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ガボール ガボラトリー 雑談23マリガボの偽物ビジネスの世界へようこそ。
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0001この頃流行の名無しの子垢版2021/02/09(火) 23:25:10.42ID:b5xref32
テンプレは2から
0002この頃流行の名無しの子垢版2021/02/09(火) 23:54:14.14ID:MDIvq2wR
テンプレ

マリガボ詐欺事件の場合は、ほぼ全員が返金してもらえるはず。

通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点が有る場合は返金してもらえる。

マリガボがピーマincと知っていたら買わなかった場合。

マリガボがホールとかデフブリから仕入れてる事を知っていたら買わなかった場合。

カエルとか有ったんですよシリーズが成田企画だと知っていたら買わなかった場合。

反逆マルカンの生前が偽生前だった場合。

マリアさんの金庫から出て来た話が嘘だった場合。

マリガボ詐欺事件の場合は通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点満開だから
必ず返金してもらえる。

ギャランティはマリアピーターが作ってサインしてると案内してるが、それがウソでギャランティ偽造だった場合(コピー)
0004この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 07:15:11.09ID:T99nXRO5
マリガボ、マリアさんのサインがコピーのギャランティ。成田情報ですよ
https://www.instagram.com/p/CI161uZD43B/
マリガボとウォータームーンの契約は書類でなく口頭契約だった。
https://www.instagram.com/p/CIiCF3cjrS8/
マリガボの黒のカードの数字は佐野で渡辺さんが打ってた
https://www.instagram.com/p/CIpZFGcjG4L/
国産ギャンティとマリアさんのサインはコピー
https://www.instagram.com/p/CIzpkDqjk5p/
前スレ、ガボール ガボラトリー 雑談19マリガボの偽物ビジネスの世界へようこそ。
https://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/trend/1601197442/l50
小さい型抜きロングループ後頭部出っ張り過ぎスカルより小さい型抜きの型抜き超ロングループ後頭部出っ張り過ぎスカルも有ったんです。
永久保存版ロングループ後頭部出っ張り過ぎパチスカルの歴史
https://www.instagram.com/tv/CHMQ76MDVW7/
最初マリガボは0.4mm小さい型抜きブルドッグを作った。
そして、型抜きブルドッグにスパイクを付けて又型抜きしをたからスパイクブルドッグは0.8mm小さいんだ。
永久保存版マリガボの歴代パチブルの歴史
https://www.instagram.com/tv/CHO0u2qjptr/
マリガボ現物での比較。ここまでカスタムやら出来る信用を得てると思ったが。これがマリガボ
https://www.instagram.com/tv/CGvn17ojJx2/
マリガボにWCカスタム変更出したら、すり替えられてました。当時、生前のリペアを出すとマリガボにすり替えは聞いてましたが、現行ですらすり替えるのか
https://www.instagram.com/tv/CGvXuX7D0j2/
初期マリガボから、スカルウィズダガーのスカルが小さく、2007年からスカルが小さくなり帳尻が合うようになった。鉄仮面は初期マリからの発想か?
https://www.instagram.com/tv/CG04FbejZIU/
ピーマINCはいらない。個人情報を教えた渡辺さんも信じれない。ほぼ全アイテムの返金要求
https://www.instagram.com/tv/CFOVpJDDmg3/
弁護士の先生FBに成田さん主張内容証明の説明を送りました。弁護士事務所には写真等、添付出来なかったので後日送ります。成田さんから催促やら来てません
https://www.instagram.com/tv/CFfhlmfD2si/
あったんですよシリーズ」が他にもありました。トランクショウの為に新しく作った物な説明文
https://www.instagram.com/tv/CFnM_lvjtJ7/
パチ生前フェイスリング事件の被害者フェイス君の証言 その1
https://www.youtube.com/watch?v=YggdJ8kLaKo
ビル流れの仕掛け人は渡辺さん疑惑。ビル流れを売っていた事は確実
https://www.instagram.com/p/CEvqtq9jA-m/
規格が違うレイズド初狩りリング
https://www.instagram.com/p/CDPFrcXJ09n/
マリガボ渡辺さんがホールに無料スタンプカスタムオーダーしてる証拠をお客さんに見せた
https://www.instagram.com/p/CEEiCWNj4Hu/
規格が違うレイズド初狩りリング
https://www.instagram.com/p/CDPFrcXJ09n/
鍋ラトリーだったんですよ!

ガボール ガボラトリー 雑談21 マリガポの偽物ビジネスの世界へようこそ。
https://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/trend/1608337478/
0005この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 07:15:43.45ID:T99nXRO5
鍋ラトリーだったんですよ!
https://www.instagram.com/p/B-6vVULD-HD/
マリガボの悪事を知ったお客さんの意見
https://www.instagram.com/tv/CEHE2nUjgLE/?hl=ja
裏成田マリガボパチ屋とヤフオクパチ屋総卸元石川とアンリミマリガボパチ屋
https://www.instagram.com/tv/CD6BeY9DtPq/?hl=ja
偽物判定の偽生前女フェイスをアンリミさんが売っています。マリガボはピーマインクだと証拠も見せたのに。
https://www.instagram.com/tv/CDycTYzjKx6/?hl=ja
クロノさんがパチ判定されたマスタースカルを売っています
https://www.instagram.com/tv/CDv4X1ijaWF/?hl=ja
アン肝さんが偽生前バイクチェーンを86万でマリガボッタクリ
https://www.instagram.com/tv/CDbWpECjQRm/?hl=ja
裏マリガボ作の偽生前ガボール私物バックルとヤフオク偽鉄仮面スカル
https://www.instagram.com/tv/CDOIeinDQ5m/?hl=ja
関西の方も驚いたマリガボ不正の証拠と初ガボールがボロボロでガックリしたお話
https://www.instagram.com/tv/CDF1ot6DnCp/?hl=ja
マリガボ、カエルブレスレット無事返金なりました
https://www.instagram.com/tv/CC7jsNDjH4W/
渡辺さんが認め裏マリガボさんも認めたホールからの仕入れの証拠をアンリミさんはガン無視でした
https://www.instagram.com/tv/CCxcx7BDsKg/?hl=ja
マリガボの偽生前けずり加工の特長
https://www.instagram.com/tv/CCpqqoWD0Nl/?hl=ja
偽物判定の女フェイスが返金される。同時にメモリアルクロスとアリゲーターも返金。
https://www.instagram.com/tv/CCk_156DMm9/?hl=ja
パチカエルとパチアリゲーターに共通する作者
https://www.instagram.com/tv/CCiVCAwDuHA/?hl=ja
カエルブレスレット真贋判定!偽物判定でわかるマリガボ巨大犯罪組織
https://www.instagram.com/tv/CCiTG5OD8om/?hl=ja
カエルブレスレット鑑定!偽物判定でわかるマリガボ巨大犯罪ビジネス
https://www.instagram.com/tv/CCiSiL3DUEs/?hl=ja
女フェイス、真贋鑑定により偽物判定!
https://www.instagram.com/tv/CCf5c3pjBqs/?hl=ja
渡辺さんの闇オーダーと大阪クロノさんのビル流れバトルアックス
https://www.instagram.com/tv/CCGHFFzjGNM/?hl=ja
あん肝さんもマリガボパチ詐欺の確信犯だと思います
https://www.instagram.com/tv/CCC4ya4DuMd/?hl=ja
裏マリガボさんがホールを辞めた理由と渡辺さんがホールに残した未収金
https://www.instagram.com/tv/CB-pTlbjxdR/?hl=ja
マリガボの闇暴露に応援メッセージと有ったんですよシリーズの接客トーク
https://www.instagram.com/tv/CBpOeVZj8Fc/?hl=ja
0006この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:27:46.60ID:vEu6Z4eL
船長「姫と祝言をあげるんだとよ……で」

船長「ドレスと花を頼まれた訳だ……城まで届けろ、とな」

 婦「……大丈夫、なのですか」

船長「過激派共を一掃した後に届ければ良いそうだ……随分時間はあるさ」

船長「その間に良い場所を見つければ、そこで下ろしてやるよ、 婦」

船長「受け入れてくれる教会も見つかるだろう」

盗賊「……それ、お前生きてるか船長」

船長「阿呆!俺はそんな歳じゃネェや!」

盗賊「……そっか。じゃあ……本当に夫婦になるのか」

船長「どうだかな……」

 婦「お腹に、子供が……と言っていらっしゃいましたが?」

船長「ありゃ、少年の……魔王の子じゃネェ。だが……」

盗賊「……あいつなら、ちゃんと姉ちゃんと子供を守ってくれるよ」

 婦「そう……ですね」

船長「良し……出港だ!野郎共、帆を上げろ!」



アイアイサー!



盗賊「ああああ、ちょっと待て、俺を下ろしてからだろ!?」

盗賊「じゃあな、船長!待ってるぜ!」バタバタバタ

 婦「まずは……何処へ?」

船長「そうだな、人手の確保と……ああ、否」

船長「まずは他の海賊共に声をかけねぇとな……良し」
0007この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:28:08.50ID:fqJdGTcG
船長「ここから少し行った所に、鍛冶師共が集まる集落がある」

船長「田舎だが……故に職にあぶれてる奴も多いはずだ」

船長「小さな港もあるし、そこに向かうか」

 婦「海賊さんとは……何処で?」

船長「あそこの地酒は旨いんだ……ついでに輸出の話持ちかけりゃ」

船長「良い稼ぎになるかもしれん……それに」

船長「その酒目当てに集まる奴らも多いのさ」

 婦「へえ……」

船長「 婦よ、お前さん、酒は行ける口か?」

 婦「どうでしょう……飲んだことが無いので」

船長「そりゃ人生損してるぜ……一度飲んでみると良い」

船長「金が出来れば船も作れる……はは!楽しくなってきたな!」

 婦「ふふ……」

船長「野郎共!目的地は鍛冶師の村だ!」



アイアイサー!
0008この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:28:32.76ID:xvxtCbMf
……

………

…………



シュウン……



側近「ん? ……うわあああああああ!」

魔王「悲鳴で出迎えとは……驚きだな」

姫「ここが……魔王城? ……随分、埃っぽいわね」

少女「凄い……本の山が天井まで……」

側近「……いきなり二人の女を抱えて現れる方が驚くわ、普通」

魔王「何でお前、書庫にいるんだ?」

側近「調べものしてたからだよ……てか、お前!」

側近「帰ってくるなら知らせろよ!」

魔王「ああ、すまん。忘れてた……そんな事より」

側近「そんな事て」

魔王「……人を魔にするにはどうすれば良い?」
0009この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:28:52.55ID:J7w3GKx+
側近「いきなり本題だな」

魔王「可能ならば早く済ます方が良いだろう……まだ問題は山程残ってるんだ」

側近「そりゃそうだが……ん」

魔王「どうした?」

側近「……随分顔色が悪い」

姫「……」

魔王「姫……?どうした」

姫「……息が、苦し……」

側近「……例のエルフか?」

魔王「ああ……そうか、魔の気か!」

少女「……横にさせた方が良さそうです」

少女「それに、これだけカビっぽいのは……」

魔王「そ、そうか……側近」

側近「お前の部屋連れてけ。ジジィ呼んでくるから!」バタバタ

姫「……ぅ」

少女「魔王様、早く!」

魔王「あ、ああ……」
0010この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:29:13.64ID:rAv2LQli
……

………

…………



魔王「……随分、体が熱い」

少女「熱があるんです……多分、魔の気に負けまいとしてるんでしょうが」

魔王「お前は平気なのか?」

少女「私はエルフじゃありません……ただの人間です」

魔王「……感じる力、か」

少女「人よりも敏感なのでしょうね」



コンコン



側近「ジジィ連れて来たぞ」

ジジィ「全く、魔王様はまたどんな訳のわからない物を拾って来たかと思えば」

ジジィ「エルフとはのう……どれ」

少女「……この方、は?」

魔王「穏健派の最年長者だ……耄碌ジジィは名前も忘れたらしくてな」

ジジィ「偉そうに言うわい……魔王様が赤ん坊の頃からしっとるんですぞ?」

側近「名前忘れたのは事実だろうが……それより、お姫さんはどうだ?」
0011この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:29:52.27ID:MpIx3mB5
ジジィ「うぅむ……熱いな」

魔王「姫は……エルフの長の娘なんだそうだ」

側近「……腹に子もいるんだろう」

ジジィ「大した女を選んだのう……魔王様も変わり者じゃて」

魔王「私の子では無いわ!」

ジジィ「なんじゃ、違うのか……ますます変わっておるのう」

魔王「その辺は後でゆっくり説明してやるから」

魔王「先に……とにかくどうにかしてやってくれ」

少女「魔王様」

魔王「ん?」

少女「書庫に戻っても良いでしょうか?」

魔王「あ、ああ……そりゃ構わんが」

少女「何か……知恵が無いか、探してきます」

側近「俺も行こう……一人にさせるのはちと不安だし」

ジジィ「否、側近はここにいなされ……お前さん、治癒魔法使えるじゃろ」

魔王「ん……しかし」

ジジィ「その少女には魔王様がついて行ってやれば良い……というか」

ジジィ「寧ろ、出て行っておくれ?」

魔王「……随分な言われ様なんだが」

ジジィ「この娘、魔の気にやられておるなら」

ジジィ「魔王様が傍に居ない方がマシになるかもしれん」

少女「一人より二人の方が、はかどります。魔王様……」

魔王「……解った」スタスタ



パタン
0012この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:30:25.12ID:2uWl1D6y
ジジィ「あの少女は治癒魔法は使えんのか」

側近「何だよ、俺じゃ役不足って言いたいのか」パァア……

ジジィ「そうじゃないわい……だが、お前さんも元人間とは言え」

ジジィ「今じゃ立派な魔族じゃろうて」

側近「まあ、そうだけど……んん、ちょっと呼吸、マシになったか?」

ジジィ「気休めじゃな……何かを病んでいるとかでは無いからのう」

側近「……なんか方法ないのか?」

ジジィ「簡単に言うでないわ……前代未聞じゃて、こんなもの」

側近「エルフの長ってのは……普通のエルフよりも」

側近「感じる力、とやらが優れているそうだ」

ジジィ「一番の特効薬はここを離れる事であろうが」

側近「……まあ、な」

ジジィ「それでは魔王様がこのエルフを連れ帰った意味が無いのじゃろう」

ジジィ「さて……何か良い策が見つかれば良いがの」

側近「大丈夫なのか?これ……」

ジジィ「今すぐどうこうは無いじゃろう、が……」

ジジィ「このエルフの娘の身体を蝕んでいく事に間違いは無いのう」

ジジィ「子を宿しているのならば、さらに……心配じゃな」

側近「ふむ……」

ジジィ「さて、儂らに出来る事と言えば、ここで娘を眺めている位じゃ」

ジジィ「その間に……説明して貰おうかの」

側近「……魔王様に後で聞けば良いだろ」

ジジィ「耄碌ジジィじゃで……忘れぬ内に聞いておかねばの?」

側近「……好奇心で目輝かして言うんじゃねぇよ」
0013この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:30:57.04ID:NZqtXToo
……

………

…………



魔王「何かあったか?」

少女「いえ……それより、ちょっと整理してください、魔王様」

少女「本の種類がばらばらです」

魔王「……覚えてたら」

少女「側近様は……治癒魔法が使えるのですか」

魔王「あいつは……元人間らしいからな」

少女「……前例、ですね」

魔王「ああ……お前の件を後回しにしてすまんな」

少女「いえ……あ!」

魔王「何かあったか?」

少女「……あの」

魔王「何だ?」

少女「……魔石は、如何でしょうか」

魔王「魔石?」

少女「はい。癒やしの力の魔石を、姫様のお側に置けば」

少女「……マシに、なりませんか」

魔王「成る程……しかし……」

少女「私は……治癒魔法は使えませんが……」

魔王「お前は緑……大地の加護を受けていたな」

少女「?はい……」

魔王「それで、少しはマシにならんだろうか」

魔王「……幸い、お前はまだ人間だ」

少女「やってみましょう……ですが」

魔王「何だ?」

少女「方法が……解りません」
0014この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:31:23.04ID:xYwyhIUu
魔王「……私が教える」

少女「はい……!」

魔王「すまん……少女」

少女「いいえ。魔王様は……私の主様ですから」

魔王「……ありがとう。ではまず、イメージするんだ。力を石に変じる様に……」

少女「はい……ッ風、よ……ッ!」ザァアア……

魔王「うん。コントロールは難しいかもしれんが……お?」

少女「……石に。石……ッ」コロン

魔王「流石だな……一発で成功するとは」

少女「……これが、魔石。風よ……!」コロン、コロン

魔王「……凄いな」

少女「お役に立つ為ならば……願えば、叶うのでしょう?」

少女「魔王様が、教えてくれた事です」コロン

魔王「……うん。そうだったな」

魔王「それぐらいで良い……無理はするな」

少女「……は、い……」ハァ

魔王「一度戻るか……これで、楽になってくれると良いが」



……

………

…………



側近「……て、訳だ」

ジジィ「成る程のぅ……魔導将軍も哀れじゃな」

側近「ただの阿呆だ。魔王様に反旗翻そうなんざ……自業自得だ」
0015この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:32:47.76ID:xYwyhIUu
コンコン



側近「ん?戻ったか……」

ジジィ「待て……魔王様ならば態々ノック等せんじゃろう……誰じゃ」



使い魔「……側近様、狼将軍がお目通りを願っておられますが」



側近「チ、聞きつけたか……」

ジジィ「ほう、で狼将軍は何処に?」



使い魔「控えの間にお待ち頂いております、が……」



ジジィ「気の短いあの女が大人しく待っておるとも思えんの……儂が行こう」

側近「すまん、ジジィ」

ジジィ「何、耄碌じじいが役に立つのはこのぐらいじゃて」



カチャ……パタン



側近「やばいな……早く戻れよ、魔王」



バタバタバタ……!



側近「ん?」



バターン!



魔王「側近、姫は!?」

少女「ま、魔王様、そんなに走られては……!」ハァハァ

側近「……お行儀悪いなお前は本当に」

魔王「こんな時にそんなこと……ん、ジジィは?」
0016この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:33:07.19ID:QzOjMk3K
少女「お話は後です! ……姫様、これを」コロン、コロン

少女「胸元に……」

姫「……ん、ぅう…… ……」スゥ

魔王「呼吸が楽になった……な」フゥ

側近「これが……魔石か」

魔王「ああ……少女はまだ人間だからな」

側近「緑……大地の加護か。成る程、考えたな……しかし」

魔王「気休めなのは解ってるが……」

少女「お側に居て、必要になれば作ります……ですが」

少女「癒やしの魔石の方が、効果はあると思いますが」

魔王「ふむ……港街に行って買い付けてくるか。私ならば一瞬だ」

側近「残念だが……お前に城を離れて貰っては、困る」

魔王「何?」

側近「……狼将軍が控えの間に来たそうだ。今、ジジィが対応してるが」

魔王「もう嗅ぎ付けたか……早いな」

側近「魔導将軍の事か、お前が姫を連れ込んだことか……まだ解らんがな」

魔王「ふむ……そうか」

側近「こらこらこらこら!ストップストップ!どこ行くの!?」

魔王「ん、来てるのだろう?」

側近「ジジィに任せとけ! ……お前が出て行ったらややこしい!」
0017この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:33:33.16ID:IaYONJ3Q
魔王「しかし……」

側近「そりゃな、転移なんて出来るのお前ぐらいだが」

側近「こんな事が続けば、流石に不在はまずいって」

少女「……側近様に行って貰えばよろしいのでは?」

側近「え?俺? ……あっさり言うけど、俺は転移なんて出来ネェぞ?」

少女「いえ、魔王様のお力で……側近様を転移させる事はできないのですか?」

魔王「……ふむ。成る程な。考えたことは無かったが」

側近「……俺、飛ばされるの?」

魔王「そうか。お前私の目も持っているな」

少女「目……?」

魔王「良し……じゃあ、行け側近」

側近「いきなり!?」

魔王「港街は目を通して見ただろう? ……では」

側近「待て待て待て!」

魔王「何だ、怖いのか?」

側近「違うわあああああああ!帰り!帰りどうすんだよ!」

魔王「あ」

少女「あ……」

側近「ちょっと……少女ちゃんまで……」

魔王「普通に帰ってこさせるとなると時間が掛かるな……」

少女「魔王様のお力も、魔石化できるのですよね?」

魔王「あ?ああ……まあ」

少女「では、転移の魔法を魔石にしては如何でしょう」

側近「……そんな簡単にできるもんなの?」
0018この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:33:55.11ID:+LnwQ8Xi
少女「いくつか作って渡しておけば、色々な所に行って貰えますよ」

側近「さりげなくパシリにしようとしてないか、それ」

魔王「そうだな……良し」パァ……コロンコロンコロン

姫「ぅう……ッ」パリン、パリンッ

少女「あ……!姫様!」

少女「……風よ!」コロン、コロン

側近「……なんか、少女ちゃんまで規格外に見えてきた」

魔王「優秀だと言ってやれ……少女は人間だ」

少女「まだ人間、です……良し、これで……姫様、大丈夫ですか?」

側近「そこ、拘るね……転移石、ねぇ……」

魔王「それだけあれば行けるな……しかし……」チラ

少女「大丈夫です、まだ余力あります……」

少女「割れたらまた、作りますから」

側近「……どちらにしろ、お前一緒に居ない方が良いよ」

魔王「ああ……だが」

少女「別室でされるのは目立ちます……私は大丈夫ですから」

少女「ここで、側近様を転移させてください」

少女「……姫様、少しだけ……我慢してくださいね」

魔王「ジジィが戻ればすぐに、姫の部屋を用意させよう」

側近「はいはい……行ってきますよ」

魔王「港街には盗賊が居るはずだ……癒やしの石を買ってきてくれ」

魔王「数は多ければ多いほど良い……頼むぞ」

側近「ああ。何かあったらすぐ連絡しろよ」

魔王「解ってる……頼むぞ、側近」ス……パァッ



シュゥンッ
0019この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:34:17.96ID:hFbDDOKg
少女「風よ……!」コロン、コロン……

姫「……う、ぅ……」パリン…

魔王「大丈夫、か……?」

少女「……取りあえず、は」

魔王「私が着いている、とも言えんな……しかし、お前も顔が青い」

少女「流石に……そろそろ魔力が……」

魔王「落ち着いたらお前の部屋と食事も準備させる」

魔王「……すまん。本当に」

少女「自分で望んでしている事です。魔王様が謝る必要はありません」



カチャ



ジジィ「やれやれ、全くあの女は……おや、側近はどこに行った」

魔王「すまん、ジジィ……先に姫と少女の部屋を用意させたい」

ジジィ「ふむ……そうじゃな、魔王様の傍じゃ姫様の身体に触るの」

ジジィ「……少女の顔色も悪い様じゃ。それに、その石は……?」

魔王「好奇心旺盛なジジィだな全く。話は後!」

ジジィ「ほうほう、すまんのぅ……すぐに使い魔を呼ぼう」



……

………

…………



シュゥウン……ッ



盗賊「ん?」

側近「おわあああああああああああああ!」ドタ!

盗賊「うわあああああああああああああ!?」
0020この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:35:08.65ID:CTC2YkR1
側近「……」グタ

盗賊「な、な……ッ な、何だお前……ッ!?」

側近「う、ぅえ……何これ、気持ち悪ぅ……!」オエェ

盗賊「お、おい……ッお前、何者だ!」シャキン

側近「誰か知らんが、やめてくれ……切られたら痛いしよけれる気、しない、今……」

盗賊「……こ、答えろよ!」

側近「魔王様……阿呆ぅ……ッ くそ、乱暴な奴……!」

盗賊「ま……魔王?」

側近「うぅ……ああ、すまん。ここ港街だよな?」フラフラ

盗賊「……何で知ってるんだ」ス……

側近「盗賊ちゃんって子は……?あれ、お前……見た事ある顔だな」

盗賊「俺はお前なんか知らネェぞ!」

側近「あ。ピンクのドレス着てたろ……前。えっと……魔王に言われて」

側近「いや、飛ばされて? ……来たんだけど」

盗賊「な、なんでしってんだよ!?」

側近「見てたからな……ああ、だから!盗賊ちゃんってどこに居る?」

側近「……姫様の事で用事が……」

盗賊「!姫がどうかしたのか!?」

側近「や、だから、盗賊ちゃ……」

盗賊「盗賊は俺だよ! ……おい、姫どうしたんだよ!」ガシ

側近「く、苦しいから離して……話せねぇって!」
0021この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:35:29.53ID:ZpCeT8uy
盗賊「……あ、悪い」パッ

側近「げほ……ッ ま、まあすぐに会えて良かったぜ……」

側近「実はだな……」



……

………

…………



船長「よーし、そのまま……着岸しろ!」



アイアイサー!



 婦「随分……その、長閑な村ですね」

船長「良く言えばそうだな。悪く言えば糞田舎、だ」

船長「ま、魔導の街と比べりゃどこだって田舎だわな」

 婦「……申し訳ありません」

船長「阿呆。お前さんが謝ってどうするよ……良し、降りるぞ」

船長「俺は酒場に行くけど……どうする?」

 婦「あ……あの」

船長「不安だったら着いてこい」

 婦「……お供します」

船長「おう……って、あのさ」

 婦「はい?」
0022この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:35:52.59ID:97wTn6mS
船長「別にかしこまって喋る必要ねぇんだぜ?」

 婦「あ……はい、でも……その」

 婦「もう、癖になってしまってるんです……気にならなければ……」

船長「まあ、別にお前さんが気、使ってないなら良いけどよ」

 婦「はい……大丈夫です」

船長「ん……じゃ、行くか」スタスタ

 婦「あ……!」

船長「ん?おう、足下気をつけろよ」

 婦「は、はい……あの、あれ……!」

船長「ん……ああ、十字架か」

船長「そういえば、この街にも小さいが教会があったな」

 婦「あ、あの……」

船長「別に俺は気にせず行ってこいよ」

 婦「は、はい!ありがとうございます!」タタタ……

船長「まあ、酒場に連れて行くよりまし……かね」



 婦「……綺麗」ハァ

 婦(ベールを被った、美しい……女性)

 婦(これは、祈りを捧げている姿?)

 婦(夜になれば……このガラスを通して)

 婦(月の光が差し込む……のね)キィ

 婦「……失礼、します」
0023この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:36:46.08ID:97wTn6mS
 婦(……中も、綺麗。それに静か)

神父「おや、こんな田舎の教会に……珍しい」

神父「何か、ご用でしょうか?」

 婦「あ……神父様、ですか」

神父「はい……貴女は?」

 婦「 婦、と申します。あの……」

 婦「……用事、と言う訳では、無いのですが」

神父「ああ、それほどかしこまられなくても」

神父「何も無くても、構わないのですよ……全てに、開かれた場所ですから」

 婦「ありがとうございます……綺麗ですね。それに……とても、落ち着く」

 婦「癒されると言うか……」

神父「そうですか……それは良かった。おや、貴女……腕が……?」

 婦「あ……」

神父「すみません……触れるべきではありませんでしたか」

 婦「いいえ……受け入れて生きる覚悟はありますから」

神父「お強い方ですね」

 婦「……自由は不自由では無いと、教えて下さった方が居ましたので」

神父「そうですか……ふむ。こちらを向いて?」

 婦「はい……?」

神父「……綺麗な、深い青の瞳をしていらっしゃる」

 婦「そう、ですか……?」ドキ

 婦(……いやだ、私……何で)ドキドキ

神父「曇りの無い澄んだ瞳……人を疑うことを知らない……」

 婦「……」ドキドキ

神父「……故に、愚か」ニヤ

 婦「え……?」

神父「……目を見ろ 婦。名を預かる」ジィ……

 婦「あ、ぁ………」クラクラ……フラリ

神父「おっと……」ガシ
0024この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:37:13.90ID:Igi+l3eK
神父「……さて、魔王様。今頃魔導将軍を倒したって」

神父「安心していらっしゃる頃でしょうかね……」クック

神父「この娘は頂くよ……自分の甘さを身をもって知れば良い」バサッ

神父「ああ、肩凝るな……良くこんなモン着てるよ」

神父「さて……目を覚ませ、 婦」

 婦「う……うぅん……」

神父「お前は何をしにここへ来た?」

 婦「神に、仕える為……に」

神父「お前の神は私だ」チュ

 婦「……私の神は、貴方……ぁ」

神父「そうだ。お前は神に仕えて何をする?」チュ、チュ……

 婦「ん、 ……私、は……人々に、癒し、を……ぁ …ンッ」

神父「そうか……具体的には?」ペロ

 婦「ぅ、 ……ッ ン、癒しの、魔法で…… 魔石、を……」ハァ

神父「魔石……?詳しく話せ」

 婦「力を、具現化……あ、ァ……ッ」

神父「……フゥン、それ、魔王様の入れ知恵?中々考えるね」

神父「魔法を具現化……ね。頭は回るのか」

神父「まあ、そうじゃ無いと……魔導将軍を出し抜けないな」

 婦「ァ、あ……ッ」

神父「君の神は、だれ?」

 婦「あ、ぁ……貴方、です……ンッ」

神父「そう……僕。インキュバスが、君の神だ」

 婦「インキュバス、様……あ、アァ……ッ!」
0025この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:37:55.44ID:bjSNNNqL
インキュバス「魔石……癒やしの魔石……ね」ペロ

インキュバス「利用させて貰うか……この娘諸共ね」

インキュバス「さて…… 婦。君は……この教会に仕える事を決めた」

 婦「この、教会……に」

インキュバス「そう。そして……君の名は今日からシスターだ」

 婦「シ、スター……」

インキュバス「そう。 婦という名は捨てた。忙しい神父に変わって」

インキュバス「君は祈りを捧げるんだ。良いね?」

 婦「は、い……」

インキュバス「良い子だ……そうしていれば、またご褒美を上げるからね」

 婦「は……い、インキュバス、様……」

インキュバス「ふふ……魔王様、今度こそ……終わり、だよ」



……

………

…………



船長「良し、決まりだな」

海賊「俺もとうとう海賊廃業か……」

船長「名残惜しいか?」

海賊「いやぁ……まあ、子供ももうすぐ産まれるしな」

海賊「定期船の船長となりゃ、金に困る事もネェかな」

船長「軌道に乗りゃぁなあ……ま、暫くは」

船長「魔導の街から補助が出る……飢える事ぁネェだろ」

海賊「しかし……なぁ。本当なんだろうな?」

船長「だから前金で随分渡しただろ?」

海賊「それが無きゃ到底信じられネェ話だぜ……」
0026この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:38:21.22ID:GDnhQxVr
船長「ただしさっきも言ったが、船は持ち込みだぜ?」

海賊「そりゃまあ構わネェよ。アレだってそもそもが商船だよ」

船長「そうだったか……ま、早々に一隻確保できたとなりゃ、俺も」

船長「今日は旨い酒が飲めるってなモンだ」

海賊「おう、そうだな、今日は飲もうぜ……ぱーっと行かないとだろ?」

海賊「こういう時は、さ」

船長「俺の奢りで、って言いてぇんだろ……残念だがな」

船長「連れがいるんだよ」

海賊「……女、か!?」

船長「女は女だが、俺のじゃネェよ」

海賊「なぁんだ……お前にも漸く春が来たかと思ったのによ」

船長「ほっとけ……今教会を見に行ってる」

海賊「教会?」

船長「ああ。神に仕えたいんだとよ」

海賊「へぇ……そりゃ、お前がどんだけ男前でも無理だな」

船長「だからほっとけって!」

海賊「しかしなぁ。ここの村の教会は……無人だぜ?随分前から」

船長「そうなのか?」

海賊「確か、な」
0027この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:38:41.02ID:u+DPCw04
船長「ふむ……まあ、旅のついでに乗せてるだけだからな」

船長「詳しいことはわからねぇ」

船長(つーか、言えねぇしな)

海賊「まあ、その内良いところ見つかるだろ。どの街にも教会ぐらいあるさ」

船長「そうだな……つか、それにしては遅いな」

海賊「ん?ああ、その女か?」

船長「酒場に行くとは言ってあるが」

海賊「迷うほど大きな村じゃねぇだろ」



キィ……パタン



 婦「船長さん」

船長「おう、お帰り……どうだった?」

 婦「はい、私……この村に残ります」

船長「へ?」

 婦「神父様がお忙しくて、人手を探していらっしゃいましたので」

 婦「それに……とても綺麗で、気に入ってしまいました」

 婦「ここの、教会」ニィ
0028この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:38:59.07ID:t12/+YvO
船長「お、おう……そりゃ良かったな、だけどよ」

船長「ここって、無人だったんじゃねぇのか?教会……」チラ

海賊「んあ? ……いや、俺もずっと滞在してる訳じゃねぇしよ」

 婦「はい、神父様もつい先日、いらっしゃった様で」

海賊「へぇ……まあ、良かったんじゃネェの?」

海賊「酒や食いもの目当てに立ち寄る男達にとって」

海賊「べっぴんさんがいるとなりゃ、村も潤うじゃねぇか」ハハハ!

 婦「そんな……」

船長「……んで、その神父様とやらは?」

 婦「はい、裏の山の方へ薬草を採りにいかれました」

船長「そうか……良いんだな?」

 婦「ええ。短い間でしたが、ありがとうございました、船長さん」

船長「おう……頑張れよ」

 婦「名も頂きました……これからはシスターと言う名で生きていきます」

船長「そうか……」

 婦「では、失礼致します……」スタスタ

船長「……」

海賊「良い女だねぇ……ちょっとの間でも一緒の船に居たんだろ?」

船長「ああ……まあ」

海賊「どした?」

船長「いや……なんか、な」
0029この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 16:39:20.92ID:k/X2Hj7/
海賊「何だよ、寂しいのかよ」ハハハ!

船長「阿呆。そんなんじゃネェよ」

海賊「まあ、これでのんびり飲めるじゃネェか!」

船長「……奢らねぇぞ」

海賊「振られ虫にゃ奢ってやるよ!」

船長「違うっつってんだろうが!」

船長(……なんだか、な。気にしすぎか?)



……

………

…………



側近「……13個、か」コロン

盗賊「全部渡しちまう訳には……悪い」

側近「いや、そりゃ当たり前だ。お前達は生活していかなきゃいけねぇんだし」

盗賊「治癒魔法使える奴少ないんだ。それに……」

盗賊「みんな、あんまり良い……境遇じゃなかったからな」

盗賊「基礎は出来てても体力とか、魔力とか……少なくて」

側近「これだけでも助かるさ……取りあえず、他の方法も探すしな」

盗賊「姫……だからここに居ろって言ったのに……」グッ
0030この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:28:40.38ID:/XY2BAv3
終わってるな
0033この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:58:20.02ID:u1QP7hPH
側近「俺もその方が良かったんじゃ無いかと思うけどな」

側近「……だが、姫様自身が望んだ事だ」

盗賊「……うん」

側近「また、来る時までに用意しておいて貰えるとありがたい……ほら、これ」

盗賊「ああ、そりゃ勿論だ。姫の為って言えばみんな喜んで……おわ、重ッ」ズシ

盗賊「……え、金……こんなに!?多いよ!」

側近「お前達の生活の為だ。取っとけ」

盗賊「で、でも……!」

側近「仕事は仕事。これは報酬なんだから、ありがたく受け取りなさい」

盗賊「良いのか……?」

側近「当たり前だ。親しき仲にも礼儀あり、だぜ」

盗賊「サンキュ……ありがたく貰っとく」

側近「ああ、じゃあとりあえず戻るか……少女ちゃんの力じゃ限界があるしな」

盗賊「ん?少女って……治癒魔法使えたのか」

側近「ああ、いや。大地の加護受けてんだ、あいつ。だから……」

盗賊「ああ……緑とか水とかは癒やしの力に長ける……か、ら……」

盗賊「……」

側近「どうした?」

盗賊「あの、場所……」

側近「ん?」

盗賊「……聞いてると思うけど。廃港のあるあの島」
0034この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:58:45.03ID:8ySj6Afe
側近「ああ……『始まりの大陸』な」

盗賊「始まりの大陸……?」

側近「滅びる前はそう呼ばれて居たみたいなんだ」

側近「……それが、どした?」

盗賊「いや……姫と魔王が言ってただろ?」

盗賊「光の溢れる美しい場所だって。魔王が……息苦しい位」

側近「……そうか!」

側近「知人の墓があるんだったな……丘の上、か」

盗賊「あ、ああ……エルフの加護がどうとか言ってた」

側近「良し……俺はそこに行ってみる!」

盗賊「え!?で、でも船は……」

側近「大丈夫だ。魔王様に貰った転移石がある……ああ、また気持ち悪くなるのか」

盗賊「我慢しろよそれぐらい!」

側近「うぅ……そ、そうだよな」

盗賊「俺たちも石の準備しておくから……頑張ってくれ」

側近「ああ、そっちは頼んだぜ……!」グッ



シュゥウン……

オェ……



盗賊「……おえ、て聞こえた」



……

………

…………



シュウン……ドタ!



側近「……うぅ、痛いわ気持ち悪いわ……」
0035この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:59:12.98ID:G7Yxu88N
側近「魔王様の目で見たのは確か……」

側近「……始まりの街か。ぼろぼろだな」

側近(川沿いに歩いて……丘の上……この道かな)スタスタ



ザァアアッ



側近「……おっと」

側近(吹き抜ける暖かい風に、爽やかな陽の光、ね)

側近「成る程。こりゃ……魔族にはきついか」

側近(元人間とは言え……闇を選んだ奴には確かに)

側近「……息苦しい、ね」

側近(枯れない花、エルフの加護か)

側近「かといってなぁ……俺じゃ……」

側近『魔王様!』

魔王『側近、今どこだ?』

側近『始まりの街だ』

魔王『……何で?』

側近『手短に話す……姫はどうだ?』

魔王『部屋を移して、少しマシな様だが……』

側近『そうか……とりあえず、治癒の石は買ってきたが』

側近『数がな……で、だ』

側近『……知人の墓に来てみた。エルフの加護だとか、聞いたからな』
0036この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:59:35.36ID:QltuDDIx
魔王『ふむ……そういえばそうだったな』

側近『かといって、俺にはどうしようも無いけどな』

魔王『……お前、魔族だしな。となると……少女か』

側近『ああ……だが……』

魔王『……取りあえず戻れ。姫には少女がついてるし、ジジィもいるしな』

魔王『書庫に居る……そこに戻ってくれ』

側近『ああ、解った』

魔王『狼将軍の話もせねばなるまい……待ってるぞ』



側近「……そうか、狼将軍忘れてたわ」

側近(はぁ、胃が痛い……)グッ



シュゥウン



……

………

…………



シュンッ スタッ



側近「……お、立てた。 ……あ、気持ち悪」ウェ

魔王「こっちだ、側近」

側近「本当にお前、この部屋好きだな」

魔王「必要に駆られてるだろう、今は」

側近「……姫は?」

魔王「私の部屋の隣にベッドを運ばせた……その続き間に少女を」

側近「そうか……大丈夫なのか?それで……」
0037この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 17:59:57.50ID:5n0A6H8t
魔王「部屋の入口に石を置いてある……姫の傍にもな」

側近「……随分疲れたんじゃないか、少女ちゃん」

魔王「だろうな。今は食事を取らせて休ませた」



カチャ



ジジィ「ふう、寝顔は可愛いものよの……おや、側近戻ったか」

側近「おう……丁度良かった。癒しの石だ」ジャラ

ジジィ「なんじゃ、これだけか……ああ、これ。魔王様は近づくでない」

魔王「……魔法を使わねば大丈夫だろうに」

側近「人が苦労してきたって言うのに、労いの言葉一つないかな、このジジィは」

ジジィ「魔王様の転移の力で、じゃろう……何が苦労か」

ジジィ「魔王様、何か見つかりましたかの?」

魔王「これといってめぼしい物は……な。まあ、だが」

魔王「少女に頼まれた物は見つけた」

側近「何頼まれたんだ?」

魔王「魔力を高める方法、とやらの本だ」

側近「……大丈夫なのか?」

魔王「読むだけなら支障あるまい」

ジジィ「ふむ……では石は預かりますぞ。姫様の部屋へ置いて来ねばの」

ジジィ「お二人も魔王様の部屋へ……ここはかび臭くてな」

魔王「ああ……側近、そっちの本と羊皮紙の束を持ってくれ」

側近「あ?ああ……何すんだ、こんなもん」

魔王「まあ……暇つぶしだ」

側近「潰す暇なんかあるのかよ……」
0038この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:00:17.29ID:H2Coex0h
魔王「城に居ろと言ったのはお前だろう側近」

側近「まあ、そうだけど……」

魔王「行くぞ……ああ、これも持ってくれ」ドサ

側近「ねえ……ちょっとは労って、マジで」



……

………

…………



魔王「良し……まあ、これだけあれば当分はいけるか」

側近「何なの、お絵かきでもする気なのお前」

魔王「残念ながら私に絵心なんて物は無い」

側近「……威張って言う事かよ」



カチャ



ジジィ「お待たせしましたな……今茶も運ばせましょうぞ」

側近「姫はどうだ」

ジジィ「目は覚ましておられますが……起き上がるのは辛そうですな」

ジジィ「少女の大地の魔石と癒やしの魔石で楽にはなったと言っておられるが」

ジジィ「……早急に、何かしらの対処はせねばなるまいて」

魔王「そうか……数の問題では無いのだろうかな」

側近「あるに越したことはネェだろ……だが」

魔王「港街から輸入するにも、過激派が居るとな」
0039この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:00:49.80ID:agVVvyK+
側近「ああ、それな……船長には話したのか?」

魔王「既に伝えてある。依頼も含めてな」

ジジィ「何の話ですかの?」

魔王「この大陸には人間側からの物資等殆ど届かないだろう?」

魔王「だからそれを解消する為にな、まあ……船便を頼んだのさ」

側近「で、その窓口になれって言うんだよ、魔王様は。多忙な俺に!」

魔王「信用して言ってるんだ。喜べ」

側近「……いやそりゃ嬉しいんだけどね。光栄なんだけどね!」

側近「素直に喜べねぇ……」

魔王「何言ってるんだ。商売に関する本、持って行ったのお前だろう」

側近(ぎく)

魔王「話した時随分ノリノリだったじゃないか」

側近「……いや、意外と面白いなぁと」

魔王「なら素直に喜べ」

側近「わー……い」

魔王「……不満なのか?」

側近「問題山積みだからね! ……解消すりゃ、大手上げて喜ぶさ、そりゃ」

ジジィ「ふむ……狼将軍ですがの」

魔王「ああ……何だったんだ?」

ジジィ「何、探りに来たに過ぎませぬ。魔導将軍の死に関わる紫の隻眼の男」

ジジィ「心当たりは無いかとな」

側近「心当たりも何も……態とらしいナァ」

ジジィ「どうでしょうかな。あの女の脳みそは大した事ないじゃろうて」
0040この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:01:40.24ID:Rrq+dgeY
魔王「しかし……紫の瞳は私しか居ないのだろう?」

側近「知ってる限りでは、だ」

ジジィ「そうですのう……前魔王様は、違いましたからな」

魔王「……ああ、そういえば」

側近「隻眼ってとこに不思議がっても、まぁ……疑惑は余りあるわな」

ジジィ「皆魔王様の顔は知っておるからの」

魔王「ふむ……それで?」

ジジィ「狼将軍は、魔導将軍を殺した男の討伐を自分に命じろ、と」

側近「……そりゃ、魔王様だろうと思って言ってるんかね」

ジジィ「如何でしょうかな……そこまでは」

魔王「血の気の多い女だからな、そもそも」

ジジィ「奴も過激派の一人でしょうからな……まあ、いきなりここに攻めて来なかっただけ」

ジジィ「少しは頭が働いた、のでしょうな」

側近「他者の……だろ?」

魔王「ん?」

側近「あの女を止めた奴がいるって事さ。誰かと繋がってるとみて良いだろう」

側近「眷属の狼共は数こそ多いが……力はそれほどな」

側近「だが、数があるから厄介だろ?城に放たれてみろよ」

魔王「私ならば……」

側近「そりゃ駆除は出来るさ……だが、使い魔共もいるんだぜ?」

魔王「ふむ」

ジジィ「全て守りきるのは困難でしょうな。それに今は……」

魔王「少女も、姫も居る……か。ならば」

魔王「まさに向こうから見れば狙い時だろうに」
0041この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:01:58.25ID:I72J94Hp
側近「だから、さ……知ってるか否かは別として」

側近「何故命令の懇願だけに来たのかって事さ」

魔王「……ふむ」

ジジィ「偵察と挑発とみて良いでしょうな」

ジジィ「『魔族以外の美味しそうな匂いがする』だとか吐き捨てていきよったでな」

側近「思いっきりばれてんじゃねぇか!」

魔王「宣戦布告のつもりか……」

ジジィ「しかし、裏で誰と繋がっているのだかはっきりさせないといけませんの」

側近「……厄介なのとくっついてなけりゃ良いがな」

魔王「ふむ……良し、側近とジジィはそっちを調べてくれ」

魔王「後、少女の目が覚めたら私の部屋へ」

側近「解った……無理はさせるなよ」

魔王「勿論だ」
0042この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:02:33.59ID:V56LvGej
ジジィ「ふむ……では鴉も呼びましょうか」

側近「あいつ何処にいんの」

魔王「城を出て長いな……」

ジジィ「部下の鳥共に探させましょうぞ。何匹かは庭でくつろいでいますとな」

ジジィ「焼き菓子目当てに寄ってきおるのでの」

魔王「……それだけ聞けば長閑な風景なんだがな」

側近「古参の魔族とその眷属ってのをを無視すればな」

ジジィ「まあ、任せておきなされ」

側近「俺も別方向から探る……じゃあな」スタスタ

ジジィ「少女が起きたらこちらへ来る様に使い魔に伝えておきましょう……ではの」スタスタ



パタン



魔王「さて……」

魔王(問題は、姫だ。いくら望んだ事とは言え……)

魔王(身体に良いはずがない。早急にどうにかしないと)

魔王(しかし……)



コンコン、カチャ



少女「魔王様、失礼致します」
0043この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:02:55.67ID:BvU+PurO
魔王「おう……大丈夫なのか?」

少女「はい……食事も頂きましたし、休ませて頂きましたから」

少女「それに……急いだ方が良いでしょう」

魔王「……すまん」

少女「何か、良い本はありましたか?」

魔王「魔力の増幅に関する本はあったが……」ポン

少女「……」ペラ

魔王「しかし……何するつもりだ?」

魔王「お前は、まだ人間だろうに……」

少女「ジジィさんにお聞きしたんです。人が、魔になるとはどういう事なのか」

魔王「……ほう」

少女「魔王様が貸して下さった本も読みました……で」

少女「私なりに考えてみたんです」

魔王「……」
0044この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:08:32.97ID:BvU+PurO
少女「本には、魔族が人間の命を奪い」

少女「……そこに、自分の魔力を注ぐのだと書いてありました」

魔王「命を、奪う?」

少女「はい」

魔王「器に魔力を与える事で魔に変化させると言う事か。しかし……」

少女「……魔と変えられた者は、意思や記憶を失い」

少女「作り主に従順な傀儡になると」

魔王「……」

少女「でもその方法では……側近様のケースと違いすぎます」

魔王「そうだな。どこをどう斜めから見ても」

魔王「アレが傀儡には見えん」

少女「ジジィさんは……前魔王様は、側近様を生かした侭」

少女「その身に魔力を注いだのだと仰ってました」

魔王「……そんな事出来るのか?」

少女「器が持たなければ……死んでしまうでしょうね」

魔王「……」

少女「前魔王様は、側近様の命を吸い上げると同時に、魔力を注いだ」

少女「それから……意思の力」

魔王「意思の力?」

少女「推測ですが……魔族になりたいと願う、力では無いでしょうか」

少女「……願えば、叶う」

魔王「ふむ……で、それを私にやれと言う訳だな」

少女「はい」
0045この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:08:54.62ID:gHaookLs
魔王「……しかし、な」

少女「解っています……姫様の事がありますから、すぐにとは」

魔王「いや……そうじゃ無くてな」

少女「?」

魔王「……知人の話は前にしたな?」

少女「始まりの大陸、でしたか。お墓があると……」

魔王「そうだ……息苦しく感じる程の光に溢れる場所」

魔王「……港街から帰る途中、側近もその目で見てきた様だ」

少女「エルフの加護……と言っていましたね、姫様」

魔王「あの力を……借りることが出来れば」

魔王「……姫を苦しめずに済むかもしれん」

少女「どうやって……ですか」

魔王「……無茶を言う。許せ」

少女「……?」

魔王「お前は大地の加護を受けているのだろう」

魔王「魔石もすぐに作り方を覚えた……非情に優秀だと思う」

少女「……光栄です」

魔王「吸い上げる事は、できんだろうか。あの……エルフの加護の力」

少女「……」

魔王「……」
0046この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:09:20.49ID:RI+o1X0F
魔王「……すまん。無理を言ったな」

少女「エルフの力を、身の内に留める事は、多分……出来ません」

少女「確かに、人は魔に……闇を選び取り、魔に変じる事はできる」

少女「だけど……」

魔王「……そうか」

少女「私の……身体を。大地の加護を媒介に、何かにその力を移す事は」

少女「……不可能では無いと思います。ですが」

魔王「お前の身が持たん、か」

少女「はい……推測、です。ですが……」

魔王「否、解った。無茶を言って済まなかった」

魔王「別の方法を探そう。姫をあの島へと移す方が……」

少女「待ってください、魔王様」

魔王「ん?」

少女「狼将軍の話や……他の魔族の、過激派の方の問題もあるでしょう」

少女「姫様だけをあそこに移すわけには……今は、無理です」

魔王「……しかし」

少女「確かに、お腹の子供の事も考えると……ここに、長く置かれる事は反対です」

少女「一刻も早く、姫様はこの城から出るべきです。ですが……」

少女「そうすると、確実に……狙われます」

魔王「……」

少女「姫様のお腹の子の事は、まだ誰も……知らないとは思います。が……」

魔王「……しかし、な」
0047この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:09:43.93ID:n/KlvMwc
少女「私は、構いません……魔王様のお役に立つのなら」

魔王「駄目だ!」

少女「……魔王様」

魔王「お前を犠牲にして姫が喜ぶ筈が無い」

少女「違います、魔王様……聞いて下さい」

魔王「……?」

少女「エルフの力を何かに移せば、多分……私の身は持たない」

少女「ですから……そのタイミングで、私を魔へと変じてください」

魔王「!」

少女「そうすれば……全て丸く収まります」

魔王「……可能なのか?」

少女「可能にするのです。私にしか出来ず、魔王様にしかできません」

魔王「願えば叶う?」

少女「はい……そう教えてくれたのは貴方です。魔王様」

魔王「……ちょっと待ってろ」



魔王『側近!すぐに来い!』

側近『は!?』

魔王『私の部屋だ。急げ』

側近『え、や、お前ちょっと……』

魔王『早く!』



少女「魔王様……?」

魔王「側近を呼んだ……奴が来ればすぐに行く」

魔王「……覚悟は良いのだろう」

少女「……はい」
0048この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:10:07.92ID:Uq8yacK3
カチャ



側近「何なのもう!」

魔王「少女と知人の墓へ行く」

側近「は!?」

魔王「エルフの加護の力を吸い上げ、少女を魔へと変じさせる」

魔王「……詳しい話は後だ」

側近「……止めても聞かんだろうな」

魔王「当然だ。姫を……救い、ここに置かねば」

魔王「余所へ移せば、何れ命を狙われるだろう」

側近「……少女は良いのか?」

少女「自分で決めた事です」

側近「違う。ジジィから聞いただろう?」

側近「器が持たなければ、自我を失い死ぬだけだ」

魔王「……」

少女「解っています……自分で、何とかします」

側近「魔族の……魔王様の魔力は凄まじい」

側近「暴走に耐える自信はあるのか?」

魔王「暴走?」

側近「……身体が、自分の全てが劇的な変化をするんだ」

側近「血の一滴。細胞の一つ……全てが、人から魔へと変じる」

少女「そして魔王様の凄まじい力を与えられて、魔となった私の全ては」

少女「……歓喜する」

魔王「歓喜?」

側近「そうだ……押さえきればければ、暴走する」
0049この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:10:35.08ID:vW65fet9
側近「……俺は前魔王様に襲いかかったそうだ。覚えてネェが」

魔王「え」

側近「吹っ飛ばされたが、その衝撃と恐怖で正気に戻った」

側近「両手両足、ばっきばきに折れたけどね」

魔王「……それだけで済んで良かったな」

側近「同じ事言われたよ。笑いながら俺をぶん殴った張本人にな」

少女「……」

魔王「止めてやる。必死で願え、祈れ」

魔王「……覚悟が、あるのならな」

少女「はい。骨折ぐらい、耐えます」

側近「……俺が治してやるよ」

魔王「お前はどうしたんだ?」

側近「自力」

魔王「……すまん」

側近「哀れんだ目で見るな!」

少女「では行きましょう、魔王様」

少女「……姫様をこれ以上衰弱させる訳にはいきません」

魔王「ああ……側近、頼んだぞ」

側近「解った……狼将軍も今なら大丈夫だろう」

魔王「攻めてきたら食い止めろ」

側近「……俺が?」

魔王「ジジィにも手伝わせろ」

側近「……死んだら悲しんでね」

魔王「阿呆。許さん」

側近「ですよねー……本当、さらっと無茶言うんだから」
0050この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:10:54.22ID:/7LEUCvX
魔王「……すぐに戻る」

側近「頼むよ……ああ、そうだ魔王様!」

魔王「ん?」

側近「魔に変じたら、名を与えてやれ」

魔王「名?」

側近「そうだ。新しい命に、新しい名。作り主が与える事に意味がある」

側近「……ま、気分的なモンかもしれんが」

魔王「解った……行くぞ、掴まれ」

少女「はい……!」



シュゥン……ッ



側近「……頑張れよ、少女」



コンコン



側近「誰だ」

ジジィ「儂じゃ……」カチャ

側近「ジジィか。どうした?」

ジジィ「窓の外を見ろ、側近」

側近「ん? ……なんだありゃ」

ジジィ「狼共じゃ」

側近「……まじで!?」
0051この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:11:15.49ID:DLGQvORd
ジジィ「む?魔王様は?」

側近「少女と始まりの大陸に行ったよ!糞、まじか……!」

ジジィ「お主はここに居れ……儂が行く」

側近「おいおいおいおい、死ぬ気かジジィ」

ジジィ「侮るで無いわ若造が……大丈夫じゃ。鴉にも連絡がついておる」

側近「……鴉か。あれもババァじゃネェか」

ジジィ「儂と違って、部下の鳥共も居る」

側近「戦争じゃネェか、これじゃ……」

ジジィ「故に完全制圧せねばの」

側近「……お前の部下は」

ジジィ「元、な……将軍の座を魔導将軍に譲ってからは」

ジジィ「全てあいつについて行かせたからのう」

ジジィ「しかも……死によったからの。儂の言う事を聞く者等」

側近「この状態じゃ、無理か……」

ジジィ「儂一人でも大丈夫じゃ。老いたとは言え」

ジジィ「……元魔導部隊将軍の名は伊達で無いと思い知らせてやろうぞ?」

側近「解った……鴉の部下の鳥共の残りを率いて合流しろ」

側近「……古参二人か。死ぬなよ……ますます魔王様の俺のパシリ頻度があがる」

ジジィ「心配するな……力は衰えても、戦争時代を生き抜いた儂と鴉じゃ」

ジジィ「経験の差はおいそれと埋まらん……ではの」

側近「……また後で、な」

ジジィ「うむ……また後で、じゃ」
0052この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:12:07.80ID:6tfLN/RB
側近「狼将軍め……ここを出てすぐに準備を整えたか!」

側近(否……すでに用意が終わってた、か)

側近(……間に合えよ、魔王様)

側近(姫の妊娠がばれてないのは幸いか……否、一緒か)

側近(婚姻の為に連れ帰ったとみられていれば、世継ぎの件は)

側近(時間の問題……狼将軍が急ぐのも解る。が……)

側近(残りの過激派も動いているとみて良い……魔王様対過激派の)

側近(問題が明るみに出れば……もう、止められん)

側近(……黒幕は誰だ!?)

側近「……城の中に入られる迄は……まだ……掛かるだろうが」

側近(糞……ッ食い止めてやるよ!)



……

………

…………



シュゥン……ッ



魔王「……ふぅ」

少女「大丈夫……ですか」

魔王「私の事は気にするな……頼む、少女」

少女「はい」キョロ

少女(……素晴らしい景色。私にも感じられる、大地の……力)

少女(お願い。少しで良い……私に、力を貸して)

少女(エルフの、お姫様の為に……!)
0053この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:12:48.88ID:HRLHPnjU
魔王「少女、これを」チャラン

少女「……はい、これは……ペンダント?」

魔王「魔導の街で買った物だ……姫に似合いそうだと思ってな」

魔王「これならば、身につけていられるだろうし」

少女「はい……お借りします」グッ

少女(……命を。エルフの加護を、貴方の命を……知人さん)

少女(姫様の為に……お願い)シュゥウウ……

魔王「……」

魔王(気の流れ、力の流れ……か)

魔王(ペンダントに流れ込んで行く……ん、少女の、身体が……ッ)

魔王「無理はするな、少女……ッ お前の身が持たん!」

少女「大丈夫、で……ッ す、 ぅう……ッ」

魔王「……ッ」

魔王(瞳が、曇って……行く。命が削られているのか……ッ)

魔王「……ッ少女!」ガシ

魔王(消えてしまう、ギリギリを……待て……ッ 今……ッ)

魔王(魔力を……注ぐ……!)シュウシュウ……!

少女「あ、 ……ぁ、あ……ッ」ガク……ッ

魔王「……耐えろ、少女!」

魔王(願えば、叶うんだろう……ッ 願え……!)

少女「ああああああああああああああああああああああッ!」
0054この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:16:31.72ID:TXNsZZMv
チャリン……



魔王「……うッ」

魔王(ペンダントが緑に……光ってる……ッ)

魔王(少女の足下か……今は、近づけん……ッ)

少女「ああああああああああ! ……あ、ァ……ッ」ガクガクガク

魔王「少女、耐えろ!  ……まずい……ッ」

魔王(暴走、か……!)

少女「うわああああああああああッ」

魔王「少女!」ガシ!ギュウ!

少女「ああ、ァ、ああ ……あ、アアアアア!」シュゥン……シュウゥ!



ザクザクザク!



魔王「ぐ、 ……ッ 風、の魔法か……ッ」ギュウ

少女「ああ、アアアアアアアアアアア、うわああああああああ!」シュゥン!

魔王「大丈夫だ……大丈夫だから! ……痛ゥ……ッ」スバスバッ

少女「ふ、ぅ………あ、ァ……ッ」

魔王「……良し、良し」ナデナデ

少女「ま…… まお、う ……様」

魔王「うん……怪我は、無いな?」

少女「……! 血が……こ、これ、私が……!?」

少女「申し訳ありません、こんな……ッ!」

魔王「気にしなくて良い。大丈夫だ……それより、ペンダントを」

少女「あ、あれ……ッ!?」
0055この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:19:41.63ID:sJlfV2en
魔王「落ち着け、足下だ……私は触れん」

少女「あ……、あった、あ ……ァ」ギュ

魔王「……良く、やってくれた。少女……否」

魔王「……名をつけろと簡単に言われてもな」

少女「何でも良いです……私はこれからも、魔王様の側用人として」

少女「ずっと、仕えて行くだけです。呼ばれ方など……」

魔王「ふむ……では、これからの役目も踏まえて」

魔王「……使用人、で良いか?」

使用人「はい。ありがとうございます……魔王様から」

使用人「貰った名……大事に、します」

魔王「……休ませてやれずスマンが」

使用人「いえ……不思議と力が、漲ってきます」

使用人「すぐに戻りましょう」

魔王「ああ……!」


シュゥン……ッ


……

………

…………


シュン……スタ!


魔王「ん、側近が……居ない?」

使用人「では、魔王様。私はこれを姫様に」

魔王「ああ、頼む……」


カチャ


使い魔「あ……魔王様!戻られましたか!」

使用人「きゃ……ッ」

使い魔「あ……少女さん、申し訳ありません!」
0056この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:20:03.04ID:Oe9oiX+U
魔王「ああ、それは……」

使用人「説明は任せました、魔王様。私は行きます」スタスタ

魔王「……ちょっと側近に似てる気がする」

使い魔「魔王様!外を!」

魔王「外?それより側近は……」チラ

魔王「……なんだ、アレは」

使い魔「……狼将軍の部隊と、ジジィ様と鴉様の部隊が交戦中です」

魔王「何……?」

使い魔「側近様も先ほど……」

魔王「……私が行こう」

使い魔「駄目です!魔王様が出られたら皆殺しですよ!」

魔王「しかし!」



カチャ



側近「大丈夫だ、ジジィ共に任せとけ」

魔王「側近!」

使い魔「……側近様、確かに伝えましたので、私はこれで」

側近「ああ、ご苦労」

魔王「側近!!」

側近「落ち着け……少女の方は、うまくいったんだな?」

魔王「使用人、だ」

側近「オーケー……後は、姫か」

魔王「……ジジィと鴉は!」

側近「大丈夫だ……てか何お前その怪我」

魔王「ああ、忘れてた。治してくれ」
0057この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:20:35.04ID:Oe9oiX+U
側近「……要求の多い奴」パァ

魔王「任せとけと言ってもだな。狼将軍の部隊は数が……」

側近「俺たちは他を潰すんだ」

魔王「……他?」

側近「黒幕が解ったって事さ。て言っても消去法での推測に過ぎんが」

魔王「誰だ」

側近「……インキュバスだよ。魔導の街にも出入りしてたみたいだ」

魔王「……」

側近「お前達、見張られてたんだろう?」

魔王「魔導将軍の手の者では……」

側近「繋がってないと考えるのは不自然だろ」

魔王「……今は、何処に?」

側近「鴉の鳥に寄ると、鍛冶師達の村だ」

魔王「……あの山岳にある村か」

側近「船長があそこに寄っている。もう船を出した様だがな」

魔王「離れたのか、なら……」

側近「教会があってだな」

魔王「?」

側近「教会に一人、女が居るそうだ」

魔王「…… 婦、か!?」
0058この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:21:04.09ID:EiM9k12n
側近「片腕の薄幸そうな祈り女……決まりだろ?」

魔王「……今、どうしているんだ」

側近「そこまでは、な……だから、確かめなきゃならんだろ」

魔王「ふう……次から次と」

側近「解ってた事だろうが」

魔王「で……私が行く、と言っても聞かないだろう」

側近「それも解ってる事だろう……随分良い子ちゃんじゃネェか」

魔王「今この状況で城を離れる訳にいかん事ぐらい、いくら何でも解る」

側近「成長したねぇ」

魔王「……お前な」

側近「数は減るだろうが……狼将軍は確実に城まで来るさ」

魔王「だろうな」

側近「いくらジジィと鴉のババァとは言えな」

側近「……老い、てのは辛いもんだ」

魔王「……」

側近「睨むな。何故行かせたと聞きたいんだろうが」

魔王「いや……そうじゃない。あの時は仕方なかっただろう」

魔王「お前までここを離れる訳にはな」

側近「姫が居たからな」

魔王「……すまん」

側近「謝る事じゃ無い……王の決定だ」

側近「姫と正式に夫婦になるつもりだったんだろ?」

魔王「……姫が良いと言えば、な」
0059この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:21:24.45ID:u/XaqA1x
側近「なら、椅子に座って……堂々としていろ」

魔王「……部下に攻め込まれる魔王っていう時点で堂々、て言うのもな」

側近「今更だ……良し」

魔王「行くのか」

側近「お前に貰った転移石がまだ残ってるからな」

魔王「……頼む」

側近「取りあえず様子を見てくる…… 婦は、俺の顔は知らないよな?」

魔王「ああ」

側近「良し……こっちは、頼んだ」シュゥン……オェ

魔王「……おぇ?」



バタバタ……バタァン!



使い魔「魔王様、城門の所に狼将軍と、配下の狼たちが……!」

魔王「使用人に姫を守れと伝え……お前達も避難しろ」

使い魔「……使用人?」

魔王「ああ……少女の事だ」

使い魔「は、はい……!」

魔王「……私も行く」

使い魔「ど、何処へ?」

魔王「玉座の間に決まっておろう? ……アレは、私の椅子だ」
0060この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:21:45.30ID:w1sSRetW
……

………

…………



姫「……ん」パチ

使用人「姫様……どうです、ご気分は」

姫「少女……? ここは、魔王の城……よね?」

使用人「はい」

姫「……苦しくない。どころか……とても、良い気分だわ」

使用人「それは、良かった……」ホッ

姫「……あ、貴女……! ……?」チャリン

姫「これは……」

使用人「……エルフの加護、です」

姫「ど、どうやって……!?」



コンコン



使用人「はい」

使い魔「使用人様、姫様と共に安全な場所へ」

姫「安全な場所……?」

使用人「狼将軍が、攻めてきたのですね」

姫「!?」

使用人「魔王様は?」

使い魔「……避難する様にと仰られ、玉座の間に」

使用人「そうですか。ならば私と姫様はここに」

使い魔「し、しかし……!」
0061この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:22:07.61ID:U6TNIQai
使用人「魔王様は迎え撃たれるおつもりでしょう」

使用人「ならばその奥に当たるここが一番安全です」

姫「……ちょ、ちょっと、どういうこと!?」

使用人「姫様には後でご説明いたします」

使い魔「ですが、突破されたら……!」

使用人「貴方は、自分の主を信じないのですか」

使い魔「……」

使用人「貴方もここに居れば良い……どこに逃げるよりも安全です」

使用人「姫様、構いませんよね?」

姫「え、ええ……それは、勿論」

使い魔「……失礼します。皆にも、避難を促さなければ行けません」

使用人「……そうですか」

使い魔「戻れたら、戻らせて頂きます」



パタン



姫「……行かせて、良いの」

使用人「自分で決めた事ならば仕方ありません」

使用人「姫様だって。魔の気……ここまでとは思ってなかったかも知れませんが」

使用人「体調を崩される事は予想できたのでは?」

姫「……少し、気分が悪くなる程度だと思ったわ」

姫「まさか、こんなに……なるとは」

使用人「それでも、ご自身の意思でこうしてここに来る事を選んだのでしょう」

使用人「……魔王様が、拒否なさらないのも解っていらしたでしょう」
0062この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:22:45.79ID:RCLaNwc3
姫「……戻って、来るのかしら」

使用人「さっきの使い魔ですか……どうでしょうね」

使用人「避難を促しに来た、と言う事は……城に到達したのでしょうね」

姫「狼将軍、とやら?」

使用人「はい」

姫「……戦ってるの、魔王は」

使用人「魔王様の所まで来るのは……いえ、時間の問題でしょうね」

姫「……少女、貴女……魔族になれたのね」

使用人「今は、使用人と言う名を頂きました」

姫「……まさか、この……ペンダントを作るために?」

使用人「正解ですが……ちょっと違います」

姫「……」

使用人「それは、魔王様が魔導の街で貴女に、と買われた物だとか」

使用人「……私は、大地の加護を受けているので」

使用人「あの、知人の墓の大地の力……エルフの加護を」

使用人「そのペンダントに移したに過ぎません」

姫「エルフの力を体内に!?そんな事……!」

使用人「はい……私の、少女の頃の人の器では」

使用人「……耐えられませんでした」

姫「……ッ」
0063この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:23:08.53ID:SETy1hCm
使用人「丁度良かったんです。どうせ、私は魔になりたかった」

姫「……」

使用人「貴女が責任を感じる必要はありません、姫様」

使用人「人間の侭では、私の力にも限りがある」

使用人「……緑の魔石を作るにも、限界がありました」

姫「……あの、癒やしの石は……側近さんが持ってきてくれたんですってね」

使用人「そうです……盗賊も心配していたでしょうね」

姫「貴女は……魔王が好きなのね?」

使用人「我が王ですから、当然です」

姫「……私が憎くは無いの。こんな、こんな事態を……!」

使用人「勘違いなさいません様……狼将軍の件は貴女の責任じゃありませんよ」

姫「……魔導将軍だって!」

使用人「姫様」

姫「……」

使用人「時期は早まった……のかもしれません。ですが」

使用人「貴女を助けろと言ったのは魔王様です」

使用人「主様の命令でしたら、喜んで従います。怨むなど……」

姫「……」

使用人「あの方は、王です」

使用人「私が従うべき、王です」

姫「だけど……!」
0064この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:23:35.89ID:XjGCk380
使用人「貴女は、魔王様を信じているのでしょう?」

姫「え……?」

使用人「大丈夫です。信じましょう」

姫「……魔王は、過激派を全て……殺すつもりなのかしら」

使用人「戦争状態と変わりありませんからね」

使用人「先に手を出したのは……あちらです」

使用人「狼将軍は主である筈の魔王様に反旗を翻した」

使用人「……許されませんよ」

姫「……」



ドォオンッ



姫「きゃ……ッ」

使用人(爆発音……!)

姫「魔王……!」

使用人「……ッ 大丈夫です、姫様」

姫「……で、でも……!」

使用人「私達に出来る事は、ありません……今は」

使用人「ここで、待っている事だけです」

姫「……」

使用人「魔王様は何があっても貴女を守ろうとしたんです」

使用人「今出て行って戦いに巻き込まれでもしたら」

使用人「それこそ、無駄になるでしょう!」

姫「!」

使用人「……何かあっても私が守ります」

姫「少女、貴女……」

使用人「使用人、です……主様の命令は絶対です」

使用人「……我が、王ですから」
0065この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:23:59.69ID:gjueefha
……

………

…………



ドォオン……バターン!



狼将軍「サァて……そこ、退いてくれるね魔王様?」

魔王「相変わらずせっかちな女だな、お前は」

狼将軍「ここまで派手にやっておいて、しおらしくする方が不自然だろ?」

狼将軍「魔導将軍をやったの、アンタが連れ込んだエルフの女なんだろ?」

魔王「……」

狼将軍「女の尻追っかけ回して、その後ろに隠れてる魔王だなんてお笑いだ」

狼将軍「そんな奴がその椅子に座って、アタシ達の上司だなんてね!」

魔王「で……それが王である私の城に攻め入った理由と言いたいのか」

狼将軍「いくら王の女か知らないが、先に手を出したのはその女だろう!」

魔王「……それで?」

狼将軍「弔い合戦さ? ……大義名分万歳、ッてね!」ダダ……ヒュウン!

魔王「! ……ッ」ザシュッ

狼将軍「さあ、これ以上痛い目にあいたくないなら大人しくそこを譲りな」スタッ

狼将軍「アタシの爪は痛いだろ? ……知っての通り、アタシは気も短いんでね」

魔王「断る。これは私の椅子だからな……炎よ」ゴォォ……ッ

狼将軍「そうかい。なら力尽く……ッ !?」

魔王「行け、炎の蛇……飲み込め!」ガアアアアアア!

狼将軍「な、早……ッ うあああ……ッ!?」

魔王「どうした。力尽くで退かすのだろう」

狼将軍「く……ッ 揃いも揃って口は達者だね!」

魔王「……誰の事だ」
0066この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:24:30.65ID:0Aj003Nc
狼将軍「サァね……今頃、アタシの狼共に食われてるかナァ?」

狼将軍「悪食とは言っても、すかすかの老骨だ……食い応えは無いだろうが」

狼将軍「……綺麗さっぱり、全部平らげりゃ腹の足しにはなるだろ!」ダダダットン……ッ

狼将軍「死ね、魔王……!その喉、切り裂いてやる!」ザシュ……!



ガシ……バキン!



狼将軍「……! な、あ、 ……アタシの、爪が……ッ」

魔王「ふむ……柔い爪だな。私は素手だぞ?」

魔王「お前狼じゃ無くて、犬の間違いじゃ無いのか」グイッギリギリ……ッ

狼将軍「……ッ ぐ、ァ」

魔王「ほう、腕は柔らかいな……ふさふさして撫で心地は良さそうだが」グググ……バキン!

狼将軍「い、あァアあ……ッ! は、離……ッ ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

魔王「私はすべすべの方が好みだな……」

狼将軍「あ、あああああ ッ 腕、う……あ、あッ」

魔王「腕の一本、どうという事あるまい? ……あの悪食狼共は」

魔王「ジジィと鴉の腹でも食い破ったのだろう……こんな風に……炎よ!」ゴォゥ…ッ

狼将軍「……ッ !!」

魔王「蛇となりて、獣の腹を食い破れ……!」

狼将軍「ぅ、あ ……熱い……ッ 」ゴォ……ブチ、ブチブチ……ッ

狼将軍「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

魔王「喰らえ……骨も残さず焼き尽くせ」

狼将軍「いやあああああああ!熱い、熱い……ッ」

魔王「お前が言ったんだろう。弔い合戦だとな」
0067この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:25:55.52ID:4Ztipl+g
魔王「……お前が死ねば、眷属の狼共も自然に変える」

魔王「主を失った獣は自我も失い……何れ共食いによって淘汰されるのだろう」

魔王「……始まりの街の時の様に、な」

狼将軍「……」

魔王「もう聞こえて居らぬか。フン……口だけはどっちだ」

魔王「……すまん。ジジィ……鴉」

魔王「古参の者は……全て逝った、か」

魔王(こんな形での……世代交代など)

魔王「……使い魔?」



シ……ィン



魔王(犠牲になって居らねば、良い……が)



……

………

…………



シュゥン……オェエエ バタッ



側近「……この間立てたのはまぐれか奇跡か」ムクッ

側近(これは……教会か。入口は表か)スタスタ



キィ……



 婦「どちらさま、です?」

側近「……ああ、えっと」

側近(片腕の祈り女……間違いない。 婦、かな)

 婦「旅の方ですか?」

側近「あ、うん、はい、そう……そうです」
0068この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 18:26:18.62ID:l5czJR9a
 婦「ようこそ、教会へ……どうぞ、ごゆっくりなさってください」

側近「ありがとうございます……ん?」

 婦「何か?」

側近「あの……石は?」

側近(特にこれといっておかしな様子は無いが……)

側近(こんなに……痩せてたか?この娘……)

 婦「あれは、魔除けの魔石です」

側近「……魔除けの魔石?」

 婦「はい。徳を積んだ神父様がお作りになられる、神聖な物です」

 婦「……お一つ、如何です?」

側近「へえ……見せて貰っても?」

 婦「ええ、どうぞ……少々値は張りますが」

 婦「旅の安全の為に……」

側近(……魔除け石、ね……しかし)

側近(神聖……?わからん)

側近(……魔王様か姫に見せてみるか)

側近「値が張る……って言っても、これで魔物が寄ってこないなら」

側近「助かりますね」

 婦「そうですね。あまりに強い魔には効き目がないかもしれませんが」

側近「貴女が作られた物もあるんですか?」

 婦「私はまだ、修行中ですので」
0074この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 19:59:26.13ID:Cc6EM1Lh
>>70
クロムなら成ちゃん有名になるべw
0075この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 19:59:26.19ID:Cc6EM1Lh
>>70
クロムなら成ちゃん有名になるべw
0076この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 20:15:59.46ID:mS9kVpNx
ゴローズファンにも成ちゃんとマリガボのこと書いておいてあげたよお礼はいらないよ!
0077この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 20:58:05.08ID:2ULH51ZO
IP表示とワッチョイとなにが違うのや?
成パチ屋か荒しにくいだけじゃ無いん?
https://www.instagram.com/p/CIH2X4QjxII/?igshid=1i155sk80ck0j
この写真の偽生前フェイスリングをフェイス君に成パチ屋が売ってフェイス君がツイッターで騒いだらマリガボ恵比寿の店員がフェイス君の個人情報と電話番号を教えて成パチ屋に追い込まれて100万取られた。
パチ掴まされて騒いて100万取られたフェイス君かわいそやな
0079この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:19:56.43ID:UlR/28Aq
WM渡辺産と成田山がホールから473万円分もの商品を一括購入した証拠
この大量仕入れしたホールものは偽生前と偽マリガボとしてマリガボが販売した。
その後成田山がホールへ潜入してホール商品の横流しを7年間続けた。
その間成田山によりラージスカルとかミニチュアスカルを型抜きしてマリガボとして販売している
https://www.instagram.com/p/CJNM7pDDtOd/
0080この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:21:18.98ID:3Y6jMw75
側近「そうですか……その、神父様は?」

 婦「……裏の山に、薬草を採りにいっておられます」

側近「へぇ……ああ、あの籠に入っている物、ですか?」

 婦「ええ、そうです。怪我をされた方々に、無料でお配りするので」

側近「成る程……」

側近「……魔除け石、ね」

 婦「ええ……売上金は、この教会の修繕や、寄付に回させて頂きます」

側近「では、一つ頂きます」

 婦「ありがとうございます……どうぞ」

側近「……では、旅の無事を祈らせて頂いても?」

 婦「勿論です……どうぞ」

側近「では、失礼します……」ス……



側近『魔王様、そっちは片付いたか?』

魔王『側近か……ああ』

側近『……元気ネェな』

魔王『ジジィと鴉がな……』

側近『……そうか』

魔王『狼将軍は片付けた。獣共は……放っておいて良いだろう』

魔王『お前は何処に居る』

側近『教会だ……見えるか?』

魔王『……お前、目閉じてないか』

側近『あ』

魔王『……阿呆。後で見る』

側近『い、祈ってるんだ!仕方ないだろ!』
0081この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:21:39.49ID:xwk6jV8I
側近『インキュバスの野郎は居なかった。それから……』

側近『魔除けの石とやらを買わされたぞ?』

魔王『魔除けの石?』

側近『まあ、持って帰る……目を開けるから見ろ』

魔王『……早めに戻ってくれ』

魔王『これからの事も……相談したい』

側近『ああ……後は、インキュバスだけだ』

魔王『…… 婦の様子は……ああ、良い……見よう』



側近「……ありがとうございました」

 婦「いいえ……どうぞ、私も、貴女の旅の無事をお祈り致します」

魔王『…… 婦!?随分と痩せているな』

側近『急に話しかけるなよ!』

側近「ありがとうございます。それじゃ……」

魔王『インキュバスが関わっているとなると……精気を吸われて……』

 婦「はい……また、機会があればお尋ねください」

魔王『……ッ  婦……操られている、のか……』

側近「あ、はい、えっと……」

側近『ちょっと待てって!もう!』

 婦「私はシスターと申します」

側近「シスター?」

魔王『シスター?』

側近『ちょっと黙ってろって!もう!』

 婦「はい……では、行ってらっしゃいませ」

側近「……」ペコ。スタスタ
0082この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:22:20.62ID:tAG7ni4x
側近『……どうだ?』

魔王『こうしてみるだけでは変わりない様に見えるが……随分痩せた』

側近『裏に居るのがインキュバスじゃな』

魔王『……本人は居なかったんだろう?』

側近『その……神父様、てのが奴かどうかの保証も無いな』

魔王『ふむ……』

側近『少し街の様子を見て帰る……大丈夫か?』

魔王『もう片付いてはいるが……使用人だけでは少々手が足りん』

側近『使い魔共がいるだろ?雑用ならそいつらに任せれば……』

魔王『ある程度使用人に確認させたが』

魔王『……』

側近『……食われたか』

魔王『か、逃げ出したか、だな』

側近『そうか……』

魔王『使用人が戻れば、少し出る』

側近『お、おいおい、何処行くんだよ』

魔王『周辺の見回りだ、心配するな』

側近『狼共は放置で大丈夫だろう?』

魔王『……そうじゃない』

側近『ジジィと……鴉か』

魔王『骨も残って居ない……だろうが』

側近『……あの狼が相手じゃな』

魔王『確認ぐらい……させてくれ』

側近『……反対する理由も無いだろ』

魔王『残って居る使い魔が居れば助けてやらんとな』
0083この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:22:50.98ID:CZ0MBUbx
側近(……随分参ってるな)

側近(無理も無い……か。お……酒場か)



キィ



店主「いらっしゃい……空いてる席にどうぞ」

側近「昼間っから盛況だね」

店主「こんな辺境の村じゃ娯楽はこいつぐらいしか無いって」チャプン

側近「酒か……」

店主「兄ちゃん、何にする?」

側近「……ホットミルク」

店主「え」

側近「俺酒飲めネェの」

店主「……あいよ」クック

側近(笑うなよ、糞……悪かったな)

側近「さっき、教会に行ってきたんだけどさ」

店主「ああ、べっぴんさんがいただろ?……はいよ、ミルク」

側近「ああ……片腕のな。 ……どうも」

店主「何でも魔物に襲われたらしくてなぁ」

側近「……へぇ」ゴクゴク

店主「魔王が世界征服企んでるんだろ?」

側近「……ッ」ブゥ! ……ゲホゲホッ

店主「わッ……、ちょ、兄ちゃん勘弁してくれよ……」オシボリ、ポイ

側近「す、すまん……」フキフキ

店主「驚く気持ちは分かるけどさ……」
0084この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:23:20.93ID:xDaGuaTc
側近「悪い……世界征服?魔王……が?」

店主「シスター曰く……そうらしいぜ?」

側近「……シスターが?」

店主「ああ、兄ちゃん、路銀に余裕があるなら」

店主「魔除けの石買っておいた方が良いと思うぜ?」

側近「これか……」コロン

店主「お、もう買ってくれたのか」

側近「買ってくれた?」

店主「いやなに、あのシスターは売り上げの一部を寄付してくれるからさ」

店主「この街も潤うのさ」

側近「……成る程な」

店主「それに旅人達も安全になるだろ?」

店主「ここら辺は山岳地帯だからさ。元々魔物の数も多かったんだが……」

店主「最近特に狼が増えてな」

側近「狼?」

店主「ああ……それがまた凶暴な奴らでさぁ」

側近(狼将軍の……眷属か?しかし……)

側近(魔王様がもう……)

店主「シスターがここの教会に来てくれて、助かるって訳だ」

側近「……ふぅん」

店主「しかもべっぴんだしな。目の保養にもなるしさ」
0085この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:23:43.13ID:j71hMrqG
側近(狼共の様子で……インキュバスには狼将軍の死は伝わってる……と)

側近(見て良いだろう、な……)

側近「神父様、てのは?」

店主「神父様もつい最近っちゃ最近だな。この村に来たのは」

側近「へぇ」

店主「いやぁ……あのシスター、どうにも神父様を追いかけて」

店主「来たんじゃ無いかって噂だ」

側近「追いかけて?別々にこの村に来たんだろ?」

店主「だから、さ!兄ちゃん鈍いなぁ」

側近「あん?」

店主「シスターと神父様が並んで歩いてるの見ると……こう、な」ニヤニヤ

側近「……なんだよ」

店主「いや、見れば解るって……まあ、神に仕えるとは言え」

店主「年頃の女なんだなぁと、な」

側近「その神父様ってのは男前なのか」

店主「そうだなぁ。一見冷たそうな感じに見えるが」

店主「ありゃ、確かに女が放っておかねぇよ」

側近「……」

店主「うちの嫁さん曰くさ」

側近「ん?」

店主「紅い目に銀の髪でさ、こう……ちょっと怪しげな感じなのに」

店主「神に仕える敬虔な姿と相反してたまらん!」

店主「……だとさ」

側近(……間違い無いな。インキュバスの野郎だ)
0086この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:24:04.89ID:w0HQ7raQ
側近「そりゃ俺も見てみたいね」

店主「自信無くすぜ?」

側近「悪かったな!」

店主「……しかしまあ、真面目な方だよ。仕事熱心だしな」

店主「普段は山の方に薬草を採りに行っていらっしゃるんだ」

側近「それもシスターが?確かに……俺もそんな事聞いたけど」

店主「ああ。それで教会の仕事はシスターがしてるらしい」

店主「神父様は山の静かな場所で、魔石生成もしていらっしゃるしな」

側近「……成る程な」

側近(であれば……これは)コロン

側近(神聖な物なんかであるはずが無い……!)

