・・

昭和〇〇年.........

0866ジョン・スミス2023/02/05(日) 18:28:31.46ID:lSy+FmtC
「走(そう)」

今年の箱根駅伝は駒澤大学が2年ぶり通算8回目の総合優勝で幕を閉じたが、
これまでの箱根駅伝は人々の琴線を揺さぶる幾多のドラマを生んできた。

一人一人が力を出し切り、襷を繋ぐ一心で必死に懸命に走る… 勝者が、
歓喜に酔いしれるドラマもあれば、それ以上に心を揺さぶられてしまう敗者の
ドラマが箱根駅伝には沢山ある。特に繰り上げスタートや途中棄権。

脱水症状、足の疲労骨折、アキレス腱痛、ふくらはぎの肉離れ、足の靱帯損傷、
足の痙攣、低体温症などが起きて走ることが困難になる。

目の前にいる仲間を置き去りに、繰り上げスタートしていくランナー。これも切なく辛い光景だ。
長年、箱根駅伝を見続けて来た中で、今もくっきりと脳裏に残っているのは、悲劇の途中棄権と
言われた最終10区を走ったアンカー。ゴールまで残り150mに迫りながら途中棄権を余儀なくされた。

極限を遥かに超えていただろう。その時、ランナーはどんな気持ち、状態で走っていたのだろうか…
襷を渡すことが出来なかったランナーが、肩を震わせて号泣きする姿。繰り上げスタートが迫って来る…
繰り上げスタート用の白い襷を掛けて、仲間の待つランナーの祈るような気持ちが伝わって来る…

中継所の映像。襷を繋ぐ為にヨロヨロしながらも必死の形相で、中継地点に現れたランナー。
襷を運んでくる仲間を待ち続けるランナー。すぐ外せるように白い襷に手をかけ、あらん限りの声を張り上げて叫ぶ声…
近づくランナーに手を振っている… その声が中継所を目指すランナーの耳に届いていたかどうかは分からない。

ランナーは、あと5m、あと4m、あと3mと少しずつ… 中継地点まで近づいている…
残り1mと少し… 手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいたランナー。

その時、無情にも " ピッ! " と笛が鳴り、白い襷を掛けたランナーは母校の襷を受け取れないまま繰り上げスタートしていく…
最後の力を振り絞り中継ラインを越えたランナーは、母校の襷をギュッと握り締め倒れ込み号泣き!

仲間が繋いできた襷を渡すことが出来なかった悔しさが伝わってくる光景… 特集番組で見た過去の箱根駅伝の映像…
その中に前回優勝した青山学院大の過去の映像があった。
52回大会の最終10区のランナー。大手町ゴール150m手前で脱水状態により意識を失う…
角を曲がると真っ直ぐにゴール地点、アンカーは、その曲がり角のすぐそこまで来ていた。

150m手前だった... 右にヨロヨロ、左にヨロヨロ、今にも倒れそうになりながら、
それでも走ろうとするランナー … その傍らにチーム監督がいて
「もういいよ、 よく頑張った! もういい!!」と声をからして叫んでいた。

未だうつろながらも走ろうとするランナー … ランナーの表情は意識が朦朧としているのが、傍目でわかる。

監督が声を掛けながらランナーの肩に手をかけた。ランナーの身体に触れたらレース終了の合図。
「よく頑張った!」「よく頑張ったぞ!」と四方八方から大観衆が叫ぶ… 記憶の片隅には、涙をぬぐう観衆の姿もあった。
意識が朦朧としているランナーは、監督の手が触れた瞬間、ふらっと身体が揺れて、その場に倒れ込んだ…

意識もうろうとしながら、右に左にヨロヨロしながら、それでも、前に前にと、つんのめるようになりながらも歩む…
そんな極限を超えたランナーり姿… あと少しでゴール出来たという思いが伝わってくる… 残り150mは遠かった...
- あと少しで持ち帰れた襷は、ゴールで待つチームメイトに届くことはなかった...

優勝のゴールのテープを切ったアンカーが、駆け寄った仲間と一緒に喜びを爆発させていた。
こんな悲喜こもごもの多くのドラマがある箱根駅伝。山もあれば谷もある。歓喜の涙もあれば、
‐ 悔し涙もある駅伝は、まさに人生そのものではないだろうか・・・

0867ジョン・スミス2023/02/06(月) 17:53:25.44ID:fv3cYkxl
「雪」前編

幼稚園からいつも一緒だった幼馴染の男の子がいた。
私は今でも覚えている... 彼に恋した日のことを。。。

幼稚園で、意味もなく友達に責められていた時に、唯一、私の側にいてくれて、
ギュッと手を握ってくれた彼が好きになった。それからは、子供ながらに
「好きだよ」などと自分なりにアピールしていた。

今思うと、ませていたと思う。彼は顔を赤くするだけで答えてはくれなかった。
周りに冷やかされるほど仲が良く、私も彼が好きだった。

中学校からは、私も素直に好きと言うのが恥ずかしくなり、小学校からの友達などに冷やかされる度、
否定していた。徐々に彼との距離も離れていった。でも、密かな私の恋心は冷めることなく、
彼と同じ高校に行きたくて必死に勉強した。中学時代はお互い絡むことなく、特に思い出もない
まま進んでいた。だから高校では… と期待を込めて彼と同じ高校へ入学した。

高校からは、中学生の時の時間を取り戻すほど仲が良くなった。高校も卒業間近、彼は進学、
私は就職も決まり、こうやって久しぶりに今日、彼との待ち合わせ場所で待っていたけど、
結局は来なかった。あんなに約束したのに来てはくれなかった。忘れてしまったのだろうか…?!
(どうしたのだろう...?!)

…雪がちらつく中。。。 一人トボトボと歩いて帰ろうとしていた時、母から電話が鳴った!
「あんた今、どこにいるの?」と母。「○○公園にいる…」と私。

「今から、お父さんと向かうから、待っていなさい!」とお母さんが凄く焦っていたのを
今でも覚えている… 尋常ではないほどは早口な口調と大きな声だった...

数分もしないうちに親が来た! 来るなり、すぐ車に乗せられ、
訳も分からないまま病院へと連れて行かれた...

0868ジョン・スミス2023/02/06(月) 18:20:41.83ID:fv3cYkxl
「雪」後編

ーーーーーーーーー親が先生と何かお話している… 
病院には学校の先生とお医者さんと、私の親と彼の親がいた。

私の足りない頭では理解が難しかった。お医者さんに連れて行かれた
所は病室ではなかった。薄暗い部屋にベットの様なものがあり、
そこには人が寝かされていて、顔には白いタオルが掛けられていた...

此処でようやく頭が追いついた私。そっと、ベットに近づき顔のタオルを
取ろうとするも、彼の親からは見ない方がいいと止められた。
私が彼を公園で待っている間、彼は飲酒運転の車に撥ねられ即死。

‐私は、そんな事実を受け止められず、彼が、「嘘だよ! 馬鹿だな」と笑いながら、
頭を撫でてくれるんじゃないか… もしかしたら、慣れない悪戯をしようと
しているんじゃないかって… また、いつものように私の顔を見て
くれるんじゃないかって… ずっと待っていた。起きて笑いかけてくれるのを...

ーーーーーーーーーけれど、いくら待っても、いくら時間が過ぎても、彼は起き上がらない...
周りから聞こえて来る嗚咽... むせび泣きが私の頭を刺激した… もう、彼は帰っては来ない…

0869ジョン・スミス2023/02/06(月) 18:44:41.56ID:fv3cYkxl
後編の続き

彼はもういないの... どうして、どうして彼なの...
何故、飲酒運転の車に...

何処にもぶつけられない気持ちが私の中で渦巻いていた...
好きだから、起きてって何度もお願いした...
どうしてって、何度も何度も周りに投げかけた。

意味のない私の叫びは消されていく...
親や彼の御両親に宥められても、私は彼の傍を離れようとはしなかった。
傍にいてと、もう何度も何度も、届かない声を彼に投げかけていた...

既に冷たくなった彼の手を離そうとしなかった。
抜け殻のようになった私に、真っ赤に目を腫らした彼のお母さんが
彼が持っていたという手紙を渡してくれた。

‐手紙はぐちゃぐちゃで血が滲んでいた。これを読んでしまったら、
彼が死んだと言うことを認めてしまう… 実感してしまう...
私はどうしても、この現実を認めたくなく目を逸らしたくて、

ー 窓の外に目を向けると、もう既に夜になっていて、止んでいた雪が再び...

...... . . .。。。。。。。。。

。。。。。。。。。街灯の灯りの中、ゆっくりと空から雪が舞い降りて来る。。。

0870ジョン・スミス2023/02/06(月) 18:53:02.08ID:fv3cYkxl
>>867
15行目
(どうしたんだろう...?!)の
後に
「私が言った… わがままが原因だろうか...」追加

0871ジョン・スミス2023/02/07(火) 18:44:05.48ID:2VEqDdvn
「北国の習い」

。。。こんなにたくさんの雪は何年ぶりだろう。。。。。。。。。
目の細かい粉雪が狂騒のように舞っていた。今日は異常な大雪だ。

強風も合わさり強烈な吹雪になってしまった。全く前方が見えない
視界不良で運転もままならない。

スピードを落とし、強い地吹雪のために1メートル先も見えないまま
走行していたが、ホワイトアウトになってしまったのだ。数センチ先も
全く見えない状態になってしまった。そうなったら動くのは、
かえって危険だ。その場にとどまるしかないのだ。

そして車は立ち往生になってしまった。他に車も走っていない。
近くに民家らしきものは見当たらなかった。

‐こんな人里離れた雪山を越えたところの車の中で、一晩過ごすしかないのか・・・

「車中泊するか?」「防寒用の毛布ないでしょ。暖とるためのエアコン点けっぱなし、
エンジンかけっぱなしだと、一酸化炭素中毒で死ぬよ… あんた!」

「外は相変わらず、雪が降り続けている。車の排気口を雪で覆われ塞ぐから排気ガスで
確かに死ぬなぁ〜 ワハハハ…」「そんな笑っている場合じゃないでしょ… 全くもう…」

幼い息子が熱を出して体調が悪いという。こんな積雪が酷い中、妻は体調が悪い息子を背負って、
近くの民家を探して歩くと言い出した。俺は体調の悪い息子を背負い歩くことにした。

いくら歩いても、なかなか民家は見えて来ない。。。 ‐ 視界は白一色の銀世界のままだ ‐
人家の灯りがなかなか見えてこない中、俺の背中で息子の呼吸音が、先ほどよりも大きくなっていた。
一刻も早く、火の気のある所に息子を連れてゆかねばならなかった。

何も考えずに数メートル先をただ足を進めるだけだった… 自分がどれほど馬鹿なのか、
本気で焦り始めそうになった時、激しく粉雪が舞う中… ‐視界の先、微かに遠くを目を凝らし
眺めながら歩いていると、ぼんやりと民家の灯りが見えるではないか・・・

0872ジョン・スミス2023/02/08(水) 17:25:59.71ID:66/xjL6U
「白菊」

マミちゃん元気にしていますか?
そちらで大きなじいちゃんとばあちゃんたちと楽しく暮らしていますか?

