>>106続き
何が起こっているのか

 なぜザトウクジラはこのような行動をとるのだろうか。生物学的にもっとも合理的な説明は、ザトウクジラがシャチの狩りを妨害することで何らかのメリットを得ているというものだ。

 シャチはザトウクジラも攻撃することがわかっている。しかし、幼いクジラは狙われやすいが、成長してしまえば、1頭でシャチの群れ全体を相手にできるほど大きくなる。

 つまり、ザトウクジラの「レスキュー」行動は、この種がもっとも弱い段階を生きぬくのを助ける方法として進化してきた可能性が考えられる。

 攻撃されていた子クジラがレスキューにやってきたクジラと関わりがあった可能性も十分考えられる。
「ザトウクジラの子供は母親の餌場や繁殖地に帰ってくることが多いため、その海域に暮らすザトウクジラは、ほかに比べて近隣のクジラと関わりがある確率が高いのです」。
そう話すのは、この研究を率いたロバート・ピットマン氏だ。氏は米海洋大気局の海洋生態学者で、ナショナル ジオグラフィック協会の支援も受けている。

 しかし、この説明には不十分な点もある。ここ50年間以上にわたって科学者が調査してきた全事象のうち、シャチがザトウクジラを狙ったのは全体のわずか11パーセントだ。
残りの89パーセントでは、シャチはアザラシ、アシカ、ネズミイルカなど、他の海洋哺乳類を攻撃していた。