側近「……うっすら紅いな」

店主「見る分にも綺麗だよな?」

側近「そうだな……ミルク、お変わり」

店主「もう吹かないでくれよ?」コトン

側近「悪かったって……あ、なあ」

店主「うん?」

側近「じゃあ……日中は神父様には会えないのか?」

店主「そうだなぁ。大体日が暮れる頃に降りて来るな」

側近「日暮れ……そろそろか」

店主「もうちょっと後じゃ無いか? ……そんなに会いたいなら」

店主「時間つぶしてけよ……旅の話も聞かせて欲しいしな」

側近「うん……」

側近(今……会うのはちとまずいか?)
0087この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:24:56.89ID:TkC9CTzd
店主「こんな商売やってると、それも楽しみの一つでさ」

側近「まあ……そうだろうな」

店主「新しく街もできたらしいしなぁ。この街に良く立ち寄ってた」

店主「海賊船の一つも、商船に鞍替えしてさ」

側近(船長の事……か?)

店長「神父様の魔石も、色んな街に運んで貰ってるんだ」

側近「……今、なんて?」

店長「商売だよ、商売!やっとこの村の未来も明るくなるってもんだ」

側近「この……魔石をか?」

店長「そうだぜ?魔除けの魔石が市場にでりゃ、旅も安全になるし」

店長「俺たちも潤う! ……まあ、魔王が世界をどうこうってのが本当なら」

店長「俺たちも、自衛の手段を持っておくのも悪くはないだろ?」

側近「……そりゃ、まあ」

店長「港街、だっけか?新しい街でも魔石の技術を持ってるらしくてな」

側近「……!」

店長「吃驚だろ? ……絶対安心とは言わネェけどさ」

店長「こうやって、俺らも動かないとな」

側近「そう、だな……」

側近(……そうだ。盗賊達も……否。そもそも、魔石化の技術は)

側近(魔王様が教えた物だ……シスターから方法を聞き出したんだろうが)

側近(神聖な筈の魔石が、そうで無かったとしたら……)

側近(何れ、盗賊達の魔石まで……敬遠される様になるかもしれん)
0088この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:25:21.74ID:wsRJu6Yo
側近(インキュバスがそこまで考えていたかは解らん、が)

側近(……どちらにしても、港街の経済状況が立ちゆかなくなると)

側近(援助と言う名目の……魔導の街の押さえも聞かなくなるとまずい)

側近「……なあ、魔導の街の話は何か無いか?」

店主「魔導の街? ……ああ、何でも前領主が殺されたって奴なら」

側近「ああ……」

店主「それも魔物の仕業じゃネェかって話だな」

側近「……ほう」

側近(まあ、それは仕方ない……よな)

側近(実際、魔導将軍と前領主をぶち殺した訳だし……)

店長「でも、相当堪えたのか、今の領主が良い奴なのか」

店主「奴隷制が無くなったって聞いたな」

側近「……奴隷」

店主「俺も詳しくは知らないんだけどな」

側近「そうか……ありがとう」

店主「魔族の仕業だったとしても……ま、自業自得だわな」

側近「ん?」

店主「私設軍隊作るとか言う噂もあったしな。元々きな臭い街だよ」

側近「……でも、さ。もし本当に魔王が……ってなら」

側近「力強くネェのか?」

店主「奴隷制敷いてた様な街だぜ?そりゃ兄ちゃんの意見も一理あるが」

店主「結局、あの街の金持ちだか権力者の為だけの物なら」

店主「こんな辺境の街の俺たちにゃあ、関係ねぇよ」

側近(成る程ね……)
0089この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:25:41.40ID:Nka4wcCV
店主「この街も鍛冶師達が居るけど」

側近「ん、おお……」

側近(まだ続くのかよ! ……インキュバスと鉢合わせなきゃ良いが)

店主「魔法の力の強い奴らは、あの街に行きたがってたな」

側近「魔導の街にか?」

店主「ああ。魔法剣だか、何だか……そういう、不思議な剣があるんだとさ」

側近「……俺も聞いた事はあるが。ありゃ御伽噺の類だろ?」

側近(魔法剣なんて、魔王様のあの禍々しい剣ぐらいしか知らネェぞ)

店主「俺は詳しくネェからナァ……でも」

店主「扱いが難しいとか何とかで、滅多に鍛えられる奴が居ないんだと」

側近「魔法の知識や力が無いと……か」

店主「御伽であれ、この村の鍛冶師にとっちゃ憧れなのさ」

側近「へぇ……本当にあるなら、見てみたいね」

店主「そうだなぁ……後、エルフ達の使う奴とかな」

側近「エルフぅ?」

店長「この世界のどこかに居るらしいぜ?」

店長「力の弱いエルフでも、簡単にしかも強い!……とか」

側近「へぇ……しかしそれこそ……御伽噺、だろ」

店長「ま、な……しかし憧れるんだろうよ」

側近「奥が深いね……」ガタ

店長「何だ、もう行くのか?」

側近(今を逃すと帰れる気がしない!)

側近「ああ……この山を越えたいんでな」
0090この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:26:06.75ID:qnMTw0zE
店主「北の街にでも行くのか?」

側近「……まあ、腕試しかな」

店主「やめとけやめとけ!ここより小さな集落しかないぜ?」

店主「不気味な塔の下じゃ、狼共も群れを作ってるって言うし」

店主「明日になれば船も来る。宿にでも泊まれよ!」

側近「……不気味な塔、ねぇ」

側近「まあ、大丈夫さ。魔除けの石とやらも買ったしな」

店主「どうしてもってなら止めないけどよ……命は一つしか無いんだぜ?」

側近「これでも腕に覚えはあるさ……ま、怖くなったら」

側近「戻ってくるよ」

店主「おう……また土産話持ってきてくれよ?」

側近(ほっとんどお前が喋ってたろ!)

側近(……まあ、良い。本当に出よう……ああ、ケツ痛ェ)



キィ……パタン



側近(北の街……北に街なんかあったんだな。それに……塔?)

側近(狼……狼将軍の眷属か、野生のか解らんが……)

側近(一度確かめに行く必要があるだろうが……)

側近(今は……まあ、良いだろ。取りあえず、戻らないとな)
0091この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:26:49.45ID:vkntHU0N
側近(教会の裏手……はまずいな。インキュバスに会うのは避けたい)

側近(街を出て山の方へ入るか……)スタスタ



インキュバス「そちらは危険ですよ、旅の方?」

側近「!」ソロソロ……クル

側近(アウトー!)

 婦「あら、先ほどの……」

側近「……シスター。と……噂の神父様、ですかね」

インキュバス「……こんな日暮れに山の方へ入られるのは自殺行為ですよ?」

側近( 婦が一緒で助かったのか否か……)

側近「腕試し兼ねて、ですので……大丈夫です」

側近「先ほど、シスターから魔除けの石も買わせていただきましたし?」

インキュバス「魔除け……ふふ、そうですか。ですが……」

インキュバス「良ければ教会で休まれては?宿もこれからでしたら」

インキュバス「取るのも難しいでしょう」

側近「いえ、そんな……ご迷惑になりますし」

 婦「そうですよ……いくら魔除け石があると言え」

 婦「近頃は、狼も増えていますし」

インキュバス「……主が死にましたからね」

側近「主?」

側近(……狼将軍の事か)

インキュバス「ええ。彼らの……主が。ですから……とても凶暴になっています」
0092この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:27:14.18ID:cW2Mdzyg
側近(狼書軍の眷属……支配から逃れれば、その力は衰えるはずだ)

側近(とは言え……元々凶暴で悪食奴らだからな)

側近(それでも、さらに凶暴化する事は無いはずだが……?)

側近(自我を失って理性を無くした状態、と言いたいのか……)

側近「それは……まあ、でも。大丈夫です」

インキュバス「私も……良からぬ事にならぬようにと」

インキュバス「先ほど、山道等にこの、魔除け石を置いてきたところですよ」ニコ

側近(それ確実に余計凶暴にさせてるよね!)

側近(……て言うか、それが原因じゃネェか、こいつ!)

側近「成る程。流石神父様ですね」ニコ

側近(解ってやってやがるな……くそったれ!)

インキュバス「何処まで力が及ぶか解りませんがね」

側近「でも何故、狼達の主が死んだと?」

インキュバス「感じるのですよ……命の嘆きを、ね」

側近「……流石」

側近(笑ってる……が、殺気はひしひし伝わってくるな)

側近(しかし……こいつの考える事は良く解らんし)

側近(舌戦、頭脳戦で勝てる気はせん……悔しいが)

 婦「はい……流石神父様です」

側近(うっとり見上げちゃってまぁ……)

側近「まあ、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」

インキュバス「……見過ごすわけには参りませんよ」

インキュバス「人を救うのも我々の勤めですから」

側近「……」

側近(逃がさないつもりか?)

側近(しかし……山に入っても転移しずらいな)

側近(……転移なんて悟られるのも、まずい)
0093この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:27:33.85ID:u0x1sOPK
インキュバス「ですから。ね?遠慮なさらずとも良いのですよ」

 婦「そうですよ。すぐに支度いたしますから」

側近「……では、一度宿を見て参ります。それで、駄目なら……」

側近「お世話になりますよ」

インキュバス「……ええ。それがよろしいでしょう」

 婦「遠慮なさらず、いらしてくださいね。お待ちしております」

 婦「行きましょう、神父様」

インキュバス「では、後ほど」スタスタ

側近(……どうする。魔王様はなるべく早く戻れと言ってたが……)

側近『魔王様?』

魔王『見てる』

側近『そっちは……落ち着いたか?』

魔王『……側近』

側近『何だ』

魔王『構わん。殺せ』

側近『……魔王様?』

魔王『お前は私の目も持っている。力は強くなっているはずだ』

側近『魔王様!』

魔王『何だ』

側近『……落ち着け』

魔王『……』

側近『今ここでインキュバスを殺せば、本当に魔族の仕業だ何だと言われるぞ』

魔王『間違いではあるまい?』
0094この頃流行の名無しの子垢版2021/02/10(水) 22:27:53.16ID:mB+qw1Fw
側近『勇者の振りして旅しろなんてのは反故で良い、良いが……』

側近『見ていたなら解るだろう?今……魔族が動いている事を』

側近『人間側に悟られるのはまずいだろ?』

魔王『……共存は面倒だ。不干渉で良い』

側近『だろ?……その為に、俺たちは、過激派の芽を……』

魔王『後はインキュバスだけだろう』

側近『……お前、まじで落ち着けって』

側近『何があったか知らんが、とにかく俺が帰るまで大人しくしてろ!』

側近『良いな!?』

魔王『……』

側近『お返事!』

魔王『……ああ』

側近『しっかりしろよ、魔王様』

魔王『大丈夫だ』

側近(そうは思えないんだが……何があった?)
0096この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:54:31.94ID:vwb9QaDx
側近(取りあえず……宿か)キィ

側近「すまん、部屋は開いてるか?」

宿屋「あ〜……すみません、先ほど一杯に」

側近「……まじで?」

宿屋「はい……申し訳ない」

側近「いや、まあ……そりゃ仕方ないな」

宿屋「明日、商船が来るってんでね……人が多くて」

側近「ああ……そういえば酒場の店主も言ってたな」

宿屋「ええ、船に乗る人達も多いんですよ」

側近「成る程ね……いや、ありがとな」

宿屋「またお願いします」



パタン



側近(まーじーかーよ……しかし、な)

側近(教会か……いやいやいや)

側近(取りあえず酒場に戻るか。飯も食わんといかんし)

側近(隙を見て……夜半になれば転移できるタイミングもあるかもしれん)
0097この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:54:51.41ID:O1ugMivv
側近「……」コソ

店主「お……なんだ戻って来たのか?やっぱり」アハハ

側近「いや、まあ……神父様に止められて、な」

店主「そりゃそうだろうよ。日暮れ時からあの山超えようなんて」

店主「……自殺行為だって。ほれ、ミルク」

側近「お、おう……サンキュ」

側近「ついでに何か飯作ってくれよ」

店主「なんだ、宿取ったのか結局」

側近「いや、開いてなくてな……それも」

側近「……お優しい神父様がどうにかしてくれるんだとさ」

店主「何だ、良かったじゃネェか」

側近「まあ、ね……」

側近(明日来る商船……船長だったら良いんだが)

側近(まあ、そうじゃ無くても……乗り込んじまえば、どうにかなるか)

店主「明日、大量にあの魔石をどこかの街に運ぶって話し出しな」

側近「……それは」

側近(まずいだろ……止めるべき……だよな)
0098この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:55:11.49ID:Y6LdNnFU
側近(しかし……どうやって?やっぱり……)

側近(直接、インキュバスとやり合うしか……)

店主「ほらよ」ドン

側近「……お、旨そう」

店主「船が来る様になって良い材料も届く様になったからな」

側近「……そうやって、どんどん平和になりゃ良いのにな」

店主「そうだなぁ……だが、さっきの話さ」

側近「……魔王がどうの、か」

店主「ああ……本当だとすりゃ、厄介な話だ」

側近「……」

店主「ここはまあ、まだ……な。だが」

店主「山を越えた先の、北の街は……北の大陸に近い」

側近「……そう、だな。そうなるな」

側近(そうだっけな……その街の位置がいまいち……)

店主「そんで、北の大陸との間にあの塔があるだろ?」

側近「その塔ってさ、何があるんだ?」

店主「天辺は黒い雲に覆われて、何処まで続くかも解らんらしいぜ」

側近「そんな高いのか」

店主「ああ。入口も厳重に鍵が掛かってるって話だ」

側近「……へぇ」

店主「ま……噂話だけどな。ただの」

側近「話聞いてると近づけそうにないしな」

店主「魔物がなぁ……でもさ」

側近「ん?」

店主「お宝が眠ってるとなると、話は別だろ?」

側近「……おたからぁ?」
0099この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:55:29.54ID:r/v1iOA9
側近「それも……噂か」

店主「まあそう言うなよ。ロマンがあって良いじゃないか」

側近「ロマンねぇ……」

店主「何だよ、興味無いか?」

側近「正直に言うとあんまり。まあ、腕試しとか言った手前なんだが」

側近「……魔物の事考えると、魅力的には思えネェな」

店主「まあ、そうだけどよ」

側近(まさか食いつく訳にも行かねぇだろ……しかし、確かめてみる必要はあるよな)

側近(人間に荒され、嗅ぎ回られるのも……場所的に厄介だ)



キィ……パタン



店主「神父様!?」

側近「!?」

側近(……インキュバス!?)
0100この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:55:48.03ID:BZAtiqMm
インキュバス「おや、貴方は先程の……宿は取れましたか?」

側近「ああ、それは……」

店主「駄目だったらしいですよ?仕方ないですけどね……それより、珍しいですねぇ」

側近(何でお前が答えるんだよおおおお!)

インキュバス「ああ、やはりそうですか……残念でしたね。でもご安心を」

インキュバス「教会に、お部屋をご用意しますよ……とりあえず、ホットワインを」

側近(はい、逃げ道無し!俺終わった!)

側近(店主の阿呆ー!)

店主「なんだ、良かったなぁ、兄ちゃん!」

側近「……そう、ですよねー」

インキュバス「隣失礼……?」

側近「どーぞ……」

側近(何で並んでこいつと酒飲まなきゃいけねぇんだ……ミルクだけど)

店主「神父様、お食事は? ……あのべっぴんさんは一緒じゃないんですね」

インキュバス「ああ、食事は……済ませましたよ」チラ

側近「……?」
0101この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:56:07.28ID:vTi00SjO
インキュバス「シスターは……『食事』の後、疲れて眠ってしまいましてね……」

側近「……!」

側近(そうか、こいつの食事ってのは……!)

側近(…… 婦、随分痩せたって……魔王様が言ってたな)

側近(……精気、吸い取られてんのか)

店主「そうですか。確かに良く働いてるからなぁ、シスター……」

インキュバス「ええ、本当に良くやってくれてますよ」

側近「……」

側近(……まずいな。本当にあんまり時間が無いんじゃないのか)

側近( 婦、このままじゃ……)

インキュバス「……ねえ、旅人さん」

側近「あ?俺か……なん、です。神父様?」

インキュバス「先程、少しお話しましたよね……主が亡くなった、と」

側近「……狼の話か」
0102この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:56:30.21ID:j8Xyl6xl
店主「狼……の主?」

インキュバス「ええ……群れのリーダーと言うか……それがね」

インキュバス「どうにも、殺された様で」

店主「へぇ……誰かが討伐したんですかね」

側近「……しかし、聖職者ってのは凄いね。そんな事までわかるんだな」

インキュバス「……嘆きや悲しみを聞いたに過ぎませんよ。命の輝きが失われたのを感じたんですよ」

店主「流石神父様だなぁ……」

側近(眷属とは言え所詮は獣……統率を失えば……ま、そりゃ解る……わな)

側近(偉そうに……)

インキュバス「……問題は、誰が倒したか」

店主「え?でも……」

インキュバス「……旅人さん。貴方ですか?」

側近「……俺?違いますよ」

インキュバス「……そうですか」

側近(……魔王様とは気がついて無いのか?)

側近(しかし……こいつ、どこまで把握してるんだ……?)
0103この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:56:53.15ID:J+5sXhOc
側近「何で……俺だと思ったんだ?」

インキュバス「簡単です……貴方『達』しか居ないから」

店主「貴方達?」

インキュバス「旅人さん、でしょ?」

側近「……」

店主「ああ、成る程」

インキュバス「『貴方』では無いのですね……では、誰か」

側近「さてな……重要なのか、それ」

インキュバス「……当然ですよ。獣達が」

側近「アンタが作った魔除けの石とやらが役に立つんだろ?」

側近「さっき山道だかにも配置してきたんだろ」

側近「……徳の高い神父様の、神聖な魔除けの石だ」

インキュバス「……」

側近「……これで、街や人が襲われる事があるはずがない」

側近「……よな?」
0104この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:57:13.91ID:ZDj4AF7o
店主「そうですよ、神父様!」

店主「明日には船で出荷もされるし……魔王や魔物を恐れてばかりじゃないよな。俺たち人間だってさ」

店主「ちゃんと出来る事、あるんだ」

インキュバス「……そうですね」

店主「他の神父様達には真似できないんかねぇ」

側近「何がだ?」

店主「そういう、魔石を作ったり、さ」

店主「そうすりゃ、もっと強力になるだろ?」

側近「……本物なら、な」

インキュバス「……どう言う意味です?」

側近「騙りを憂いてるだけさ」

店主「まあ、確かに多くで回れば紛い物や粗悪品ね心配はあるわなぁ」

側近「そう言う事……さて、俺はそろそろ」カタン

インキュバス「……では私も」

側近「え」

インキュバス「……言ったでしょう。どうぞご遠慮無く、と」
0105この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:57:37.81ID:S3Cpk8IH
側近「まじか」

店主「遠慮無く世話になっとけよ、兄ちゃん」

店主「アンタが酒飲めるなら看板までどーぞって言うとこだが」

店主「……延々ホットミルク飲み続けるのも辛いだろ」

側近「……」

側近(どうする……教会に行けば、多分 婦が居るんだろうが)

側近(……まさか本当に教会で寝かして貰えるとは思えないわな)

インキュバス「行きましょうか旅人さん?」

側近(そんで、ここで断るのも不自然、とね……)

側近(気にせず転移石で逃げても……どうにでもなるっちゃなるが)

側近(……明日の輸出は止めたいな)

インキュバス「どうしたのです?」

側近「じゃあ、遠慮無く世話になるとするかな」

側近(こう言うしかネェだろ、糞!)

側近「……色々、話聞かせて貰いたいね」

インキュバス「ええ、私もですよ?」

店主「まいど!またお待ちしてるよ」



カチャ……パタン



インキュバス「……随分な猫の被り様だ」スタスタ

側近「そっくりその侭返すぜ、インキュバス」スタスタ

インキュバス「君なのか、魔王なのか」

側近「せめて様、つけたらどうだ……仮にも俺らの王様だぜ?」

インキュバス「……」ピタ
0106この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:58:20.70ID:Ss1ZX638
側近「睨むな」

インキュバス「……誰だ。狼将軍を殺したのは」

側近「さっきも言っただろう。気になるのか?」

インキュバス「当然だろう!城に残って居たのは前任の魔導将軍ぐらいの物だ!」

インキュバス「……糞、僕の計画は完璧だった筈なのに……ッ」

側近「……阿呆かお前。俺も魔王様も居るんだぞ?」

インキュバス「君やあの魔王が何の役に立つ……愚鈍な指導者など……!」

側近「だが狼将軍が破れたのは事実だ」

側近「……それに、もし狼将軍が城を制圧出来たとして」

側近「お前の望む形になったとは思わないけどな」

インキュバス「……何?」

側近「あの女の短絡的な性格を加味した上で選んだんだろうがな」

側近「お前が企んでんのは……『魔王の進攻に怯え続ける人の世』じゃネェのか?」

側近「じゃ無きゃ、こんな……偽物の魔除けの石だなんてもん作って」

側近「態々世界中にばらまこうとしネェだろ」

インキュバス「答える必要は無いな」

側近「勝手に続けるさ……狼将軍が魔王様や俺らを殺し」

側近「お前が魔王にすり替わる……そしてその下地が出来た恐怖の下の人間の世界に」

側近「狼将軍を筆頭に、魔物共を暴れさせる」

インキュバス「……」

側近「お互いに望む事が叶って、万々歳、ってか?」

インキュバス「…… ふ、ふふ……」

側近「……なんだよ」
0107この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 01:59:25.42ID:2zjgo/mS
インキュバス「だから君は馬鹿なんだよ、側近!」

側近「……お前に言われたくネェ」

インキュバス「お互いに願いが叶う?僕が魔王になって」

インキュバス「狼将軍に世界を襲わせる? ……下らない」

インキュバス「そんな事すれば、確かに最初は……僕の魔石の意味があるかもしれない」

インキュバス「あの女の性格を知ってるだろうって?当然だ!」

インキュバス「確かに暴れていれば満足だろう。指導者の地位に興味など無いだろう」

インキュバス「だが……あいつと狼共に掛かれば、数十年もしないうちに人等根絶やしにしてしまうさ!」

側近「……世界を支配したいんじゃないのか」

インキュバス「僕が狙ったのは狼将軍と魔王の相打ちだ。そう……さっき君が言った通り」

インキュバス「腐っても魔王。愚鈍でも我らが王。たかだか将軍の一人ぐらいに」

インキュバス「あっさり負けやしないだろうさ」

側近「だから……数で勝負したのか」

インキュバス「前任の魔導将軍……それに君も居るからね」

インキュバス「君達は最期まで魔王を守ろうとするだろう」

側近「……ジジィは死んだそうだ。鴉もな」

インキュバス「鴉?ああ……あの枯れ枝の様なばあさんか。まだ生きていたんだな」

側近「予想外だったか?」

インキュバス「……そうだな。だが一番の計算ミスは、君がここに居る事だ、側近」

インキュバス「どうやって来たかは知らないが……まさかあのタイミングで城を不在にしているとはね」
0108この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:00:36.10ID:NEypf4XJ
側近「……」

側近(必然的に、狼将軍を倒したのは魔王だと言う事になる)

側近(さて……どう出るかな)

インキュバス「だが、丁度良い。ここで君を潰せば」

インキュバス「……僕は堂々と魔王城に、椅子を取りに行ける」

側近「……やっぱり世界征服だとか、そんな事狙ってんじゃネェかよ」

インキュバス「違う……僕は勇者になるんだ」

側近「はぁ?」

インキュバス「魔王となり勇者となる。勇者は人々の希望、人々の幸せな未来の証」

インキュバス「魔王であり勇者であれば、人々は絶望の世界の元で」

インキュバス「一縷の望みを、希望を……文字通り夢に抱いた侭」

インキュバス「生き、死んで行く……!」

側近「……」

インキュバス「終わらないループの中で、何時までも巡り来ない平和と言う幻想を抱いて」

インキュバス「決して消えることの無い不安に抱かれて死んで行くんだ!」

側近「……はぁ」

インキュバス「解らないか?常の混沌だ……!約束された安寧や平和などに」

インキュバス「どうやって楽しみを見いだすんだ!」

側近「あー……お前の頭がおかしいのはよぅく解った。解ったから」

インキュバス「考えても見ろ、側近!この世……世界と言う物は!」

インキュバス「全て、表裏一体で出来ている。光と闇。善と悪……」

側近「……」
0109この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:01:23.94ID:9I639+Fh
インキュバス「一方だけの存在では何も成り立たない」

側近「……確かにな、人間と魔族お手々つないで仲良しこよし、なんてのは」

側近「俺も御免だがな」

側近(耳が痛いぜ……俺が、魔王様に言った事と……)

側近(いや、似て非なる物、だ……俺は、インキュバスの望む世界を作りたい訳じゃ無い)

側近(そんな世界に魔王様と、生きていたい訳じゃ無い……!)

インキュバス「……今からでも遅くない。僕に従うと言うなら見逃すよ、側近」

側近「何で俺がお前に従わなきゃならネェんだよ」

インキュバス「何故あの、無能な魔王に……ッ」

側近「だから様つけろってさっきから言ってんだろうが!」

インキュバス「ッ……どうあっても邪魔する気か」

側近「あのなぁ……何でお前、そう疑いもなく自分が魔王になれるとか」

側近「思っちゃえる訳?」

インキュバス「逆に聞こう……!お前は何故思わない!?」

側近「俺は魔王なんて器じゃネェよ。そんなに強い魔力を持ってる訳でもないしな」

インキュバス「ならば……!」

側近「だからってお前に傅く理由にはならねぇよ、バカタレ!」

側近「あの椅子は魔王様も物だ……残念だがな」

インキュバス「……解ってはくれないんだな」

側近「さっきも言ったろ?お前の頭がおかしいのはすっげぇ良く解ったってば」

インキュバス「……残念だ」

側近「俺もだよ」

側近(やっぱこれ戦う……しかネェよなぁ。見逃してくれるとも)

側近(いやいや……俺が見逃す訳にもいかないな)
0110この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:02:24.61ID:B95LjMx5
側近(明日の輸出は止めなきゃいけねぇし)

側近( 婦の事もどうにかしなきゃいけなねぇし)

側近(魔王様の様子はなんかおかしかったし、ああああああああ、もう!)

側近「ほんっと俺って苦労性……!」

インキュバス「ついてこい、側近……ここじゃ、駄目だ」スタスタ

側近「いきなりここで魔法とかぶっ放したらびっくりするわ!」スタスタ

インキュバス「……どうあっても考えは変わらないんだな」

側近「お前しつこいね……」



グルルルル……



側近「……?」

インキュバス「おや、承知で着いてきたんじゃ無いのかい……」

側近「狼……!?」

インキュバス「狼将軍の置き土産さ。知っての通り……こいつらは悪食だ」

インキュバス「だが、お行儀は良くてね?骨の欠片残さず、腹に入れてくれる」

側近「……ッ」

インキュバス「僕の魔石の効果も抜群……さて、残念だったね側近」

インキュバス「確か君は回復魔法が使えた筈だ……が」

インキュバス「スタミナと魔力そのものはどうかな」

側近(……骨は拾って欲しかったなぁ)

側近「勝つ前提で話すってのは負けた時に滑稽だぜ、インキュバス」

インキュバス「顔が心なしか青いのは、月の光の所為なのかな」フフ

側近(どこまでやれるか……魔王様の目を持ってるとは言え)

側近(……仕方ないな)

側近「俺はそもそも戦闘特化じゃないからな」

インキュバス「負けた時の言い訳かい?」
0111この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:02:53.50ID:Nu1dLzwA
側近(いざとなったら転移石で……否、でも)

側近(……命の方が、大事!……とは思うけど!)

側近「……死ぬな、って言われてるからな」

インキュバス「魔王か……残念だな。心酔する魔王様との約束、守れなくて?」クスクス

側近「俺は約束破らない男として有名なんだぜ?」

側近(俺と魔王様の中でだけの話だけど……充分だ)

インキュバス「初めての裏切りか……悪く無い。悪く無いね!」アハハハ!

側近「お前本当に頭おかしいんじゃネェの。ナルシストなのは知ってたが」

側近「ちょっと格好つけすぎ……ッ 風よ……ッ!」ザァアアアア……ッ

インキュバス「炎…… !?」



ゴオオオオオオオオオ!



側近「……え?」

インキュバス「う、うぁあああ……ッ」ザクザクザク……ッ
0112この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:03:34.09ID:ErrXGEWg
インキュバス「……ッ」ザザ……ッ ドン!

側近「……」

側近(背後の木まで吹っ飛んだ……!?)

側近(なん、だよこれ……俺、こんなに……)

魔王『何ぼけっとしてるんだ。とどめをさせ、側近』

側近『ま……魔王様!?』

魔王『お前は私の目を持ってるだろう……大丈夫だ』

側近(まじかよ……すげぇパワーなんだけど……)

インキュバス「く……な、なん、で……ッ」

インキュバス「君は、どこでこれほどの力、を……ッ」

側近「……内緒……かなぁ」

魔王『繰り返せ……風よ、鋼の刃となりて、彼の首を落とせ』

側近「か、風よ、鋼の刃となりて、彼の首を落とせ!!」ビュゥン……

側近「お、わ……!」ゴロン

インキュバス「!!」ゴロゴロ……ザンッ



メキメキメキ……ッ



インキュバス「く……ッ」

側近「いてて……俺まで吹っ飛ぶとか」

魔王『ふん……避けたか。て言うかお前は何やってるんだ』

側近『んな強い風の魔法なんか使った事ないんだって!!』
0113この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:04:14.07ID:JADIySP1
魔王『ああもうまどろっこしい。身体かせ』

側近「へ? ……ぅッ!」ドクン…ッ

インキュバス「……う、嘘だろう……何で、あいつが……こんなに ……!?」

側近?「……来い、私の剣よ」キュィイイン……

インキュバス「……な、そ、それ……は!? 魔王、さまの……!? な、何故……!?」

側近?「確かに、これは私……魔王の剣よだ。慣れない身体で魔法を使うと壊してしまいそうだからな」

インキュバス「君、何言って……!?」

インキュバス(側近の瞳が……紫に!?)

インキュバス(どう言う事だ、さっきまで確かに緑……!)

側近?「……語る言葉は無い。死ね、インキュバス」グルン……ザシュ!

インキュバス「な、か、身体が、動かな……ッ あああああアアアアア!?」ブシュゥウウ……!
0114この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:05:04.57ID:oX/VA7gr
インキュバス「……ぐ、ぁ……ッ 、ァ……」

側近?「 婦は……教会か」クル

インキュバス「……し、ね……ッ そ、きっ…… !! 炎……よ!」ゴォオオ!

側近?「!」



パキィイン!



インキュバス「な……剣で、弾い……、た……!?」

側近?「……そうか。インキュバスは他者の精気を吸い生きてる……生命力は」

側近?「桁外れだったな」ガシ……グイ!

側近?「放っておけば……何れくたばるだろうが」

インキュバス「ぅ……ッ お、まえ……誰だ……側近じゃ……ない、な……」

インキュバス「そ、の……剣、どこ、か……!!その、紫……!!」
0115この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:05:40.56ID:ZvnvEkzN
側近?「『お前は誰だ、側近じゃない』」

側近?「『どうして紫の瞳なんだ』」

側近?「『剣はどこから出したのか』」

側近?「……か?」

インキュバス「おま……ま、さか……!!」

側近?「存外頭が悪いな。魔王の剣は魔王にしか扱えん」

側近?「……まあ良い。お前を倒せば終わりだ。 婦は帰して貰う」

インキュバス「は、はは……!もう、遅い……!」

側近?「何……?」

インキュバス「名は頂いた……!それに……ッ ゥ、グ、ゥ……ッ」ゲホッ

インキュバス「……彼女の、いの、ち……は、もう……ッ」

側近?「……残念だな。願えば叶うのさ」ザシュ!



……ドサッ



側近?「……私は、魔王だからな」
0116この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:06:42.38ID:9OVU6HZe
側近?「……」

側近?( 婦の命が……?)


側近『ちょっと、魔王様!?』

側近『どーなってんのこれ!』

側近?「……もう暫く借りるぞ」スタスタ

側近?(教会……ここか)カチャ……キィ

側近?(もう休んでいるか……)

 婦「こんな夜更けにどういたしました……あら、先ほどの」

側近?「……帰ろう、 婦」

 婦「……私は、シスターです。 婦等と言う名では」

 婦「あの……神父様とお会いになりませんでしたか?」

 婦「数時間前、貴方を迎えに行くと出たきり……」

側近?「神父……インキュバスの事か。奴なら死んだ」

 婦「……イン……いいえ、あの方は、そん……あの、方……は……ッ」

 婦「……うぅ……ッ」

側近?(インキュバスが死んでも……洗脳は解けんのか)

側近?(……相当楽しんだな、あの男……ッ)

 婦「神父、さ……ま、は……インキュバス様は、私の神……ッ」

側近?「……神、か」

 婦「そう、です……私、の……ッ 主、さま……ッ」ガク

 婦「うぅ……頭、が……ッ」
0117この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:07:33.79ID:f/DcPrQX
側近?「……神など居ない」

 婦「え……?」

側近?「この世に……もう、神など居ない」

側近?「ましてや、たかだか命の一つ。それが神だ等と烏滸がましい」

 婦「……貴方、瞳の、色が……紫……ッ う、う……アアアア!」

側近?「この姿では……説得力に欠けるがな」

側近?「思い出せ、 婦」

 婦「 婦……違う、私、私は……ッ」

側近?「…… 婦。紫の瞳の私は、誰だ?」

 婦「……私は、シスター……、です……! 婦、等…… 婦……ッ」

 婦「違う……ッ」

側近?「……駄目か」ハァ

側近『何諦めちゃってんの!?』

側近?「急に騒ぐな……仕方ない」

側近『お、おい……お前……』

側近?「……許せよ、 婦」パァ

 婦「……あ」クラ……フラリ

側近?「……」ギュ



シュゥウン……



側近『え、ちょ……お、ぅえエエエ……ッ』
0118この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:08:22.65ID:Ul5L3Y3u
……

………

…………



シュゥン……



側近「急に何するんだよお前はあああああああああッ ……あれ?」

側近「おわぁッ」ドタッ ……ドン!

側近「い、痛い重い……ッ」

 婦「……う、ゥ」

側近(あ、あ……そうか…… 婦抱いてたんだっけ……て)

側近「あら……?戻ってる……」

使用人「お疲れ様でした、側近様」

側近「少女……じゃないや、使用人ちゃんか……やれやれ、魔王様は?」

使用人「自分の身に戻られて、姫様の部屋へ」

使用人「側近様と 婦さんも連れて来いと」

側近「……休む暇は無い訳ね」

側近「……姫様は大丈夫なんだな?」

使用人「はい……離れていらした間の話もしましょう」

使用人「……魔王様の事も」

側近「魔王様……そういえば、様子がおかしかったな」

使用人「……取りあえず、姫様のお部屋へ」

側近「 婦運べば良いんだな……ヨイショ、と」

使用人「……手伝います」

側近「ああ、良いよ……大丈夫だ」

使用人「ですが……随分魔力を消費されたでしょう?」

側近「その筈……なんだが」

側近(これも……目の……魔王様の力、か?)
0119この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 02:09:22.15ID:ZDkJbpRJ
使用人「……」


コンコン


使用人「姫様、失礼致します」

姫「どうぞ……聞いてるわ、早く寝かせてあげて」

側近「姫様……随分顔色が良くなってるな」ホッ

側近「……あれ、魔王様は?」キョロキョロ

姫「 婦が先……こっちよ、側近」

側近「あ、ああ……よっと」ドサ

側近「……気を失ってる、だけだよな?」

姫「……」

側近「姫様?」

姫「使用人、魔王を呼んできて頂戴?自室に居るわ」

使用人「はい」スタスタ、パタン

姫「……この人、命の炎が……消えそうだわ」

側近「命の炎?」

姫「簡単に言うと……寿命が、殆ど残って居ない」

側近「!?」

姫「……インキュバス、とやらに精気を吸われて居たんでしょう」

側近「ああ……」

姫「洗脳も解けてないって言ってたわね」

側近「……」

姫「目が覚めて、正気に戻っても……彼女は、もう」

側近「……持たない、って言いたいのか!?」

姫「大きな声を出さないで」

姫「……すぐに死ぬ訳じゃないでしょうけど」

側近「……」


カチャ


魔王「……」
0120この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:02:00.92ID:nOoJ6ctt
使用人「失礼致します」

魔王「……姫、 婦は?」

姫「危惧してた通り……ね。多分……長くは持たない」

魔王「……そうか」

側近「起こしてやらんで良いのか」

魔王「ゆっくり寝かしておいてやれば良い……時間など、腐るほどある」

魔王「……全て、済んだんだ」

使用人「……」

姫「……」

側近「……話を聞かせてくれないか」

使用人「魔王様?」

魔王「……お前が話してやれ。姫についてはお前に任せていたしな」

使用人「はい……では」

側近(……なんだ?違和感……?)

側近(否……流石に……疲れてる、のか)

使用人「……エルフの加護。あの、始まりの大陸の」

使用人「知人の墓へ行き……今、姫様がしていらっしゃるペンダントに」

使用人「その、加護の力を移しました」

側近「……その、金のペンダントか」

姫「そう……これのおかげで、随分楽になった。どころか……」

姫「力が漲る様よ」

側近「……うっすら、緑に光ってるな」
0121この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:02:22.97ID:9GqLPmjR
姫「知人も、使用人も大地の加護を受けていた」

姫「元々、清浄な土地なのでしょうね。それも相まって……」

姫「守ってくれているのだわ、きっと」

使用人「ここから、遠いですからあの地は」

側近「じゃあ……姫については心配ないんだな?」

姫「当分は……ね」

側近「当分?」

姫「どう考えたって、ここの……魔の気は凄まじく強い」

側近「……そうだな。始まりの大陸が、その大地がそもそも清浄なのと同じで」

側近「この北の……最果ての大地は魔の気に染まってる」

姫「この加護の力だって、何れは……消えてしまうでしょうね」

側近「魔の気に負ける……飲み込まれる、のか?」

姫「解らない……けれど、加護自体も永遠じゃ無い」

姫「不変の物なんて、何処にも無いわ、側近」

側近「……」

使用人「そして……私は魔へと変じました」

使用人「人としての命が失われるギリギリの所で……魔王様のお力に寄って」

側近「……そう、望んでいたんだろう」

使用人「はい」

側近「で……戻ったところで、狼将軍が狼共を率いてきた」

使用人「ジジィさんと、鴉さんは……」

魔王「……確認に行ったが狼将軍の言う通りだった」

魔王「どれが誰の肉だか解らず、骨すらも……拾えん」

側近「……」

姫「多くの……命の炎が消えていったわ」
0122この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:02:42.53ID:10cY4DXa
側近「姫……」

姫「気分が良くなったから……か、エルフの加護のおかげか、解らないけれど」

姫「次々と……空へ。大地へと還っていったのを……感じた」

使用人「……」

姫「側近……窓の外を見て」

側近「? あ、ああ……」スィ

側近「……!?」

使用人「……」

姫「……」

側近「な、なんで……ッなんで、燃えてるんだ!?」

魔王「私が火をつけたからだ」

側近「魔王様!?」

魔王「……残りの、屍肉を貪っていた狼共を駆除する目的では無い」

魔王「浄化の……炎だ」

側近「……浄化、の……炎?」

魔王「炎で清めれば、血を吸い力を吸った大地も生き返るだろう」

魔王「……時間は掛かるだろうが」

側近「……」

魔王「忌まわしい時代の記憶など、消えてしまえば良い」

側近(魔王様……?やっぱり、何か……様子、が)
0123この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:03:07.24ID:ARjpLSKO
側近「使い魔共は……?」

使用人「逃げ遅れた者も……恐らくは多いでしょう、が」

使用人「……城に、残って居ますよ。ちゃんと」

姫「……今、城内の片付けを任せているわ」

側近「狼共か……」

魔王「私と使用人で大方駆除はしたが……どうしてもな」

側近(流石に城は焼いて清めるとか言わないよな……)

魔王「阿呆。流石に言うか、そんな事」

側近「え?」

使用人「え?」

魔王「?……なんだ?」

側近(……今、俺の心を読んだ……?)

魔王「インキュバスも消した……もう、終わりだ」

魔王「……こんな、馬鹿げた事……」フゥ

側近「後は…… 婦、か……あ!そうだ、お前……!」

魔王「何だよ」

側近「俺の身体乗っ取った時……どうして、魔王の剣を……!?」

魔王「ああ……これか」シャキン

側近「うわああああああああああああ!どっから出した!?」

魔王「側近、うるさい。あの時はこっちで……本体で手にしていたからな」

側近「ちょ、今……!? 持ってなかったよね!?」
0124この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:03:27.57ID:9YeHH+Wz
魔王「手元に呼ぶくらい、難くない……まあお前の姿を借りた時には流石にな」

魔王「だから……予め私の体に持たせておいた」

側近「……あ、ああそう」

姫「……」

使用人「……」

側近(確かに……規格外だとは解ってたが)

側近(こんなに何でもありだったか……?)

側近(それに……なんか、違和感を感じるんだけどなぁ……姫と、使用人は……)チラ

使用人「……」

姫「……」フイ

側近「……」

魔王「……で、それがどうした」

側近「いや……まあ、規格外だからな」

魔王「私は魔王だ……願えば」

姫「何でも叶う?」

魔王「……ああ」

側近(少なくとも、姫は気付いてる、よな)
0125この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:03:51.39ID:FSPvtkkh
側近「……何でも?」

魔王「……」

使用人「魔王様は…… 婦さんを魔に変じるおつもりですか?」

魔王「……望むなら、だ」

側近「長くないとはいえ……ん、ちょっと待て」

側近「……魔王様、それ、どうした?」

魔王「うん? ……剣がどう……」クルリ

使用人「……亀裂?」

姫「あ、本当だ……側近、良く気がついたわね……」

側近「見事にヒビが入ってるな……」

魔王「……ふむ。何時……」

側近「お前、剣でインキュバスの魔法弾いたろ……あれじゃないのか?」

魔王「否……あの程度では考えられん……と、思うが」

姫「治せるの、これ……」

側近「どうだかな……なんせ魔王様にしか扱えない剣だ」

魔王「……構わんさ。もう必要もない」
0126この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:04:56.03ID:YNp1V4yd
魔王「それより…… 婦は実際、どの程度……生きれる、んだ?」

姫「はっきりとは……わからないわ。だけど……そうね」

姫「……今の彼女の命の炎は……病床の老人程度、と……等しいと思う、わ」

使用人「……一年?」

姫「わからない……でも、多分……長くても、それ以上は……」

 婦「ん……ぅ」

魔王「……目が覚めたか?」

 婦「ここは、どこ……あ……ッ」

側近「大丈夫か、 婦」

 婦「…… 婦……違います、私の、名は……ッ」

魔王「 婦」

 婦「!」ビクンッ

魔王「私の目を見ろ 婦……私の瞳は何色だ?」

 婦「インキュバス様、は……ど、どこ……ッ」

使用人「しっかりしてください、 婦さん!」

姫「……」

魔王「 婦……私は誰だ?」

 婦「あ、貴方なんか……ッ紫の……ぁ、アァ……ッ 違う、わた、私、の……ッ」

魔王「神等……居ない!」

 婦「あな、た…… は……ッ」

魔王「 婦!」

 婦「ち、ちが……私、私の名前、は……ッ」

姫「インキュバスはもう死んだわ、 婦」

側近「お、おい姫様!」

 婦「し……ッ そ、んな……ッ違う、あれは……!」
0127この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:05:38.64ID:EKhc+VR6
姫「もう死んだのよ、 婦。思い出しなさい……紫の瞳は誰の物なのか」

姫「貴方はこれから……貴方の認める神を探して仕えれば良い」

姫「……魔王を思い出してあげて」

 婦「ま……おう……」

魔王「…… 婦」

 婦「ま……魔王様……ッわ、私……ッ」

側近「……」ホッ

魔王「……泣くな。必要無い……」

 婦「あ、あ……ッ私……なんて事、を……ッ!」

魔王「……おかえり」ギュウ

側近(一件落着……)フゥ

側近(……とは、言ってられん、よな)

魔王「 婦……話さなければならん事がある」

 婦「……は、い……何でしょうか」グス
0128この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:06:00.73ID:sSCE3QfQ
姫「私から話すわ……魔王、少し休んだ方が良い」

魔王「私は平気だが」

使用人「姫様の言う通りです、魔王様……ろくに寝ていらっしゃいません」

魔王「しかし……」

側近「言う事聞いとけ、魔王様。いくら規格外とは言え、かなり魔力使ってんだ」

側近「俺も少し休む……姫様と使用人に任せて、お互いちょっと休憩しようぜ」

魔王「……」

 婦「私からも……お願いします」

魔王「……わかった」カタン、スタスタ

使用人「側近様も、おやすみになられては?」

側近「なあ、魔王様の事なんだが……」

姫「後よ、側近……先に、 婦を休ませるわ」

姫「使用人、私が 婦と話してる間に、側近を部屋へ案内して」

使用人「はい」

側近「いやいやいや、自分の部屋へぐらい……」

使用人「行きますよ」グイ

側近「え、あ、ちょ……ッ!?」ズルズル
0129この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:06:37.27ID:U/RCMC+N
側近「何だよ……」

使用人「……気付かれましたか?魔王様」

側近「……やっぱり、あいつなんかおかしい、よな」

使用人「姫様が1番最初に気付かれました」

使用人「…… 婦さんの前では、話しにくかったのでしょう」

側近「それで……これ、か」

使用人「……ジジィさんと鴉さんの事があってから、です」

側近「……確かか?」

使用人「恐らく……」

側近「あの……魔王の剣の亀裂と、関係あるんだろうか、な」

使用人「え?」

側近「あいつは……魔王だ。確かに規格外な程に、昔っから強かったけどさ」

側近「……」

側近(心の中を読まれた様だった。あの時……しかし、目を持っていれば……)

側近(……頭が働かんな。本当に一度休むべきか)フゥ

使用人「側近様?」

側近「あ、ああ……悪い」
0130この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:07:21.74ID:zI1xNJ97
使用人「いえ……本当に一度おやすみ下さい」

使用人「話は……何時でもできます」

使用人「もう、焦る必要もないんですよね……すみません」

側近「……いや、良いさ。だが、確かに……そう、だな」

使用人「では、私は戻ります」スタスタ

側近(……焦る必要、か。まぁ確かにな)カチャ……パタン

側近(しかし、やる事はまだまだある……これからどうして行くかも考えなきゃならんし)

側近(姫様だって、いづれは)
0131この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:08:12.66ID:myW7o7cn
側近(姫様だって何れは……居られなくなる)ゴロン

側近(魔王様の様子、剣の亀裂に…… 婦の処遇、それか、ら……北の、塔……)スゥ……

側近(あ、やべぇ……魔除けの石……止めなきゃ……輸出……)スゥスウ……



……

………

…………



 婦「後……一年……?」

姫「推測よ……貴方の命の炎がとても弱く、消えそうなのは感じるの」

姫「だけど……詳しい数字迄は」

 婦「……」

姫「……ショックよね。ごめんなさい」

 婦「いいえ……」
0132この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:08:55.08ID:U90cq5QU
 婦「……自らの蒔いた種です」

姫「……でも、魔王は貴方を魔に……って言ってたけれど」

 婦「え……?」

姫「使用人は自ら望んでいたけど……」

 婦「……」

姫「……器が持たなければ、最悪死ぬわ」

姫「自我を失い、暴れるだけの獣に成り下がるかもしれない」

 婦「……」

姫「脅すわけじゃないの……確かに」

姫「人を捨て魔になれば……生きながらえは出来るでしょう」

姫「だけど……貴女の命の炎は……」

 婦「それすらも、耐えられぬ、と?」

姫「こればっかりはやってみないと解らないけれど……」

姫「使用人のケースとは違うと思う。彼女は……魔になりたいという」

姫「強い意思も持っていた」

 婦「私……は」

姫「すぐに決める必要は無いわ。時間は……まだ、あるもの」

 婦「……」

姫「とりあえず、暫くはゆっくり休みなさい」

姫「……殆ど人が居ないとは言え、ここは魔王の城だし」

姫「使用人の部屋にベッドを運ばすわ。それまではここで」

 婦「で、でもここは姫様の……!」

姫「私は大丈夫よ……魔王に話しもあるし」

姫「ゆっくりしてて?」

 婦「……申し訳ありません。ありがとうございます」

姫「何かあったらすぐに呼んで頂戴ね」スタスタ……パタン
0133この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:09:50.96ID:AqwPIcye
 婦「……」

 婦(私が、魔に……魔族、に)

 婦(耐えられたら、私は……まだ、生きていられる)

 婦(だけど……その可能性は……)

 婦(……)

 婦(神は……神等居ないと、あの人は言った)

 婦(私の、神……)



……

………

…………



パタン



使用人「……姫様?」

姫「ああ、使用人……側近は休んだ……のね」

使用人「と、思います……あの、姫様」

姫「……魔王の事ね」

使用人「はい」

姫「起きていた?」

使用人「はい、お茶を請われて用意したところなのですが」

使用人「……暫くは、誰も入れるな、と」

姫「そう……」

使用人「 婦さんは?」

姫「とりあえず私の部屋にその侭。貴女の部屋にベッドを運ばせて良いのよね?」

使用人「ええ、それは勿論」

姫「……貴女は、どう思う?」

使用人「魔王様、ですか」

姫「……」
0134この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:10:33.10ID:dmXhfE25
使用人「正直……わかりません。ですが……」

使用人「娼館で会った頃とは……少し違います」

姫「そう。そうよね……なんだろう……」

使用人「側近様も気付いておられました」

姫「当然よね、彼が一番、付き合いが長いのだもの」

使用人「……ジジィさんと、鴉さんが亡くなられてから」

使用人「何だか……少し、変わられた、様な」

姫「……魔導将軍を殺した時にも思ったわ」

使用人「え?」

姫「言葉はおかしいかもしれないけど……そうね『魔の王』らしい」

使用人「……随分、あっさりと殺したと聞きました、が」

姫「そうね……手を切り落とし、足を落とし……」

姫「……あっさりと首を跳ねたわ」

使用人「……」

姫「前領主の首も、ね」

使用人「魔族は……残忍と聞きます。ですから……」

姫「本性……いいえ、その一部と思えばおかしくないのかもしれない」

姫「だけど……随分、感情が欠如している様にも見える」

使用人「今の魔王様、ですか?」

姫「ええ……一過性の物ならば、良いけれど」

使用人「……書庫を漁っても、答えは見つからないでしょうしね」

姫「そうね……この件は側近が起きるまで待ちましょう」

姫「……少しだけ、顔を見てくる」

使用人「ですが……」
0135この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:11:52.25ID:OXB54B2c
姫「大丈夫……怒られたらすぐに出るわ」



コンコン



姫「魔王?入っても良いかしら……」

使用人「……では、私は失礼致します」スタスタ

魔王「姫か……ああ」



カチャ



姫「何してるの、魔王……何、これ」

魔王「見ての通り羊皮紙だが」

姫「……何か書いてるの……ん?」

姫「『むかしむかし、あるところに、エルフのお姫様がいました』……?」

姫「……『エルフのお姫様は新緑の髪に透き通った湖の瞳を持っていました』」

姫「魔王、これ……?」

魔王「もう少しでできあがる」

姫「……御伽噺?」

魔王「時が経てば、そうなるだろうな」

姫「……何、で」

魔王「使用人の、知識を得たいと言う欲に似ているのかもしれん」

魔王「……私が見、知り……感じた物を残したいとは思うんだ」

魔王「だが……普通に書として味気なく残すのもな」

姫「で……御伽噺風に書いてるの」

魔王「考え、書くというのも意外と面白いぞ」

姫「……『雨に濡れ、涙に濡れ、宝石の様に美しかったエルフのお姫様は』」

姫「『生まれ育ったエルフの森を巣立ち、母になりました』……」

魔王「『そうして、エルフのお姫様は、どこからも失われてしまったのです』……と」
0136この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:12:47.57ID:xh93cGJZ
姫「……」

魔王「……身体は、大丈夫なんだな?」

姫「ええ……おかげさまで」

魔王「緑に光って綺麗だ。触れないのが惜しいな」

姫「……魔導の街で、買ってくれていたんですってね」

魔王「ああ……それほど高価な物ではないが」

姫「何の……花なのかしら、これ」

魔王「モチーフか?さあな……私は花の知識に明るくない」

姫「……小さくて可愛いわ」

魔王「気に入ってくれたのならば何よりだ」

姫「魔王……」

魔王「何だ?」

姫「……これから、どうするの」

魔王「……どう、しようか」

姫「……」

魔王「何も考えて居ないわけでは無い。とりあえずは…… 婦をどうにかしてやらんとな」

姫「本人次第ね」

魔王「ああ……側近はどうした?」

姫「部屋で休ませた……随分疲れている筈よ」

魔王「そうだな…… ……」ジィ

姫「……?」

魔王「一通り、問題が片づいたら」

姫「うん?」

魔王「祝言を上げないか」

姫「……え?」
0137この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 11:13:42.09ID:vtSmtz2P
魔王「……厭ならば、無理にとは言わん」

姫「……」

魔王「お前の身の事は……解っている」

魔王「最初にした約束も忘れては居ない。指一本、触れるつもりはない」

姫「魔王……」

魔王「願わくば、お前の時間が許すなら、また……以前の様に」

魔王「旅をしたいだけだ。夫婦としてな」

姫「……今度は本当の、ね」

魔王「……」

姫「良いわ」

魔王「……え?」

姫「……何よ」

魔王「いや……随分あっさりだな」

姫「厭なの?」

魔王「まさか……本当に良いのか」

姫「自分で言い出しておいて……」

魔王「……うむ」

姫「……これ、この物語が」

魔王「?」

姫「完成したら……読ませてね」

魔王「勿論だ」

姫「……」

魔王「運命には抗えん」

姫「……そうね」

魔王「泣くな、姫……」

姫「……ッ」
0138この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:40:45.84ID:GTwc836F
魔王「……生まれる迄50年、だったか」

姫「多分……」

魔王「それまでの時間を私にくれ、姫」

魔王「……お前も、お前の子供も守る」

姫「魔王……」

魔王「約束だ」

姫「……ん」



ガラガラ……ッガッシャーン!


魔王「?」

姫「……!? な、何!?」


ワスレテター!マオウサマー!

バタバタバタ……!


姫「……側近ね」


チョットナニヤッテルンデスカソッキンサマ!

スマン、アトデカタズケルカラ!


バターン!

側近「魔王様!忘れてた!魔除けの石!」

魔王「……落ち着け側近、何を壊した」

側近「ただの壺だ、そうじゃなくて、石!」

姫「石を壊したの?」

側近「ちがあああああああああああう!だから壺!あ、じゃなくて、石!」

魔王「……魔除けの石がどうした」ハァ

姫「……使用人を手伝ってくるわ」ハァ。スタスタ

側近「インキュバスの作った偽物の魔除けの石だよ!」

側近「輸出されちまう!」

魔王「輸出?」
0139この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:41:16.34ID:vneb1fC6
側近「こいつだ……この魔石」コロン

魔王「インキュバスが作ってたって奴か……うっすら紅いな」

側近「すっかり忘れて熟睡してたよ!……こいつが魔除けの石として」

側近「船で色んな街に輸出されるらしいんだ」

魔王「……それが、今日か」

側近「時間までは解らない……んだが」

魔王「ふむ……既に日暮れか」

側近「……しまった……ッ眠りこけてる場合じゃ無かった……!」

魔王「そんなに落ち込むな、側近……まあ、間にあわんだろうが……」

側近「落ち着いていられるかあああああああああ!」

魔王「……耳元ででかい声ださんでくれ」キーン

側近「こいつはインキュバスの魔力だ……下等な魔物達は」

側近「こいつに惹かれて集まって来ちまう!」

側近「魔除けどころか、魔寄せの石だよ!」

魔王「しかしな……船が出てしまっていれば、私にもどうしようも無いぞ」

魔王「場所が解らなければ……」

側近「……だよなぁ」

魔王「ふむ……まあ、船長に連絡を取ってみるか」プチ

側近「髪抜いて何すんだ……」

魔王「『例の物、準備が整い次第頼む。ついでに頼みたい事もある』」

魔王「『側近に迎えに行かせるから、最果ての街の港へ』」

側近「……?」

魔王「……行け」バサッ ……バサバサバサ……ッ

側近「うお……ッ」
0140この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:41:42.43ID:JB0UXMym
側近「……ちっちぇカラスが飛んでった……」

魔王「鴉のばぁさんに教えて貰ったからな」

側近「……へぇ」

魔王「今はこの程度しか出来ん……お前ももう一回休め」

側近「ああ……いや、でもまだやらなきゃ行けない事が……」

魔王「命令。休め」

側近「ええええええ……」

魔王「お前には無茶をさせた……目を持っているとは言え辛いだろう」

魔王「……数刻後に食事にする。その時に全員で話せば良い」

側近「まあ……そうだな。姫も使用人も休まさないとな」

魔王「 婦もだ……私も少し休みたい」

側近「……休んでないじゃんお前。何してたの」

魔王「ん?これか……ちょっとな」

魔王「ああ、そうだ側近。お前、絵は得意か?」

側近「絵ぇ?」

魔王「……私は絵心が無くてな」

側近「物に寄るけど……ちょっと書いてみろよ」

魔王「断る」

側近「……そんなに下手なのか」

魔王「……言いたく無い」

側近(こうやってれば……何も変わった様に見えない……んだけどな)ジィ

魔王「何だ」

側近「いや、別に……意外な弱点?」

魔王「……否定はせん」

側近「まあ、俺でよけりゃ書いてやるけど」

側近「俺もそんなに旨く無いぜ?」

魔王「私よりは絶対にマシなはずだ」
0141この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:42:09.16ID:niIxEGIJ
側近「……そんなに下手なのかよ」

魔王「良いから早く休め」

側近「はいはい……あ!さらっと流したけど、さっきの何だよ!」

魔王「うん?」

側近「側近に迎えに行かす、て……」

魔王「ああ、船長が着いたらな」

魔王「……もしここを離れるとするなら、 婦も頼まねばならん」

側近「何頼んだんだ」

魔王「着くまで秘密だ」

側近「……なんかまた、どうせ俺の仕事が増えるんだろ」

魔王「まあ、そう言うな」

側近「へいへい……なんかあったら起こせよ?」

魔王「ああ……あ、そうだ側近」

側近「ん?」

魔王「割った壺は片付けて行けよ」

側近「……はい」スタスタ



パタン



魔王「……」

魔王(続き……やるか)

魔王(こうしていると……気が紛れる)

魔王(考え出すと……胸の奥から、何かが沸き上がってくる)

魔王(これは……なんだ?)

魔王(……私が、私では無くなる様だ)

魔王(落ち着けねば……力が、ぽたぽたと)

魔王(勝手に、こぼれ落ちてしまいそうになる)

魔王(……)
0142この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:42:34.05ID:2mw7euMI
魔王(『そうして、お姫様は死にました』……)

魔王(……死、か)

魔王(私の、死……世継ぎ、か)

魔王(否……私には)

魔王(……)

魔王(『それはそれは美しい、一人の娘を残して、死にました』)



……

………

…………



船長「しっかしこの辺は何もネェなぁ……」

海賊「船長、魔物です!」

船長「ん……手の空いてる者総出潰せ!」

海賊「……しかし最近多いな。何だ?」

海賊「何でしょうね。魔除けの石も買ったのに」

船長「ああ……それなぁ」

船長「気休めで買ってみたは良いが……こいつ買ってから」

船長「よっく魔物に襲われてる気がするがな」

海賊「船長ー!」

船長「今度はなんだ!」

海賊「こいつが……いて、いててて!つつくなよ!」



バサバサ……トン



船長「カラス……少年か?」
0143この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:43:01.19ID:rqA4+Rco
『例の物、準備が整い次第頼む。ついでに頼みたい事もある』

『側近に迎えに行かせるから、最果ての街の港へ』



船長「……片付けた、のか」

海賊「カラスが喋った!?」

船長「あー……その辺説明面倒だな。知ってる奴捕まえて聞け」

船長「そうか……ついに、か。おい!」

海賊「いててて、いて!いて……ッ は、はい!」

船長「何遊んでんだお前は……例の荷物、まとめとけ!」

海賊「あ、アイアイサー!」

船長「良し、お前ら!港街で男共下ろしたら」

船長「補給すませて、北の大陸に行くぞ!」



アイアイサー!



船長「おい、お前」

海賊「は、はい……いて、いたいってもう!」

船長「そのカラス任せた。水と餌やっとけ」

海賊「ええええええええ!?痛いってー!解ったからつっつくなー!」

船長「随分気に入られたな……」クック

??「船長さん、よろしいですか?」

船長「ああ、神父さんか、どうした?」

神父「港街で……あの人達を下ろすんですよね」
0144この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:47:01.45ID:0YAljzqN
船長「ああ、港街の発展の為に雇った奴らだからな」

神父「その事でお話が……」

船長「ん?」

神父「私も……港街で下ろして貰えませんか?」

船長「そりゃ構わないが……どうした?アンタ……」

船長「どこかの教会に行きたかったんじゃないのか」

神父「ええ、布教先、と言うか……まあ、探しては勿論」

神父「居るのですが……」

船長「おう」

神父「先ほど、彼らと話していて、彼らが何時か」

神父「港街にも教会を作りたいと言うもので」

船長「ほう?」

神父「私も……そこで、教えを説こうかと」

船長「……」

神父「船長さん?」

船長「あ、ああ……いや。何……」

船長「少し前に、同じような事を言う奴がいたんだ」

神父「同じような事?」

船長「ああ。いつか港街に教会を作りたいってな」

神父「ほう……その方は今どこに?」

船長「鍛冶師の村の教会に居る筈だ」

神父「そうですか……では、何れその方が戻られれば」

神父「私も会えるかもしれませんね」
0145この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:47:39.72ID:2Ov2mJK9
船長「そうだな」

船長(あの時、何となく様子がおかしかった気がしたが……)

船長(気のせいだったんだろうかな)

船長(……元気でやってりゃ良い、が)

神父「では、宜しくお願い致します」

船長「あいよ……明日の朝には着くさ」

船長「それまで、船室で休んでいると良い」

神父「それと……一つ、差し出がましいのですが」

船長「うん?」

神父「……その、魔法の石、ですか」

船長「ああ、これか……これがどうした?」

神父「とても……禍々しい気を感じます」

神父「……元々、海賊船だとお聞きしました。お宝の類かと存じますが」

神父「手放された方が、よろしいかと」

船長「……こいつ、がか」

神父「はい……私も、長く神に仕えさせていただいていますから」

神父「……信じて頂けると幸いです。では……」スタスタ

船長(……買ってきた部下の話では)

船長(どっかの村の高名な神父が作った魔除けの石、だったかな)

船長「……」

船長( 婦……無事、だよな?)