ママはまだ、マミちゃんのお骨は手放せません。
可愛い妹をいつも見守ってくれてありがとう... マミちゃん。

又、お手紙書くね。
大好きな、マミちゃんへ

‐娘が空を見上げて、「おかあさん! そらをみて! ほら、そらのくものあいだにひかって
いるところがあるでしょ… そこからおねえちゃんがみえるんだけど、
手をふっているよ! わらっているし、ひとりじゃないよ。

ほら、おじいちゃんとおばあちゃんと、おかあさんのおともだちかな... ?
みんないっしょにいてくれているよ。だからさみしくないから、だいじょうぶだって…」と
私に言うんです。

それを聞いて、私は涙が止まりませんでした... 。
何故なら、まだ上の子が生まれる前に仲良しだった友人が若くして亡くなった
のですが、二人の娘には詳しい話もしたことなかったのに...
その友人のことまで私に教えてくれたのです。

‐私は思いました...。 友人が泣いてばかりいる私に、
「私が一緒に居るから大丈夫だよ…」と娘を通して励ましてくれたのではないかと...
亡くなった娘も天国では成長し、楽しく暮らしていることが分かり、少しですが、
心がスッとしたことを思い出します。

‐今でも悲しくて、ふさぎ込むこともありますが、少しずつ前を向いていけるように
頑張りたいと思います...

0873ジョン・スミス2023/02/09(木) 18:04:43.51ID:kIlgGON+
「あなたの言葉がわからない」

私は長野在住。昨年の冬の大雪の時の話です。
ちょうど雪が降り始めた日に、特急で一時間ほど松本に行く予定だった。

その日は週末で込み合っていて、特急の自由席は満席…
仕方なくドア付近で立っていた。

「遅れています…」と言うアナウンスが流れ...
(やっぱりなぁ〜)と思っていると外国人、歳は40代くらいの白人男性が、
" What did the announcement sey? " と、いきなり英語で話しかけられた!

私は英語は、さっぱりなので...
ちょっとテンパリながら、身振り手振りのジェスチャーで英語が話せないことと、
電車が遅れていることを伝えると、彼はわかったらしく " Thank you. " とキヨスクの方をちらほら…
彼は、何かを買いたそうにしていて、車外へ出ようか迷っていた…

ちなみに、この特急は最終列車なので、乗り遅れる訳にはいかないし、
車内販売もなくなった悲しい特急。(私も大丈夫かな?)と様子を伺っていると
ー 10分ほど遅れます ーのアナウンスが!
彼は10分ほど遅れることが、何となくわかったらしく、私の方を振り返り、満面の笑みを浮かべながらキヨスクへ

(良かったなぁ〜)と思っていたら... 態々私の方まで来て
ビールが買えたことをアピール!! それを見て、「良かったですね!」と私。

電車も遅れてて、ちよっと、テンションも下がっていたけど、
彼の表情の豊かな、ちょっとした仕草に心が和んだ。

その後、更に電車は遅れたものの無事到着し、ホテルでチェックインの
手続きをしていると、 " なんと、隣の窓口に彼が!!? "

お互いに " ?! " こんなビックリしつつ、話しかけようかなとは思ったものの、人見知りを発動してしまい...
そのままお別れ... こんなことが、あるんだとちょっと感動!

次の日、雪の影響で電車が全面的に運休で、身動きが取れずに、どうすることも出来ない…
別のホテルに急遽宿泊。雪国だから電車も雪にはめっぽう強いのに... まさかの敗北… 明日は帰れるのか...
電車は動くのか... と途方に暮れながらも、次の日の再開の知らせを聞き、始発を待っていました。

当然、混雑&遅延 ゆっくりながらも、なんとか進む電車。。。。。。
途中、除雪が追いつかず、ある駅で停車してしまった。外の景色は、雪ばかりで動くものが何もなくて、
サイレントヒルを思い出すような光景。。。。。。。。。

ーーー周りを見渡しても、みんな疲れ切ったような顔をしていた......
「あぁ〜 ヤバいなぁ... このまま足止めされたら、どーしょ…」と、
ーーー不安に駆られていると、 " なんと! 窓の外に。。。"  停車中なのをいいことに...。。。

   。。。 外に出て、 " パシャ! パシャ! パシャ!!"  。。。。。。
    
   …嬉しそうに、写真を撮っている! 例の彼の姿が.。。。。。。。。。
そんな彼は、私に気づいたらしく身振り手振りのジェスチャーで必死に私に何かを
伝えようとしていたけど、私には、それが何か、最後まで分からなかった...

" え、ええっ?!"  なに…?! わかんない?! 何々???…

...なんて言っているの?... 何にも分からない... Ah…  Ah…
...あなたの言葉がわからない... あなたの言葉が何にもわからない.........
             Ah…  Ah… ………

0874ジョン・スミス2023/02/09(木) 18:18:45.57ID:kIlgGON+
>>873
7行目の英語修正
" What did the announcement say just now? "

0875ジョン・スミス2023/02/10(金) 18:02:18.57ID:dByishRd
「粉雪は忘れ薬」

--- 風が冷たいプラットホーム... 。
‐もうすぐしたら電車がやって来る…
―電車を待つのは、私を含めて親子連れなど8人ほど...

‐空を見上げると、粉雪。。。 粉雪が舞っている。。。
 。。。 儚いくらいの雪の結晶 。。。。。。。。。
。粉雪が舞い落ちてゆく。  。 。 。 。。。

幼い子供たちが、「ゆきだ! ゆきだぁ〜!!」と燥いでいた。

…その小さな手のひらに包まれる。。。 子供たちが、それを私の方に差し出した!
「ねぇ、おねえさん! これみて!!! ゆきだよ!!」私は「どれ、見せて」

でも、---覗いて見ても、そこにあるのはただの水--------
「ああ... とけちゃった!」と肩を落とし、ガッカリする子供たち。
せっかく捕まえたのにと、呟きながら水になったそれを見つめている。

ふと、その子が顔を上げた。「ねぇ、おねえさん!」
「なぁに?」…急に話しかけられ、慌ててニッコリと笑顔を作る…

ちょっと、わざとらしくなってしまったかもしれない。
無理やり作った笑顔も、その子の無邪気な表情を見れば、自然と心から笑えてくる。

―――今日、この駅から私の新たな一日が始まる。
そう思うと、この見慣れた景色が、なんだか新鮮に感じられる--------

‐少し前に、売店で買った缶コーヒーは、その温かみをまだ保っていた。
‐握ったその温かみが、私の心をそっと慰める--------

---覚えておこうとしないのに、何かのはずみで思い出しては泣ける------
      。。。粉雪は忘れ薬。。。。。。。。。
  忘れなけりゃならないことを、忘れながら人は生きている。

  ――― すべての物事には意味があるのかもしれない ―――

  … 空を見上げると、まだ、粉雪は空から舞い落ちてくる 。。。。。。
 ...ほんのわずかな雲の隙間から、小さな光が顔を覗かせている...

  。。。 降り続く、粉雪を見つめながら私は電車に乗った 。。。
      。。。粉雪はすべてを忘れさせてくれる。。。
                  
   …粉雪は忘れ薬 すべての心の上に積もるよ。。。。。。。。。

0876ジョン・スミス2023/02/11(土) 18:18:54.58ID:2ETg7SlM
「サッポロSNOWY」

テレビを点けると、ニュースで海に出たら思わぬ吹雪にあい
立ち往生してしまった漁船の映像が映し出されていた...

中継で映し出されたのは、吹雪の海で迷っている漁船の船内の映像…
その船内の無線では、漁師の強気な駄洒落のやり取りが映し出されていた。
漁船の漁師たちは、相変わらず、負けん気なジョークを言っていた。

---今頃、故郷の空は途切れることなく雪が降りしきっているのだろうか・・・
故郷の天気予報が知りたくて、受話器を取り、懐かしい市外局番に続けて、117をダイヤルして聞く…

「大陸からの強い寒気が下がって 今夜半 冷え込みます 夕方遅く降り出した
雪は明日も かなり強くなるでしょう」と感情のこもらない声が流れる…

 。。。 サッポロは雪が降って、明日にかけて更に強く降るらしい 。。。
  ---あの人が、まだ、私の気持ちを受け止めてくれないから...
    こうしてひとり故郷の天気予報をじっと聞いている。

 。。。 あの人に、言葉では言い表せないほどの雪景色を見せてあげたい 。。。
。。。 テレビなどの映像で見る雪ではなく、粉雪(パウダースノー)を見せてあげたい 。。。
                    
    。。。 。 。 。  。  。  。   。   。   。

いつまで経っても彼の心は、どこか別のところに行ったきり戻っては来ない...
この季節が終わるまでに、彼が自分のことを好きになってはくれそうもない...
私はひとり故郷に戻る気にもなれず、ただ今夜も受話器を握りしめ
長距離の天気予報を溜息交じりに聞いている私がいる。。。

サッポロ SNOWY  まだ SNOWY  あの人が
まだ好きになってくれないから
サッポロ SNOWY  まだ SNOWY  帰れない

。。。 彼に寄せる思いのように雪がどんどん積もってゆく 。。。
SNOWY snowy。。。。。。。。。

0877ジョン・スミス2023/02/12(日) 18:43:19.71ID:k8CcoKtW
「根雪」

私には付き合っていた彼がいました。彼と出会ったのは単なる偶然だった...
だけど、私はあなたとの出会いは神様がくれた運命だったと今でも思っている。

彼は優しくて、いつも私のわがままを聞いてくれた。
ところが、ある日、突然、「君には悪いが、別れてほしい…」と彼から
別れを切り出された。彼に理由を聞いても何も答えてくれない。

私は何が何だか、わからないながらも、意地を張って、「分かったわ」と言ってしまった。
彼との別れを、まったく頭で整理できないまま、毎日泣き続ける日々過ごしていた...
私がわがままを言ったからなの…?! …でも、あまりにも突然すぎる。

あんなに仲良くしてくれていたのに... 嫌われてしまったと、
悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない......
それでもフラれた手前、連絡をすることも出来ずに過ごした半年後...
又、彼から連絡が来た!

「どうしている…?! 元気?」
「もう新しい彼氏がいるから平気。元気にしているよ」
「...そっか...」
私はつかなくていい嘘をついてしまった... 。

今も、ずっと、あなたを想っているにと、何故、そう言えなかったのだろう・・・
それから間もなくして、彼の友達から彼が亡くなったことを知らされることになる。
彼は余命半年の癌だった...

別れを切り出された頃に癌が見つかり、その後、闘病生活に入っていたことを知る。
彼が私のことを想って別れたのだと、やっと理解できるようになった。
どうして私に本当のことを教えてくれなかったのだろう......
-その日は溢れる涙が止まらなかった.........

--- あれから今日で、1年が過ぎたちょうど、去年の今頃だった ―――――――――

 ‐ 今、街ですれ違った人が、あなたと同じ匂いを漂わせていた...
それだけで、どうしてもあなたのことを鮮明に思い出してしまう...
この世界は、あまりにもあなたのことを思い出させるものが多すぎる…

--- 今でも、彼とよく聴いた古い歌が街に流れると彼のことを思い出す・・・

誰も気にしないで 泣いてなんか いるのじゃないわ
悲しそうにみえるのは 町に流れる 歌のせいよ

いやね古い歌は やさしすぎて なぐさめすぎて
余計なことを思い出す 誰かあの歌を 誰かやめさせて

いつか時が経てば 忘れられる あんたなんか
いつか時が経てば 忘れられる あんたなんか

。。。降り積もった雪が解けずに地面を覆っている。。。。。。。。。
そこに深々と粉雪が舞い落ちてくる。。。 。。。そんな雪の中を私は歩いていた。。。
。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。

0878ジョン・スミス2023/02/13(月) 17:38:49.43ID:lvI6xVyY
「マンハッタン ナイトライン」

−−−地味で簡素な部屋だった。
家具もサイドスタンドも、キャナル・ストリートの泥棒市に並んでいそうな
アンティークだ。豪華な部屋とは言えないが、その方がかえって落ち着く。

。。。窓には雪がびっしりとついている。。。。。。。。。 
---窓を開け、眼下に一晩で積もったらしい雪景色になった小さな公園がある。

そこを独りの老いたジョガーが、凍り付いた雪道を白い息を吐き切らし喘ぎながら
苦しそうに走っていた。お寒い中、ご苦労さんだ。彼もまた、このホテルの客なのだろう。

…凍り付いて凍てついた車道を車のクラクションや往来のざわめきを遠くから運ぶ…
24時間眠らない大都市だ。この大都市が活気付くのは、むしろこれからと言っていい。
巨大なビル群… 壁面を埋め尽くす四角く切り取られた無数の窓に張り付いた雪。。。

活気ある街ではあるが、先へ先へ急ぎすぎるあまり、油断すると置いてけぼりを食らってしまう。
明日までに仕上げなければならない仕事が山積みだ。一つ一つこなしているうちにあっという間に
時間が経った。軽い朝食を済ませてから始めた仕事だったが... 昼食を食うのを忘れていた。

壁の時計に目をやると、 " 18:36 "  夢中に仕事をこなしていると時間が過ぎるのも早いもんだ。
周りの巨大なビル群の窓に灯りが灯りだす… ビル群が徐々に輝き始めて来た...。

空港で買った煙草に火を点ける… 部屋の灯りはまだ点けてはいない。窓の外の暮れゆくマンハッタンを
見ていると小さな部屋の中にいるちっぽけな自分と対比し、巨大なイルミネーションと化した
 …摩天楼が浮き上がって来る…  ここは孤独を感じやすい街でもある。

---変わっていないなぁ〜 この大都市で暮らした甘く苦しい日々のことが頭を駆け巡る... 。
大学を中退し、一年半、ぶらついてから海を渡った。名目はニューヨーク市立大学建築学科聴講生。
早い話が、もぐりの天ぷら学生みたいなものだった。イーストビレッジの安アパートに部屋を借りていた。

週四日、歩いて15分の大学に通い、夜はタイムズスクエアの日本食レストランで働いた。
メリトクラシー(能力主義)が理想的生き方の競争社会アメリカに、大学を中退し、
安易な気持ちで海を渡りやって来た。そして色々と辛酸舐めつくした苦い経験。

そんなかって経験したことに、思いを巡らし回想しているうちに溜まっていた仕事を
一気にこなした為か、疲れから眠気が一気に襲って来た。…そのままベットに眠り込んでしまう…

--- どのくらい寝たんだろう ---
テレビを点けると、ちょうど、深夜0:35 ナイトラインが始まっていた。

0879ジョン・スミス2023/02/14(火) 17:17:29.93ID:XpQvpDH7
「ねこちぐら」

たまちゃんを拾ったのは、雪のちらつく2月の寒い夜。。。
小さな子猫が、空地で泣きわめいていたのを保護した。それがたまちゃんとの出会いだった...

温かいミルクを上げても飲まない。水と猫缶をあげたら、猫缶を少しだけ食べたので、
ちょっとだけ安心した。コタツの傍で丸くなってやっと眠りについた。

翌日、獣医さんに見せたら、「よく生きていたね…」と言われた。心配していた排便も、飼ってから
三日後にやっと出た。親からはぐれて、ほとんど何も食べてなかったから出るものもなかったらしい。

うちのお父さんは大の猫嫌いで、最初は飼うことを許してはくれなかったけど、母がお父さんを説得してくれた。
「飼うなら、責任を持って飼いなさい!」と言うことになった。お父さんは相変わらず、近づいてきたら
追い払う動作をしたり、自分から逃げていた。

そんなある日の朝、父の寝室から、たまちゃんの鳴く声が聞こえて来た!
「こいつ、いつの間に寝ていたんだ!」とお父さんの驚く声がしたので、私とお姉ちゃんはお父さんの寝室へ行った。

すると、たまちゃんはお父さんのお腹の上で寝ていた! 私とお姉ちゃんは大爆笑…
「お父さん動けないじゃん! たまちゃんの復讐だね(笑)」
お父さんは予想に反して追い払わずにこう言った。「一体、いつまで寝ているんだ。こいつは?!」

お父さんの顔は、相変わらず仏頂面で、全然笑っていないけど、今にも笑みがこぼれそうなのを
我慢してそうな顔をしていた。その日から、お父さんのたまちゃんに対する態度は少しは良くなった。

不思議なことに、たまちゃんは、いつも餌をあげたり遊んだりしているお母さんやお姉ちゃんや私よりも
無愛想で、撫でたりしないお父さんを慕っていた。昼寝はいつもお父さんの部屋の机の下の座布団で、
夜寝る時だけは、絶対にお父さんのベットに眠りに行っていた。

お母さんもお姉ちゃんも、「なんで、あんな臭いところで寝るかね…」と不思議がっていた。
そんなお父さんも、もう、たまちゃんを追い払うことはなくなっていた。
そして私たちはお父さんの机の下にねこちぐらを作った。

それから、しばらく経ったある日、突然、たまちゃんがいなくなった。
一日中探しても、見つからない。こんなひどい雨ふりなのに... 。

 ――― 三日後に、たまちゃんは帰って来ていた...。
たまちゃんの様子が、何かおかしいので獣医さんに見せると、
「猫は気まぐれな動物です。外出が好きな猫は、一週間近く帰ってこないこともあります。

二、三週間だと保護されているか、迷子になっている可能性があります。中には、一ヶ月もしくは、
一年、二年過ぎてから、ひょっこり帰って来るケースもまれにあるんですよ…」と言ってた。
そして診断は単なる風邪だと言われた。それを聞いて家族は、みんな安心した。

しかし、なかなか治らない。三週間も過ぎても治らない。普通は二、三日で治る病気なのに、
流石におかしいと思った。獣医さんは、私たちに、たまちゃんは詳しく検査した方がいいかも
しれないと言った。その頃からたまちゃんは、いつも鼻水がいっぱい出るようになった。
お父さんの部屋に行く階段を登るのも少し辛そうだった。

そんなある日、いつものように玄関を開けて、「ただいまーっ!」って帰宅したら、お母さんが、
目を真っ赤にしていた。私は嫌な予感がした。今日は診断結果を聞く日だった。それを早く聞きたくて
学校から早く帰って来た。「お母さん! たまちゃんは、どうだったの?」「…ダメなんだって」

その時、ちょうどお父さんも帰宅した。事情を知ったお父さんは、一瞬、凄く驚いて悲しそうな顔をした。
たまちゃんは、もう動くことが辛そうで、ほとんど動くことはなかった。いつもヨダレが出っぱなしで見てられない。

その時は突然やって来た。転びながら歩くたまちゃんを抱きあげようとした時、もう起き上がれなくなっていた。
呼吸のペースが速くなって、今まで聞いたことのないような声で鳴き始めた。それからしばらくして、
たまちゃんの呼吸は止まった。家族みんな泣いていた。大の猫嫌いだったお父さんも...
 ‐ たまちゃん 今まで、ありがとう 幸せだったよ ‐

0880ジョン・スミス2023/02/15(水) 17:37:41.65ID:w5962bXP
「ツンドラ・バード」

真っ暗な道を走って約40分、遅刻せず無事にヒッコリーウインドに着いた。
ガイドさんから、「上着が足りないね〜」と指摘され、防寒着のレンタルをしてもらう。

防寒着を着たら早速、音羽橋へ出発。到着すると、もう既に人が沢山いた!
早朝、こんなに人がいることにもびっくりだが、もっと驚いたのは外国人観光客の数だ。
ほとんどが外国人ばかりだった。コロナ禍になる前の話だ。
ガイドさんも英語がペラペラだ。

釧路から、ここ鶴居村まで車で約40分くらいで着いた。
隣のガイドさんが、英国のソールズベリー近郊の街から来たと言う男性と話をしている。
何言っているのか全然わからない。凄いなぁ〜。話を聞きながらも鶴を発見!!!
- これは凄い!!! いっぱいいる!!! ‐

...朝霧の湯気が舞い上がる中の鶴の群れ、なんと幻想的光景だろうか...。 見とれてしまう......

ガイドさんの話によると、鶴は川で寝るそうで、凍っている場所よりも、
凍っていない川の方が温かく、鶴にとっては温泉のようなものだとか...
川で寝ていれば敵が近づいて来ても、音でわかるのが理由らしい。

話を聞いているうちに日も出て来た。すると、鶴の群れが一斉に羽ばたき、大空に舞い上がった!
こんなに近くで、飛び立つ姿を見る機会は今までなかったので、かなりの感動!!!
太陽を背に大空を飛んでいく姿は、あの映画のワンシーンのようだった・・・

隣のアメリカ人男性が、双眼鏡で見ているので、「何を見ているのですか?」と
ガイドさんに聞いてもらうと、「高い樹の枝から、獲物を狙うオオワシ」を見ていたと言う。

ガイドさんによると、鋭い眼光のオオワシやオジロワシなど猛禽類は特に外国人に人気が高いと言う。
‐ その時だった !! 一瞬の隙を突き、小高い丘の高い樹の上から急降下、水面付近にいた獲物を捕らえた!
そんな " 決定的瞬間 !!! " を目撃した !!! ... " オジロワシ " だった!