……

………

…………



盗賊「ん、確かに」
0146この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 22:48:30.06ID:GK4Myd/4
魔導の街の使者「……さっさと独立してくれと領主からの伝言だ」

盗賊「五年の約束だろ」

使者「我らの街の生活もある!」

盗賊「ため込んでた貴族共の貯金吐き出させるって話だったじゃネェか!」

盗賊「……二の舞になりたいのかよ!?」

使者「!」ビクッ

使者「……つ、次は一ヶ月後だ!」クルッスタスタ……ッ

??「まるで脅迫だなぁ……」

盗賊「わ……ッ なんだ、鍛冶師か……見てたのかよ」

鍛冶師「仕方ないって解ってるけどね」

盗賊「……この街には慣れたか?」

鍛冶師「そうだね。気候も良いし、何より活気に溢れてる」

鍛冶師「鍛冶師の村から来た甲斐はあったかな」

盗賊「俺たちも助かってるよ。お前のおかげで、随分街らしくなってきた」

鍛冶師「剣を打つのには力も体力もいるからね……僕に出来る事なら」

鍛冶師「協力は惜しまないよ」

盗賊「もうすぐ昼か……朝には着くだろうって思ってたんだけどな」

鍛冶師「船長さんの船かい?」

盗賊「ああ。人手を雇ってきてくれるって言ってたからな」

鍛冶師「元海賊が人助け、か……きちんと金銭が絡んでいるとは言え」

鍛冶師「……凄い世の中だよなぁ」

盗賊「船長は落ち着いたらまた海賊に戻るとか言ってたけどな」

鍛冶師「そうなの?」

盗賊「らしいぜ……と、あれかな」

鍛冶師「ん……ああ、微かだけど汽笛が聞こえるね」
0147この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:24:55.13ID:slw5kJkv
盗賊「さて……忙しくなるな」

鍛冶師「嬉しそうだね?」

盗賊「まあな……念願叶ったんだ。ここで頑張らなきゃ何時やるんだよ」

鍛冶師「そう思えるのって凄い事だと思うけど?」

盗賊「踏ん張り所、さ……折角、こうして基盤を作ってくれたんだ」

鍛冶師「少年、だっけ……凄い人だよね」

盗賊「うん……」

盗賊(ある程度話したけど、流石に魔王だとは言えないよなぁ)

盗賊(こいつになら大丈夫な気もするけど……)

盗賊(……それは隠しておこうって街のみんなで決めた事だ)

盗賊「……凄い奴だよ、あいつは」

鍛冶師「今、魔導の街はどうなってるんだろうな」

盗賊「さあな……船長はそのうち、魔導の街に行く船も出すとか行ってたけど」

鍛冶師「この街の人達は……反対してるの?」

盗賊「……そりゃ、そうだろ」

鍛冶師「……だよね」

盗賊「港に入ったな……行こう」スタスタ

鍛冶師「御免、盗賊」

盗賊「なんで謝る、のさ」

鍛冶師「……無神経だったかな、って」

盗賊「……今はまだ無理だよ。そりゃ、商売の事考えればさ」

盗賊「その方が……魔導の街にも、船を出した方が良いんだろうけど」

鍛冶師「そうだね……時間は必要だよね」

盗賊「鍛冶師は前に言ってたよな。本当は魔導の街に行きたかったって」

鍛冶師「今でも行きたいよ。勿論、行こうと思えば行けるんだろうけど」

盗賊「……」
0148この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:25:19.48ID:LohYM3ft
鍛冶師「僕は……魔法剣を鍛えたい。この手で作りたいからね」

盗賊「魔法剣、ね……」

鍛冶師「うん。それには魔法の知識がいる。それも生半可じゃなく」

盗賊「船長に言えば、連れてってくれるさ」

鍛冶師「……そのうち、ね」

盗賊「何で?」

鍛冶師「前にも言ったと思うけど……」

盗賊「ああ……魔石のアレか」

鍛冶師「そう。どうしても僕には出来ない……まずは」

鍛冶師「あれが出来る様になってから、さ」

鍛冶師「魔法剣に繋がる何かがある気がするからね」

盗賊「そんなもんかな」

鍛冶師「多分……魔石すら作る事ができないのに」

鍛冶師「こんな状態で、魔法の知識だけ詰め込んだって無駄、って事……あ」

鍛冶師「あのお腹の大きな男の人、あれが船長さん?」

盗賊「……なんか一段とでかくなってんな……おーい!船長!」タタタ

船長「おう……久しぶりだな盗賊。一丁前に男連れか」

盗賊「阿呆。そんなんじゃネェよ」

鍛冶師「初めまして、鍛冶師と言います」

船長「おう……港だけ見ても随分立派になったな」

盗賊「みんな頑張ってくれてるからさ」
0149この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:25:44.00ID:tzDBlguA
鍛冶師「立派な船だなぁ……」

船長「ありがとよ。どこか行きたい所があるなら乗せてやるぜ?」

船長「……勿論、金は貰うがな?」

鍛冶師「ああ、それは勿論……ん?」

神父「船長さん、ありがとうございました……先ほどはすみません」

船長「ああ……別に構わネェよ。そもそも俺はあんまり信じてないしな」

盗賊「何だ?」

船長「丁度いいや、神父さんよ、こっちが盗賊。一応、街の責任者みたいなもんだ」

船長「貴方が?……これは又、お若い」

盗賊「……暫定、だからな」

神父「あ……気を悪くされたなら申し訳ありません」

盗賊「いや……気にすんな。なり手が無いだけだ」

船長「誇れよ盗賊?魔導の街との交渉やらなんやら、全部お前がやってんだから」

盗賊「……まあ、そうだけどさ」

船長「この神父さんはさ、この街に教会を作りたいんだそうだ」

鍛冶師「教会?」

神父「はい……船の中で、この街に働きに行くと言う方達とお話しましてね」

神父「この街に、作りたいと言う方が結構いらっしゃいましたので……」

神父「もし、街の責任者の方の許可が下りれば、と思いまして」

盗賊「そりゃありがたい話だが……生活に欠かせないものが最優先になっちまう」

盗賊「材料や経費の問題もあるし……すぐに、とは言えないが」

盗賊「それでもよけりゃ……こっちからお願いしたいよ」

神父「おお、そうですか!」

盗賊「……一つだけ、条件をつけさせて貰っても良いか?」
0150この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:26:09.05ID:LUG3/Wqi
神父「何でしょう?」

盗賊「……教会を探して、出て行ったこの街の人間が居るんだ」

盗賊「何時になるかは解らないが……もし戻ったら」

神父「ああ……船長さんにお聞きしています」

神父「祈り手の数が増える事に何の不満がありましょう」

盗賊「……そうか。ありがとう」

船長「……」

盗賊「ん……どうしたおっさん」

船長「誰がおっさんだ! ……さて、とりあえずとっとと下ろして」

船長「俺は行くぜ……依頼がまだあるんでな」

盗賊「忙しいんだな」

神父「では私も、彼らと一緒に街の方へ行きますね」

盗賊「ああ……っと、誰かに案内させないとな」

鍛冶師「その為に僕を連れてきたんじゃないの?」

盗賊「……何にも考えてなかった」

鍛冶師「え? ……ま、まあ良いや。全員降りたら僕が連れて行くよ」

盗賊「悪い……ああ、船長ちょっと待て!これ持って行け!」

船長「ん?なんだこれ……」ジャラ

盗賊「癒やしの石だ」

船長「癒しの石ぃ?」

神父「……癒やしの、石」

鍛冶師「何ぶら下げてるのかと思えば」

盗賊「……何でみんなそんな興味津々なんだよ」
0151この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:26:58.37ID:xfNesNZL
盗賊「つか、鍛冶師と船長は知ってるだろうが」

船長「大量に渡される理由はしらねぇぞ」

鍛冶師「何に使うの? ……ちょっと興味ある」

神父「……見せて頂いても?」

盗賊「あ、ああ……そりゃ構わないけど」コロン

神父「これは……美しい」

盗賊「……船長には後で説明するから、ちょっと待て」

船長「??」

神父「これは……水の力ですね」コロン

盗賊「解るのか?」

神父「こちらは……緑、大地……」コロコロ

神父「これは、一体……?」

盗賊「あー……えーっと……」

鍛冶師「魔力を結晶化した物だそうですよ」

鍛冶師「この街の人達の殆どが……こうした技術を持っているらしくて」

神父「……この袋の中の物はすべて水と……緑の力、癒やしの力、ですか」

盗賊「ああ。閉じ込めた魔力を解放すると、治癒魔法と同じ効果がある」

盗賊「勿論、作り手の魔力とかによって効果は変わってくるけどさ」

神父「……素晴らしい、ですね……これは……」

盗賊「他にも、炎の力を閉じ込めたり……まあ、色々あるんだ」

盗賊「……資金稼ぎの手段の一つさ」

神父「……船長さん、先ほどの石……持っていらっしゃいます?」

船長「ああ……これか?」コロン
0152この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:27:33.82ID:reg72CD+
鍛冶師「どれどれ……うっすら紅い、ね」

船長「……禍々しいって言ってたよな、神父さん」

盗賊「禍々しい? ……俺たちの作る魔石と変わらない様に見えるけど」

盗賊「あれ? ……つうか、船長……これ、何処で手に入れたんだ?」

船長「色んな街に寄ったからな……俺も良くは知らないんだが」

船長「海賊の一人が、『魔除けの石』だっつって……どこかで買ってきたらしい」

神父「魔除けの石……ですか。それにしては、これは……」

鍛冶師「禍々しいってのは、どういう意味なんです?」

神父「……そうですね。説明はしにくいですが」

神父「少なくとも……これが魔除けになるとは思えない」

神父「寧ろ……寄せ付ける気がします」

船長「これを手に入れてから、海の魔物に襲われる頻度は増えた気がしてたんだ」

船長「……まがい物ってぇか……魔寄せの石ってんなら」

船長「……納得いくがね」

神父「ふむ……作られた物だとすれば、悪意を感じますが」

盗賊「俺たちが作った物じゃ無い……とすれば、誰が?」

船長「神父さん、こういうのって自然には出来ないのか」

神父「私は聞いた事はありませんね……と言うより」

神父「魔石、と言う物すら……初めてで」

鍛冶師「でも……この技術って、この街の人達だけなんだよね?持ってるの」

盗賊「……と、思うけど」

盗賊(紅い……姫は、違う。魔王なら可能だろうけど)

盗賊(禍々しい、ったって……魔王がこんなもの作るとは思えない……な)

船長「……まあ、とにかく、こいつは破棄するに限るって事か」

神父「可能なのですか?」

船長「いや、俺は……盗賊はどうだ?」

盗賊「え?ああ……そりゃ出来るとは思うけど」

盗賊「……ここで解放したらまずいだろうよ」
0153この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:27:57.46ID:/w6O4E10
鍛冶師「え、なんで?」

盗賊「禍々しい物なんだろ?何かあったらどーすんだよ!」

鍛冶師「……あ、そうか」

船長「ふむ……仕方ねぇな。その辺に放っとく訳にもいかないだろうし」

船長「……ま、どっかで何とかするさ」

神父「しかし……」

船長「何、海賊共は戦闘にゃ慣れてるさ……ま、あてもある」

盗賊(魔王か……)

船長「盗賊、この癒やしの石の話を聞きたい……取りあえず」

船長「神父さん達の案内、頼めるか鍛冶師」

鍛冶師「ああ……そうだね。じゃあ行きましょうか、神父さん」

盗賊「悪い、頼む……もう全員降りたか?」

船長「ああ……一応確認しよう。お前も来い盗賊」

船長「鍛冶師、頼んだぜ」スタスタ

鍛冶師「うん……解った」

盗賊(ちらちら見てる、二人とも……興味あるんだろうな)

盗賊(言い訳も考えておくか……)スタスタ



船長「……そうか、解った」

盗賊「全員降りたか?」

船長「ああ、大丈夫だ……しかしこうして見るとスゲェ人数だな」

盗賊「人は多くて困る事はないさ」
0154この頃流行の名無しの子垢版2021/02/11(木) 23:28:52.84ID:/oJr1hkA
船長「街の方はどうなんだ?」

盗賊「見ての通りまだまださ……実際、援助は五年だろう?」

盗賊「見てくれと、島民……じゃネェや住人の生活は何とかなる……と」

盗賊「思いたいね……まあ」ジャラ

船長「……こいつに掛かってる、か」

盗賊「そういう事……アンタだって困るだろう。これが売れなきゃ、さ」

船長「ま、そらそうだ……元海賊共の船かき集めたって」

船長「ここを立派な港街にするにゃ、五年じゃ短すぎる」

盗賊「定期便の確保、飲食店とかの店の充実……」

船長「……娼館はどうなんだ?」

盗賊「あんまり喜ばしくはネェがな……今んとこ、働き手達の」

盗賊「唯一の楽しみみたいなもんだ……あれが無きゃ」

盗賊「生活は回ってネェ……」

船長「給料で女を買い、その金で給料を支払う、か」

盗賊「……ぐるぐる回してるだけだ。これで援助金が無きゃ」

盗賊「とっくに破綻してるさ」

船長「……で、この癒やしの石は一体どうするんだ」

盗賊「……姫に届けて欲しい」

船長「ほう?」

盗賊「何時になっても良い……後、申し訳ネェが」

盗賊「代金を立て替えてくれ」

船長「……は?」

盗賊「側近って奴からの頼まれ物なんだ。石の代金は側近から取り返して欲しい」

盗賊「……運搬費も」

船長「お前、それマジで言ってんのか」
0156この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:30:37.38ID:9hfTsjCY
盗賊「御法度なのは解ってるよ。だけど……マジで金がネェんだ」

船長「まあ良い……今回だけだぞ」

盗賊「……マジで?」

船長「ついで、だ……俺たちはこれから、北の大陸に向かうからな」

盗賊「会いに行くのか!?」

船長「まあ、すぐにって訳にはいかないがな」

船長「……こいつが必要な理由は説明してくれるんだろうな」

船長「そいつが、条件だ。それで……今回は勘弁してやる」

盗賊「ありがとう! ……実は、な」



……

………

…………



神父「成る程。面積は充分なのですね」

鍛冶師「そうですね。まだ街としては成り立ってるとは言えませんけど」

神父「これから、でしょう、それは……勿論」

神父「簡単には行かないでしょうが」

鍛冶師「ええ……でも。うまくいけば、この街は世界を旅する要になります」

鍛冶師「僕も……そうなって欲しい」

神父「そうですね……世界の海を渡るのに不可欠な大きな港になれば」

神父「きっと……変わります」

鍛冶師「変わる?」
0157この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:31:32.83ID:Ndz0zipa
神父「……噂、お聞きになっていませんか?」

鍛冶師「魔王が世界を滅ぼす……と言う奴ですか」

神父「はい。信憑性は勿論……わかりませんけど」

神父「こうして、武力では無く……そうですね」

神父「人が集い、絆を深め……そうして、人と人とでの争いだけでも無くなれば」

神父「……きっと、世界は変わります。良く……なっていきます」

神父「そうすれば人は強くなる。屈する事を良しとしなくなります」

鍛冶師「……仰る意味が」

神父「解りませんか?あれほどの技術を持つ……この街の住民の方々を見て」

鍛冶師「……劣等種の話をされているのですか」

神父「知識としてしか知りません。ですが……」

鍛冶師「……」

神父「そういう方達が……前向きにひたむきに生きる様に」

神父「私は、感動すら覚えますよ」

鍛冶師「……神父様は、勇者様にお会いになった事がありますか」

神父「勇者様、ですか……いいえ」

鍛冶師「どこからか現れて、魔王を倒してくれる……等と」

鍛冶師「そんな、御伽噺の中の話では無くて、です」

神父「……と、言うと?」

鍛冶師「この街で生活される様になって……街の人達と接する様になれば」

鍛冶師「きっと、解ると思います……居たんですよ、勇者様が」
0158この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:51:11.55ID:HWb1Bomc
神父「この街に、ですか? ……しかし、居た、とは……」

鍛冶師「過去形です。僕も会ったわけではありません」

鍛冶師「ですけど……話をしていると、解るんです」

鍛冶師「……劣等種なんてもう存在しない。勇者様に救われたんだと」

神父「……」

鍛冶師「僕は、腕の良い鍛冶師になりたい。魔法剣を鍛えたい……作りたい」

鍛冶師「盗賊に、そう話しました」

神父「魔法剣ですか……」

鍛冶師「はい。世界のどこかに存在するとも、もう失われたとも言われています」

鍛冶師「昔……もっともっと過去、人と魔族の境界も曖昧だった頃の」

鍛冶師「古の技術……本当は、そんなものを必要としない、平和な世であって欲しいですけど」

鍛冶師「僕たち……鍛冶の道を志す者には憧れなんです」

神父「……」

鍛冶師「だから魔導の街に行きたかった……否、今でも言ってみたいけれど」

神父「時期では無い?」

鍛冶師「はい。まだ早い……さっきの魔法石ね。作り方とか、聞いたんですけど」

鍛冶師「僕には、盗賊達ほど旨く出来ない。すぐにも出来ない」

鍛冶師「……だから、まだまだ早い」

神父「ふむ……」

鍛冶師「もっと学んで、僕だけじゃ無く、皆の知識も技術も向上して欲しい」

鍛冶師「この街がもっと栄えて、魔法石が有名になったら」

鍛冶師「……僕の夢も叶うかも知れない」

神父「それが、貴方がこの街に留まる理由ですか?」

鍛冶師「……そうですね」
0159この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:52:03.52ID:V8nLsNoh
鍛冶師「まあ……それだけじゃありませんけど」

神父「?」

鍛冶師「いえ……こっちの話です」

神父「この街は夢の街ですね。住民達……作り手達によって」

神父「どんな形にでもなれるだろう、夢の街……だと思います」

鍛冶師「はい……あ、そうだ」

神父「はい?」

鍛冶師「さっきの……船長さんが持っていらした……」

神父「ああ……『魔除けの石』ですね」

鍛冶師「あれ……神父さん、作れません?」

神父「私が……あれを、ですか?」

鍛冶師「……地位のある聖職者様とお見受けしますよ」

神父「買いかぶりです。私は地位など……」

鍛冶師「ですが、見抜かれた……僕には……いえ、多分盗賊達にも」

鍛冶師「解りませんよ……あんな風に」

神父「……ふむ」

鍛冶師「今から教会も作らないと行けないし」

鍛冶師「……時間はたっぷりあります」

鍛冶師「僕と一緒に、魔石の作り方を習って」

鍛冶師「本物の魔除け石……作りませんか?」

神父「……しかし、それを商売にするというのは」

鍛冶師「まあ……気持ちは分かりますけど。それほど高価にしなくても」

鍛冶師「寄付、のつもりで……街も、潤いますし」

神父「……考えてみましょう」

鍛冶師「ありがとうございます!」
0160この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:53:40.85ID:BRqFCcnI
神父「ですが……私にもできますかね」

鍛冶師「鍛錬あるのみです」

神父「やれやれ……この年になって、とは思いますが」

鍛冶師「……楽しいでしょう?」

神父「まあ、ね……否定はしませんよ」

鍛冶師「教会……あの丘の上とかどうです?」

神父「ん……?この、細い道の先ですか」

鍛冶師「はい。見にくいけど……少し開けた良い場所があるんです」

神父「良いですね……景色の良い場所に、小さな教会ですか」

鍛冶師「……御伽噺の一場面みたいですね」

神父「悪く無いでしょう……賑やかな街の外れにある、小さな教会」

鍛冶師「ロマンチストですね」クス

神父「そっくりその侭お返しします」フフ…



……

………

…………



魔王城・食堂



姫「……で、魔王と側近は何してるの?」

使用人「さあ……食事の準備が出来たら呼んでくれといわれては居たのですが」

 婦「あ、あの……私まで、よろしいのでしょうか」

姫「貴方が一番しっかり食べないと駄目よ? ……そんなに痩せて」

使用人「そうですよ……しかし、遅いですね。使い魔に呼びに行かせたのですが」



カチャ



姫「魔王?遅いわ……何抱えてるの、それ」
0161この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:54:08.42ID:3fvkx1c8
魔王「すまん……完成させてしまいたくてな」バサバサ

側近「……結局たたき起こすとか、どーいう事なの」ハァ

使用人「とにかく、お席へ……ご準備いたします」

魔王「ああ、使用人も席に着け。呼びに来た使い魔に食事の支度は頼んである」

使用人「ですが……」

魔王「構わん……皆で話すのだろう」

側近「気にしないでくつろげよ、使用人ちゃん」

側近「……でも先に水ちょうだい」

姫「……何これ、綺麗……誰が書いたの?」

側近「俺だよ……急に魔王様の心話で起こされてさ」

側近「本が出来たから、お前部屋に来て、絵をかけ!だよ……」

側近「……寝ろって。休めって命令したくせに……」

魔王「ぶつぶつ言うなよ……お前だって楽しんでたじゃないか」

側近「……あれはお前の絵が下手すぎてつぼに入ったの!」

使用人「この絵……姫様ですか?」

 婦「本当だ……そっくり」

姫「驚いた……側近、こんな才能があったのね……」

側近「……まあ」

姫「何照れてんのよ」

 婦「こっちは……あら、同じ?」

魔王「ああ、どちらも同じ物だ」

側近「頑張ったんだからもう少し褒めてくれよ!」

使用人「これ……魔王様が考えられたんですか?」ペラ

魔王「……まあ、な」
0162この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:55:28.80ID:Jz6ZVm5u
側近「姫様から聞いた話を元に創作でカバーした、だろ……」

側近「まあでも……良く出来てると思うよ」

姫「私も読みたいわ」

魔王「先に食事を始めよう……一冊はこの城に置いておく」

魔王「何時でも読めるさ」

使用人「もう一冊はどうされるのです」

魔王「…… 婦に、やろうと思ってな」

 婦「私に、ですか?」

魔王「ああ。魔石の作り方もまとめておく……城を出るならもって行くと良い」

 婦「……あ、あの」

魔王「私なりに考えた。娼館でお前と話した時に……お前は」

魔王「死にたいと思った事もあったが、今は生きたいと言っていたな」

 婦「はい……」

魔王「自由は、不自由だとも」

 婦「……はい」

魔王「……魔に変じれば生きられるだろうと思った」

魔王「だが…… 婦がそれを望むかと言えば……ノー、だろう」

 婦「……」

使用人「……」

魔王「勿論、望むのならばすぐにでも。だが……」

 婦「姫様からお聞きしました。もしそれを望んだとしても」

 婦「……私の、身体は持たないでしょう。それに……」

 婦「私には、使用人さん程、確固たる意思もありません」
0163この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:56:28.29ID:fOAykbA/
 婦「生きたいとは思います。ですが……これが寿命なのだろうと思います」

側近「 婦ちゃん……」

 婦「インキュバス……さん、にあんな風にされた事は」

 婦「私の弱さが招いた事です。それを怨むも悔やむも……ありません」

 婦「それに……やはり、人で無くなると言うのは、怖いです」

姫「……」

 婦「魔王様」

魔王「うん……?」

 婦「魔王様はあの時、神など居ないと仰いました」

魔王「……ああ」

 婦「姫様も言われました。私は、私の認める神を探せば良いと」

姫「……ええ」

 婦「正直、良く……解りません」

 婦「ですが……探したいのです。人である私の、神を」

魔王「……そうか」

 婦「ですから……あの……」

魔王「貰ってくれるか?これ」

 婦「あ……も、勿論です!」

魔王「ふむ」

姫「……」

側近「あー……一段落付いたところで、良いか?」

魔王「何だ?」
0164この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:57:41.92ID:5EeWj5Zn
側近「……こいつを見てくれ」コロン

姫「……ッ」

使用人「魔石、ですか……姫様?」

姫「な、なにこれ……!?」

側近「あー……そんなに駄目?」

魔王「……例のあれか。貸せ」グ……パリンッ

姫「……」ホゥ

側近「一瞬かよ……」

魔王「すまん、さっき側近に見せて貰った時にこうしておけば良かったな」

 婦「……『魔除けの石』ですか」

使用人「魔除けの石?」

側近「悪い、思い出させたか」

 婦「いえ……大丈夫です……」

姫「何なの……今の……」

魔王「……どう感じた?」

姫「愉悦、憎悪……私はインキュバスにあった事は無いけど」

姫「……厭な奴ね」

魔王「違い無い」クス

 婦「あれは……彼の魔力の結晶、ですね」

魔王「そうだ。覚えているかは解らないが……」

 婦「多分、作り方は……私が教えたんでしょうね」

魔王「まあ、そうだろうな……そして奴は、お前もその技術も利用した」

 婦「……」

姫「魔王!」

魔王「……」

側近(また、だ……魔王様、表情が窺えない)

側近(何だ……?さっきまで……普通だと思っていたが)
0165この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:58:28.74ID:iTlq1LQw
使用人「……その、魔除けの石とやらがどうしたのです」

魔王「側近の話ではそれがあの……鍛冶師の村から輸出された、とかな」

 婦「!」

姫「そんな!?」

魔王「……打つ手は無くは無い、が……こればかりはどうしようもない」

側近「そういえば船長に使いを飛ばしたな。なんだったんだ、あれ」

魔王「ドレスとヴェールを頼んだんだ」

側近「は?わざわざ?」

魔王「ちゃんと金は払う……姫との祝言の為だ」

側近「……は!?」

姫「……もう返事はしたわ」

 婦「まあ……」

側近「はぁ!?」

使用人「おめでとうございます……で、良いんですよね?」

側近「ちょ、ちょっと待てええええええええええ!?」

魔王「なんだ、反対するのか?」

側近「違うよ!そうじゃネェけど!」

側近「お、お前……何考えてんの!?」

側近「姫は……!!」

姫「良いのよ、側近。それで……良いの」

側近「し、しかし……!」

魔王「……全てが片付く前に、宣言してしまうつもりだったんだ」

側近「……はぁ?」

魔王「姫を傍に置いて守っていれば問題は無いはずだった」

魔王「……予想以上に、姫の体調が悪かったからな」
0166この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 09:59:12.40ID:YNNZ/brO
側近「お前……」

魔王「船長には港街を出る前に頼んであったんだ」

姫「……返事どころか、プロポーズすらされて無かったけど」

魔王「港街には残らず城に来ると言っただろう。それで充分だ」

姫「自信過剰ね」

側近「いちゃいちゃすんな!」

使用人「嫉妬は見苦しいですよ側近様」

側近「違うわああああああああああああああああああ!」

 婦「……」クスクス

側近「 婦ちゃんまで……」

魔王「お前が聞いたんだろう。何を頼んだんだと」

側近「違うわ!ああ、違わないけど、そうじゃなくて!」

側近「お前、あの時これぐらいしかできんとか言うし」

側近「さっきだって打つ手は無くは無いとか言うから!」

側近「この件に関して!船長に!何を頼んだのか!」

側近「俺の聞いたのはそっち!」

魔王「……なんだ、ならそうとはっきり言え」

側近「……なんだろう。凄く疲れた」

使用人「大声で一気に喋るからです」

側近「……ねえ、もう少し優しくしてくれない?」

側近「つか俺の所為?ねえ俺の所為!?」
0167この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:00:17.19ID:6DdueV6L
魔王「船長への頼み事……この件への打つ手、は」

魔王「ここへ彼の船がたどり着いてから、だ」

側近「……あ、そう」

姫「ついでにドレスも届くのね……楽しみ」

側近「……なんか二人だけ平和だね」

使用人「どちらにしても、今その件に関してはどうしようも無いと言う事ですね」

魔王「そうだな。いくらなんでも、散らばったインキュバスの魔石の一つ一つの行方まで」

魔王「追う事はできん……後手にはなるが、挽回の手段をとらざるを得んのだ」

 婦「……あの、では私は……船長さんの船に、また……?」

魔王「そうだな……私から頼んでおく」

側近「何だよ。お前が転移で送ってやれば良いじゃないか」

魔王「……ほいほいとあの街に顔を出すわけにはいかんだろう」

姫「でも……盗賊と約束したわ、私……また、遊びに行くって」

魔王「ああ……落ち着いたら、な?」

魔王「今は……向こうも大変だろう」

側近「顔出してやれば喜ぶと思うけどなぁ」

魔王「……少し、ゆっくりしたいのさ」

側近「……?」

姫「そう……そうね。ごめんなさい」

魔王「謝る事じゃ無いさ」

使用人「船長さんは……何時ぐらいに?」

魔王「さあな……こればっかりは」

側近「お前、俺に迎えに行かせるとか言ってたな……」
0168この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:02:30.47ID:QEfCLTdF
魔王「馬車を用意させてやる……お前と船長は」

魔王「気が合うと思うけどな」

側近「……そう、なのか?」

姫「どうかしら……何故?」

魔王「書庫で商売の本読んでたからな」

側近「……意外と面白かったんだって」

 婦「これから……世界はどうなって行くのでしょう」

使用人「…… 婦さん?」

 婦「過激派、と言う人……魔族達は、居なくなってしまったんですよね?」

 婦「……人は、強欲だと思います。私も含めて」

 婦「魔族と言う、恐れるべき物がなくなると……」

側近「それは違うぜ、 婦ちゃん」

 婦「え?」

側近「別に俺たちは支配も望まないが、共存も望まない」

魔王「……」

姫「……」

側近「……インキュバスの話に戻って申し訳ないが」

側近「あいつは……自分が魔王になると言った。そして勇者になるともな」

側近「違うと信じたい……が、言葉は、俺が魔王様に旅に出ろと言った時と」

側近「……同じ物だ」

魔王「……そうだったな」

側近「忘れてたのかよ」

魔王「そうではない……が」
0169この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:04:23.95ID:LHl5guny
側近「人の振りをし、勇者と呼ばれる様に振る舞い」

側近「……まあ、人の世界に紛れこんだ、魔導将軍みたいな」

側近「過激派をこっそり潰してくれってお願いだったんだけどな!」

魔王「……お前ひつこいな」

側近「初っぱなから目立つ事ばっかりしてくれちゃったからね!」

魔王「結果オーライ、だろう」

側近「まあ、そうかもしれんけど……」

 婦「……同じ、事では無いでしょう?」

側近「あいつと俺らの目的はな……だが」

側近「……魔王が勇者であり、勇者が魔王であれば」

側近「『俺たち』は……安泰だ。勇者と魔王が表裏一体の存在ならば」

側近「何も心配する事は無い……俺たち『魔族』はな」

使用人「……」

側近「だが……人間はどうだ?」

姫「……勇者が、何時か魔王を倒してくれる」

側近「……」

姫「不安の中の希望にすがって、生きていくだけ……不安は、消え去る事は無い」

側近「……そうだ。インキュバスの言葉と……同じだ」

魔王「『終わらないループの中で、何時までも巡り来ない平和と言う幻想を抱いて』」

魔王「『決して消えることの無い不安に抱かれて死んで行く』……だったか?」

 婦「で、でも……絶望ばかりじゃありません!」

 婦「不安は、恐怖は……常に、あるかもしれませんが……」

使用人「……それでは、人にとっての真の希望、真の平和は叶えられない」

側近「……俺は魔族だからな。人間の真の希望だの平和だのに興味は無い」

側近「それに……魔族の居ない世界が人間の望みであるなら」

側近「……俺たちの存在意義はどこだ?」
0170この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:05:33.02ID:/VepzdXV
 婦「……」

側近「あいつは、常の混沌に……なんだっけな」

側近「とにかく、そうじゃなきゃ楽しくないだとかな」

姫「……楽しみの為ではないでしょう、確かに」

側近「そりゃそうだ。だから目的は違うって」

側近「俺や魔王様が望むのは、徹底した不干渉。あいつが言うのは……」

側近「魔族の為の、平和……あー……違うな」

側近「……とにかく、魔族の為だけの世界だ」

魔王「混沌と言う楽しみのある飽きない世界、か」

魔王「……刺激は大切だとは思う、がな」

姫「でも……人が多分、望むのは……」

 婦「人だけが平和な、人の為だけの世界……」

使用人「勝手ですね。どちらも」

側近「……俺たちが望んでる事も、勝手なんだ」

側近「人が魔族を恐れる以上、不干渉だろうがなんだろうが……」

魔王「親父が……共存を望む気持ちも分からなくは無い」

 婦「お父様……ですか?」

側近「前魔王、な」

魔王「……難しい事だ。だが……それが本当に叶うのならば」

魔王「遠い未来では……皆幸せだったのかもしれん」

 婦「ね……願えば、叶うんでしょう!?」

魔王「『願う気持ちがあるのなら』……だな」

 婦「あ……」

側近「……俺と魔王様の望みは、徹底した不干渉、さ」

姫「……」

 婦「……」
0171この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:07:16.22ID:r4xHGdBw
側近「世界と言う物は……」

魔王「ん?」

側近「全て、表裏一体。光と闇、善と悪……」

側近「……一方だけの存在では何も成り立たない」

使用人「……」

側近「これも……インキュバスの言葉さ」

 婦「それでも……私は、平和を望みます……!」

姫「 婦……」

 婦「……生きているもの全てが、幸せと思える、世界を……!」

魔王「……それで良いんだ」

 婦「え……?」

魔王「それで良い……何時か、叶う」

魔王「……願い続ける事が大事なんだ。きっと」

側近「魔王様……」

魔王「すまん……私は、先に……」フラ

姫「魔王!?」

側近「お、おい!」

使用人「魔王様!」

魔王「……頭が疲れた。流石に寝不足な様だ」

側近「無茶するから……お前は本当に阿呆だな」

魔王「お前にだけはいわれたくないわ」

側近「書き物してないで寝ろよ!」

使用人「お部屋まで……」

魔王「……いや、良い。折角だ。皆で……くつろいでいてくれ」
0172この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:07:43.72ID:RiIZyp04
使用人「でも……」

姫「……一人にしてあげて」

使用人「……」

魔王「ではな……失礼する」フラ……カチャ、パタン

 婦「……」

姫「……」

使用人「……」

側近「……」

 婦「あ、あの……!」

姫「どうしたの?」

 婦「大丈夫なんでしょうか……お顔の色が……」

側近「ろくに寝ないで紙と筆で遊んでりゃ疲れもするさ」ハァ

姫「……後で様子を見てくるわ」

使用人「お茶の用意でもしましょうか……姫様、足りました?」

姫「ケーキが食べたいわね」

側近「食欲はかわらないのな」

 婦「あ……すみません、私もそろそろ……」

使用人「では、先に部屋へ戻りましょうか」

 婦「一人で大丈夫です……あの」

 婦「……出過ぎた事ばかり、すみません」

姫「何言ってるの、遠慮なんてする必要は無いのよ」

 婦「……ありがとうございます。失礼します」ペコ



カチャ……パタン



姫「……」

側近「……」

使用人「……」
0173この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 10:08:56.23ID:fkJbVRTl
側近「おかしい、よな」

姫「……そうね」

使用人「疲れているだけ……では無いでしょうね」

側近「……言いそびれてたんだが」

使用人「はい?」

側近「姫の部屋で話している時だ」

側近「……俺は、確かに魔王様の目を持っている」

姫「それで心話、だっけ……が可能なのよね」

側近「ああ。それに……望めば魔王様の見た景色を見る事ができる」

側近「俺が見た景色、もな……魔王様には見えている筈だ」

使用人「そういえば……インキュバスと戦った時、側近様の身体を……」

側近「ああ……確かに、あいつは規格外だ。昔から凄く強い……並ぶ者等居ない」

側近「有り体に言えば、何でも出来る。それこそ……『願えば叶う』だ」

姫「……」

側近「あの時……」

使用人「姫様の部屋で……?」

側近「ああ。話している時……あいつは、俺の心をあっさりと読んだ」

姫「え?」

側近「心話なんてもんが出来ちまうからな……可能なんだ、と」

側近「いわれちまえばそれまで、だが」

側近「……自覚が無いみたいだった。あの時の……魔王様は」

使用人「何を……考えて居たんです?」

側近「大地を燃やし、清めてるだか何だか……だったかな」

側近「それで……流石に城は燃やせないよな、とか」

側近「そんな事をな」

使用人「ああ……確か『そんな事はしない』とか、なんとか」
0178この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:23:38.16ID:pQoX0fJs
姫「そういえば……」

側近「……そうだ。今から考えれば……」

側近「俺が身体を乗っ取られた時も……あいつは普通に、口で喋ってた」

側近「俺は……まあ、変な状態だったからなぁ……」

側近「こっちは心話のつもり、向こうは言葉を出してる、で」

使用人「……要するに、何時もの加減と違った、と」

姫「でもあれは……」

側近「まあ、な……身体を貸してる状態だったから、な」

側近「……だけどさ、それも……おかしくねぇ?」

姫「え?」

側近「いくら俺が目を持ってるから、って言ったってさ」

側近「普通に会話は成立するわ、いきなり魔王の剣召還するわ」

側近「……俺の身体の侭で、転移魔法まで使いやがった」

使用人「……」

側近「しかも、だ……瞳の色が俺の緑から」

姫「……紫に変わってた、のよね」

側近「ああ……瞳の色ってのは、例え姿形を真似たからと言って」

側近「変えられるモンじゃネェんだろ?」

姫「その筈、よ……彼が魔導の街で、私の姿を真似た時も」

姫「……瞳は、紫の侭だった」

側近「魔王様の姿をした姫様の瞳も、だろ」

姫「そうね……確かに、この蒼の侭だったわ」

使用人「……どういう、事です?」

側近「絡繰りはわからん。わからん……が」

側近「……否。魔王だから、と言うのならそれまで……その通りなんだ」

側近「だが……」
0179この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:23:59.53ID:btEaY2qK
使用人「だが……なんです」

側近「あれだけの事をした、された……んだ」

側近「いくら魔王様の後押しがあったとは言え、目を持ってると言え」

側近「……インキュバスとの戦いで、魔法だって使ってる」

側近「なのに……俺は、あの時特に疲労なんて感じなかった」

姫「……」

使用人「……魔王様のお力が、強くなってる?」

側近「どうにも……感情が読み取れない時がある」

側近「おかしいと思ったのも……そこだ」

姫「……感情が無い、様に見える時もあるわ」

姫「いえ……どころか、残忍だ……とも」

使用人「残忍、ですか……」

姫「……魔族ですもの。ましてや王……そういう部分があっても」

姫「おかしくは無いのだと思う。魔導将軍の時だって……」

使用人「……」

側近「あいつは……まあ、阿呆だと思うが」

使用人「側近様!」

側近「いや、でも……そうだぜ?人の言う事は聞かないし」

側近「……威厳持ってくれよ、とかさ。旅に出す前は思ってたんだ」

側近「伝えもしたけど……」

使用人「料理が好きだとか言ってましたね」

姫「……まあ、魔の王の趣味って思えば、まあ……」

側近「な、阿呆だろ?阿呆なんだよ」

側近「……阿呆な魔王様じゃなきゃ……なんか、調子狂う」

姫「……勝手ね」

側近「……解ってるよ」
0181この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:25:23.80ID:E5qJ4Sax
使用人「でも、確かに……辛そうに見えます」

側近「……剣の事もある」

姫「魔王の剣?」

側近「ああ……ありゃ代々受け継がれてきた物だ」

側近「勿論、亀裂なんて……あり得ない」

側近「……召還の衝撃でなら良いんだが……あ、いや良くないけど」

姫「治せるの?」

側近「さっぱり、だ……鍛冶師の村へ行ったって」

使用人「まさか魔王の剣ですだなんて言えませんよ」

側近「……そりゃそうだ。てか、治せる奴なんていねぇよ」

姫「……様子を見るしか無い……わよね?」

側近「ああ……まあ、そう……なんだけどな」

使用人「……そう、ですよね」

側近「まだまだ……やる事はあるからな」

姫「え?」

側近「なんだかんだで魔王様には話せて無いが……」

側近「北の塔……だ」

使用人「北の塔?」

側近「鍛冶師達の村から山を越えた先に、北の街ってのがあるらしい」

側近「その近くに……頂点が見えないほど高い、塔があるらしいんだ」

姫「見えない……雲の上まで続いてる、って事!?」

側近「噂話、の類だとは思うんだけどな」

使用人「位置的には……この大陸からの方が近いのでは?」

側近「よく知ってるな」

使用人「地図見て勉強しましたから」
0182この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:25:57.31ID:oe03RzwI
側近「書庫のか? ……ありゃ相当古いぞ」

使用人「でしょうね。街とかはのってませんでしたが」

使用人「塔は……覚えていません」

使用人「地理だけでも覚えようとざっと見ただけですし……」

側近「ああ……で、まあ何でも」

側近「そこにお宝が、とかな」

姫「宝……そんな所に?」

側近「噂だ、噂……何でも扉も厳重に鍵が〜とか、聞いた気がするが」

側近「場所も場所だしな……一回確かめに行こうかとは思ってる」

姫「……上るの、大変そう」

側近「……どうせそういうのは俺の仕事になるんだって」

使用人「私も少し調べてみます」

側近「ああ、頼む……さて、じゃあ姫様」

姫「何?」

側近「……晴れて婚約もしたんだろ。未来の旦那様の様子を頼むぜ」

姫「……解ったわ」

使用人「では、私も部屋に戻ります…… 婦さんも、もう休んでいるでしょうし」

側近「ああ……使用人ちゃん、明日から頼むよ」

使用人「はい……では、おやすみなさい」スタスタ……パタン

姫「……私も行くわ」

側近「……姫様」

姫「何よ……」

側近「良かったのか?」

姫「……」
0183この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:26:32.49ID:wkYfHMfg
側近「アンタ……子供を産んだら……」

姫「それまでは……一緒に居られるわ」

側近「……好きなのか」

姫「……」

側近「別に……良いけどな。男女の関係なんて……他人に計る事は」

側近「出来ないんだろうし、さ」

姫「……良く、解らないわ」

側近「……」

姫「何時生まれるのかも……どんな子なのかも」

姫「……解っているのは、この子を産んだら私は……死ぬという事だけ」

姫「魔王には感謝もしてる。命の恩人……でも」

側近「愛じゃ無い? ……なら、何故だ」

姫「私は口にしてしまった。私達は……夫婦、だと」

側近「エルフは嘘をつけない?」

姫「ええ……それは本当になってしまうから」

側近「つじつま合わせか」

姫「それは違う!違うけど……!」

側近「……悪い。責めるつもりはないんだ」

姫「……」

側近「アンタ達は決めた事だ。ましてや……魔王様は俺の主だ」

側近「反対したい訳じゃない」

姫「……解ってるわ」

側近「すまん……魔王様を頼むな」

姫「側近はどうするの」

側近「……書庫へ寄って、休むさ。じゃあな……おやすみ」スタスタ……パタン

姫「……」
0184この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:27:18.95ID:lYhlJzlO
姫(……解らない、か)

姫(確かに、解らない事だらけ)

姫(何時生まれるの。どんな子なの。私の身体はどうなっていくの……)

姫(ペンダントの加護は何時まで?)

姫(死んだら……この子は、どうなるの)

姫(もし、そうなっても……魔王が居てくれる、なんて)

姫(……私は、何処まで他力本願なの……)スタスタ

姫(空……暗いのに、外が明るい)

姫(……まだ、燃えているのね)

姫(……)


スタスタ、カチャ……パタン


……

………

…………


 婦(眠れない……)

 婦(私の命……後、一年……?)

 婦(だけど……魔には……なれない。なりたくない)

 婦(……私の、神。探すまでも無い。解ってる)

 婦(魔王様……)

 婦(……傍に居れなくても良い)

 婦(満足なんて無い……居ても、居なくても)

 婦(やっぱり、知ってしまうのは辛かった……!)

 婦(……望んでも、望んでも……手になんて、入らない)

 婦(これで充分なんて。想いだけで、生きてなんて……!)

 婦(そんなもの、ありません……魔王様!)

 婦(やっぱり……期待なんて、するものじゃ……無い)


カチャ


 婦(!)
0185この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:28:04.77ID:V3ZzUM1d
使用人「……眠っていらっしゃいます、か」

 婦(使用人さん……そうよね)

 婦(魔王様が……来るはずなんて……)

 婦(……お客様を……魔王様を娼館で待っていたあの時とは、違う)

使用人「……」ゴソゴソ……コロン

 婦(……使用人さんの様には、なれない……)

 婦(……魔王様)


……

………

…………


コンコン


姫「魔王、入って良い?」

姫「……」

姫「魔王……?」カチャ

魔王(スゥスゥ)

姫(……机で寝てる……)スタスタ

姫「魔王」ユサユサ

魔王(スゥスゥ)

姫(起きない……どうしよう)キョロキョロ

姫(あ、お布団……よいしょ)ズルズル……バサッ

姫(……仕方ない、か)

姫(大丈夫……よね?)スタスタ……カチャ、パタン

魔王「……すまん、姫」

魔王(……私は、どうしてしまったんだろうな)

魔王(眠らずとも、身は疲れない)

魔王(……どころか、力が沸いてくる)シュン

魔王(魔王の剣……)シャキン……パキンッ

魔王(……また、か)
0187この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:29:41.91ID:NzmWk8Ka
魔王(少しずつ……亀裂が広がっている)

魔王(そばに置いても、放置しても変わらない)

魔王(……どうなっている?)

魔王「……気にしてもわからんもんはわからん、か」カタン

魔王(どこまで書いたか……)ペラ

魔王(魔石の作り方……と、後は……)

魔王(私以外に出来るとは思わんが……転移の方法、転移石……)

魔王(それから……)バサバサバサ……ッ

魔王「ああ……」ハァ ……スタスタ

魔王(……ん、何だこれ……ああ、使用人に貸した本か)

魔王「『始まりは終わりだった。古の神との忘れられた契約』……」

魔王(光と闇の神話……だったか)ペラ

魔王(……昔に読んだ記憶はあるが)ペラ

魔王(意外と……答えがあるかもな)ペラ


……

………

…………


船長「見えてきた……あれだな」

海賊「北の大陸……最果ての地、ですか……あれが」

船長「ああ。連絡は入れてある……船を着けれそうな場所を探せ!」

船長「……とうとう上陸、だ」

海賊「ほっとしましたよ。もうあのちっこいカラスにつつかれなくて良い……」

船長「随分なつかれてたじゃねぇか」ハハ!

海賊「ありゃなつかれたって言いませんって!」
0188この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:30:04.27ID:wvdv2VKc
船長「ちゃんと届いてると良いがな」

海賊「届いてなかったら?」

船長「……自力でたどり着くしかネェだろ」

海賊「……それマジで言ってます?」

船長「金貰わなきゃ死んでも死にキレねぇよ!」

海賊「うへぇ……まあ、そりゃそうですが……」



ヨシ、イカリオロセ!

アイアイサー!



船長「そろそろか……その荷物貸せ」

海賊「持って行きますよ?」

船長「いや、良いさ……お前達は船で待機してろ」

海賊「で、でも!」

船長「……もし誰も居なかったら、呼びに来る」

海賊「……」ハァ
0189この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:30:28.32ID:bdCzZSj3
船長「……良し、行くぞ。お前達は待機しとけよ」スタスタ



アイアイサー!



側近「お……あれか?」

船長「ん……お前さんが側近か」

側近「そのでかい腹、間違いネェな」ニッ

船長「しょうね……魔王か、そんな事言いやがった奴は……」

側近「残念、姫様だ」

船長「……怒れネェな、そりゃ」

側近「随分でかい荷物だな」

船長「まあ、色々とな……で、城は何処だい?」

側近「アレ」

船長「……えらい遠いな」グッタリ

側近「心配すんな……馬車だよ」クック

船長「人が悪ィな……」ハァ

側近「魔王のカラスが随分不機嫌そうだったぜ……足に結んだ手紙」

側近「無事に届いて良かったよ」ハハッ

船長「そりゃあいつみたいな真似は出来ないって……」

側近「違い無い……ま、ご苦労さん」

船長「後……盗賊から癒しの石を預かってきてるぜ?」

側近「あ、マジか……事情は聞いてる、よな?」

船長「ああ……あんまり酷いなら何か考えた方が……」

側近「……まあ、詳しくは馬車の中で話すさ」

側近「どうせ少し時間も掛かるしな」
0190この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:31:16.69ID:UxxUDTpH
船長「ああ……よっと」

側近「もうちょっと詰めろって……よいしょ」

側近「良いぞ、出してくれ!」



ガタガタ……ゴロゴロ……



船長「……もっと鬱蒼とした場所を想像してたな」

側近「ん?ああ……木が無いのは」

側近「……魔王様が焼き尽くしたからだ」

船長「何……焼き尽くした?」

側近「まあ、ちょっと……攻め込まれてな」

船長「焼き払ったのかよ……」

側近「いや、そういう訳じゃないんだが……まあ」

側近「『全てを焼いて清め』たんだとよ」

船長「……」

側近「一週間ぐらい前までは燃えてた」

船長「……で、何も無いのか」

側近「街はもう少し奥……ああ、あの辺りだな」

船長「屋根が見える……が、人は……人、ってか」

船長「……住んでる奴らはいるのか?」

側近「居るはず……だがな」

船長「筈?」

側近「元々それほど、な……人が言う様な『街』とは多分……違うさ」

船長「スラムみたいなの想像してたんだがな」

側近「廃墟の方が近いだろうな……丁度、あれだ」

側近「始まりの街だったか……あの方がイメージに近いだろうな」
0191この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:32:05.32ID:WKPABugp
側近「今回のあれで、な……少し場所が離れているとは言え」

側近「逃げ出した奴も居ると思うぜ、そりゃ」

船長「そういう奴らは……どこに行くんだ?」

側近「正直、わからない……この大陸は広い」

側近「とは言え、大部分が岩肌の地だ……住める様な場所じゃ無い」

船長「……って、事は?」

側近「……確かに、さ。魔族は残忍な奴らも多い。知能なんかが高い奴ほど」

側近「そういう傾向も強い……が」

側近「全部が全部、そういう訳じゃ無い」

側近「危惧する気持ちは分かる。人間達が住む所に紛れ込んだら……だろ?」

船長「……ああ」

側近「正直そこまでは責任もてネェ……が」

船長「いや、良いさ……そうだよな」

船長「……魔導将軍みたいな奴ばっかじゃネェってのは解ってるさ」

側近「……」

船長「ん……?あれは……教会……?」

側近「ああ……あれも何時からあるんだか」

船長「いや……そうじゃなくて」

側近「ん?」
0192この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:32:57.24ID:STRdJQj9
船長「それこそ不釣り合いだろう……」

側近「ああ、そういう意味な……さて」

側近「……大昔は、人が住んでたのかも知れネェぞ」

船長「……」

側近「世界なんてモンが何時から存在するんだか、俺はしらねぇ」

側近「……知りたいとも、別に思わんよ」

船長「少女はやっぱり……魔族になったのか」

側近「ん?ああ……なんだいきなり」

船長「お前さんと反対で、世界の謎を知りたいだとか言ってた、ろ」

側近「ああ……そうだな。無事に……って言って良いか解らんけど」

側近「姫の世話やら魔王の世話やら、執務やら……随分頑張ってくれてるさ」

船長「そうか……そろそろ本題だ。姫の様子はどうなんだ?」

側近「結論だけ言うと……無事だ。使用人……あ、少女の新しい名前な」

側近「使用人が……魔族になったいきさつとか、姫の体調の話とか」

側近「詳しくは直接聞いてくれ。旨く説明出来る気がしねぇ」

船長「……まあ、無事なら良いけどよ。ひょっとして……必要無かったか?」ジャラ

側近「そんな事はネェよ。頼んでおいたのは俺だしな」

船長「なら、良いが……金はきっちり貰うぜ?」

側近「当然だ……石代は盗賊に届けてくれるのか?」

船長「いや、もう立て替えてあるさ」

側近「……マジで?」

船長「あいつも金がいるとか言いやがるからな……まあ」

船長「相手が盗賊と、お前さんや魔王じゃ無きゃやらねぇよ、俺も」
0193この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:59:08.03ID:odaSmGeZ
側近「まあ……そりゃそうだろうが」

船長「まだまだ……街が独り立ちするには時間も掛かるだろうしな」

船長「特別サービスだ。しかも……姫の為とありゃ、な」

側近「すまん、な」

船長「……結婚すんのか」

側近「何で知ってる……て聞くのは愚問だわな」

船長「姫に似合いそうなドレスとヴェール、ちゃんと選んできたんだぜ」

側近「……アンタが?」

船長「まあ、見てのお楽しみだ……あれか?」

側近「ああ、もう着いちまったか……続きは城で、だな」

側近「何か魔王様がうきうきでな……朝からキッチンに篭もって」

側近「……ケーキ焼いてたわ」ハァ

船長「……魔王、だよなあいつ」

側近「言わないでくれ……まあ、過激派も殆ど押さえたしな」

船長「平和なモン、か……」

側近「……」

船長「側近?」

側近「忘れモンすんなよ、船長」



……

………

…………



使用人「いらっしゃいませ、船長さん……お久しぶりです」

船長「少女……否、使用人だったか……おう、久しぶり」

船長「……何も変わらないんだな」

使用人「そうですね……見た目は、別に」

船長「……中身は変わった、のか?」
0194この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 12:59:31.40ID:zhvYtUPP
使用人「……歳を取っても変わらないんでしょうね」

船長「そうか……姫や魔王は?」

使用人「魔王様はキッチンに」

船長「……ケーキ作ってるんだったか」

使用人「お嫌いですか?甘い物」

船長「いや、そんな事はネェけど……」

側近「おいおい、早く中に案内してやれよ」

側近「船長、荷物はそこに置いとけ。魔王様呼びに行くついでに」

側近「渡してくるからさ」

船長「お……そうか。頼むよ」

側近「石の方は直接姫に……ああ、使用人でも良いか」

使用人「石?」

船長「盗賊から言付けだ。癒やしの石だとさ」

使用人「ああ……では、お預かりします」

側近「茶でも出して貰って待っててくれ……と」ヒョイ

側近「じゃあ、後でな」スタスタ

使用人「では、食堂の方にどうぞ……姫様達がお待ちです」

船長「……達?」

使用人「側近様から聞いていません?」

船長「ん? ……何の話だ?」

使用人「聞いてないのですね……まあ、会えば解るでしょう」カチャ

姫「まあ、船長……!」

船長「……」

 婦「お久しぶり、です……船長さん」

船長「……しょ、 婦!?な……何で……」

 婦「……」

姫「……」

使用人「魔王様と側近様が戻るまで、お話しますね」

 婦「あ……あの……」
0195この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:00:16.43ID:0HzFyGSt
使用人「はい?」

 婦「私が……自分、で……お話しします」

使用人「……そうですか」

姫「……」



……

………

…………



側近「おい、魔王様」カチャ

魔王「おお、側近か……見てくれ、これ!」

側近「……」

魔王「どうだ、凄いだろう!?我ながら旨く出来た」

側近「いや、うん、確かに上手だと思う。思うけどな?」

魔王「なんだ……旨そうだろう?」

側近「うん、まあそれも否定しないけどな」

魔王「……何か不満か?」

側近「大きさ!大きさ考えろよ!?」

魔王「姫がいるじゃないか」

側近「ウエディングケーキでも作りたかったのかよ、お前は……」

魔王「ふむ、そう考えるともう少し装飾を……」

側近「あああああああああああ、もう良い!充分!可愛い、綺麗、旨そう!」

側近「すっげぇ旨そう!」

魔王「……そんなとってつけた様に」

側近「何で俺がここに居ると思う!?」

魔王「ん? ……ああ、そういえば、お前船長を迎えに行ったんじゃ……」

側近「だーかーらー!」

側近「その俺がここに居るって事は!?」

魔王「もう着いたのか?でもお前さっき出て行った筈だろう……」

側近「行って帰ってもう数刻過ぎとるわ!」
0196この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:01:37.04ID:zSFU6tXt
魔王「……集中していると時間の経つのが早いな」

側近「荷物も預かってるし、ほれ!」

側近「客を待たせるんじゃないの!」

魔王「ふむ、仕方ない……行くか」

側近「何だ、中身確かめないのか?」

魔王「皆食堂にいるのだろう? ……そっちで開けてみるさ」

魔王「側近、荷物持って早く来いよ」スタスタ

側近「……本当に、本当に理不尽……」グッタリ

側近(……今日は、元気そうだ)

側近(ますます……危惧してた事が正解っぽいな)

側近(外れてくれりゃ良いのに……こんな予感)ハァ

魔王『早く来い!』

側近「うわ……ッ」

側近「……どれだけ楽しみにしてるんだか」ハァ……スタスタ

側近(まあ……良い事、なんだろうけど……さ)



パタン



……

………

…………



魔王「全員揃ったな……では、久々の再会に!」

姫「乾杯!」

側近「かんぱーい!」

船長「おう……しかしすげぇな、この料理……まさか、魔王が?」

 婦「乾杯……わあ、良い匂い」

使用人「いえ、料理は私が……」

魔王「料理も私がやると言ったんだがな……ケーキも料理もとなると」

魔王「流石に時間がな」
0198この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:17:04.65ID:/Z199p/9
成田が荒らすから色々なスレにテンプレ貼ってきてあげたよよかったなマリガボの悪行が広まって
0200この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:38:57.00ID:mqTYV372
魔王「……その様子では、もう話は聞いたな?」

船長「ん?ああ……俺か?ああ……」

 婦「……」

魔王「そうか……では、頼めるか?」

魔王「……渡航代は私が払おう」

 婦「あ、あの、魔王様……」

魔王「どうした?」

船長「 婦から聞いた話だと、また別の教会を探せ……って事だろう?」

魔王「ああ……そうだが」

船長「皆には話したんだがな。今、港街に教会を作ろうとしてるんだ」

側近「……大丈夫なのか?」

船長「時間は掛かるだろう。勿論、金もな」

船長「今すぐに、は無理だろうが……」

姫「神父さんももういらっしゃるんですって」

魔王「ほう?」

使用人「港街ならば、盗賊さんも居ますし……心強いでしょう」

船長「あの街ならば……癒やしの石もすぐに手に入るだろう」

側近「癒やしの石……どうするんだ?」

船長「……気休めかも、しれんがな」

魔王「そうか……全部、聞いたか」

船長「……驚いたぜ。ああ、そうだそれから……」

使用人「インキュバスの魔石……私が処分しておきました」

側近「え?」

船長「海賊の一人が……魔除けの石だっつって買ってきたんだ」

船長「その……神父さんがな。どうにも禍々しいだか言ってたんだが」

側近「……結構出回っちまってるんだな」ハァ
0201この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:39:19.59ID:GfG2ACjI
姫「でも……前に側近が持ってきた物ほど」

姫「厭な感じがしなかった……何故かしら?」

 婦「……推測、ですけど」

魔王「うん?」

 婦「その……彼は、私の気を吸い、気を貯めて……魔石を作っていたのだと思います」

 婦「ですから……力の強弱で、石の強弱があるのかと」

側近「成る程……?でも……あいつも魔族だろう?」

魔王「コントロールになれて無ければ考えられない話ではないな」

船長「出回ってる、てのは?」

魔王「その侭……なんだがな。何でも、側近や私が引き上げた次の日の早朝に」

魔王「魔除けの石として、インキュバスの作った魔石が船で運ばれていったらしい」

船長「それは……何時の話だ?」

側近「昨日今日じゃネェ……もう、色んな所にばらまかれてると思って良いだろうな」

船長「ふむ……まあ、魔物を寄せ付ける程度じゃ、別になぁ……」

側近「いやいやいや、大問題だぜ?」

側近「これから、魔石を港街の特産品にしようと考えるなら尚更だ」

側近「……偽物、まがい物……魔除けの石が実は魔寄せの石でした、なんて」

側近「……信用に傷が付いちまうだろ」

船長「それは……」

姫「手立てがあるんじゃなかったの、魔王?」

魔王「ふむ……後手になると言っただろう?まあ……」

魔王「回収、ないし交換しか無いだろう……だが、それも」

魔王「本物の魔除けの石があれば……だ」

使用人「……本物、ってどうやって作るんです」

魔王「側近の話では『徳の高い聖職者の魔力の結晶』なんだろう?」

側近「あ?ああ……でもそれも、インキュバスが言ってただけだろう」

側近「信じさせるための方便じゃネェの」
0202この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:40:29.85ID:3XVFRxBR
姫「……いえ、可能だと思うわよ?」

魔王「ふむ」

姫「信心の問題の様な気はするけど……」

 婦「信心……」

魔王「何れ……出来る様になる。 婦なら大丈夫だ」

 婦「……」

船長「その神父なら可能だろうな。盗賊から預かった石の属性だかも」

船長「解ってたみたいだぜ」

姫「見た目で判断する事もできるから何とも言えないけど」

船長「ああ、そうか……まあ」

船長「……判断は難しいが、そのインキュバス?の野郎みたいな事は無いと」

船長「思いたい、けどな」

魔王「少し落ち着いたら……姫との約束もあるしな」

魔王「一度、港街に行こうと思う」

船長「そうだな……俺もどうせ、あそこにはちょこちょこ寄るつもりだ」

 婦「……お待ち、しております」

側近「で……だ」

使用人「?」

側近「そろそろ開けてみろよ。ドレスとヴェール……姫に渡すんだろ」

船長「何だ、まだ見てなかったのか」

魔王「ふむ、全員が居る場所でと思ってな……どれ」ガサガサ

姫「……わ、ぁ ……ッ」

使用人「これは……」

 婦「綺麗……!」

側近「ほーぉ……」

船長「……」ニヤニヤ
0203この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:41:08.14ID:isX8ssEk
魔王「……素晴らしい」

船長「だろう。ドレスの方は極上の絹で仕立てさせたんだ」

船長「姉ちゃんはふりふりひらひらしてるのより、シンプルな方が似合いそうだろ?」

側近「後ろは……お、リボンか……長ッ」

船長「スカート丈自体は短いからな。歩く時に、リボンの方踏まない様にな」

 婦「これは……手袋、ですか?」

使用人「片方には花が……あら、こちらはお花だけ?」

船長「左の手袋と、その花は肩の飾りさ。あんまり味気ないのもな」

船長「造花だが……綺麗だろう?瞳と髪の色が蒼に緑だからな」

船長「ピンクにした」

側近「……で、こっちがヴェールか。これもシンプルだなぁ」

 婦「これ……あ、髪飾りですね。肩と手袋のとおそろい」

船長「……どうだ?」

姫「凄い……!ステキだわ……!」

側近「これ……お前が考えたの?」

船長「ああ。魔王にデザインは任せると言われていたからな」

魔王「うむ……信じて正解だったな」

側近「……どこで信じるに値するって判断したんだ?」

側近「俺も……良いと素直に思う、が……」

魔王「船の内装だな……シンプルで簡素だったが、細かいこだわりも感じられたし」

姫「ああ……そうね。そういえば……」

魔王「気に入ったか?姫」

姫「勿論よ! ……嬉しいわ」

側近「……確かに、魔王様に任せるより余程良いわな」

魔王「側近、酷い」

側近「……お前のセンスの無さは、絵を見れば解った」

姫「見たい」

魔王「駄目!」
0204この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:42:00.02ID:IAskmHmW
姫「えー」

魔王「そんな顔しても駄目!」

船長「絵……って何の話だよ」

 婦「魔王様が、お話を書かれたんです。で、その表紙の絵を側近様が」

船長「ほぉ」

魔王「……もう絵の話題から離れてくれ」

側近「そうだな。皆が知っちまえば俺が弱みを握った意味が無くなる」

使用人「弱み……になるほど、ですか?」

側近「そりゃあもう」

使用人「……」

側近「ちょっと見てみたい、とか思っただろう」

使用人「……そ、そんな事ありません」

魔王「話題を変えろって!」

船長「ハハハ、お前さんそんな顔もするんだな」

魔王「……私、か?」

船長「ああ……まあ、危惧する事も無くなったんだろう」

船長「喜んで良いんじゃないか?姫との話もめでたい限り、だ」

 婦「……」

船長「さて……んじゃま、俺も金貰って行くかな」カタン

姫「もう行っちゃうの?」

船長「多忙なのさ……俺たちは俺たちで、やらなきゃいけねぇ事がある」

側近「そうだな……魔王様」

魔王「ああ……金ならここに用意してある。あらためてくれ、船長」ジャラ

船長「ん…… ……」カチャカチャ

使用人「それでは、私も仕事に……」

側近「あ、ちょっと待ってくれ」

使用人「?」

側近「暫く、城の中の事任せて良いか?」

使用人「私に……ですか?」
0205この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:42:30.61ID:aAZdC3st
側近「ああ……俺は北の塔に行ってくる」

魔王「北の塔……ああ、あれか」

側近「この間ちょっと話しただろ……あんまり危険な様なら人間共が」

側近「近づけない様にしとかないとな」

魔王「……そうか」

姫「先の見えない高い塔……いかにも、何かありそう、よね」

船長「良し、きっちりだ……ありがとよ」ジャラ

船長「で……北の塔ってのはあの小島にあるやつか」

側近「知ってるのか?」

船長「ああ。大陸の端っこに北の街ってのがあってな」

船長「そこの街から海を渡らなきゃ行けねぇんだが」

船長「……空を飛ぶ魔物には関係ないだろう?」

姫「それは……そうね」

船長「たんまに被害があるそうだ……つっても、その話も又聞きに過ぎんが」

側近「そうか……俺は狼って聞いた気がするが」

使用人「確かに、目で確かめてみるのが一番でしょうね」

船長「乗せてってやろうか?」

側近「良いのか?」

船長「おう、ついでだついで……懐も潤ったしな」

魔王「転移は苦手だし、丁度良いんじゃないか、側近」

側近「おう……帰りの一回我慢するだけで良いなら助かるな」

魔王「使用人は良いのか?」

使用人「え?……ああ、私は大丈夫です」

側近「使用人ちゃんになら任せられるさ」

姫「……寂しくなっちゃうわね」

魔王「今度は私達が会いに行けば良いだろう」

姫「うん……そうね」
0206この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:43:26.89ID:QZLONtEe
魔王「良し……では私は書いた本をまとめよう。すまんが 婦……」

 婦「はい、ご一緒致します」

側近「じゃあ俺は準備してくるぜ」

船長「おう、待ってるさ……」

使用人「魔王様のケーキのおかわり、如何です?」

姫「私はやる事も無いし、頂こうかな」

船長「良いね……予想以上に旨かった」

魔王「私が作ったからな。フランボワーズと、季節の果物を……」

側近「お前はさっさと用事を済ませろ!」

魔王「えー……説明ぐらい……」

 婦「美味しかったですよ、魔王様。お腹いっぱいなのが悔しいです」クス

使用人「紅茶も入れ直しますね」

側近「ほら、お前はこっち!…… 婦ちゃんもおいで」

 婦「はい」

魔王「……側近の阿呆」ずるずる

パタン

船長「一気に静かになったな……で、嬢ちゃん、何時式をあげるんだ?」

姫「ふふ……え?ああ……どうなんでしょうね」

姫「魔王は自分で勝手に決めちゃうから」

使用人「教会が出来てからでは?」

姫「え?」

使用人「港街に教会が出来るのでしょう?……そこで、では無いんですか?」

船長「ああ……なるほどな。でも魔王が……そんな事考えつくか?」

姫「……エルフと魔王が人間の街の教会で?」

使用人「……」

船長「……」

姫「寧ろ、魔王ならおもしろがってその話に飛びつきそうね」

船長「間違いないな」

使用人「……私の感覚も、まだまだ人間なんでしょうか」

船長「え?」
0207この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:44:04.22ID:mnu+/Tbz
使用人「いえ……すっかり、その。忘れていたので」

船長「使用人の感覚がどうとかいうより、魔王と嬢ちゃんの問題だろ、そりゃ」

姫「わ、私も?」

船長「……本気で言ってんのかそりゃ」

使用人「そうですね……私悪くないです」

姫「ええ……」

船長「身体は大丈夫なんだな?」

姫「ええ……この、エルフの加護のおかげで」

船長「そうか……」

姫「……ごめんなさい」

船長「なんで謝るんだ……そもそもは盗賊の入れ知恵だろう」

船長「それに、死人より生者だ。知人だって……喜んで助けてくれるさ」

船長「……お前さん、知人の好きだった女の娘なんだ」

船長「自分たちの……長の娘で、長になるものなんだろう」

使用人「……え?」

姫「あ、そうか……使用人はしらないわよね」

船長「エルフの長の娘なんだとよ。嬢ちゃんは」

使用人「では……姫様が次の長?」

姫「そう。そしてまた次の長を産む者……長を産む者は……」

船長「……」

姫「……産んだ後、生きられない」

使用人「!?」

船長「……」

姫「エルフの長てのは世襲制でね……少しだけ、他のエルフより力が強い」

船長「……俺は知人に聞いて知ってたが……」
0208この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:44:31.75ID:EeS7D24w
姫「知人の思い人……私の母ね。私を産んですぐに、亡くなっているわ」

姫「だから……私は顔は知らない」

使用人「……」

船長「綺麗な人だった、と言ってたぜ」

使用人「では……姫様は……」

姫「……私の、エルフの妊娠期間はほぼ50年。その間ゆっくりとお腹の中で育てるの」

姫「でも……エルフの加護は多分、そんな長い時間は持たない」

船長「……どうするんだ?」

姫「ここで産む訳にはいかないわ。どちらにしても私の子……エルフの長の血を引く者」

姫「……感じる力の強いこの子を、魔の気の中に晒す訳には……」

使用人「そう遠くない内に……城を出られるのですね」

姫「……」

船長「遠くない無いとは言え、50年は長いぞ。俺は確実にくたばってるな」

使用人「考えれば考えるほど、理不尽な世の中ですね」

姫「え?」

使用人「魔と人と言う種族が居て、エルフが居て……」

使用人「種族同士の争いどころか、魔王様の地位を狙う輩が居たり」

使用人「人は……力の、魔力の強さで優劣を決めようとする」

船長「生きる者全ては、支配する側とされる側に分けようとするもんさ」

船長「『みんなが平等』なんてのは、それこそ御伽噺さ」

姫「……エルフはそんな世界に見切りをつけたのよ、きっと」

使用人「え?」
0209この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:44:52.11ID:iRmzPHXe
姫「嫌気がさして、エルフの森に逃げ込んだ……ううん」

姫「より支配しやすい環境を作っただけかもしれないわね」

船長「エルフの中にも長が居る……支配には違い無いわな」

姫「そうね。実質的には支配者よ。長の命令は絶対……」

使用人「劣等種を見ていれば解ります。支配される事を……望む様になる者も」

使用人「少なくは無かったでしょう?」

姫「……今まで不自由の中に自由を見いだす事で生きて来れたのに」

姫「それを取り上げられると、どうして良いか解らない、ね」

船長「……おかしな話だとは思うが……間違い無く、事実なんだよな」

使用人「自由は不自由だと、 婦さんも仰ってましたから」

姫「……共存したって同じ事、なのよね……きっと」

船長「魔族と、人とが……か」

姫「……使用人はどう思うの?」

使用人「何がです」

姫「魔王と側近は……徹底した不干渉、を望んでるんでしょ」

使用人「私の主は魔王様です。従うだけです」

船長「……これも支配、かね」

使用人「……」

姫「貴方の望みは私の望み……従順に聞こえるけれど」

姫「……それが自分の意思だと、思い込んでるだけの人も居る」
0210この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:45:16.58ID:u1cf/uK2
使用人「支配欲のある者ばかりじゃ、世界は成り立ちませんよ」

使用人「支配する者が居ればされる者が居て……平等、なんてこの世界にはありません」

船長「そうだな。そもそも産まれる時から、平等だとは言いがたい」

使用人「……貧富の差、力の差、種族の差」

姫「環境の差もあるわね……どれだけ才があっても、生かせる環境が無いと」

使用人「……その代表が劣等種……そう思いたいです」

船長「そうだな。環境が違えば、強制的に支配される側に回る事は無かった」

姫「劣等種なんてもう居ないのよ。もう……」

使用人「……」



カチャ



側近「お待たせ……って、アレ、魔王様と 婦ちゃんまだかよ」

船長「なんだお前その恰好は……」

側近「いや、北の塔に行くなら必要でしょ、武器の一つぐらい」

船長「……魔法で何とかなるだろ?」

側近「俺そもそも攻撃魔法得意じゃネェの」

姫「だからって……どこから持ってきたの、そのトゲトゲ」

使用人「鎖の先に鉄球……振り回すんですか?」

側近「力もそんなにネェの!」
0211この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:45:36.33ID:bxwpJDCq
姫「確かに……威力はありそうだけど」

船長「ほーう……振り回して攻撃すんのか。成る程な」

側近「後衛向きの奴の為の武器だなぁ、多分」

使用人「……ぶん投げそうです、側近様」

側近「俺はどっちかって言うと頭脳派なの!そもそも治癒魔法専門だったんだよ」

側近「……人間の時は、な」

姫「そうなの?」

側近「そうだよ。まあ、ある程度風も操れるけどさ……緑とか大地とか水とか」

側近「その辺の属性持ってる奴らは、がっつり攻撃するには向かないのさ」

側近「……て、まあ、姫様や使用人ちゃんは知ってるよな」

船長「なるほどな……おう、側近、これ売り物にならねぇか?」

側近「こいつか?……しかし似た様な武器は、多くはないだろうが」

側近「普通に売ってるぜ?俺だって武器屋で買ったんだし、これ」

船長「いやいや、もうチョイ軽量化してだな……」

側近「ああ、成る程、そうすりゃ……こういうのはどうだ?」



アーデモナイ、コーデモナイ



使用人「……魔王様、呼んできますね」スタスタ、パタン

姫「……そうね」

姫(確かにこの二人、気が合いそうねぇ)



……

………

…………
0212この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:46:00.08ID:MqbRDbta
魔王「これが魔石の作り方、それから……こっちが具現化の方法を纏めたものだ」

 婦「はい」

魔王「それから、これが……」

 婦「……こんなに、よろしいのですか?」

魔王「構わん……持たせてやろうと思って書いたものだ」

 婦「ありがとうございます……」

魔王「複写も終わっている。使用人が読みたがるだろうしな」

魔王「……それから、これ」

 婦「エルフのお姫様のお話、ですね……」

魔王「ああ」

 婦「本当に……ありがとうございます。こんなに……よくして頂いて」

魔王「何を言う……お前はこれから頑張らねばならんのだろう」

 婦「本物の魔除けの石、ですか……私に……」

魔王「大丈夫だ。お前なら出来る……頼む」

 婦「……はい。徹底した不干渉の為、ですね」

魔王「お前は……共存を望んでいるのだろう」

 婦「……良く解りません。皆仲良く、と言うのは……素晴らしいとは思います」

 婦「ですが……」

魔王「……難しい話だ」

 婦「はい…… ……あの、魔王様」

魔王「ん?」

 婦「以前のお約束、覚えていらっしゃいますか」

魔王「約束……ああ、大会が終わったら、か?」

 婦「はい……お料理を、教えて貰いたかったんです」

魔王「……早く言えば良い物を」

 婦「いえ……まあ、あのごめんなさい」
0213この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:46:20.02ID:T/Lh9P8R
魔王「謝る事では無い……が、ふむ……」

 婦「あ、あの、良いんです!あの……」

魔王「ん?」

 婦「また……後で……えっと、今度……」

魔王「……うん。また今度」

 婦「美味しかったです、ケーキ」

魔王「ああ、ありがとう」

 婦「あの、姫様……きっと、綺麗だと思います。良く似合います、ドレス……」

魔王「…… 婦?」

 婦「あの……しあ、幸せに、なってください、魔王様……!」ポロポロ

魔王「 婦……何故、泣く?」

 婦「……わ、……わ、かりま、せん……ッ!」

魔王「……」

 婦「ま、まおう、さ……ま!」

魔王「うん」

 婦「私が、私が……ッ 死んで、も……ッ」

魔王「……」

 婦「世界は、美しい、です、よね!?」

魔王「……?」

 婦「劣等種は居なくなったし、魔族と、人間が共存できなくても!」

 婦「人から、不安が消えなくても……ッ!」

魔王「何が……言いたい?」ポンポン

 婦「……魔王様は、勇者です。魔族でも、魔王でも……ッ」

 婦「ずっと、私の勇者……です!」

 婦「……だから、あの……ッ」

魔王「大丈夫だ、 婦……」
0214この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:46:44.65ID:9pGj4s8N
 婦「……ッ」ヒック

魔王「お前が死んでも、私が死んでも、世界は変わらず美しい」

魔王「……ありがとう。 婦」

 婦「……」ポロポロ

魔王「姫と会いに行く。だから……泣かないでくれ」

 婦「……」

魔王「また後で、だ。 婦……」

 婦「はい。また……後で」



カチャ



使用人「魔王様、 婦さ……あ」

 婦「あ……! お、お待たせしてすみません!」ゴシゴシ

 婦「魔王様、本、ありがとうございました……大事にします!」タタタ

魔王「……」

使用人「女性を泣かすのは感心しませんけど」

魔王「……すまん」

使用人「浮気ですか?」

魔王「お前は何を言っているんだ……」

使用人「姫様には内緒にしておきます」

魔王「阿呆、そんなんじゃない」

使用人「……魔王様も、お早く」

魔王「私は良い……やる事がある」

使用人「執筆ですか?」
0215この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:47:06.01ID:AcleUmen
魔王「それもある……が」

使用人「?」

魔王「……見送りは任せる」

使用人「ええ、それは……まあ」

魔王「側近が居ない間、お前が変わりになるんだ……頑張ってくれよ」

使用人「はい……勿論です」

魔王「ああ……頼む」

使用人「……失礼します」スタスタ……パタン

魔王「……」

魔王(さて……)パリンッ

魔王「? ……む」

魔王(私の剣が……また、亀裂が入ったのか)

魔王(何故だ?寿命には遠いはずだし……)

魔王(否……親父の時はこんな事は無かったはずだ)

魔王(……まあ、良い。過激派も居ない今、もう……こんな物に用事は無い)

魔王(だからか……必要を感じなくなって……いる、のか?)

魔王(私の……魔力が強くなっているのも……こいつの力を)

魔王(吸い取っているから、なのか……)

魔王「納得はいくな……さて、地図は……と」ガサゴソ



……

………

…………
0216この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 13:48:05.00ID:YxSgHMmH
使用人「では、お気をつけて……」

姫「またね、船長、 婦」

船長「おう。なるべく定期的に癒やしの石は届けるぜ」

使用人「お願いします」

姫「このペンダントがあるから大丈夫なのに……」

側近「念には念を入れて、だ」

姫「側近も気をつけてね」

側近「おう。魔王様と連絡は取れるし、大丈夫さ」

船長「しかしこの馬車の内装、良いよなぁ……と、ほら、手貸せ」

 婦「あ、すみません……」

側近「良し、出してくれ……じゃあな!」



ゴロゴロ……ガラガラ……



使用人「急に……寂しくなりました、ね」

姫「そうね……仕方ないわよ。魔王は?」

使用人「書庫に篭もって執筆中、です」

姫「執筆?」

使用人「私も詳しくは……気になるなら覗かれると良いですよ」

使用人「私は……癒やしの石を設置します」

姫「……本当に、大丈夫よ?」

使用人「今は、でしょう……」

姫「……」

使用人「側近様が案じておられました。多分……魔王様のお力が」

姫「……そうね。強くなってる……わよね、きっと」
0218この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:32:51.48ID:3vzsyprA
使用人「推測に過ぎませんが、ね……ですが」

使用人「備えあれば憂いなし、です」

姫「……ありがとう」

使用人「では、私は……」

姫「手伝うわ……魔王の所に行っても、相手して貰えないだろうし」

使用人「……拗ねてるんですか」

姫「ち、違うわよ!」

使用人「式、何時にするんでしょうね」

姫「……さぁ。最初は過激派への牽制か、なんかのつもりだったんでしょうしね」

使用人「まあ……色々と予期せぬ事ばかり起きましたから」

姫「お互いに利用するつもり……だった筈、よ」

使用人「貴女は保身の為」

姫「否定はしないわ」

使用人「魔王様は……」

姫「……解らないわね」

姫「嫌いじゃないわ……否、きっと、好きね」

使用人「……」

姫「でも、愛じゃない」

使用人「……そう、ですか」

姫「きっと、魔王も一緒よ」

使用人「どう……でしょうね。でも、お二人は一緒になられると決めた」

姫「ええ……本当に……本当になっちゃったわ」

使用人「?」

姫「……行きましょう。どこに置くの?」

使用人「……はい。姫様の部屋と、魔王様の部屋、廊下、それから……」



……

………

…………
0219この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:33:14.38ID:lFo0qu12
側近「連絡手段ナァ……それが一番問題だよな」

船長「あいつは?魔王のあのカラス」

側近「あんな事できるの魔王様ぐらいだってば!」

 婦「……そうでも無いかもしれないですよ?」

船長「へ?」

 婦「ほら、これ……魔王様が、具現化の方法を纏めてくださったんです」

側近「どれどれ……て、あああ、駄目だ。悪い、読んでくれ」

船長「は?」

側近「 婦ちゃんなんで平気なの……酔わない?」

 婦「だ、大丈夫だと思います……」

船長「……弱いやっちゃな」

側近「わ、悪かったね!」

 婦「ええと……『自分の身の一部を媒介に、使役する物を生み出す方』……」

 婦「『髪や爪等小さな物であれば、伝達や偵察などに』……」

側近「駄目ー!却下!」

船長「な、何だよ!?」

側近「……髪は勘弁して」

船長「気にしてんのかよ……」

 婦「つ、続き読みますね?『より大きく、重要な器官であれば……』」

船長「……お前が持ってる魔王の目と同じか」

側近「俺にゃ目ん玉自分でくりぬく勇気は無い」

 婦「そのお話の方が気分が悪くなりそうですよ……」
0220この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:33:38.63ID:pLaqIT71
側近「転移石があればどうにかあるだろ?」

船長「そりゃそうだろうが、俺は基本船での生活だ。海の上だぜ?」

側近「港街の盗賊ちゃんに言付ければ良いじゃん」

船長「……転移、厭なんだろ、お前」

側近「髪抜くよりはマシ!」

 婦「ふふ……あ、止まりましたね」

船長「着いたか……」

側近「船……か……」

船長「……馬車は平気なのか?」

側近「地面に着いてるだろ!?」

船長「そういう問題かぁ?」



セーンチョー!

センチョー!



船長「……海賊共か。良し、先に降りるぜ」

側近「でっけぇ声……よっと。ほら、本貸せ……片手じゃ辛いだろ」

 婦「あ、すみません……よいしょ」

海賊「船長!ご無事で……あれ、 婦さん?」

 婦「すみません……もう一度、お世話になります」

側近「結構でかい船だな」

船長「ほら、さっさと乗り込め。出発するぞ!」
0221この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:33:58.65ID:9fr67OZ0
海賊「船長、行き先は?」

船長「北の塔……あ、っと、おい側近。街に行くのか?直接塔にか?」

側近「あー……情報収集もしたいし、取りあえず街かな」

船長「だとするとあれだな、自力で塔まで行くのか?」

側近「あ、そうか……船が居るのか」

船長「先に塔に行け。街は肉眼でも見える……飛べるだろ?」

側近「あー……そうするしかネェか。転移石多めに持ってきて良かったかな」

側近「あれ?そしたら逆も可能じゃん」

船長「……それもそうか」

側近「やっぱ街で頼むわ。街から塔の方が見やすいだろ」

側近「……なんせ天まで伸びる塔、だしな」

船長「了解。 ……良し、北の街に向かうぞ!」



アイアイサー!



 婦「どれぐらい掛かるのです?」

船長「ん?塔までか? ……そうだな、一日はかからん」

 婦「いえ、港街まで……」

船長「あー……まあ、魔寄せの石は処分したとはいえ」

船長「戦闘も考慮に入れると一週間ちょいかな」

 婦「そうですか。ならのんびり……読書でもしています」

船長「ああ。そういえば盗賊がおいていった本とかもあるな」

船長「書庫の近くの部屋を用意してやるよ」
0222この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:34:20.96ID:H+sW+NlQ
 婦「船に……書庫!?」

船長「ああ、いやいや。書庫代わり、だな。物置みたいなもんだ」

側近「いやに優しいじゃネェか」ニヤニヤ

船長「う、うるせぇ!髪引っこ抜くぞ!」

側近「ちょ、冗談でもやめて!」



フネヲダスゾー!