- その瞬間!- を隣のオーストラリア人の男性がシャッターチャンスとばかりパシパシとシャッターを切っていた。

0881ジョン・スミス2023/02/16(木) 17:29:27.09ID:XaGZjEVe
「白鳥の歌が聴こえる」

ボ〜〜〜ボオオォゥイィィ〜ン ボ〜〜〜ボオオォゥイィィ〜〜ン
空気を揺らす、低くて太い音に混じって、細く高く唸る様な音が混じる汽笛の響き…

港の倉庫では、フォークリフトが稼働する音と、ベルトコンベアの回る音が、
今日も無機質な金属音を生み出していた。いつものように次々と到着するトラック。
けたたましいエンジン音を響かせては、吐き出す排気ガスは倉庫内の隅々まで
充満していた。大手運送会社が運営する東京湾に面した物流センター。

二時間くらい前に昇った朝日は、未だこの薄汚れた海をキラキラと輝かせていた。
俺は忙しく動かしていた手をふと休めて、その風情に見惚れた。あまり気づいて
いる者はいないが、その情景は、ここでの一日で一番綺麗な瞬間でもあった。

「何やってんだ橋谷!!! また間違ってんじゃねぇか!!」「すみません、ヘマばかりで、すみません!」
「そう思うなら、ドジんじゃねえぞ!! 分かったか! バカヤロー!!!」

いつものように響き渡る安藤主任の怒鳴り声! それは無機質な金属音よりも、トラックのエンジン音よりも、
ここで一番響き渡っていた。その声は、ここ一週間、新人アルバイト橋谷さんに向けられていた。

「ハハハ…、またやっているよ」周りから、小さく嘲笑する声が聞こえる...。
「今度は、どうしたんだい?」「今度ってか、いつもの事よ。足立区の荷物を台東区方面に流しちまったらしい…」
「はあ? 足立区と台東区じゃ別レーンじゃねぇか!? どうすりゃ間違えられるんだ…?!」

「向いてねぇんだよ。それより俺は、あの怒鳴り声に朝から疲れちまうよ。アハハハ…」
身をよじらせたおかしな格好で、ペコペコ平謝りで頭を下げまくる橋谷さん。

未だ怒鳴り続けている主任。傍から見ればいじめているようにしか見えない。
「やれやれいつまで続くんだい…」俺の隣で作業している斎藤のおっさんが疲れた顔でぼやく。

ちょうど、" そんな時 " だった!
救急車とパトカーが、けたたましいサイレンを鳴らしながら、
こちらの海に面した港湾倉庫の方へ近づいて来るではないか・・・

「こっちに向かってくるけど、なんかあったんか…?!」「分からん?」

0882ジョン・スミス2023/02/17(金) 17:54:43.66ID:k4+Ux2c9
「雪傘」

休日、偶々、彼と彼の友人と道端で出会い三人で歩いている時だった...
いきなり霙が降って来たこともあり、近くの店に入ることになった。
少し遅い午後のランチタイム。今日はあなたの誕生日でもあった...

二人で夜、何度か訪れたことのある店だった。ランチタイムは混むという話を
聞いていたお店も、平日の午後三時過ぎくらいのこんな時間は、
案外空いていて、店内のお客は疎らだった...

「お好きな席へどうぞ…」と店員に言われ、奥の方にある丸テーブルのソファ席に座る。
「この前来た夜と、また違った雰囲気というか、印象が違うね…」と夜しか来たことがなかった
あなたは店内をぐるりと見回しながら言う。

「実は今日、俺の誕生日なんだ…」と彼がボソッと彼の友人に呟くと、
「それでは、みんなでお前の誕生日を祝って…」と彼の友人が音頭を取って
「誕生日おめでとう!」「乾杯!!!」「ありがとう」

あなたの誕生日祝いを兼ねた少し遅いランチをワインで乾杯し祝うことになった。
あなたの友人と三人で長い間、談笑し合い あなたの誕生日を兼ねた
少し遅い午後のランチタイム...

...やがて、彼の友人は去り、あなたと二人きりの時間が続いた......
久しぶりに、午後のひとときを時間を忘れ堪能した...。

店を出ると、昼頃から降り出した霙は、既に霙交じりの雪に変わっていた。
全国的に寒波が襲い、霙交じりの雪が降っていた...。。。
 ‐ 早速、近くのコンビニでビニール傘を購入する ‐

   − 街の街灯に照らされた霙交じりの雪が降る中 −

‐雪が降るより冷たい霙交じりの雪の夜… 二人で傘を差して歩いた。。。
普段はあまり雪が降らない為か、既に交通網が麻痺し、慣れない雪に。。。
‐バスも電車も遅延しているようだった。。。。。。。。。

…灯り溢れる街中から、賑やかな歌が流れてくる………
これっきりと思い出に、決着を決めている私がいた。

あなたは隠しているけど、知っているのよ。実は帰宅したら、
あなたの誕生日を祝ってくれる人がいるのよね。
知っていたわ...。

凍えるような寒さの中、傘を持っているあなたの温かいぬくもりのある手に
指を添えて、あなたの声、白く吐く息を聞きながら過ぎ行く時を感じながら歩いている...
ありとあらゆる悲しいことからあなたが守ってくれていたんだね。

当たり前のように暮らしたあの頃・・・ ありがとうって伝え忘れたね...
‐‐‐今までの色々な過ぎ去った過去の思い出が蘇っては消えてゆく...
迷惑でなければ傍にいて 車を拾うまで...

「Happy Birthday」
今日を祝う人が居てくれるなら、安心できるわ
いつまでも 一人ずつなんて良くないことだわ 心配したのよ
雪傘の柄に指を添えて
ゆく時を聞いている
思い出全部   アリガト

0883ジョン・スミス2023/02/17(金) 18:24:21.30ID:k4+Ux2c9
>>882
18行目
昼頃から×
午後三時過ぎから〇

0884ジョン・スミス2023/02/18(土) 17:21:24.49ID:ncOQM5rK
「顔のない街の中で」

「どうした健一? 元気ないな。 ははん、いじめられたか…
お母さんには、内緒にしとくから、こっちに、来い!」と
離れのおじいちゃんの家に連れていかれた。

薪ストーブに薪をくべながら、おじいちゃんは、「いじめっ子も普段から満たされないものがあるのだろう。
健一な、いじめられたからって、いじめっ子にはなるなよ。仕返し、したいだろうが、仕返しなんてしなくても
人にやったことは必ず、どこかで自分に帰って来るもんだ。お前がやるもんでもない。全てには何らかの原因があって

結果として帰ってくる世界だからじゃ。それよりも人の痛みがわかる人間になれ。世界にはな、生きるのも、
大変な地域がある。紛争地域や飢餓などの飢えに苦しみながら、大変な思いをしながら生きている子供たちがいる。
考え方ひとつじゃ。命ある限り希望がある。困難なことがあると、嫌になっちゃうけどな、困難な状況というのはな、

生きる為のヒントを与えてくれているんじゃ。それに気づかなきゃならん。人生に行き詰った時、本来の生きる
べき人生に、気付かせる為と思えば、人生の見方も変わってくる。捉え方ひとつで、ものの見方が変わって来る。

そんなもんだ。男の役割は女子供など、特に小さい者や弱い者を守る為いる。いじめるんじゃなく、弱い者を
守れるくらい強い子になれ。男は肉体的な強さだけではなく、精神的にも強くならんといかん。分かったか!」

「大切なのは、人の痛みの分かる人間になることじゃ。だから、健一、人の痛みの分かる人間になれ!」

最後におじいちゃんは、今度、いじめっ子を連れてきなさいと言った。
そんなおじいちゃんの話を聞きながら、薪ストーブの薪のパチパチ燃える音と炎を見ていると・・・
―――――――――なんだか心が落ち着いてきた。

0885ジョン・スミス2023/02/19(日) 17:48:23.62ID:eao4GHST
「雪・月・花」

――― ねぇ? ...どうしていつもそっちを向くの? ...

彼は私に背を向けて、煙草をふかしている…
彼の目線はテレビの画面。

いつもそう...。
ベットから降りて椅子に座り、そこで一服。
つんつんと、布団から足を延ばし、足先で彼の背中をつつく…
何も反応しない...

「ねぇ、ねぇ…」と声をかけるが、それでも彼は何も言わない...。
(スルことだけが目的?)
考えちゃいけないのはわかっている…
わかっているけど・・・ 時々、私は虚しくなる.........

(ねぇ、こっちを向いてよ... 一緒にいるのに、一人にしないでよ!)
ねぇってば。。。
無言のテレパシー ・・・ 彼に届くように … 背中をジッと見つめて送る…
(こっち向いて…)

だけど… どんなに頑張っても、振り向かない…
疑い出すと止まらない… 色んなことを考えてしまう・・・
急に心臓がキリキリと痛み出す… 唇に力を込める。

我慢していても、目頭がどんどん熱くなっていく...
(本当は、私のこと好きじゃないんだ! カラダだけが目的なんだ!)
(きっと、他に彼女がいるんだ! 私は遊びなんだ...)

色々と頭を巡らしているうちに、だんだん不安になってきた。
(そうやって愛されることばかり、考えているとだんだんと不安になってくる...)

目いっぱいに溢れたものは、頬を伝わって流れている...
さらに唇を強くつむる。声を出さないように...。
「ひっ...く…」我慢しているのに、声が漏れてしまう私の泣き声…

それに " 驚き!" 振り向く彼。 ダラダラと涙を流す私を見て、 " 目 " をまぁるくする。
「なぁんだ、おまえ!! 何、泣いてんだ??? 変な顔して泣くなよ〜」と彼は大笑い…
私の気持ち... 何もわかっていない人ね。

自然の四季は時間の経過と共に移り変わって変化していくけど、
 ‐ 恋心はひたすらそこにとどまり募らせてゆく.........

0886ジョン・スミス2023/02/20(月) 18:37:53.21ID:skE41RHF
「群衆」

公園のベンチに座っていた。多くの人たちがすぐ目の前を通り過ぎる…
話しかけようと思えば、話しかけられるのに、相手から接触して来ない環境。
案外、人間観察などが好きだったりする。

僕は公園のベンチでのんびりと行き交う人々を茫然と、ただ何も考えず
見ているのが好きだったりする。ただ、気を付けなければいけないのは、
あまりジッと見つめないこと。相手に気づかれガンを付けられたり、
そんな感じで相手も気分を害し、お互いに気まずくなるだけだからね。

マーケティングなどで、テーマを持った人間観察を職業にしている人たちとでは
視点が違うのかもしれない。人間観察ってどこを見るかによって随分と違ってくる。

色違いのモコモコのダウンジャケットを着て寒そうに談笑して歩く若い女性たちや、
ホット缶コーヒーを飲みながら談笑しているオッちゃん達を見ているだけでほっこりする。

心がほっこりする光景をただ探しているのかもしれない。良い悪いにつけ人間が好きなんだなぁと思う。
くだらないことで悩んでいる自分が馬鹿らしくなるほど、色んな発見があって面白い。
まだまだ人間って捨てたもんじゃないよと思う… 

公園に来る前の商店街や路地裏でよく見かける光景。その中で通り過ぎる人々をただただ
眺めているだけのおばちゃん。その表情からは何とも言えない哀愁が漂っていた...

そんな下町だけではなく、繁華街や駅前で見かけた何とも言えない哀愁漂う表情で
煙草を銜え、向かいの店を眺めている中華店のおっちゃんのその表情...

そんな下町のおばちゃんも、煙草を銜え向かいの店を眺めている中華店主で
休憩中のおっちゃんも、「何を考えているのかな?」と想像するけど、
別に何も考えていないと思う...

その場の景色と光景、その中で醸し出す風情というか、情緒、味わいがあって、
何とも言えない哀愁を感じる... 

長いようで短い... 儚い一瞬のドラマ... だからこそ一瞬一瞬を大切に生きたいね。
ーーー 人混みの中から、若い女性が息を切らして駆け寄って来た。

          「やぁー 待ったぁ―――」「遅いよ! じゃあ、行くか!」
――― また再び、都会の雑踏とした人混みの中に消えてゆくーーーーーーーーー

0887ジョン・スミス2023/02/20(月) 21:14:24.40ID:skE41RHF
>>886
6行目
「相手に気づかれガンをつけられる。」に訂正

0888ジョン・スミス2023/02/21(火) 15:41:28.85ID:6KFSDA06
中島みゆき研究所の管理人さん心配していました。お元気なようで安心しました。

0889ジョン・スミス2023/02/21(火) 17:31:41.65ID:6KFSDA06
「孤独の肖像 1st.」

梅の花の蜜を吸いにメジロが来ていた。缶ビールを片手に、
窓際に立ち窓の外の風景を見ていた...

…考えてみれば俺は、今まで真剣に生きることを舐めていた...
そんな時、 " ガチャ!" とドアを開け、誰かが入って来た! 
「あっ! 沢田さん!!」「朝から、酒飲んじゃって、全く原稿進んでいないみたいだね…」

「ちょっと、あれを見てください! 沢田さん。今時、煙突から煙出している家なんて、
珍しいと思いませんか...?!」「佐久間ちゃん、何か勘違いしていないか、
同情で連続ドラマの仕事を回したわけじゃない…」「...分かっていますよ…」

「お子さんが亡くなって、離婚して不幸続きで香典代わりに回した仕事。企画会議で君の名前を
出した時、大笑いされたんだから… 俺の立場を考えてくれよ。美紀ちゃん、あの人が居たから、
賭けたんだよ! 君ら夫婦にね。 あんたの才能一番分かっていたのは美紀ちゃんだよ。

酒はアル中に近いは… 女とは手当たり次第に寝るは… 君ね、人として最低だったもんね。
どうしてそんな君が、美紀ちゃんを捨てられるわけ…」「捨てたわけじゃない…」

諦めていた子供が出来、俺の心の中に明かりが灯った。そんな可愛い盛りの我が子が、
俺が食べ残したナッツを飲み込んで窒息死。それからというもの俺は荒れまくった。
女房を怒鳴りつけ殴りつけた。そして家庭は崩壊した.........

「美紀ちゃんはね、君の才能に惚れ込んだわけじゃない。君の生き方に惚れたんだよ!
君は、美紀ちゃんに幼い頃の話をしたね。夕方、丘の上に立って、街を見下ろすと、
街の煙突から夕飯を炊く幸せそうな煙が好きだと... 俺も大人になったら、
あんな家庭を築くんだと幼い頃から思い描いていたんだと...」

" はっ!!! " 「えっ、!! ...もしかして、あの煙の出ている家は… まさか、!?」
「そう、君を支えられるのは、あの人しかいないね… 黙っててと言われた...
黙っていた方が、美紀ちゃん幸せだったね。世の中、あんたの女房になるくらい
不幸な人はいないもんね…」 ・・・美紀・・・こんな俺に・・・

…才能なんて、とっくに枯れたこんな俺を...
俺は仕事部屋として借りていたホテルの部屋を飛び出した。
あの煙が出ているボロ屋に向かい走りに走った………

   ...あいつ...... 手の込んだ芝居者がって ......

 ‐ ボロ屋に着くと、美紀が、かまどで飯を炊いていた ‐
…息を切らした俺は、「ハァハァ… ハァハァ… 今時、かまどで飯を炊く奴はいないよ。
...芝居がかったことしゃがって… 俺が気付かなかったら、どうするつもりだった…」

「別に…」「…どうしようもねぇなぁ... お前は、俺なんかより、よっぽど凄い生き方しているなぁ…」
「...私ね、小さい頃から頭が良くてね。家も豊かだったし、幸せだったの… それが変な男に出会って
人生メチャクチャ... 借金借金で、家には勘当されるわ… 兄妹からは馬鹿にされ、やっと授かった

我が子を失うわで、割に合わないことばかり...」「...よく、こんな家、見つけたな、ボロ屋でも
場所がいいから、結構家賃が高いだろ…」

   ...煙が目に沁みちゃうじゃないか.........
            「...もう一度、初めから、やり直すか…」―――「...うん!」

0890ジョン・スミス2023/02/21(火) 18:05:04.81ID:6KFSDA06
>>889
下から11行目
芝居者がって×
芝居しゃがって〇

0891ジョン・スミス2023/02/22(水) 18:50:19.53ID:6wFRAYaz
「人生の素人」

うちのおばあちゃんは買い物帰りに歩いて帰る途中、チャリンコに乗った中学生DQNの
ひったくりに抜かれざまバックを掴まれたが、日頃から野良仕事を趣味として、
歳の割に無類の体力を誇るうちのおばあちゃん。

掴まれたバックを強靭な握力と腕力でがっちりホールド。チャリンコに乗っていた
中学生DQNのガキの方が反動で地面に強く叩きつけられ右手骨折!

後で連絡してくれた通行人の話によると、「危ねー だろがぁ、、、 ハバア!!! 
おぉぉ、、、 痛てーーなー!!! 痛てて...」と、怒鳴りながら泣いていたと言う。

そして連絡した通行人と駆け付けたお巡りさんに連行された。
警察署に両親が呼ばれるも、若い母親は、うちのおばあちゃんを悪者扱いで罵声を浴びせる。
「うちの子に怪我させた。治療費を払え! どうせ、私らが取られた金で貰った年金だろ〜」

警察から連絡を受けて、ばあちゃんを迎えに来た俺は、その無茶苦茶なことを言う母親に
殴りかかりそうなのをたしなめ、ばあちゃんは、「怪我したんは、可哀想だが、

本当に可哀想なんは、人のもの盗んだらいけんって、ことすら親から教えてもらえんかった
この子の人生や… 今からでも遅くはない。親子で頑張って、まともな人間にならんといけんよ」と、
優しい口調で論じた。母親が何か、反論しそうな態度を見せようとしたら、親父が出てきて、

目の前で、母親と息子を殴り、その親父は泣きながら土下座をした。
「こんな息子に育てた俺らが悪い! どうか、許してくれんか? こいつ(母親)みたいに、
幾つになっても、大人になれんもんがいる。そんな大人になれんもんがガキを

育てるから、ろくなガキに育たん! 許してくれ!!」と何度も土下座して、
母親と息子の頭を下げさせていた。ばあちゃん曰く、「聖人君子も、完璧な
大人もいない。皆、人生は素人につき、生きていること自体、学びやと思います。

それに気づいたら、それでいいと思います。あなたの気持ちはわかりました。
どうか、頭をお上げください」

0892ジョン・スミス2023/02/22(水) 18:55:45.99ID:6wFRAYaz
>>891
6行目
ハバア!!!×
ババア!!!〇

0893ジョン・スミス2023/02/23(木) 18:51:18.94ID:yoZ9KLwX
「慕情」

去年の夏の終わり頃...
「東京のマンションを売り払ってこっちを大きくするか…」遅く起きて、
ぼんやりした顔で居間に来た夫が言った。「昨日は、こちらを売り払って
東京の方を大きくしょうとおっしゃいました」と私が言うと、

夫は「つべこべ言うな!」「でも、全く違うこと言っていますよ…」と私。
夫の言動が常に両極に大きく揺れ動くのには理由があった...

しかし、私も常に逆らい、決して同意はしない。子供の為にと無理をして建てたおもちゃのような別荘。
二十年もの間、主を迎えることなく、長らく忘れられていた... あまりにも多くの思い出があり、
売ることも、壊すことも出来ずにいた。こちらに来た当初は、散歩はおろか外に出ることさえも、
嫌がっていた夫が、一年も経つと日に二度は一緒に散歩をするようになった...

二十年前、私たち夫婦は一人息子を交通事故で失った。夫の言動が常に両極端に揺れるようになったのは、
その時を境にしてからだった... それがあまりにもひどいので、会社の部下の人たちが訪ねてくる度に、
それとなく聞いても、会社ではその反対で、一度口にしたことは絶対に曲げないと言う...

ふと、この人は心の中で戦っているのではないかと思った。ある方向に引かれようとしている自分の気持ちを何とか、
踏みとどまろうとしているのだと思った。それに気づいたのが、定年になるちょうど、一年前のことだった...

.........
警官に担ぎ込まれてきた時、「あなた!! 一体どうしたの?」「いや、大丈夫です。心配いらないですよ。お怪我は
ありませんから…」「喧嘩でもしたのですか?」「酔って車道と歩道をふらふら、ふらついて歩いていたものですから、
では、私はこれにて失礼します」「どうもありがとうございます」 …あの時...。

この人は、仕事でごまかしていたんだと... その仕事も定年を来年に控えた、今、この人から無くなろうとしている。
どうしたらいいのかわからなくなったんだわ。「あなた、定年になったら、別荘で暮らしましょう。通勤の必要がなくなったら
空気の良い自然の中で暮らしましょうよ」 ...そして、ここにやって来たのよね... あなた。

そんなちっちゃな別荘の近くを二人で散歩していた。「あら、赤とんぼ! ほら、あそこ、あそこよ。早く捕まえて!」
「全くお前というやつは、いつまで経っても子供なんだから…」 ...私たちは一人息子と言う大きなものを失ったけど...
生まれて、逝ってしまった命の記憶を知っているのも私たちだけなのだから... 「ほら、捕まえたぞ!」

「凄いじゃないあなた!! ...でも、逃がしてあげて!」「せっかく捕まえたのに、逃がすのか…?!」と訝しげに言う夫...
「そうよ。それでいいのよ。ねえ、見て、あれが今の私たちよ。捕まえられていた時が、今までの私たちと同じなの。
今からでも遅くないから、 そう、何も急ぐ必要がないのよ。これからゆっくりでいいから...」

愛より急ぐものが どこにあったのだろう
今までの私たち急いでいたのね。愛を後回しにして、何を急いでいたのかしら、ね...