船長「……良し、俺は操舵室に行くぜ」

船長「海賊に部屋へ案内させる……着いて来い」

側近「船、か……うわ、海の上進んでる……」

船長「当たり前だろ、阿呆か」

側近「……お、俺甲板に居るわ、風に当たってる……」フラフラ

 婦「だ、大丈夫ですか……」

船長「ありゃ気のもんだ……好きにさせてやれよ」スタスタ

 婦「え、ええ……側近さん、落ちないでくださいね!」スタスタ

側近「……俺をどんなけ阿呆だと思ってんだ、 婦ちゃん……」ウェ

側近(ううううう、海が、青い……気持ち悪い……)

魔王『側近、今どこだ?』

側近『魔王様……?まだ海の上……』

魔王『どうした、元気ないな』

側近『いや……大丈夫だ。で、何だよ……』

魔王『転移石に余分はあるな?』

側近『ん?ああ……結構持ってきたからな……どこ行かすつもりだよ』

魔王『始まりの大陸へ』

側近『……理由は』
0223この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:34:43.72ID:9BY6PrZ/
魔王『視察だ』

側近『あそこは廃墟だろ?何で……』

魔王『あの街と、城も復活させる』

側近『へぇ!?』

魔王『なんて声出すんだお前は……』

側近『港街もまだ軌道に乗ってないのにか!?』

魔王『あそこはゼロからだろう。幸い、港街からそれほど遠くない』

魔王『働き手が増えれば、住居ももっと必要になる』

側近『まあ、そりゃそうだろうけど……』

魔王『魔物共の強くないだろう。うってつけでは無いか』

側近『……そこまで人間の為にしてやる必要は?』

魔王『あそこは、エルフの加護があるだろう』

側近『……あのペンダントに移したんじゃ無いのか』

魔王『大地に染みついた物はどうしようもないだろう?』

側近『まあ……そりゃ、そうだが』

側近『……姫様の為か』

魔王『……』

側近『まあ、いい。船長にも相談してみる』

魔王『ああ、頼む……それから、様子を教えてくれ』

側近『様子?』

魔王『以前ほど息苦しい思いはしなくて良いと思うんだがな』

側近『ああ……成る程ね。了解』

魔王『北の塔の報告も待っている』

側近『あいよ……明日の朝には着くだろう。まず街へ行く』

魔王『解った……ではな。もう少し調べ物を続ける』
0224この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:35:09.12ID:f73cL+ka
側近(船長は……操舵室、だっけな……ここか)コンコン。カチャ

船長「おう?」

側近「魔王から伝言だ。始まりの街と城を復活させるんだと」

船長「は!?」

側近「……それが普通の反応だよな」

船長「簡単に言ってくれるなぁ……」

側近「まあ、働き手が増えれば住居もいるし、てな感じだ」

船長「ふむ……まあ、一理はある。場所も遠くない」

側近「港らしきもんもあるしな。可能は可能だろう」

船長「時間は掛かるがな……つか、城どうすんだよ」

側近「城も、とか言ってたがな……まあ」

側近「とにかく、北の塔の後に見に行けってなお達しだ」

船長「何れ、の話なら……可能だとは思うが」

側近「それで良いんじゃねぇの?」

船長「しかし……何でまた」

側近「あそこは、エルフの加護がある。魔物も強く無い」

側近「……姫様の為、だろう」

船長「惚れ込んでるねぇ……」

側近「どうだかね……惚れてるって言やぁ、アンタだろう?」ニヤ

船長「は?俺?」

側近「 婦ちゃん」ニヤニヤ

船長「な、ば……ッ馬鹿野郎、そんなんじゃネェよ!」

側近「……うわぁ、顔赤くしてやがる」

船長「う、うううううう、うるせええ!」

側近「……」

船長「聞いたよ。一年、だろ」

側近「……ぐらい、だ」

船長「そんなんで……魔石なんか作って大丈夫なのか」
0225この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:35:28.98ID:BmTFPl+P
側近「……何か目標がある方が良いさ」

船長「ん?」

側近「何も無いと……やる気も失せる。生きる気力、もな」

船長「……」

側近「出来なくても良いんだろうさ。魔王様だって……」

側近「死んで欲しくなんか、無い筈だ」

船長「……ああ」

側近「……」

船長「さっき話してたんだ。自分の中の神を信じ、崇め……」

船長「そんな事しかできない自分に、魔除けの石など作る事はできないとな」

側近「…… 婦ちゃんがそう言ったのか?」

船長「ああ…… 婦の中の神とはな……魔王だそうだ」

側近「……」

船長「魔族の王であろうとも、自分を…… 婦を救ってくれたのは魔王だ」

船長「だから……『魔王様は、私の勇者様なんです』……とな」

側近「……勇者」

船長「ああ……だから、自分が神と想うのは魔王自身なのだそうだ」

船長「魔の最たる王を信奉する自分には、魔除けの石はできまいと」
0226この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:36:13.29ID:uxUXazm4
側近「……そう、か」

船長「だから、な……違う、って言ったろ?」

側近「悪かった」

船長「阿呆、謝るな……余計惨めになるわ」

側近「……」

船長「ああ、もう気にすんな……それより、あの本……」

側近「本?」

船長「ああ。魔王が置いていった本だ」

側近「……使用人が持って行ったんじゃないのか?」

船長「一冊残ってたんだ。今 婦が読んでると思うんだが」

側近「別に構わネェだろ。必要だったら何時でも返して貰えるさ」

船長「そうか……なら良いがな」

側近「どんな本だった?」

船長「童話の類だったと思うけどな」

側近「あー……じゃあ、別に良いんじゃねぇの?」

側近「値打ちモンにゃ違いないだろうけどな」

船長「そうか。まあ……一応断り入れておこうと思ってな」

側近「律儀だねぇ……」

船長「お前さんも休んでくりゃどうだ?部屋は用意してあるぞ」

側近「あー……身体は休めておきたいんだがな」

船長「眠っちまえば酔いも吹っ飛ぶぜ……明日の朝にゃ着くんだ」

側近「ああ……じゃあ、そうするかな」スタスタ

側近「あ、何かあったら遠慮無く起こせよ?」

側近「戦闘の手伝いぐらいはするぜ」

船長「あいよ」



カチャ、パタン
0227この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:50:20.28ID:Tcomcg57
船長「……魔王、か」

船長(勝てネェわな……勇者様、にゃ)



……

………

…………



魔王(……このぐらい、か)

魔王(思いつく限りの物は書に起こした……後は、都度……)



コンコン



魔王「誰だ?」

使用人「私です」

魔王「ああ……丁度良かった。入ってくれ」

使用人「失礼します」カチャ

魔王「どうした」

使用人「船長さんと 婦さん、側近様は無事に旅立たれました」

使用人「出航も確認し、馬車も戻っております」

魔王「そうか……ご苦労。態々報告しにきてくれたのか」

使用人「……それと、書庫を利用させて頂いても?」

魔王「ああ……別に私の許可などいらんさ。好きな時に使うと良い」

使用人「そうですか。ありがとうございます」

魔王「……今から行くのか?」

使用人「? ……特に、仕事が無ければ……そうしようかと」

魔王「では、ついでにこれを持って行ってくれ」

使用人「ああ……エルフのお姫様の」

魔王「それだけでは無い……まあ、今思いつく限りの知識を」

魔王「纏めておいた」

使用人「……私も、読んでも?」
0228この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:51:29.44ID:PF+Q4UAZ
魔王「勿論だ」

使用人「ありがとうございます……ついでに整理してきます」

魔王「ああ……そういえば以前怒られたな」

使用人「……すみません」

魔王「気にする事は無い……寧ろ、頼む」

使用人「はい……以降は、あった場所にちゃんと戻してくださいね」

使用人「そうすれば、ばらばらになる事も無いんです」

魔王「……はい」

魔王「何だか……側近みたいだよな、使用人は」

使用人「そう、ですか?」

魔王「今ひとつ感情が読み取れないって所は、真逆だが」

使用人「あの方は……確かに感情豊かですよね」

使用人「少々喧しい程に」

魔王「……毒舌な所は似てる」

使用人「側近さん程口は悪くありません」

魔王「うん……まあ、うん」

魔王(こういう所はそっくりだな)

使用人「? ……では、失礼します」

魔王「用事があれば呼ぶ……ゆっくりしていろ」

使用人「お言葉に甘えます……では」

魔王「あ……姫は?」

使用人「先ほど、中庭の方に」

魔王「そうか……ありがとう」

使用人「はい……失礼します」スタスタ。パタン

魔王「中庭……」スタスタ

魔王(窓から見えるか……ああ、居た。あの髪は……同じ緑なのに)

魔王(草花の中にあっても、目立つ……あ、気がついた)

魔王(無邪気に手を振って……ふふ)ヒラヒラ

魔王「……ん?」

魔王(手招き……ああ、来いって事か)スタスタ、カチャ
0229この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:52:26.75ID:QgMpelwi
魔王(中庭か……荒れ放題だよな、確か)

魔王(鴉が昔、手入れしていたのは知ってるが……親父が死に)

魔王(あいつが城を出てからは……)スタスタ

姫「ねえ、魔王!」

魔王「何だ? ……余り走るな」

姫「え?」

魔王「……今更だし、私が言うのもおかしいが」

魔王「妊婦の自覚をだな」

姫「ふふ……本当におかしいわね」

魔王「解ってるって……で、どうした?」

姫「この庭、弄っても良い?」

魔王「ん?ああ……好きにすれば良い、が」

姫「解ってる。無理はしないわ」

魔王「……なら、良い」

姫「ありがとう! ……暇で仕方なかったのよ」
0230この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 15:52:45.87ID:ipr2JTHt
魔王「土いじりなぁ……楽しいか?」

姫「楽しいわよ? ……手伝う?」

魔王「……遠慮しとく、と言いたいが、私も今のところ暇だな」

魔王「力仕事もあるだろう……良し。何からやる?」

姫「やった! ……でも、そうね……荒れ放題だし……」

姫「どこから……うーん」

魔王「ふむ……形から整えるか」

姫「うん、そうね……じゃあ、割れてるレンガとか除けて……」

魔王「枯れたままの奴は抜いてしまった方が良いな……殆ど無いが」

姫「昔は綺麗だったんでしょうね。広いし……装飾とか見てると」

姫「手を掛けてたんでしょうし……」

魔王「鴉がなんかこそこそやってたな」

姫「……」
0231この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:22:47.35ID:fANRH4Rv
魔王「……そんな顔をするな。終わった事だ」

姫「……ええ、でも……」

魔王「鴉はな、若い頃はなかなか良い女だったらしい」

姫「……?」

魔王「親父が婚姻を結ぶ前は、そりゃあもう激しくせまられたそうだ」

姫「へぇ……」

魔王「私の母を見初めた後はおとなしくなったらしいがな。ジジィが良く自棄酒に付き合わされたとぼやいてた」

姫「ふふ……」

魔王「黙ってりゃ良い女なのに、口を開いたら最後……喧しくて叶わん、ともな」

姫「お父様は……大人しい人が好みだったのかしら」

魔王「さあな。目が覚めたら裸の鴉が上に乗ってた時は」

魔王「……危なかったとか言ってたが」

姫「……男ってやあね」

魔王「耐えたんだから褒めるべきだろ、そこは」

魔王「でもまあ、婚姻の後は母と鴉はとても仲が良かったらしいぞ?」

魔王「……女の方が良くわからん、さ」
0232この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:23:08.32ID:6IZYalE2
姫「貴方はどうなの、魔王」

魔王「どう、とは?」

姫「……好み?」

魔王「……何故、そんな事を聞く?」

姫「なんとなく……話の流れ的に?」

魔王「……気になるのか?」

姫「どうかな……別に、言いたくないなら構わないわ」

魔王「……考えた事も無かったな」

姫「え?」

魔王「確かに、タイプと言うのはあるんだろうが、それが100%でもあるまい?」

姫「それは……まあ」

魔王「ああ、と気が付いた時には落ちているものさ」

姫「……」

魔王「……なんだその顔は」

姫「良く、まあ……恥ずかし気も無くそんな事言うわね……」
0233この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:26:07.30ID:6IZYalE2
魔王「お前が聞いたんだろう」

姫「……」

魔王「……姫?」

姫「大丈夫、なの」

魔王「……何がだ?」

姫「毎日遅く迄何かやってるでしょう?あんまり……寝てない様だし」

魔王「……」

姫「ねえ、魔王……貴方……!」

魔王「大丈夫だ、姫。何も気にする事は無い」

姫「……」

魔王「過激派も居なく……否。目立った魔族も、だな。幹部に近いものは」

魔王「……ほぼ、居なくなった。そもそもが少数精鋭だ。魔王軍等と言うにも烏滸がましい」

姫「それだけ……力が強い、と言う事……」

魔王「まあ、それは確かだ。と言うか私が居ればな」

姫「貴方は規格外ですもの」

魔王「久々に聞いたな、それ……」

魔王「……とにかく、だ。そもそも私一人でも問題は無いのだ」

魔王「加えて細々とした雑務は、側近と使用人が請け負ってくれると言う」

姫(やらせてる、て言うんだと思うけど)

魔王「……たまには、好きな事したいだけだ」

魔王「寝る間も惜しんで、な」
0234この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:26:27.86ID:zaWnQARY
姫「……子供みたい」

魔王「そうだな……その通りだ」クス

魔王「さて……土を弄るのに素手ではな。何か道具を探してこよう」

魔王「姫はここに居ろ」スタスタ

姫「ええ……」

姫「……」

姫(嘘が下手ね、魔王……)

姫(このペンダントがあるから……平気だけど)

姫(それでも……感じるのよ)

姫(魔王の力は、どんどん強くなってる。溢れそう……)

姫(……何時迄も、ここにはいられない……!)



……

………

…………
0235この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:26:48.15ID:iY52MCMn
船長「本当にここで良いのか」

側近「ああ、あの光……北の街だろう」

船長「……もうすぐ陽も登るだろう。それまで船に居ても良いんだぜ?」

側近「陸が恋しいのさ」

船長「……酔うからだろ。格好つけやがって」

側近「せ、折角早く着いたんだ。早く出発出来る方が良いだろ!?」

船長「はいはい……お言葉に甘えるさ」

側近「おう……気をつけてな」

船長「お前こそ……じゃあな」



ヨシ!フネダスゾー!

アイアイサー!



側近「またなー!」

側近「……さて、と」クルッ

側近(あっちのあれが……北の塔、か)

側近(確かに……天辺、雲に隠れて見えねえな)

側近「つか、あれ……自力で登る……んだよな」
0236この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:31:29.34ID:uR/frkTT
側近「まじかよおぉ……」ガク

側近(自分で言い出したとは言え……はぁ)

側近「とりあえず……行く、か」トボトボ

側近(街……と、言うより村に近いな)

側近(宿屋に……ありゃ酒場、否、飯屋か)

側近(家が……あって……ん?)スタスタ

側近(あの家……他に比べてでかいな)

側近(こんな小さな街でも、支配者的な奴が居るんかねぇ……お、誰か出てきた)

??「見ない奴だね、アンタ」

側近「あー……船に乗って来たんだ」

??「ああ……港町から来たのか?」

側近「知ってるのか?」

??「そりゃ噂ぐらいはね……旅人かい?」

側近「まあ、そんな感じかな」

??「こんな辺鄙な街に……物好きだねぇ。アンタもあれかい。北の塔に宝でも探しに来た口だろ」

側近「……あれ、まじな話なのか?」
0237この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 16:32:37.63ID:m9W6ANm5
??「さあね……確かめに行った奴は確かに居るが、帰ってきた奴はいないからね」

側近「ふぅん……で、君は?」

??「え?」

側近「ここらでは……一番でかい家だろ、君が今出て来た所、さ」

側近「しかも夜明け前だ……まあ、空は白んできたけどさ」

??「汽笛が聞こえたから見に来ただけさ……こんな時間に何だと思ってね」

??「偶に船は来るけど、こんな時間はまずあり得ない……しかも」

??「来たら来たで、降りたのはアンタだけだったけどね」

側近「あー……俺、怪しい?」

??「言い訳は聞くよ?」ニヤ

側近「……別に、な。知り合いについでで乗せて貰って、下ろして貰った」

側近「それだけさ……まあ、北の塔に興味があるのは否定しないけどな」

??「ありゃ、港街に行く船か?」

側近「ああ……俺も聞いて良いかな。あの家は……この街の支配者かなにかか?」

??「あ? ……ああ。ありゃ親父の家。親父はこの街の町長さ」

側近「じゃあ……君は町長の娘?」

??「ああ。ついでにこの街の用心棒でもある」

側近「用心棒……」

??「腕には多少なりとも覚えがあるんでね……アンタは」ジロジロ

??「……あんまり強そうには見えないな」

側近「悪かったな……俺は側近、てんだ」

??「私は女剣士だ……悪い事は言わない」

女剣士「やめときな……アンタみたいな奴があそこに行ったって」

女剣士「100%生き残れないよ」
0239この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:08:09.76ID:wpIrX35k
側近「それは経験則か?」

女剣士「……いや。アタシはあそこに行ったことは無い」

側近「さっき言ってたな。帰った奴は居ないと」

女剣士「ああ。だから……やめときなよ」

側近「ああ、いやいや。そうじゃなくてさ……足はあるのか?」

女剣士「足?」

側近「行って帰ってきた奴が居ないのは知ってるんだろ?」

側近「俺が聞きたいのは、あそこへ行く方法、だ」

女剣士「……だから、やめときな、って」

側近「君は行きたくないのか?」

女剣士「え?」

側近「腕に自信はあるんだろ……試してみようとは思わないのか?」

女剣士「……アタシには、この街を守る義務があるからな」

側近(否定はしない訳ね……)

女剣士「アンタ……側近、か。この街に滞在する予定は?」

側近「ん?ああ……まあ、そうだな。急ぐ旅でも無いし」

側近「船が帰っちまった以上、滞在するしかネェわな」

女剣士「……なら、すぐに解るさ」

側近「……?」

女剣士「まあ、良い……忠告はしたからね」

女剣士「アタシは朝の見回りに行くよ……宿は空いてるはずだ」

側近「あ、ああ……」

女剣士「開いてなければ、親父に言いな……ま。暫く起きてこないと思うけど」スタスタ

側近「あ、ちょ……」

側近(行っちゃった……か)

側近(ふむ……どうするかな。取りあえず……宿行ってみるか)
0240この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:08:28.60ID:OmRwGCaf
側近(小さい宿だな……まあ、こんな立地じゃ)

側近(必要が無い……か)カチャ

側近「すみません、部屋空いてるかな」

宿屋「いらっしゃい。こんな街の宿屋が満室なんてまずありえないよ……一人かい」

側近「ああ……助かるわ」

宿屋「さっきの船に乗って来たんだろ、アンタ」

側近「ん?ああ……そうだけど」

宿屋「あ。すまん。詮索とかじゃ無いんだ。窓からアンタと、女剣士ちゃんが話してるのが見えたからな」

側近「知り合いの船にたまたま乗せて貰えたからな。ついでで降ろして貰ったのさ」

宿屋「……北の塔に行きたいのか」

側近「やっぱそう言う奴多いの?」
0241この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:08:51.81ID:CC/AxzLE
宿屋「それ以外にこんな街に用事のある奴なんざいないだろ?」

側近「……そうなんか。俺は初めて来たから良く知らんが」

宿屋「アンタもあれだろ?お宝だとか、そんな噂聞いて来たんだろ……悪い……」

側近「悪いこた言わん、やめとけ、か」

宿屋「……そう言う事」フゥ

宿屋「ここ何年もアンタみたいな奴はいなかったんだけどな」

側近「うん?」

宿屋「魔道の街だかなんだかで、大会とかやってたろ?魔法に自信のある奴は」

宿屋「そっちに興味移したんだか、なんだか……ま、めっきり減ったんだがな」

側近「……へぇ。成る程ねぇ」

宿屋「まあ、何も無いとこだがゆっくりして行きなよ……んで、おとなしく帰るこった」

宿屋「あ……夜半の外出は控えてくれよ?」

側近「へ?」

宿屋「……まあ、今夜わかるさ」

側近(さっき……女剣士も似たような事言ってたなぁ……)

側近(すぐに解る……か、なんか……?)
0242この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:09:13.00ID:fVMt8h89
宿屋「あの奥の部屋を使ってくれ。もうすぐ飯屋も開くさ。まあ、ゆっくりしなよ」

側近「ああ。ありがとさん」スタスタ



カチャ、パタン



側近(質素な部屋だ……が、清潔そうだな)ボフッ

側近(ベッドもふかふかだな)ゴロゴロ

側近(とりあえず……散策でもしてみるか)スタスタ……カチャ

側近「あれ、宿屋のおっさん居ねえ……?」

側近(外か……ん?騒がしいな)パタパタ



バサバサ…ッシュン!シュウン……!

ザク……ッ



側近「! ……ッ 痛ェ……ッ!」

側近「な、ん……!?」

側近(頬に何か……げ、血!?)バッ

側近(……あ、あれは……!)

側近「女剣士!?」
0243この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:09:31.91ID:cNo1aW9d
女剣士「側近!?」

側近「なん、これ……ッ蝙蝠!? うあ……ッ!?」ザクザクッ

女剣士「馬鹿野郎!中入ってろ! ……心配すんな、すぐに片付ける!」ブン!ザシュ!

側近「すぐに解るって、これかよ!糞……ッ ……風よ!」シュウゥ……ッ



ゴオォオォ……!



女剣士「!?」



キィイ……ッ

ギャアギャア……!



側近(……これも魔王様の目の効果か?)

側近(気、抜いたら俺迄振り回されそう……!)

女剣士「す……すげぇ……!」



キィ、キィ……

側近(半分……いや、それ以上片付いたな……残りは逃げてくか)
0244この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:09:50.53ID:yMY0sR+W
側近(……北に。塔の方に逃げてく……のか?)

女剣士「側近、お前……!」

側近「何とかなった、か……はあ、痛い痛い……」パァア

女剣士「!?」

側近「ほら、お前もこっち来い。あちこち切れてる」

女剣士「あ、ああ……いや、アンタ……」

側近「ん?」パァ

女剣士「……傷が、消えた」

側近「すぐに解るってこの事かよ」

女剣士「……ああ。だが……普段奴らは夜にしか来ない」

側近「思いっきり明るいな、今。ああ、宿屋の親父が夜になればって言ったのは……」

女剣士「……あいつらは何時も、陽が落ちたら塔の辺りで群をなすんだ」

女剣士「そして……数が集まればこうして街を襲いにくる」

側近(蝙蝠……翼のある魔族の眷族か、野生のものか……)

側近(統率が取れている所を見ると前者と考えるのが妥当か?しかしな……)

側近(インキュバスの野郎は魔王様がブチ殺したし……ふむ)

側近(他に目立って過激派に組してた奴も……うーん?)

女剣士「……これも、魔王の復活が近い所為なのか……ッ!」
0245この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:10:11.20ID:qHhFOktD
側近「それさぁ……俺他の街でも聞いたけど……確かなの?」

女剣士「え?」

側近「魔王の復活、て奴さ」

女剣士「……」

側近(大方、人間の不安煽って、取り入ろうとした過激派の流した噂の一人歩き……なんだろうが……)
0246この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:10:36.68ID:47zLE+ek
女剣士「……確実とはアタシも言わない。言わないけど、さ」

女剣士「嘘だと一笑に付す理由は何処だ?」

側近「……そりゃ、まあ」

女剣士「ここは、北の大陸……魔族共の住処だと言われてる、あの最果ての地から」

女剣士「そう、離れちゃ居ない。何が起こっても不思議じゃ無い」

側近「……」

女剣士「そんな場所で産まれて育ったこの街の人は、自衛の手段だって身につけては居る」

女剣士「だが、そんなアタシ達が……そんな環境下で慣れてきたアタシ達が、だ」

側近「手を焼く状況に置かれれば、信じても不思議は無い、か」

女剣士「……そうだ」

側近「ふむ……」

女剣士「……」

側近(魔王様の力が強くなってる事に関係が無い、と言い切るのも)

側近(……これまた、おかしな話、になるのか?)

側近「北の塔は関係あるのか」

女剣士「……こればっかりは解らない。解らない……が」

女剣士「無いと言い切れないのは確かだろうな」

側近「ま、そうだわな……あの場所に群れをなす、て言ってたもんな」

女剣士「だけど……あんな場所、近づきたくも……」

側近「本当に?」

女剣士「……」
0247この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:10:56.98ID:ebE91ORj
側近「噂を鵜呑みにしてるとは言わねぇよ。そりゃ不安だろうさ」

側近「だけど……まず、確かめるべきはあそこじゃねぇの?」

女剣士「……」

側近(ダンマリかよ……ま、仕方ない、かな)

側近「……俺は興味あるね」

女剣士「言っただろ?あそこに行った奴は居ても……帰ってきた奴は居ない」

側近「もう一回、聞く。足は?」

女剣士「……」

側近「……」フゥ

側近(俺が尋問する理由も無いんだけどな……仕方ない、夜になったら転移石で……)

女剣士「……親父の船がある」

側近「船?」

女剣士「ああ。何度か……アンタみたいな奴に、同じような事良く聞かれたよ」

女剣士「……あっちだ。家の裏手の入り江に、小さな船が泊めてある」

側近「手こぎのボートとか言わネェだろうな」

女剣士「流石にそんなんじゃたどり着く前に死んじまうよ」

女剣士「この辺は、海の魔物の方が手強いんだ」

側近「……で、帰ってきてない奴らはどうやって行ったんだ」

側近「まさか盗んで言った訳じゃネェだろう?」

女剣士「かといって送っていってやる訳にもいかないさ。こっちの命が掛かってる」

側近「……まあ、至極ご尤も」

女剣士「親父は断り続けてた。勿論、船を出した事も無い」

女剣士「……どこからか調達してきた船で行ったんだろうさ」

女剣士「責任なすりつけられても困るしね」

側近「ふむ……まあ、親父さんが所持してるぐらいの船があれば」

側近「行ける、って事……になると考えてもおかしくは無いな」
0248この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:11:18.86ID:cHHFHlt8
側近「……どの程度の船なんだ。まさか手こぎの、なんて言わないよな?」

女剣士「気になるなら自分で見に行けば良いさ」

側近「盗まれる、とか思わネェの?」

女剣士「そんなに阿呆じゃないよ。ちゃんと鍵はかけてある」

側近(あんまり聞き出すのも怪しまれるか……いや、今更か)

側近(塔に行こうとしてるのは……もうばれてるわな、多分……ん?)

女剣士「……」ジィ

側近「な……なんだよ」

女剣士「悪かったな。強そうに見えないなんて言って」

側近「いや、そりゃ別に構わネェけど……攻撃魔法は得意じゃ無いしな」

女剣士「……あれで?」

側近「……」

側近(魔王様の目を持ってるからとは……言えネェよ)

側近「まあ……専門にそっちをやってきた訳じゃない、てこった」



バタバタバタ……!



側近「ん?」

宿屋「女剣士ちゃん、大丈夫……ッ あ、あれ、アンタ……」

側近「何だ、宿屋の親父じゃねぇか……何処に……」

側近「……何持ってんだよ、アンタ」ガク

女剣士「大丈夫だよ、おじさん」クスクス

側近(鍬持って鍋被って、まあ……)

宿屋「そ、そうか、無事か、良かった……!」
0249この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:11:52.48ID:gL6h7U0L
女剣士「この人が助けてくれたから……追い払えたよ」

宿屋「……アンタが!?」

側近「はいはい、どうせ俺は強そうには見えませんからね」

宿屋「……し、しかしまあ、無事で良かった……そうか、奴ら逃げてってか……」

女剣士「アタシは親父に報告しに行くよ……おじさんもそれ、片付けなよ」クス。スタスタ

宿屋「おう。……ありがとな、お客さん」

側近「どういたしまして……しかし、アンタ夜になると解るとか言ってたよな?」

宿屋「……魔王の復活が近いんだ」

側近「何時もは夜にしかこないのに、か」

宿屋「女剣士ちゃんに聞いたのか」

側近「まあね……まあ、結構な数落としたし、暫く来ないだろう?」

宿屋「……だと良いがな」

側近「ん?」

宿屋「いや……何でもない。俺は戻るよ。これも片付けないとな」スタスタ

側近(女剣士にしても、宿屋の親父にしても……塔から来るってのは)

側近(多分解ってる、んだよなぁ……でも、塔には行こうとしない)

側近(……何がいるのか知ってる訳じゃ無いのか、否か)

側近(流石に情報少ないよな……ん?)



ゴーン、ゴーン……



側近(鐘の……音?)
0250この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:12:14.44ID:irPtpktk
ザワザワ……

ガヤガヤ……



側近(街の人達が出て来た……なんかの時間か?)

側近(お……飯屋も開いたな。取りあえず……情報収集兼ねて腹満たすか)



スタスタ。カチャ



側近「良いかい?」

女将「ああ、何だお客さんかい……もうちょっと待ってくれるかい?」

側近「まだ準備中か……」

女将「すまないね。座っててくれて良いよ」

側近「ん、助かる……なあ?」ガタン

女将「んー?」

側近「さっきの鐘の音はなんだ?」

女将「……旅人かい」

側近「ああ。丁度蝙蝠の群れに遭遇してね」

女将「えぇ!?」

側近「女剣士が追い払ってたよ」

女将「……見たのか、アンタ」

側近「何……俺なんか見ちゃ行けないもの見たの?」

女将「ああ、いや……そうじゃ無いよ。災難だったね……怪我は?」

側近「それは平気……宿屋の親父には、夜になれば解るとか言われてたんだがな」

女将「夜に外にでる酔狂な人間は、あんた達旅人ぐらいのもんさ」

女将「……どうせアンタの目当ても、あの塔のお宝だろ?」

側近「そういう訳じゃないんだけどな……まあ、命が惜しけりゃやめとけって」

側近「釘は刺されたな」

女将「……さっきの鐘の音はね、化け物どもが逃げていった合図さ」

側近(ああ……それでみんな一斉に外に出て来た訳ね)
0251この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:12:51.36ID:irPtpktk
女将「少し前までは、宿屋の親父の言う通り、だったのさ……奴らは夜しか来なかった」

女将「この街に向かってくる間隔は少しずつ狭くなって来た。もう、昼夜も問わないのかもね」

側近「……で、鐘の音がならない限り、街の人達は……外には出てこない、のか」

女将「ここら辺の魔物は割とね、昔から手強いらしいのさ。私らにゃ解らないけど」

女将「だから、男共は身体を鍛えていたし、まあ……街にまで入ってくる事は滅多に無かったしね」

女将「……今は女剣士ちゃんが居てくれるけど……これ以上数が増えたら」

女将「あの子の命だって危ないんだ。まだ若い女の子の身で、しかも鋼一本でさ……」

側近「……あいつらは北の塔から来るんだろ?元凶があそこに居るとは考えないのか?」

女将「アンタ……命が惜しければ行くなと言われたんだろう?」

女将「……そういう事さ」

側近(追い払うので手一杯、か……そりゃそうだよな)

側近(それに……聞いてる限り見てる限り、じゃ……あの女剣士ぐらいしか……)

女将「さて、おまたせ!何にする?」

側近「あー……俺初めてきたから何か名物的なモン」

女将「あいよ!……おや」



ガチャ



女剣士「ああ、やっぱりここか、側近」

側近「女剣士?」

女剣士「おはよう女将さん。アタシにも何か食わせてよ」

女将「災難だったね……たんと食べてお行き」
0252この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:13:14.49ID:GCYLqhh5
女剣士「隣良いよな」

側近「どーぞ」

女剣士「……さっきはありがとう」

側近「礼はもう聞いたぜ。気にすんな」

女剣士「……側近。後で家に来てくれないか」

側近「あ?」

女剣士「親父が呼んでるんだ」

側近「……何、是非娘の婿に!とかか!」

女剣士「阿呆か!」

側近「冗談だよ……で、何でさ?」

女剣士「……」

側近「え……まさか、本当に俺を婿に……!?」

女剣士「違う! ……ッ 船を出す、と言うんだ」

側近「へ?」

女剣士「……お前の魔法の腕があれば、北の塔の……」

側近「あー……」

側近(塔に出向いて、群れのボスを倒してこい、的なアレですか)

女剣士「アタシは……ッ反対したんだ!」

側近「何で?」

女剣士「何で、って……そりゃそうだろう!?蝙蝠共だけでも、あんな……!」

側近「まあ……そう、か。そうだよな」

側近「でもさ、俺がやり遂げりゃ、この街も平和になるぜ?」

女剣士「言っただろう!?帰ってきた奴は居ないんだ!」

側近「……来い、ってさっき言ったのはお前じゃないか」

女剣士「断って欲しい」

側近「……」

女剣士「これはこの街の問題だ。旅人の命を危険にさらす訳には……!」
0253この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:13:43.11ID:7OQwtoIc
側近「ふーむ」

女剣士「……大丈夫だ。アタシが居れば、まだ何とか……」

側近「お前が居なくなったら?」

女剣士「……え?」

側近「もし本当に魔王……が、復活して、だ」

側近「もっと大変な事態になったら、お前一人でこの街守れるのか?」

女剣士「……」

側近「北の塔に行くのを怖がる気持ちは分かるけど。どこかで元凶叩かないと」

側近「手遅れになってからじゃ遅いぜ?」

女剣士「……だけど、それをお前の……旅人の手に委ねようってのは間違いだ」

側近「まあ、確かにそりゃそうだな。けど……」

女剣士「解ってる……アタシの手には余るのさ」

女剣士「朝……行きたくないのか、と聞いたな」

側近「ん? ……ああ、北の塔に、か」

女剣士「怖いよ。腕試し、になる様な……レベルじゃないだろう」

側近「で……俺にお株が回ってきた訳ね」

女剣士「……だが、断ってくれて良いんだ。街の人達の中には、魔法を使える者も居る」

女剣士「みんなで力を合わせれば、何とか……!」

側近「……何とかならなくなるまえに、塔に行けって親父さんは言いたいんだろうよ」

女剣士「だけど……!」

女将「はい、おまちどうさま!」ドン!

側近「……ま、ほら。先に飯にしようぜ……うわ、旨そう」

女剣士「側近!」

側近「腹が減っちゃなんもできねぇよ。断る元気もなくなっちまう」
0254この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:14:56.90ID:EFMBmRYC
女剣士「……そ、うか」ホッ

側近(断る、とは断言してないんだけどな……まあ、良いか)

側近「何でだ?」

女剣士「?」

側近「興味はあるんだろ……怖いのは解る。けどさ」

女剣士「……」

側近「何があっても塔には行かせたくない。様に……聞こえなくも無い」

側近「何か秘密でもあるのか?」

女剣士「そんな物がありゃ、親父がアンタに頼もうとする筈無いだろ」

側近「……そりゃそうか」

女剣士「本当に何も無いさ。本当に……怖いだけだ」

側近「ふぅん……?」

側近(何かある気がしないでもないんだけどなぁ……まあ)

側近(行ってみりゃ解る、か。どうせ上るつもりだったんだ)

女剣士「飯を食ったら案内する……まだかまだかと待ってるだろうからな」



……

………

…………



親父「そうか!君が側近君か! ……話は娘から聞いたと思う」

親父「頼む!船も貸す!だから……!」

女剣士「残念だったな、親父、側近は……」

側近「喜んでお引き受けしますよ」

女剣士「……お、おい!待て……!話が違うじゃないか!」ガシッ

側近「痛い痛い痛い……」
0255この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:15:19.99ID:TMIA/oJQ
親父「女剣士!手を離しなさい!」

女剣士「……ッ」バッ

側近「『食わなきゃ断る元気もでない』と言っただけだ。断るとは言ってないだろ」

女剣士「お前……!」

親父「女剣士!もう諦めなさい……これは、街の人達だけじゃ解決しないんだ!」

親父「それにお前が教えてくれたんだろう、彼の魔法の事は……!」

女剣士「アタシは……!」

側近「……あのー……」

親父「あ、ああ、すまないね。今朝のあの蝙蝠達の襲撃から、随分娘が戻るのが早かったのでね」

親父「……どうしたんだと聞いたら、君が魔法で殆どやっつけてしまった、と」

側近「は、はぁ……」

女剣士「だからって、旅人なんだぞ!?彼は……!」

女剣士「街の問題は、街の人間で解決しないと……!」

親父「何度も言っただろう!それで大勢の命の危険を招いては意味は無いのだ!」

女剣士「だからって……!」

親父「今のまま、何時までも持つ訳が無いのはお前にも解るだろう、女剣士……」

女剣士「アタシは大丈夫だ!まだ……!」

親父「手遅れになれば、お前一人の手には負えないと言っているのがわからんのか!?」

側近「ま、まあ、まあ……まあ……」

側近(俺を間に挟んでやらないでくれよおおおおおお)
0256この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:17:08.05ID:vh663P6z
女剣士「それに!親父の言い分じゃ、側近の命はどうでも良いみたいじゃ無いか!」

親父「そんな事は無い!私は彼の力を見込んで頼んでいるんだ……それに」

親父「……彼には勿論、断る権利はある」

女剣士「……」ジィ

親父「……」ジィ

側近「……え」

側近(何ですか、二人揃って……ああ、もう)

側近「あー……別に二つ返事で引き受けた訳じゃないぞ?」

女剣士「でも!」

側近「そりゃな?俺だって命は惜しいよ」

側近「お前にも最初に言われた通り、興味はあるよ」

側近「足を用意して貰えるのもありがたい」

側近「……ギブアンドテイク、かな」

女剣士「命が惜しくないのか!?」

側近「何かが居ると仮定して、倒してくるって約束はできんさ」

側近「……言う通り、命は惜しいからな」

親父「ああ……それは、構わない。仕方ない」

親父「元凶が何か、それだけでも解れば良いんだ」

女剣士「……ッ」

側近「何れはそうも言ってられないんだろう?」

親父「それはそうだ。だが……娘の言う通り」

親父「君に、そこまで押しつけられん」
0257この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:17:42.79ID:yvCNrlzN
女剣士「行くこと自体が自殺行為だと思わないのか!?」

側近「……お前はどうしても俺にあそこに行って貰いたくないみたいだなぁ」

女剣士「そ……ッ そういう訳じゃ……!」

側近「そう聞こえるぜ? ……いや、まあ言ってることは解るんだよ」

側近「命の危険がある、てのも、街のことは街の人達で解決すべき、てのもな」

側近「だけど……親父さんの言うとおり、手遅れになってからじゃ遅いってのも真理だ」

側近「理解出来ん訳じゃないんだろ?」

女剣士「……」

側近「で、俺が丁度良いところに居たんだ。まあ……魔法の腕はおいといて」

側近「北の塔に行きたくて、足を探してた。それは否定しない」

側近「……さっきも言った通りのギブアンドテイク」

親父「……うむ」

側近「どこまで力になれるかなんざ、解らんがね」
0258この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:33:05.50ID:e44PcC5L
女剣士「……解ったよ」

親父「そ、そうか! ……あとは」チラ

側近「ん……俺?俺は別に、良い……」

女剣士「ただし、アタシも行くぜ」

親父「何!?」

側近「へ?」

女剣士「街の生活が……アタシ達の命が掛かった問題だ」

女剣士「……それに、一人よりは二人の方が良いだろう」

親父「し、しかし……!」

女剣士「街の人の命は大事で、側近の命はどうでも良いなんて言う訳じゃ無いだろ?」

親父「そ、それは、まあ……しかし……ッ」

側近「街は誰が守るんだよ?お前が居なくなったら……」

女剣士「戦える奴は別にアタシだけじゃ無い。親父だって頑張ってくれる筈だ」

女剣士「『街の未来の為』だろ?」

親父「……当然だ。お前が一人で大丈夫だと聞かなかったから……」

女剣士「やるからにはやりきった方が良いんだろう……手遅れになってからじゃ」

女剣士「遅い、と言ったのは親父だろ!」

側近「……」

側近(なんだかなぁ……なぁんか、隠してる様に思えてならん……)

側近(一人でゆっくり調べたかったんだが……まあ、仕方ないかなぁ)

側近(ここまで来ちまえば、断って転移石で行く、ってのもな)

女剣士「だから……! 親父は……!」ギャアギャア

親父「お前は本当に昔から……!」ギャアギャア

側近(女剣士が居れば確かに心強い、ちゃそうだけど……)

側近(……取りあえず、親子げんかは俺が帰ってからやってほしい)ハァ
0259この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:36:23.97ID:Oqrmn5qx
側近「あー、あのさぁ……」

女剣士「だからこっちは……!」ギャアギャア

親父「それだとアレが……!」ギャアギャア

側近(どーすんだよこれ)

魔王『……随分と面白いことに巻き込まれてるな』

側近『魔王様? ……見てたのかよ』

魔王『話しかけるタイミングを伺っていたんだ』

側近『……んで、どした?』

魔王『いや、暇でな』

側近『お前な……』

魔王『……北の塔だがな』

側近『ん?』

魔王『使用人と二人で調べてみたんだが、特にこれと言った記述が無くてな』

側近『そうか……じゃあお宝ってのも眉唾ものかね』

魔王『どうだかな……これと言って見える物も無い』

側近『見える物?』

魔王『何の反応も無い……と言う所かな』

側近『……いや、まあうん。良いや』

側近(本当に規格外だよな……何でもありか)

魔王『規格外って言うなと言ってるだろう。多少なりとも傷付くんだぞ?』

側近『……』

魔王『で、その女剣士だが……何か隠してる様な感じだな』

側近『だよな……まあ、行けば解るだろう。しかし……』

魔王『ん?』
0260この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:37:14.24ID:TP8o5E/I
側近『何も無い、のであれば、だ……あの蝙蝠共はどこから来る?』

魔王『ふむ……』

側近『鍛冶師の村でも思ったが。まあ……あそこは狼将軍が』

側近『インキュバスと通じてたからな……』

魔王『野生の物ではないのか?』

側近『それにしちゃ、統率取れてる気がするんだけどね』

魔王『まあ……どうせ出向くのだろう?確かめてきてくれ』

側近『雲の上まで続いてるんだぜ? ……すんげぇ時間かかるんですけど』

魔王『気合いで頑張れ……姫が呼んでる。又な』

側近(……まったく、人使い荒いんだから)フゥ

親父「あ……!す、すまん!その……醜いところを……!」

女剣士「あ……ッ わ、悪い……!」

側近「え? ……あ、ああ。いや、まあ……親子げんかは、うん」

側近「後でやってくれるとありがたい」

側近(勘違いなんだがな……まあ、良いか。丁度良かった)

側近(それより……魔王様、また力が強くなった?)

側近(心話状態だと全部筒抜けなのか……うーん……)

女剣士「……」

側近「あ、いや、怒ってる訳じゃないぞ、すまん」

側近「……で、出発は何時だ?」
0261この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:37:39.42ID:VWVuTJz+
親父「……」

側近「?」

女剣士「今から行く」

側近「ええええええええええええええ」

親父「……ほら、見ろ」

女剣士「善は急げと言うだろ?」

側近「お前は子供かよ……まあ、良いけど」

女剣士「……良いのか?」

側近「お前が言い出したんだろ……?何でそこ疑問系なの」

親父「……行くのはお前達だ。良いと言うのなら止めはしない、が……」

側近「まあ、タイミング的には良いと思うけどね。丁度さっき、蝙蝠共の」

側近「襲撃受けたところだしな」

側近「いくら間隔が狭まって頻繁に襲ってくるとは言え」

側近「2.3日は大丈夫なんじゃないか?」

親父「……それだけ、持てば良いが」

側近「そんな深刻なのかよ……まあ、なるべく俺らで引きつける、か」

女剣士「アタシは準備して、先に船に行ってるよ」スタスタ……パタン

親父「……」

側近「……なあ」

親父「……すまん。あいつは、言い出したら聞かないんだ、昔から」

側近「街の用心棒、ってのも、か……」

親父「言葉に足りる腕は確かにある。だから……任せたんだが」

側近「……ちょっと、聞きたいんだけど」

親父「何だ?」

側近「塔に何があるか……そうだな、宝、とかじゃなくて」
0262この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:38:08.07ID:CbrsjkXF
側近「……女剣士があれだけ行きたくない……じゃないな」

側近「俺を行かせたくないとした理由の、何か」

親父「……宝などは本当にわからんのだ。誰も……確かめた者は居ない」

親父「聞いただろう?行った者はいるが、だ」

側近「ふむ……文献なんかも残ってないのか」

親父「あの塔はそもそも、この街の管轄なんかではないからな」

側近「……そうか。じゃあ……」

親父「娘はなんと言っていた?」

側近「ん?いや……特に何も。怖いから行きたくない、とか」

側近(しかし……やっぱ何か不自然だよなぁ)

親父「怖い……か」

側近「気持ちは分からんでもないが、な」

側近「まあ、良い……確かめて見るさ」

親父「頼んでおいて何だが……無理はするなよ」

側近「解ってるさ……大事な娘さんだろ。ちゃんと守るよ」

側近「……て言う程、俺強くないんだけどなぁ……」

親父「謙遜はよせ……凄い魔法だったと言っていたぞ」

側近「……サンキュ」

側近(さて……どうなることやら)

親父「船まで案内する。鍵も外さないといかんからな」

側近「あー……船でどれぐらいだ?」

親父「さあなぁ……数時間で着くと思うが」

側近「……おう」

側近(あああああ、また酔うのかな)



……

………

…………
0263この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:38:37.01ID:qE2EcbWc
盗賊「船長ー!……あ、れ……しょ、 婦!?何で……!」

船長「おう、出迎えご苦労さん」

 婦「ただいま、盗賊……」

盗賊「な、何だ……良い教会、見つからなかったのか?」

船長「後で俺から説明してやるから、とりあえず 婦を休ませてやれ」

船長「……神父と鍛冶師は?」

盗賊「教会の方に行ったぜ」

 婦「え……!もう、教会が出来ている、のですか?」

盗賊「ああ、御免、そうじゃ無い。けど、建設予定地、だな」

盗賊「そこに居るんだ」

 婦「……私も、見てみたいです」

盗賊「え?でも……大丈夫か?」

 婦「ええ。是非……神父様、にもお会いしたいですし」

盗賊「そっか、じゃあ行くか……あ、荷物持つぜ」

船長「ほら、この本も持ってけよ」

盗賊「おう……これで全部か」

 婦「あ、私も持ちます……!」

盗賊「気にすんなって……良し、行くぜー!」

船長「おう、後で戻って来いよ!俺も街の中で作業してっから!」

盗賊「あいよー!」スタスタ

 婦「……まだ、少ししか経ってないのに……随分変わりましたね」

盗賊「そう……かな、そうだな。皆頑張ってくれてるよ」

 婦「そう……ですね」

盗賊「 婦は……どうするんだ?」

 婦「え?」
0264この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:39:02.85ID:22qovpP8
盗賊「また……教会、探しに出るのか?」

 婦「……いいえ。もう、私は……ここに」

盗賊「そっか!良かった……!」

 婦「ふふ……どうして?」

盗賊「できればさ、皆の手で大きくしたいじゃん、この街」

盗賊「神父さんも、会いたいって言ってたんだ、 婦にさ」

 婦「……」

盗賊「ずっとここに居れば良いよ。まお……少年も姫も」

盗賊「何時になるかわかんないとか言ってたけど……遊びに来るって」

盗賊「言ってたし、さ」

 婦「……そう、ですね」

盗賊「まだまだ掛かるけどさ、出来る迄」

 婦「先に……街を形にしませんと、ね」

盗賊「ああ。でも……心のよりどころ、って人多いんだ」

盗賊「廃材とか、余りとかでさ。街の作業終わってから、教会作ってんだよ」

 婦「ステキですね……」

盗賊「うん。取りあえず小さくても良いから、さ……」

 婦「あ……この道をあがるのですか?」

盗賊「あ、うん……ごめん、しんどいか?」

 婦「いいえ……丘の上の教会、ですか……本当に、すて……あ……!」

鍛冶師「盗賊、船長無事だったか?」

盗賊「おう、何だまだやってたのか……お前早く街の方に戻れよ……ん」

 婦「……」ペコ

鍛冶師「……こちらは?」

盗賊「前に言ってただろ?何れこの街に……って」

鍛冶師「ああ!君が…… 婦さん?」

 婦「はい……初めまして」
0265この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:39:35.09ID:AfKVPTor
鍛冶師「初めまして、僕は鍛冶師って言います」

 婦「 婦です……あの?」

盗賊「ん?」

 婦「貴方が……教会の……?」

鍛冶師「え?ああ……僕じゃないですよ。神父様はあっち……教会の方に」

鍛冶師「丁度良かった、盗賊。ちょっと聞きたい事があったんだ」

盗賊「ん?」

鍛冶師「さっき言ってたあの入口の建物だけど……」

盗賊「ああ、あれか……あー、ちょっと待て、先に 婦を……」

 婦「私は大丈夫ですよ。この丘の上ですよね?」

盗賊「悪い!また後で迎えに行くよ!」

鍛冶師「すみません……ああ、盗賊荷物持つよ」

 婦「あ……それは……」

盗賊「これは 婦の何だよ……あー、どうしよっかな」

盗賊「ひとまず、俺の家に置いておいても良いか?」

 婦「ええ、それは勿論……あ、ごめんなさい、本だけ……」

盗賊「ん……持てるか?」

 婦「大丈夫ですよ……ありがとう」

鍛冶師「ほら、そっち貸せよ」

盗賊「サンキュ、で……なんだって? ……あ。 婦、後でな!」スタスタ

鍛冶師「本当にすみません。いや、あの扉なんだけどさ……」スタスタ

 婦「……頑張ってくださいね」

 婦(仲、良さそう……羨ましい)スタスタ
0266この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:40:35.88ID:sIOtURaZ
 婦(わぁ……眺めの良い場所ね……向こうは……)

 婦(あの、島は……魔導の街)

 婦「……」

 婦(風が気持ち良い……)

神父「失礼、貴女は……?」

 婦「あ……神父様、ですか?」

神父「はい……ひょっとして、 婦さん、ですか?」

 婦「……はい」

神父「ああ、やはり、貴女が……!」

 婦「盗賊から、聞いておられましたか?」

神父「ええ。何れこの場所に教会を作りたいと、島を離れた……隻腕の女性がいる、と」

 婦「はい……私に違い無いですね」クス

神父「……何故、笑われる?」

 婦「え?」

神父「女性にとって……否、誰にとっても身体の一部を無くす事等」

神父「不幸でしかありえないでしょう……失礼。不躾な言い方ですが」

神父「何故、貴女はそう……穏やかに笑っておられるのか、と」

 婦「……そ、うですね。そうですよね」

 婦「これは……私の誇りです」

神父「無くした腕が、ですか」

 婦「はい……」

 婦「……私が、大切な方との約束を守った証」

 婦「私が、屈しなかった証なんです」

神父「……」

 婦(それなのに……私は……ッ)
0267この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:41:05.97ID:3lx2ZJKH
 婦「……完成が待ち遠しいです」

神父「貴女は……ずっとここに?」

 婦「はい……命尽きるまで。ここで……私の神に祈りを捧げます」

神父「貴女の神……」

 婦「……」

神父「……」

 婦「……」スッ

神父「ど、どうしました、ご気分でも? ……立てますか?」

 婦「いえ、あの……懺悔、させて頂けませんか」

神父「……」

 婦「教会はまだありません。ですが……お願い致します、神父様」

神父「建物の有無は関係ありませんよ……貴女が仰る様に」

神父「神は……心の中に、いらっしゃいます。全て、見ておられます」

 婦「……私の神は、きっと……神父様の神と同じではありません」

 婦「ですが……!」

神父「良いのですよ、 婦さん。神は……見るもの、思うものによって」

神父「その姿を変える物です。神話に出てくる天使だったり……」

神父「太陽や、大地の恵みそのものであったり……」

 婦「……」

神父「信仰心を捨てないことが大事です。祈り手が神を忘れる事」

神父「……己が、神に不審を抱き、裏切る事……それが」

神父「それこそが罪だと、私は……思います」

 婦「……ありがとうございます」

神父「……」

 婦「私は……腕を失うこと、身体の一部を失う事になろうとも」

 婦「あの方を裏切らなかった、その事実を誇りに思っていました」

 婦「……ですが」
0268この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:41:43.22ID:YI5IAab9
 婦「魅惑の術にまんまと捕らえられ、あの方だけで無く……世界を」

 婦「……小さいかもしてません。それでも、世界の数多に危機を及ぼすだろう」

 婦「行為……を手伝うに至ってしまいました」

 婦「……」

神父「……」

 婦「彼の方は仰いました。後手になろうと、挽回すれば良いのだと」

 婦「ですが……私は……ッ」

神父「……」

 婦「……何かに、甘えてばかりです。決して手に入らない彼の方を思う余り」

 婦「私の欲望は尽きることが無い。溺れてはいけない罠に溺れ」

 婦「望んでも手に入らないものを欲してばかり」

 婦「諦めねば、諦めたたのだと言い聞かすつもりで……まだ」

 婦「どこかで、甘い期待を持っている……」

神父「……」

 婦「期待などしないとあれほど、胸に誓ったはずなのに……!」

 婦「期待させないで欲しいと、告げたのにどうして、と」

 婦「……怨みたくないのに、怨んでしまいそうです」

 婦「こんな私に、彼の方は仰いました。お前ならばできると」

 婦「こんな私に、彼の方を神と……崇めては決してならない、彼の方を思う私に!」

 婦「できると仰るのです……!」

神父「……」

 婦「……こんな私に、祈り女となる資格など、あるのでしょうか」

 婦「神は……お許しになるのでしょうか……!」

神父「……」

 婦「……」

神父「」
0269この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:42:08.96ID:/ACQe5eq
神父「お許しになっているではありませんか?」

 婦「……え?」

神父「貴女の神が、仰られたのでしょう。お前ならばできる、と」

 婦「……」

神父「敬虔でありなさい。神は……見ていらっしゃいます」

神父「貴女が祈りを捧げ続ければ、きっと……貴女の神も、お喜びになります」

 婦「……」

神父「ごめんなさい。気休め……でしょうが」

 婦「いいえ……はき出せただけでも、楽になりました」

神父「そうですか……良かったです。さあ、お立ちなさい」

 婦「……はい」スッ

神父「 婦さんは……ご存じですか。魔除けの石、と言うものを」

 婦「え……」

神父「何でも、偽物……そうですね。とても禍々しい、逆効果とも思える様な」

神父「魔石がね……出回っているのだそうです」

 婦「……ッ」

神父「今更……どうしようもありません。お持ちになっていらっしゃる方は」

神父「魔除けの石と信じて疑っていないでしょうから」

 婦「……」

神父「ですがね……今、この島の方達に教えて頂いて」

神父「私……練習しているのですよ。その、魔除けの石を作ってみようとね」

 婦「神父様が、ですか……いえ。きっと……おできになるかと、思います」

神父「一緒に習ってみませんか」

 婦「……私、は」
0270この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:49:43.16ID:YlJ6QM7m
神父「私は、まだ……具現化まで行かないんです。もう少し、と」

神父「いつも思うのですけれど、ね」

 婦「……」

神父「この島の方達の素性は……理解しているつもりです」

 婦「!」

神父「基礎をしっかり身につけていらっしゃる。一朝一夕で出来るものじゃない」

神父「ですが……努力は報われると信じています」

 婦「……願えば、叶う」

神父「ええ、そうですね。願えば……何時か叶う筈。そう思わないと始まりません」

神父「折角、戻って来て頂けたのです。一緒に……」

 婦「で、できません……!私の、神は……!」

神父「先ほど言った筈ですよ…… 婦さん」

神父「信仰するものによって、神は形を変えるのです……貴女の神の現身が」

神父「どのようなものであれ……それは、神に違いないのでしょう?」

 婦「……」

 婦(私の、神……魔王様)

 婦(魔の王であられても……私には、勇者様……!)

神父「願えば、叶います…… 婦さん」

 婦「……できるか、解りません、が……」

神父「はい。共に……ここを。この教会を……島の人達の心のよりどころにしましょう」

 婦「……はい」

神父「貴女は……きっと、良い祈り女になられる。きっと……」



……

………

…………



盗賊「よっしゃー!今日は終了!」

鍛冶師「はい、お疲れ……ああ、汗かいた」

盗賊「はいそうですか、ってできねぇのは解ってるけどさ」
0271この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 17:50:31.51ID:r6FyjzCI
盗賊「……待ち遠しいもんだな」

鍛冶師「そうだなぁ……まあ、働き手の数も増えてきたし」

盗賊「資材が足りなくなる方が先っぽいな……船長に調達お願いしないと」

鍛冶師「ああ……そうだな。次の船には僕も乗せて貰うつもりなんだ」

盗賊「え!?」

鍛冶師「あ、別に……村に帰る訳じゃ無いよ。いや、一度帰るんだけど」

盗賊「……戻って、くるんだよな?」

鍛冶師「うん。村に置いてきた鍛冶の道具とか、全部持ってくるつもり」

盗賊「て、事は……」

鍛冶師「決めたよ。この島に住む」

盗賊「そ、そうか……!吃驚させんなよ!もう……」ハハッ

鍛冶師「嬉しそうだね、盗賊……喜んでくれる、の?」

盗賊「当たり前じゃねぇか!寂しい思いしなくて済むぜ!」

鍛冶師「……ねぇ、盗賊」

盗賊「ん?」

鍛冶師「……いや、良いや。帰ったら言うよ」

盗賊「何だよ!言いかけてやめんな!気になるだろ!?」

鍛冶師「あー、うん、まあ……えーっと……」

盗賊「はーやーくー!」

鍛冶師「……」コホン

鍛冶師「えっと、あのね?」

盗賊「何だよ!」

鍛冶師「……僕、君の事が好きなんだけど」

盗賊「うん ……う、ん!? ……うぇ!?」

鍛冶師「ぅえ、て」

盗賊「は、え ……あ。ええ!?」
0275この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:12:16.56ID:xqhyAwln
マリガボはトランクショー前になると成田暴れ狂うなw
ガボールスレ気違いみたいにコピペ貼りまくって荒らしまくるんよ。
今日は朝9時半からID変えて30分以上コピペ貼り続けてたw
昨日は1時間ぐらいやってたかな?
やつぱしウワサ道理薬かなんかやってんじや無い?
パチ売りしないと成田食えんのねw
0277この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:39:33.65ID:jWR8sdEx
鍛冶師「……決意のつもり。この街に住む、てのはさ」

鍛冶師「断られたら……まあ、仕方ないけど……あ!」

鍛冶師「こ、断られても、その!この街に住むの辞めた、とかは言わないよ!?」

鍛冶師「気に入ってるのは事実だし……!」

盗賊「……」マッカ

鍛冶師「……聞いてる?」

盗賊「あ、うん、ハイ。聞いてる……え、あの……!」

鍛冶師「君が言えと言ったんだから、ね」マッカ

盗賊「え、いや、あの……!」

船長「おーい!盗賊!鍛冶師…… ……なんだお前ら。二人揃って茹でたタコみたいに……」

鍛冶師「ちょ、丁度良かった。船長さん、次の船の行き先は?」

船長「は? ……ああ、まだ未定だが」

盗賊「し、資材の調達頼めるかな!?」

船長「……盗賊、声裏がえってんぞ?どうしたんだ?お前ら……」

鍛冶師「だ、大丈夫だよ!?」

船長「? ……ああ、資材ならそうだな……鍛冶師の村辺りへ行くのが良いかな」

鍛冶師「本当に?」

船長「嘘ついてどーすんだ……まじで大丈夫か?」

船長「働き手も増やしたいしな。工事も順調に進んでるし、船の調達とかも」

船長「必要だしなぁ」

盗賊「船?まだ定期便の準備は早くないか?」

船長「ああ、いや……ま……少年がな」
0278この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:39:53.20ID:dWhJcbcs
盗賊「少年?何か言ってたのか?」

船長「この島だけじゃ何れ手狭になるだろうってな……」

鍛冶師「どういうこと?」

船長「……始まりの大陸の街を復活させよう、ってな」

鍛冶師「始まりの大陸……?」

盗賊「ここから遠く無い所にある小さな島だ。そこに……廃墟がある」

船長「居住区には充分だ。問題は……資金と、城だな」

鍛冶師「城……?城もあるのか」

盗賊「ああ……小さな城だけどな。ま……少年も、あっさり無理言うなぁ……」

船長「側近の奴が生え際気にするのも解る気がするぜ……」

鍛冶師「生え際?」

船長「いや、それはどうでも良い。しかし……そうだな」

船長「いつ、いつ……か。まあ、俺はこれと言って用事がある訳じゃ無いんだが……」

鍛冶師「鍛冶師の村に船を出すなら、僕も連れて行って欲しい」

船長「ん?そりゃ……構わんけど……帰るのか?」

盗賊「……」

鍛冶師「一度ね。村に置いてきた道具をとりに戻りたいんだ」

鍛冶師「……引っ越しを決めたんだよ。この街に」

船長「ほーう……そりゃ、また」

船長「……良いのか?」

鍛冶師「ああ。もう決めた」

盗賊「あ……ありがたいよな。この、島……気に入ってくれる、てのはさ」

船長「お?おう……?」

船長「どした、お前……」

盗賊「お、俺、 婦の様子見てくるわ!」タタタ……

鍛冶師「あ……盗賊!」

船長「……喧嘩でもしたか?」
0279この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:40:30.60ID:GyQhHSlz
鍛冶師「いや、そんなんじゃ無いよ……」

船長「そうか? ……まあ、良いけどよ」

鍛冶師「目処はどれぐらいになりそう?」

船長「出港か?そうだな……諸々準備考えて、早くて2.3日後だな」

鍛冶師「解った……準備しておくよ」

船長「おう……料金はしっかり頂くぜ?」

鍛冶師「それは勿論だ。帰りもお願いするしね」

船長「…… 婦は、教会か?」

鍛冶師「ああ、だと思うけど……行くの?」

船長「……いや。船に戻るさ。何かあれば船まで来いって」

鍛冶師「盗賊に伝えておけ、ね」

船長「おう。じゃあな」スタスタ

鍛冶師(……船長、どことなく元気ない様に見えた、けど)

鍛冶師(気のせい、かな)

鍛冶師(さて…… 婦、や、盗賊のとこには行きにくいな)

鍛冶師(……宿に戻るか。準備しとかないとな)



……

………

…………
0280この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:40:51.74ID:8QoRoPTw
側近「……」ォーェー

女剣士「大丈夫か……?」

側近「お、オーライ……気にすん……ッ」ゥエ

女剣士「ずっと甲板に居た理由はそれか」

側近「船室に居るともっと酷くなりそうだからな……」

女剣士「充分酷いと思うけどな……ちょっとそこで休んでな」

女剣士「船から食料を降ろすよ」スタスタ

側近「おう、すまん……」グタ

側近(小さい入り江だな……小さい船だとは聞いてたが)

側近(ぎりぎり……海賊共が押し寄せる、のは)

側近(まあ、可能……だろうが)スタ。キョロキョロ

側近(扉は……扉……ん?)スタスタ

側近「扉ねぇじゃん」

側近「……ええええええええええええええ!?」

女剣士「何騒いでるんだい……」

側近「入口の扉が無いんだよ!」

女剣士「……なに阿呆な事言ってんの。ほら、あれだ」

側近「……え、どこ?」

女剣士「……まだ酔ってんのか?」スタスタ。コンコン

女剣士「ここにあるだろ」

側近「……え、あの。マジで見えないんですけど」

女剣士「は!?」

側近(女剣士が拳で叩いてる所……は)

側近(壁、だろ!?壁だよなぁ!?)ゴンゴン

側近「……立派な壁ですが」

女剣士「お前……頭大丈夫?」
0281この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:41:14.06ID:Pq/uH2r8
側近「待て待て待て!マジで壁だろ!?」ゴンゴン

側近「……痛ェ」

女剣士「見えて……無いのか?」

側近「な……何で!?」

側近(どういう事だ……!?)コンコン。ゴンゴン。コンコン

女剣士「……」

側近(音が違う……気が、しなくもない。が)ゴンゴン

側近「扉は、ここ、だよな?」

女剣士「……からかって、る訳じゃないよな?」

側近「その侭そっくり返してぇよ!」

女剣士「ここにあるじゃないか……」ジャラ

側近「ん、何今の音……」

女剣士「……側近には、ただの壁に見えてる、のか?」

女剣士「でも……!そんな馬鹿な事あるか!」

側近「んな事言われたって……!!」

女剣士「……鉄の扉だ。所々錆び付いてる」

女剣士「音ってのはこれだろ?」ジャラン

側近「そう!それだ! ……鎖、か?」

女剣士「ああ。鎖で封印されて、でっかい鍵がついてる」

側近「鍵……」

女剣士「……疑ってる訳じゃ無いんだが」

女剣士「本当に……見えてない、んだな?」

側近「……」

側近(女剣士に見えて、俺には見えない……違いは何だ?)

女剣士「……ここに鎖がある」ジャラ

側近「……ん?」トン

側近「ああ……」

側近(何か、ある……のは解る。て、事は……?)

側近「うーん……??」
0282この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:41:36.44ID:nIjjPSYK
女剣士「アタシには、ちゃんと側近が鎖に触ってる様に見えるんだけど」

側近「……ちょっと待ってくれよ?」

側近(男と女……人間と魔族。違い、と言えば……)

側近(どう考えても、後者だよな……差、てのは)

側近(しかし……)

女剣士「……なんだよ」

側近(魔族には見えなくて人間には……て、事は)

側近(……魔法の封印、だろうな。それも……多分、力の強い魔族)

側近(おいおいおい、俺に解ける気全くしないんですけど!?)

女剣士「側近ってば!」

側近「あ、ああ……すまん。んー……」

側近「鍵は掛かってるんだな?」

女剣士「あ、ああ……鎖も頑丈そうだが……」

側近「良し、ちょっと離れてろ……風よ……ッ」ゴオオオオッ

女剣士「……ッ」



ジャラン……ッガシャンガシャン……ッ



側近「……流石に俺にも聞こえたぞ」

女剣士「鎖が、あっさり切れた……!?」

側近「扉は開けられそうか?」

女剣士「あ、ああ……ちょっと待て ……!」グ……ッ



ギイイイィ……



女剣士「あ……い、た……」

側近「うぉ……ッ眩し……ッ」パァア

女剣士「え?」

側近「え?」
0283この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:41:56.27ID:qG74ZDXu
女剣士「眩しい……て、何が?」

側近「……今の赤い光、見えなかったの?」

女剣士「え!?」

側近「……いや、良い」

側近(封印が解けた……のか。多分……魔族にだけ、有効な感じの奴)

側近(だ、よなぁ?そうとしか考えられない……よ、な!?)

女剣士「随分あっさりだな……」

側近「……そうか?」

女剣士「そりゃ、アンタが居てくれたから、だけどさ」

女剣士「あんな風の魔法、使える奴はそう居ないだろうしな」

側近「……」

側近(鎖の欠片……拾っておくか)スッ

側近(誰だか知らないが、厄介な封印かけやがって……)

側近「俺にもやっと見えたよ、扉……行くか」

女剣士「……ああ」

側近「後ろから着いて来い」スタスタ

女剣士「だ、大丈夫だ!馬鹿にするな!」

側近「してネェよ! ……と、階段しかないな」

女剣士「え……あ、本当だ」

側近「ほんのり……明るい?」

女剣士「足下しか見えないけどな……しかし、魔法使えるってのは便利だな」

側近「え?」

女剣士「……そういう魔法だろ、これ?」

側近「いや、俺何もしてないけど?」

女剣士「……え」

側近「壁がうっすら発光してるだけだ……まあ、魔法の類には違いないだろうけど」

側近「……俺じゃネェよ」
0284この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:42:17.89ID:H99zC0Gr
女剣士「……魔族、が住んでるのか」カツン、カツン

側近「どうだかな……」カツン、カツン

側近(微かに……魔法の残照は感じる、が)

側近(姫様や魔王様なら解るのかもしれないがなぁ……)

女剣士「……何処まで上れば良いんだ」

側近「俺に聞くなよ……」

女剣士「……」

側近「……」

側近(部屋も何も無い……ずっと階段が続くだけ……?)

側近(窓も何も無い……おかしくなりそうだな)

側近(しかし……これ、雲の上まで続いてるんだろ!?)

側近(いやいやいやいや、無理だってー!)

女剣士「……扉だ!」

側近「へ!?」

女剣士「……また見えないとか言うのか?」

側近「いや……見えてるさ」グッ

側近「開けるぞ?」

女剣士「……ああ!」チャキッ

側近「よ……っと」



ギィイ……



側近「……」キョロ

女剣士「……」キョロキョロ

側近「……何も無いな」

女剣士「誰も居ない……しな」フゥ
0285この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:42:37.99ID:j7RySRhN
側近(小さい部屋だな……だが、随分居心地が悪い)

側近(窓も……扉も入口以外には無い……ん?)

側近「……行き止まり、か」

女剣士「え!?で、でも……!」

側近「……あれ、また俺に見えてないだけ?」

女剣士「……」ゴンゴン。コンコン

側近(そうでも無い……みたいだな)

側近(て、事は……あの高さは、入口同様……まやかしの魔法か?)

側近(しかし……そんな事出来る奴……)

側近(……魔王様ぐらいしか思いつかないぞ)

女剣士「壁……だな。側近にも見えてない、んだよな?」

側近「そうだな。さっきの反対のパターンでもなさそうだ」

女剣士「……なんだ。何も……居なかった、のか」ホッ

側近「みたいだな……戻るか」

女剣士「少しぐらい休憩しようぜ。ここ……空気も良いみたいだし」

側近「え?」

女剣士「え?」

側近「……いや、良い。しかし……これじゃ、解決にならないな」

側近(封印に寄ってきてた野生の魔物、か……やれやれ)

側近(しかし……空気が良い、だと?)

女剣士「仕方ないさ。私が頑張れば良いだけの話だ」

側近(……一転、晴れやかな顔してやがる。何でだ?)

側近(街から危険が去った訳じゃ無い、だろうに)

側近「……それも何時まで持つんだよ。20年30年と続けば」

側近「お前の身体も持たなくなるんだぜ?」
0286この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:42:56.18ID:glhs3AtH
女剣士「それぐらいなら大丈夫だ」

側近「いやいやいや。じゃあその後は?」

女剣士「……その頃にはアタシの子供とか、いるだろ」

側近「……ああ、もう。お前さぁ」

女剣士「な、何だよ」

側近「村に魔物が来ないと困るの?」

女剣士「……え?」

側近「『アタシがいるから大丈夫』は良いよ、別に」

側近「ここに来るの……来させるの、か。嫌がってたり」

側近「さっきもそうだが……ボス的な何か居なくてほっとしたのは事実だろうがさ」

女剣士「……」

側近「根本的な解決、望んでない様に見えるぜ?」

女剣士「そ、そんな事は!!」

側近「……そうか?まあ、俺の考えすぎなら良いけどさ」

女剣士「……」

側近「……行こうぜ。お前は空気が良いとか言ってたが……」

側近「俺には息苦しいよ」

女剣士「……」

側近(……目に見えてへこんだな)ハァ

女剣士「……」

側近「おい、立てよ?」

女剣士「……かな」

側近「え?」
0287この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:43:14.91ID:19sMxmmE
女剣士「アタシが……居なくても困らないのかな」

側近「……はぁ?」

女剣士「何でも無い。行こう」スタスタ

側近「……」

側近(何だ?)スタスタ
0288この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:44:05.12ID:w+SxWDC7
側近「おい、女剣士……」


ギィ……


女剣士「え……!?」ピタ

側近「おわッ……」ドン!

側近「ちょ、急に止まるなよ!?」

女剣士「……な、なんで!?」

側近「は、何が……ッ」


ヒュウゥ……


側近(風……ん?)

側近「……外?」

女剣士「外……」

側近「……ええええええええええええええ!?」

女剣士「な、なん……で……!?」タタタ

側近「あ、ちょっと待てって……!」タタ


バタァン! ……シュゥン


側近(扉が……消えた?)

女剣士「あ……!」ガシ、ガチャガチャガチャ!

女剣士「開かない……?」

側近(……否、女剣士には、見えてる、のか)

女剣士「ど……どうなってんだよ!」ガチャガチャガチャ!

側近(……封印された、か……ふむ)

側近(見えネェからわからねぇけど……誰の封印だ?)

側近(魔王様じゃネェだろうが……同等の力を持ってると仮定すりゃ)

側近(……消去法で行くと……)ブツブツ

女剣士「何ぶつぶつ言ってるんだよ、側近!」
0289この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:44:29.07ID:UWeonHMG
側近「ん? ……ああ、悪い。いや、まあ……何で俺には見えないのかなぁ、と」

女剣士「え……見えてないの、これ」

側近「ああ……締まった瞬間、消えた」

女剣士「……」ガチャガチャ

側近「音は聞こえてるよ」

女剣士「……」ガチャガチャ!

側近「やめとけって……もう別に用事もネェだろ」

女剣士「何で……」

側近「考えても……解らんさ」

女剣士「……」

側近(さて……これで街に戻って、どう説明したもんかねぇ)

女剣士「……側近」

側近「ん?」

女剣士「これ……どうしようも無い、んだよな?」

側近「何がだ」

女剣士「……塔には何も居なかったし、魔物達は……変わらず、街に来るんだろうか」

側近「……」

女剣士「さっきの話……だけど……」

側近「ストップ……船に戻ろうぜ。ここで蝙蝠に襲われるのは御免だ」

女剣士「……ああ」



……

………

…………



甲板



側近『……て、訳だ』
0290この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:46:08.43ID:nEgVGlCu
魔王『ふむ……』
側近『お前じゃ無いよな?』
魔王『私では無い……し、意味も無いだろう、そんなの』

側近『だよなぁ……』

魔王『蝙蝠共はその封印の所為で集まってきているんだろうな』

側近『……考えれるのはそれぐらい、だな』

魔王『誰の魔法かはわからんが……強力な物に違いは無いのだろうし』

側近『まあ、変なものが無いのが解っただけでも、だな』

魔王『……息苦しい、てのが少し気になるが』

側近『そうだな。女剣士は逆に『空気が良い』とか言ってたしな』

魔王『まあ良い……取りあえず、ご苦労、側近』

側近『街に戻って町長に報告したら、始まりの街に行くわ』

魔王『ついでに癒やしの石も頼むぞ』

側近『……それは港街にも寄れって事ですか、そうですか』

魔王『うん』

側近『アッサリだな!』

魔王『私がふらふら出歩く訳にはいかないんだろう』

側近『……落ち着いちゃったらありだけどね』

魔王『姫との約束もあるからな』

側近『それは別に咎めネェけど。けど!』

側近『くれぐれも!問題は!起こさないでね!』

魔王『……解ってる』

側近『気持ち悪いぐらい素直だな』

魔王『流石に懲りたさ……ああ、姫が呼んでる』

側近『俺も戻る。女剣士と話しもあるしな』

魔王『……こっちの事は心配するな。使用人が旨くやってくれている』

側近『……帰って俺のポジション無かったらどうしよう』

魔王『阿呆……お前はお前だ、側近』
魔王『……ではな』

側近(心なしか、元気が無い様に思えるなぁ……)

側近(魔王様の問題も……何時までも先延ばしには出来ないよな)スタスタ
カチャ
0291この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:46:36.45ID:QxICHt6x
側近「悪いな。少し気分はマシになったよ」

女剣士「いや……大丈夫か?中に居るとしんどいんだろ」

側近「お前を甲板に引きずり出す訳にいかないだろ、航海士さん」

女剣士「フン……」

側近「……」

女剣士「……」

側近(言い出しにくい、か)フゥ

側近「……で、何だったっけ?」

女剣士「……アタシ、は強い」

側近「あ?」

女剣士「強いと思って……る。思ってた」

側近「それは俺も否定はしネェよ。実際に街を守ってきたのはお前だろうし」

側近「……剣さばきは見事だったと思うぜ?」

側近「俺は、まあ……そっちは専門じゃ無いけどさ」

女剣士「魔法の腕と剣の腕を比べても意味が無い事は分かってるんだ」

女剣士「だけど…… ……」

女剣士「……」

側近「俺が言ったのは、当たらずとも遠からず、か?」

女剣士「『根本的な解決を望んでない様に見える』?」

側近「……ああ」

女剣士「街は……平和になって欲しい。皆、アタシが居るから大丈夫だって」

女剣士「笑って言ってはくれるけど……アタシが居なくても大丈夫になるのが」

女剣士「本当の皆の望みだってのは解ってるさ」

側近「……心配や、申し訳ない気持ちもあると思うぜ?」

側近「勿論、他にも戦える奴はいるだろうけどさ」

側近「お前ばっかりに頼って申し訳ないってのは、あるだろう?」

女剣士「……」
0292この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:46:58.02ID:dKc50m2K
側近「思ってた、て過去形にしたのは……俺の所為か」

女剣士「あんな魔法見せられちゃね」

側近(まあ……俺、魔族だしなぁ。しかも魔王様の目持ってるしなぁ)

側近(……俺も規格外、か。ハァ)

女剣士「比べるもんじゃ無いのは……さっきも言ったけど……解ってる」

女剣士「でも……」

側近「平和にはなって欲しいけど、必要とされなくなるのが厭、てか」

女剣士「……怖いんだ」

側近「……お前の存在価値はそれだけじゃないだろうに」

女剣士「解ってる、けど……ッ」

側近「まあ、はいそうですかって納得できないってのも」

側近「……理解は、できるさ」

女剣士「……」

側近「……魔王の復活が本当だったとしたら」

女剣士「え?」

側近「……流石に、それは喜べないだろう?」

女剣士「それは……」

側近「……」

側近(まあ、ありえない話だけどさ)

女剣士「解ってるさ……子供じみた……阿呆みたいな、願いだって」

側近「……勇者になりたいのか?」

女剣士「え?」

側近「あー……頼りになる勇者様!誰よりも強い勇者様!」

側近「……北の街の、さ。勇者で居たい……のかな、て、な」

女剣士「そうかもな……そうだな。ふふ……ッ」

側近「何がおかしい?」

女剣士「真の平和を望まない勇者、か……滑稽だ。否……ただの阿呆……以下だ」アハハハ!

女剣士「……悪い。アタシが……勇者になんてなれる訳が無いんだ。なれる、訳……」

側近「……」
0293この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:47:20.72ID:GK+pHLpT
女剣士「……」

側近「勇者ってのは……」

女剣士「……?」

側近「勇者ってのは、自分で宣言してなるもんじゃ無いだろう?」

女剣士「……」

側近「何かを思って、誰かの為を思って……さ。した行動ってのがさ」

側近「多くの人に喜ばれて、そんで、さ……」

側近「後々、自然とあの人は勇者だった、とか……言われるモンなんだろう」

女剣士「……」

側近(自分で言ってて耳が痛いよ……ホント)

側近(俺も言ったもんな、魔王様に……勇者になれ、だなんて)

女剣士「ありがとう、って言ってくれる……助かるよ、って」

側近「ん?あ、ああ……街の人にか」

女剣士「……当たり前の様に、アタシに、さ」

側近「……?」

女剣士「確かに、頼られたい。でも……あれ以上に強い魔物が来たら?」

女剣士「……アタシに、倒せるのか」

側近「……」

女剣士「勇者様だったら、きっと当たり前の様に倒すんだろうさ」

女剣士「でも……その場に立ってるのがアタシだったら?」

女剣士「……そして、負けてしまったら?」

側近「……怖い、か?」

女剣士「当然だ。死ぬのが怖いのもある。けど……向けられるだろう、侮蔑のまなざしが」

女剣士「……アタシは、何よりも怖い」

側近「……」

女剣士「今の侭の状態が延々と続いたとしても、アタシは勇者にはなれない」

女剣士「だが、もし……最悪の事態になれば」

側近「……」

女剣士「……やっぱり、勇者になんてなれないのさ」
0294この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:47:42.65ID:MS0TIP6Y
側近「……」

女剣士「当然だよな。さっきアンタが言った通り」

女剣士「『何かを思う』事も『誰かの為に』も無いんだ」

女剣士「……アタシは、アタシのプライドを保つ為だけに」

女剣士「下らないちっぽけなプライドの為だけに」

側近「もう、良い。良い、から……」

女剣士「……」

側近(複雑だな、人間ってのは……いや、俺も元人間だけど)

側近(……力を持つ、てのは怖い事だ)

側近「変な事言い出して悪かったよ……とにかく」

側近「……塔には宝物は愚か、魔物も居なかったんだ」

女剣士「……」

側近「けったいな……現象については、まあ、こればっかりはどうしようもない」

側近「……結果は、お前の望んだとおりになった訳だ」

女剣士「……ッ」

側近「ああああああああ、そんな顔すんな、嫌味で言った訳じゃネェよ!?」

側近「……同じ事が続くんだ。大変だぜ?」

女剣士「今までと何も変わらないさ」

側近「……」

女剣士「魔物が出れば剣を振り、危険が去ったら鐘を鳴らす」

女剣士「……そうだな。望むとおりだ」

側近(本気でへこんでるなぁ……しかし、まあ)

側近(こればっかりは、な……どうしようもねぇよ)

女剣士「……街が見えた。着岸するぞ」

側近(魔王様に頼んでも、な……魔物が来なくなれば)

側近(……こいつは、どうするんだろうな)



……

………

…………
0295この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:48:02.96ID:w4azxT0O
側近「……て、訳です」

親父「……」

女剣士「親父?」

親父「いや……すまん。にわかには信じられない話でな」

側近「何も無かった、て話が、か?」

親父「いや……そうじゃない。別にお前達を疑ってる訳じゃ無い」

親父「側近君が言う様に、まやかしの様な魔法が掛かっているとすれば」

親父「……その魔力に惹かれて、蝙蝠達が集まってくるって言うのもまあ」

親父「解らんでもない……んだが」

側近(そりゃま……その、強力な魔法を使えるって事自体が)

側近(人間には信じられない話……だよな)

親父「居心地が良かった、と言うのは……何なんだろうな」

女剣士「アタシは、な……側近は息苦しいって言ってたっけな」

側近(女剣士……やっぱり元気ない様に見えるなあ)

女剣士「……側近?」

側近「あ、ああ……すまん。そうだな……ん、何だっけ?」

親父「疲れているんだろう……すまんな、先に休ませた方が良かったか」

側近「いや、大丈夫……ちょっと考え事してただけだ」

側近「えーと……ああ、息苦しい、だな」

女剣士「大丈夫か?」

側近「……心配すんな。女剣士は……空気が良い、だっけ?言ってたよな」

親父「ふむ……扉も側近君には見えていなかったと言うしな……」

側近(多分……人間と魔族だから、だとは思うんだけど……言えないしなぁ)

女剣士「魔法が使えるか否か、とか?」

親父「ふむ……どんな者の魔法かわからないから何とも言えないが」

親父「それが案外正解かもしれんな」
0296この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:48:41.93ID:Ri5ccCry
側近(良い具合に勘違いしてくれてるなら……正す必要も無いよな)

親父「……考えても仕方ない。親玉が居らず、野生の魔物の集まりだと言うのなら」

親父「街での自営を強化すれば良いだけだ」

女剣士「……」

側近(ま……当然の意見だな。付き合って生きていくしか無いのだし)

側近(早々、自然に全滅……てのも考えられん)

親父「女剣士にも苦労をかけたな……これからは」

親父「街をあげて……皆を、街を。協力して守っていこう」

女剣士「……ああ」

側近(……すっげぇ不満そう。解ってても……すぐには無理、か)

親父「そこで……一つ提案があるんだが」

側近「ん……じゃあ、俺はこれで」

女剣士「あ……」

親父「ああ、待ってくれ側近君。君にも聞いて欲しい」

側近「え?俺? ……でも」

親父「この街に留まる事はできんか?」

側近「……へ?」

親父「君の力は素晴らしいと思うし、人としても……私は君の事が気に入ったんだ」

親父「……出来れば、娘の婿として、この街の人間になる気はないかね?」

側近「え……えええええええええええええええええ!?」

女剣士「お、親父、何言ってんだ!?」

親父「確かに、私は側近君の事は殆ど知らないが、悪い人間で無いと言うことは解る」

親父「そうでないと、まさか船まで貸し与えたり……あんな事を頼んだりもせんよ」

側近「いやいやいやいや、だからってアンタ、娘の婿……ええええええええええ!?」

女剣士「あ、アタシの気持ちとか無視で訳のわかんねぇ話進めるんじゃネェよ!?」
0297この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:49:03.68ID:o7+vlaQQ
親父「何も今すぐにとは言わんよ」

女剣士「あ、当たり前だ!」

側近「あのぉ……」

親父「お前だってまんざらじゃないだろう?何時も言ってたじゃ無いか」

親父「自分より強い男じゃ無いと厭だとか」

女剣士「だ、だからって!」

側近「……あのー」

親父「側近君なら良いだろう?魔法の腕も確かだし、頭も悪く無い」

親父「だいたいお前は何時も……!」ギャアギャア

女剣士「たまたま街に来ただけの旅人だぞ!?側近は!」

女剣士「親父が人の事言えるのかよ……!」ギャアギャア

側近「人の話を聞けって!」



シーン……



魔王『……』クックック

側近『お前も黙ってろー!そんで笑うな!』

側近「あーのな?とりあえず……ああ、もう!」

側近「結論から言うと街には残れません!」

親父「……な、何故だ!?」

側近「何故だと言われましても」

女剣士「無理強いしても仕方ないだろ!」

親父「し、しかし……!」

側近「あー……まあ、俺旅人ですけど。けど……まあ、一応仕える主が居る訳で」

親父「……」

女剣士「……主」

側近「何れは戻らないといけない訳で、ですね」

側近「……気持ちはありがたいけど、俺本当に強い訳じゃないしさ」

親父「あれだけの力を持ちながら何を……」

側近「そもそも、戦闘向けじゃ無い訳よ、マジで」
0298この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:49:40.61ID:BAz7/1Hv
女剣士「けど……魔法……使い?だろう、側近……」

側近「どっちかっつーと僧侶系かな。治癒とか補助が専門さ」

側近「……攻撃魔法は昔の主に習ったってか、強制的に覚えさせられたと言うか」

魔王『そうなのか?』

側近『お前は黙ってろってばあああああああああ!』

女剣士「前の主?」

側近「……俺が今仕える人の父親だ」

親父「代々……仕えているのか?」

女剣士「しかし、父親って……え!?側近、幾つなんだよ……」

親父「……初老の頃から仕え、世継ぎを守る者と考えれば」

親父「その……力も納得いくな」

側近(……そうなの?)