もういちどはじめから もしもあなたと歩き出せるなら...
ーーー もういちどはじめから... ただあなたに尽くしたい ーーーーーーーーー

0894ジョン・スミス2023/02/23(木) 19:17:39.07ID:yoZ9KLwX
みゆきさん誕生日おめでとうございます。

0895ジョン・スミス2023/02/24(金) 19:15:44.57ID:WGoRXJUj
「LOVERS ONLY」

ちょうど二か月前のクリスマスイブの日だった...
欧米では家族そろって静かに過ごすのが習慣になっているクリスマス。

イブに綺麗な夜景のレストランでカップルでお食事。クリスマスイブはカップルの為に…
 クリスマスはカップルのデート… 恋人と過ごすもの…
・・・・・・・・・ そんな空気がこの国の風物詩になったのはいつ頃だろうか …

 そんな僕のクリスマスの思い出と言うと幼稚園に通っていた頃くらいの時を思い出します・・・
その頃の僕は、サンタさんをまだおぼろげながら信じていました...。

クリスマスイブの夜、布団に入って、「こんばんは、ずっとおきていて、サンタさんの
しょうたいをたしかめよう!」と固く決心しました。

これ、もしかしたら多くの子供達が一度は決心することかもしれませんね。
かなり頑張りましたが、途中でうとうととして、ハッと気づいたら、
もう外が少しだけ明るくなって… 朝だ! 「しまった!」と
頭で思ったものの、未だ夢うつつ状態...。

必死になって頭を上に向けて、枕元にプレゼントがあるかどうか、探した… ある!
何か鉄の塊が… (これは、ひよっとして… ずっと欲しかったロボットでは?)と
手を伸ばして… その鉄の塊を掴む… その鉄の塊は... ロボットなのか?…
子供の頃の僕は… 再び夢の世界に入っていきました.........

 朝になって改めて見ると、その鉄の塊と言うのは、欲しかったゼンマイ仕掛けの
ブリキのおもちゃの「ロボット」でした。
よくは覚えていないけれど.........
ゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃのロボット…

それにサンタさんの正体も判明したので、満足で燥いでいた記憶があります…
父からのプレゼントはボードゲームでした。当時人気の人生ゲーム。

普段、口喧嘩ばかりして仲の悪い両親も、
この日ばかりは、ボードゲームの人生ゲームで家族5人が一家団欒。楽しく笑い声で
一喜一憂でゲームに夢中する姿が子供ながらに『一番うれしかった』のを覚えています...

0896ジョン・スミス2023/02/25(土) 08:28:58.21ID:PXBjHqiv
>>895
どんなプレゼントよりも
『一番うれしかった』

付け足すならそういうことですね。
 

0897ジョン・スミス2023/02/25(土) 18:34:00.62ID:PXBjHqiv
「クリスマスソングを唄うように」

...雪の降る夜はいつも思い出す.........
私の職場にバイトとして来ていた高校生。何もわからない彼に仕事を
教えることになった私。「美香さんて可愛いですよね」初対面での挨拶が、これ?!
「年下君に言われてもねぇ、もう少し大人になってから言って…」

それからの彼の押しは凄かった。帰りは必ずバイクに乗って待っているし、
休みの日も迎えに来てくれた。彼は自分の事を隠さずに話してくれた。
彼の両親は離婚して父親は家を出ていったという。「弟や妹たちはまだ小さいから、
あいつらの小遣いくらい俺が稼がないと…」そう言う彼の照れたような横顔。

「美香さん、妹の誕生日プレゼント買いに行くの付き合ってください。母の日、どういうの
プレゼントすれば喜ぶんですかね?」と、不器用だけど、一生懸命で優しい彼。
いつの間にか、彼に惹かれている自分がいた。「やっぱり、俺、美香さんの事、好きです」

その言葉をきっかけに付き合いだした私たち。うちの親に反対されると思って黙っていた。
けれど、どこから聞いたのか、うちの両親にバレてしまった。案の定、両親は大反対。

一人娘で大事に育てられてきたことはわかっている。「高校生なんかと付き合うような
娘に育てた覚えはない。お前は、高校生なんかに貢いでいるのか?!」「何も知らない癖に!」
初めて本気で怒鳴った気がする。私は思わず家を飛び出した。彼に電話しようか...

もう、家には戻れないかもしれない… そんなことを考えながら、行く当てもなく私は歩いた...
クリスマスの街はキラキラ輝いて見えた。自分が凄く惨めで寂しくて... たった一人...

そんな時、「美香さん!」 …聞きなれた声に、振り向くと彼がいた!「ごめん! バイト増やしたんだ」と
彼が言う。そんなことはどうでもよかった。私は思わず泣き出してしまった。「何? どうしたの?! 
ちょっと待って、店長! ちょっと外します! すみません!」

近くの公園で、私は泣きじゃくりながらすべてを話した。あんなこと言われた… こんなこと言われた…
彼はそんな私の話を全部黙って聞いてくれた。「ちよっと待ってて、店長に話してから送っていくから」

バイクの後ろに私を乗せて、彼は私の家に向かった。慌てて出て来た両親にバイクを降りて彼は一言だけ言った。
「頼りない俺ですけど、絶対に幸せにしますから… すいません! 今、バイトの途中で抜けて来たんで、
また、改めて伺います…」そう言ってバイクに乗って行った彼。

その後、私は両親ときちんと話し合った。父は相変わらず不機嫌そうだったけど、母は優しい視線で、
「いい子じゃないの… ゆっくり見守りましょう。私たちの子よ。信用してもいいと思うわよ」と母の優しい言葉。

次の日、彼のお母さんから電話がかかって来た。「息子の彼女さんですよね?! 今から出てこられますか?」
彼のお母さんから教えてもらった住所は彼の自宅。緊張しながらチャイムを押すと、彼のお母さんが
出て来てくれた。泣き腫らしたような目。彼のお母さんに案内されて入った部屋に彼は居た。

白い布を掛けられていた。「昨日、バイトの帰りにバイクで転んで・・・」
  … どうして寝ているの…?! 起きてよ。何が起きてるの?! …

「これ、多分、あなたへのプレゼントだと思うんです…」と
彼のお母さんが渡してくれた小さな箱。中に入っていたのは指輪だった...
   … こんなのが欲しかったんじゃない …

ーーー彼のお母さんが、私の両親に連絡してくれて私は帰った...

 ・・・「頼りない俺だけど、絶対に幸せにするから…」・・・

――― クリスマスに浮かれる街の光景の中 ーーーーーーーーー
今でも白い雪が舞うこの季節になると... そんな彼の言葉を思い出す...

0898ジョン・スミス2023/02/26(日) 17:06:10.45ID:TyXNonp0
「帰省」

子供達が未だ幼かった頃は、家族全員、車でよく帰省していた。

四人分の飛行機代はバカにならなかったので、いつも車を使って帰省していた。
途中で渋滞につかまり予定の時間を大幅に遅れて実家に着くたびに、母は毎度
同じことを孫たちに言っていた。「あんまり遅いから、じいちゃんの首が伸びたばい」

そういう母の首も、少しだけ伸びているように感じた。子は父親の背中を見て育つというけど、
本当にそうだろうか…?! 亡くなった父は、昔から新聞や本を読んでいるか、あるいは、
酒を飲んでいるかで、記憶にあるのは、父の背中というよりも、その横顔であった。

むしろ覚えているのは、母の背中だった... 台所に立って茶碗や食器を洗う背中、
物干し竿に洗濯物を干す背中、縁側に座ってそれをたたむ背中... 我が子の生き方に
対して言いたいことが沢山あっただろうと思うが、母は何も言わずに応援してくれた。

いつも何も言わず背中で語っていたのだと思う。笑う背中もあれば、泣いている背中もあっただろう... 
そんな母の生き様に思いを寄せることはせず、そこに背中があることが当たり前だと思って生きて来た。
そんな母の思いに気づいた時には、もう母は居なかった.........

年老いてからは、帰省して車で来る度に、「あんたが運転する車に乗るのは、
これが最後かもしれんねぇ…」と母は呟いた。「そんなことないさ…」と僕は言いながら、
本当にそうなるかもしれないことなど想像も出来ずに車を走らせていた。

東京に戻る朝、いつも母は門柱の前に立ち、走り去っていく僕らの車の姿が消えるまで見送ってくれた。
小学生の息子は手を振りながら泣きじゃくっていた。ルームミラーの向こうで、小さくなっていく母の姿を
見ながら震えそうになる声で息子に、「もう泣くな!」と言った。それが母を最後に見た姿だった...

父が亡くなって十五年、そしてそんな母が亡くなって、もう、十年以上経つ...
時が経つのも早いもので、あの時、小学生だった息子も今では大学生になっていた。

帰省とは家族の繋がりを確かめる為の者だと思う。ずっと巡り続けて来た季節も
メリーゴーラウンドのように少しずつ速度を落としながら... やがていつかは、
止まる時が訪れるのだろうか... 帰省する度に、改めて家族の繋がりに気づかされる。

生きていくうえでの、人との繋がり家族との繋がりを確かめる為に
ーーーーーーーーー 僕らは生きているのだろう...

......... ......... .........
...玄関前で、ばあちゃんを見つけた幼い息子が喜んで車から飛び出していく…
「ばあちゃん! 遊びに来たよ!!」
「よく来たね! ケンちゃん!!」
「おお、ケン坊! よく来たな!!」
「おじいちゃん!」

   

0899ジョン・スミス2023/02/26(日) 17:14:17.01ID:TyXNonp0
>>898
下から11行目
確かめる為の者×
確かめる為のもの〇

0900ジョン・スミス2023/02/27(月) 19:24:17.25ID:VW/rxMof
「ホームにて」

駅は帰省の人々でごった返していた。この駅がこんなに人混みで溢れるのは、
この時期くらいだった。小学生だった僕は父さんと、はぐれないように気を
付けながら、人と人の間をすり抜けて進んでいた。

「康明! ちゃんと、ついて来ているか?!」と父さんは時々、僕を振り返りながら確認する。
迷子になるような歳じゃないよと言いたいけれど、この人の多さでは本当に迷子になってしまいそうだ。
「下りのお客様は、こちらに整列をお願いします。二列になってお待ちください。次の列車は
すぐに参ります…」駅員さんがメガホンを持って声を張り上げていた。これも毎年の光景だ。

「お疲れ様です…」と、お父さんが顔なじみの駅員さんに声をかけていた。
「毎年、この時期はこうですからね。慣れていますよ」と駅員さんは笑った。

「それでも、働いている皆さんは大変でしょう。列車だけでなく、船も飛行機も、この時期は満員だ…」
「そうですね、この時期だけの特別便が何本も出ます。でも、こちらでも働き方を見直そうという動きはありまして、
帰省をしない方々の中から、アルバイトを雇っているんですよ」と駅員さんと父の会話を聞いていた僕は、

確かに言われてみると、行き交う帰省客の案内や整理をしている中には、明らかに駅員さんの制服でない人たちがいる。
(この人達は帰る故郷がないのだろうか…)と幼い僕がそう思って見ていたのが、顔に出ていたのかもしれない...