魔王『人間と言うのは面白い考えをするんだな』

側近『……お前の当たり前は当たり前じゃないからな』

魔王『何故だ』

側近『規格外だからだよ!てか黙ってろって!』

親父「そうか……回復が出来るのならば、是非とも……と言いたいところだが」

親父「幼い主様の為であれば、仕方ないな」

側近(……幼い。幼い……ねぇ。まあ、良いか。勘違いさせておいた方が)

側近(都合も良いか……)

女剣士「……そんなんで、傍離れて大丈夫なのか?」

側近「ん?ああ……別に、お目付役は俺だけじゃネェよ」

親父「……」
0299この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:50:11.93ID:ARdQG76v
女剣士「親父……?」

親父「……お忍びの旅、だったのかね」

側近「そういう訳じゃネェけど」

女剣士「もう良いだろう、親父……」

親父「……うむ」

側近「……」

親父「いや、引き留めて済まなかった。もう……行くのか?」

側近「そうだな……まだ行かなきゃ行けない所があるしな」

女剣士「……偶には、寄れよ?」

側近「おう。何時になるか……解らんけど」

親父「そうか……君なら、この街の……勇者になってくれるかと」

親父「期待したんだがな。残念だ」

側近「阿呆な事言わないでくれよ。俺は勇者なんて器じゃネェよ」

女剣士「……」

側近「……一番、街に貢献してるのは女剣士だろ?」

女剣士「……アタシだって、勇者になんかなれる訳が無い」

親父「女剣士もすまなかった。結局……お前任せにしてしまっていたな」

女剣士「……好きでやってるんだ。良いさ」

側近「……」

側近(結局何も変わらず……か)

側近(蝙蝠共が来なくなれば……否。結局は女剣士次第、だな)

魔王『……始まりの街へ行くんだな』

側近『お前が行けって言ったんだろうが』

魔王『……塔の方は、私が何とかしよう』

側近『……どういう風の吹き回しだよ』

魔王『ちょっと……な』

側近「……」

女剣士「側近?」
0300この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:50:34.58ID:y3DPpy9f
側近「ん、ああ……いや」

親父「ああ……少しだけ待っていなさい」スタスタ

側近「え?」

女剣士「礼も何も無しって訳にはいかないだろう?」

側近「別に……良いんだけどな。船も貸して貰えたし」

女剣士「……ああいうのには、関わらないに限るな」

側近「ん?」

女剣士「北の塔……さ。まさか、魔法で封印してあるとはね」

側近「ああ……あの見た目もまやかしみたいだしな」

女剣士「……もし、さ」

側近「?」

女剣士「街が……平和になって、アタシがここに居る必要が無くなったら」

側近「……」

側近(何……これ何のフラグ!?)

女剣士「……」

側近「……親父の話に感化されてんじゃネェよ」

女剣士「……悪かったな」

魔王『心臓ばくばく言わせて、冷静な事言って……』クスクス

側近『帰ったらしばく。遠慮無く殴る。決定!』

側近『てか、そんな事までわかるのかよ!俺のプライバシーは!?ねぇ!?』

魔王『どうにかしてやると言ってるのに……もったいない』

側近『もう本当に黙って!』



カチャ



親父「これを持って行きなさい」

側近「……ん?何だこれ?」
0301この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:50:55.58ID:tuC5WwrE
親父「物置にあった……古い地図だ。役に立つかは解らないが」

側近「貰って良いのか」

親父「ああ……こんな礼しかできずにすまん」

女剣士「……」

側近「とんでもない……ありがたく頂くよ」ペラ

側近(確かに古い物……だが、城にあるのとそう変わらん……かな)

親父「……君の様な男が仕える人だ。さぞ……良い主なのだろう」

側近「買いかぶりすぎだよ、親父さん」

側近(まさか魔王です、とは言えんわ……)

女剣士「ここから……何処に行くんだ?」

側近「そうだなぁ……まあ、鍛冶師の村の方に向かうしか無いよな」

側近「船も無いし」

親父「ふむ……山を越えるのか?側近君なら大丈夫だろうが」

側近「まあ……何とかしますよ。じゃ、お世話になりました」スタスタ

女剣士「……」



カチャ、パタン



親父「……」

女剣士「……」

親父「女剣士」

女剣士「……見回り、行ってくるよ。結局……状況は変わらないからな」

親父「待ちなさい……行きたければ行けば良い」

女剣士「街はどうするんだよ!」

親父「……お前達が塔に行っている間に、宿屋の親父達と話してたんだけどな」

女剣士「……?」
0302この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:51:33.67ID:TY49ClyN
親父「さっきも言ったが……お前に頼ることばかりだったからな」

女剣士「……アタシも、言った。好きでやってるんだよ」

親父「解ってる……だがな、女剣士」

親父「良い機会だ……街の自治を考えるのも町長としての大事な仕事だ」

親父「それに……特に統率する魔物が居た訳では無い」

親父「お前がさっき言った通り、状況は何も変わらない」

親父「だが……それこそが、向き合っていかなければ行けない現実だ」

女剣士「……」

親父「お前は確かに腕は立つ。だが、まだまだ。世界に出れば……」

女剣士「……井の中の蛙だってのは、良く解ったさ!」

親父「怒るな……諭している訳じゃ無いんだ」

親父「……ついて行きたいなら、行けば良い」

親父「街は……私達で、何とかするから」

女剣士「きゅ……急に言われても……!」

親父「……母さんが死んでから、良くやってくれてるよ。街のことも家のこともな」

親父「何れは見送らなければならないんだ。それが今でも……支障は無い」

女剣士「……」

親父「考えている暇は無いぞ、女剣士」

女剣士「……ッ」バタバタ、バタン!

親父「……」フゥ


バタン!


親父「!」

女剣士「……まだ追いつける。行くよ」

親父「惚れたか?」

女剣士「わかんねぇよ! ……でも、今行かないと後悔するから」

女剣士「絶対に!」ペコ

親父「……」


バタン……タタタ……
0303この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:52:09.77ID:grjTP3ni
……

………

…………


シュゥン……!ドタ!


側近「……痛い」グタ

側近(本当に、本当に……ッ  ぅえ)

側近「苦手だ、嫌いだ……ッ転移なんて ………ッ」スタ、キョロ……

側近「……」

側近(城……か。うわ、壁ぼろぼろ……)

側近「これ……復旧するのか?マジで……」

側近(そりゃ、移民とか考えれば……あの島だけじゃ手狭だろうけどさ)

側近(まあ……船長がどうにかする、だろうけどな)

側近「……前程苦しいとは思わないな」

側近(やっぱり、姫様のペンダントに移したから……か)スタスタ

側近『魔王様ー?』

側近(……あれ?)

側近『まーおーうーさーまー!!』

側近「……え、ひょっとして無視されてる?」

側近(何かあった……か?否……使用人も姫様もついてるし……)

側近(……もう、何か起こりうる要素も……)

側近「……っと、もう着いちまったか」


ザァアアア……ッ


側近(こういうのを、心地良い風、って言うんだろうなぁ)

側近「……お前さん、良い場所に還して貰ったなぁ、知人さん」

側近(大地に染み出す程の、力……それが、エルフの加護)

側近(……姫様の為に使われるのなら、本望だろうが)

側近「……長居しても仕方ねぇな、やれやれ」コロン


シュゥン……オェ……ッ
0304この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:54:43.60ID:c5I955c5
……
………
…………
シュン……

魔王「……」キョロ

魔王(成る程な……側近のビジョンで見た通り……天辺が見えん)

魔王(雲の上まで続く塔……まやかしの魔法、か)スタスタ

魔王(で……ふむ、入口も見えん、と)コンコン

魔王(ただの壁にしか思わんが……)

魔王「人には見えて魔族には見えん……のか」

魔王(随分と複雑な封印だな……しかし、この気配、は……)

魔王(……随分と力の強い者に間違いは無い。それに……古い、な)

魔王「……」ペタ

魔王(壁……手を通して……探れるか)

魔王「あそこか」スタスタ

魔王(……解けるか)シュウシュウシュウ……バタンッ

魔王「……開いた」スタスタ

魔王(内部には階段……確か、先に扉があったな)

シュゥン……スタッ

魔王「……」カチャ……スタスタ、パタン

魔王「成る程、息苦しい……な」

魔王(始まりの大陸の……知人の墓に行った時に似ている)

魔王(……ふむ。しかし)キョロ

魔王(特にこれと言って……無い、な。何も)

魔王(……原因はともかく、ここならば)

魔王「充分、だな……」

魔王(確か……扉から出れば、すぐに外に出るんだったな)

魔王「……利用させて貰うか」カチャ……スタスタ

魔王「ふむ」

魔王(……塔の入口、か……ん?)

シュン……

魔王「扉が消えた……成る程な」
0305この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:55:07.00ID:GmsAYxk6
魔王(一方通行、か……人であれば安易に近づかんと思ったか)

魔王「魔族にとって……大事な物でも隠しておいた、か」

魔王(そこは……考えても解らんな)ペタ

魔王(扉は……ここだな。良し……)ブツブツ



パアアアアアッ



魔王「……これで、良い。もう……人間共にも見えんだろう」



キィ……キィイ

バサバサバサ……



魔王(……魔力に惹かれて集まってきたか)

魔王(北の街の住人達に……思い入れは無いが)

魔王「風よ……来たりて、切り裂け……ッ」



シュン、シュゥン、シュウウン……!

ギャア!ギャアアアアアアアアア!

バサバサ……キィ……



魔王「……気休め、だがな。時間稼ぎにはなるだろう」

魔王(どうにかする、と……側近と約束してしまったしな)
0306この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:55:28.06ID:6XTfGy6m
魔王(……ん?)クラ……ッ

魔王「流石に……力を使いすぎた……か」

魔王(……姫と使用人がうるさいな。戻る……か)シュゥン



……

………

…………



姫「使用人、居る?」コンコン

使用人「姫様? ……どうぞ」カチャ

姫「毎日毎日、飽きないわね……」

使用人「そっくりそのままお返ししますよ……楽しいですか?土いじり」

姫「暇つぶしにはなるわね……読書なら解るけど、整理って面白いかしら」

使用人「……一冊、無いんですよ」

姫「え?」

使用人「これなんですが……」ポンポン

姫「ん、埃が……ええと……題名読めないわね」

使用人「そうなんですが、ほら、ここ……」

姫「『後』……後編、かしら?」

使用人「ぱらぱらと読んでみたんですが、その様です」

使用人「前編が見当たらなくて」

姫「……それで、この間から書庫に篭もりっぱなしで探してたのね」

使用人「魔王様に聞くのが早いんでしょうが……探してから、と思って」

姫「そうね……でも、魔王が把握してるとは思わないけど」

使用人「……まあ、そうなんですけれど」

使用人「魔王様……まだ戻られてないのですか?」

姫「ええ……すぐ帰る、とは言ってたんだけれど」
0307この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:56:07.20ID:IMxfL098
使用人「……まあ、あの方に限って心配する事は無いと思いますけど」

姫「そうだけど……」

使用人「あれ、姫様……?」

姫「え?」

使用人「……お腹、少し大きくなりましたね」

姫「やっぱり……そう思う?」

使用人「毎日会ってるから……気がつかなかったんですかね」

姫「でしょうね……ふふ、側近が帰ってきたら吃驚するかしら」

使用人「そうですね……丁度良いですし、お茶にしましょうか」

使用人「もうすぐ、魔王様も……」



シュゥン……スタ



姫「噂をすれば、ね……お帰り、魔……お……」

魔王「……」フラフラ

使用人「魔王様!?」タタ……ッガシッ

魔王「……すまん、大丈夫、だ……」

姫「ど、どうしたのよ、魔王……!」

魔王「力を使いすぎた……ん、だろう……」

魔王「すまん……少し……休む……」フラ……

使用人「魔王様……使い魔!誰か……!」

姫「……」

使用人「魔王様を寝室に……!」

姫「魔王……ッ」

姫(何、これ……ッ どうして、こんなに……)

姫(……魔力が、溢れてるのを……感じる。力を使いすぎた? ……違う!)

姫(これは……何!?)


……

………

…………
0308この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:56:36.47ID:kgUT2gQU
 婦「もう少しです、神父さん……そう、集中して……」

神父「う、うぅむ ……こうですか……ッ」

盗賊「 婦ー!」

 婦「あ、盗賊……」

神父「盗賊さんですか……丁度良い、休憩しましょうか」

 婦「はい……お疲れ様でした」

盗賊「毎日熱心だなぁ……ほい、差し入れ」

神父「お、これはこれは……美味しそうですね」

盗賊「チェリーパイ大量に焼いたって言うからさ……」

 婦「……元気無いわね」

盗賊「そんな事ないさ」

 婦「鍛冶師さんが行っちゃったから寂しい、て」

 婦「……素直に言えば良いのに」クスクス

盗賊「そ、そそそそ、そんなんじゃネェわ!」

神父「お若いですなぁ……」クス

盗賊「神父様まで!」

 婦「……すぐに戻ってくるんでしょう?」

盗賊「鍛冶師の村まで行って帰って……まあ、三ヶ月ほど、かな」

神父「忙しくしていればすぐですよ」

 婦「そうよ……やることは一杯あるわ。私達も……貴女も」

盗賊「そう……だけど」

 婦「……お返事、しない侭だったの、後悔してるの?」

盗賊「……」

神父「彼は必ず戻ると言ったのでしょう? ……大丈夫ですよ」

神父「ちゃんと、待っててくれますって」

盗賊「……そう、だけど……」

神父「彼は……良い青年です。何を迷うことがあるのですか?」

 婦「そうね……素敵な方だと思うわ、私も」

盗賊「別に……迷ってる訳じゃないさ」
0309この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:57:00.77ID:6Wr99vmH
盗賊「……こういうの、経験無いから……なんか、こう」

 婦「ふふ……まあ、良いじゃないの。たっぷり悩みなさい」

 婦「……羨ましいわ」

神父「何を仰います、貴女も充分若く、魅力的ですよ…… 婦さん」

 婦「私は……良いのですよ」

盗賊「そうだよ、 婦!アンタだって……!」

 婦「神に仕える身ですから」クス

神父「本当に……貴女の信心には頭が下がりますよ」

盗賊「あ……そういえば、神父様、石は出来る様になったのか?」

 婦「あ、話反らせた」クス

盗賊「ち、違うって!」

神父「まあまあ……そうですね。コツが掴めそうな気はするのですが……」

 婦「随分頑張っておられますもの。もう少しだと思いますよ」

神父「だと良いんですがね……」

盗賊「まあ……癒やしの、じゃネェや。神父様の神聖な気を込めるとなりゃ」

盗賊「難しいんだろうなぁ……」

 婦「ああ、そうだわ盗賊、思い出した」

盗賊「ん?」

 婦「私、ま……少年様から頂いた本と一緒に、船長さんのも持ってきてしまったの」

 婦「今度、返しておいてくれないかしら?これなんだけど」
0310この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:57:35.47ID:V8nLsNoh
盗賊「別に良いけど……あ、これ……」

 婦「え?」

盗賊「俺が少年に返し忘れた奴だ……船に置いていっちまったんだよ」

 婦「まあ……そうだったの?」

盗賊「読んだか?」

 婦「ええ……じゃあ、続きは船長さんが持ってる訳では無いのね」

盗賊「バタバタしてて、俺も忘れてたよ」

 婦「残念ね……じゃあ、続きは読めないわね」

盗賊「ん?船長についでに頼んどくぜ。まあ……何時になるかわかんないけど」

盗賊「少年のし……家にあるだろ、続き」

 婦「……そうね」

盗賊「一応預かっとくよ」

神父「私も読ませて貰ったんですが……何時か続きが読めるのですね」

神父「それは楽しみです」

 婦「……そうですね。神父様の為に……も、お願いしますね、盗賊」

盗賊「? ……ああ、伝えておいて貰うよ」

盗賊「さてと、んじゃ俺も作業に戻るよ」

盗賊「神父さんも頑張ってくれよ!」タタタ……

 婦「……」

神父「……どうなさいました?」

 婦「いいえ。少し……少年様を思い出した……だけです」

神父「少年さん……この島の、勇者様、ですね」

 婦「……はい」

神父「一度お会いしてみたいものですな……その方に」

 婦「……願えば、叶いますよ」

 婦(私の願いは……叶う、のかしら。魔王様……)

神父「……」

神父「あの本ですが……」

 婦「……? はい?」
0311この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:58:09.27ID:qmNe/2Wy
神父「光の勇者がどこからか現れ」

神父「闇の魔王を倒す、と言うお話です……確か」

神父「勇者が、魔王の城に乗り込んで、仲間を一人失った所で終わっていましたね」

 婦「ええ……きっと、最後に、魔王が……勇者に倒されて終わるのでしょうけど」

神父「物語は物語である故に、最後は幸せになる物が多いですからね」

神父「ですが……貴女に読ませて頂いた、あのエルフのお姫様のお話の様に」

 婦「……」

神父「……決して、皆幸せになりました、で終わらない物もありますから」

 婦「そうですね……続き、読めると良い、です」

神父「盗賊さんが何時か、借りてきて下さいますよ」

 婦「……はい」

神父「しかしあのエルフのお姫様の絵は美しかった」

神父「それも……作られた物であるが故なんでしょうが」

 婦「神父様は……エルフと言う存在はご存じなのでしょうか」

神父「存在しているのであろう、と言う事は」

 婦「そうですか……」

神父「お会いした事はありませんが……そうですね」

神父「会える物ならば、お会いしたいですよ」

神父「『願えば叶う』であるのなら……何時か、会えるでしょう?」

 婦「……そうですね」

 婦「……」

 婦「……どこから、来たのでしょうね。勇者は」

神父「え?」

 婦「物語の中の勇者は、光の中から生み出され」

 婦「闇の化身である魔王を打ち破る……と、されていましたから」

神父「……続きを読めば、その謎も紐解かれましょう」

 婦「はい……」
0312この頃流行の名無しの子垢版2021/02/12(金) 22:59:48.40ID:K6/Pq2BR
 婦(私に……そんな時間は、あるんでしょうか。魔王様……)

神父「不思議ですね。その少年さん……この街の勇者様も」

神父「ふらりと現れ、ふらりと去って行かれた」

 婦「……」

神父「『光』と言うのは希望の代名詞なのでしょうね」

 婦「では……『闇』は、その反対、なのでしょうか」

神父「どうでしょう。去られた場所も『闇』かもしれませんよ」

 婦「……え?」

神父「『誰も知らない場所』であったり『手の届かない場所』であったり……」

神父「知り得ない者から見れば、それは闇に等しいのかもしれません」

神父「例え、それが光に満ちた幸せな場所であっても……ね」

 婦「……」

神父「冒頭に出て来ましたよ。光と闇は表裏一体……と」

 婦「ええ、そうですね……」

神父「光が勇者を表し、闇が魔王を表すのだとしたら」

神父「表裏一体……とは、どういう事なのでしょう、ね」

 婦「……人から見た光は、魔族の居ない人間だけの世界かもしれません」

 婦「ですが……それは、魔族と言うだけで……闇と扱われる彼らにとっては」

 婦「それこそが……闇」

神父「逆も然り、ですね……揶揄とは言え」

神父「……成る程言い得て妙、ですかね」

 婦「……所詮御伽、されど……ですね」

 婦(人だけの世界……否。手を取り合って笑える、美しい世界……)

 婦(……でも、魔王様は……徹底した不干渉を望む、と……)

 婦(それも、光?)

 婦(……表裏一体)

神父「さて、おしゃべりはこれぐらいにして。練習を始めましょうか」

神父「もう少し、お付き合い願えますかな」

 婦「あ……はい!勿論です」
0314この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:13:54.45ID:7RsDhUGh
……

………

…………



盗賊「えーっと、あっちの資材は……」ガサゴソ

盗賊(……三ヶ月、か。帰ってきたら……)

盗賊(ちゃんと……!)

盗賊(今は、出来る事やっとかないと……)クル

側近「お……盗賊ちゃんじゃないか……」フラフラ

盗賊「おわあああああああああああ!」

側近「顔見るなり……悲鳴なんて……酷い……」ゥエ

盗賊「び、びっくりした……!」

側近「……おう」

盗賊「……大丈夫、か?」

側近「もう出るモン無いから平気……」

盗賊「ええ……アレか、転移か……?」

側近「まあ……うん、いや、大丈夫……」

盗賊「ならいいけど……どうしたんだ?」

側近「いや、用事のついでに石貰ってこい、ってね」

盗賊「船長が持って出たけど?」

側近「船だろ?まあ届くまで……どんくらいかな」

盗賊「あー……鍛冶師の村寄るって言ってたしなぁ」

側近「じゃあ結構時間掛かるな」

側近「余分があるなら買ってかえりたいんだけどな」

盗賊「そうだなぁ……あ!そうだ!」

側近「ん?」

盗賊「お前、ちょっと時間ある?」

側近「あ?ああ……まあ」

盗賊「良し!こっち来て!」グイ

側近「え?お、あ……ちょ、引っ張るなよ!」
0315この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:14:24.04ID:IFE/2jLy
盗賊「こっちこっち!」

側近「はいはい、走るとこけるよ……ん、丘に上がるのか?」

盗賊「子供じゃネェよ! ……ああ、 婦が居るんだ」

側近「へ? ……家、この上なの?」

盗賊「まあまあ……見れば解るって……ほら」

 婦「あら、盗賊どうしたの…… ……側近さん?」

神父「おや、お客様ですか珍し……! ……盗賊さん、離れなさい!」

盗賊「へ?」

側近「え?」

 婦「え?」

神父「……あ、貴方は……!」

側近「……俺?」

神父「人間では……ありませんね!?」

側近「……へ?」

盗賊「あ、し、神父さん、こいつは……!」

神父「どうしてこの街に……!!盗賊さん、早く……!」

 婦「ち、違います、神父様、側近さんは……!」

側近「……姫様みたいな奴だなあ、アンタ……」

神父「盗賊さん、早く、こちらへ!」

盗賊「……いや、あの……!」

側近「えーと……もしかして、イチから説明しないと駄目な感じ?」

神父「何がです!」

 婦「神父様、この方は……私とも盗賊とも既知の方です」

神父「……え?」

側近「あー……まあ」

盗賊「側近、思いっきり顔に『面倒臭ェ』って書いてるぞ」

側近「まじで……ちょっと擦って消しといて」

神父「既知……し、しかし……!」
0316この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:14:45.36ID:93HA1vh2
盗賊「自分でやれよ……」

 婦「側近さん……」

側近「あーはいはいはい。説明しますよすりゃ良いんでしょ……」

神父「……認めるのですね?」

側近「認めるもにも、俺が魔族だって事は盗賊ちゃんも 婦ちゃんも知ってるよ」

神父「え!?」

盗賊「おう」

 婦「……はい」

側近「……で、マジでどこから説明すりゃ良いの」

盗賊「……全部?」

側近「……」

盗賊「取りあえずその開いた口閉じろよ……」

 婦「で、ですが……」

側近「いや、まあ、うん……頑張る。つか、えーと?」

神父「……神父、と申します」

側近「ああ……アンタがアレか、インキュバスの魔石、禍々しいって言った奴……」

神父「……インキュバス?」

 婦「……」

盗賊「側近」チラ

 婦「……」フイ

側近「……ああ、すまん。取りあえず……俺は、側近だ」

神父「禍々しい……と言うのは、あの『魔除けの石』と言う物ですか」
0317この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:15:04.91ID:dIDZi+Uz
 婦「良いのですか、側近さん……ま、少年様の許可は……」

側近「あー……うーん……」

神父「少年さん……勇者様のお知り合いなのですか!?魔族の貴方が……!?」

側近「勇者様!?あいつが!?」

盗賊「……この街の勇者、だろう。確かに」ハァ

盗賊「この街の住人には……さ」

側近「……」

盗賊「だから口を閉じろ、と!」

側近(『勇者になれ』と言ったのが本当になった、か……)フゥ

側近(ま……そりゃそうだよな……魔王様が、勇者……)

側近(自分で言い出したとは言え……なんつーか……)

神父「……勇者様が、どうして……」

側近「そりゃはいそうですかと信じられない気持ちはわかる。解るがな」

神父「いえ……」

側近「アンタ、人間の割には鋭いな……確かに、アンタになら」

側近「本物の魔除けの石が作れるかもしれん」

神父「……」

側近「……ちゃんと説明してやるから、睨むのやめてくれ」

 婦「で、でも……」

側近「許可、か? ……まあ、それは大丈夫だろう」

側近(取ろうにも心話が通じないんだよな……)

 婦「……」

側近「アンタまで睨まないでくれる……俺の心折れちゃう」

 婦「す、すみません……しかし……!」

側近「大丈夫だってば……さて、神父さんよ」

神父「……なんでしょう」

側近「アンタは、目で見た物しか信じないタイプか?」

神父「は?」
0318この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:15:28.77ID:UUAr21Rb
側近「今から話す内容は、それこそはいそうですかなんて」

側近「信じられないだろうモンだって事さ」

神父「荒唐無稽な話、と言う訳ですか」

側近「否定はしねぇよ。だが……まあ、盗賊ちゃんと 婦ちゃんの証言がありゃ」

側近「信じれるか? ……それとも、俺が騙してるとでも言い張るか」

神父「そ、れは……」

側近「ぶっちゃけ、誰にでも話せる内容じゃない」

側近「……守秘は誓って貰いたいね」ハァ

神父「……」

盗賊「俺からも頼むよ、神父さん」

 婦「……お願いします」

神父「……わかりました。ですが……信じるに値するかどうかは……」

側近「別に信じないなら話さないとは言わネェよ」

側近「……流石に無理だろうよ。俺の正体、あっさり見抜いたしな」

神父「……」

側近「長いから……ま、簡素に話す。質問があれば聞いてくれれば良い」

側近「えーと、まずは……難しいなぁ」

側近「……少年には、姫様って言う伴侶が居る」

盗賊「え!?結婚したのか!?」

側近「いきなりかよお前は……式とかはマダだ。船長から聞いてるだろ?」

神父「……船長さんも、お知り合いなのですか」

側近「ああ……まあ、えっとそこは後で」

側近「で、なんだ……まあ、その二人が魔導の街で盗賊に出会った、んだよな?」

盗賊「ああ。俺が頼んだんだ。魔導の街の大会で、優勝してくれって」
0319この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:15:52.40ID:S0umtxAE
神父「それは……噂に聞きました。ふらりと現れた旅人が」

神父「魔導の街の大会で優勝し、街の全権を手に入れたと」

 婦「……そうです。その試合は見ていませんが……おかげで」

 婦「私達劣等種は、解放されました」

側近「 婦ちゃん……」

 婦「神父様はご存じです……そこは」

神父「ええ、街の人達からも聞きましたよ……そうして、港街が出来た」

側近「ああ。街の権利はもう、前領主の息子に返した」

側近「……ま、流石に当分は大人しくしてるだろう」

盗賊「この島は元々逃げ出した劣等種の隠れ家だったからな」

盗賊「俺が船長と少年達を引き合わせたんだ」

側近「で、俺もこいつらと知り合った、って訳だ」

神父「……出会った経緯は解りました……が」

神父「それだけでは、荒唐無稽な話とは言えますまい?」

神父「それに……貴方の話が出ていません、側近さん」

神父「……少年さんとお知り合いだったからついでに知り合ったとは」

神父「……流石に、納得できません」

側近「ご尤も……まあ、少年に旅に出ろと言ったのが俺、だ」

側近「姫様と少年は、魔導の街に行く前に知り合ったんだが……」

神父「ちょっと待ってください、貴方が少年さんに旅に出ろと?」

神父「どういう意味です?」

側近「説明するから待てって!」

側近「……俺は、少年に仕えている。少年は……魔王だ」

神父「……は?」

盗賊「……」

 婦「……」
0320この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:16:12.66ID:J/sIoSyS
側近(結局全部話さないといけないのか……)ハァ

側近「だから荒唐無稽な話だっつったろ?」

側近「少年の正体は、魔王だ……魔導の街に不穏な動きがあったし」

側近「魔族の一人が取り入って、何かやろうとしてるのが解ったから」

側近「魔王様を偵察に出したんだよ」

神父「……そ、それを信じたとしても、どうして主を偵察に出すのです!?」

神父「そんなおかしな話……!」

盗賊「改めて聞くとそうだよなぁ……」

 婦「盗賊……!」

盗賊「いや、まじで……」

側近「俺もそう思う……いや、進言したの俺だけど」

神父「……」

側近「そんな顔すんなよ……まあ、色々あってだな」

側近「俺が城をあけるとまずかった訳。で、これまた色々あってだな」

側近「……魔王様は無能だと思われてたんだよ」

神父「え……?」

側近「アンタがイメージする、魔物、魔族、魔王ってのは……なんだ?」

神父「そ、れは……一言では、言えませんが……」

側近「まあ、そりゃ解る……でもまあ、やっぱ色んな所に行くとさ」

側近「大体が、怖い物、として認識してる訳じゃん?」

側近「人間を殺すとか食うとか、魔王に至れば……まあ、ほら」

側近「人間共を滅ぼすだとか、支配する、とかな」

神父「……そうですね。畏怖の対象である事は間違いないでしょう」

側近「でな?俺とか魔王様とか……まあ、そういう事に興味が無かった訳だ」

神父「え?」

側近「面倒臭ぇじゃん。正直、俺は人間を好きでも嫌いでも無い」

側近「徹底した不干渉……それが、俺と魔王様の望みだ」

 婦「……」
0321この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:17:02.78ID:l/tsqkPX
側近「が、だ……勿論、魔族の皆がそういう事思ってる訳じゃ無い」

盗賊「……魔導将軍」

側近「そうだな。魔導将軍始め……過激な思想を持つ奴も勿論居たんだ」

神父「と、言うと?」

側近「まあ、人間なんか滅ぼしちまえ、この世は魔族の物だ、ってな」

神父「で、ですが……魔王は……違う、のでしょう?」

神父「……信じるとすれば、ですが」

側近「さっきも言っただろう? ……魔王様は、過激派には無能だと思われていた」

側近「……まあ、詳しくは割愛するけど、あいつが魔王になってから」

側近「本当になーんにもしなかったからな」

側近「書庫に篭もって本読んでるか、料理してるか……」

盗賊「……想像に容易い」

側近「本当にねぇ」

神父「魔王が……料理……」

側近「不干渉で良いなら、そう宣言しろとも言ったんだがな」

側近「魔王様曰く、そういうのは強制されてする物じゃ無い、とな」

側近「皆がそう言う方向に自分の意思でなって欲しい、と」

側近「……それにしたって方法はあるだろうに、とは思ったんだが」

側近「俺も……何もしなかった。不満があっても」

側近「一応、魔王様の命令が無ければ、魔王軍は動かなかったからな」

神父「……」

側近「だが、不満のある連中が集まって、良からぬ企みを始めたのさ」

盗賊「……魔王に、反旗を翻す、か」

神父「……!」

側近「ああ。で、俺はばたばた走り回って、漸く魔導将軍の行動を突き止めたんだが」

側近「……そいつだけじゃ無い。俺が不在になれば、過激派の連中にも解るだろう?」

神父「それで……魔王を」

側近「そう。あいつは無能だ。何も出来ない屑だと思われていたからな」
0322この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:18:06.09ID:b2/0ShaD
神父「……何故、なのです?」

側近「あん?」

神父「仕える者であろう貴方ですら……それ程の力をお持ちだ」

神父「なのに、何故……」

側近「無能だと思われるのか、か……それ、言わしちゃう?」

神父「……」

側近「まあ、良い……魔王ってのはな、まあ……世襲制、って奴だ」

側近「ただし、前魔王……今の魔王様の親父さんだな」

側近「を……自分の手でぶち殺さなきゃならん」

神父「親を……殺す!?」

側近「そうだよ。そうして『魔王』の力を奪い取る」

側近「……この事実を知ってるのは、前魔王様の代から仕えていた古参の者の内でも」

側近「数人しか知らん……俺も含めて、な」

盗賊「……側近も古参に入るのか?」

側近「まあそうだな。魔王様には最初……産まれた時から、って言ったけど」

側近「前魔王様に拾われたからね、俺は」

 婦「拾われた……と言うのは……」

側近「……ここまで言っといて何だけど、その話は今は省くわ。長くなるし」

神父「では魔王と言うのは……その力は、代々受け継がれてきた物だと言う、のですか」

神父「親を……殺し続けて手に入れてきた物、だと」

側近「……人間にとって嫌悪感のあるもんだっつうのは……まあ、解る」

側近「特にアンタは聖職者だしな」

側近「血だ、なんだってのでは縛れないのさ……魔族ってのは」

側近「力が全て、とは言わんが、それに近い物はある」

側近「……ま、だからあんな事態に陥ったんだけどね」ハァ
0323この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:19:12.70ID:87Hko0kP
神父「継承の方法を知らない他の魔族達が、魔王の地位を狙い」

神父「反乱を起こした、という事ですか……」

側近「まあ、ぶっちゃけ魔王様一人いれば皆殺しなんて容易いよ」

盗賊「……」

側近「けどまあ、幹部クラスの魔族にゃ部下ってのが居る訳でね」

側近「数で来られると、こっちの被害も……な」

 婦「こっち、と言うのは……?」

側近「便宜上だけど、魔導将軍達みたいのを過激派、それ以外……まあ、そうだな」

側近「魔王様や、俺みたいな考え方の奴を穏健派、って呼んでた訳」

側近「派、つっても……こっちは本当に数人だったけどね」

盗賊「で、でも……さ、魔導将軍は……死んだし……」

側近「残りも一掃したさ……被害ゼロでは無かったけどな」

神父「ゼロでは、無かった……?」

側近「獣の類であろうと、ものすごい数で攻め込まれてみろよ」

側近「……それに、数人だっていっただろ。それも古参の連中だ」

神父「し、しかし……魔族は不死に近いのでは?」

側近「近い、ね……まあそりゃな。人間より遙かに寿命も長いしな」

側近「だが、老いる。確実にな……で無けりゃ、どうして世代交代が必要なんだ?」

神父「……」

側近「二人……逝った。過激派の幹部の全滅と引き替えにな」

神父「残りは……残りの魔族は、どうなのです」

側近「さてね……少なくとも、出る杭は全部打ったさ。今のところ、は」

神父「また……その様な事態に陥る可能性が残っていると?」
0324この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:20:22.01ID:3z74FJNC
側近「この世に『絶対』があるって言うのか?お前さん」

神父「……」

 婦「人と人でさえ……争うのです。血だ、能力だ、と」

 婦「一度……力で押さえつけた魔導の街の人達が、二度とあのような思想を持たないと」

 婦「……お思いですか?神父様」

神父「 婦さん……」

盗賊「……」

 婦「劣等種は確かに、魔王様によって解放されました。しかし……何十年」

 婦「何百年の後、形を変え……また」

 婦「同じような事を、繰り返さないとは言い切れません」

盗賊「で、でも……!」

側近「だから、そうならない様に……布石を打つんだろ?お前達は、さ」

神父「……一つ、お聞きしたい事が」

側近「はいはい、何でしょ」

神父「あの……『魔除けの石』は……」

側近「あー……」

 婦「私がお話します」

側近「 婦ちゃん……でも」

 婦「良いんです……何時、言おうかと迷っていたのです」

盗賊「……?」

 婦「あの石は、インキュバスと言う……魔族が作った物です」

神父「先ほど……側近さんも言っていらっしゃいましたね」

神父「 婦さん……ご存じなのですか?」
0325この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:21:50.34ID:ufujjJ3R
 婦「……端的に言うと、彼は私の精気を吸い、魔力に変えて」

 婦「あの魔除けの石を作っていたのです」

盗賊「な……え……?」

神父「貴方の……精気、を……ですか?」

側近「……」

 婦「はい。魔導書軍は、魔導の街に居る間……魔王様と姫様を」

 婦「部下に見張らせていたそうです。勿論……娼館に居た劣等種達も……」

 婦「魔王様と何度も接触した、私も」

神父「貴方が娼館にいらっしゃった事は……存じております。お話下さいましたから」

 婦「はい……船でこの街を出た私は……鍛冶師の村の教会で、インキュバスに会いました」

 婦「そして……」

 婦「……」

神父「申し訳ありません、 婦さん、もう……!」

 婦「いえ……すみません。大丈夫です」

 婦「そこで……取り入られてしまったのです。辱めを受けたにもかかわらず」

 婦「……心地よい快楽に、身も心も解けました」

 婦「名を奪われ、新たな名で呼ばれる事を強いられても」

 婦「精気を奪われても……与えられる愉悦に、あらがう事はできなかった」

盗賊「……ッ」

 婦「あの間は……忘れていられたのです!」

 婦「……必要とされる事は、心地よかった。嬉しかったのです……!」

 婦「魔王様の、事を……ッ 思い出さずに……居られるのは……!」

側近「……」

神父「……」

盗賊「……」
0326この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:22:30.54ID:E+uNJwk7
 婦「申し訳ありません……」

神父「……いえ、あの……その。辛いお話、を……」

側近「方法は 婦ちゃんが教えた、んだよな?」

 婦「はい……多分、ですがそれしか考えられないでしょうね」

盗賊「覚えて無い、のか?」

 婦「はっきりとは。後……色々聞かれた気はするんだけど……あまり」

側近「……まあ、あいつはもう死んだから、な。そういうのは気にしなくて良いだろう」

神父「死んだ……殺した、のは、魔王がですか?」

側近「あー……説明しにくいんだがなぁ……」

 婦「あれは……あの時の、あれは……側近さんでしたよね」

側近「ああ。そこは覚えてるんだっけ?」

 婦「……紫の、瞳……を。ですが」

盗賊「え?」

神父「紫の瞳?」

盗賊「側近のは……緑じゃネェか」

 婦「魔王様は紫の瞳をお持ちなのです、神父様」
0327この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:23:05.12ID:Bw0syBjn
神父「……それは」

盗賊「おい、話がぐちゃぐちゃじゃネェか……わかりやすく説明してくれよ」

側近「お前……何も聞いてない、のか?」

盗賊「詳しい話はな……側近の瞳が紫ってどういう意味だ?」

 婦「私がインキュバスに捕らわれている時に……助けに来て下さったのは」

 婦「側近さん……で、良いんですよね?」

側近「ああ。そんで対峙した時に、俺の身体が魔王様の意識に乗っ取られたんだ」

神父「乗っ取られた!?」

側近「……で、その時、俺の目が紫に変わった、んだよな?」

盗賊「覚えて無いのか?」

側近「そうじゃネェよ。自分の姿は自分でみれないでしょうが」

神父「……」

側近「何か言いたそうだな、神父さん」

神父「……一言で言うのならば信じられません、ですよ」

神父「聞きたい事は山程ありますが……」

側近「まあ、あの時の 婦ちゃんは記憶が曖昧だろうから俺が話そう」
0328この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:23:39.79ID:Yhe0DgPA
側近「そもそも俺は戦闘向きじゃ無い訳だ……攻撃魔法は使えるが、専門じゃ無い」

側近「けどまぁ……魔王様の目を持ってるからな。インキュバスと一対一なら何とかなるかなー、て」

側近「思ってたら『面倒だから体貸せ』……だ」

盗賊「……あいつが規格外なのは知ってる、が……そんな事までできんの!?」

側近「んで、だ……まあ、そんで、どうしてだか瞳の色迄紫に変わっちゃったらしく」

側近「 婦ちゃんもそれ見て混乱しだすし」

 婦「すみません……」

側近「あ、違う違う……責めてないって!」

側近「後はまあ、ぐちゃぐちゃなんか言ってるインキュバスぶち殺して」

側近「……俺の体の侭、 婦ちゃん抱えて魔王様の城迄転移しやがった」
0329この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:24:04.74ID:smPpSasg
側近「……て、感じかな」

神父「一つずつ……教えて頂けますか」

側近「おう……まずは何だ?」

盗賊「ちょ、待て! ……ここでこうやってるって事は無事って事なんだろうが」

盗賊「…… 婦は、大丈夫なんだな!?」

側近「……」

 婦「……話して置かなければなりませんね、側近さん?」

側近「何時話そうかって迷ってたんだろ?」

 婦「……はい」

盗賊「な、何だよ……まだ何かあんのか!?」
0330この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:24:44.77ID:xR3CMUC1
 婦「……インキュバスの洗脳の様な物は、溶けました。しかし……」

 婦「……私の、寿命は…… ……持って、一年……と」

盗賊「いち、ね……ん?」

 婦「……」

側近「姫様曰く、な。命の炎が……極端に小さいそうだ」

神父「それは、精気を吸われてしまったらか、ですか」

側近「インキュバスと言うのはそう言う種族だ。見目麗しい姿で異性を虜にし……」

側近「主に文字通り、精を糧として生きる」

 婦「私は、魔石を作る為に……身を捧げて居たから……」

神父「彼の者の糧となり、さらに……ですか」

盗賊「な、何納得しました、見たいな喋り方してんだよ!みんなして!」

盗賊「側近!何とか……助かる方法無いのか!?」
0331この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:25:25.11ID:PDgsniVD
 婦「少女さんの様に魔族になれば、生き永らえるでしょうね」

神父「!?」

側近「と、言うか……生きたいのなら、それしかない」

盗賊「……!」

 婦「魔王様は私が望むならすぐにでも、と言って下さいました。でも……」

 婦「姫様には、それすら耐えられないだろう、とも」

盗賊「そんな……!?じゃ、じゃあ……諦めろってのか!?」

側近「誰もが人から魔に易く変じれる訳じゃ無いんだ、盗賊」

側近「俺や……少女は稀有な例と言っても過言じゃ無いんだよ」

神父「貴方……も?」

側近「大前提として、魔に変じたい、とかな。まだ生きたい、とか……そう言う強い意思が必要な訳だ」

側近「死にたくは無いが、魔になるのは……とか。迷ってりゃ、まず不可能だ」

側近「俺の場合は後者だった。『こんなとこで死にたくネェ。人で無くても良いからとにかく生きたい』だ」

神父「で、では、貴方は……」

側近「俺は元人間だよ。前魔王様に魔に変じさせて貰ったのさ」

 婦「ですが……人であった貴方が、何故前魔王様の前に……?」
0332この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:27:34.19ID:qv6GO3pS
側近「ここらへん、魔王様も知らないんだよなぁ……」

 婦「魔王様も……?」

側近「ちょっと前まで、元人間って事も言ってなかったからな」

神父「何故、なのです?」

側近「別に内緒にしてた訳じゃネェぞ?わざわざ……って思っただけ何だが」

 婦「今は知っていらっしゃる、のですよね?」

側近「ああ。アンタらにゃ当然の知識だろうけど、魔王様はそういう所疎いからな」

側近「回復や治癒魔法ってのは、人間の特権、て事を知らなかったのさ」

側近「本読むの好きな癖にねぇ……」

盗賊「姫から聞いた、のか」

側近「まあ、そう考えるのが妥当だろう。前魔王様に魔にして貰ったって話は伝えたよ」

神父「では……貴方は魔の身でありながら、回復の魔法が使える、と申すのですか」

側近「ここまで話しておいて嘘吐いても仕方ないだろ」

側近「前魔王様ってのは変わり者でな……否、魔王様も相当変わってるとは思うけど」
0333この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:28:11.15ID:+XxnaGlK
盗賊「全く否定できない」

 婦「……すみません」

側近「言っておいて何だが……不憫だな、魔王様」

側近「で、だ。えっと何だっけな……ああ。そうそう」

側近「俺が前魔王様に会った理由だったな」

側近「簡単に言えば……倒しに行った、んだ」

盗賊「え!?」

神父「魔王を……ですか!?」

側近「そうだよ。俺が人として生きてた時代、世界はもっと殺伐としてた」

側近「魔王は人を、人間を支配すると宣言していたし、魔物の数ももっと多かった」

盗賊「……お前、何年生きてんだよ」
0334この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:29:03.20ID:2CqZHhVY
側近「さぁなぁ……前魔王様は、1000年近く生きてたから」

側近「それ以上、は確定だな」

神父「千、年……」

側近「今でこそ『勇者』なんてモンは御伽噺扱いに近いけど」

側近「実際に居たんだぜ、勇者様ってのが」

 婦「それは……選ばれた存在、という事ですか?」

側近「んー。と、言うより『魔王を倒してくれるだろう存在』かな」

側近「……実際に倒して居れば、本物の勇者になれたんだろうがな」

神父「では……貴方達は、魔王を倒せなかった?」

神父「……ん、ですよね」

側近「そうだよ。でなきゃ、俺が魔王様に仕えてる訳がネェだろ?」

盗賊「じゃ、じゃあ……側近が勇者!?」

側近「いやいやいやいや。違うって!攻撃魔法とか無理だったし」

側近「回復やら補助専門の俺が勇者な訳ないだろ」

盗賊「あ、そ……そっか」

側近「勇者になるだろう、と思われてた剣士と、俺と……攻撃魔法専門の奴」

側近「その三人で旅に出たんだ」

 婦「側近さんは……何処の出身なのです?」

側近「俺の産まれた街はもうネェよ。旅立ってすぐに、魔王に跡形も無く消し飛ばされた」

盗賊「!?」

側近「そうだな。始まりの街……みたいな感じかな」

側近「あれほど大きくは無いが、小さな島に小さな城と、お飾り程度の街があった」

側近「……後から考えれば、王様が旅立ちを急かした理由はそれだったのか、とね」

側近「そう思えば……魔王に憎しみが沸いた。それを力に、俺たちは魔王城に急いだんだ」
0335この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:30:22.79ID:AVd2N4On
 婦「魔王城、と言うのは……あの、今魔王様が住んでいらっしゃる……?」

側近「そうだよ。どうにかこうにか……俺たちは最果ての街にたどり着いた」

側近「ああ、街はもう今みたいな感じだったな」

側近「誰かが住んでる訳でも無く、廃墟に近かった」

 婦「では……私達が見た感じと同じ……」

側近「だな。で、歩いて歩いて……門をくぐって、城の中に入った」

側近「そしたら、誰に会うでも無くさ。あっさり前魔王様の居る玉座の間まで」

側近「来ちまった……ご対面、さ」

神父「配下の魔族は……何故、居なかったのです?」

側近「俺も勿論、疑問に思ったさ。だがな、俺たちは極度に緊張してた」

側近「前魔王様が話しかけた瞬間、魔法使いの奴が魔法をぶっ放しやがったんだ」

盗賊「……」

側近「前魔王様はあっさり……それこそ指一本ではね除けた」

側近「そこで怖じけずきゃ良いのに、プレッシャーってのは怖いモンでね」

側近「俺たちはパニックになった。一斉に殴りかかっていったのさ」

神父「ど……どうして……」

側近「考えてもみろよ?既に亡い人達から受けた期待と、怨み。俺たちに」

側近「『魔王を倒す』以外の選択肢があったと思うか?」

 婦「逃げ出す訳には……行かなかったのですね」

側近「逃げ出したって帰るところは無い。俺たちを知る人も居なければ」

側近「気にする必要も無い、かもしれんがな」

側近「そんな事は許されない。『勇者達』てのはそういうモンなのかもな」

側近「……実際、そうだったよ。俺たちがやらなけりゃ、被害は増えるだけ」

側近「そうとしか思えなかったんだ……ろうな。多分、な」
0336この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:32:03.00ID:8CjBvjFU
側近「俺たちはあっさり吹っ飛ばされた。魔法使いは壁に打ち付けられて血まみれ」

側近「勇者も似た様なモンだったな」

側近「声も出せなかったよ。ありゃ文字通り化け物だ……人が太刀打ち出来る相手じゃない」

 婦「ど……どうなった、のです……」

側近「死にかけの俺たちに、前魔王様は言った」

側近「『生きたいか』とな」
0337この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:32:46.08ID:71X9Yg/K
側近「即否定したよ……俺以外の二人はな」

神父「……」

側近「死にかけて、口から血を噴き出しながら二人は、怨みの言葉を囁いてた……らしい」

盗賊「らしい?」

側近「俺だって死にかけてたんだって。ハッキリ覚えてネェよ……後から聞いた話だ、それは」

神父「前魔王、に……ですか」

側近「ああ。『情けで生きてどうする』『お前を倒さなきゃ、死んでも死に切れん』」

側近「『化け物』『魔など生きていて良いはずがない』『親を返せ』『皆を返せ』」

 婦「……」

側近「『俺たちの幸せを奪う権利など、無い』……とか、な」

神父「……」

側近「で、前魔王様は答え無い俺に、もう一度聞いたそうだ」

 婦「……『生きたいか』?」

側近「俺は即座に答えた。死にたくない。生きたい……死ぬのは厭だ」

側近「『ならば生きろ。強い意思を持ち、己が手を取るが良い……人の子よ』」

側近「……そんな感じだったかなぁ」

盗賊「そ、それで?」

側近「こっから先は、魔王様にも話したかな。使用人……少女ちゃんの時に」

神父「? 少女さんと言うのは……先ほど、魔に変じられたと言う……?」

側近「ああ。まあ、後で話そうと思ったんだがな」

側近「側近てのは、俺が人から魔になった時に与えられた新たな名前だ」

側近「必要なのか、けじめなだけなのかはわからんが……」
0338この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:34:03.84ID:0g2YXGjN
側近「手を取れと言われてもな。俺はスタボロで動けなかったから」

側近「実際は前魔王様が俺のとこまで来てくれて、手を握ってくれた」

側近「で、人としての命と引き替えに、俺は前魔王様の魔力で、魔に生まれ変わったんだが……」

側近「……与えられた魔力は、元々は前魔王様の物だ。いくら強い意思があったとしても」

側近「はいそうですかー、と受け入れる物でも、耐えれるモンでも無い」

神父「……」

側近「負った怪我は奇跡的に治ってたんだか、そんなモン気にならなかったんだか解らんが」

側近「俺は……俺の魔力は暴走して、訳も分からない侭に前魔王様に襲いかかった」

側近「これだけはハッキリ覚えてる。前魔王様は『元気があって何よりだ』とか」

側近「……そんな事言って、大笑いしながら、笑顔で俺を吹っ飛ばした」

 婦「だ、大丈夫だったのですか……!?」

側近「まあ、今生きてるからねぇ。その衝撃でどうにか暴走は収まったけど」

側近「大爆笑してる前魔王様の傍で、泣いたね。ガチで泣いたね」

盗賊「……笑う所じゃ無いよな」

側近「全く持って違うね!」

 婦「怪我は……前魔王様が治して下さったのですか?」

側近「 婦ちゃんともあろう人が何言ってんの。魔王だろうが何だろうが」

側近「回復魔法は使えないでしょ?」

 婦「あ……」

側近「鼻水垂らしながら自分で回復したよ……ああ、思い出したくない」

神父「貴方以外の……二人は、どうなったのです?」

側近「その頃には既に死んでた……と思いたいがな」

側近「俺の暴走に巻き込まれて、てのは……なぁ?」

盗賊「わからない、のか?」

側近「気がついたら既に死んでたからな。その後、前魔王様に色々な話を聞きながら」

側近「……片付けた。魔王城の庭で、二人の亡骸を燃やして貰ったのさ」
0339この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 10:35:28.46ID:90Pe3PVr
神父「それは……前魔王が?」

側近「そうだよ。俺は炎なんて操れないからな」

側近「俺と前魔王様と二人で庭まで運んで、前魔王様が……炎で浄化しよう、てな」

神父「浄化……」

側近「俺は確かに生きたかった。だけどそれがまさか、魔になることだなんて思いもしなかった」

側近「話を聞いている内に、憎しみとか……不思議だけどどっかいっちまったんだよ」

側近「あんなに憎んだ存在だったのにさ」

神父「ど、どうしてです!?命の恩人には、違い無いでしょうが……!」

側近「俺たちの島を消し飛ばしたのも、人に宣戦布告したのも」

側近「前魔王様の先代だったそうだ。そりゃな、『私じゃ無い』なんて言われて」

側近「あっさり信じられる訳も無かったけど」

側近「なんて言うかなぁ……話してる内に、気がついたら信じてたんだよ」

側近「……そういう人だったんだ。まあ、魔王様の親父、って思えば」

側近「納得、て感じなんだが。さっきも言ったけど、まあ本当に変わった人でな」

盗賊「魔王の親父……そう聞くと、納得しちまいそうだ。まじで」

 婦「ええ……あの、私も……同感です」

神父「盗賊さん…… 婦さん迄!?」

側近「世代交代の方法とか、先代と自分の考え方の違いとかな」

側近「その辺、全部話してくれた、てのもあるけど」

側近「……前魔王様の炎が消えて、二人の存在が完全に消えて無くなった頃に」

側近「前魔王様は俺に、これからどうするんだと聞いた」

盗賊「え?」

側近「前魔王様は先代をぶち殺して、自分が魔王になってすぐだったそうでな」

側近「先代の頃からの参謀達も、絶対に自分に賛同はしないだろうからって」

側近「ついでに、一掃しちゃったらしいんだわ」

 婦「……」

側近「血なまぐさい話ですまんね」
0340この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:52:51.62ID:90Pe3PVr
 婦「いえ……」

側近「で、俺に『側近』になれ、とな……ただ、厭なら拒否しても良いとも」

神父「魔王が……そういった、のですか」

側近「ああ。生きたいと言うから生かしたけれど、まさか本当に魔になれるとは」

側近「思わなくて吃驚した、とも言ってた」

盗賊「……それって実験台……」

 婦「盗賊!」

側近「まあ、事実その通りだ。で、前魔王様的には、それで満足したんだと」

神父「満足?」

側近「そう。自分は本当に魔王になったんだなぁ、と感慨深そうに言ってた」

盗賊「……本当に、なんて言うか……魔王のお父さんだな」

側近「だろ? 俺も気が抜けたよ。拒否したら殺すのかと聞いたが」

側近「好きにしろとか言う。でもさ、好きにしろって言われてもな?」

側近「帰る場所も無いし、魔王を倒す、って言う目標ももう無い。つか、無理だ」

側近「じゃあ、ここに居れば良い。じゃあ、お前の名前は今から側近な」

側近「……て、訳だ」

神父「その、新しい名を与えた意味は……」

側近「『意味があるかどうかは解らんが、新しい生のスタートとしてのけじめとして』」

側近「『必要な事だと思うから』……そんな感じだったかな」

 婦「それで……側近さんは、前魔王様に仕える事を決められた、のですね」

側近「んなハッキリ決めたとかじゃネェなぁ……なんか、気がついたら」

側近「こうなってた?」

盗賊「んな疑問系にされても」

側近「つか、まあ前魔王様の望みは『人間と魔族が共存できる世界』だったからな」

側近「初めの頃は俺に、その橋渡し役をやれって言ってたよ」

 婦「魔王様が……少し、仰ってましたね」

側近「ああ。だが俺はそれは拒否したんだ」

盗賊「え!?」

側近「時期じゃ無い、って意味な」

神父「そうですね……先代の魔王が、支配を望んでいたのなら……」
0341この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:53:20.11ID:fYtLH/cf
側近「ああ。魔族の生は長い。ましてや、前魔王様は魔王になったばかりだ」

側近「焦らなくても、そういうチャンスはいくらでもあるだろう、とな」

側近「どっちにしても行く場所なんか無い。もう人で無いなら」

側近「永住も叶わんだろ?人の世界では、さ」

 婦「側近さんは……見かけは変わっていらっしゃらない?」

側近「同じ魔族でも個人差はあるんだけどな。俺はまだあの頃のまんまだな」

側近「だから、とりあえずは城に住んで、お前……前魔王様の傍にいてやる」

側近「生かして貰った恩もあるし、とな」

盗賊「……はぁ」

側近「実際、前魔王様は本当に、先代に仕えてた殆どをぶち殺しちまったみたいで」

側近「城には怯える使い魔とか位しか残って無くてな。マジで大変だった訳よ」

側近「世界各地に散らばった奴らの討伐だとか、何だとか……」

側近「まーじーでこき使われたからね!」

側近「んで、回復だけじゃ頼りにならんってんで」

側近「風の攻撃魔法たたき込まれたりな」

 婦「では……特訓のおかげで、使える様になったのですか……あの、魔法」

側近「実際、魔王に回復とか補助とかいらねぇだろ?」

側近「要は使い方なんだってさ」

神父「『願えば叶う』……ですか」

側近「お。姫様の名言、広まってるねぇ」

盗賊「あれ、てことは……側近は、魔王のお母さんとかも知ってるのか?」

側近「おう。俺は魔王様のおむつも変えたことあるぞ」

盗賊「まじで!?」

側近「まじで……引っかけられた事もある」

 婦「何を、です?」

側近「…… ……聞かないで?」
0342この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:54:50.79ID:LXWm/bON
盗賊「魔王が赤ちゃんとか……」

側近「そりゃ想像出来ないだろうがね」

 婦「お母様……どんな、方だったのですか」

側近「気になる?」

盗賊「ならない訳ないだろ、なあ? 婦」

 婦「え、ええ……それは、まあ」

神父「私も純粋に興味があります」

側近「アンタも??」

神父「魔王……魔を統べる者の生誕、と考えれば、ね」

側近「ふむ……まあ、どこにでもいる魔族、と言っちまえばそれまでなんだがな」

側近「そうだな。見た目は大人しそうに見えたな。黒い髪に深い深い深海色の瞳」

側近「優しそうに、柔らかく笑う顔が美しかった……が」
0343この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:55:50.99ID:sAKXI2DV
盗賊「……が?」

側近「死者を悪く言うのは気が引ける……が、ありゃとんでもない女だったよ……!」

 婦「亡くなった、のですか……」

側近「……まあ、魔族も不死じゃないからね」

盗賊「と、とんでもない、てのは?」

側近「ガキなんだよ、ガキ!下らネェ悪戯ばっかしやがるのさ!」

盗賊「へ?」

側近「前魔王様は笑ってるだけだしさ……標的は何時も俺な訳!しかもさ、ほんっとどうでも良い事ばっかすんの!」

側近「……扉開けたら水入りバケツが落ちて来たりとか、な」

盗賊「……」

 婦「……」

神父「……」

側近「何だよみんな揃ってその顔はあああああああ!」
0344この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:56:51.65ID:VJcf9RVy
盗賊「いや……いや、いや」

 婦「な、何と申し上げて良いのか……」

側近「……つか話逸れまくったな」

神父「変わらない、のですね」

側近「あん?」

神父「こうして聞いていると、です。私達人間も……魔族も。魔王、ですら」

側近「……」

側近( 婦ちゃんもはっきり覚えてないみたいだし……魔王様の剣の事は黙っておくか)

側近(余計な知識迄与えるのは避けた方が良いな)

神父「しかし……ふむ」

側近「何だ?」

神父「1000年以上もの間に色々あったのでしょうが……今現在の魔王の望みは、徹底した不干渉なのですよね?」

側近「そうだ」

神父「ならば何故……こうも、人に、私達に肩入れするのです?」
0345この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:57:59.53ID:T6fA5x8+
側近「だよなぁ」

神父「は?」

側近「いや……俺も何でだろうなーって、思って」

神父「はぁ……」

側近「魔導将軍やインキュバスの事は、まあこっちにも利があったからな」

側近「そっから先は、姫の為……だろうが」

神父「お話の中に何度かその名が出て来ましたね。姫、というのは」

神父「魔王様の細君、でよろしいのですかな」

側近「まあ、そうだな」

神父「ひょっとして……その姫さんと仰るのは、人、なのですか」

側近「魔族じゃ無いのは確か、だが……まあ、良いか。ここまで来れば」

側近「隠す必要もネェな……姫様はエルフのお姫様、だ」

神父「……エルフ!?」

盗賊「エルフの長の娘、だとさ」

神父「そ、存在することは存じておりました、ですが……!」

側近「エルフは嘘がつけないんだそうだ。優れた加護を得る変わりの、制約、だっけな?」

盗賊「そんな事言ってたな」

神父「魔王と、エルフの長の娘が……結婚!?」

側近「まあ、その辺は気にするな」

神父「無茶を言わないでください!」

側近「……すまん」

盗賊「あっさり信じれる方がどうかしてるだろうよ」

神父「しかも、その姫さんの為に魔王が、人間に肩入れ……!?」

側近「あー、ちょっと落ち着いてくれ、神父さんよ」

側近「混乱するのも無理は無いが、とりあえず本題に戻させてくれ」

盗賊「本題って……どれだ?」

側近「……どれだっけな」

盗賊「おいおい……」
0346この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 11:59:08.52ID:VBAQK3jp
側近「まあ、なんだ。ともかく……俺はこの島、街の人達に」

側近「危害を加える気は全くねぇから、そこは安心してくれ」

神父「……まあ、それは、信じておきます。とりあえず」

側近「上等」

盗賊「て言うか、お前何しに来たんだったけ」

側近「おいおいおいおい!」

盗賊「あ、思い出した。癒やしの石買いに来たんだったな」

側近「頼むよ、もう……」

盗賊「悪い悪い……」

神父「癒やしの石、を何に使うのです?」

神父「側近さんは回復魔法を使えるのでしょう?」

側近「気休め、だな。エルフのお姫さんには、魔の気は辛いらしくてな」

神父「その姫さんは、今も魔王の城に?」

側近「まあ、奥さんだからね」

側近「ん?おい盗賊ちゃんよ。見せたかったものって……?」

盗賊「ああ、それも忘れてた……いや、ここに教会を建てるつもりなんだよ」

側近「あー……あの骨組み、そうか?」

盗賊「住居やらなんやら、街を完成させる事が先だからさ」

盗賊「余った材料で、使えそうなモンがあれば、回して貰ってるんだ」

側近「ほーお」

 婦「小さくても良いのですよ。心のよりどころになれば」

側近「で、神父さんと 婦ちゃんは何やってたんだよ」

神父「私は、 婦さんに魔石の具現化の方法を教えて貰って居たのですよ」

 婦「ええ、魔王様に頂いた本もありますし」

神父「え!?」
0347この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 12:00:09.32ID:VBAQK3jp
 婦「わかりやすいようにと、まとめて下さったのは魔王様です」

神父「な、んと……」

側近「教えてって……神父さん程の人が出来ネェの?」

神父「恥ずかしながら……理屈はわかるのですがね」

側近「じゃあ、後は簡単じゃネェか」

神父「え?」

側近「アンタ、さっき自分でも言ってただろ」

側近「『願えば叶う』」

神父「……」クル、スタスタスタ

盗賊「? おい、神父さ……」

 婦「盗賊、シィ……ッ」

神父「……ッ」ブツブツ……グッ



パァア……!



側近「お?」



コロン……



神父「で、きた……!」

 婦「神父様……!」

盗賊「え、え!? ……魔除けの石!?」

側近「どれどれ」スタスタ、ヒョイ

側近「……始まりの街ほどじゃネェけど。確かに……魔除けになるかもな」

盗賊「始まりの街?」

神父「始まりの、街?」

側近「声揃えなくても良いでしょうが……」
0348この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:34:55.42ID:dIeRxhvj
側近「盗賊ちゃんは知ってるだろうに。知人の墓があるだろ」

側近「あの街に魔物が少ない理由……いても、それ程強く無い奴ばっかな理由、さ」

神父「え?」

側近「答えは墓の下、だろ」

盗賊「知人のエルフの加護……」

側近「そうだよ。姫様に……ってのもお前の案だろうが」

盗賊「あ!そうだよ、姫は……!」

側近「また話逸らすのはやめて!結果は無事!」

盗賊「……後でゆっくり聞かせろよ」

神父「エルフの、加護?」

 婦「姫様のペンダントですね」

側近「あー……先に話した方が良い感じですかそうですか」グッタリ

盗賊「もう諦めろよ」

側近「別に話すのが面倒な訳じゃ無いんだけどな」

側近「どこまで言って良いやら、判断がな……」

盗賊「今更だなぁ」

神父「別に……疑っていませんよ」

側近「今は、だろ?」

神父「正直に言うと、知りたいと言う欲求の方が強いですかね」
0349この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:35:35.06ID:/QsquzEc
盗賊「 婦は知ってるよな。始まりの街には……知人、て言う」

盗賊「エルフの……墓がある」

神父「墓?」

盗賊「見晴らしの良い丘の上に……埋めただけだけどな」

側近「そのエルフの生前の力だかなんだか知らないが」

側近「俺たち魔族にゃ、少々息苦しい程に清浄なんだあの土地は」

側近「ま……推測に過ぎんけど」

神父「それが、エルフの加護?」

側近「で、さっきも言ったが姫様を城に連れて帰ったらだな」

側近「魔の気で……まあ、体調を崩しちまったんだ」

側近「そんで盗賊に頼んで、癒やしの石を作って貰って姫様の傍に置いてたんだ」

側近「……気休めだがな」

盗賊「けど、それも長くは持たないって話だった」

盗賊「だから……知人の加護、エルフの加護のあるあの場所に行けば」

盗賊「どうにかなるんじゃないか、てさ」

神父「魔族の……魔王の妻になる女性の為に、ですか?」

盗賊「姫は魔族じゃ無いぞ。エルフだ」

神父「それでも……魔王に嫁いだのでしょう?」

盗賊「……そうだけど」

側近「使用人……少女ちゃんは、まだ人間だった」

側近「それにあいつは緑の加護を受けている」

側近「だから……エルフの加護を大地から吸い上げて」

側近「用意してあったペンダントに移したんだ」

神父「異種族の力を!?そんな事をすれば……!」

側近「普通は死ぬな」
0350この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:36:57.22ID:wkl6iWRv
側近「だから魔王様は、少女ちゃんの人としての命が消える瞬間に」

側近「魔力を注ぎ、魔へと変えた、のさ」

 婦「暴走、は大丈夫だったのですか……?」

側近「魔王様が相手じゃ、殺される可能性はあっても殺す事は考えられんからな」

神父「で、では……」

側近「結果オーライ。少女は魔としての新しい生を手に入れて」

側近「エルフの加護は無事に、ペンダントに宿った」

側近「姫様は今、城で元気にしてるよ……ただ」

盗賊「ただ?」

側近「それも、永久に持つ物では無いらしい、し……」

側近「……どちらにしても、産まれる頃には城を出て行くんじゃないかな」

盗賊「な、なんで!?魔王の城にいれば、危険も無いだろう!?」

神父「産まれる……子供が?魔王の、否……次期魔王が、ですか?」

側近「プライバシーの為黙秘……と言いたいが」

側近「まあ、色々あってだな。姫様のお腹の中の子供は、魔王様の子じゃ無い」

側近「そもそも、異種族間で子供産まれるんだか……」

盗賊「……え、でも……姫の子は」

側近「盗賊!」

盗賊「……御免」

神父「?」

側近(折角濁したのにこの子はもう!)

神父「魔王の子では無い……?」

側近「悪いがそこは『魔王様の子供では無い』で納得しておいてくれ」

側近「嘘じゃないからな」

神父「……解りました。こちらこそ申し訳ありません」

側近「サンキュ」

神父「ちら、と聞きましたが」

側近「ん?」
0351この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:38:19.23ID:4I8Z891q
神父「その、始まりの大陸に街を作る、と言うのは……」

側近「正確には復活させる、かな」

神父「その姫様の為、ですか」

側近「……そう、考えるのが妥当だろ?」

神父「……」

盗賊「じゃあ、魔王は何れ、姫をあの街に住ませるつもり……か?」

側近「と、思うけどね」

側近「肩入れする理由……の、一端はそれだと思うぜ」

側近「後は、自分たちの生活が充実してれば」

側近「後はそれどころじゃねぇって感じじゃネェの」

側近「俺たち魔族……魔王配下の、て意味、な」

側近「……は、さ。今のところ、人間達に攻め込んで、世界滅ぼすなんて」

側近「考えても居ないし」

神父「そう、ですか」

側近「……」

神父「貴方が癒やしの石を買いにいらした理由も解りました」

神父「……その、私が作った魔除けの石ですが」

側近「ん、ああ……これ?」

神父「どうぞ、姫様の為にお持ちください」

側近「良いのか?」

神父「まぐれかもしれません、し……随分体力も使います」

神父「量産できる自信はありませんが……」

側近「……サンキュ。助かるよ」
0352この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:39:14.76ID:cq2Iu0lA
神父「ですが、一つお願いがあります」

側近「な、何だよ」

神父「本を一冊、お借りできませんか?」

側近「本?」

盗賊「あ!忘れてた!」

 婦「盗賊、持ってる?」

盗賊「家に置いてきたよ……側近、丁度良いし後で渡す」

側近「??」

 婦「魔王様にお借りした本を一冊、持ってきてしまったのです」

側近「え?魔王様が渡した奴なら、 婦ちゃんが貰ったんじゃないの」

 婦「いえ、それでは無くて……」

盗賊「俺が船に置いていっちまったのさ。前後編だったみたいでな」

盗賊「続きが読みたいのさ」

側近「で、後編を探して持って来い、と?」

神父「お願いします」

側近「書庫にあるかなぁ……ただでさえ、あそこぐっちゃぐちゃだからな」

側近「まあ、見つけたら持ってきてやるよ」

盗賊「悪いけど、家寄ってくれよ。ついでに癒やしの石も用意する」

側近「オッケー…… ……」キョロ

盗賊「どうした?」

側近「否……教会、早くできたら良いな」

 婦「……そう、ですね」

側近「さて……もう良いか?」

神父「貴重なお話、ありがとうございました」

側近「くれぐれも……他言無用で頼むぜ?」

神父「勿論です」

盗賊「もう帰るのか?側近」

側近「流石にそろそろ戻らないとね。魔王様が何かやらかしてないか」

側近「心配で胃が痛いよ」
0353この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:40:20.13ID:uniDZfUM
 婦「お気をつけて、側近さん」

盗賊「悪かったな、引き留めちまって」

側近「いや、良いさ。貴重な石も手に入ったしな」

盗賊「じゃあ、また後でな!」スタスタ

側近「ああ……またおえ、ってなるのか……」スタスタ

 婦「……」

神父「……」

 婦「神父様」

神父「はい?」

 婦「申し訳ありません、その……黙って、いて」

神父「ああ……気にする事はありません」

神父「……残念、でなりません、が」

 婦「……」

神父「貴方の心の中の勇者様は、魔王なのですね」

 婦「……はい」

神父「それで『私に魔除けの石を作る資格は無い』と……仰ったのですね」

 婦「……」

神父「対象が何であれ、それが信心であるのなら……と、思う気持ちもありますよ」

神父「ですが……貴女が無理だと思うのなら、無理なのでしょう」

 婦「神父様……」

神父「『願えば叶う』……不思議な言葉ですね」

 婦「え?」

神父「いえ……」

 婦「お疲れでは無いですか」

神父「そうですね、まだまだ作れる、とは言いませんが」

神父「……本当に、不思議な気持ちです」
0354この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:41:12.79ID:/95BwQgg
 婦「不思議、ですか……そう、ですね」

神父「私は」

 婦「?」

神父「……私、は。貴女にも出来ると思いますよ。やはり」

 婦「……」

神父「すみません、強制等するつもりは、無いのですが……」

神父「崇める者がどうであれ、貴女のその強い思いには敬服します」

神父「ですが……」

 婦「認められますか?神父様」

神父「え?」

 婦「『私の神』……神は、本来絶対なるものであるでしょう」

神父「……そう、ですね。ですが」

神父「……」

 婦「……」

神父「難しいですね。確かに仰る様に、神は絶対であり、唯一」

神父「それは、当然です。私はそう思っています」

神父「ですが……」

 婦「……」

神父「……」フゥ

 婦「言葉を選べば選ぶ程、どうにも説明出来なくなってしまいます」

神父「ええ……」

 婦「私が……私に、魔除けの石を作れないと言うのは、それだけが理由ではありません」

神父「え?」
0355この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:42:02.05ID:0L0+inij
 婦「……私は、インキュバスと交わってしまっています」

神父「あ……で、でも!」

 婦「関係無いのかもしれません。ですが……」

神父「……」

 婦「誰が聞いたって、神聖では無いでしょう?」

 婦「こんな……私の作った、石では」

神父「……申し訳、ありません」

 婦「謝らないでください。それに……徳を積んだ神父様の様な方が」

 婦「増えて下されば。魔除けの石を作る文化が広がれば」

 婦「人の旅も安全になりましょう。そのお手伝いを出来るだけで」

 婦「充分、なんです。ですから……良いんです」

神父「 婦さん……」

 婦「それに、私には……時間がありません。だから」

 婦「頑張って、練習しましょう。神父様」ニコ



……

………

…………



側近「サンキュ、盗賊。ほら……これ、金な」

盗賊「こっちこそ。ん……確かに」

側近「で、本ってこれか?」

盗賊「おう、持って帰ってくれ。んで……」

側近「続き、な。やれやれ……あの書庫ひっくり返して探すか」

盗賊「そんなに広いのか?」

側近「狭くは無いが、ぐちゃぐちゃなんだよ、とにかく」

側近「適当に引っ張り出してそこら辺に置きやがるからな」

盗賊「ああ……」

側近「その後で探すの本当に大変なんだから!」
0356この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 13:42:45.35ID:XkkYAXa2
盗賊「まあ、まあ……少女も居るんだろ?」

側近「……手伝ってくれると思う?」

盗賊「え。そ、そりゃ……言えば手伝ってくれるんじゃね?」

側近「そうかなぁ……だったら良いんだけど……」

盗賊「俺も楽しみにしてるからさ。面白かったんだよ、その本」

側近「そうなのか?俺はこの類は興味ねぇからなぁ」

盗賊「勇者がどうやって魔王を倒すのか楽しみだぜ」

側近「魔王様の城にある本とは思えない」

盗賊「……よく考えればそうだな」

側近「で、ぶっちゃけ……どうよ?」

盗賊「ん?何がだ?」

側近「街の様子とか、だよ。見て回って無いからさ」

盗賊「あー。そうだなぁ……相変わらず、機能してるのは娼館ぐらいさ」

盗賊「飲食店とかもまだまだだな。やりたいって奴はいるんだが」

側近「そうか。まあ、移住者とか……本格的に増えないとどうにもならんわな」

盗賊「ある程度の住居ができればな。もう少ししたら、定期便に近い状態で」

盗賊「船を出すって船長は言ってたが」

側近「まあ、何時までも島の人達だけじゃな……しかし、船は?」

盗賊「多分今回、鍛冶師の村から一緒に戻ってくるんじゃないか?」

盗賊「一応、確保して回ってくれてるよ」

側近「そっか。船長の給料やた資材代やら、そっちの調達も大変だよな」

盗賊「ああ……町長の選出もしないといけないしな」

側近「お前で良いんじゃないの?」

盗賊「……俺!?」

側近「え?いや、まじで……」

盗賊「俺は……そういう器じゃネェよ」
0358この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:34:02.75ID:LFrBUnzS
NRTの店って余程暇なんだな
0359この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:52:05.09ID:lq5hSAl+
側近「そうかぁ?」

盗賊「身体動かしてなんだかんだしてるのは好きだけどな」

盗賊「でも……そういうのは、違うだろ」

側近「そんなモンかね」

盗賊「それに……」

側近「ん?」

盗賊「…… ……」

側近「盗賊?」

盗賊「あ、いや、何でも無い」

盗賊「もういくんだろ、悪い。結局時間食わしちまったな」

側近「ああ、それは別に……ま、でもそろそろ行くわ」

側近「帰ったらまた報告だとか色々雑務も待ってるしな……はぁ」

盗賊「頑張れよ!」

側近「おう……もう、使用人ちゃんに側近の地位譲って引退しようかな」

盗賊「おいおい……」

側近「冗談だよ……じゃあな!」


シュウン!


盗賊「……今回は、おえ、て聞こえなかったな」

盗賊「……」

盗賊(鍛冶師……元気かな)


……

………

…………


鍛冶師「……大丈夫?」

女剣士「ああ、大丈夫……ありがとう」

鍛冶師「ほら、もう一杯飲みなよ。暖まるよ」

船長「しっかし無茶するなぁ……女の身一つでよ」

女剣士「う、腕には自信があったんだ!」
0360この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:52:27.48ID:ZrueMHec
船長「……道に迷って海に落ちてる様じゃ」

船長「折角の腕も宝の持ち腐れだと思うけどな」

女剣士「……」

鍛冶師「まあまあ……えっと、女剣士ちゃん、だっけ?」

女剣士「ああ……」

船長「おいおい、話す前にお前も拭けよ鍛冶師」

船長「……飛び込むな、って言ったのにお前も人の話聞かネェし」

鍛冶師「ロープと浮き輪があるとは思わなかったの……」

船長「天下の船長様の船だぜ?全く……」

女剣士「助けてくれて……ありがとう」

船長「お礼なら俺じゃ無くて鍛冶師に言いな」

船長「しかしなぁ……お前さん、この船が通りかからなかったら死んでたぞ?」

船長「こんな平和な世の中で、態々あの山岳地帯抜けて、どこ行くつもりだったんだ」

女剣士「……鍛冶師の、村」

鍛冶師「え、本当に?」

女剣士「え?」

鍛冶師「僕たちも……この船も、さ。鍛冶師の村に向かう途中だったから」

船長「どこかで船を待つとか出来なかったのか?」

女剣士「急いでいたんだ」

船長「いや、なら尚更……」

女剣士「人を追っていた。北の街から、出て行ったから……」

鍛冶師「君、北の街から来たの!?」

女剣士「あ、ああ……そうだ。だから、真っ直ぐ鍛冶師の村に行けば会えるだろうと思ったんだ」

女剣士「だが、道に迷って……」

船長「北の街から山超えて、鍛冶師の村に向かうのに」

船長「何で崖っぷち歩いて、海に落ちるかね……」

女剣士「だ、だから迷ったんだって!」
0361この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:52:52.53ID:Qwelu6lu
船長「で、その追っかけてる奴ってのは、鍛冶師の村に向かったのか?」

女剣士「……」

船長「おい?」

女剣士「追いつけると思ったんだ!出発してすぐに、私も出たから」

女剣士「糞、道にさえ迷ってなければ……!」

鍛冶師「じゃあ、鍛冶師の村に向かっても会えるかどうか……もう、解らない、って事?」

女剣士「……」

船長「……」

鍛冶師「船長?」

船長「あ?ああ……まさかこのまま放り出して行ったりはしねぇよ」

鍛冶師「だよね、良かった。じゃあ……きっと、探し人とも会えるよ」

鍛冶師「目的地には、一応無事に着ける訳だし」

女剣士「……まだ、滞在してるかどうかは解らない」

船長「え?」

女剣士「多分、立ち寄るだろうってだけで……だ、だから!」

女剣士「本当に、すぐに追いつけると思ったんだよ……!」

鍛冶師「えぇえ……」

船長「と、ともかく、村は目の前だしな。おい、女剣士さんよ

船長「取りあえず、村で一緒に降りろな?」

女剣士「……ありがとう」

鍛冶師「居なかったらどうするのさ」

船長「……俺に聞くな」

女剣士「居なければ……どうにか、する。探すさ」

船長「どうやって、だよ……どこに行くか聞いてないのか?」

女剣士「旅人だと言っていた。だが……鍛冶師の村から、通りそうな所を」

女剣士「追っていけば……」

船長「……」ハァ

船長「まあ、とりあえず探してみるんだな」

船長「んで……まあ、そうだな」

鍛冶師「?」
0362この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:53:11.85ID:qa3cuvbA
船長「俺たちも数日は村に居る。困ったら相談してこい」ハァ

鍛冶師「……船長、優しいね」

船長「こんな阿呆な女、初めて見たわ」

女剣士「わ、悪かったな!」

船長「否定はできねぇだろうが!」

鍛冶師「探してる旅人さん、ってどんな人なの?」

女剣士「え?」

鍛冶師「僕は鍛冶師の村の出身なんだ。色々聞いてみてあげるよ」

女剣士「あ……ほ、本当に!?助かる!」
0363この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:53:31.86ID:ZBlOHbM+
鍛冶師「どんな人なんだい?名前とかは解る?」

船長「おい、鍛冶師。俺は操舵室に行くぞ」

鍛冶師「ああ、うん。お願いします」

船長「風邪引かネェようにしろよ!」スタスタ



パタン



女剣士「どんな……強い奴だった。名前は……側近だ」

鍛冶師「側近、ね。強い、って?」

鍛冶師(ん?側近……?どこかで聞いた様な……)

鍛冶師(でもまさか知り合いって事は無いよね、いくら何でも)

女剣士「あ……これ、スープ……ご馳走さま」

鍛冶師「ああ、はいはい。もう良い?」

女剣士「充分暖まった。ありがとう」

女剣士「どう、って……そうだな。凄い魔法の使い手だった」

女剣士「風の魔法と回復魔法が使えて……ああ、そうだ」

女剣士「なんでも、幼い主に仕えてるとか?」

鍛冶師「幼い、主?」

女剣士「確か。先代から仕えてたとか言ってたかな」

鍛冶師「ふうん……結構年配の人?」

女剣士「いや、そんな事は無い。鍛冶師と……変わらないくらいかな」

鍛冶師「って事は……結構、高貴な人に仕えてる、のかな?」

鍛冶師「先代から、てのもそれっぽいし」

女剣士「ああ、私もそうじゃ無いかと思う。側近本人も……身分が高いのかも」

鍛冶師「お忍びの旅、だったとか?」

女剣士「それも否定は出来ないな。あいつは言葉を濁してたし」

鍛冶師「うーん、それじゃ側近って名前も偽名の可能性があるよね」

女剣士「ああ……」
0364この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:53:53.85ID:CN8Yfo6w
鍛冶師「女剣士ちゃんは……何でまた、そんな相手を追いかけてるの?」

女剣士「あいつは……側近は、街を救ってくれた。私も」

女剣士「私は……子供だ。色々驕ってたし、我が儘な事ばかり考えてた」

女剣士「でも、あいつは……」

鍛冶師「……」

女剣士「怒りも、否定も、慰めも何もしなかった。でも、助けてくれたんだ」

女剣士「一歩、踏み出す勇気……みたいなの、貰った」

女剣士「私が勝手に、そんな気になっただけなのは解ってるけどさ」

鍛冶師「……好きになっちゃった、んだ?」

女剣士「な、え、ち、ちが……!」

鍛冶師「あれ、違った?」

女剣士「解らない。解らない、けど……もう一回、会いたい」

女剣士「側近の旅に、ついて行きたいんだ」

鍛冶師「成る程ねぇ」

女剣士「腕に自信はあったんだ。あったんだけど……!」

女剣士「あいつの魔法の腕には遠く及ばない。自信……挫かれた」

女剣士「足手まといになるのも解ってるんだ!でも……!」

鍛冶師「ああ、落ち着いて。落ち着いて、ね?」

鍛冶師「賛成して貰えるかどうかはわかんないけどさ」

鍛冶師「でも、とりあえず会いたい、んでしょ?」

女剣士「……うん」
0365この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:54:11.53ID:gIs/MIYh
鍛治師「なら、とりあえず会って、そっから考えれば良いよ。反対されたら説得するとか、諦めるとか、さ」

女剣士「私は諦めたくは……!」

鍛治師「いやいや、ほら、考え様もやり様も今考えても仕方ないでしょ、て事」

鍛治師「今はとにかく、会える方法……彼を見つける方法、考えようよ」

鍛治師「出来る事なら協力するからさ」

女剣士「……何故?」

鍛治師「え?」

女剣士「何故……そこまで言ってくれる?」

鍛治師「んー……僕も好きな人がいるから、かなあ」

女剣士「それだけ、で?」

鍛治師「まあ、そうかな」

鍛治師「だって、やらずに諦めるのは嫌でしょ?」
0366この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:54:29.17ID:u3Yp2KKX
女剣士「それは、まあ」

鍛治師「うん。じゃあまず君がする事は、眠る事。村が目の前とは言っても、夜明け位まではかかるし」

鍛治師「体は、もう温まった?」

女剣士「あ、ああ……それは大丈夫」

鍛治師「良し。じゃあ横になって休むと良いよ。濡れて体力も使っただろうし……怖かったろ」

鍛治師「僕も自分の部屋へ戻るから。何かあれば船長に言えば良い。あんな感じだけど、優しい人だから」

女剣士「うん……ありがとう」

鍛治師「どう致しまして。じゃあ……おやすみ」スタスタ……パタン

女剣士「……」コロン

女剣士(私……生きてる)

女剣士(まだ……諦めなくて良い。また、会えるかもって、期待して良い)

女剣士(側近……!)
0367この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:54:53.07ID:EZhNW4Zp
……

………

…………



コンコン



鍛冶師「船長?」カチャ

船長「おう、なんだよお前も休めよ、鍛冶師」

鍛冶師「うん……あのさ」

船長「ん?」

鍛冶師「村にはどれぐらい滞在するんだ?」

船長「? 予定通りのつもりだが」

鍛冶師「そうか……」

船長「……なぁに吹き込まれた?」

鍛冶師「え?」

船長「女剣士に、だよ」

鍛冶師「そんなんじゃないよ。人捜しする時間あるかな、って」

船長「そいつは本当に鍛冶師の村に居るのか?」

鍛冶師「可能性はゼロじゃないでしょ」

船長「そりゃそうだが。お前が入れ込む理由は?」

鍛冶師「別に入れ込んでなんか居ないよ?」

船長「海で拾った阿呆にそこまでしてやる義理もネェだろ?」

船長「村に連れて行ってやるだけでも充分だろうよ」

鍛冶師「僕は荷物さえ積み込んだら後はすること無いからさ」
0368この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:55:30.39ID:fAucTOEZ
船長「……乗り遅れたら置いてくぜ?」

鍛冶師「解ってるよ」

船長「興味があるのか?」

鍛冶師「え?」

船長「あの女にだよ」

鍛冶師「違うよ……そんなんじゃない」

船長「ま、何でも良いけどよ……面倒事起こさないでくれよ」

鍛冶師「大丈夫だってば。船長だって困れば相談しろって言ってたじゃないか」

船長「金さえ払って貰えるのなら、そりゃお客様だからな」

鍛冶師「……持ってると思うの?」

船長「無いだろうな」

鍛冶師「船長!」

船長「あのなぁ、さっきも言っただろ?何の義理があるんだよ」

鍛冶師「そりゃ、そうだけど……」

船長「惚れたのか?」

鍛冶師「は!?」

船長「じゃ無きゃ何でそこまで、って思って不思議じゃないだろ、て」

鍛冶師「……」

船長「おいおいおい、まじか!?」

鍛冶師「違う違う!僕は、と……!」

船長「と?」

鍛冶師「……!」

船長「まあ、何でも良いよ。本当に面倒事さえ起こさネェなら」ハァ

鍛冶師「……きょ、興味があるとすれば、彼女の探し人の方だ」

船長「あン?」
0369この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:55:55.16ID:VuS7lRjw
鍛冶師「幼い主に仕えている人だと、彼女が言ってた」

船長「その探し人が、か?」

鍛冶師「うん。先代の頃から何だって。その探し人自身も、高貴な身分なのかもって」

船長「はあ……」

鍛冶師「はあ、て」

船長「いや、だって、それが何だ、ってんだ?」

鍛冶師「もしその幼い主とやらが、代々続く家とかの人だったら……」

鍛冶師「何か、面白い話が聞けるかも知れないじゃないか」

船長「魔法剣、の話か」

鍛冶師「うん」

船長「……知ってるかどうかも解らんだろ。しかもそうであったって」

鍛冶師「教えてくれるかもわからない、て言いたいんだろ?」

鍛冶師「解ってる、けど」

船長「お前さんは、本当に……」

鍛冶師「何だよ」

船長「いや、顔に似合わず行動的だなと思ってな」

鍛冶師「か、顔に似合わずってのはどういう意味だ!」

船長「虫も殺せません、ってな優男風」

鍛冶師「……あのね」

船長「しかし、鍛冶師の村に居なかったらお手上げだろうよ?」

鍛冶師「以前に出た船の行き先とか解らないかな?」

船長「どうだかな。まさかお前、ついて行く気か!?」

鍛冶師「まさか!そんな事はしないよ!」

鍛冶師「会える可能性が見つかれば彼女も喜ぶだろ?」

船長「まあ、そりゃそうだろうけど……」

鍛冶師「彼女、その探し人の事が好きみたいだから、さ」

鍛冶師「応援してあげたいじゃない?」

船長「そういうモンかぁ?俺ぁ人の色恋にゃ興味無いけどなぁ……」
0370この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:56:17.88ID:aBwBbCVR
鍛冶師「船長は、好きな人居ないの?」

船長「……こんなおっさんに何言ってんだよ、お前は」

鍛冶師「歳は関係無いでしょ」

船長「俺より自分の心配してろ。お年頃ってのはお前ぐらいの年齢の事いうんじゃネェのか?」

鍛冶師「僕? ……僕は良いよ」

船長「何だ、お前恋人居るのか?」

鍛冶師「……居ないよ」

船長「? じゃあ……」

鍛冶師「僕は……」



ピィイ……コツン、コツン



船長「ん?」

鍛冶師「え、何?何の音……窓に何かぶつかってるのか?」

船長(小さい影……?鳥?魔王か?)スタスタ。カチャ



ピィイ……パタパタ



鍛冶師「綺麗な鳥だね。羽が緑だ……あ。足に何か……?」

船長(手紙? ……魔王じゃ無い、のか?)

船長(魔王の鳥は真っ黒だったよな)

船長「よ、っと。ちょっと我慢しろよ」

船長「鍛冶師、悪いが……グラスに水汲んでこいつに飲ましてやってくれないか」

鍛冶師「ん?ああ、良いけど……おいで?」



ピピピ……
0371この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:56:39.73ID:FeMFbiAk
船長(違うな……魔王じゃ無い)

船長(魔王だったら、手紙なんて面倒な事……否、周囲に配慮して、か?)

船長(しかし、緑の羽、でのは……)カサ



『魔王様が目を覚ましません。もし側近様と一緒にいらっしゃるのなら』

『すぐに戻る様に伝えてください。他言無用で。  使用人』



船長「!?」

鍛冶師「どうしたの?せんちょ……うわ、つつかないでよくすぐったい」フフ

船長「……知り合いからのちょっとした連絡だ。気にするな」

鍛冶師「え?へえ……伝書鳩みたいな物?」

鍛冶師「でも凄い優秀だね。船なのに……」

船長「そうだな」スタスタ

船長(俺が魔王の城に向かっても仕方ない……しかし)カキカキ

船長(何があった?魔王……)スタスタ

鍛冶師「ん、手紙、送るの?」

船長「ああ、ちょっと押さえててくれ……良し」

船長「返事、ちゃんと届けてくれよ?」



ピィ……パタパタ……



鍛冶師「良く慣れてるなあ」
0372この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:56:58.71ID:5whtytg9
船長(側近が言ってたな。髪がどうとか……)

鍛冶師「船長?」

船長「ん?ああ……お前も休んでおけよ?濡れてんだし」

鍛冶師「ああ、うん」

船長「眠れないのか?」

鍛冶師「いや、そう言う訳じゃないけど」

鍛冶師「……ま、休むよ。着いたら着いたで、やる事もあるし」

船長「おう。朝には着くだろ」

鍛冶師「少しは休めるね……船長は大丈夫?」

船長「海の男は強ェんだよ。心配すんな」

鍛冶師「ん。お邪魔しました。じゃあ、おやすみ」スタスタ……パタン

船長「おう」

船長(……)
0373この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:57:19.26ID:kdebtOpa
船長(魔王が、目を覚まさない?)

船長(……何が、あった)



バタバタバタ、バタン!

海賊「船長!魔物が!」

船長「……! 良し、手の空いてる奴、甲板に集めろ!」



……

………

…………



シュウン、スタッ

……オエ



側近「立てたのは良いけど、うぅ……ん?」キョロキョロ

側近「……」

側近「ちょっと見ない内に、庭が立派になってる!?」

側近(姫様、かな。つか、それしかないわな)スタスタ……キィ



パタパタパタ……



使い魔「あ、側近様!」

側近「おう、帰ったぜ……て、どうしたんだよ、走ってどこ行くんだ?」

使い魔「丁度良かった!お早く……!」グイ

側近「え、あ?な、何!?」

使い魔「早く、魔王様のお部屋へ!」

側近「! ……何があった!?」

使い魔「魔王様が……目を覚まさないのです!」
0374この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:57:45.00ID:W43qByyX
側近「魔王様が……え、何!?」

使い魔「とにかく、お早く!」バタバタ



バタン!



姫「側近!戻ったのね!」

使用人「側近様!」

側近「お、おいおい……どういう事だ!?」

姫「……どこかへ行って、帰ってきた途端、倒れたのよ」

姫「それから、目を覚まさない」

側近「魔王様は……自分の部屋か?」

使用人「はい。姫様を近づける訳には……」

側近「え?」

姫「見てくれば解るわ……」フゥ

側近「……」キョロ

側近「うわ!」

使用人「……そうして置かないと、姫様のご気分が」

側近「何だよこれ、癒やしの石?」

側近「こ、こんな扉の所にばらまいてんの!?」

使用人「城中の物を集めたのです。それでも……いくつか、もろい物は壊れました」

側近「……」ヒョイ

側近(透明……に近い筈だったのに……いくつか、紫に染まってる)

側近(扉の向こうから……魔王様の魔の気が流れ出してる、て事、か?)
0375この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:58:06.58ID:9O7RYuOR
側近「しかし、この部屋は……」

使用人「……魔王様の自室から一番遠いこの部屋でも、これなのです」

側近「じゃあ……今は姫様はここから動いて無いんだな?」

姫「ええ……」

側近「……あ!」

姫「え?」

側近「姫様、取りあえずこれ持っとけ」ポイ

姫「え、きゃ!」ガシ

姫「……! これ……」

側近「説明は後だ。取りあえず俺は魔王様を見てくる」

側近「使用人ちゃん、姫様の傍を離れるな。使い魔、着いて来い」

使い魔「い、いえ、あの……!」

側近「?」

使用人「……他の使い魔の何人かは、飲み込まれました」

側近「飲み込まれた?」

使用人「魔王様の魔の気に、です。当てられて暴走する者も……」

側近「な……!?」

使用人「暴走まで行かなかった者は……力を吸い取られミイラの様に」

側近「……後何人、残ってる。お前だけか?」

使い魔「い、いえ……食堂等に何人かは」

側近「……暴走した奴はどうした」

使用人「私が……片付けました」

側近「…… ……そう、か」

姫「……」

側近「解った。俺が行ってくる」

使用人「はい。私は……近づけません」

側近「使用人ちゃんも!?」
0376この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:59:09.43ID:WhjeUy+V
姫「……気を、つけて」

側近「心配すんな。大丈夫だ」スタスタ

パタン


姫「……」

使用人「使い魔」

使い魔「は、はい!」

使用人「残りの者と手分けして癒やしの石の残りが無いか探してきてください」

使用人「もし……紫に染まっている物があれば場所を後で教えてください」

使用人「……くれぐれも手は出さない様に。私か側近様が、後で……どうにかします」

使い魔「わ、わかりました」パタパタ……パタン

使用人「姫様……大丈夫ですか」

姫「ええ……これ、見て」コロン

使用人「先ほど側近様が置いて行かれた石ですか……癒やしの石?にしては……」

使用人「随分、大きいですね」

姫「癒やしの力は感じないわ」

使用人「え?」

姫「……随分、清浄な気。癒やしの石に似ているけれど……」

使用人「魔除けの、石?」

姫「え? ……あ! 婦、の?でも……」

姫「この石は……炎の力よ」

使用人「……彼女の加護は炎では無かった筈、ですよね」

姫「ええ。この石の作り主は 婦じゃない」

姫「誰か……別の人が?」

使用人「……」

姫「このペンダント程では無いけれど……持っていると、随分心地が良いわ」

使用人「 婦さんで無いなら、誰が……」

姫「後で側近に聞けば解るわ」

姫「……無事に、戻れば」

使用人「姫様!」

姫「……」
0377この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 14:59:34.69ID:jVOgY7zf
使用人「大丈夫です……側近様、ですから」

姫「でも……貴女でも無理なんでしょう」

使用人「お忘れですか?側近様は……魔王様の目をお持ちです」

姫「だから、よ」

使用人「え?」

姫「側近まで、あの魔力に引きずられたら……!」

使用人「……だからこそ、大丈夫かもしれません」

姫「…… ……そう、ね。そうも考えられる、わね」

使用人「もしもの時は、ちゃんと……お守りします」

使用人「転移石も準備してあります。だから……大丈夫です」

姫「……」

使用人「貴女は魔王様の奥様です。守れと、言われています」

使用人「ご心配なさらず。命に代えても、お守りします」

姫「使用人……」

使用人「魔王様の命令は絶対なのです。姫様」

使用人「だから……大丈夫です」



……

………

…………



側近(近づけば近づく程……魔の気が濃くなっていく)

側近(魔王様が目を覚まさない?)

側近(倒れた、侭)

側近(……心話が通じなかったのは、そういう事か?)

側近(しかし、こんな事今まで……!)スタスタ……ピタ



コンコン



側近(……)
0378この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:00:10.04ID:mAqXCjPE
カチャ



側近「魔王様……うぅッ」バタン!

魔王「……」

側近(魔の気が充満してる……のか……ッ)スタスタ

側近「魔王様?」

魔王「……」

側近(……確かに、凄い魔力が溢れてる……が)

側近(特に……)

魔王「う、ぅ……」

側近「魔王様?」

魔王「……」スゥ

側近(何に反応した……?)キョロキョロ

側近「!? ……なん、で……!」タタ……ッ

側近(魔王の剣……なんで、こんなぼろぼろなんだ!?)

側近(亀裂だらけ、じゃないか……何故……!?)

魔王「う、ゥ……ぅ」

側近「魔王さ……おっと!」

側近(危ない危ない、剣を倒す訳には……!)ガシ

側近「……!?」ドクン

側近「ぅ、うわあああああああッ!?」

魔王「う、ア……ッ」

側近(なん、だこれ……!魔力、が持ってかれ……)パッ ……ガシャン!
0379この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:01:09.34ID:LFrBUnzS
やっぱり暇なんだなNRTの店って
客がいたらこんなとこ見ないだろうしな
0380この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:01:34.38ID:QZ0Nkz9c
魔王「……側近?」パチ

側近「あ、 ……ァ、 ……ま、魔王、様……?」

魔王「人の部屋で何……暴れてるんだ、お前……」

側近「……あ、あ……わ、るい……ッ」

側近「大丈夫、なのか、お前……ッ ウゥ……ッ」クラクラ

魔王「……大丈夫かと聞かれるべきはお前だと思うが」

側近「気にするな。平気、だ……」

魔王「私は……どれぐらい眠っていた?」

側近「さあな。俺はさっき戻ったばかりだ」

魔王「……そうか」ムク

側近「起きるな」

魔王「そうも言ってられんだろう……見たんだろう」ス……

側近「魔王の剣か……どういうことだ、これ」

魔王「私が聞きたい」

側近「……」

魔王「……楽になった」

側近「え?」

魔王「急に、気分が……な。お前が戻ったから、か」

側近「え?え?」

魔王「……否、良い。姫は?」

側近「ここから一番遠い部屋に居る。使用人ちゃんも一緒だ」

魔王「……」

側近「話すの、辛いんだろう。もう少しゆっくり……」

魔王「否、大丈夫だ……姫と使用人を呼んでくれ。話したい事がある」
0381この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:01:56.53ID:zjgbtNSV
側近「阿呆、明日にしろ、明日に!」

魔王「何故だ」

側近「お前ね、この部屋に姫様呼ぶ気か?」

魔王「む……」

側近「自覚しろ。今のお前は……魔力がダダ漏れだ。しかも……」

魔王「力が強くなってる、か」

側近「……知ってたんだな?」

魔王「……ああ」

側近「なら聞き分けろ。城中の癒やしの石も、半分近く使い物にならなくなってる」

魔王「否。余計に急がねばならん。私には……時間が無い様だ」

側近「時間が無い?」

魔王「お前は私の傍を離れるな」

側近「は?」

魔王「……お前が戻ったからか、と。さっき言っただろう?」

魔王「お前は、私の何を持っている」

側近「魔王様の、目……」

魔王「『私が揃って』いれば……まだ、大丈夫だ」

側近「何……?」

魔王「半刻後、玉座の間へ集まって欲しい。お前は私を呼びに来い」

魔王「……頼む」

側近「…… ……解った」

魔王「それから、私の剣をここへ」

側近「? ……ちょっと待て」スタスタ、ヒョイ

側近「ほらよ」

魔王「ああ…… ……ッ」パキン!

側近「!?」

魔王「……時間が無い。本当に……な」
0382この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:03:05.82ID:CJaE6mOf
……
………
…………


姫「……」ウロウロ

使用人「姫様、少し落ち着かれては?」

使用人「……お腹に障りますよ」

姫「……!」ストン


カチャ


使用人「!」

姫「!」

側近「ただーいま……」

使用人「側近様、魔王様はどうだったのですか!?」

姫「側近、魔王の様子は!?」

側近「……同時に叫ばないでくれる」

使用人「……無事、なのですね」

側近「俺か?ま……見ての通り、な」

姫「魔王は……?」

側近「……目を覚ました」

使用人「本当ですか!?」

姫「良かった……」ホゥ

側近「……」

使用人「側近様?」

側近「半刻後、玉座の間に集まれってさ」

姫「魔王が……そう言ったの?」

側近「ああ。俺は……魔王様の傍を離れられない」

使用人「え?」

側近「魔王様曰く。『私が揃っていれば大丈夫』だそうだ」

姫「揃っていれば?」

側近「……目だ」

使用人「それで、離れられない、と?」
0383この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:04:17.13ID:RUuj5EOu
側近「言葉の通りに信じるのなら、な」

使用人「……まだ、何かあると?」

側近「…… 魔王の剣を見たか?」

姫「え?」

使用人「魔王様の剣、ですか? いえ……それが何か?」

側近「……ぼろぼろだった。罅……亀裂が」

使用人「え!?」

側近「それに……あいつの力が信じられないぐらい膨れあがってるのは」

側近「どうやら自覚があった様だな」

姫「……」

側近「使用人、姫様にできる限りの癒やしの石を持たせろ」

使用人「……はい」

側近「姫様も、その魔除けの石、離さないで」

姫「これ、やっぱり魔除けの石なのね」

側近「ああ。その話も後でする」

姫「……解ったわ」

使用人「綺麗な物だけ集めて持って行きましょう」

側近「頼む……もし」

使用人「はい?」

側近「……もし、何かあったら全力で魔王様を止める」

姫「側近!」

側近「……お前は、姫様を守れ」

使用人「解っています」

姫「……ッ」

側近「先に行く……半刻後、な」スタスタ

パタン

姫「……」

使用人「姫様?」

姫「……時間、無いのね」
使用人「そうですね、半刻後ですから」
姫「そうじゃ無いわ。そうじゃ無くて……!」
使用人「……」
0384この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:04:41.65ID:MZJxD1TH
姫「……」

使用人「ここに、居られる時間、ですか」

姫「……そうね。『私達の時間』」

使用人「……」

姫「……」

使用人「お腹の、子供の為です」

使用人「……母は強い、のです。姫様」

姫「……」

使用人「行きましょう。私から離れない様にしてください」

姫「ええ……」



……

………

…………



側近「魔王様、時間だ」カチャ

魔王「……ああ」

側近「起きれるか?」

魔王「大丈夫だ……側近、私の剣を持ってくれ」

側近「持って行くのか!?」

魔王「言っただろう……『私の全てが揃っていれば』」

側近「……解った」

魔王「姫と使用人は?」

側近「伝えてある。時間になったら来るだろう」

魔王「……そうか。側近、すまん……手を」

側近「ああ……」ギュ
0385この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:05:08.28ID:Dnwmnklh
……

………

…………



玉座の間



魔王「……どこから、話そうか」

側近「……」

使用人「……」

姫「身体は、大丈夫なの?」

魔王「ああ。心配をかけた……すまん」

側近「なあ、俺ずっとお前と手を繋いでないといけないの!?」

魔王「危険を回避するためだ」

側近「まあ……姫様の為なら我慢するけど……」

魔王「姫だけじゃない……世界の、だな」

使用人「世界?」

魔王「…… ……一番最初に異変に気がついたのは、森を焼いた時だ」

姫「え……?」

魔王「狼将軍を殺し、ジジィと鴉の弔いに森に火をつけた時」

魔王「……じわじわと怒りや憎しみが、魔力となって身体からにじみ出るのが解った」

側近「……」

魔王「城に戻れば姫が居る……心を落ち着けねば、と」

魔王「……思えば思う程、感情が消えていった」

使用人「……」

魔王「一緒、だったんだ」

側近「何が、だ?」

魔王「魔導将軍や、狼将軍と対峙した時とだ。同じだった」

魔王「……あの時の私も、感情に欠けていた気がする。後から考えれば、だがな」
0386この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:06:05.46ID:bTEyis/F
姫「でも、それは……貴方は、魔族ですもの」

姫「確かに、魔導将軍を殺した時、私も盗賊も……言葉を失ったわ」

姫「様々な属性の……凄く強力な威力を持った魔法を軽々と使いこなす」

姫「……しかも、躊躇も無く手をもぎ、足をもぎ……」

使用人「……」

側近「残酷な面は持っていて当然だ。魔族だからな」

側近「ましてや、姫様は……魔王様で無くても、そんな所見た事無いだろう」

姫「ええ……そうね。だから……その」

魔王「気にする必要は無いと?」

姫「いえ……ご免なさい。解らないわ」

魔王「ふむ。そうだな……私も知らなかった、と言うのが正しいのかもしれん」

姫「え?」

魔王「私にもそんな一面があるという事を、だな」

側近「無理も無いな。実質、前魔王様を殺してから、目立った争いなど無かった」

魔王「そうだな。三十年以上前のアレ、一度きり、だ」

側近「その時も魔王様は実際に手を下しては無い。魔導将軍にやらせただけだ」

魔王「親父を殺した時には無かった感情だ」

姫「……」

魔王「その後は少し落ち着いた。魔法に関する知識を纏めたり」

魔王「色々しているとな……」

魔王「だが……」

使用人「……インキュバス、ですね」

魔王「…… ……ああ」
0387この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:06:30.28ID:rFE3dOHm
側近「俺の身体を乗っ取った時、だな」

魔王「あいつは、 婦を傷付けた」

姫「……」

魔王「魔導将軍に危険な目に遭わされ、片腕を奪われ……」

魔王「そして、インキュバスにも又、だ」

魔王「側近は私の目を持っている。お前に任せておいても、片は付いた……だろうが」

側近「……自分の手でやりたかったのか」

魔王「それもあるな。が、まあ……早く救ってやりたかったと言うのが大きい」

魔王「仕留め損ね、逃げられ……力を蓄えられてはかなわん」

魔王「そこで 婦は救えても、また他に犠牲者を出すのも避けねばならん」

側近「で……あれか」

魔王「心話が出来るのならば、意識だけを側近の身体に飛ばす事も可能だろうと思ったんだ」

魔王「……力が溢れて来ているのは解っていたしな」

使用人「実際、魔王様の魔力は……大きくなってきている、のですか?」

魔王「だろうな。本当に……」クック

側近「魔王様……?」

魔王「『願えば叶う』……便利な言葉だ」

姫「魔王……」

魔王「私に取って、魔王の剣を取り寄せる事等容易い筈だ。だが、流石に」

魔王「そこまで……側近の身で出来るかどうかは解らない」

使用人「だから……手に握っていらした、のですね」

魔王「ああ。側近は私の目を持っていて、私と繋がっていると考えれば」

側近「……変な言い方しないでくれよ」

魔王「呼び寄せる事も可能だろうと思ったんだ」

側近「無視か!」

使用人「側近様、黙ってください」

側近「……酷い」

魔王「うん、お前うるさい。私の話を遮るな」

側近「…… ……もう何も言わない」

魔王「拗ねるなよ……子供か、お前は」
0388この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:07:06.18ID:yN1pt0ag
側近「拗ねてネェ!」

姫「 婦が言っていたわね。側近の瞳が、緑から紫に変わった、って……」

魔王「私は……側近もだろうが。自分の瞳は見えないから解らんが」

側近「……あれは、なんでだ?」

魔王「全ては推測だ。だが……お前が、目を持っていたから」

魔王「それは間違い無いだろう」

使用人「そうですね。側近様が魔王様の目を持っていないと」

使用人「いくら魔王様でも、身体を乗っ取る事事態無理でしょうし」

側近「……瞳の色だけは変えられない、んじゃ無かったのか」

姫「副作用的な物でしょう……それに」

姫「結果的に、紫の瞳を見たからこそ、 婦の洗脳を解く切欠が出来たでしょうし」

魔王「……力添えでも良かった、んだがな。だが……」

側近「さっきも聞いたぞ。自分の手で……」

魔王「解ってる。そういう気持ちも勿論あった。だが……」

側近「だが?」

魔王「いくら目を持たせたと言え、あのままその私の魔力をお前の体内から引き出し」

魔王「外部から……力を加え続ければ」

魔王「……」

側近「俺の身体が持たない、か」

姫「乗っ取るのも一緒だと思うんだけど」

魔王「身を借りれば体感できるだろう、私が」

魔王「これ以上は無理だと思えば押さえられる」

側近「……いや、俺もどっちもどっちだと思うけど」

使用人「いえ……だからこそ、魔王様は剣を召還されたのでは?」

側近「え?」

使用人「一時の負荷は掛かるでしょうが、あのまま側近様の身体で」

使用人「魔法を使い続けるよりかは……マシでしょう」
0389この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:09:01.76ID:S9vtdSQN
使用人「確かに、どちらも側近様にはリスクが高い。でも……ベストな判断であったと思います」

側近「俺は俺の身体の侭、転移魔法使われたのが一番吃驚したけどね」

魔王「あれだって、要は使い様、だ」

魔王「お前、そもそも昔は回復魔法しか使えなかったんだろう」

側近「え?」

魔王「言ってたじゃ無いか。風の攻撃魔法は、親父に鍛えられたのだろう」

側近「ああ、まあ……」

魔王「私の目を持っている事で、お前の魔力自体は高められている」

魔王「魔力量は充分に足りている。だから……」

姫「使い様、ね」

魔王「……そうだ」

側近「転移で城に戻った俺は、あれだけの力を消費しながら……特に疲労は感じなかった」

側近「それも……お前の魔力が膨張しているから、か?」

魔王「解らん……が、その可能性も否定はできんな」

姫「前例なんて無いんでしょう?だったら……全て推測の域を出ないわ」

側近「まあ、そりゃそうなんだけどよ」

魔王「一番不思議なのは……側近。アレを」

側近「……ああ」シャキン

姫「……!」

使用人「側近様に前もって聞いては居ました、が……これ、は……」

魔王「ぼろぼろだろう。私は……もう、触れん」

姫「どうして?」

魔王「剣に宿る魔力を……吸い上げている様だ」

魔王「触れば……歓喜する」

姫「歓喜……?」

魔王「そうだ。私の細胞が、血が……全てが」

使用人「……」

側近「人が、魔に変じる時の暴走に似ている、な」

使用人「側近様……!」

側近「同じ事考えてたんじゃないのか?使用人ちゃん」
0390この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:09:30.83ID:kgmS25qi
姫「暴走?」

側近「人が魔に変じる時、人としての命を捨て魔として産まれなおすんだ」

側近「細胞の一つ、血の一滴……己の全てが変化する」

使用人「魔王様から与えられた魔力に、新しい力溢れる生命に」

使用人「……全ては、歓喜するのです」

姫「それが……暴走?」

魔王「そうだ。制御出来ねば……理性も持たない獣に成り下がるだろう」

魔王「……例え、魔王である私でも」

姫「そんな……!?」

魔王「可能性はゼロとは言えない。だから……側近に持たせたんだ」

側近「こんだけぼろぼろになりゃ……もう余り残って居ないだろうな」

姫「…… ……殆ど、魔の気なんて感じないわ、その剣から」

側近「……そうか」

魔王「砕け散れば終わりだ。制御する自身は……正直、無い」

使用人「で、でも……!」

姫「魔力が膨張してるなら……押さえ込むことは出来ないの?」

魔王「膨張しているからこそ、危険なんだ、姫」

魔王「歓喜の力が大きければ……それだけ、意識を、理性を持って行かれる可能性が高い」

側近「……さっき、お前に近づけただけで亀裂が入ったな」

魔王「ああ……」

姫「どこか……どこか、遠くに封印する訳にはいかないの!?」

使用人「『私の全てが揃っていれば』……」

姫「え?」

側近「……世代交代する時に、な」

魔王「……」

使用人「?」
0391この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:11:36.66ID:KrG4CZ2P
側近「魔王の剣ってのは、『魔王』の地位と同じで、代々受け継がれて行く」

魔王「私が……『魔王』が使ってこその代物。使用することで、代々の力が」

魔王「剣自体に宿っていくんだ」

側近「魔王様の魔力も、前魔王様の力も、その先代のも……って」

側近「少しずつ蓄積されて行くんだ……だから」

魔王「魔王の剣を扱えてこその魔王。魔力を宿し、それを使役してこその者」

魔王「……これも、私の一部に違いない」

使用人「では、離してしまえば……」

魔王「実際はどうなのだろうな。やってみた訳では無いから解らんが」

魔王「均衡を欠けば……」

姫「ど、う……なるの」

魔王「良くて、今朝までの状態に逆戻り。悪ければ……」

使用人「魔力は暴走し、理性を無くす、ですか」

側近「……俺が戻ったから、均衡が保たれた、と言う訳か」

魔王「あくまで憶測だ。だが……」

魔王「……ここでお前の手を離すと、どうなるか解らない」

魔王「もし、何かがおこったら? ……そんな危険を冒す訳にはいかん」

側近「……『世界の危機』か。確かに、魔王様が理性なんて失えば」

側近「世界は滅ぼされかねん」
0392この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:13:11.23ID:ZbuZxamR
姫「そんな……!」

魔王「姫」

姫「……何」

魔王「魔除けの石を持っているのだそうだな」

姫「あ……!そうだわ、これ、どうしたの、側近」

側近「魔王様にはちらっと話したが、港街に居る神父が作った物だ」

側近「人間なんだが……姫様と同じような力を持っている」

姫「え?」

使用人「感じる力、をですか?」

側近「能力、と言うより……努力の賜だろうな」

側近「随分と徳の高い神父なんだろう」

姫「そう……そうね。これと、ペンダントが無ければ……私は……」

魔王「こんなに傍には居られないだろうな。否、本当は」

魔王「今すぐにでも城を離れた方が良いだろう」

姫「魔王!」

魔王「妻になれと言った。お前は、了承してくれた。姫……だが」

魔王「……ドレスを着せてやる事は、できなかったな」

姫「魔王!!」

側近「まだ策はあるだろう、魔王様」

魔王「何?」

側近「俺がお前に、目を返せば良いんだろう?」

側近「過激派なんてモンももう居ない。心話する必要も無いだろう」

側近「転移の石もあるんだ。お前が動けないなら、変わりに俺が動き回れば良いだけだし」

側近「……支障は無いんだ。だから、返す」

使用人「側近様……」

側近「何時までも、ずっと、お前と手を繋いだ侭とか、厭だ!」

側近「絶対厭だ!断固拒否!」

魔王「側近……」

側近「……俺は、強い力なんていらないんだよ、魔王様」

側近「回復と補助も魔王様には必要無い。雑用で、バタバタ動き回ってる。お前の雑用係が一番心地良いんだよ!……どうせ、こき使うんだろ?これからもさ!」
0393この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:13:45.06ID:CSikmMhf
側近「だから……返すから!」

側近「……せめて、式だけでも挙げてやれ」

姫「側近……」

使用人「……」

側近「始まりの街を復活させるのも、あそこに姫様を住ませる為だろう!?」

姫「え?」

側近「いくらでも走り回ってやるから!大工仕事でも何でもやってやるから!」グスッ

魔王「側近……」

側近「ち、違うぞ!?これは涙とかじゃ無いからな!?」

側近「ちょ、ちょっと瞬き忘れただけなんだから!」

使用人「……何も言ってないのに、誰も。墓穴彫ってます、側近様」

側近「嘘ん!?」

魔王「……側近」

側近「な、なんだよ……」

魔王「ありがとう……だが、無理だ」

側近「何?」

魔王「……初めから戻すつもり等無かったんだ」

側近「へ?」

魔王「否、取り出す事は可能だ。私の身に戻す事もな」

魔王「だが……お前が無事では居られまい」

側近「……」

魔王「私と手を繋いで居るのはそりゃ、厭だろうがな。私だって厭だ」

側近「おい!」

魔王「だが……私は、お前を失う方がもっと厭だ」

姫「……」

使用人「……」
0394この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:14:06.14ID:uyD6ia/d
側近「魔王様……」ス……

魔王「……?」



ゴンッ!



姫「!」

使用人「そ、側近様!?」

側近「全く、お前はああああああああああ!」

魔王「……痛い」

側近「何でそう、あれなの!考え無しなの!」

姫「そ、側近……」

側近「返して貰うつもり無かったとか、俺が無事じゃすまないとかあああ!」

魔王「……結果オーライだろう?」

側近「何処がだ!今すっげぇ困ってるでしょうが!」

魔王「あー。じゃああれだ。無かったら困ってた、だろ?」

側近「言い訳か!言い訳ですか!」

魔王「……そんなに怒るな。ハゲるぞ」

側近「……」ピタ

使用人「魔導将軍や、インキュバスの件で役に立ったのは事実でしょう、側近様」

姫「そうよ。それに……今更どうしようも無いじゃ無い」

側近「……ねえ、俺の味方って居ないの?ねぇ?」
0395この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:14:30.71ID:O8pB4wii
魔王「ドレス……着たいか?姫」

姫「別に人前で着るだけが正しい訳じゃないでしょう?」

側近「……もう、無視されるのにもなれました」グタ

使用人「そうですよ。今、ここで着る事だってできます」

側近「姫様と腕組んでる魔王様と、俺……手繋いでおくの?ねえ、マジで?」

姫「ねえ……これ、駄目かしら?」

側近「え?」

姫「この魔除けの石……魔王の気を落ち着けるのに効果無いかしら」

魔王「どれ……」ス……パリン!

側近「あ」

使用人「え」

姫「あぁ……」

魔王「……割れた、な」

側近「あーあぁ……」

姫「駄目か……」

使用人「姫様……」

姫「ん、大丈夫よ……」

側近「だが、離れた方が良い。使用人、姫様と部屋に戻れ」

魔王「まだ話したい事が……とは、言ってられんか」

側近「俺が聞く。後で使用人に伝えて貰えば良い」

使用人「はい。後ほど伺いに参ります」

姫「……そうね。この子の為には」ナデ

側近「あれ……姫様、お腹大きくなった?」

姫「気がつくの遅いわねぇ、側近……モテないわよ」

側近「そもそもこの状態じゃ無理だから」ギュ

魔王「手を振るな、気持ち悪い」

側近「そろそろ俺泣いて良い?」
0396この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 15:15:07.87ID:uP7oDw0X
姫「じゃあ……戻るわ」

使用人「行きましょう、姫様」スタスタ



パタン



側近「……やっぱ手、その侭?」

魔王「いや、大丈夫だろう」

側近「……信じて良いのか?」

魔王「姫の手前、な」

側近「?」

魔王「離せ…… ……ほらな」

側近「何ともないじゃネェか」

魔王「だが……お前はもう何処にも行くな」

魔王「眠るだけで済めば良いが……保証は無い」

側近「……で、どこ行ってたんだ」

魔王「北の塔だ」

側近「え?」

魔王「あれからすぐに向かった」

側近「……そもそもはお前じゃないよな?」

魔王「違う。確かに……強い力を感じた。古い物だったがな」

側近「ふむ」

魔王「人間にも魔族にも……要するに、誰にも見えん様に封印をやり直した」

側近「……意味は?」

魔王「内部にも入ったが……確かに、始まりの大陸ほどでは無いが」

魔王「私にも息苦しく感じた。と、いう事は」

側近「……?」

魔王「姫には、心地よいのかもしれん」

側近「!」
0397この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:26:25.85ID:kMtO9xFf
魔王「なんと言ったか、あの人間の娘も言っていただろう」

側近「女剣士か」

魔王「……私が動けなくなる前に、あの塔に姫を行かせようと思う」

側近「は!?」

魔王「何だ?」

側近「何だ、じゃネェだろう!?あんな場所に!?一人で!?」

魔王「……」

側近「確かに、あの空気が姫様にあうのならば、大丈夫かもしれんが……!」

側近「生活とかどうするんだよ!姫様一人で……!」

魔王「大丈夫だ。ちゃんと考えている」

側近「まさか……使用人ちゃんを行かせるんじゃないだろうな」

魔王「それは不可能だ。お前が私の傍を離れられない以上……」

側近「……」

魔王「今までのお前の役目は、使用人に任せるしかあるまい?」

側近「じゃあ、どうするって言うんだ」

側近「それに……始まりの大陸を復活させるのは、そもそも姫様の為じゃないのか!?」

魔王「最終的にはな。姫には……あの塔の部屋で、眠って貰おうと思う」

側近「……は?」

魔王「港街の全てがうまくいき、始まりの街や城が大きくなれば」

魔王「……その頃には、私を倒す勇者も育つかもしれないだろう」

側近「…… ……お、お前何、言って……んの」
0398この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:27:00.68ID:Hp5SGygR
魔王「……解っているだろう。私の力は……信じられない程、大きくなっている」

魔王「私には世継ぎも居ない。この力を譲る者は……居ないんだ」

側近「だから……だからって、そう都合良く勇者等出てくる訳ねぇだろう!?」

魔王「そうだな。どうなるかは……私にも解らん。だが」

魔王「……私が、この世界を滅ぼす訳にはいかないのだ。側近」

側近「姫様の為か。産まれて来る……姫様と、人間の子供のためか!?」

魔王「違う……私は、お前に言われて人の子の世界を見、思ったんだ」

魔王「この世界は美しい、とな」

側近「魔王様……」

魔王「親父の先代の魔王の様に、世界を手に入れたいとは思わない」

魔王「親父の様に、人間と手を取り合って生きていく気にもなれん」

魔王「だが……この世界は好きだ。美しいこの世界を守りたいとは思うんだ」

側近「……」

魔王「私が守りたいのは、世界その物だ。確かに姫は大事だ」

魔王「私が……守もりたいと思う、その美しい世界を見せてやりたいとは思う程、に」

側近「……姫様を眠らせておけば、目が覚めた時、その世界を見せてやれる」

側近「そう、言いたいのか?」

魔王「……ああ」

側近「だが、お前は……」

魔王「世継ぎは居ない。力を継承する事もできない。勿論……私を殺す者も、居ない」

魔王「だから、私も……眠りにつこうと思う」

側近「え?」

魔王「私を倒せる者……勇者が産まれる迄、だ」

側近「……可能なのか?」
0399この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:28:05.53ID:TG29Z3Jq
魔王「『願えば叶う』」

側近「……言うと思ったよ」

魔王「姫を眠らせる為に、私はまた膨大な魔力を消費せねばならんだろう」

魔王「……理性がある内に、玉座の間の奥の部屋へ私を連れて行ってくれ」

側近「そこで……自らを封印すると言うのか」

魔王「ああ」

側近「一つだけ、聞いて良いか」

魔王「何だ?」

側近「俺は……どうなる?」

魔王「…… ……正直、解らん」

側近「あ、待て。厭だとか責めてる訳じゃない」

魔王「……」

側近「俺の主はお前だ、魔王様。お前が決めた事ならば、従うのは当然だ」

魔王「側近……」

側近「一緒に眠れと言うのならばそうしよう。だが……」

魔王「……」

側近「その前に、俺に『側近』の地位を降りることを許して欲しい」

魔王「どういう意味だ」

側近「……使用人ちゃんに全てを譲る」

魔王「そうか……」

側近「まだ、もう少し時間はあるんだろう」

魔王「? どういう意味だ?」

側近「ドレスぐらい、着せてやれ、って事だ」

魔王「……ああ」

側近「使用人ちゃんが戻れば……」


コンコン


使用人「失礼致します」カチャ

側近「丁度良いタイミング」フゥ

使用人「?」
0400この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:28:46.48ID:Oul8twgX
魔王「姫は?」

使用人「特にお変わりはなさそうですが……」

魔王「そうか」フゥ

使用人「魔王様の方が、お顔の色が悪いです」

側近「……手短に、話す、使用人ちゃん」

使用人「……はい」

側近「俺は、君に『魔王様の側近』の座を譲ろうと思う」

使用人「厭です」

側近「……はい?」

使用人「厭、です」

魔王「使用人……」

使用人「はい」

魔王「私からも、頼む」

使用人「……」

側近「な、なんで厭か……聞いて良い?」

使用人「魔王様の為でしたら何でもします。ですが……」

使用人「『側近』は、貴方です。貴方しか……居ません」

使用人「私は、今の侭で良いのです」

側近「使用人ちゃん……」

使用人「側近様のお仕事も、何でも引き受けます。ですが……」

使用人「『側近』には、なれません」

魔王「……もう良いだろう、側近」

側近「……ああ」
0401この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:29:23.57ID:z3m7Cwwz
使用人「お話は、以上ですか?」

側近「んな訳ないだろ」

使用人「……ですよね」

魔王「良く聞いてくれ。そして……どうか、姫を説得して欲しい」

使用人「説得?」

側近「頼む。俺は……離れられん」

使用人「……解りました。話してください」



……

………

…………



鍛冶師「良し、これで全部……かな。すみません手伝って貰っちゃって」

海賊「船長の指示だし気にしなくて良いさ。忘れ物ないか?」

鍛冶師「はい!」

海賊「じゃあ先に行くぜ。おら!運ぶぞー!」



アイアイサー!



鍛冶師「元気だなぁ、海賊さん達……」

鍛冶師「さて、と……」

鍛冶師(女剣士は何処に行ったのかな)スタスタ
0402この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:29:56.92ID:lQx48pJO
鍛冶師(あ、居た)スタスタ

女剣士「あ……」

鍛冶師「どうだった?」

女剣士「……」フルフル

鍛冶師「手がかり無し、か……」

女剣士「それらしい奴の姿は誰も見てないって言うんだ」

鍛冶師「うーん……じゃあ、この村には寄ってない、のかな?」

女剣士「で、でも……!」

鍛冶師「北の街からじゃ、ここに寄るほか無いよね、多分」

女剣士「ああ……」

鍛冶師「まあ、ご飯でも食べない?お腹すいたでしょ」

女剣士「いや、アタシは……」グルグル、ギュー

鍛冶師「……」プッ

女剣士「か、金が無いんだ。全部落としちまって」

鍛冶師「解ってるよ、あんな状態だったんだから。奢るからご遠慮なく」

女剣士「でも!」

鍛冶師「ほら、またお腹が返事しちゃうよ?」

女剣士「……ありがとう」

船長「おう、お前らここに居たのか」

鍛冶師「ああ、船長。さっきはありがとう。助かったよ」

船長「ん?ああ、海賊共か。まあ力有り余ってるからな、あいつら」

鍛冶師「これからご飯行くんだけど。船長は?」

船長「何だ、こんなおっさん邪魔だろ」ニヤ

鍛冶師「違うって言ってんのに……一緒に行こうよ」

船長「へいへい。んじゃま、飯だけな」

女剣士「?」
0403この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:32:45.19ID:7CMTEchu
……

………

…………


女剣士「美味しかった……! ご馳走様でした」

鍛冶師「どういたしまして……よく食べたね」

船長「そりゃ、仕方ネェだろうさ。さて……俺も仕事に戻るかな」

鍛冶師「僕も手伝うよ。海賊さんにも世話になったしね」

船長「そいつの人捜し手伝ってやれよ。こっちの手は足りてるさ」

鍛冶師「って言っても、ネェ……」

船長「お前さんの村なんだ、鍛冶師。旅人の女一人で聞き回るよりゃ」

船長「可能性高いだろ?」

女剣士「側近……何処に……」

船長「……ん、お前さん、今なんつった?」

女剣士「え?」

鍛冶師「側近って言う名前らしいんだ、その探し人」

船長「……で、幼い主に、先代から仕えてる?」

鍛冶師「……だよね?女剣士」

女剣士「あ、ああ……」

船長「で?」

女剣士「??」

船長「他には?」

女剣士「回復の他に、風の魔法……強力な魔法を使うんだ。茶の短髪に、緑の瞳の……」

船長「……」

船長(先代……前魔王、か。幼い、てのは魔王の事か?人間のこの女にぼかして話したとすれば、辻褄は合う。それに何より……北の街で側近を下ろしたのは、俺自身だ)

船長「間違いネェ……」

鍛冶師「え?え?」

女剣士「知ってるのか!?」


カチャ


使用人「ああ、良かった。ここにいらっしゃったのですね」
0404この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:33:14.54ID:PXrfjQYY
船長「しょう……使用人!?」

使用人「船にはいらっしゃらなかったので海賊さんに聞いたのです」

鍛冶師「え……船長の知り合い?」

船長「あ、ああ……どうした?手紙は届いたが……」

使用人「その件は解決済みです。あの後、すぐに側近さんは戻られましたので」

女剣士「側近!?」ガタッ

使用人「……そちらの方々は?」

女剣士「お、おいアンタ!側近を知ってるのか!?」

鍛冶師「お……女剣士、落ち着いて!」

使用人「……」

船長「この二人は船の客だ……戻ったなら良かった」

船長「少年の具合は?」

使用人「はい、その事でお話が……」

女剣士「側近は!?側近はどこに居るんだ!」ガシ!

使用人「……手を離して頂けませんか」

女剣士「……ッ」パッ

使用人「貴女と側近さんの関係は存じ上げませんが……後にして頂けますか」

使用人「船長さん、お時間頂けます?」

船長「あ、ああ……そりゃ構わネェが」

使用人「一刻を……争います」

船長「!?」

鍛冶師「あー、えっと、あのさ。取りあえず場所移さない?」

鍛冶師「ここで騒ぐと、ご飯屋さんにも迷惑だし、ね?」

女剣士「……」

使用人「賛成です……船長さん」

船長「……船に来い。そこで聞く」ガタ

船長「しかし、良くここが解ったな?」

使用人「側近さんが、盗賊さんから聞いたそうです。行き先はここだと」

鍛冶師「!?」

使用人「間に合って、良かったです」
0405この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:34:18.44ID:QLekcoVt
……

………

…………



甲板



女剣士「…… ……」ウロウロ

鍛冶師「落ち着きなって」

女剣士「落ち着いていられるかよ!」

鍛冶師「手がかり、見つかったんだからさ」

鍛冶師「……良い風に考えなよ」

女剣士「……」

鍛冶師(あの子……側近、て人だけじゃ無くて)

鍛冶師(盗賊の事、知ってた。僕たちが……船長がこの街に向かっている事を)

鍛冶師(知ってる、聞いたって事は……)

鍛冶師(女剣士の言う、北の街を出た後に、盗賊と会ってるって事になる)

鍛冶師(馬鹿な!どうやったら……北の街から、港街に行けるんだ!?)

鍛冶師(それに……あの子はどこから来た!?)

鍛冶師(こんな時間に港に着く船は無い。船着き場にも、この船しか無い)

鍛冶師(……どういう事だ)

女剣士「……」

鍛冶師「……」
0406この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:34:55.53ID:fz09xU7M
女剣士「……なあ」

鍛冶師「ん?」

女剣士「何の話、してるんだろう」

鍛冶師「……気になる?」

女剣士「ならないのか?」

鍛冶師「ならない」

女剣士「……」

鍛冶師「と、言えば嘘になるな。気になるに決まってる」

女剣士「……ッ だ、だよな!」

鍛冶師「だけど、さ」

女剣士「……」

鍛冶師「……側近、て人は多分、この村には来てない」

女剣士「……うん」

鍛冶師「あれ、意外」

女剣士「え?」

鍛冶師「じゃあ、何処に行くんだよ! ……て、言われると思った」

女剣士「村を避けて行く事は……不可能では無いだろ?」

鍛冶師「そりゃ、まあ。だけど、食料は?体力は?」

女剣士「野営に長けていれば無理では無いぜ」

鍛冶師「ふむ……」

女剣士「食料だって、狩りをすれば」

鍛冶師「……さっき、あの……使用人?て子が言ってただろう」

女剣士「?」

鍛冶師「『盗賊さんが鍛冶師の村に向かったと言っていたと、側近さんに聞いた』」

女剣士「あ、ああ……」
0407この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:35:28.11ID:W/mnGj1z
鍛冶師「それがおかしいんだよ。女剣士に聞いた出発の日とさ」

鍛冶師「僕が船長に船に乗せて貰った時と、時間が合わないのさ」

鍛冶師「……そんなに早く、どうやって北の街から、港街まで行ける?」

鍛冶師「船も定期的に走ってる訳じゃ無い……徒歩でなんて、さ」

女剣士「で、でも!それこそ……不可能じゃ無いか!?」

鍛冶師「一番納得できるのは、君の探している側近と」

鍛冶師「あの子の言う側近が、同一人物で無い……事、かな」

女剣士「そんな……」

鍛冶師「でも、そうじゃ無いと説明が付かないんだよ」

女剣士「港街ってのは、そんなに遠いのか?」

鍛冶師「魔導の街は知っているかい?」

女剣士「……海を渡って、遠い場所にある、てのは」

鍛冶師「その魔導の街のすぐ傍だ」

女剣士「……!」

女剣士「あ、で、でも……船長は知ってるっぽかった!」

鍛冶師「そりゃ、使用人さんと船長の言う『側近』が同一人物だからだろう」

女剣士「……そう、か」

鍛冶師「勿論、さ……わかんないんだけどね」

鍛冶師「でも……そうじゃないと」

女剣士「物理的に説明がつかない、か」

鍛冶師「……」

女剣士「……」スタスタ

鍛冶師「どこ、行くの」

女剣士「あの二人は操舵室に居るんだろう?」

鍛冶師「……え、ちょ、ちょっと!?」スタスタ



……

………

…………
0408この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:36:09.77ID:l0Rdax5m
船長「……ここで良いか」

使用人「はい」

船長「そういえば、俺の手紙は届いたのか?」

使用人「え?」

船長「お前さんからの鳥に同じ様に手紙を足に結んで飛ばしたんだがな」

使用人「そうでしたか。見よう見まねでやってはみたのですが」

使用人「……どこかで、具現化の術が解けたのでしょうね」

船長「届いてない、んだな」

使用人「はい。魔王様の様に……声を乗せる事もできませんでしたし」

使用人「申し訳ありません……手紙には、なんと?」

船長「謝る事じゃネェ。何、癒やしの石を届けるのはもう少し先になるって事と」

船長「側近とは一緒に居ないってだけだ」

使用人「そうですか……やはり、そう簡単には行きませんね」フゥ

船長「魔王は……大丈夫なのか?」

使用人「側近さんが戻られてすぐに、目を覚まされました」

船長「そうか……しかし……」

使用人「……『私の全てが揃っていれば、今はまだ大丈夫』だそうです」

船長「全て?」

使用人「はい。魔王様ご本人、側近さんが持っていらっしゃる魔王様の目」

使用人「それから……『魔王の剣』」

船長「魔王の、剣?」

使用人「はい……魔王様のお力は、信じられない程強くなっています」

使用人「このまま魔力が膨張を続けると……暴走する恐れがあると」

船長「暴走……魔王の魔力が?」

使用人「……理性を保てる間に、姫様を眠らせ、自らの身を封印するおつもりです」

船長「な、に……?」
0409この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:37:12.62ID:PvE8EmpF
使用人「その為の準備の手助けの要請を……お願いに参りました」

船長「俺に、か?待て待て、話が見えん!魔王の封印はともかく、姫を眠らせるってのは……!?」

使用人「……魔王様の望みは、人間との徹底した不干渉」

使用人「ご存じ、ですよね」

船長「あ、ああ」

使用人「……魔王様は、この世界が好きなのだそうです」

船長「……」

使用人「この、美しい世界を守りたい。この美しい世界の続きを」

使用人「姫様に……何れ産まれるであろうお子様に、見せたいのだそうです」

船長「しかし……姫の腹の中の子は……」

使用人「……魔王様の子供では、ありません。ですが」

使用人「私は……私の主は、魔王様です。願われるなら、叶えるのみ」

使用人「魔王様のお言葉は、絶対ですから」

船長「……お前、随分変わったな」

使用人「?」

船長「人から魔族になっても見た目は変わらネェのにな」

使用人「……」

船長「いや、話の腰を折って悪かった」

使用人「魔王様に、世継ぎはいらっしゃいません」

使用人「力を受け渡すべき存在は、居ないんです」

船長「……」
0410この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:37:58.69ID:aKBfW1hW
使用人「港街がうまく街として機能し」

使用人「始まりの街や、城の再建を叶えようと言うのも」

使用人「姫様の為だと……仰っておりました」

船長「それはそうだろうな……だが、時間が掛かる」

船長「確かに、子供を産む頃までに……50年弱、か」

船長「その頃にはどうにかなる、だろうが……」

使用人「いえ……魔王様は、時満ちる迄。ご自分の魔力が尽きるまで」

使用人「……姫様を、眠らせるおつもりなのです」

船長「……どういう、事だ?」

使用人「先ほども言いましたが、魔王様には世継ぎがいらっしゃいません」

使用人「……『魔王』の世代交代は、次期魔王が先代魔王を自らの手で屠り」

使用人「その力を奪い取る事でなされます」

使用人「……では、魔王様の場合は?」

船長「魔族ってのも、力は衰えて行くんだろう?」

船長「不死では無いって言ってたじゃネェか」

使用人「はい。ですが……魔王様の魔力は、この侭では」

使用人「暴走し……恐らく、世界その物を飲み込むでしょう」

船長「な……!?」

使用人「そうなってしまっては、姫様に……美しい世界を、見せて差し上げられない」

船長「ちょ、ちょっと待てよ!その話は……本当なのか!?」

使用人「……絶対にそうなる、と断言は出来ませんが」

使用人「ただでさえ規格外な魔王様のお力が、膨張したお力が」

使用人「……あの方の理性を失った状態で、暴走したら?」

船長「……ッ」
0411この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:39:08.46ID:NLPOda1j
使用人「……ご自分が封印されている間に、『魔王を倒す勇者が現れるかもしれない』」

使用人「だから…… ……ッ」

船長「……しかし、俺に何を協力しろと言うんだ」

使用人「姫様に、ドレスを着せて差し上げたいのだそうです」

使用人「……魔王様が、動ける内に」

船長「そ、そりゃ……いや、うん。それで、何をしろと?」

使用人「前に話したでは無いですか。港街の新しい教会で……」

船長「……」

使用人「魔族の王たる魔王様と、エルフの姫様が結婚式を挙げる」

使用人「……魔王様なら飛びつきそうな話でしょう?」

船長「そう、だな。しかし……」

使用人「姫様にご説明差し上げた時に、姫様が申された」

使用人「願い、です」



……

………

…………



姫「なん、ですって……!?」

使用人「……魔王様は、姫様を北の塔に眠らせるおつもりです、と」

使用人「申し上げました」

姫「ど、どうして!?私は大丈夫よ!?確かに、そんなに時間が無いのは解ってるわ!」

姫「でも、なんで……そんな所で!?」

使用人「魔王様は、美しい世界を姫様に見せたい、と」

姫「……魔王が居て、魔族が居て……人が居て!」

姫「勿論、争いは一杯あるけれど、世界は充分に美しいじゃ無いの!」

姫「ここに居られなくなるのは……解る!解るけれど……!」

使用人「姫様以上に……魔王様に、お時間が無いのです」

姫「魔王に……な、なんでよ!」
0412この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:40:21.28ID:xTonGjm6
使用人「先ほどのお話です、姫様」

使用人「魔王様に、お世継ぎは……もし、魔王様の力が暴走したら……」

姫「そんなの、寝てても起きてても一緒じゃ無いの!」

使用人「……50年」

姫「え……?」

使用人「姫様が、お子様を産むまで、50年程でしょう」

使用人「……姫様は、出産の後」

姫「そうよ。私はどうせ、この子を産んだ後生きられない!」

使用人「産まれたばかりで、放り出されたお子様の生きる世界が」

使用人「混沌に包まれた争いばかりの世界ならどうされるのです?」

姫「!」

使用人「……正直、私に魔王様の本心は分かりません」

使用人「姫様の心に届くお言葉を、告げられる自信もありません」

使用人「ですが……魔王様の、願いなのです」

使用人「『この美しい世界を、姫に見せてやりたい』」

使用人「……『何れ、私を倒す勇者が現れるかもしれない』とも」

姫「……勇者?」

使用人「…… ……はい」

姫「……」

使用人「『魔王』と言うのは、倒される存在……なのかもしれませんね」

姫「それも、魔王が?」

使用人「いえ。私の……勝手な考えです」

姫「魔王は、倒される者……そう」

使用人「……倒す者が姫様のお子様であれば、本望かもしれませんね」

姫「そんなに都合良く行かないわよ」

使用人「……はい」
0413この頃流行の名無しの子垢版2021/02/13(土) 21:50:04.94ID:C0/dH7uD
姫「私が、その北の塔とやらで眠りについて」

姫「魔王は……どうなるの。魔王の魔力で、なんでしょう?」

使用人「ご自身もその侭……眠りにつかれる、と」

姫「自分で自分を封印するの?」

使用人「はい。魔王様を倒す……勇者が、現れるまで」

姫「そんな!だから、そんな都合良く……!」

使用人「『願えば叶う』……貴女の言葉です。姫様」

姫「…… ……」

使用人「……」

姫「わかったわ」

使用人「姫様……」

姫「一つだけ、条件があるわ」

使用人「……なんでしょう」

姫「港街の教会で、式を挙げたいわ」

使用人「姫様……」

姫「魔王は、きっと飛びつくわ!」

姫「……夫婦になるのよ。私達は……!」



……

………

…………



使用人「……」

船長「……」
0415この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 15:39:24.98ID:ONkDRcIT
よほど都合が悪いんだな

こんなことすると逆に目立つぞ
0416この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:33:06.71ID:/UAWZFQK
使用人「教会、まだ完成していないのですよね」

船長「……ああ。資材はこれから運んで帰る所だ」

使用人「魔王様から、お金を預かって参りました」

船長「……助かる。助かるが、な」

使用人「はい」

船長「大丈夫、なんだな?姫も、魔王も……」

使用人「私と、側近さんが着いて参ります」

使用人「……側近さんはどちらにしても、魔王様の傍を離れられません」

船長「『全てが揃っていれば』か……成る程な。お前が来た理由もそれか」

使用人「はい」

船長「解った……早いほうが良いんだろう?」

使用人「できる限り」

船長「良いだろう…… 婦も、魔王に会えるなら喜ぶだろう」

使用人「……」

船長「あいつも、時間がネェからな」

使用人「知って……いらしたのですね」

船長「ああ」

使用人「……そろそろ、よろしいでしょう?」

船長「ん?」

使用人「……」スタスタスタ



ガチャ!



鍛冶師「うわ!」

女剣士「わあ……ッ」



バタ、バタン!



船長「あ!お前ら……!」
0417この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:33:25.00ID:sVJKD/8h
使用人「……どこから、聞いていました?」

鍛冶師「……」

女剣士「……」

船長「呆れた奴らだ……」

使用人「答えて頂けます?」

鍛冶師「……う、美しい世界を、魔王が守りたい、とか」

鍛冶師「か、なぁ?」

女剣士「側近が仕えている幼い主って……魔王なのか!?」

使用人「……船長さん。説明お任せしてもよろしいですか」

船長「……全力で断りたいが、時間が無い、んだよな」

使用人「申し訳ありません」

船長「まあ、仕方ない。これも……料金の内って事にしておいてやる」

使用人「……では、私は他にやる事もありますので、これで」

船長「どうやって帰るんだ?」

使用人「転移石を持ってきています。港街にお戻りになるのは」

使用人「いつ頃でしょうか」

船長「早くて……三週間、かな」

使用人「ではその頃に港街へ出向きます」

使用人「……失礼致します」シュゥン

鍛冶師「うわああああああああ!?」

女剣士「き、消えた!?な、なんで……!?」

船長「……」

船長(説明……俺が、やるしかネェのか……)

船長(側近の事もあるしな……ハァ)
0418この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:33:42.47ID:UG7Nfmhs
船長「あー……」

鍛冶師「船長!」

女剣士「ど、どういう事なんだ!?」

船長「長々と説明するのは面倒臭ェ」

鍛冶師「船長!!」

船長「……し、あれだ。何処まで話して良いか解らんから、まあ」

船長「掻い摘んで話すとだな」

鍛冶師「彼女は……『説明を任せて良いか』と言ってたじゃないか」

船長「……俺に詳しく話せって?」

女剣士「どうして……今の奴は急に消えたんだ!?」

女剣士「あんな魔法は見た事が無い!」

船長「ちょ、黙れお前ら!解った、解ったから!」

鍛冶師「……」

女剣士「……」

船長「ってもナァ、どこから話して良い物やら……」

鍛冶師「彼女は……『魔王』がどうとか言っていたな」

鍛冶師「……魔王の手先、なのか」

船長「せめて仲間と言ってやれ」

鍛冶師「船長!魔王……魔王だぞ!?」

船長「鍛冶師、お前は……少年を知ってるだろう?」

鍛冶師「……? ……魔導の街から劣等種達を救った、港街の『勇者様』か」

鍛冶師「それが何だと……」

船長「その少年が、魔王だ」

鍛冶師「……は!?」

船長「信じられないと言うのなら、この話は終わりだ」
0419この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:34:07.25ID:lLI6dBij
鍛冶師「……ッ」

女剣士「……船長、アタシはどうせ、難しい話は理解できない」

船長「あン?」

女剣士「できないし……港街とか、魔導の街とか、そもそもが良く解らない」

女剣士「一つだけ、聞かせて。側近は……今消えた、あいつの言ってた側近は……」

女剣士「アタシが、探してる側近なのか!?」

船長「……絶対とは言わんが、そうだろうな」

女剣士「……!」

船長「北の街に船が着いて、そこから降りてきた男、だろ」

女剣士「! 何で知って……」

船長「ありゃ俺の船だ。ついでがあったから乗せてやったのさ」

船長「で、その幼い主、ってのが……魔王の事だろう」

鍛冶師「魔王は……まだ子供なの?でも、少年って言うのは……」

船長「いや、そうじゃネェよ。女剣士に説明しようとして……そうなったんじゃネェの?」

女剣士「……先代から今の主まで、仕えていると聞いただけだ」

女剣士「アタシ達が勝手に……勘違いした、んだ」

船長「ま……そうだろうな」

鍛冶師「じゃあ、側近って言うのは……今の、彼女は……」

船長「人間じゃネェよ。魔族だ……二人とも、な」

女剣士「ま、ぞく……」

鍛冶師「……じゃあ、あの街は……港街は……いや……ッ」

鍛冶師「あの街の勇者が、魔王だって言うのか!?」

船長「さっきそう言っただろうが。落ち着け、鍛冶師」
0420この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:34:25.67ID:iA/Dg5WD
女剣士「船長は魔王を知ってるのか」

船長「ん?まあ、そりゃ……」

女剣士「側近は今……魔王と一緒に居るんだな」

船長「ああ……そうだろうな」

女剣士「……」

船長「?」

鍛冶師「……」

船長「……なんだよ、二人揃って黙って。もう良いのか?」

女剣士「側近には何処に行けば会える?」

船長「……やめとけ」

女剣士「何で!」

船長「どうやって魔王の城に行くんだ?場所は知ってるのか?足はどうする」

女剣士「そ、それは、船で……!」

船長「俺は連れてはいかねぇぞ。そもそもお前、渡航代も無いだろうが」

女剣士「……ッ」

船長「俺にはやらなきゃならネェ仕事もある。お前さんをここまで連れてきたのは」

船長「ついで、だ。あんな場所で放って行く程薄情じゃネェからな」

船長「だがな、俺たちも商売でやってるんだ。聞いてたんだろうから、解るだろうが」

船長「使用人からもしっかり代金を頂戴した……俺たちも、食ってかなきゃならねぇ」

女剣士「……か、金があれば連れて行ってくれるのか」

船長「言っただろう。仕事がある。それが先だ」

女剣士「…… ……」

船長「この村から資材を運び、街を作らなきゃならネェ」

船長「使用人からの依頼もある……その後で、きっちり金を払うってんなら」

船長「そりゃお前さんの『依頼』だ」

女剣士「じゃあ……!」

船長「だが、その依頼を受けるかどうかは、わからんぞ」

女剣士「な、なんでだよ!」
0421この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:34:44.17ID:sQ743S83
船長「やめとけ、と言っただろうが……聞いてたんだろ?」

鍛冶師「魔王の世継ぎがどうとか、か」

船長「……」

鍛冶師「そんなにハッキリ聞こえた訳じゃないからあれだけど……」

鍛冶師「魔王は、死にかけてる、のか?」

船長「そうじゃ……いや、解らネェな。だが」

船長「人間が近づいて良い領域じゃネェってのは解るだろう」

鍛冶師「……うん」

女剣士「そんな!」

鍛冶師「でも、港街まで来るんだろう。今の……使用人?は」

女剣士「……!」

鍛冶師「三週間後、だったか」

女剣士「じゃ、じゃあその時に側近を連れてきて貰えば……!」

船長「いい加減にしろよ、お前はガキか!」

女剣士「!」ビクッ

船長「どうやって頼む?それも俺に『頼んでくれ』だろう!」

船長「会いたいのは解った。だがな」

船長「何でもかんでも、思った通りに行くと思うな!」

船長「世界はそんな、都合良く動いてくれネェんだよ!」

鍛冶師「せ、船長……!」

女剣士「……ッ」バタバタバタ……ッバタン!

鍛冶師「あ、女剣士……」

船長「放っておけ……甘いんだよ」

鍛冶師「……」
0422この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:35:02.83ID:ZHuX5x7X
船長「ったく、俺は便利屋じゃネェよ……」

鍛冶師「……あの街の勇者てのは、少年……魔王、なんだな」

船長「あ?ああ……」

鍛冶師「姫、と言うのは?」

船長「魔王の嫁だよ」

鍛冶師「……でも世継ぎじゃ無い」

船長「そこら辺は盗賊にでも聞け」

鍛冶師「え!?盗賊も知って……ああ、そうか」

鍛冶師「……彼女も、勇者……魔王に救われた劣等種の一人、か」

船長「……」

鍛冶師「美しい世界を守りたい、か」

船長「結構しっかり聞いてるじゃネェか」

鍛冶師「必死に思い出してるんだよ」

鍛冶師「……教会を作るんだね?」

船長「あ?ああ……使用人からの依頼だからな」

鍛冶師「……」

船長「なんだよ」

鍛冶師「海賊さん達を手伝ってくる」

船長「は?」

鍛冶師「一人でも多い方が早く済むだろう?」

船長「そりゃそうだが……」
0423この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:35:21.56ID:BlB8+cYy
鍛冶師「女剣士の様子も見てくるよ」

船長「放っておけよ……ちょっと頭冷やさせろ」

鍛冶師「大丈夫」

船長「?」

鍛冶師「だから、さ。一人でも多い方が良いだろ?」スタスタ



パタン



船長「……なんか考えてやがる、な。あいつ……」

船長「ま、良い……」

船長(勇者、か)

船長(あの魔王を倒す、勇者?)

船長(できる訳が無い。そんな奴……現れるはずが……ない)スタスタ、パタン

船長「……おい、野郎共!」

海賊「あいよ、船長」

船長「こっちは俺がやる。資材の積み込み手伝ってこい」

船長「終わり次第出発だ!全速力で港街に戻るぞ!」



アイアイサー!



……

………

…………



女剣士(……側近が、魔族)

女剣士(あんだけ、強いんだ。魔王に仕える奴……)

女剣士(もう、会えないのか……!?)