「帰れない方も、帰りたくない方もいらっしゃいますよ。アルバイトに応募されてきた皆さんは、自分は帰らなくとも他の方々の
帰省を、手助け出来ることに喜びを感じている方ばかりですよ」と駅員さんは、父の方とそして、僕の顔を見てほほ笑んだ。

そんな駅員さんと父の会話から、僕は人には人知れずそれぞれの事情があるんだと言うことをその時、初めて幼いながらも知った。
列車は中々来なかった。駅に集まっている人々も、退屈しのぎにあっちこっちでおしゃべりしていた...
「うちの故郷は、年々人口が減ってましてね。そのうち帰っても誰も居なかったと言うことになるかもしれません」
「私の村は、何年も前にダムの底に沈みました。毎年、帰省した連中と一緒に、ダム湖を眺めながら過ごしていますよ」

「うちの所は、私が居た頃とは、すっかり様子が変わってしまいました。まるで、他の町にいるようで帰省しても落ち着きません」
「まあ、世の中、変わっていくものですからね」「これも時代の移り変わりというものでしょうな、きっと、ワハハハ…」

「あら、あなたは、初めての帰省なの?」「はい... 何もかもが嫌になって自分から飛び出した故郷ですけど・・・
それでも両親が待っているかと思うと… やっぱり帰った方がいいのかなって... でも、まだ少しだけ帰るのが怖いんですけどね…」
「大丈夫よ。他の人が何と言ったって、御両親は、きっとあなたの帰りを待ちわびているわ。喜んで迎えてくれるわよ」
「...だと、いいんですけど・・・」

そんな大人たちの会話を聞いていた僕に、「康明! 切符ちゃんと持っているんだろうな…?!」と父さんが振り返って言って来た。
「もちろんだよ。父さん!」――― 僕は、乗車券を入れた胸ポケットをそっと、何度も抑え確認した。。。

0901ジョン・スミス2023/02/28(火) 19:28:42.56ID:Hw0fdiqD
「ヘッドライト・テールライト」

ガラス張りの超高層本社ビルの最上階。窓の外を眺めていると、知らぬ間に横田が立っていた。
「なんだ、いつから居たんだ。全く気付かなかったよ」「入社以来のライバルが、
横に立っているのに気付かないようじゃ、お前も終わりだぞ! ワハハハ…」

「ああ、終わりだね」「どこに出向することになったんだ?」「静岡にある小さな自動車部品
工場に決まったよ。年収は今より30%減だが、65歳まで働けるそうだ。そこで15年、総務部長として
頑張ることになった」「業界四位の大手商社の部長まで行ったお前が町工場の総務部長さんか...
いや、お前は確か、フィリピン支店長までやっていたんだな、失敬した」

「これが証拠の勲章だ…」と左手をたくし上げて見せる。「現地の人を指揮して沼に落ちて蛇にやられた。
支店長ったって現場監督だった。ワハハ…」「俺は名古屋のバルブ専門会社の業務部長だ。年収は20%減だが、
定年は60歳、どうも俺とお前は、最後まで勝ち負けのはっきりしない競争を続けてしまったようだな、ハハハハハ…」

「俺の勝ちさ、この勲章の分だけ、俺の勝ちだ!」「馬鹿、そんな勲章がなんだ! 俺だって、此処に傷ぐらいある。
全部で六針も縫ったんだぞ!」と、ネクタイをほどいて、ワイシャツの襟を広げて見せる。
「あれ、なんだその傷は…?! お前、一度も外(海外)へ出なかったんじゃないのか?」

「出なかった出なかった分、仕事仕事で、家を空けていた。息子にやられたんだ。『お前なんか、父親じゃない!』ってな、
これも勲章だろ…」「ああ、間違いなく立派な勲章だ! 認めるよ。しかし、息子に憎まれるだけいいじゃないか…」
俺達は三十年近い間、同じ会社でお互いがライバルだった。「俺は、お前と、こんなに気を張らず、話が出来るなんて初めてだ」

「俺もだよ。ワハハハ…」「そうか、お前もそうか、ハハハハ…」「俺は会社を休むのが怖かった... 
自分だけ取り残されるんじゃないかと思っていた。だから我武者羅に働き続けた。お前だけには負けたくなかった。
お前に追いつき追い越せと走り続けて来た…」「俺もだ! お前に後れを取るのが怖かった」

お互いが出向する現地に就く途中の旅と称して、会社も家族も世間のことも、
全て忘れて温泉でも浸かりに行こうじゃないかと言う話がまとまったのは、
それから一か月後のことだった。

0902ジョン・スミス2023/03/01(水) 19:40:18.59ID:V3sukLUp
「終わり初物」

歳時記を紐解いていると、『初物』を大切にして、日本人は生活の中に
見慣れたもの、振舞いを新しい眼で再発見してきたことが分かる。

初日の出 初富士 初詣 初夢 初笑い 初売り 初釜 書き始め
出初め式 仕事始め 歌い始め・・・

又、野菜や果物で、多く出回る時期が過ぎてから成熟したものを初物と
同様に珍重して言う語に【終わり初物】と言う言葉がある。

「初物を食べると、75日、長生きできるよ!」と
去年、亡くなったおばあちゃんは、その季節の初物を食べる時には必ず言っていた。

そう言えば、昨年、久しぶりに友人の女性の家で、美味しそうに食べながら晩酌をしていると、
彼女が「これ初物よ…」と言った。聞くところによると、市場のオヤジが言うには一ヶ月遅れで、
今日、水揚げされた今年の初鰹だという。

同じ六月の中旬頃、田舎から届いたアスパラガス。お袋に電話すると、
「ごめんね。遅くなっちゃって!」って言ってた『終わり初物』だった。
丹精込めて育てたものは、最後までしっかりと収穫する。
最後まで美味しくいただいた。親に感謝…

―――実はこれを書いているのは、今年初めて迎える早朝の朝だった...
ベランダに出る。「おおぉ… 寒い!」今日は特別冷える。元旦の朝はとても静かだ。

道に面して建っている我が家。普段は窓を開ければ騒がしい音が聞こえて来る…
車は絶えず走っているし、ジョギングしている人や、早くから通勤するサラリーマン、
犬と散歩する人など五分も眺めていれば、沢山の人たちの朝の日常が垣間見れる。

それがコロナ禍になってから別世界のように変わった。車も人の姿も見えず、
生活音がまるでしない。そんな今年初めて迎える早朝の朝たった...
そんな特別な時間に身の引き締まる思いがしてくる。

街を彩るカラフルな[新春][迎春]の文字。でも、今にも雪が降りだしそうな寒空の下、
ピンと張り詰めた空気の中、近所の小さな神社の境内に向かう。

過ぎゆく季節 嘆くより
祝って送るために

0903ジョン・スミス2023/03/01(水) 19:59:31.23ID:V3sukLUp
>>902
9行目修正
晩酌をしていると、×
飲んでいると、〇

0904ジョン・スミス2023/03/02(木) 18:27:55.47ID:G3CiJAeJ
「India Goose」

私は世界で五番目に高い山、ヒマラヤのマカルーに挑む登山家として、山頂まであと少しの
所まで来て驚いたことがある。越冬の為にインドに渡るインドガンが頭上高く飛ぶ光景を
目にしたからだ。この鳥は高度9000m、実に民間航空機と、ほぼ同じ高さを飛ぶ…

このアジアに生息するガンの一種、インドガンは世界で最も高く飛ぶ鳥だと思う。
渡り鳥の期間はおよそ二か月。移動距離最大8000キロ。二か月間に何度も休憩するが、
ヒマラヤ越えは夜間から早朝にかけて一気に飛び越える。平均8時間で向こう側に到達する。

しかも、追い風や上昇気流の助けを利用せず、自力で自分の筋力だけでそれほど、
風が吹かない夜に飛び立ち山を越える… 何でまた態々そんな超高所、難所を追い風に
乗ることもなく、滑空もせず、逆風であっても常に羽ばたき続け、そんな過酷な条件下で
自力で越えて行こうとするのか、インドガンに不思議と興味を持ち始めていた。。。

そんな山岳登山家として、私は企業や大学の支援を受けて挑んでいた。
それに並行して講演活動なども、忙しく駆け回っていた。そんな矢先だった... 。
妻が、まだ母親が恋しい幼い子供達を残して、原因不明の突然死で他界してしまった。

妻が他界して半年が経った頃、当時6歳の娘と3歳の息子がいた。電車に乗っていると、
息子が、「ママ、ママ…」と女の人の服を掴んで、その女性の友達が、「あんたに言っているよ。この子」
それを聞いていたお姉ちゃんが、「まぁちゃん、ママじゃないよ! ママはもう、居ないんだよ!」

「だってママ…」「ちがうよ! まぁちゃん、ママはね、お空に行っちゃったんだよ!」「だって… ママ...」
妻が居なくなったことを、まだ理解できないでいる幼い息子。私は、そんな幼い子供たちにどう接してやれば
良いのか父親としての不甲斐なさに悩まされていた。実際の私も、妻の面影を追う毎日であった...
家に帰宅しても、寂しさが家中を包み込んでいるようだった...。

そんな折、私は仕事の都合上、又、再びというか、度々家を空けることが多くなり、
実家の母に暫く来てもらうことになった。

出張中、何度も自宅へ電話をかけ、子供たちの声を聞いた。二人を安心させるつもりだったが、
心安らぐのは私の方だった気がする。そんな矢先、息子の通っている幼稚園の運動会があった。

『ママと踊ろう』だったか、そんなタイトルのプログラムがあり、園児と母親が手を繋ぎ、
輪になって、お遊戯するような内容だった。こんな時に、そんなプログラムを組むなんて・・・
と思っていた時、「まぁちゃん、行くよ!」 " 娘だった! " 息子も笑顔で娘の手を取り、
二人は楽しそうに走って行った。

一瞬、私は訳が分からずに呆然としていた。隣に座っていた母がこう言った。
あなたが、この間、九州に行っていた時に、正樹はいつものように泣いて
お姉ちゃんを困らせていたのね。

そしたら、お姉ちゃんは正樹に、
「ママはもういなくなっちゃったけと、お姉ちゃんがいるでしょ?

本当は、パパだって、とてもさみしいのよ。だけど、パパは、
泣いたりしないでしょ? それはね、パパが男の子だからなんだよ!

まぁちゃん、男の子だよね。 だから、だいじょうぶだよね?
お姉ちゃんが、パパと、まぁちゃんのママになるからね!」そう言ったのよ。

・・・なんということだ。。。 6歳の娘が、ちゃんと私の代わりに、この家を守ろうとしている
ではないか...と、思うと目頭に熱いものが込み上げてくるではないか ・・・

0905ジョン・スミス2023/03/03(金) 18:28:54.33ID:nIIYE4mJ
「離郷の歌」

私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院したので、
暫くママと離れてママの実家の父母の家に預けられることになりました。

「ママが、びょうきだから、おとまりさせてね!」と、たどたどしい言葉ながらも、
小さな身体に着替えを入れたリュックを担ぎ、我が家にやって来たのです。

夜寝る時は、「きょうは、じいじとねる」「きょうは、ばあばとねる」と
楽しそうに寝る相手を選んでいました。昼間は時々、「ママは、びょうきなおったかなぁ〜」
と言うので、「寂しいの?」と聞くと、「ううん、だいじょうぶ!」と、いつも元気よく
話してくれます。子供ながらに周りに気を遣っているのかなと家族で話していました。

♪おかあさん なあに おかあさんて いい におい 
せんたく していた においでしょ しゃぼんの あわの においでしょ 

私が教えた「おかあさん」と言う童謡をおもちゃと遊びながら、いつも楽しそうに歌っていました。

甥っ子が来てから半年後に母である妹が亡くなくなった...
甥っ子は、「ママに、あいたい!」「ママ、かえってこないの?」と毎日泣いていた...
そんな幼い心を痛めている姿が、可哀想で見るに堪えられなかった...