カチャ
0424この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:36:23.95ID:QnSaX25H
女剣士「!」

鍛冶師「あ、いたいた……何膝抱えてちっさくなってんの」

女剣士「鍛冶師か……放っておいてくれないか」

鍛冶師「会いたくないの?」

女剣士「……ッ 会いたいさ!だけど……!」

鍛冶師「方法が無い?」

女剣士「…… ……」

鍛冶師「そりゃね、そこでそうやってるだけじゃ、何時までたっても会えないよ」

女剣士「じゃ、じゃあどうしたら良いんだよ!アタシは、金も無いし……ッ」

鍛冶師「じゃあ、稼げば良いじゃん」

女剣士「どうやって……!」

鍛冶師「あのさ、自分で考えないと」

鍛冶師「そうやって誰かがやってくれるの待ってても、どうにもならないよ?」

女剣士「…… ……」

鍛冶師「お金が無かったら、稼げば良い。会いたければ会える方法を考えれば良い」

女剣士「……で、でも、どうやって……」

鍛冶師「僕は、応援するっていっただろ?」

鍛冶師「とりあえず……僕の手伝いをしてくれない?」

女剣士「え……?」

鍛冶師「船に港街の資材を積み込むんだ。行くよ」グイッ

女剣士「え、ちょっと!?」

鍛冶師「ほら、さっさとやればさっさと終わる!」

鍛冶師「そうすれば、早く出発できるよ」

女剣士「……」

鍛冶師「身体動かすのは得意だろう?」
0425この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:37:00.72ID:RS6R4Alj
女剣士「そ、そりゃそうだけど……」

鍛冶師「海の魔物にも襲われるんだ。君、腕に自信はあるんだろう」

女剣士「あ、ああ……だけど、アタシは……金が……」

鍛冶師「だから稼げば良いんだって。港街には三週間後、だっけ」

鍛冶師「……さっきの、使用人って子が来るんだ」

鍛冶師「そこで、側近に会える様に頼んでみれば良い」

女剣士「あ……!」

鍛冶師「時間は結構ある。港街の復興の手伝いと、船で戦闘の手助け」

鍛冶師「……ま、魔物退治は給料でるかわかんないけど」

鍛冶師「それから、僕の手伝い」

鍛冶師「……港街までの渡航代は、一端僕が立て替えておく」

女剣士「え?」

鍛冶師「早く終われば早く出発できるし」

鍛冶師「そうすれば、早く港街に着くだろ?」

鍛冶師「で……稼いだ分でさ、返してくれたら良い」

女剣士「……い、良いのか?」

鍛冶師「ああ。足りなければ、それは……僕の依頼分って事で良い」

女剣士「お前の……依頼、と言うのはなんだ?」

鍛冶師「僕も側近に会ってみたいんだ。話を聞きたい」

女剣士「え……?」

鍛冶師「まあ、使用人でも良いんだけどね」

女剣士「??」

鍛冶師「その話はおいおいするよ。とりあえず、さっさとやっちゃおう!」

女剣士「……あ、ああ!」



……

………

…………
0426この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:37:16.61ID:rKNBXRLV
使用人「……」シュゥン、スタ

姫「おかえりなさい、使用人」

使用人「姫様……ただいま、戻りました。が……あの、何を?」

姫「見ての通りよ。庭のお手入れ」

使用人「お体は……?」

姫「土いじりは、前に魔王がやってくれたわ。簡単な植え替えや選定ぐらいなら」

姫「大丈夫……疲れたら、休んでるし」

使用人「そう、ですか」

姫「……不思議ね」

使用人「え?」

姫「側近が持って帰ってくれた魔除けの石は割れてしまったのに」

姫「……魔王の魔力は、落ち着いている」

使用人「それでも……」

姫「ええ、解ってるわ。傍には寄らない、し……離れた部屋で大人しくしてる」

使用人「……はい」

姫「ごめんなさいね、無茶言って」

使用人「はい?」

姫「教会の事」

使用人「大丈夫ですよ。船長さんにしっかり頼んで来ましたから」

姫「そう……ありがとう」

使用人「陽が落ちれば冷えます。お部屋に戻られた方が……」

姫「そうね……今日はこれぐらいにしておくわ」

使用人「では、あの本お持ちしますね」

姫「……見つかった前編、ね」

使用人「ええ。まさか側近様が持って帰ってくるとは思いませんでしたね」

姫「盗賊が持ってたんですっけ……魔王が、持ち出してたのね」
0427この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:37:32.04ID:4Eov94+L
使用人「明日、港街へ行ってきます」

姫「え?」

使用人「教会の完成まではもう少し掛かるでしょうが……」

使用人「魔除けの石を、作って頂いてきます」

姫「……貴女も、疲れているでしょうに」

使用人「名こそ頂きませんでしたが……側近様の変わりですから」

姫「……」

使用人「式を挙げるには、必要でしょう?」

姫「……そう、ね」

使用人「本を取りに行って参ります。姫様はお部屋でお待ちを」

姫「魔王に近づいて、大丈夫?」

使用人「側近様が戻られましたから大丈夫ですよ」

使用人「……本をお持ちしたら、食事の準備をしますね」

姫「ええ……解ったわ」
0428この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:37:52.50ID:gwK9dZJw
……

………

…………



側近「チェックメイト」

魔王「ま、待て!」

側近「待たネェよ……お前、本当に弱いな」

魔王「糞……もう一回だ!」

側近「またぁ?」



コンコン、カチャ



使用人「失礼致します……何やってるんです?」

側近「おう、使用人ちゃんか」

魔王「ほら、側近早く!」

使用人「……お食事、お持ちしましたけれど」

使用人「飯だってよ、魔王様」

魔王「……食ったらもう一度だ」

使用人「チェス、ですか……」

側近「いやぁ、魔王様……びっくりするぐらい弱くてな」

魔王「うるさい!」

使用人「暢気ですね……ああ、そうだ側近様」

側近「いや、だってやる事無いんだもん。ん?」

使用人「持ち帰られた本、お借りしてよろしいですか?」

側近「ああ、良いだろう……なあ?」

魔王「ん?ああ……好きにしろ。使用人が読むのか」

使用人「私も拝見しますが……姫様が」

側近「そりゃ、暇つぶしも必要だわな」

使用人「それから、私は明日港街に向かいます」

魔王「さっき帰ったばかりだろう?」
0429この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:38:10.69ID:YlCMOeLd
使用人「ご存じでしたか」

魔王「気配を感じたからな」

側近「船長には無事に会えたんだろ?」

使用人「はい。三週間位で、港街に戻ると言うお話でした」

魔王「明日、は何故だ?」

使用人「魔除けの石を準備して頂こうかと」

使用人「後……諸々」

魔王「そうか」

側近「玉座の間の奥の部屋の様子も見ておいてくれるか?」

使用人「はい……準備は整えておきます」

魔王「……姫の様子はどうだ」

使用人「庭いじりをされて居ましたよ」

魔王「そうか……何か必要なものがあれば、揃えてやってくれ」

使用人「はい。では失礼致します」

使用人「お食事が済んだ頃に、また参ります」

使用人「……本、お借りします」



スタスタ。パタン



側近「……甘やかし過ぎじゃネェの。今に始まった事じゃ無いけど」

魔王「姫か」

側近「他に誰が居るの」

魔王「仕方あるまい。あの……エルフの森の傍で、会ってしまったからな」

側近「惚れるなよ、て何度も言っただろ?」
0430この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:38:28.64ID:dh/9vTwi
魔王「阿呆。そんなんじゃ無いって言ってるだろう」

側近「じゃあ、何なんだよ」

魔王「……なんだろうな」

側近「好きなんじゃ無いのか?そりゃ、最初は利用するつもりだったのかもしれんが」

側近「……妻の座に、今……態々、つける理由は何なんだよ」

魔王「姫は、私の為に嘘を吐いた」

側近「ん?」

魔王「エルフは嘘を吐けない。本当になってしまうから」

側近「……」

魔王「魔導の街で、盗賊に問われた時に」

魔王「あいつは、怪しまれない為に……私達は夫婦だと。そう言ったんだ」

側近「だから、叶えてやらなけりゃならん、てか?」

魔王「姫は大事な存在だ。だが……それが愛かと問われると肯定はできん」

側近「否定もできない、てか」

魔王「できるだけの事はしてやりたい。巻き込んでしまった責任はあるだろう」

側近「向こうも好きでついてきたんだろ。責任は半々じゃね」

魔王「……反対なのか?」

側近「そうじゃネェよ。言っても聞かない、てのも解ってるけどな」

側近「お前の命令は絶対だ、魔王様」

側近「それが、俺の意思だ。使用人ちゃんも同じだと思うぜ?」

魔王「……おかしな話だ」

側近「ん?」

魔王「元人間のお前達が……私の一番傍に居る、とはな」
0431この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:38:50.96ID:lYxDB8lk
側近「……」

魔王「物心つく頃には、お前が居たからな」

魔王「まさか元人間だとは思わなかったが」

側近「お前は本を読むのも好きだったしな。何時か聞いてくるだろうと思ってたんだよ」

側近「それが、俺に回復されても『ありがとう』だけだしなぁ」

魔王「側近は側近だからな。元が人間であろうが、何だろうが別に気にならん」

側近「……そうか」

魔王「一ヶ月、程か」

側近「ん?」

魔王「……姫と、港街に出向くまで、だ」

側近「それまで、無茶はすんなよ。折角なんだから」

魔王「解ってる」

側近「……こんなのんびり出来る様になる時が来る、方が」

側近「俺にはびっくりだよ」

魔王「何時も忙しそうだもんな、お前」

側近「誰の所為だと思ってんだよ!」

魔王「親父も、一緒だったか?」

側近「……俺に勝ったら教えてやるよ。ほれ」

側近「もう一回勝負するんだろ?」

魔王「良し……次は負けんぞ!」



……

………

…………



姫(光に選ばれた運命の子、勇者……が、魔王を倒すお話、ね)ペラ

姫(結構なボリュームがあるのね……全部読むのは、時間が掛かりそう)ペラ
0432この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:39:28.51ID:6HKElwpE
姫(……『少年は、王の部屋と言うには粗末な装飾で飾られた部屋へと通された』)

姫(『道中、ちらと見た外観も、お世辞にも立派とは言えず、内部の廊下も』)

姫(『豪華と言うには物足りない物だった。塵一つ落ちていないのは流石、掃除が行き届き』)

姫(『清潔に保たれている様子は見て取れたが、これが所謂王城かと思うと』)

姫(『少年の心に、小さな不安が浮かぶのも無理はなかった』……)


コンコン


姫「はい?」

使用人「失礼致します、姫様」カチャ

姫「ああ……もう、行くの?」

使用人「ええ、何かご用はありますか?」

姫「いいえ……大丈夫よ。ある程度の事は自分でするわ」

使用人「食事の支度などは、使い魔に言いつけてあります」

使用人「数日で戻るつもりですが……」

姫「解ったわ……私は、この本読んで暇つぶしてる」

使用人「……雨、早くあがると良いですね」

姫「そうね。そしたら、庭に出れるんだけど」

使用人「なるべく早く、戻ります。くれぐれも無理はなさいません様に」

姫「ええ……気をつけて行ってらっしゃい」

使用人「はい。それでは失礼致します」


カチャ……パタン


姫「……」

姫(どこまで読んだかしら……ええと)

姫(『少年は先日、15歳の誕生日を迎えたばかりだった』)

姫(『母親手作りのケーキと、普段より贅沢な食事。そして』)

姫(『笑顔で告げられる、お誕生日おめでとうの言葉が少年の心を満たした』)

姫(『母親から常に言い聞かされてきた、勇者の二文字も』)

姫(『この時の少年には、誇らしく感じられるばかりだった』)
0433この頃流行の名無しの子垢版2021/02/15(月) 23:40:02.36ID:TC8su1lJ
……

………

…………



シュウン……スタ!



使用人「ここは……」キョロ

使用人(ああ、港の外れ……ですか)

使用人(丘の上……と、側近様言ってましたね)スタスタ

 婦「こちらでよろしいですか、神父様」

神父「ええと……はい、そうですね。後……む?」チラ

神父「……!」

使用人「……」ペコ。スタスタ

 婦「まあ、少女……いえ、使用人さん、でしたね、今」

使用人「お久しぶりです。 婦さん」

神父「使用人……さん、貴女が、ですか……」

使用人「貴方が、魔除けの石を作られたのですね?」

神父「側近さんから、お聞きになった、のですね」

使用人「はい……使用人と申します」

神父「元人間で……今は魔族になられたと言う」

神父「……魔導の街の出身の方」

使用人「……そうです」

神父「…… ……神父、と申します」

 婦「どうしたのですか、使用人さん……今日は、側近さんは?」

使用人「側近様は……魔王様の傍から離れられません」

 婦「え?」

使用人「……盗賊さんは、どこにいらっしゃいますか?」

 婦「街の方に居ると思います。毎日……忙しく走り回っていらっしゃいます」

 婦「それより、あの……魔王様は、どう……?」

使用人「……ご説明の前に、盗賊さんを呼んできて頂けませんか?」
0436この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 00:58:43.85ID:wHoks+MV
使用人「お使いだてして申し訳ありませんが、余り……私の様な者が」

使用人「街へ行かない方が良いでしょう」

神父「私が、呼んで参りましょう」

 婦「あ、いえ、私が……」

神父「……お知り合い、でしょう?」

神父「どうぞ、お話していてください。すぐに戻りますよ」スタスタ

使用人「ありがとうございます……すみません」

 婦「あ、あの……」

使用人「今日は、お願いがあって参りました。神父さんと…… 婦さんに」

 婦「私にも、ですか?」

使用人「詳しくは、二人が戻られ次第お話します」

使用人「……お加減は、如何です?」

 婦「……特に、変わりはありませんよ。皆様、良くして頂いて居ます」

使用人「そうですか……良かった」

 婦「……」

使用人「そんなに、不安そうな顔をしないで下さい。今現在、魔王様は元気ですよ」

 婦「あ……す、すみません」

使用人「……」

 婦「姫様は……?」

使用人「少し、お腹が目立って来ましたね」

 婦「もうすぐ……いえ、随分、時間が掛かるのでしたね」

使用人「そう……ですね」

 婦「……」

使用人「……」

使用人「……魔除けの石、は」

 婦「え?」

使用人「神父さん、が作られたのですね?」
0437この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 00:58:55.99ID:pk9yoYug
 婦「え、ええ。そうです。私では……あんなに、清浄な物は……」

使用人「すぐに、作れるのですか?」

 婦「随分、体力を使われますから……どうでしょう」

 婦「こんな言い方をしては随分偉そうですが、凄く上手になられました」

 婦「コツも掴まれたようですし……」

使用人「そうですか……」

 婦「この分では、数ヶ月すれば出荷できるかも知れませんね」

 婦「神父様は、商売にするのは嫌がっておいでですが……あ」



盗賊「ほら、神父さん、早く!」パタパタ

神父「さ、先に行ってください、盗賊さん……」ハァハァ



使用人「相変わらずですね」クス

 婦「……貴女は、変わりましたね」

使用人「え?」

 婦「見た目こそ……変わらないけれど」

 婦「……」

使用人「船長さんにも言われました」

 婦「今の環境が、あっているのでしょうね」

使用人「そうかも知れませんね」

盗賊「少女ー!ひさしぶりだな!」ダキッ

使用人「……ッ お久しぶりです、盗賊さん。私は……今は、使用人と言う名です」

神父「はあ……お待たせしました」

 婦「だ、大丈夫ですか、神父様……盗賊、もう……!」

神父「いえいえ、平気ですよ……喜ぶ気持ちも分かります」

盗賊「珍しいなぁ、しょ……えっと、使用人か」

盗賊「側近はどうしたんだ?」
0438この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 00:59:14.08ID:ydEugBvT
使用人「……」

盗賊「使用人?」

使用人「側近様は、今……魔王様の傍を離れられません」

盗賊「え?」

神父「先ほども仰ってましたが……どういう意味です?」

神父「それに……その話は、私達が聞いて良い物なのですか」

 婦「使用人さんは、私と神父様にお願いがあって来たと……仰いましたね」

使用人「はい。側近様から、貴方達にある程度の話はしたと聞いています」

使用人「知識があるとの前提でお話しします」

使用人「……魔王様の力は、あり得ない程強くなっています」

盗賊「それが……側近とどう……?」

使用人「側近様は魔王様の目をお持ちです。魔王様曰く……」

使用人「『私の全てが揃えば、大丈夫』なのだとか」

盗賊「それで……城から出れないのか。姫は大丈夫なのか?」

使用人「今はまだ、ペンダントがあります。ただ……魔王様の様子を考えると」

使用人「備えがあれば安心かと思いまして」

神父「魔除けの石をご所望、ですか」

使用人「はい……以前頂いた物は、魔王様が触れた途端に……」

神父「まさか……壊れた?」

使用人「はい。 ……申し訳ありません」

 婦「……」

神父「いえ……謝る必要はありません。そう、ですか……」

盗賊「この間、側近が癒やしの石持って帰ったろ?」

使用人「……癒やしの石では、もう役に立たないのですよ」

盗賊「え!?」

使用人「城にある半分以上が、紫に染まってしまい」

使用人「もう……役に立たないのです」
0439この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 00:59:36.43ID:hZe+SCcf
神父「なんと……」

使用人「……このまま、魔力が膨張し、もし……暴走でもすれば」

盗賊「そ、そんな事になったら、姫は……!」

使用人「姫様だけではありません……世界が、終わります」

 婦「……」

神父「……世界が、終わる」

盗賊「な、なんでだよ!?そんな……!」

使用人「そういう可能性もある、ですが」

 婦「それで……姫様を守る為に、魔除けの石を?」

使用人「それだけではありません。もしかしたら、魔王様のお力を」

使用人「押さえる事もできるか……と」

神父「ふむ……」

盗賊「で、でも……壊れた、んだろう」

使用人「数の勝負、になりますが……」

神父「世界の破滅、等と聞かされてしまうと拒否する事もできませんね」

使用人「……解っていて申し上げている事は否定致しません」

盗賊「そんなに、悪い、のか。いや、悪いとかじゃネェじゃ」

盗賊「ええと……」

使用人「勿論、癒やしの石もお願いしたいんです。本当に……」

使用人「気休めにしかならないんですが……」

神父「しかし、私も歳です。それ程量産できる訳ではありませんよ」

神父「時間も、掛かります」

使用人「数日はお世話になります。宿はある……のですよね?」

盗賊「うちに泊まれば良いさ。 婦も……良いよな?」

 婦「え、ええ……それは、勿論」
0440この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:00:55.49ID:GB/l4okZ
使用人「ありがとうございます。それから……船長さんにはもう伝えたのですが」

盗賊「え……船長に会ったのか?」

使用人「ええ、こちらに来る前に、鍛冶師の村に寄って参りました」

盗賊「! そ、そうか……」

使用人「ここの教会の完成を急いで貰う為です」

神父「この? ……何故です」

使用人「魔王様と、姫様が……ここで、式を挙げられるのだと」

 婦「結婚式、ですか……」

使用人「はい……姫様のご希望で」

神父「……成る程。それも、貴女がここに来られた理由、ですか」

使用人「はい」

神父「失礼ながら。魔王にしてもそうですが……貴女も、側近さんも」

神父「どうして、その姫さんに……そこまで」

使用人「……私と、側近様は『魔王様が望まれるから』でしょうね」

神父「主だから、ですか」

使用人「はい」

神父「……主は絶対、ですか」

使用人「はい」

神父「……」

使用人「魔王様は……式の後、とある場所に姫様を眠らせると仰られています」

 婦「え……?」

使用人「その後、ご自分も封印の為、眠りに着くおつもりです」

神父「何故……ですか。何故そのような……」

使用人「長い月日が流れれば、ご自分を倒してくれる勇者が現れるかもしれないと」

 婦「!」

使用人「そうすれば、その後、姫様に……産まれて来るお子様に魔王様が好きだと言う……美しい世界を見せてやれるから、と」

盗賊「……」

神父「その子供、と言うのは……魔王の子では無いと側近さんから聞いていますが」

使用人「ええ……魔王様の世代交代の事は?」

神父「聞きましたよ。力を継承していく、のですよね?」
0441この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:01:14.67ID:aghSG0KN
使用人「はい……世継ぎが居ない以上、魔王様を倒せるであろう者は」

使用人「今の段階では居ないのです。それこそ……勇者様でもお生まれにならないかぎり」

神父「……」

盗賊「……」

 婦「……」

使用人「……」

神父「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。少し……話は逸れますが」

使用人「え?ええ……なんでしょう」

神父「魔王の属性というのは……何なのです?」

神父「紫の瞳を持ち、様々な属性の魔法を使えると聞いております」

盗賊「それは確かだ。魔王は……魔導将軍を殺す時、姫の姿で……」

盗賊「……俺は間近で見てた。ありゃ……なんて言うか……」

使用人「規格外、ですか」

 婦「……」

使用人「側近様にも、聞かれたのかもしれませんが」

使用人「解りかねます、としか……」

使用人「しかし、優れた加護はお持ちにならないそうですよ?」

神父「え!?魔王……なのに、ですか」

使用人「姫様から聞いただけ、ですが……嘘では無いでしょう」

盗賊「そうだな。エルフは嘘は吐かない」
0442この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:01:40.79ID:HC7hkAEQ
神父「そうですか……そういえば、以前聞きそびれましたね」

神父「魔王、と言うのは……代々、紫の瞳をし」

神父「属性に縛られない存在、なのでしょうか」

使用人「……私には、わかりません。側近様ならご存じかも知れませんが」

 婦「あの方は、先代様にも仕えていらっしゃったのですよね」

使用人「はい」

盗賊「……わかった、て」

使用人「はい?」

盗賊「解った、て納得しなきゃ行けないのか!?」

 婦「盗賊……」

盗賊「折角……折角、軌道に乗ってくるって時に!」

盗賊「遊びに来るって、約束したのに……!」

 婦「……では、その約束を守って頂くためにも」

 婦「協力、すれば良いでしょう」

神父「 婦さん……」

 婦「私からもお願い致します、神父様」

 婦「……結婚式を、挙げさせて差し上げてください」

神父「……」

使用人「お願い致します」

盗賊「……俺、手開いてる奴探してくる!」タタタッ

神父「あ、盗賊さ……!」

使用人「……」

 婦「……」

神父「…… ……別に、反対する気はありませんよ」

 婦「神父様……」

神父「 婦さんは、よろしいのですか。貴女は……」

 婦「良いのです」

使用人「……」
0443この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:02:21.88ID:zzU3aGfA
 婦「魔王様の望みだと言うのであれば、私は……」

 婦「……良い、のです」

神父「やれやれ……」スタスタ

使用人「神父さん……何処へ?」

神父「私からもお願いして参りましょう。一人より二人、です」スタスタ

 婦「……」

使用人「……ありがとうございます」

 婦「……使用人、さん」

使用人「はい?」

 婦「私に……魔除けの石……と、呼べるかどうか解りませんが」

 婦「作らせていただけませんか」

使用人「え?」

 婦「神父様は、私にも魔除けの石を作る様仰っておられました……最初は」

使用人「最初、ですか?」

 婦「はい……私は、神に仕えると言いながら」

 婦「心に崇めるのは……ずっと、魔王様でした」

使用人「……」

 婦「私の、神。 ……それに、私はインキュバスと交わって居ます」

 婦「寿命も、残り少ない。そんな事を理由に……断っていたのです」

使用人「神父さんはご存じなのですね」

 婦「ええ。こんな私の作った石では、神聖である筈がありませんから」

 婦「神父様は……否定はされませんでしたよ」

 婦「そんな事無いと、言ってはあげたい……とは、言って下さいましたけれど」

使用人「……」

 婦「でも、だからこそ」

 婦「……魔王様を想う、私だからこそ」

 婦「魔王様のお力を押さえるのに、お役に立ちませんか?」
0444この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:03:21.32ID:Kd/Kojm4
使用人「……何時言おうか、と考えて居ました」フゥ

 婦「え?」

使用人「同じ事を、こちらからお願いするつもりだったのです」

使用人「貴女は、魔王様の為にとお願いすると断らない事は……明白ですから」

 婦「……城の書庫で、貴女には見られていましたね」

使用人「それだけじゃありませんよ。 婦さんを見ていれば……魔王様を慕っている事は解ります……娼館に居る時から、でしょう」

 婦「ああ……そう、ですね。魔導将軍に傷付けられた時」

 婦「看てくれて居たの……貴女、だった」

使用人「魔王様は……貴女の勇者様でしょう」

 婦「……はい」

使用人「私が言うのはおかしいのだという事を承知で、聞きます」

使用人「良いんですか?」

 婦「お役に立てるのでしたら、喜んで」

使用人「寿命を削りますよ」

 婦「元より……それほどの時間もありません」

使用人「インキュバスの元から帰ってきた時点で、一年です」

使用人「……もし、石を作れば……貴女は……」

 婦「すぐに、とは思いません。ですが……」

使用人「……」

 婦「良いんです。魔王様は、私の主。私の……勇者様」

 婦「同じですよ、使用人さん」

 婦「魔王様の為ならば……喜んで、差し出しましょう」

使用人「……」

 婦「使ってください。魔王様の為に」

 婦「……美しい、世界の為に」グッ

使用人「!  婦さ……!」

 婦「う、ぅ……ッ」コロン……フラ

使用人「……!」ガシ!

 婦「……魔王様。願えば、叶う……ん、です……よ、ね……」

使用人「 婦さん!」
0445この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:03:45.56ID:xRfpcOQ3
使用人(……気を失っている、だけか。良かった)

使用人「盗賊さんの家に……ッ」

使用人「……ありがとうございます。 婦さん」スタスタ



……

………

…………



船長「……はあ」

女剣士「お願いします!」

鍛冶師「僕からもお願いします」

船長「資材の運び込みと、魔物退治の報酬は微々たるモンだ」

女剣士「船長……」

船長「港街に着いたら、こき使うぜ。女であろうとも、だ」

女剣士「も、勿論だ!体力だけには自信ある!」

船長「心配しなくても頭が切れるタイプには全く見えネェよ」

鍛冶師「船長!」

船長「事実だろ……向こうでの労働の報酬は、後日盗賊から受け取れ」

船長「鍛冶師、渡航代は二人分で……」カキカキ

船長「こんだけ、だ」

鍛冶師「立て替えるだけだ。後できっちり、返して貰うからね?」

女剣士「勿論だ……ありがとう……!」

鍛冶師「良し……じゃ、これで」

船長「ん……きっちり頂いたぜ。良し、すぐ出発だ」

船長「船室には海賊に案内させる」

女剣士「アタシは甲板にいる!魔物に備えるぜ!」タタタ

船長「……落ち着きの無い女だな」フゥ

鍛冶師「ありがとう、船長」

船長「人手はあって困るもんじゃ無い……しかし、お前も本当に物好きだな」
0446この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:04:04.36ID:tA7/xfUj
鍛冶師「魔王の仲間、なんだろう。側近ってのは」

船長「……お前、まさか」

鍛冶師「……」ニッ

船長「魔法剣か! ……なんか企んでやがるとは思ったが」

鍛冶師「利があるならこれぐらいの出費、痛くはないさ」

鍛冶師「まあ……約束は守ってくれるだろうしね、女剣士も」

船長「応援したいとか言ってたくせに、お前は……」

鍛冶師「別に嘘じゃないよ。気持ちは分かるもの」

船長「恋する女の気持ちが、か?」

鍛冶師「……村に来る前に、さ」

船長「?」

鍛冶師「盗賊に……告白したんだ」

船長「は?」

鍛冶師「は、て……」

船長「盗賊に……何をだよ」

鍛冶師「こ、告白って言えば一つしかないだろ!?」

船長「…… ……あ! ……そういえば、お前ら二人揃って顔マッカにしてたな」

鍛冶師「船長……意外と鈍いんだな」

船長「だから、人の色恋なんざ興味ネェって!」

船長「しかし、まあ……お前が盗賊を、ネェ……」

鍛冶師「……別に、良いだろう。良い子だよ、盗賊は」

船長「悪いとは言ってないだろ、良いよ何でも……そんなもん」

船長「なんだ、じゃあ……付き合ってんのか?」

鍛冶師「返事は……まだ貰ってない」

船長「へ!?」

鍛冶師「引っ越しの準備をしたら、港街に戻るから」

鍛冶師「そしたら、聞かせて貰う」
0447この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:04:27.34ID:wSJ0NWmM
船長「な、お前……返事もわかんねぇのに、引っ越すのか!?」

鍛冶師「な、何か厭じゃないか!成功したら引っ越しますとか!」

鍛冶師「振られたからって、引っ越しやめる気は別に本当に……無かったし」

船長「はぁ……」

鍛冶師「港街は港街で、気に入ってるんだよ!そ、それに……」

鍛冶師「それだけ……本気なんだよ!僕は!」

船長「お、おう」

鍛冶師「……」

船長「いや、うん……頑張れ……」

鍛冶師「も、もう頑張った後なの!」

船長「いや、まあ……そうか」

鍛冶師「ぼ、僕も部屋に戻るよ!」スタスタ

船長「あ……待て、鍛冶師!」

鍛冶師「な、何?」

船長「……ちょっと相談があるんだが」

鍛冶師「相談?」

船長「今の話で、ちょっとな……思いついたんだが」

鍛冶師「?」

船長「お前さ……始まりの街に住む気はネェか」

鍛冶師「え!?」

船長「港街が気に入ってる、てのは解ってる」

船長「……まあ、そろそろ町長の選出とかもあってだな」

鍛冶師「町長……」

船長「そうだ。俺も含め、住人の殆ども盗賊を押してるんだが」

船長「あいつは断固拒否、なんだ。『俺の器じゃネェ』ってな」

鍛冶師「……盗賊らしいね」
0448この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:04:49.70ID:AmNHSkQD
船長「実際、あいつは腰軽いからな。魔導の街との交渉役なんかも」

船長「やってくれてるしよ」

鍛冶師「……始まりの街、てのは魔王に言われたからか?」

船長「それもネェとは言わんが……船での流通の範囲を拡大したいってのもある」

船長「定期便も増やしたい。俺や、船の仲間の為にも、な」

鍛冶師「ふむ……けど、それと僕が始まりの街に住むのと」

鍛冶師「何の関係があるんだ?」

船長「始まりの街を本当に再興しようと思えば」

船長「指導者が必要だ。港街を別の人間に任せられるなら」

船長「盗賊の身も、あくだろう?」

鍛冶師「……いや、だから」

船長「だからお前と、盗賊で……だ」

鍛冶師「は!?」

船長「ま……お前らがうまくいったら、て前提だがな」

鍛冶師「……」

船長「別にすぐ答えを出せとは言わネェよ……考えといてくれ」
0449この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:05:08.27ID:ecH8fMlA
鍛冶師「でも、僕は……」

船長「港街が気に入ってる、だろ? ……解ってるよ」

鍛冶師「いや、そうじゃない。それもあるけど」

鍛冶師「盗賊はともかく、だ。僕にこそ、そんな人を纏める、だなんて……」

船長「それは盗賊の仕事だ。お前には……ま、そうだな」

船長「縁の下の力持ち、て奴?」

鍛冶師「……要するに、盗賊を説得しろと言いたいのか」

船長「頭の良い奴は話してて助かるね」ニヤ

鍛冶師「……船長こそ、そういうのに向いてるじゃないか」

船長「俺?」

鍛冶師「そうだよ。なんだかんだ言って、率先して動いてるのも指示出してるのも」

鍛冶師「船長だろう……勿論、盗賊の力もあるんだろうけどさ」

船長「俺は海賊だ。海賊は陸に上がらネェ」

船長「死ぬ時も海の上が良い……それに」

船長「俺がまとめるのは海賊共だ。率いて行くのも、だ」

鍛冶師「……」

船長「それも陸の上の事を任せる奴が居ないと、立ち行かネェだろ?」

鍛冶師「……考えておく」

船長「おう。だが、忘れるなよ?」

鍛冶師「?」

船長「お前さんには断る権利もある。盗賊にもな」

船長「この話は……俺の理想、だ」

鍛冶師「……やっぱ優しいね、船長は」

船長「買いかぶるな。俺たち海賊共の未来の利を考えてるだけさ」
0450この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:05:30.52ID:mqEiMV+7
……

………

…………



姫(『おめでとう。どこか複雑な笑顔で少年に祝いの言葉を告げる、母親の顔を思い出す』)

姫(『この日をどんなに夢見たか。お前が立派な男になって、旅立つ日が待ち遠しかった』)

姫(『笑顔で行ってらっしゃいを言わなきゃいけないのに、おかしいな。母さん……』)

姫(『何だか、目の前が曇ってる』)

姫(『……そう言って、母親の頬に涙が伝ったのを思い出す』)

姫(『少年は一つ、震えるため息を落とした。母親は寂しいとも告げた』)

姫(『立派な勇者になって欲しい。だけど、とても寂しい……と』)フゥ

姫「……雨、強くなって来たわね」



コンコン



使い魔「姫様、失礼致します」

姫「ええ……何?」

使い魔「そろそろ休まれた方がよろしいかと」

姫「え、そんな時間……? 解ったわ、ありがとう」パタン

使い魔「いえ。何かありましたら、お声をおかけください」

姫「……魔王と、側近は?」

使い魔「扉の前までお食事を運びには行くのですが……中までは……」

姫「今は大丈夫……て、言っても怖いわよね」

使い魔「……申し訳ありません」

姫「あ、ごめんなさい、責めてる訳じゃないのよ」

使い魔「はい……では、失礼致します」カチャ……パタン

姫「使用人、濡れて無いと良いけど……」

姫(続きは明日……ね)
0451この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 01:06:06.46ID:tr/3ObfV
……

………

…………



神父「全く、無茶をする……」フゥ

使用人「申し訳ありません」

盗賊「 婦……大丈夫なのか?」

使用人「……」

神父「力の使いすぎ、と言う奴でしょうね……貴女が謝る事ではありません」

神父「ありません……が、使用人さん」

使用人「……はい」

神父「ある程度、事情は理解しています。が……私には意見する権利もあると思っています」

使用人「……」

盗賊「神父さん!」

神父「別にね、怒ったり反対したり……では無いのです、盗賊さん」

神父「事情を理解しているつもり……そう、言いましたが」

神父「だからといって、納得はできないのですよ」

使用人「ご尤もです」

盗賊「……」

神父「勿論、 婦さんの望みではあったでしょう。それをどうこう言う権利は私には無い」

神父「ですが……気にしなくて良いですよ、とか」

神父「私には、言って差し上げられないと言うのは、理解してください」

使用人「解っています」

神父「お会いして……そう長い時間ではありません」

神父「ですが、ね。娘の様に思っているのです」

神父「ましてや……今まで、苦労されてきたのです。辛い目にも……遭われてきた」

盗賊「……」

神父「勿論、 婦さんだけ特別だなんて言う訳ではありません」

神父「劣等種などと呼ばれ、不必要に迫害されてきた方々、皆様もです」
0453この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:38:04.44ID:7Z2WKe4f
盗賊「……」

神父「片腕を奪われ、精を吸われ……残る命も多くない」

神父「なのに 婦さんは、まだ……進んで身を捧げようとする」

神父「誠に……立派な祈り女でいらっしゃる」

神父「ただ、何故その対象が我らが神では無く、あろう事か魔王であるとは」

使用人「……」

神父「私は、聖職者として長い時を生きてきました」

神父「それは貴女方魔族に比べればちっぽけなものであろうとも」

神父「人としての私には、充分に長い時間です」

神父「その、積み重ねを思うと……納得など、出来ないのですよ」

神父「何故、この方ばかりが……と、思わずには……!」

 婦「……神父、様。もう……良いのです」

盗賊「 婦!気がついたのか!」

使用人「 婦さん……」

 婦「それ以上は、もう……」

神父「……」

 婦「神父様は、以前言われました……信仰する者により、神の形は変わるのだと」

 婦「ですがそれが魔王様であれば、神に仕える者である以上、認められないのも」

 婦「解って、います……だから」

 婦「その先は、考えないでください」

 婦「……神父様の、信仰の為に」

使用人「……」

神父「……」
0454この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:38:24.80ID:tQkBMjwp
盗賊「 婦……無理に喋らなくて良い」

 婦「……大丈夫、ですよ」

 婦「使用人さん、私の魔石……受け取ってくださいましたか?」

使用人「はい。ここに……」コロン

神父「……美しい、海の様に深い、青ですね」

神父「しかし……これは……」

 婦「はい。魔除けの石とは呼べないでしょう……やはり」

神父「……」

使用人「必ず、魔王様に届けます」

 婦「貴女が私にお願いしたい事、叶えられました。良かった……」スゥ

盗賊「 婦!?」

神父「お静かに……眠られただけ、です。余程疲れたのでしょう」

盗賊「そ、そうか……」

神父「使用人さん」

使用人「はい」

神父「お話は伝えておきました。この街での初めての結婚式です」

神父「明日から……早速建築に掛かって下さるそうです」

使用人「……ありがとうございます」

盗賊「ただし、街の仕事が終わってからの残業だ。手当は貰うぜ?」

使用人「勿論です。資材は……足りますか?」

盗賊「かき集めてはみるが、本格的には船長達が戻ってからだ」

神父「貴女が魔王の元へ戻るまで、新婦の為に……私は魔除けの石を作りましょう」

使用人「……お願い致します」

神父「では、私も宿へ戻ります」

盗賊「あ、送っていくよ、神父さん!」

盗賊「使用人はゆっくりしていてくれ。すぐ戻る!」
0455この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:39:26.76ID:2HNC1Jgs
使用人「え、ええ、わかりました」

神父「別に大丈夫ですよ、盗賊さん」

盗賊「遠慮すんな、行こうぜ」スタスタ



パタン



神父「何です?」

盗賊「……本当は、どうなんだ?」

神父「 婦さん、ですか……」

盗賊「他に何があるんだよ」

神父「私にはそのエルフの姫の様に感じる力はありませんからね」

盗賊「……」

神父「命の炎、とやらは……解りません、が」

神父「今日明日、どうこうという事は無いでしょう。お疲れではあるでしょうが」

盗賊「でも……やっぱり、寿命削ってる事に違いはないんだろう?」

神父「……」

盗賊「……」

神父「はっきりとは解りませんよ。そりゃ……誰でも、ね」

神父「例えば、老いれば。病床にいれば。無茶をするなと諭すでしょう」

盗賊「ま、あ……そりゃ」

神父「同じと……思って良いと思います」

神父「 婦さんは、無理して魔力を使うと……やはり」

盗賊「……そう、か」

神父「それが聞きたかったのですか?」
0456この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:39:47.93ID:BYJU4vgb
盗賊「うん……後、さ」

神父「はい」

盗賊「さっきの、使用人にしてた話……まあ、 婦が止めた話、かな」

盗賊「俺には良く……わかんかったから」

神父「信仰のお話ですか……こればかりは、難しいですね」

神父「長くなりますし……まあ、簡単に言うと」

神父「理解は出来るが賛同は出来ない、という事です」

盗賊「ん……ん?」

神父「ええと、ね。そうですね……」

神父「私は、神に仕えています。 婦さんもそう仰ってますよね」

盗賊「うん」

神父「私の言う神、は一つです。天に召します我らが神……です」

神父「 婦さんの神も……一つです。彼女は魔王を『私の神』だと言う」

盗賊「うん」

神父「けれど……それを私は、神とは認められません。神は絶対であり唯一ですから」

神父「それが私の『信仰』です」

盗賊「……うん」

神父「私は 婦さんに、神は崇める物により、形を変える物だと言いました」

神父「お話に出てくる天使の様な絵であったり、太陽その物であったり……」

神父「描く姿が違うだけで、それは確かに神なのです」

神父「ですが……それを魔王と言う物に置き換える事はできない」

神父「魔王は、魔の王として存在してしまっている物で有り、ましてや魔であるのです」

盗賊「……」

神父「 婦さんの、神として崇めて良いと思える程相手を想い、崇める気持ちを」

神父「頭で、理解は出来ても。認める訳には、行かないのですよ」

盗賊「うん……ごめん、解らん」

神父「……良いんですよ」
0457この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:40:26.15ID:u8CLeGPh
神父「彼女は確かに立派な祈り女です。ですが……神に仕える聖職者では無いのです」

盗賊「で、でも……」

神父「表だって否定はしません。ですが……認められません、私には」

神父「認めてしまうと……私は、聖職者では無くなってしまいますからね」

盗賊「……さっきの話、か」

神父「……」

盗賊「考えなくて良いって言ってたけど……」

神父「言ったでしょう。娘の様に思うのですよ」

神父「どうして 婦さんだけ、と考えて行くと……ね」

神父「『不公平』にたどり着くのです」

盗賊「不公平……?」

神父「はい。どうして、 婦さんだけ……」

神父「……この先は、私には言えません」

盗賊「そう、か……悪い」

神父「いいえ……さ、ここで結構ですよ。宿は目と鼻の先です」

神父「もう暗いですから……お気をつけて」

盗賊「ああ。おやすみ、神父さん」タタタ

神父「おやすみなさい……」

神父(……神様。この世は……一体、どうなって行くのです?)

神父(人の身で……知る事は罪なのでしょうか)


……

………

…………


カチャ、パタン


盗賊「あれ、まだ起きてたのか」

使用人「はい……」

盗賊「 婦は、どうだ?」

使用人「呼吸は落ち着いています」
0458この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:40:58.63ID:LcLdtxgM
盗賊「そうか……なあ、もう一回、見せて貰っていいか?」

使用人「?」

盗賊「さっきの…… 婦の作った石、さ」

使用人「ああ……どうぞ」コロン

盗賊「これ……さ」

盗賊「俺は良くわかんないけど……魔王、壊さないかな」

使用人「私には……解りません。ですが」

使用人「 婦さんの思いがこもっていますから」

盗賊「……綺麗な青だな」

使用人「はい」

盗賊「あの、さ」

使用人「はい」

盗賊「厭な事、聞いても良いか?」

使用人「……なんでしょう」

盗賊「俺が……俺たちだけが、知人の助けで魔導の街から逃げ出した時」

盗賊「やっぱり……怨んだか?」

使用人「他の人は解りません、が……私は、別に」

盗賊「……そう、か」

使用人「 婦さんも、同じだと思いますよ」

盗賊「お前達って、俺たちも知人も死んだって聞かされてたんだよな?」

使用人「そうですね。婿入りを断られた知人さんが……と言う内容でしたが」

盗賊「……」

使用人「私は、酔った魔導将軍から色々聞かされていました」

使用人「どうやって知人を殺したか、事細かく……まで」

盗賊「……ッ」
0459この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:41:20.89ID:EUzmO4tF
使用人「魔王様の手であの街が、劣等種が救い出され」

使用人「こうして……自由になれた。魔王様が救って下さった」

使用人「私は、魔導将軍の手が着く迄、他の方達の様に客を取らずに済みました」

使用人「でも……それも、運が良かっただけです」

盗賊「……」

使用人「もし、なんて考えても……意味ありませんよ、盗賊さん」

盗賊「い、いや……俺は、別に……」

使用人「……誰も、怨んで等、いませんよ」

盗賊「……そう、かなぁ」

使用人「この街にも娼館があります。私は覗いては居ませんが」

使用人「厭なら、辞められるんです。すぐに」

盗賊「……俺、さ。 婦が……ッ」グスッ

盗賊「良くて、やってる事、って解ってる、けど…… けど……ッ」

使用人「……申し訳、ありません」

盗賊「違うよ!使用人が謝る事じゃない!でも……!」

使用人「もしあの時、こうだったら……ですか?」

盗賊「……意味が無い、って言うんだろ」

使用人「はい。ですが……」

使用人「選ぶのは自分自身です。何時だって……」

盗賊「うん……」

使用人「ごめんなさい。なんと……その。言って良いか」

使用人「こういうのは、苦手です」

盗賊「……悪い。大丈夫だ」ゴシゴシ

使用人「……」
0460この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 10:42:00.85ID:3Vor8jCL
盗賊「折角自由になれたのにさ。 婦も、娼館でまだ働いてる奴らも……」

盗賊「好きな事できるんだ。いや、皆好きな様にやってるんだって事は解ってる」

盗賊「でも、さ……」

使用人「『自由』の定義は人それぞれですから」

使用人「私の様な道を選ぶのも、見る人から見れば愚かと言われるでしょう」

盗賊「……でも、望んだ結果だろ?」

使用人「そうですよ。だけど……この街を救った勇者が、魔王様だったばかりに」

使用人「熱に浮かされているだけだと言われても仕方ありません」

盗賊「……気持ち、てのは難しいな」

盗賊「魔王も、姫も何も悪く無いと解ってはいるのに」

盗賊「どうして…… 婦ばっかり、って……思っちまうよ」

使用人「…… 婦さんが選んだ道を、邪魔する権利はありません」

盗賊「でも、お前は……気持ちをしって利用しようとした、だろ?」

使用人「否定はしません。本人にも言いましたが、拒否される事は無いと解っていました」

使用人「……責めても良いのですよ。責められて当然です」

使用人「私は、私の主の為に、 婦さんに命を投げ出せと言ったのです」

盗賊「……責めねぇよ。責められネェだろ」

盗賊「 婦が……望んだ事だ」

使用人「……」

盗賊「お前は……使用人は、さ」

使用人「はい?」

盗賊「魔王が好きなのか?」

使用人「……我が主、ですから」

盗賊「……」

使用人「それに、姫様がいらっしゃいます」

盗賊「愛し合ってるのか?あの二人は」

使用人「愛、では無いと。姫様は仰っていらっしゃいました」

使用人「好きだけれど。大事だけれど……と」
0462この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:13:10.80ID:2imJIVDd
盗賊「……良くわかんネェや」ゴロン

使用人「私にも、わかりません」

盗賊「お前も、愛じゃないって言うのか?」

盗賊「じゃあ……愛って、何だよ」

使用人「 婦さんに聞いてみれば良いのではないですか?」

盗賊「……確かに、ありゃ愛、だな」

使用人「深い深い海の色……」

盗賊「え?」

使用人「 婦さんの魔石、です」

盗賊「 婦の瞳の色だろ」

使用人「……海の様に深い、愛の色」

盗賊「……似合わネェ」

使用人「悪かったですね」

盗賊「……」

使用人「……雨」

盗賊「え?」

使用人「城を出る時、雨が降って居たんです」

盗賊「こっちはずっと晴れてるぜ」

使用人「そうですか……」

盗賊「それがどうした?」

使用人「いえ。別世界の様だな、と思っただけです」

盗賊「……やっぱり何か、似合わネェ」

使用人「……放っておいてください」

盗賊「お前まで……感傷的にならないでくれよ」

使用人「……え?」

盗賊「せめて……最後まで、普通で居てくれ」
0463この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:13:46.19ID:xgTT8q8X
使用人「……」

盗賊「何でもない。お前も寝ろよ、明日早いぞ」


……

………

…………


側近「チェックメイトおおおおおおおおおお!」

魔王「あ! ……ああ、もうッ」ポイッ

側近「あ、こら投げんな。お前は子供か!」

魔王「何で勝てないんだ!」

側近「弱いからだろ」

魔王「く……ッ もう一回だ、もう一回!」

側近「えー。もう飽きたー」

魔王「私が勝てるまでやる!」

側近「……お前なぁ」

魔王「悔しいじゃ無いか……ッ」

側近「はいはいはい、親父さんのお話だろ?もうしてやるって」

魔王「勝って聞かねば意味が無い!」

側近「えええええええ……面倒臭い奴……」

魔王「良いから、勝負だ!」

側近「あーじゃあチェスやめよ、な!?」

側近「こっちやろうぜこっち。オセロ」

魔王「……ルールは?」

側近「え、そっから説明すんの!?」

魔王「早く教えろ」

側近「まじかよ……」

魔王「……雨の音が強くなったな」

側近「いきなり脱線か!」

魔王「庭が気になるな」

側近「姫様がなんかやってたな、そういえば」
0464この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:14:06.78ID:E0IuwogI
魔王「昔カラスが手入れしてたな」

側近「また懐かしい話だね」

魔王「その話を姫にしてやったらな……自分もやると言い出したから」

側近「成る程」

魔王「……」

側近「どうした……大丈夫か?」

魔王「ああ。何でも無い」

側近「お前……后様の事は覚えて無いよな?」

魔王「后? ……ああ、母の事か」

魔王「私を産んですぐに死んだと聞いたぞ。覚えてる訳が無い」

側近「……そうか」

魔王「何だ」

側近「話して良いの?」

魔王「……勝つまで駄目。早く教えろ」



……

………

…………



女剣士「あと、いっ ……ぴき!」ザシュ!



ギャアアアアアアアアアアア!



女剣士「良し!」

海賊「……つえぇ」

女剣士「船長ー!片づいたぞー!」



船長「しかしまあ、元気だな」

鍛冶師「ふさぎ込まれてるよりは良いでしょ」
0465この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:15:17.25ID:d/SIX+EF
船長「まあ……役に立ってるしな」

鍛冶師「船長!一応お客さんでしょ」

船長「しかしまぁ、腕に自信があるってのは伊達じゃ無かった、てこった」

鍛冶師「……でも、側近はもっと強い、んだろう」

船長「本人曰く、戦闘向きじゃ無い、らしいがな」

鍛冶師「……魔王は、さらに、か」

船長「ありゃ規格外」

鍛冶師「……」

船長「どうした?難しい顔して」

鍛冶師「僕は……全くもって専門外だからね」

船長「俺だってそうさ。想像つかネェだろ? ……もっと強い、てのは」

鍛冶師「うん。女剣士だって、充分に強いだろうに」

船長「世界は広いって事さ……さて。お前さん、今暇か?」

鍛冶師「え?ああ……まあ」

船長「そうか。ちょっと仕事しネェか?」

鍛冶師「え?」

船長「剣の手入れやら魔法剣がどーたら、言う位なんだしさ」

船長「お前、手先は器用なんだろう?」

鍛冶師「ま、まあ……多分ね」

船長「これは俺個人の依頼、なんだが……受けるか?」

鍛冶師「内容次第……何させる気だよ」

船長「こいつなんだがな」ドン!

鍛冶師「……石?」

船長「ま、何の変哲も無い、その辺の河原に転がってそうな石だ。見ての通りな」

鍛冶師「真っ白だな……石膏みたいだ」

船長「何か作ってくんねぇか?」

鍛冶師「またいい加減な……」

船長「良い色だろ?鍛冶師の村で安く買ってきたんだ」

鍛冶師「僕に彫刻家の真似事をしろって言うの?」
0466この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:16:30.35ID:d/SIX+EF
船長「簡単に言やぁそうなるな」

鍛冶師「そんなのやった事無いよ!」

船長「別に失敗しても構わネェよ。旨く出来りゃ買ってやる」

船長「小遣い稼ぎだ。暇つぶしにゃ丁度良いだろ」
0467この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:16:55.52ID:XkCO68Ym
鍛冶師「何作れって言うんだよ……」

船長「何でも良いって。それ程大きな石でも無いしな」

船長「センス良い置物が一つ、欲しかったんだ」

鍛冶師「……えええええ」

船長「漸く半分、ってとこだ。どれだけ急いだってまだ一週間はかかる」

船長「どうだ? ……ま、無理にとは言わないけどよ」

鍛冶師「本当に失敗しても良いの?」

船長「ああ。石代返せとも言わネェよ」

鍛冶師「……まあ、腕が鈍らないで良いかもしれないけど」

船長「魔法剣の装飾の練習とでも思えよ」

鍛冶師「魔法剣に装飾するのと、彫刻の真似事するのと一緒にしないでよ!」

船長「はっは!まあ、暇つぶしだって、だから」

鍛冶師「もう……」コンコン

鍛冶師「結構堅いなぁ……彫刻刀の変わりになるようなモン、あったかな……」ブツブツ

鍛冶師「これ、部屋に持ってくよ?」

船長「ああ。あんまり汚すなよー?」

鍛冶師「無茶言うな!」スタスタ



カチャ



女剣士「おっと……鍛冶師か、御免!」

鍛冶師「ああ、船長に用事?」

女剣士「居る、よな?」

鍛冶師「うん。じゃあね」スタスタ



パタン



船長「おう。どうした」

女剣士「もうすぐ着くのか?」
0468この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:17:18.38ID:wjwP7IYi
船長「随分せっかちだなお前さん……まだだ。漸く半分、だな」

女剣士「別に急かしてる訳じゃ無い。随分魔物が弱くなったからさ」

船長「そういう事か……そりゃ、南に行けば行く程、強い魔物は減っていくさ」

女剣士「……そうなのか?」

船長「最果ての街……魔王の居城から距離的に離れていくからな」

女剣士「最果ての街?」

船長「北の大地にある街の事だ。北の大地は……最果ての地とも呼ばれてる」

船長「……あの空は暗いだろう。紫の雲に覆われて」

女剣士「そうだな。この辺は随分……空が青くて、気持ちが良い」

船長「あれは魔の気が渦巻いているから、だそうだ」

船長「そんな場所に近づけば近づく程、魔物共も強くなる」

女剣士「半分か。この辺りであの程度なら……港街の辺りは、もっと……」

船長「お前さんが居た北の街の魔物の、足下にも及ばネェだろうよ」

女剣士「そうか……」

船長「どうした?」

女剣士「あ、いや……何でも無いよ」

女剣士「そんな魔物ばっかりだったら、北の街の人達も怯えずに」

女剣士「過ごせたのか、ってな……」

船長「そうとも限らんさ」

女剣士「え?」

船長「育った環境、だろうさ。魔物が弱い地域に住んでいたとしても」

船長「人で無い、と言うだけで充分畏怖の対象になるだろう?」

船長「成人した男共にゃ大した事無くても」

船長「女子供は怯えるだろうさ」

女剣士「……」

船長「身を守るのに見合った武器や、防具は開発されるだろうが」

船長「その強弱の差があるだけで、畏怖は無くならねぇ」
0469この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:17:36.55ID:+kkgduP+
船長「魔物の住まない土地、なんてのは……聞いた事が無いさ」

女剣士「……そうか ……ッ と!」



グラグラ……



船長「相変わらずこの辺は揺れるな」フゥ

女剣士「……?」

船長「この辺は潮の流れが悪いんだ。大きな渦が二つ、ぶつかってる」

女剣士「へぇ……」

船長「お前も船室に戻ってろ。甲板に出るなよ」

船長「今度海に落ちたらしらねぇぞ」

女剣士「そ、そんな事しない!」

船長「頼むぜ、本当に。何かあったら呼ぶさ」

船長「……この海域だけは魔物は出ネェからな」

女剣士「え……何で?」

船長「さてね。昔、島が沈んだなんて伝説もあるらしいくてな」

船長「呪いだなんだ……そんな話もあるが。ま、実際は」

船長「海の魔物すら住めない様な海流なんだろ」

女剣士「島……」

船長「ただの御伽噺だ。どの地図にも、そんな島乗ってネェよ」

女剣士「アタシは……知らない事だらけだな」

船長「海は偉大で広大だ……いくら海賊だと言っても」

船長「俺たちにだって知らない事の方が多いんだ」

女剣士「鍛冶師は、部屋?」

船長「おう。仕事頼んだからな……邪魔すんなよ?」

女剣士「しないよ!」

船長「お前も疲れたろ。食堂行って飯食ってこいよ」

船長「もう暫く、この海域を越える迄は時間が掛かる」

船長「ゆっくり休んでな」
0470この頃流行の名無しの子垢版2021/02/17(水) 15:18:12.34ID:GgwW5s/J
女剣士「うん……何かあったら呼んでくれよ」

女剣士「船に乗せてくれた恩は、ちゃんと返すからな!」

船長「へいへい……金もらってんだから、あんまり気にすんなよ」

女剣士「だけど……」

船長「心配しなくても、こき使うのに変わりはネェから」

女剣士「……サンキュ」スタスタ



パタン



船長「さて、と……」スタスタ

船長(港街に着いたら、まずは盗賊と打ち合わせだな)

船長「おい、誰か!」

海賊「船長、何です?舵は心配いりませんぜ?」

船長「ああ、そりゃ解ってる。あいつの船は着いてきてるか?」

海賊「船長の仲間の船ですか、大丈夫ですよ」

海賊「あれ、定期船に使うんでしょ?」

船長「そういう方向で話はついてる」

海賊「何か……俺ら、海賊じゃネェっすよね」

海賊「こんな事やってると……」

船長「不服か?」

海賊「そういう意味じゃネェっすよ。寧ろ充実してますって」

船長「色々落ち着けば、また元に戻るさ」

海賊「ああ、そういえば船長」

船長「ん?」

海賊「向こうの船に乗ってる奴なんですが、二人程」

海賊「こっちの船に乗せて欲しいって言ってましたぜ」

海賊「出発早まったんで、バタバタしてて忘れてた」
0472この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:51:50.65ID:L7zPrGmD
船長「こっちは元々客船じゃネェぞ。今は特別だ」

海賊「そうじゃ無くって、ですって」

船長「ん?どういうことだ?」

海賊「海賊になりたいそうです」

船長「はぁ!?」

海賊「ま……港街着いたら、宜しくお願いしますよ」

海賊「伝えましたからねー!飯行ってきます!」

船長「あ、おい……! まじかよ……」


……

………

…………


 婦「……神父様、そろそろお昼にしませんか」

神父「ああ、もうそんな時間ですか……」

 婦「盗賊が待ってますよ。使用人さんも」

神父「ええ、あ、すみません 婦さん。その袋、とって頂けますか?」

 婦「あ、はい……どうぞ」

神父「ありがとうございます……よいしょ」コロン、コロンコロン

 婦「足りる、でしょうか」

神父「解りません……し、これ以上は出来ません」

神父「無理をする道理も無いんです、 婦さん」

 婦「……そう、ですね」

神父「何も……意地悪で言っている訳ではありませんよ」

 婦「あ……ご、ごめんなさい、勿論……承知しています!」

神父「……いえ、私こそ言葉が悪かったです」

 婦「仕方の無い、事です……」

神父「……今日、戻られるのですよね」

 婦「使用人さんですか?ええ」

神父「……」

 婦「神父様?」
0473この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:52:13.13ID:FEYIGjE4
神父「いえ……行きましょうか」

 婦「え、ええ……」

神父「体調はもう、よろしいのですね?」

 婦「はい。神父様の回復魔法のおかげです」

神父「気休めにしかならないのが悔しいですよ」

 婦「……大丈夫です。もう、無茶はしません」

神父「出来ません、の間違いでしょう、 婦さん……」

 婦「……」

神父「次に、同じ事をされると……もう、保証は出来ませんよ」

 婦「解って……居ます」

神父「それでも貴女は……もし、請われるのなら」

神父「喜んで、その命を差し出すのでしょうね」

 婦「……魔王様が望まれるなら。魔王様の為、ならば」

神父「……」

 婦「……」

神父「世界の為、等と言われては……私も断れません」

神父「ですが……」

 婦「神に命を差し出せと言われたら、神父様はどうされます?」

神父「!?」

 婦「神はそんな事、仰らないかもしれません」

 婦「……魔王様も、仰らないと思います」

神父「では……でも、貴女は!使用人さんは……!」

 婦「彼女の独断でしょう。主を思う余りの」

 婦「私が断らないと知って、の」

神父「……」

 婦「でも、良いのです。もし彼女が提案しなくても」

 婦「私は、望んで自らを差し出します」

 婦「……使用人さんは、帰ったら魔王様に怒られるかもしれませんね」
0474この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:52:35.51ID:lR0B1Zq2
神父「貴女の寿命を縮めてまで……ですか」

 婦「はい。そういうお方です」

神父「私は、魔王と言う方を知りません。魔の王だと言う、存在そのものしか」

神父「……それも、想像に過ぎませんがね」

神父「貴女方の話を聞いていると、聖人君子の様に聞こえない時があるような気がして」

神父「……酷く複雑な気分ですよ」

 婦「勇者様、ですからね。この……港街の人達にとって」

 婦「私や、使用人さんにとっても、そうなんです」

 婦「魔の王であっても、残忍であっても……魔王様は、私の勇者様なのです」

神父「……はぁ。もう、考えるのは辞めておきます」

神父「私は信仰に、神に……自分に、絶対の自信と確固たる物を持って生きてきたつもりです」

神父「これ以上は、踏み込んでは行けない領域……ですね」

 婦「……神父様」

神父「自分が揺らぐ様なところに、身を置く事はできません」

神父「人と言うのは……弱い生き物です」

 婦「そう……で、しょうか……」



タタタ……



盗賊「 婦!神父さん!おっそいよ!」

 婦「盗賊……迎えに来てくれたの?」

神父「こんにちは、盗賊さん」

盗賊「試食会始まるぜ」

 婦「え?試食会?」

神父「皆でお昼を食べよう……と言うのでは無かったのですか?」

盗賊「ついで、だよ。もう少しで店、できあがるからさ」

盗賊「メニューの試食して欲しいんだって」

 婦「まあ……」

盗賊「……で、ついでにお願いがあるんだけど、神父さん」

神父「はい?」
0475この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:52:53.89ID:Nmr8jp1v
盗賊「やめとけって言うのに、聞かなくってさ……使用人」

 婦「?」

盗賊「手伝います、って意気込んで……」

神父「おやおや……可愛らしい所もありますね」

 婦「包丁で怪我でも?」

盗賊「ああ、違う違う。城で飯の支度してんだろ?」

盗賊「そっちじゃ無くて、資材運ぶ、てさ」

 婦「え……」

盗賊「重さに負けてひっくり返ってだな……」

神父「……」

盗賊「あ、ほらあそこ……」

神父「ああ、腕から血が……」タタタ

盗賊「無茶するぜ、全く」

 婦「……止めれば良かったのに」スタスタ

盗賊「止めたよそりゃ……ちょっと遅かったけど」スタスタ

使用人「も……申し訳ございません」ボロ

神父「全く、何をやっているんですか貴女は……」

使用人「……」

 婦「だ、大丈夫ですか?」

使用人「今、回復して貰いました……ありがとうございます」

神父「いくら何でも、貴女の細腕じゃ無理だって解るでしょうに」

盗賊「まあまあ……気持ちはありがたく受け取っておくよ、使用人」

使用人「……はい」

神父「ついでですから、お渡ししておきます」ハァ

使用人「これは?」

神父「魔除けの石です。それほどの数はありませんが……」

使用人「あ……!ありがとうございます!」
0476この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:54:08.64ID:u0QRoIE1
盗賊「ほら、持ってきて貰うから適当に座れよ」

 婦「え……ここに?」

盗賊「まだ店出来てないからな……ピクニック気分で良いだろ。運んでくるよ。待ってて!」

 婦「あ、手伝うわよ」

盗賊「良いよ、大丈夫!」タタタ

神父「神聖な水で清めた、布で出来た袋です」

神父「……ついでに、お持ちなさい」

使用人「はい……ありがたく、頂戴致します」

 婦「お二人とも、コチラに……とにかく、お食事にしましょう」

盗賊「おっまったせー!」タタタ

神父「ああ、良い匂いですね」

使用人「ええ……本当に」

盗賊「適当に摘んでくれよ。後でちゃんと感想聞かせてやってくれな」

神父「頂きましょう……うん、美味しい」

使用人「……お肉、柔らかい……どうやっていいるんでしょうか」

 婦「まあ、本当に……」

盗賊「食欲はあるんだな、良かった」ホッ

 婦「……私?」

盗賊「他に誰が居るんだ……あ、マジだ旨い」

使用人「大丈夫……なのですね?」

 婦「ええ……ご心配なさらず」

使用人「そうですか……」

盗賊「使用人は結局何時までいるんだ?」

使用人「そう長居はできません。魔王様達の様子も気になりますし」

使用人「……食事が済めば、戻ろうと思います」

 婦「そうですか……次は、当日ですかね」

使用人「船長さん達が戻られるであろう頃に、もう一度来ます」

神父「一つ、お願いしても?」

使用人「……私に、ですか?」

神父「以前、側近さんに頼んだのですがね。本を、お貸し頂きたいのです」
0477この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:55:36.55ID:VeIfaYMT
使用人「ああ……前後編の、後編、ですね」

神父「ご存じでしたか」

使用人「次に来る頃には、姫様も読み終わられているでしょう。……お約束、します」

神父「ありがとう」

盗賊「……魔王と姫に、ちゃんと伝えて……渡しておいてくれよ」

使用人「勿論です」

 婦「お会いできるのを……楽しみにしています、と」

 婦「……可能ならば、お伝えください」

使用人「必ず、伝えます」


……

………

…………


姫(『ここで待つ様にと告げた、城の兵士の姿は無かった』)

姫(『少年は一人だった。母親の言葉を思い出している内には、王が来るだろう』)

姫(『少年はもう一度小さくため息を吐き、家を出る前に持たされた、剣を指でなぞる』)

姫(『形見だと母親から聞いていた、父の剣。光輝く勇者の剣』)

姫(『この剣に選ばれた事こそ、少年が勇者である揺るぎない証なのだと』)

姫(『何度も何度も、聞かされてきた。自分は勇者なのだと信じて生きてきた』)

姫(『勿論、疑っている訳では無い。少年は、王への謁見を許された』)

姫(『勇者として、旅立つ年齢に達した事で、一人前なのだと認められたのだ』)

姫(『ただ、いざこの場へと居る事実に、不安を隠せずにいるだけなのだ』)

姫(『三度目のため息を落とそうと、少年の肺が大きく膨らんだ所で』)

姫(『ギィ、と重い音を立て、背後の大きな扉が開いた』)


コンコン


姫「……」

使用人「姫様、失礼致します」カチャ

姫「あ……」ハッ

使用人「……どうされました?」
0478この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:55:58.38ID:SV0GL3DS
姫「あ、ああ……お帰りなさい」

使用人「ただいま、戻りました」

姫「ごめんなさい、ちょっと……没頭してたわ」

使用人「ずっと呼んでらしたのですか?」

姫「他にする事ないもの」

使用人「……こちらは、ずっと雨なのですね」

姫「港街は晴れてた?」

使用人「ええ。綺麗な青空でした」ジャラ

姫「そう……それは?」

使用人「魔除けの石です。何個かあるので……これで、持つと良いですが」

姫「ありがとう……あ」コロン

使用人「清浄な水で清めた袋、だそうですよ、これ……!?」

姫「……」

使用人「……」



シュゥウ……



姫「……あっと言う間に、黒くなった、わね」

使用人「石は、無事……ですね」ホッ

姫「離れて居るのに……関係無いのね」

使用人「部屋の四隅に置いておきます。丁度5つ、ありますし」

使用人「1つは、身につけておいてください、姫様」

姫「ええ……あら、これは……?」

使用人「あ、それは……」

姫「綺麗な青……これは…… …… 婦、の力?」

使用人「姫様、それはコチラへ……!」ギュッ

姫「……凄いわね」

使用人「え?」

姫「大丈夫、気分が悪くなるような物じゃ無いわ」
0479この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 16:59:04.49ID:6o9DBdqT
姫「……魔王への想いで溢れてる。 婦が……魔王の為に作ったのね」

使用人「……はい」

姫「魔王の、魔力を少しでも押さえるために?」

使用人「どこまでの効果があるかはわかりません。 婦さんは……人間ですから」

姫「力の強弱は……関係無いわよ。……これだけの思いが、あれば」

使用人「願えば、叶う?」

姫「そうであれば……良いわね」

使用人「……届けて、参ります」

姫「それは……魔王の願い?」

使用人「いえ……私の独断です」

姫「そう……」

使用人「怒られるのは承知の上です」

姫「……」

使用人「失礼致します。すぐに……食事に致しますね」

パタン

姫「……愛の力、か。私には……出来ない事ね」フゥ

……

………

…………

側近「……お前、さぁ」

魔王「な、何故だ……!」

側近「何でそんな器用な負け方出来る訳?」

魔王「わ、私が聞きたいわ!」

側近「……まだやんの?」

魔王「当然だ!」

側近「あのさぁ、そりゃ四隅取る様にって言ったけど四隅だけ残して後全部俺とか……」

魔王「うるさい!」

側近「普通、できねぇよ……」

魔王「うるさいと言っている!つ、次は私が黒だ!」

側近「どっちでも良いよ……ほれ、早く取れ自分の分」
0480この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:00:05.91ID:ln0hKwSQ
コンコン



側近「はーいー?」

魔王「早くしろ、側近!お前の番だ」

側近「はいはい……」パチ。クルクル

魔王「フン、それだけしかひっくり返さんのか」パチ



カチャ



使用人「失礼しま…… ……」

側近「お。おかえりー、使用人ちゃん」

使用人「チェスの次はオセロですか……」

魔王「お前の番だぞ」

側近「魔王様がどうしても俺に勝ちたいって言うからさー」パチ

使用人「……はあ」

魔王「良し、次は……」

使用人「あ、そこは駄目です魔王様……こっち」パチ

魔王「ん?しかし……」

側近「助っ人?ズルイ……ま、負けないけど」パチ

使用人「大丈夫です」パチ

魔王「……」

側近「……」パチ

使用人「……」パチ

魔王「お……」

側近「ん、んん……ッ」パチ

使用人「ここですね」パチ

側近「ま、まじかよ……」パチ

使用人「どうぞ、魔王様……ここに」

魔王「ふむ」パチ

側近「……げ、パス!?」
0481この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:00:28.02ID:t0Dah2pQ
魔王「私か? ……ふふ」パチ

側近「んげ!?」

使用人「……魔王様の勝ち、ですね」

魔王「勝った……初めて勝った!」

側近「いやいやいやいや!お前の勝ちじゃネェだろ、使用人ちゃんだろ!」

側近「この勝負無効!」

魔王「勝ちは勝ちだ!さて、話して貰おうか、側近!」

側近「ええええええええええええ」

使用人「……あの、先に良いでしょうか」

魔王「ん……どうした?」

使用人「……これを」ス

側近「? ……なんだこれ、綺麗だな。真っ青だ」

魔王「…… 婦?」

使用人「はい」

側近「え……これ、 婦ちゃんが作ったの?」

魔王「…… ……どうして、だ」

使用人「……事情を話すと、少しでも魔王様の魔力を押さえられる様に作らせて欲しいと」

使用人「そう、仰いました」

魔王「止めなかった……のか」

使用人「…… 婦さんが言い出さなければ、私からお願いするつもりでした」

魔王「!」

側近「……!? 魔王様、落ち着け……!」ビリッ

使用人「……ッ」ビリビリ……ッ

魔王「……解ってる。解ってる……!怒ってる訳じゃ無い」

魔王「そんなつもりでは、無いんだ……!」

使用人「……ッ そ、れは! 婦さんの愛です、魔王様!」

魔王「あ……い?」
0482この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:00:50.45ID:e0i0oL8Z
使用人「少しでも、魔王様の為になる様に、と……の」

使用人「 婦さんの気持ちです、想いです……!」

側近「……ッ 落ち着け、魔王様!今、魔力を膨張させたら」

側近「お前自身が、 婦の気持ちを踏みにじる事になるぞ!?」

魔王「…… ……」ギュッ

使用人「……」

側近「……」

魔王「…… ……愛、か」

使用人「……はい。同じ物を作る事はもう……二度と叶いません」

側近「……」

使用人「お会いできるのを楽しみにしています、と…… 婦さんから伝言です」

側近「……元気そうだったか?」

使用人「はい」

魔王「解った……ご苦労だった」

魔王「次は何時、行くんだ?」

使用人「船長さんが港街に戻られる頃に……です」

魔王「……ではそれまで、姫の事を頼む」

使用人「はい。では……失礼します」スタスタ……パタン

側近「……大丈夫か?」

魔王「ああ……悪かった」

側近「俺は別に構わんがな……使用人ちゃんを責めてやるなよ」

魔王「解ってる。解って……る」

側近「うん。そうだな」

魔王「愛、か。愛ってのは……何なんだ、側近」

側近「急になんだよ」

魔王「私にはわからんから、だ」

魔王「ついこの間話しただろう。私の姫への気持ちは……愛では無いだろうからな」
0483この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:01:12.16ID:9hjRXQBh
側近「……」

側近「仕方ない。負けた事だし、話してやるよ」

魔王「……?」

側近「前魔王様の話。前魔王様と……后様の話」

魔王「……母、か」

側近「すっげぇ変わり者だったけどな。でも……あの二人は確かに愛し合ってたぜ」

魔王「私を産んで……すぐに死んだ、んだよな?」

側近「そうだ。だが産後の肥立ちがーとかじゃ無い」

魔王「?」

側近「奇病、って言って良いんだろうかな」

魔王「奇病……」

側近「死因は病死、だ。后様はお前を産んだ後、身体がぼろぼろになって朽ちていったんだ」

魔王「……」

側近「文字通り、ぼろぼろ、だ。崩れていくんだよ」

側近「指の先から、足の先から……最後には顔も崩れ、喋れなくなった」

魔王「な、ぜだ」

側近「原因がわかんないから奇病、なんでしょ」

側近「……だが、前魔王様は解ってたみたいだな」

魔王「何?」

側近「先代……前魔王様の前の魔王様、な」

側近「俺は会った事は無いが……先代から聞いていたらしい」

側近「魔王を産んだ者は、そうして朽ちるのだそうだ」

魔王「……!」

側近「何かに似てネェ?」

魔王「……エルフの、長……か」

側近「その話を聞いた時に思ったんだよ。ああ、一緒なんだなって」

側近「……腐った世の中の摂理だよな」

側近「力のある者を産み落とす、ってのは……それだけ負担になるのかもしれんが、さ」

魔王「……」
0484この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:01:35.50ID:wtPsFBeM
側近「毎日崩れていく身を見ても、前魔王様はキスを欠かさなかった」

側近「后様もさ。厭じゃ無いのかなって思ったんだ。女だぜ?」

側近「不思議そうな顔してる俺に、言うんだよ」

側近「『だって魔王が望むんだもの』って」

魔王「……」

側近「で、前魔王様にも聞いた。酷じゃないのかって言ったんだ」

魔王「親父は、なんていった?」

側近「『愛しい妻にキスをしたいからするだけだ』」

魔王「……」

側近「顎から顔が崩れてさ。唇が無くなって喋れなくなっても」

側近「前魔王様は毎日、欠かさずキスしてた。鼻が崩れて、息が出来なくなって」

側近「……后様の最後の一欠片が風に流されてしまう迄ずーっと、だ」

魔王「……」

側近「愛だろ?」

魔王「……だな」

側近「 婦ちゃんも……お前の事、愛してるんだろうな」

魔王「ああ……」

側近「気付いてたの!?」

魔王「……そこまで鈍く無い」

側近「じゃ…… 婦ちゃんの為にも。力、おさえてやれよ」

側近「自分でどうにか出来るのか、知らんけどな」

魔王「……願えば叶う。私は……魔王だ」

側近「そっか」

魔王「……この世界は、どうなっているんだろうな」

側近「へ?」

魔王「誰が……こんなシステムを作ったんだ」

側近「神様、じゃネェの」

魔王「……ずっと、繰り返してきたのか」
0485この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:01:54.61ID:hmZj/lu/
魔王「代々の魔王も、エルフの長も、それを産む者も……」

魔王「こんな、腐った不条理の元……歴史を紡いできたのか」

側近「……断ち切れるじゃネェか」

魔王「ん……?」

側近「姫様の代で、エルフの森は閉ざされた」

側近「お前の代で……魔王の血は消えるんだ」

魔王「……腐った世界の腐った不条理が断ち切れる……か」

側近「……」

魔王「例外が無い、んだろう事だ」

魔王「先は……どうなるか解らん、がな」

側近「そうだな」

魔王「……勇者とやらが現れるまで、のんびり眠っている事にするさ」

側近「……」

魔王「本来、それが正しい姿なのかもしれん」

側近「ん?」

魔王「『魔王』と言うのは……勇者に倒される為の物かもしれん、という事だ」

側近「……随分勇者側に、都合の良いモンだな」

魔王「御伽噺では、必ず勇者は魔王を倒すんだ。必ず」

側近「……所詮御伽噺だろ」

魔王「良い物だぞ? ……中々、面白い」
0486この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:02:16.57ID:zJdPvzgV
側近「『魔王』の言葉とは思えネェな」

側近「……つか、そもそも魔王の城に、そんな本がある事自体どうかと思うが」

魔王「お前は……親父の代から魔王の側近としてここに居るんだったよな」

側近「ああ。前も言っただろ。お前の親父……前魔王様に、魔族としての生を貰ったんだ」

魔王「何故、なんだ?」

側近「……何がだよ」

魔王「お前元人間なんだろう?何故そんな事になったんだ?」

側近「聞きたい?」

魔王「そりゃ、まあ」

側近「良し!じゃあ……もう一勝負だな」

魔王「……何?」

側近「さっきは使用人ちゃんのおかげで勝てただけだろう」

側近「今度はしっかり自分の力で勝つんだな!」

魔王「根に持ってるのか……」

側近「大体!勝って聞き出さなきゃ意味が無い的な事言い出したのは」

側近「お前の方だろうが!」

魔王「良いだろう、次も勝ってやる」

側近「次、は!でしょ!」



……

………

…………
0487この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:02:36.91ID:yBPbr2re
女剣士「鍛冶師、居る?」コンコン

鍛冶師「入って良いよ」

女剣士「……何やってるの」カチャ、パタン

鍛冶師「んー……彫刻家ごっこ?」コンコン

女剣士「……凄い」

鍛冶師「とんでもない。子供のお遊びみたいなもんさ」フー

鍛冶師「もう良い、かな」

女剣士「これ……どうしたの?」

鍛冶師「船長が村で、石買ってきたから何か作れ、てさ……」

女剣士「……鳥?」

鍛冶師「そ。あんまり複雑なモンは出来ないよ、流石に」

女剣士「でも可愛いな」

鍛冶師「しかしま、こんなの作らせて何するんだかな」

女剣士「この船……結構拘ってるよな。よく見ると……」

鍛冶師「船長の趣味だろうね……とろこで、何か用事あったんじゃないの?」

女剣士「あ、ああ。あのさ……窓、見せて貰おうと思って」

鍛冶師「窓?」

女剣士「窓の、外」

鍛冶師「ああ……別に良いけど……?女剣士の部屋にも、窓ぐらい着いてるでしょ」

女剣士「方向がな。こっちの方がよく見えるかと思ってさ」
0488この頃流行の名無しの子垢版2021/02/18(木) 17:03:08.92ID:mCSLRo6k
鍛冶師「何が見たいの?」

女剣士「2つの渦、とやら」スタスタ

鍛冶師「ああ……中々進まないからイライラしてるのか」

女剣士「焦ったって仕方ないのは解ってるけどさ……うわ、凄い波だな」

鍛冶師「見てて酔わない?」

女剣士「それは平気……だろう、多分」

鍛冶師「僕も熱中して忘れてた……ああ、そうか」

女剣士「ん?」

鍛冶師「前にこの海域を通った時酷い船酔いでさ」

女剣士「え……大丈夫なのか?」

鍛冶師「……船長の優しさ、かなぁ」

女剣士「??」

鍛冶師「何でも無い……で、見たら納得した?」

女剣士「ん……これ、真っ直ぐ港街に向かっては無いよな?」

鍛冶師「突っ込んでいっても流されるだけさ。旨く巻き込まれない様に」

鍛冶師「ゆっくり迂回してるはずだよ」

女剣士「それで……あんなに時間が掛かるのか」

鍛冶師「僕も知り合って長い訳じゃ無いけどさ」

鍛冶師「海賊、って名乗るだけあって、腕は確かなんじゃ無い?」

女剣士「……海賊?」

鍛冶師「知らなかったの!?」

女剣士「い、いや……そ、そうか。そうなんだ……」

鍛冶師「なんて言うか……まあ、良いや」

鍛冶師「現実には、はいそうですかーって信じられない事ばかりなんだよね」

女剣士「……魔王と知り合いの海賊、とかか」

鍛冶師「北の村を救った側近てのが魔族だったりね」
0489この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:31:49.06ID:YWY3DeuA
女剣士「……会えるのかな」

鍛冶師「願えば叶う」

女剣士「え?」

鍛冶師「……都合の良い言葉だよな。本当にそうなるんだったら」

鍛冶師「誰も、何も……苦労なんてしない」

女剣士「……」

鍛冶師「そろそろ三日ぐらい?」

女剣士「……何が?」

鍛冶師「渦の傍に来て、さ。僕がこの鳥を完成させたぐらいだし」

鍛冶師「そんなモンかなーって」

女剣士「わかんなくなってくるな。ずっと船に居ると」

鍛冶師「船長は海の上で死にたいとか言ってたかな」

鍛冶師「僕は……やっぱり、陸の上が良いや」

女剣士「…… ……ありがとう。邪魔したな」

鍛冶師「大丈夫。もうそろそろ切り上げないと」

鍛冶師「納得いく迄直し続けてたら、そのうち石がなくなっちゃうよ」

女剣士「船長に渡しに行くのか?」

鍛冶師「そうだね……本当なら色でも着けたいとこだけど」

鍛冶師「……盗賊にも作ってあげたいなぁ」

女剣士「盗賊……?」

鍛冶師「港街にね、居る……なんだろうな」

女剣士「恋人?」

鍛冶師「告白はしたんだけどね……返事待ち」

女剣士「ああ、好きな人が居る、って……その人の事なのか」
0490この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:32:16.72ID:4t/ApNtR
鍛冶師「そうなれば良いけどね……どうする、一緒に行く?」

女剣士「いや、部屋に戻る。こんな状態じゃ魔物もでないだろうし」

鍛冶師「そっか。んじゃまた食事の時に」

女剣士「ああ」



……

………

…………



姫(『「良く来た、勇者よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」』)

姫(『少年の俯く姿を見た王は、ゆっくりとそう告げた』)

姫(『そういう訳では無いんだけどな、と心の中で呟き、少年はそろりと顔を上げた』)

姫(『「は……」はい、とハッキリとした声を出そうとした意思とは反対に』)

姫(『喉は緊張に渇き掠れた。誤魔化す様にこほん、と一つ咳き、そろそろと王の方へと視線を投げる』)

姫(『貫禄のある姿、つやつやと油の乗った王の顔を、歩くスピードに合わせて視線で追う』)

姫(『王座へと腰を下ろし、少年の金の瞳を見据える王の視線を捕らえた王は』)

姫(『どこか満足気に頷き、恭しく口を開いた』)



コンコン



姫「はい?」

使用人「失礼致します、姫様……ッ 起き上がって大丈夫なのですか!?」

姫「だって、続きが気になるのだもの……」

使用人「ですが……」

姫「もう大丈夫よ。熱も下がったわ」
0491この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:33:04.61ID:eO76JwFl
使用人「一週間以上寝込まれていたんですよ?」

姫「大丈夫よ。布団の上で読んでるし」

使用人「魔王様も側近様も、随分心配してらしたのですから」

姫「解ってる……ここで、本を読んでる位なら平気よ」

使用人「私は今から出かけますが……余りご無理なさらぬ様に」

姫「え……どこに?」

使用人「もう一度、港街へです。もうそろそろ船長さん達も戻られる頃です」

姫「……そう。これ、最後まで読みたかったわ」

使用人「そんなすぐに、とは行きませんよ。いくら盗賊さん達が頑張ってくれているとは言え」

使用人「もう少し、時間は掛かる筈です」

姫「そう……」

使用人「それに、姫様の体調が悪ければ式も挙げられませんよ」

姫「……そう、よね」

使用人「すぐに戻ります。ですから……ゆっくりとお休みになっててください」

姫「解ったわ。もう……寝る」

使用人「はい。何かありましたら、使い魔に」スタスタ


パタン


姫「……」

姫「随分、大きくなったわね。急に……」ナデ

姫(私が、子供を産む……)

姫(……実感が無いわ。私に、この子を育てる事はできない)

姫(産まれたらどうなるの?誰がこの子を助けてくれるの?)

姫(……森に居れば、エルフも皆が見てくれた)

姫(私は、そうやって育まれて来た)

姫(でも、この子は……)

姫「……」


……

………

…………
0492この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:33:28.52ID:ppIKYI4b
シュゥン……スタ!