―――そんな甥っ子が、先週あたりからぱったりと泣かなくなった。
近くの海に行った時、波打ち際を走り回り、波を蹴散らし燥いでいたと思ったら、

ちっちゃく可愛いらしい指先を使い、しゃがんで妙に神妙な面持ちで波打ち際の水面に向かい
何やら一生懸命何かを描いているように見えた。

「何やってるの?」と聞いたら、甥っ子は、「『ママ、ありがとう』って、かいたんだ!
4さいになったからね。もう、なかないよ! ばあばとやくそくしたんだ!」と頬を紅潮させて、
いつものように、たどたどしい言葉ながらも真剣な面持ちで私に打ち明けてくれた。

そして真夏の大空と大海原に向かって、
      「ママーっ! いつでも、かえってきてねぇーーー !!」と叫んでいた。

0906ジョン・スミス2023/03/03(金) 19:33:15.55ID:nIIYE4mJ
一部のファンだと思うが、工藤静香さんを叩くファンが居ることに失望する。

0907ジョン・スミス2023/03/03(金) 19:53:02.63ID:nIIYE4mJ
そんなこと言う僕自身も聖人君子でもないし、完璧な大人でもないし、人格者でもない。
生きていること自体が色んな意味での学びだと思っている。自分なんか、まだひょっこだと
思って生きることが大切なのかも知れない。

0908ジョン・スミス2023/03/04(土) 18:49:15.10ID:Yq33E1iL
「トーキョー迷子」

正面のガラス張りのエレベーターから見渡せるショッピングモールの
吹き抜けホール。私はエレベーターを降りながら、目の前のフロアに視線を走らせた。
休日なので、いつもに増してカップルや家族連れが多いショッピングモール。

目の前では、ベンチに座る背の低い老夫婦が、身を寄せ合い楽しそうにイチャついている。
年取ってからも、あんな関係でいられるのは羨ましい!

‐ あの子、もうかれこれ30分近く独りでいるんだけど、大丈夫かな? ‐
私はあれから近くの雑貨店を巡った後、本屋さん物色していた。
手に持っていた文庫本から視線を逸らし、先ほどから何度も見かける子供を注意深く見ていた。
可愛い耳付きの黄色いフードのダウンを着た色素の薄い茶色の髪は人工的に染められたものではなく、

地毛だと分かる自然な色。ふっくらとした子供らしい曲線を描く頬は薄っすらピンクに染まっている。
近くで見たわけではないので、顔はわからないが、少なくとも身長から判断するに、こんなところに
独りで来れる年齢ではないことは確かだった。

お気に入りの雑貨店と紅茶専門店を巡る。今日はいつものように茶葉を購入し、
何度も手にとっては棚に戻したマグカップ。欲しいけど、衝動買いはしたくないと
我慢。その後、何か面白い本はないかと立ち寄った本屋さん。
物色していれば、チラチラと目に入ってくる幼い影…  ‐ 迷子かな? ‐

キョロキョロと周りを見渡しながら、歩く幼い子供の周囲に視線を走らせたが、
親らしき人は見当たらない。レジに視線を向けても店員は迷子の可能性のある子供に
注意を払っていなそうだった。再度、子供に視線を向ける…
‐ ん〜。 転びそうで、怖いなぁ〜 ‐ 足元がおぼつかない… 今にも人にぶつかって転びそうだった。

私は子供に近寄って、「ボク、どうしたの?」キョロキョロ辺りを見渡していたお目目クリクリの
目でこっちを見つめる。「ボク、おうちの人、逸れちゃったのかな?」「… 」
「この本屋さんで、逸れちゃったの?」「… 」幼い子供は、私の質問に無言で頷いて答える。

「ん〜、そうかぁ… じゃあ、お姉さんと一緒に、本屋さんをぐるっと回って、おうちの人、探してみようか」
「...んっ!」一生懸命、返事をしようとしてくれているのだろう… 今度は、頷きと共に
声が聞こえて来たことに私は嬉しくなった。

そんな時、「あっ! パパ!!」焦躁と安堵が入り混じった表情で駆け寄ってきた男性が子供を抱き上げた。
「ごめんなー! パパね。お仕事の電話がかかって来て、直ぐに切れなくて話が長引いて、
見たら近くに居なくて、探し回ったんだよ。いゃあ、見つかって良かった良かった…」

私を見て、「すみません! ご迷惑をおかけしました。いゃあ、本当に申し訳ございません!
緊急の仕事の電話がありまして…」
「お休みなのに、お仕事の電話なんて大変ですね。良かったね! ボク、パパ見つかって」
坊やは紅潮した顔で、「うんっ!」

「いゃあ、本当にありがとうございました!」お父さんに何度も何度も頭を下げられて
お礼の言葉まで言われてしまうと、「私、何もしてないんですよ。そんなに頭を下げられても
困ります」と言って父親に会釈をし、私は手を振ってその場を後にした。

考えてみれば、私も歳を重ねただけであって、私のこれまでの人生も、幼いあの子と同じだ。
今までの恋、恋愛に翻弄され続けた人生を考えると、そう、恋と恋愛に翻弄され続けた
迷子だったのかもしれないと思った。

0909ジョン・スミス2023/03/04(土) 21:17:39.51ID:Yq33E1iL
>>908
22行目
ボク、おうちの人、×
ボク、おうちの人と、〇

0910ジョン・スミス2023/03/05(日) 08:58:38.39ID:7+uuTvxf
>>908
末尾訂正
恋と恋愛に翻弄された
迷子になっていたのかもしれないと思った。

0911ジョン・スミス2023/03/05(日) 19:15:58.07ID:7+uuTvxf
「ばいばいどくおぶざべい」

雑居ビルの薄暗い地下にあり、壁には古びたポスターやステッカーが
大量に貼ってある昔ながらの老舗のライブハウスに来ていた。

中は煙草の煙の匂いで薄暗い… そんな昔ながらのイメージのライブハウスは
年々減り、分煙や禁煙が進んでいるところが多くなっている。

最近はキャパ1000人規模のライブハウスや都会のオシャレな空間的
ライブハウスなど従来のイメージを大きく変えるようなところも増えてきて
ライブハウスの雰囲気はそれらの場所や又、イベントによって
雰囲気は大きく違ってくる。

此処の老舗のライブハウスも、ビルの建て替えと言うことで来年閉店することになった。
思い出の場所がなくなるのは、寂しいと多くのファンが駆けつけていた...

私が行った時は、ちょうどタテノリバンドの演奏が終わり、次のステージの準備中だった。
ーーーーーーーーー 準備は整ったようだ ーーーーーーーーー

――― ステージが始まった ―――
" Dock of the Bay " だった。 それも三人組のオヤジバンドだ。
隣の彼らのファンが言うには、ギターを弾く彼が続けていけなくなったことと、
ボーカルが昔のように声が出なくなったこともあり、一旦、今日で解散することになったという。

「ギターの彼の左手が、もう駄目なんだたってさ… イカれちまったんだってさ... 
ボーカルも昔のように声も出なくなったこともあり、辞めるんだってさ… 
もう彼らの歌が聴けないなんて、寂しいよ…」と隣に座る男が寂しそうに呟く…

そんな事情があって、今日で解散することになったというオヤジバンド。
今夜、そんな彼らオヤジバンドの見納めの最後のステージに偶然、出くわしたというわけだ。

ブルースバンドによるブルース風のドッグ・オブ・ザ・ベイ。
ドスの効いた! しわがれた渋い声がブルースアレンジとマッチしていて
いい味を醸し出していた。2曲目はBob DylanのLike a Rolling Stone .........

気のせいなのか、分からないが、心なしか...  泣いているようにも聴こえた.........
どことなく哀愁が漂うドスの効いたしわがれた低く渋い声の響き...

ギター奏者の左手「イカれちまったんだってさ… 」
「ボーカルの声も昔のように出なくなった」と言う
そんな話を聞いていたので、ギターとボーカルのオヤジの表情を見ているだけで
グッとくるものがあった。

ーーー そんなオヤジバンドの最後の舞台 ーーーーーーーーー
大変いいものを聴かせてもらったよ...  ありがとうと心の中で叫んでいた ………

     .........そして最後のステージは終わった...

0912ジョン・スミス2023/03/05(日) 20:11:15.99ID:7+uuTvxf
>>911
17行目
もう駄目なんだたってさ×
もう駄目なんだってさ〇

0913ジョン・スミス2023/03/06(月) 18:38:25.38ID:Vdwh7afM
「夢見る勇気(ちから)」

彼と喧嘩した... 「バカ野郎!」切っ掛けは、ほんの些細なことだった。
私は一人、公園のベンチに座りながら老人たちが談笑しながら
ゲートボールを楽しんでいるのを見ていた...

空を見上げ、眺める… 空に次々とあいつのことを思い出しては腹が立つ…
悔しいけど、本当にそこまで惚れているのかな... あの野郎とはいつも口喧嘩になる。
なかなか素直になれない自分が居る。あいつは言う。「お前は男勝りで、俺の手には負えないよ…」
と言うあいつに、肘打ちを突き放ち去って来た。

ーーーーーーーーー 空を見上げ溜息をついていた...
そんな時、「どうしたんじゃい... お嬢ちゃん?」老人特有の寂声が響く...
私は空に向けていた視線をその声の主の方に向け無言で会釈した。

「話したくなければ、別に話さんでもいいよ…」と語り
いつの間にか私の隣に、小柄なおばあちゃんが座っていた。

「ちょっと、彼と喧嘩して...」「ふむ、若い頃は、よくあることじゃな、ワシもあったわ」
おばあちゃんは、懐かしむような優しい笑顔を浮かべながら語った。

「どうしても素直になれないんです... 好きなのに… 言葉にして伝えられないんですよ。
言葉にしなくても伝わると思っていて、それがいつの間にか当たり前になっちゃって…」
気付いたら不思議とすべてを話していた。おばあちゃんの持つ優しい雰囲気のおかげなのだろうか...

「ワシは何も学がないから、大したことは言えんけど、確かに、言葉にしなくても伝わっているかもしれんなぁ〜 
しかしなぁ〜、言葉にするだけで、何かと、色々と変わるもんなんじゃよ」
「私、男勝りで、いつも彼と大喧嘩になる...」

「大抵の男は気の強い女を敬遠する。たまには男を立てて、甘えてみてはどうじゃ…
とにかく素直で愛嬌があれば十分じゃよ」おばあちゃんはそこまで言うと、
仲間に呼ばれたみたいで、「よっこいしょ」とゆっくり立ち上がって

「何も悩む必要はないさ、とにかく素直で愛嬌があれば、それで十分じゃよ」

レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。