使用人「……」キョロキョロ

使用人「! ……港に、船。あれは船長さんの……」

使用人「もう、戻って来られてたのですね」スタスタ



盗賊「良し、そっち持って……オーケィ」

鍛冶師「盗賊、それで最後だ!」

盗賊「りょうかーい!」

船長「だーかーらー!間に合ってるって言ってるだろ!?」

??「そんな事言うなって!頼むよ!」

船長「しかも二人ってどういうことだ!」

??「もう一人もすぐ来る!絶対に役に立つから!」

女剣士「鍛冶師!どれ教会まで運ぶんだ!?」

盗賊「え?誰?」

鍛冶師「あー、ちょっと待って!女剣士は街の方手伝って来て!」



ワイワイ、ガヤガヤ、ギャアギャア



使用人「……なんです、これ」

船長「お……使用人!こっちだ!」

使用人「戻られてたのですね」

船長「夜明け前になんとかな。お前も早かったな」

使用人「……時間が迫っている様ですので」

船長「何……?」

使用人「姫様が熱を出されてて……」

船長「もう大丈夫なのか?」

使用人「下がりはしたのですが。余り、長くあの城には……」

船長「ああ……そうだな」
0493この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:35:13.29ID:2tmDaErn
??「おい、船長さん!聞いてくれよ!」

船長「だから、うちは間に合ってるって!」

使用人「そちらの方は?」

??「お姉ちゃん!アンタからも頼んでくれよ!」

使用人「何をです……」

??「俺たちは海賊になりたいんだ!だから船長の船に乗せてくれって言ってるんだが」

使用人「……俺たち?」

船長「二人、候補者がいるんだとよ……」

使用人「はあ……」

??「俺は魔法使いだ!魔法を使える奴が居れば、海の旅も安心だろ!?」

使用人「もうお一人、は?」

魔法使い「すぐに来る!だから、なあ、頼むよ!」

??「悪い、待たせたな魔法使い!」タタタ

魔法使い「おっせーよ!お前もさっさと船長に頼み込め、女海賊!」

女海賊「あン?何だよ、駄目だって言われたのか、なっさけネェなお前……」

船長「あいにくだが人は……!」クルッ

船長「………!?」

女海賊「……何だい、鳩が豆食ってパーみたいな顔して」

使用人「……豆鉄砲、ですね。しかし……これは……」

船長「アンタが……女海賊?」

女海賊「ああ、そうだよ。何だ、アタシの美貌に釘付け、ってかァ?」ニヤニヤ

船長「あ、阿呆か!!」

使用人「……船長、とにかく一端お待ち頂いては?勝手で申し訳ありませんが、こちらの依頼の件を急いで頂かないと困ります」

女海賊「何だい、アンタ、急に出て来て……!」

魔法使い「ま、待て待て、依頼人だ、お客さんだろ!!船長、後で話聞いてくれよ!?俺たち、一端宿に行くからさ!」

女海賊「おい、魔法使い……!」

魔法使い「遅れてきた俺らが悪い!つかお前が悪い!行くぞ!」スタスタ

女海賊「チッ……まあ、良い。船長、後でゆっくり話そうぜ!」スタスタ

使用人「……」

船長「……」
0494この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:35:52.52ID:0rqaxABT
使用人「そっくりですね」

船長「……何がだ」

使用人「言わなきゃいけませんか?」

船長「…… ……助かった。悪いな」

使用人「いいえ……大変ですね」

船長「稼げるとでも思ってるんだろ……全く」

使用人「……で、あっちは何なんです?」

船長「え?」

使用人「あのお二人は以前、覗いてたお二人でしょう」



ギャアギャア



鍛冶師「ち、違うんだって、盗賊!」

盗賊「随分仲よさそうじゃネェか。良かったなー。可愛い子と仲良くなれて」

女剣士「?? なあ、鍛冶師、この子か!盗賊って!初めまして!女剣士だ!」

盗賊「……へぇ、もう俺の話までしてんだ。へぇ」

鍛冶師「あの、盗賊!お願いだから聞いて!」

女剣士「ああ、色々聞いたぞ!船でずっと一緒だったからな」

盗賊「へー、へー、へぇ。ずっと、ネェ」

女剣士「これからも宜しくな!」

盗賊「……ッ」

鍛冶師「お、お願い女剣士、今はちょっと黙って!?」

女剣士「?? ……何で?」



ギャアギャア



船長「……放置じゃ駄目かね」

使用人「私は盗賊の味方ですかね。付き合いの長さ的に」

船長「じゃあ、諫めてやってくれよ……俺は何か、厭だ」
0495この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:36:24.00ID:oj7BWQMx
使用人「……そうですね。話が進みませんし」ハァ

使用人「でも、何故揉めてるんです?」

船長「……良いわ、一緒に来い」ハァ。スタスタ

船長「おい、お前ら!」

盗賊「あ、船長……話は済んだのか……って、使用人?」

鍛冶師「あ、君は……」

盗賊「え?」

女剣士「あ……!良かった!アタシ、アンタに用が……!」

盗賊「え?え?」

使用人「……」

船長「落ち着けって!」

船長「盗賊、とりあえずだな……」

盗賊「教会ならもう殆ど出来てるぜ」

船長「……何?」

使用人「鍛冶師の村に行った後、すぐにここに来たのです」

使用人「ですので……お願いしておきました」

盗賊「金も貰ってる。今日人も増えただろ。すぐにでも結婚式の準備は整えられる」

使用人「もう、そんなに?」

盗賊「拘りだしたらキリは無いだろうがな。建物だけなら……2.3日も掛からんさ」

使用人「そう、ですか……」ホッ

船長「……根回しの良い事で」

使用人「さっき言った通りです。時間が……無いんです」

女剣士「そんな!?」

盗賊「え?」

女剣士「……アタシ、やる事ないのか?」

使用人「?」
0496この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:37:09.78ID:TVyRaOvc
船長「あー……まあ、そこら辺は後は鍛冶師と相談しろよ」

鍛冶師「ああ、うん……と」チラ

盗賊「……ッ」フイッ

鍛冶師「……船長、助けて」

船長「知るか、阿呆」

使用人「?」

盗賊「じゃあ、アタシは教会んとこ行くぜ。使用人、後で来いよ」

使用人「え、ええ……一緒に行っても?」

盗賊「ああ、勿論……」

船長「俺も行くわ。見てみたいしな」

鍛冶師「待って盗賊、僕も!」

女剣士「アタシも!」

盗賊「は!?」

船長「……さっさとしろよ、鍛冶師」

女剣士「あ、アタシを置いていくなよ!地理もわかんないのに!」

使用人「……何なんですか、一体」

鍛冶師「ああ、もう!盗賊!」ガシ!

盗賊「え、な、なんだよ!離せよ!」バタバタ

鍛冶師「厭だ!先に行くよ!」グイ!タタタ……

盗賊「え、ちょっと!?」タタタ……

船長「……面倒臭ェなあ、もう」

使用人「あの……?」

女剣士「置いていかなくても良いのになぁ」

船長「お前はちょっと黙れ、女剣士」
0497この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:39:49.51ID:e3wS0Uei
使用人「……どうして、貴女まで一緒にここまで来たのです、女剣士さん」

女剣士「き、決まってるだろ、側近に……!!」

使用人「貴女に側近様を会わす理由がありますか?」

女剣士「た、頼むよ!どうしても、どうしても……もう一回逢いたいんだ!その為に船長や、鍛冶師に無理言って連れてきて貰ったんだ!」

女剣士「頼む!……側近に逢わせてくれ!魔王城とやらに連れて行ってくれ!」

使用人「城に貴女をお連れする事はできません」

女剣士「……ッ じゃ、じゃあ側近を……!」

使用人「呼ぶ事もできません……側近様は、魔王様の傍を離れられませんから」
船長「……」
女剣士「そんな……!」
使用人「お話は……以上ですね。では、船長さん行きましょう」スタスタ

女剣士「あ、アタシも行くよ!」

使用人「……」

女剣士「アンタに教会見に行くの、止める権利は無いだろ!?」

使用人「……お好きに」

船長「そこまでして、逢いたいのか?」スタスタ

女剣士「……勿論だ!」スタスタ

船長「で、どうするんだ。告白でもすんのか」

女剣士「……どうするんだろう」

船長「は!?」

女剣士「わかんネェよ。でも……どうしても、逢いたいんだ!」

船長「……若いってのは凄いね。恥も外聞もネェ」

女剣士「悪かったな!」

船長「……いや。悪かネェよ…… ……羨ましいぐらいさ」

女剣士「え?」

船長「何でもネェ。ま、がんばんな」

……
………
…………

盗賊「何なんだよ、お前は……ッ おい、離せって!」タタタ……

鍛冶師「……」ピタ

盗賊「おい、鍛冶師!どこまで……ッ わぶっ」ドン!
鍛冶師「……ちょっと、黙って」ガシ。ギュウ
盗賊「痛ェ……おい、鍛冶師……おま……ッ ……ッ」
0498この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:40:12.32ID:2rvxZmZi
鍛冶師「女剣士はそんなんじゃ無いから」

盗賊「…… ……一緒だったんだろ。船で。ずーっと」モゾモゾ

鍛冶師「側近が好きなんだって」ギュ

盗賊「……は?」

鍛冶師「良く解らないけど、側近に会いたいらしい」

盗賊「何でお前が側近の事しってんだよ……」

鍛冶師「さらっとだけど、船長に聞いた。使用人ちゃんにも鍛冶師の村で会ったしね」

盗賊「……だからって、なんで此処まで……」

鍛冶師「使用人ちゃんに会えたら、側近にだって会えるかもしれないだろ?」

盗賊「……フン」

鍛冶師「なあ、盗賊。そんなしょうも無い嘘吐かないよ」

盗賊「わか、 ……た、よ。解ったから……離せよ」

鍛冶師「厭だ」ギュ

盗賊「お前……ッ」

鍛冶師「ヤキモチ焼いてくれたんだよね?怒ってくれたんだよね?」

盗賊「……ッ」

鍛冶師「返事、聞かせてよ。僕、全部持って帰ってきたよ」

鍛冶師「港街に引っ越してきた。君と一緒に居るためだ」

鍛冶師「……好きだよ、盗賊。大好きだ」

盗賊「…… ……」

鍛冶師「僕の、お嫁さんになって?」

盗賊「……え!?」

鍛冶師「え?だ、駄目なの!?」

盗賊「い、いきなり、よ、…… ……え、えええ!?」

鍛冶師「そ、そりゃすぐには無理なの解ってるよ!で、でも!」

鍛冶師「……何れ、さ。何時か、そのうち……ね?」
0499この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:40:30.23ID:mijO+AHZ
盗賊「……」

鍛冶師「……」

盗賊「……俺で、良いのか?」

鍛冶師「盗賊じゃ無きゃ、駄目」

盗賊「がさつだぜ?」

鍛冶師「気にしてるの?」クス

盗賊「…… ……それに」

鍛冶師「うん」

盗賊「お、女らしく無いし……ッ」

鍛冶師「気にするなら、変えていけば良いよ」

鍛冶師「僕は別に気にしないけどね」

盗賊「……」

鍛冶師「盗賊だから。君が君だから好きだよ」

盗賊「……うん」

鍛冶師「ん?」

盗賊「だ、だから、うん、って!」

鍛冶師「わかんない。ちゃんと言って」ギュウ

盗賊「……お。 ……あ、アタシ、も。好き、だよ」ギュウ

鍛冶師「アタシって言った……」

盗賊「お、あ、……ッだ、 だって、……ッ」

鍛冶師「うん。でもその方が可愛いかな」ギュウ

盗賊「……か、ッ …… あ、あり、がと……」カァッ

鍛冶師「……ッ やったー!」ギュウ、ブンッ

盗賊「わ、わあ!振り回すな!」

鍛冶師「僕のだ。やっと……僕のだッ」

盗賊「……ッ も、モノじゃネェよ!」

鍛冶師「ん。御免。でも、僕の」

盗賊「……ん」
0500この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:41:03.80ID:SA9iOwfj
鍛冶師「……教会で、結婚式、挙げるんだよね?」

盗賊「魔王と姫が、な」

鍛冶師「もうすぐ出来るの?」

盗賊「建物だけは、な。教会らしくしようと思えばまだまだだけど……」

鍛冶師「……時間が無いんだっけ。急いでる、んだよね」

盗賊「そうだな」

鍛冶師「……なあ、盗賊」

盗賊「何だ? ……とにかく、戻ろうぜ。使用人も待ってるだろう」スタスタ

鍛冶師「あ、待って待って……ほら、手」

盗賊「手?」

鍛冶師「手、繋ご?」

盗賊「……う、うん」ギュ

鍛冶師「ふふ……」ブンブン

盗賊「子供か……」

鍛冶師「嬉しいくせに」ブンブン

盗賊「な……ッ」

鍛冶師「あれ……嬉しくない?」

盗賊「……そ、そんな事、ない……」

鍛冶師「うんうん」

盗賊「お前……浮かれてるだろ」

鍛冶師「当然でしょ」

盗賊「……」ハァ

鍛冶師「何だよー」

盗賊「何でも無いよ……もう」

鍛冶師「……あッ」

盗賊「今度は何だよ……」

鍛冶師「教会って……アレ!?」


……

………

…………
0501この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:41:44.97ID:21WuRuN9
神父「お帰りなさい、船長さん……そちらの方は?」

船長「こいつは女剣士だ……使用人は知ってる、んだよな」

使用人「お久しぶりです、神父さん」

女剣士「……初めまして」

神父「初めまして。神父と申します」

神父「……盗賊さんはどうしました?船が着いた時」

神父「迎えに行くと飛んで行ったのですが……」

船長「鍛冶師とどっか行っちまったよ。ま、その内戻ってくるさ」

船長「…… 婦は?」

神父「今日は……ちょっと熱を出されていまして」

船長「そうか……大丈夫なのか?」

神父「ええ、解熱効果のある薬酒を飲ませて、寝かしています」

使用人「……」

神父「……如何でしたか、使用人さん。お役に立ちそうですか?」

船長「ん?」

使用人「……魔除けの石を作って頂いたのです。魔王様と姫様の為に」

船長「魔除けの石!? ……出来たのか」

神父「……『願えば叶う』」

船長「……」

使用人「本日も……頂けるのでしょうか」

神父「それについては少しご相談が」

使用人「え?ええ……」

船長「神父さんよ、 婦の見舞いには行けるのか?」

神父「暫く起きないとは思いますが……後でよろしければ、ご一緒しますよ」

船長「ああ。構わんさ」

女剣士「……教会って、あれ、か?」ス……

神父「ええ。小さいですが……街の皆様、随分頑張って下さったのですよ」

神父「使用人さんが残業代として、代金もだして下さいましたしね」
0502この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:42:07.51ID:T1xjbmoL
使用人「もう完成している……様に見えますが」

神父「本当に、もう少し、です」

神父「盗賊さんから何か……おや」

女剣士「え?」

神父「いえ……戻って来ましたね」

船長「…… ……なんだよあいつら、手なんか繋いで……」

女剣士「うまくいったんだな」ホッ

鍛冶師「神父さん!お久しぶりです! ……吃驚した、殆ど出来てるじゃないか!」

盗賊「完成はしてないって!だから……」

女剣士「良かったな、鍛冶師……」

鍛冶師「……ん。サンキュ」

盗賊「あ、女剣士……さっき、御免」

女剣士「え、何が??」

使用人「盗賊さん」

盗賊「何だ?」

使用人「……何時、魔王様と姫様をお連れすれば良いですか」

盗賊「……急いでる、んだよな?」

使用人「ゆっくりしている時間は……ありませんね」

盗賊「三日……否、二日、だな」

使用人「具体的に、後何が出来ていないのです?」

盗賊「内装だ。まあ……結婚式なんかしないならこのままでも良いんだがな」
0503この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:42:27.03ID:Gpgl19Cy
使用人「内装、ですか……見せて頂いても?」

神父「ええ、それは勿論」スタスタ……カチャ

女剣士「う、わぁ……!」

使用人「……綺麗、ですね」

盗賊「けど、何も無い。ステンドグラスも、装飾もな」

使用人「……十字架のみ、ですか」

神父「必要です……ここは教会ですから」

鍛冶師「あの十字架……木?」

神父「ええ、余った木材で組んだだけです」

使用人「……充分、なのでは?」

盗賊「そうか?」

鍛冶師「折角の結婚式だし、少しぐらい装飾は欲しいけどなぁ」

船長「形だけ、ってんなら別に良いんじゃネェの?」

盗賊「……そんなに、時間ねぇのか」

使用人「そうですね……」チラ

神父「……」フイ

女剣士「?」

船長「で、どうすんだ?」

使用人「……明後日。でよろしいですか」

船長「熱出してんじゃネェの。大丈夫なのか?姫は」

使用人「今日は元気そうにしていらっしゃいました」

使用人「……早いほうが良いでしょう。帰ったら、魔王様に伝えます」

女剣士「あ……ッ あの、さ!結婚式って事は」

女剣士「側近も来るのか!?」

使用人「え?ええ……それは、まあ」

女剣士「じゃ、じゃあ……会えるんだな!?」
0504この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 09:43:03.92ID:zGkYzjdC
使用人「……ゆっくりと話す時間があるかどうか、保証はしませんよ」

女剣士「ああ、構わない!会えるだけで……!」

鍛冶師「出来れば僕も会ってみたいなぁ、側近って人」

盗賊「お前も!?」

鍛冶師「僕は魔法剣の話を聞きたいだけだけどね」

使用人「……魔法剣?」

鍛冶師「そう。その名の通り魔法の力の宿った剣さ」

鍛冶師「僕は何れ、そんな不思議な剣を作ってみたいんだ」

使用人「……成る程」

使用人(魔法剣……魔王様の剣も、その類……なんでしょうけど)

盗賊「全く……本当に、そういう所はしつこいよな、お前……」

鍛冶師「探求心と言って!」

船長「やれやれ……お前達は全く」

使用人「……では、明後日。宜しくお願い致します」

神父「そんな簡単に決めてしまって良いのですか?」

使用人「……良いんですよ。姫様にドレスを着せて差し上げて」

使用人「貴方達は夫婦です、と。宣言すれば」

女剣士「いい加減だな……」

使用人「……」

船長「神父さんよ、話も終わった様だし……良いか?」

神父「ああ…… 婦さんを見舞うのですね」

盗賊「アタシの家か?」

神父「え」

使用人「え」

船長「え」

鍛冶師「……」ニコニコ

盗賊「な、なんだよ……!」

神父「え、ええ……盗賊さんの家、ですけど……」

盗賊「……ッ あ、案内するから来いよ!」スタスタ

船長「あ、ちょ……ッ 待て、って!」スタスタ
0505この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:10:49.96ID:95QUTK1l
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50

シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50

シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0506この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:42:38.82ID:9XZlHJ6Q
鍛冶師「ふふ……」

女剣士「嬉しそうだな、鍛冶師……」

鍛冶師「そりゃ、ね」

神父「やれやれ……まあ、おめでとうございます、ですね」

神父「…… 婦さんも喜びますよ」

鍛冶師「あんまり大勢で押しかけてもアレだよね。僕は街の方を手伝ってくるよ」

女剣士「アタシも行くよ。 婦って人とは面識ないし……お金、稼がないと」

神父「ええ、では気をつけて……使用人さんは、どうします?」

使用人「……少しお話よろしいでしょうか?」

神父「……ええ」

鍛冶師「じゃあ、神父さん、後で!」スタスタ

女剣士「あ、宿とかある?鍛冶師……」スタスタ

鍛冶師「……お金は?」

女剣士「……あ」

使用人「……」

神父「……なんでしょう、か」

使用人「魔除けの石の事で、と仰ったのは神父さんですよ」

神父「……そうでしたね」

使用人「渡す事はできない、ですか?」

神父「結論から言うと、そうです。 婦さんは……魔王に会いたがるでしょうから」

使用人「……でしょうね」

神父「解っていらっしゃいましたか」

使用人「推測に過ぎません。しかし…… ……」

神父「……」

使用人「具合は、如何なのです?」
0507この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:43:00.80ID:4W9ifc/J
神父「お元気そうですよ、と……そんな答えが返ってくると思っています?」

使用人「……」

神父「以前にも言いましたよね。私には、感じる力……エルフの姫、でしたか」

神父「その方の様に、命の炎を視る事はできません。ですが……」

使用人「……もう、持たない、のですね」

神父「このままという事は無いでしょう……いえ、そう思いたい、ですが」

神父「……私達人間、に。どれほどの影響を与えるか解らないでしょう。今の魔王は」

使用人「……」

神父「その魔の気、とやらがどれほどの物なのか想像も付かないですが」

使用人「備えあれば憂い無し?」

神父「それもあります。ですが……何より……」

神父「……本当は言いたく無い。考えたくも無い。ですが」

使用人「……」

神父「出来れば、一目魔王に……いえ」

神父「 婦さんの愛する人に、会わせてあげたい、のです」

神父「ですから。魔除けの石を……差し上げる事はできません」

使用人「そう、ですか……わかりました。ありがとうございます」

神父「貴女は、 婦さんにお会いになりますか?」

使用人「……どう、しましょうか。これと言って用事がある訳では無いのですが」

使用人「私の魔力程度で、 婦さんがどうにかなる、とは……思いません」

使用人「……でも、それも推測に過ぎませんから」

神父「……明後日、で良いのですね?」

使用人「はい」

神父「では、私の口から伝えましょう。会えると思えば……」

使用人「元気も出る?」

使用人「……出て、欲しいです」
0508この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:43:19.20ID:uf2Lt1Pb
使用人「……解りました。では、このまま城に戻ります」

使用人「準備も、ありますので……」

神父「はい……進行は私でよろしいのですか?」

使用人「引き受けて下さるのですか」

神父「勘違いなさらぬ様…… 婦さんの為です」

使用人「……はい」

神父「では……私も失礼致します」スタスタ

使用人「神父さん」

神父「はい?」

使用人「……ありがとうございます」ペコ

神父「…… ……」スタスタ

使用人「……」シュゥン……



……

………

…………



コンコン



盗賊「 婦?」

船長「眠ってるんじゃネェのか」

盗賊「……か、な」キィ……

盗賊「…… 婦?」

 婦「……」

船長「相変わらず、細い……な」

盗賊「……」ナデ

盗賊(随分、体温が低いな……胸は、上下してる)

盗賊(生きてる……)ホッ

船長「そんな方法で確かめなきゃわかんねぇのかよ」

盗賊「船長……」
0509この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:43:42.52ID:XeBGNChw
船長「……悪い。責めてる訳じゃない。誰も、別に……」

船長「……」

盗賊「目、覚める迄いるか?」

船長「俺か? ……否、良いよ。俺たちが居ると知れば、起き出そうとするだろ」

盗賊「……」

船長「おい?」

盗賊「いや、何でも無いよ。確かにそうだな、と思っただけだ」

船長「……随分悪いのか?」

盗賊「俺には解んネェよ。ただ……痩せたな、とか。顔色悪いな、とかさ」

盗賊「……そんな事しか」

船長「一年、って言ってたか」

盗賊「……まだ、半年以上あるさ」

船長「……」



コンコン



盗賊「はい?」

神父「私です」

船長「神父さんか……俺は、行くよ」

盗賊「良いのか?」

船長「良いって……言ったろ、さっきも」カチャ

神父「ああ、船長さん…… 婦さん、起きられましたか?」

船長「いや。まあでも良いさ。まだやる事もあるしな」

盗賊「俺も行くよ。準備もあるしさ」

船長「おう、盗賊。お前……」

盗賊「ん?」

船長「いや、いいや……」

盗賊「何だよ!」
0510この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:44:03.97ID:crCtsOi1
船長「デケェ声だすな! ……飯でも食うかと思っただけだ」

盗賊「あー……そうだな。またゆっくりしようや、今度」

盗賊「……久しぶりに会うんだ。魔王と姫に、さ」

船長「あいつらにそんな時間あんのか?」

盗賊「違う違う。準備の話……その後でもさ。飯ぐらい食えるだろ?」

船長「ああ……そう、だな」

盗賊「バタバタ片づいたら、 婦も神父さんも誘って、さ」

神父「私もですか?」

盗賊「ああ。この間試食して貰ったろ?もうちょっとであそこも」

盗賊「きっちりオープンするだろうしさ」

船長「ああ、そうか……まだまともに飯屋もネェのか」

盗賊「宿屋に行けば一応の飯は出してくれてるぜ」

船長「そっか。んじゃま、行ってみるわ」

神父「お二人とも、あまり無理をなさらぬ様に」

盗賊「うん。神父さんもゆっくり休めよ」

船長「じゃあな」



パタン



 婦「……帰られ、ましたか」

神父「起きていたのですか?」

 婦「今、です……」

神父「ああ、どうぞ、その侭……」

 婦「すみません」フゥ

神父「お加減、如何です」
0511この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:44:35.62ID:QSUo7ASl
 婦「薬酒と、神父様の回復魔法のおかげで……随分良いです、よ」

神父「そうですか……」

神父(しかし……顔色は悪いまま、か)

神父「ちょっと失礼……うん、熱は下がりましたね」

神父(下がりすぎ……と言っても過言では無い。やはり、この侭では……ッ)

 婦「神父様……?」

神父「……先ほど、使用人さんがいらっしゃいましたよ」

 婦「使用人さんが? ……ああ、そういえば、船長さんのお声も聞こえていましたね」

 婦「もう……そんなに時間が経った、のですね……」

神父「……明後日」

 婦「はい……?」

神父「明後日、式を挙げられるそうです」

 婦「……ッ 魔王様が、この街に……?」

神父「はい。お会いするためにも、今はしっかりお休みになってください」

 婦「そうですか……会える、のですね……」

神父「……」

 婦「嬉しい……」

神父「ええ……ですから、お休みなさい。盗賊さんが戻られる迄」

神父「私も、ここに居ますから」

 婦「ありがとうございます……申し訳、あり……ま……」スゥ

神父「 婦さん……?」

神父(眠った、のか……先ほどより、少し頬に赤みが差している)

神父(……魔王に会えるのが、余程嬉しいのですね)

神父(早く……早く、明後日になれば良い)

神父(神よ……少しでもこの者の苦痛を、どうか……和らげてください……!)
0512この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:45:15.09ID:+f3+/TKZ
……

………

…………


宿屋


キィ、パタン……


船長「スマン、此処で飯が食えるって……」

魔法使い「あ!船長!」

女海賊「遅かったじゃネェか!待ちくたびれたぞ!」

船長「…… ……」

船長(こいつらの事、すっかり忘れてた)


カチャ、パタン


鍛冶師「あー疲れた!」

女剣士「……悪いな、宿代まで……あれ?」

船長「鍛冶師!女剣士も……」

鍛冶師「……え、 婦ちゃん!?」

船長「……ッ」

女海賊「あ?アタシ?」

魔法使い「 婦?」

船長「……最悪のタイミングだな、お前ら」

鍛冶師「 婦ちゃん、じゃ無いのか……びっくりした」

女剣士「?」

船長「お前ら、ややこしいから散れッ」

鍛冶師「何だよ、飯食いに来たんだよ」

女剣士「アタシ、先に部屋取ってくるよ」

鍛冶師「ああ。いっといで」

魔法使い「えーと、知り合い、っすか」

女海賊「 婦って誰だい?」

船長「ちょっと黙ってくれ……」
0513この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:45:39.54ID:bzwfOLet
魔法使い「まあまあ、船長。あ、始めまして、俺は魔法使いです」

魔法使い「で、こっちは……」

女海賊「女海賊だよ……なんだ、その 婦、て奴に似てるのか?アタシ」

鍛冶師「いや……うん、何だろう。雰囲気は全然違うけど、顔は、ねぇ?」

船長「阿呆。似てネェよ……悪い、女将さん。何か食わしてくれ」

鍛冶師「あ、僕も」

船長「おい!」

女剣士「良かった、宿あいてた! ……アタシも!」タタタ

魔法使い「俺らどうする?」

女海賊「折角なんだ。話もしたいし同席させて貰うよ」

船長「……俺は飯食ったらすぐ行くぞ」

鍛冶師「え?どこか行くの?」

船長「ちょっとな……荷物も下ろし終わったし、すぐに戻る」

女剣士「船で出るのか?」

船長「ああ……」

魔法使い「あ!じゃあ是非お供を……!」

船長「阿呆!着いてくんな!」

女海賊「良いじゃないか!全然話も出来ないだろう!」

鍛冶師「……えっと、あの。お二人は……?」

女海賊「アタシ達は海賊になりたくてね。是非船長の船に乗せて貰いたくて、さ」

船長「断る、と言っただろう?」

女海賊「……アタシ達がお宝の地図を持ってても、かい?」

船長「……何?」

魔法使い「まあまあ、此処では、ね。あ!でもさ。宝を手に入れたからって」

魔法使い「はいさようなら、なんてやらねぇよ!?」
0514この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:46:54.90ID:EK7sLdsB
女剣士「あ!そうだ! ……船長って、海賊だったんだってな!」

船長「は!?」

女剣士「船の中で鍛冶師に聞いて、初めて知ったよ!」

鍛冶師「……あ、そういえばそんな事言ってたね。船長、話してなかったの?」

船長「お前の脳みそはあれか。筋肉でできてんのか、女剣士……」

船長「俺は何回もお前の前で、海賊って単語を出してると思うがな」

女剣士「……あれ?」

鍛冶師「……おかしいと思った。そうだよな」

女海賊「脳みそ筋肉……」

魔法使い「略して脳筋」

鍛冶師「まんまだね」

船長「頼むから黙ってくれ。黙って食え!」

魔法使い「解った、黙る。黙るからさ」

魔法使い「その、ちょっとのお出かけ、着いていっていいかい?」

女海賊「そうだな。船の中で話そうよ?」

船長「…… ……」

鍛冶師「なぁんか、虫の良い話だなぁ」

女剣士「え、虫!?どこ!?」

鍛冶師「うん、君は黙ろうか、女剣士」

船長「……良いだろう。先に船の所に行っとけ。乗らずに待てよ」

魔法使い「やった!話解ってるね!」

女海賊「オーライ。お互いに特のある話なんだ。良い関係になれる事受けあいさ」

船長「聞くだけ聞いてやる、が。変な真似しやがったら遠慮無く海に突き落とすぞ」

魔法使い「解った解った、んじゃ先に行こうぜ女海賊」

女海賊「ああ。待ってるからね、船長!」



スタスタ。パタン



鍛冶師「……良いの」

船長「黙って食え、って言っただろう」
0515この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:47:42.67ID:Xyj7SOiO
船長「……そんなに、似てるか」

鍛冶師「え?」

船長「……」

鍛冶師「 婦ちゃんに?まあ……黙ってたら、かなぁ」

鍛冶師「……さっきは似てないって言い切ったじゃ無いか」

船長「ご馳走さん」スタスタ……カチャ、パタン

鍛冶師「……なんだ?」

女剣士「随分機嫌悪かったな」

鍛冶師「君はものすごく機嫌良いよね」

女剣士「そりゃそうだ!明後日には側近に会えるんだ!」

鍛冶師「……そ、そうだね」

鍛冶師( 婦ちゃんに似てる、って言うと……顔色変わったな)

鍛冶師(何かまずい事言ったのかな)

女剣士「ああ、美味しかった!ご馳走様!」

鍛冶師「早ッ」

女剣士「随分身体動かしたからな」

鍛冶師「あー……今日はもう終わりだろうし、部屋でゆっくり休んだら?」

女剣士「ん?そう、だな……鍛冶師」

鍛冶師「ん?」

女剣士「……本当に、ありがとう。なんとお礼を言って良いか」

鍛冶師「ご飯ぐらいで大袈裟な」

女剣士「違う……まさか、本当に、こんなに早く」

女剣士「側近に会える事になると思わなかったんだ」

女剣士「ありがとう。金はきっと返す」

鍛冶師「……うん。解った」

女剣士「じゃあ、先に休む。盗賊に宜しく」スタスタ

鍛冶師「……」

鍛冶師(盗賊はまだ街の中かな……探してみるか)


……
………
…………
0516この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:48:08.77ID:u5IJYK2F
船長「……本当に待っていやがった」

女海賊「待ってろ、て言ったのはアンタだろう?」

魔法使い「で、船に乗って良いんだろ」

船長「……良いだろう。すぐに出すぞ」

魔法使い「あいよ!」

女海賊「何処に行くんだい?」

船長「……すぐ近くの小さい島だ」

女海賊「お。お宝探しか?」

船長「違うわ阿呆……墓参りだ」

魔法使い「……墓参り?」

船長「ついでに花を摘みに、な」

女海賊「花!その顔で!?」

船長「顔は関係ネェだろ!」

魔法使い「こらこら……」

女海賊「花なんか何に使うんだよ」

船長「お前達に話す義理はネェ……さっさと本題に入れ」

船長「っと、野郎共!船出せ! ……廃港に行くぞ!」



アイアイサー!



女海賊「廃港?」

船長「本題に入れと言ったんだ。話さないなら出てけ」

魔法使い「……機嫌悪いね。まあ、良い……これ、見たら驚くぜ」バサ

船長「地図広げても…… ……ん?」

魔法使い「フフン」ニヤニヤ

船長「……随分古い地図だな」

女海賊「とある貴族の屋敷にな。あったんだよ、この地図が」
0517この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:48:33.20ID:8BAisw0R
女海賊「……此処だ」トン

船長「これは……島、か」

女海賊「そうだ。南の端の端……小さな島がある」

船長(エルフの森のある……いや、違う。あの島は地図には……しかし)

女海賊「今出回ってる地図の中に、この島の乗ってる物は無い」

魔法使い「勿論、お宝が眠ってる保証は無い。が……何も無い、って保証も無い」

船長「…… ……」

魔法使い「魔物の荒れ狂う地獄みたいな島かも知れない。が!」

女海賊「行ってみる価値が無いとは言い切れない!」

船長「……で、船が欲しかった訳か」フゥ

女海賊「だがな、アタシ達は別に、本当にお宝を手に入れたからって」

女海賊「バイバイするつもりなんてねぇんだ」

女海賊「……海賊になりたい、てのは本当なのさ」

船長「何故だ?」

女海賊「……アンタにも探求心ってモンはあるだろう?」

女海賊「好奇心でも良い。この海を流れに流れて、世界の果てまで」

女海賊「……知識欲を満たしたいとは思わないか?」

魔法使い「俺は、魔法にゃ自信があるぜ。海の魔物に手こずる事もあるだろう」

魔法使い「こいつも男勝りで腕も立つ」

魔法使い「雇えとは言わない。報酬もいらねぇさ」

魔法使い「俺たちを仲間にして欲しい。海賊の間では、アンタは有名だ」

女海賊「あっさりはいそうですか、って信用して貰えるとは思ってネェ」

女海賊「だからこうして、地図も持参した」

女海賊「頼む……アタシ達を、この船に乗せてくれ!」

船長「…… ……」

船長「すぐに返事は出来ん……それに、海賊稼業は実質休業状態だ」
0518この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:49:29.37ID:jBj1sUZy
魔法使い「知ってるよ。港街を活性化させるんだろう」

女海賊「魔導の街に勇者が現れて、劣等種、だっけ……救った、んだろう?」

船長「……」

魔法使い「俺たちを船に乗せてくれるなら何だってする。だから……頼む!」

女海賊「アタシ達を、海賊にしてくれ!」

船長「……まずは下働きを手伝え」

魔法使い「!」

女海賊「!」

船長「だが、それも仲間にする、って訳じゃネェぞ」

船長「海賊稼業を再開するまで、どれだけかかるかわからねぇ」

船長「お宝探しもその後だ。それまで意思が変わらなければ、だ」

魔法使い「いやっほーぅ!」

船長「うるせぇ!騒ぐな! ……地図は預かるぜ」

船長「それから、妙な真似はすんなよ。部屋は与えるが、見張りはつける」

船長「その条件を飲めるか?」

女海賊「勿論だ!」

船長「良し……おい、誰か!」

海賊「呼びましたかい」

船長「こいつらに『特別室』を与えた。案内した後、まずは甲板掃除だ」

魔法使い「特別室?」

女海賊「……なんか厭な予感がするんだけど」

船長「閉じ込めやしねぇよ。船の一番底の、物置代わりの部屋の事だ」

海賊「良し、こっち来い!」

魔法使い「ま、まじっすか……」

女海賊「た、耐えてやるよ!絶対に……!」

パタン


船長「やれやれ……」フゥ

海賊「ああ、船長。もうすぐ着きますぜ」

船長「おう……半日で戻る。それまで、あいつらこきつかっとけ」

海賊「アイアイサー!」
0519この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:50:09.02ID:ZsdMOsam
……

………

…………



シュゥン……



使用人「……ん」スタ

使用人「!? 花が……!」

使用人(庭の花が、枯れてる……どうして……ッ)タタタ

使用人「……ッ これは……ッ」

使用人(魔王様の魔力、また……強くなってる!?)


バタン!


使用人「魔王様!側近様!?」

側近「王手!」

魔王「……ッ く、糞、又か……!!」

使用人「…… …… ……」

側近「あれ、使用人ちゃん?どしたの?」

魔王「使用人、丁度良いところに来た!すまんが……」


ボカッ

ゴスッ


側近「……痛ェ」

魔王「何するんだ……」

使用人「申し訳ありません、我慢できませんでした」

側近「何その棒読み……」

魔王「……ますます側近に似てきたな、使用人」

使用人「花が……」

側近「え?」

使用人「……庭の花が、全て枯れていたんです」
0520この頃流行の名無しの子垢版2021/02/19(金) 22:51:43.26ID:tY/rijHX
魔王「……私の所為、か?」

側近「篭もってるとわかんくなるな」

使用人「お元気そうで何よりです」

側近「……その目怖いからやめて」

使用人「側近様、魔王様の剣は?」

側近「ん? ……あらま、折れてら」

使用人「あらま、じゃ無いでしょう!」

魔王「……そろそろ、限界か」

使用人「明後日、です」

魔王「何がだ?」

使用人「もう一度殴りましょうか?」

魔王「いや、流石に解らん。解らんから……腕を下ろしてくれ」

使用人「……式、挙げられるのでしょう」

側近「もう出来たの!?」

使用人「はい。魔王様と側近様が、チェスとオセロと将棋をなさってる間に」

側近「……トゲがあるなぁ。仕方無いだろ?」

魔王「そうか……とうとう、か」

使用人「どうぞ、ご準備を」

魔王「準備、と言われてもな」

使用人「……お召し替えとか、無いのですか?」

側近「ああ。お前あれ着れば?最初に旅立とうとした時にさ、言ってた奴」

魔王「白金の鎧に赤いマントか!」

使用人「……」

魔王「良し、探してくる」スタスタ

使用人「あ、魔王様、どこに……!」

魔王「隣の部屋だ。 婦の魔石を持っているから心配するな。何かあったら側近が体当たりでどうにかしてくれる」

側近「えええええええええええ」

使用人「……ちょっと、悪ふざけが過ぎませんか」

側近「ん?服装の話?」

使用人「全部ひっくるめて、です!こんな、こんな時に……!」
側近「……こんな時、だから。だろ」
0521この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 05:45:39.43ID:EszavEyQ
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50

シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50

シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0522この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:18:11.68ID:71oK/tiG
今日は成田産トランクショーの偽物販売陣頭指揮で忙しいのかな?
荒らしに来ないねw
トランクショーに顔出し出来ないから電話で指示するのかな?
トランクショーの捏造パチあつたですよシリーズも本物かどうか不安だと言えは、
返金してくれるらいいよ
https://www.instagram.com/tv/CCk_156DMm9/?igshid=119yg0rp64a07
0523この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:35:39.91ID:ptATNLKe
使用人「あ……」

側近「……最後なんだぜ、使用人ちゃん」

使用人「……」

側近「式が終わったら、魔王様はすぐに姫様とあの北の塔へ行くだろう」

側近「俺もついて行く。どうにか……魔王様を連れて帰って来ないとな」

使用人「……はい」

側近「多分、俺も一緒に……眠る事になるんだろう」

使用人「……」

側近「後は任せたぜ」

使用人「…… ……」

側近「返事は?」

使用人「……はい」

側近「ん。じゃあ、姫様の用意頼むな」

使用人「はい。でも……どうやって港街まで行くのです?」

側近「俺は魔王様と、ここから直接転移する。お前は転移石いくつか持って」

側近「……姫様と一緒に行け。お前は優秀だし」

側近「姫様を抱えて飛べるだろう」

使用人「……ッ 解りました。やってみます」

側近「大丈夫だ。ね……」

使用人「願えば、叶う。 ……すっかり、呪文みたいになりましたね」

側近「……そうだな。さて、姫様はもう寝てると思うし」

側近「使用人ちゃんも、今日はゆっくり休みなさい。あの馬鹿の相手は俺がするから」

使用人「……はい」

側近「使用人ちゃん」

使用人「はい?」

側近「泣くなよ?俺たちは泣いちゃいけない。悲しんじゃいけない」

使用人「……はい」


スタスタ、パタン


側近「悲しんじゃいけない、か……辛いね」
0524この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:36:03.42ID:jn/23hCA
魔王「おや、使用人は?」

側近「休ませたよ」

魔王「……そうか」

側近「無理すんな……顔色悪いぞ。お前ももう休めよ」

側近「本当に、ずっと手を繋いでなきゃいけない状況とか、俺厭だぜ」

魔王「私も厭だ」

側近「だから!」

魔王「……解っている。明後日、と言っていたな」

側近「ああ。港街から……北の塔か」

魔王「……」

側近「魔王様?」

魔王「お前は、良いのか」

側近「他にどうしろって言うの。言いも悪いも……選択権無いでしょうが」

魔王「……しかし」

側近「美しい世界を守りたい、んだろう?」

魔王「……」

側近「俺だって、ヤダよ。俺が拒否したから世界が滅びました、なんてさ」

魔王「滅んでしまえば何も無くなる。そんな事考えなくても良くなるんだぞ」

側近「いや、だからってな……」

魔王「……すまん」

側近「謝るな。お前の所為じゃネェさ」

魔王「しかし……親父も、祖父も……きちんと、跡継ぎを作ったのにな」

側近「……腐った世界の腐った不条理、断ち切るんだろ?」

魔王「……」

側近「勇者様が魔王を倒して、みんなハッピーになる世界」

魔王「果たして……それは、美しい世界、なのか?」

側近「……」

魔王「人間は、良いだろう。しかし……」
0525この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:36:49.21ID:3ldHWqbL
側近「……考えても仕方ねぇ。俺たちにはこれしか方法が無い」

魔王「……」

側近「お前をそのままにすれば、世界は跡形も無く滅ぶ……かもしれない」

側近「勇者、てなもんに望みを託せば、世界は救われるかも、しれない」

側近「……どっちも、不確定な未知の世界だ」

魔王「……ああ」

側近「選べるのなら、どっちだ?後者なんだろ?希望のある方を選ぶ、んだろう……なら、拒否権は無いさ」

側近「少なくとも、俺には……な」

魔王「……すまん」

側近「もう謝るな。ほら……休めよ」

側近「今暴走されるのが一番困るんだからな」

魔王「解ってる……お休み、側近」

側近「おう」

側近「……」

側近(腐った世界の腐った不条理、ね)

側近(……今の侭、ずっと続けば……否)

側近(もし、はあり得ない。魔王様に世継ぎが居ない以上)

側近(……この世界は、美しいのか?)

側近(本当に俺に、拒否権は無いのか?)

側近(勇者が、魔王を倒す……そんな世界)

側近(本当に……あるんだかな)フゥ


……

………

…………


船長「久しぶりだな、知人」

船長(相変わらず、花で一杯だな。どうして枯れないんだか……)

船長「エルフってのは……おかしな生き物だな」

船長「……悪いな。折角の式だ。殺風景じゃ、な……」プチ

船長(…… …… ……)プチ、プチ
0526この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:37:11.60ID:VzOBmHzd
船長(水色の、花……小さくて可愛いな)プチ

船長( 婦に……)プチ

船長「良し。もう……良いか」

船長(これ以上は持てないしな。船まで戻る間に、魔物に襲われちゃたまらネェ)

船長(ここらで引き上げるか)スタスタ

船長(…… 婦)

船長(……)ブンブン

船長「チッ ……らしくネェぜ」

船長「ん?」



海賊「オラ!怠けんな魔法使い!」

魔法使い「痛ェ!蹴らないでくれよ!」

海賊「サボってるからだろ!」

魔法使い「体力、体力が……」ブツブツ

女海賊「おい!あっちの掃除は終わったぞ!」

海賊「じゃあ、こいつ手伝え!」

女海賊「……お前、まだやってたのか!?」

魔法使い「うるさい!」



船長「…… ……」

船長(何言われるかわからん。声かけるのはやめとくか)

海賊「お、船長おかえりなさ…… ……」

船長「……似合わネェのは解ってら!」

海賊「あ、いえ、その……いえ」プフ

船長「……ッ さっさと船出せ!」

海賊「あ、アイアイサー!」
0527この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:37:44.69ID:+/uCzOcY
……

………

…………



神父「ああ、お帰りなさい盗賊さん……鍛冶師さんも一緒ですか」

盗賊「悪いな、神父さん遅くなっちまって……」

神父「いえいえ。大丈夫ですよ」

鍛冶師「 婦ちゃんは……どうだい?」

神父「今はぐっすり休まれていますよ」

盗賊「そっか……良かった」

神父「もう夜も更けましたし……私は、これで」

盗賊「うん。ありがとう……神父さん」

神父「いいえ……では、おやすみなさい」


パタン


鍛冶師「……本当だね。ぐっすり眠ってるみたいだ」

盗賊「あの魔除けの石作ってから急に、な……体調、崩したからさ」

鍛冶師「魔除けの石?」

盗賊「……魔王の魔力の暴走、だっけ。なんだっけな」

盗賊「何しか、押さえる為に、って……」

鍛冶師「 婦ちゃんは、魔王が好きなんだよね」

盗賊「ああ」

鍛冶師「……勇者様、だもんな。解らなくは無いけど」

盗賊「……」

鍛冶師「女剣士も、側近が好きだって言ってたし」

盗賊「……吃驚したぜ」

鍛冶師「そっちの話の方が吃驚したよ」

鍛冶師「ある程度、さ。聞いてたけど……」

盗賊「……知りすぎだ。俺たち」

鍛冶師「え?」
0528この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:38:06.66ID:VamSQ5lI
盗賊「そりゃ、一番最初に首突っ込んじまったの、俺なんだけどさ」

鍛冶師「……」

盗賊「知らない方が、幸せって事だってある、んだな」

盗賊「……いや。使用人にも言われたよ。もし、とか。あの時……とか」

盗賊「考えても仕方無いんだ、ってさ」

鍛冶師「そう、だね」

盗賊「……なあ」

鍛冶師「ん?」

盗賊「お前、もう家は決めたのか?」

鍛冶師「ああ、ううん……荷物はありがたくここに置かして貰ってるけど」

鍛冶師「当分はまだ宿暮らしだな」

盗賊「金が貯まる迄?」

鍛冶師「……いや、うーんと」

盗賊「?」

鍛冶師「あの、さ。船長から聞いたんだけど」

盗賊「ん?」

鍛冶師「……町長にはならない、んだって?」

盗賊「ああ……そりゃな。俺、そんな器じゃネェもん」

盗賊「今はどうしようも無いから俺がやってるけど」

盗賊「落ち着いたら、きちんと町長選出してさ」

盗賊「……やっと、元の生活に……あ!」

鍛冶師「?」

盗賊「も、もう盗賊まがいの事はやんねーよ!?」

鍛冶師「ああ……それは心配してないよ」

鍛冶師「えーとね……」

盗賊「?」
0529この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:38:27.36ID:X/I4kmFC
鍛冶師「……僕、さ。この街、気に入ってる」

鍛冶師「盗賊が居るからってのもあるけど、前も言った様に、さ」

鍛冶師「本当に、振られても此処には住もうと思ってたし」

盗賊「う、うん」

鍛冶師「……あの。さ」

盗賊「何だよ!ハッキリ言えよ!」

鍛冶師「……落ち着いたら、で良い」

鍛冶師「僕と、始まりの街に……引っ越さない?」

盗賊「…… ……はぁ!?」

鍛冶師「船長が言ってただろう。いずれ、あそこの街も。城も……って」

盗賊「だ、だからって……何で!?」

鍛冶師「盗賊がこの街に思い入れがあるのは解ってるよ。念願叶った、んだろうし」

鍛冶師「でも……その、姫?さんだっけ。その、子供のためにもさ」

鍛冶師「……知人も、眠ってるんだろう?」

盗賊「!」

鍛冶師「彼の墓も、守っていかなければならないだろう」

鍛冶師「も、勿論、僕個人でどうにか出来る話じゃないけどさ!」

鍛冶師「盗賊の行動力があれば、何とか出来ると思うんだ!」

鍛冶師「……いきなり住むとか、そんな事は決めなくて良い」

鍛冶師「でも……そうだな。一度、一緒に行きたい」

盗賊「鍛冶師……」

鍛冶師「清浄な土地、なんだろう。単純に興味もある。隠さずに言うよ」

盗賊「……うん」

鍛冶師「な、なんか先走って一杯言っちゃったけど」

鍛冶師「……落ち着いたら、一緒に行こう?すぐ近くだし、さ」

盗賊「うん……解った」
0530この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:38:49.79ID:yNtwT0+4
鍛冶師「ありがとう……」ホッ

鍛冶師「じゃ、じゃあ帰るね。あんまり騒いだら、アレだし」

盗賊「あ、ああ……そう、だな」

鍛冶師「……ありがとう、盗賊」

盗賊「何がだよ」

鍛冶師「大好きだよ」チュ

盗賊「あ、な、なな……ッ」カァ

鍛冶師「そ、そんな吃驚しないでしょ。ほっぺじゃん」

盗賊「……お、おや、おやすみ……ッ」ギュ

鍛冶師「お、あ、うん!」ギュ

盗賊「……」ジィ

鍛冶師「……」ジィ……チュ

盗賊「……ッ ……ン」

鍛冶師「また、明日」

盗賊「うん……」



パタン



盗賊「……」カァッ

盗賊(ちゅ、ちゅーしちゃった……ッ !!)



……

………

…………



神父「おや、おはよう御座います……早いですね、船長さん」

船長「おう。これを、な」

神父「これは……見事な。どこで摘んでいらしたのです」

船長「ちょっと……な。明日まで位なら持つか?」

神父「ええ……大丈夫、でしょう。多分」
0531この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:40:58.97ID:L7l3MrhC
船長「そうか……後、これ」

神父「……これは?」

船長「 婦に。見舞い……だ」

神父「ご自分でお渡しになれば良いのに……」

船長「色々とやる事があるんだよ。それに……ガラじゃネェよ」

神父「……良いのですか?」

船長「何が、だい」

神父「……いえ」

船長「言ったろ。ガラじゃネェのさ」

神父「……」

船長「あいつの……心の中には、魔王しかない。……勇者様、には勝てネェよ」スタスタ

神父「……」


パタン


神父「神よ……」スッ

神父「どうぞ。光へと、お導きください……!」


……

………

…………


女剣士「おーい!船長!」
0532この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:41:05.70ID:L7l3MrhC
船長「あん? ……ああ、何だ女剣士か」

女剣士「教会の方はどうだった?」

船長「ああ……まあ、後は新郎新婦の到着を待つだけだろ」

女剣士「……ッ そうか……」

船長「お前は嬉しそうだな」

女剣士「……魔王と、姫……だったか。話は聞いた。さらっとだけど」

船長「……」

女剣士「喜んじゃいけないのか……な」

船長「良いんじゃネェの。脳筋なんだし」

女剣士「……やめてくれ」

船長「会いたかったんだろ? ……別に、自分の気持ち押しとどめる必要ねぇだろ。それに、めでテェ席だ」

女剣士「……ああ。そうだな」

船長「じゃあな。俺は船に戻る」

女剣士「あ、盗賊か鍛冶師知らないか?」

船長「しらねぇよ。街の中探し回ったら居るんじゃネェ?」スタスタ

女剣士「……なんだ、機嫌悪いな」
0533この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:41:29.02ID:ctk7c0Rr
女剣士(明日、とうとう……側近に会える……!)

女剣士(……どうしよう、今から緊張してきた)

女剣士「やる事も一段落したし……素振りでも……ん?」

盗賊「あ、女剣士!鍛冶師見なかったか?」

女剣士「いや、見てないな」

盗賊「そうか……」

女剣士「ラブラブ、て奴か」

盗賊「な、何いってんだ!そんなんじゃ……!」

女剣士「……良いなぁ」

盗賊「明日……会えるじゃネェか」

女剣士「まあ、な。だけど……」

盗賊「……」

女剣士「世の中って、旨く行かないものだな」

盗賊「え?」

女剣士「……望み通りには行かないな、と思って」

盗賊「……願えば、叶う」

女剣士「……」

盗賊「会える、だろ?」

女剣士「ああ……だけど」

盗賊「だけど?」

女剣士「……いや。会えるだけでも良いと思わないとな」

女剣士「魔王と、姫は……」

盗賊「あれも……愛の形なのかな」

女剣士「え?夫婦なんだろ? ……あ、夫婦になる、か」

盗賊「まあ、そうなんだけどな」

女剣士「……やっぱ落ち着かない」

盗賊「え?」

女剣士「ちょっと素振りしてくる!昼過ぎには戻るよ!」タタタ……ッ

盗賊「あ、ちょっと!? ……ああ。もう」
0534この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:41:52.09ID:cxFAmMJ1
盗賊「鍛冶師も居ないし……どうするかな」

街の人「あ、いた、盗賊ー!」

盗賊「ん?はーい!」

街の人「あっちの住居の件なんだけど……」



……

………

…………



鍛冶師「お、船長おかえり」

船長「鍛冶師? ……なんだ、どうした」

鍛冶師「……あれ、どうよ。あの小鳥」

船長「ああ。初めてにしちゃ上出来だぜ。やっぱり器用なんだな、お前」

鍛冶師「前にさ、緑の羽の小鳥を見ただろう」

船長「ああ……使用人の小鳥な」

鍛冶師「そうそう。あれ思い出してね」

船長「なんだ。態々感想聞きに来たのか?」

鍛冶師「まさか……昨日、さ。盗賊に始まりの街の事話したんだ」

船長「……おう」

鍛冶師「取りあえず、落ち着いたら……さ」

鍛冶師「一度、二人で始まりの大陸に行きたいんだけど」

船長「そうか……で、乗せてけ、て?」

鍛冶師「定期便が出てたら別に良いんだけどね」

船長「そうだな……俺も、落ち着いたら暫くは戻らネェつもりだ」

鍛冶師「え!?」

船長「……俺はそもそも海賊だぜ?」

鍛冶師「そ、そうだけど……」

船長「落ち着いたら……な」

鍛冶師「そう、か……」
0535この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:42:13.75ID:EUIQt69n
船長「タイミングが合えば連れて行ってやるよ」

鍛冶師「ああ……ありがとう」

船長「それだけか?」

鍛冶師「あの二人は?」

船長「魔法使いと女海賊か……ずっと海賊共にこき使われてるよ」

船長「暫くして音を上げりゃ、放り出すまでさ」

鍛冶師「そっか…… ……」

船長「何だ?」

鍛冶師「……いや。そろそろ戻るよ。日が暮れちゃったら何も出来なくなっちゃう」

船長「ああ。明日は……早いだろうしな」

鍛冶師「……そう、だね。でも僕まで行って良いのかな」

船長「女剣士も来る気満々だし、良いんじゃネェの」

鍛冶師「そ、そっか……」

船長「じゃあ、また明日な」

鍛冶師「うん。あ……教会のお花、綺麗だったよ」パタン

船長「……神父さんめ、喋りやがったな」



……

………

…………



姫(『「魔王が蘇って久しい。前魔王が前勇者によって倒されてからも同じく、じゃ」』)

姫(『はい。少年は、小さく相づちを落とす。王はそれに気がついたのか否か』)

姫(『先ほどと同じ口調で、少年へと問いを向ける』)

姫(『「今日そなたをここへ呼んだのは……分かるな?」一気にそう告げると、王様は』)

姫(『満足そうに一つ、フン、と鼻を鳴らした。大きく迫り出した腹が、一回り大きく、上下した』)

姫(『少年はその恰幅の良い腹から、たっぷりの間を持ってゆっくりと王様の双眸へと視線を投げる』)

姫(『金の視線が、王様の円らな瞳を射貫く。少年は、ゆっくりと頷いた』)
0536この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:44:41.47ID:/XrbjIiy
姫(『「……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます。この、勇者の印にかけて、必ず……!」 』)

姫(『少年は己が手のひらに刻まれた、剣十字の印をぐう、と握りしめる』)

姫(『王様は、うむ、と大きく、ゆっくりと皇帝の頷きを見せ、スゥと息を吸い込んだ』)

姫(『「……頼んだぞ、選ばれし者よ!」』)


使用人「姫様、出来ましたよ」

姫「ああ……ありがとう………」

使用人「……とても、お綺麗です」

姫「もう……行くのね」

使用人「はい。こちらの転移の気配を感じれば、魔王様達も飛ぶと仰ってました。……本、お預かりしてよろしいですか」

姫「結局、殆ど読めなかったわ」

使用人「……そう、ですか」

姫「ええ……熱出しちゃったしね。勇者が旅立とうってとこまで。本当に、ほんの数ページよ」

使用人「仕方ありません……残念、ですけど」

姫「良いの。随分我が儘ばかり言ったもの。……これぐらい、良いのよ」

使用人「……魔除けの石は、お持ちになりましたか?」

姫「ええ。大丈夫」

使用人「では、掴まってください……行きます」


シュゥン……!


……
………
…………


魔王「……行った、な」

側近「お前本当にその恰好で行くの」

魔王「勇者っぽいか?」

側近「いや、全然。どう見ても魔王にしか見えない」

魔王「……白金の鎧は無かったからな」

側近「あの真っ黒けの奴は辞めて!まだそのズルズルローブの方がマシ!」

魔王「どっちもどっちなんだろ」

側近「まあ、そうだけども」
0537この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:45:03.61ID:iHj7gLr0
魔王「……私の剣は持ったか」

側近「ああ、此処にある」

魔王「良し……行こう、か」

側近「……おう」

魔王「……すまんな」

側近「もう良いって。もう謝るな」

魔王「……」



シュゥン

……オェ……



……

………

…………



スタッ



使用人「……姫様」

姫「うぅ……」

使用人「大丈夫ですか?」

姫「……平気。少し、酔った、かしら」

使用人「側近様みたいですね」



スタッ



魔王「……久しいな、姫」

姫「魔王……」

側近「……うぇぇ」

使用人「ムードが台無しです。側近様」

側近「悪かったね……!」
0538この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:45:25.81ID:BUhbm8V9
使用人「教会はあちらです」

使用人「側近様、私達は後ろから……」

側近「ああ……なんか、俺こんな禍々しい剣持って」

側近「不審者みたいじゃ無いか……」

魔王「気にするな……姫、手を」

姫「ええ……」ギュ

魔王「大丈夫だ。 婦の石はちゃんと持っている」

姫「……平気よ」



スタスタ……

ワアアアアアアアアアアア……ッ



盗賊「魔王!姫!」タタタ

姫「盗賊!久しぶり!」

魔王「積もる話は後で……だ。時間があるかは解らんが」

盗賊「……教会の中に皆居るよ。ほら、行って行って!」



キィ……パタン



姫「……まあ、お花が、一杯……!」

魔王「綺麗だな……」



コツコツ……



神父「どうぞ、前へ……」

魔王「魔除けの石を作った神父……か」

神父「粗方の事情は聞いています。言葉は必要無いでしょう」

神父「……お祈りなさい、お二人で」

姫「……ありがとう」

神父「祈りが終われば、顔をお上げなさい」
0539この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:46:07.69ID:bNJByZbw
魔王「……」

姫「……」

神父「……二人を、夫婦と認めます」

盗賊「姫……良かった……!?」

鍛冶師「盗賊、どうした?」

盗賊「……花、が」

鍛冶師(急速に、枯れてる……!?)

鍛冶師(これが……魔王の魔力……!?)


姫「ありがとう、神父さん」

神父「……いいえ。では、どうぞご退場ください」

魔王「無茶を言ったな」

神父「……表で、 婦が待っています。会って差し上げてください」

魔王「大丈夫、なのか」

神父「……」

魔王「…… ……側近、来い」

側近「ああ」

姫「……」

使用人「姫様はこちらへ」

姫「ええ」


パタパタ


女剣士「側近!」

側近「ん……え、お、女剣士!?何で、お前……!」

使用人「……女剣士さん。申し訳ありませんが」

女剣士「ちょ、ちょっと……!折角会えたのに……!」

使用人「時間がありません」ガシ

姫「……この人、は?」

使用人「……」
0540この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 13:46:46.63ID:wal5l1f5
……

………

…………



魔王「久しぶりだな、 婦」

 婦「魔王様……お久しぶりです」

魔王(さらに痩せた、な……足下もふらついている)

側近「俺はここに居るけど……あっち向いてるから」フイ

 婦「良かった、です。最後に会えて……」

魔王「最後、等と……」

 婦「……いいえ」

魔王「……」

 婦「不思議、ですね。お会いしたらアレを話そう……これを話そうって」

 婦「考えてたのに……何も、出て来ません」

魔王「無理して話さなくて良いんだぞ。何時でも……また……」

 婦「……お料理、教えて貰う約束、果たせませんでした」

魔王「……」

 婦「……魔王様」

魔王「ん……」

 婦「最後の最後で、役に立てたなら良かったです」

魔王「だから、お前……」

 婦「……魔王様。好きでした」

魔王「……」

 婦「愛し……て…… ま、す……」ニコ

魔王「 婦……ッ」

側近「……」

魔王「……」
0541この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 14:57:47.42ID:/EquH1MI
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50



シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0542この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:01:27.80ID:ox9Kl3RY
側近「神父……呼んでくるか?」

魔王「……お前は、離れるな」

側近「…… ……ほら、手貸せよ」

魔王「……」ギュ


……

………

…………


女剣士「離せよ、離して! ……側近と、話を……ッ」

使用人「聞き分けてください、女剣士さん!今は、駄目です!」

姫「……何なの、この人……」

盗賊「お、おいどうしたんだよ!」

鍛冶師「女剣士!?」

使用人「……姫様、魔王様が戻られました」

女剣士「側近!」

側近「……構ってやれねぇよ、今は」

魔王「行くぞ、姫」

鍛冶師「女剣士、こら!」


シュゥン……!


女剣士「側近!」

船長「おいおいおいおい!何の騒ぎだよ……!」

鍛冶師「あ、船長……!」

女剣士「うわあああああッ」

盗賊「……俺見てるから、鍛冶師と船長、あっち」

鍛冶師「……ああ」

船長「な、なんで女剣士は泣いてるんだ?」

鍛冶師「側近が、行っちゃった……から?」

船長「……糞ガキが」

鍛冶師「仕方無い……けど、ね」
0543この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:02:09.93ID:ApS9Te8G
船長「それより、 婦は?」

鍛冶師「あ、さっき……魔王と向こうに」

鍛冶師「……そっとしておいてあげたら。神父さんが様子見に行ったみたいだし」

船長「そうか……」

鍛冶師「それより、さ……凄いね。魔王って」

船長「……花、か?」

鍛冶師「気付いてた?」

船長「そりゃな……見た目は何も変わってネェのにな」

鍛冶師「僕は初めて会ったけど……人間と何も変わらないんだね」

船長「そう……だな」

鍛冶師「……側近、て人が持ってたの何だったの?」

船長「ぼろぼろの剣みたいなの握ってたな」

鍛冶師「やっぱり剣に見えたよね」

船長「……いきなり目の色変わったな、お前は」

鍛冶師「じっくり見せて貰いたいけどさ」

鍛冶師「……それも、もう叶わないかな」

船長「さあ、な」


……

………

…………


盗賊「いい加減にしろよ!」

女剣士「だ、だって……だって……!折角、折角会えた、のに……!」

盗賊「お前な、状況解ってるんだろ!?」

女剣士「……わかって、る、けど……ッ」

盗賊「……使用人に言われてたんだろ。聞いてたんだろ!?」

盗賊「子供みたいな事、すんなよ……」

女剣士「も、もう……戻って、こない、の……か、なぁ!?」

盗賊「しらねぇよ……」

女剣士「側近……ッ」ウワアアァ
0544この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:02:29.76ID:WjRGt9nU
……

………

…………



神父「…… 婦、さん」

神父(悔いの無い顔、されていらっしゃるのが……唯一の救いですね)

神父「お疲れ様でした。どうぞ、安らかに……」

神父(……昨日、船長さんに頂いたお花……枯れてる)

神父「……神よ。どうぞ、光の導きを……ッ」

神父「皆に……話さなければなりません、ね」ガシ……ヒョイ

神父(軽い……力を失っていれば、重く感じる筈なのに)



……

………

…………



北の塔



シュゥン……スタ!



魔王「姫」

姫「……あ、待って、魔王!」

側近「おぅえぇ ……」

使用人「側近様、シッ」

姫「……」カチャカチャ……ス

魔王「これは……」

姫「貴方が、私にくれたペンダントよ」
0545この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:03:28.34ID:KQLvMO5T
魔王「……しかし」

姫「今……解放するわ」

使用人「解放?」

姫「元はエルフの力でしょう。大丈夫……」グッ


パァアア……


魔王「……む」

側近「ん……」

姫「ちょっと息苦しいかもしれないわね」

使用人「……凄い」

姫「……これで、もうそれは……ただのペンダントに戻ったわ」

魔王「姫、しかし……」

姫「良いの。その代わり…… 婦のその石を、頂戴」

魔王「これを、か?」

姫「ええ。 婦の愛が詰まってるのでしょう?魔王が私の無事を願ってくれるのならば……きっと、効果があるわ」

魔王「そうか……そう、だな」

姫「……魔王」

魔王「何だ」

姫「今まで、ありがとう。我が儘ばかりで……ごめんなさい」

魔王「……良いさ。楽しかった」

姫「私もよ」

魔王「美しい世界で、美しい子供を産んでくれ」

姫「……魔王」

魔王「……」

姫「貴方は、れっきとした『勇者』だわ」

魔王「姫……」

姫「魔王でもあり、勇者でもある」

姫「……ありがとう」

魔王「……おやすみ、姫」ス……

姫「……」スゥ
0546この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:03:47.77ID:HC9yx8eP
魔王「……」

側近「……魔王様、済んだのなら……行こう」

使用人「ええ……何だか、息苦しいです」

魔王「……ぅ、う……」

側近「!? 魔王様!」

魔王「だい、丈夫……だ……ッ」

使用人「側近様、魔王様を、支えて……ッ」

魔王「……ッ」



シュゥン……ッ



スタ……ッ



魔王「……側近、済まない、私の……剣、を」

側近「あ、ああ!大丈夫だ。持ってる!」

側近「……使用人、早く外に出ろ!」

使用人「あ、は……はい!」バタバタ……ッバタン

側近「早く閉めて!」

魔王「側近」

側近「んァ!?」



ドンッ



側近「うわ……ッ」ゴロゴロ……ッ

使用人「……ッ 側近様!?」



バターン!



側近「!!」

側近「魔王様!魔王様!」ドンドン!
0547この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:04:05.02ID:4+3mQAOD
魔王「……扉は封印した」

魔王「眠るのは私だけで良い……もし、私に何かあった時」

魔王「……その剣と、その目で……頼んだぞ、側近」

側近「魔王様!」ドン!

側近「こら、お前……ッふざけんな!開けろよ!糞!」ドンドン!

側近「いっつもいっつも……ッ 面倒事ばっか、押しつけやがって……ッ」ドン!

使用人「そ、側近様!手、血が……ッ」

側近「……魔王様!お前……ッ 最初っからそのつもりだったのか!」

側近「魔王様!!」ドン!

側近「……ち、くしょう……ッ 結局、俺は……また、お前のおもり、かよ……!」

使用人「……魔王様……」

側近「ナァにが、頼んだぞ、側近、だ!」ドン!

側近「……糞、馬鹿野郎……!!」

使用人「……」
0548この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:05:10.49ID:yhCXspmq
側近「……」ドサッ

使用人「側近様!?」

側近「心配すんな……俺は何とも無い……ッ」

使用人「……」ガチャガチャ

側近「封印した、って言ってたろ……開かネェよ……ッ!?」パリンッ

使用人「!?」

側近「……割れた!?」

使用人「魔王様の剣……ッ あ……」

側近「違う。剣は無事だ……ぼろぼろだけどな。アレから変わっちゃ居ない」

使用人「……魔除けの石、ですね」スタスタ

使用人(全部……紫に染まって……!?)ボロボロ

使用人(持ったら、崩れる……)

側近「……使用人ちゃん」

使用人「はい」

側近「魔除けの石を集めて破棄しよう。もう……必要無い」

使用人「……私がやります。側近様は休んでてください」

側近「……」

使用人「貴方は、魔王様の目をお持ちです。どうかご無理なさらず」

側近「……悪い」

使用人「ついでに、姫様のお部屋を片付けて参ります」

使用人「…… ……失礼します」スタスタ


カチャ……パタン


側近「……ッ」ドンッ

側近「馬鹿、野郎ぉ……ッ ……ッ」


……

………

…………
0549この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:05:20.39ID:QKsMnfzV
神父「……」スタスタ

盗賊「あ、神父さ……ッ !?  婦、どうした!?」

神父「……お眠りに、なりましたよ」

盗賊「え……?」

神父「……」チラ

神父「船長さんと、鍛冶師さんは?」

盗賊「あ、ああ……あっちに……」

女剣士「……」

神父「呼んできてください……女剣士さんはどうされたのです」

盗賊「……こいつは、放っとけ」スタスタ
0550この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:06:03.68ID:xw1lOsrG
女剣士「……」

神父「褒められた態度ではありませんよ、女剣士さん」

女剣士「……」

神父「……」ハァ

神父「気持ちは解ってあげたいですが……」

女剣士「……」クル、スタスタ

神父「何処へ……?」

女剣士「頭、冷やしてくる」スタスタ

神父「……」

盗賊「神父さん!」タタタ

鍛冶師「 婦ちゃん、寝ちゃったって?」

船長「疲れたんだろ……!?」

神父「……」

船長「…… ……」

鍛冶師「え、何…… ……ッ!!」

盗賊「……な、何だよ!寝てるだけなんだろ!?神父さん、早く……ッ」
0551この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:06:13.32ID:YcuXkB3K
神父「…… ……」

船長「……この、花」

神父「貴方がお見舞いにと持ってきてくれた物です。船長さん」

船長「枯れてる、な」

神父「……教会のも全て、枯れてしまっているでしょう」

鍛冶師「……見てきたの?」

神父「いいえ……ですが」

盗賊「おい!聞けよ、 婦を早く……!」

船長「神父、 婦をこっちに」

神父「え?ええ……」ス…

船長「……」ギュ… スタスタ

船長「着いて来い。船を出す」

鍛冶師「……」

盗賊「船長!せんちょ……!」

鍛冶師「盗賊」ギュ

盗賊「嘘だろ!? 婦、 婦……!?」
0552この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:06:37.58ID:cjCnybVI
神父「……何処へ行くのです?」

船長「このままにはしておけないだろ」

神父「……」

鍛冶師「盗賊……」

盗賊「……ッ う、ぅ……ッ」ボロボロ

船長「乗れ」スタスタ

盗賊「ど、こ……ッい、くん……ッ だ、よ……ッ」

鍛冶師「……鼻拭いて、ほら」

神父「私もよろしいのですか」

船長「当然だろ」スタスタ

船長「……おい!船出せ!」

魔法使い「え、出港? ……! え、え!?」

女海賊「おいコラ!魔法使いお前…… あれ、何だよ大勢で」

魔法使い「!?」チラ、チラ

魔法使い「……えええええええええええ!?」

神父「こ、れは……」

盗賊「……しょ、 …うふ……に、そっくり……?」

女海賊「あン? ……前もそっちの兄ちゃんに言われたな」

女海賊「……寝顔は自分じゃわかんねぇけど、確かに似てらァな」

船長「油売ってネェでさっさと働け!」

魔法使い「あ、あいあいさー!?」

女海賊「あいよ……何処向かうんだ」

船長「……始まりの大陸だ」
0553この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:07:38.16ID:Jf0jG9OO
……

………

…………



使用人「……ふぅ」

使用人(集めるとは言っても、全てぼろぼろに……あの、神父さん)

使用人(確かに、徳の高い聖職者だったろうに)

使用人「……姫様」

使用人(…… ……)



カチャ



使用人「……?」

側近「使用人ちゃん」

使用人「ああ、側近様……大丈夫なのですか」

側近「何ともネェよ……終わったか?」

使用人「掃除は……終わりましたよ」

側近「この侭にしておくのか?」

使用人「……私と、側近様しか居ませんからね」

使用人「どちらでも……支障はありませんし」

側近「……そうか」
0554この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:07:50.77ID:qfqOK16g
使用人「どうされました?」

側近「少し、話をしようかと思ってな」

使用人「何のお話、です?」

側近「……昔話だ」

使用人「?」

側近「茶の用意しとくよ。フランボワーズ、好きか?」

使用人「え、ええ……まあ」

側近「そうか」

使用人「……側近様が作られたのですか?」

側近「まあ」

使用人「……胃薬、持って行きます」

側近「酷い!」

使用人「冗談ですよ……あ、側近様、これお願いしても良いですか」
0555この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:08:44.11ID:yXuUXRzr
側近「ん?ああ……別に良いけど」

使用人「姫様が途中まで読んでらしたんですが……」

側近「……これ、あれか。前後編でばらばらになってた奴」

使用人「ええ。書庫に戻しておいて貰えます?」

側近「……ああ。忘れてたな」

使用人「はい?」

側近「何でもネェ。んじゃ、食堂で待ってるぜ」

使用人「はい。片づけたらすぐに行きます」


カチャ……パタン


側近(約束……したな)

側近(神父と、 婦……に、貸すって)

側近(…… ……)スタスタ。カチャ

側近「……随分綺麗になってるなぁ」

側近「えーと……ここか」トン、ストン

側近「……」ス、パラパラ……

側近「だから、なんで勇者が魔王を倒すお話が魔王城にあるんだよ」ハァ

側近「……」ストン

側近「昔話、か」ハァ
0556この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:08:56.97ID:o/iP5IA9
……

………

…………


船長「……終わったか?」

盗賊「もうちょっとだよ。てか、船長も……!」

鍛冶師「盗賊……僕たちだけで良いだろ?そっと……しといてあげなよ」

魔法使い「珍しく、呼んで、くれたと、おも……ッた、ら……ッ」ハァ

女海賊「喋ってないで掘れ!手、動かせ魔法使い……ッ」

女海賊「って、土かけんなあ!」

神父「……安らかな顔、でしょう。船長さん」

船長「……ああ」

神父「最後に、 婦さんの願いは叶いました。だから……」

神父「……泣かないで、あげてください」

船長「泣いてネェよ、阿呆…… ……出ネェよ。涙なんて」

神父「……」

船長「そういうのは、盗賊に任せておけばいいんだ」
0557この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:09:53.14ID:DWzVO8gA
盗賊「おい、女海賊!花無茶苦茶にすんなよ……良し!……良いだろう、神父さん!」

神父「はい……さ、船長さん」

船長「ああ……」ヒョイ

船長「……土、冷たくネェかな」トン

神父「大丈夫です。それに……ここには、エルフの加護もあるのでしょう」

神父「知人さんの……」

盗賊「姫が殆ど持って行ったけどな。それでも……知人は、此処にいるんだ」

船長「知人の時も……こんな事、やったな。鍛冶師、スコップ貸せ」

盗賊「あ、ああ……でも……」

船長「……こんなに、花はは無かったけどな」ドサ、ドサ

神父「……」

鍛冶師「ほら、盗賊も……」

盗賊「……」ドサ、ドサ

魔法使い「はあ、はぁ……」グッタリ

女海賊「情けネェなあお前は」

魔法使い「俺は、こう、いうの……向け、じゃ、ない……の……」

神父「……それぐらいで、よろしいでしょう」

神父「 婦さん。此処だと……寂しくないでしょう」

盗賊「 婦……」グス

鍛冶師「……」ギュ

船長「お疲れ、さん……」

神父「神よ……どうぞ、 婦さんに永遠の安らぎを……」

船長「……良し、戻るぞ」

魔法使い「キュ、休憩とか……」

女海賊「ちょっと黙っとけお前……」

船長「神父さん」

神父「はい」

船長「俺はこのまま、南に行く」

神父「南、ですか……港街には、寄られない、ので?」

船長「……ああ。仲間の船が一隻、一緒に来ただろう。定期便の運びは説明してある」
0558この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:10:24.78ID:oob8Aphv
神父「……そうですか」

船長「送っていったら、そのまま発つわ」

盗賊「……もう行っちゃうのか」

鍛冶師「……」

船長「物資は定期的に届けるさ。盗賊、今のところ足りてるだろう?」

盗賊「それはそうだけど……寂しくなるな」

船長「俺は元々海の男だ。仕方ねぇだろ」

神父「南へ行って……何をされるのです?」

船長「珍しいモンでもあれば、一儲けできるだろ?」

船長「……ま、適当、だな」

神父「そうですか。くれぐれもお気をつけて」

船長「おう……さ、急ごう。陽が落ちる前には出発してぇしな」


……

………

…………


女剣士「…… ……」

女剣士(……解ってる。あんな事、するつもりじゃ無かったのに)

女剣士(側近……もう、会えないのか)

女剣士(…… ……)


ガサッ


女剣士「!?」

鍛冶師「……こんな所で何やってんの」

女剣士「鍛冶師……」

鍛冶師「探してたよ、盗賊。心配もしてた」
0559この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:11:57.84ID:OCol7fAK
女剣士「船……出て行ったろ」

鍛冶師「…… 婦ちゃんを埋葬しにね」

女剣士「え!?」

鍛冶師「君、それにも気がつかなかっただろう」

女剣士「あ…… ……」

鍛冶師「どうしても会いたかったんだろう事は解るけどさ」

鍛冶師「……それしか、解ってあげられないよ」

女剣士「……」

鍛冶師「もうすぐ夜だ。君も宿に帰った方が良い」クル、スタスタ

女剣士「あ……ッ」

鍛冶師「何?」

女剣士「……ご、御免……なさい」

鍛冶師「僕に謝っても仕方無いだろう?」

鍛冶師「……船長はもう出発したよ。明日からも仕事はあるんだ」

鍛冶師「ゆっくり休んで…… ……」

鍛冶師「……」

女剣士「あ、あの……ッ」

鍛冶師「……」

女剣士「……」

鍛冶師「……お休み」スタスタ

女剣士「……」

女剣士(どう、しよう……)ウロウロ

女剣士「……」ウロウロ

女剣士「……ッ」スタスタ
0560この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:12:04.61ID:OCol7fAK
……

………

…………


神父「……神よ」

神父(…… ……どれだけ、祈っても。 婦さんは戻らない)

神父(死は誰にも平等に訪れる。解ってる……だが)

神父(あんなに、彼女ばかり……ッ)


カチャ……キィ


神父「……?」
0561この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:12:47.82ID:wB4Wz/1P
盗賊「ごめん、神父さん……夜遅く」

神父「ああ、盗賊さん……どうしたんです、眠れないのですか?」

鍛冶師「神父さんこそ」

神父「鍛冶師さんも一緒ですか……いえ、そうですね」

神父「街の中とは言え……もう、暗いですから」

神父「どうぞ、中へ」

盗賊「花……片付けちゃったんだな」

神父「ええ。全て……枯れてしまいましたからね」

鍛冶師「僕は、初めて魔王に会ったから、全然知らないんだけど」

鍛冶師「魔族の王、って言ったって……人と変わらないんだね」

神父「私も同じですよ。ですが……想像以上に、普通の少年に見えました」

盗賊「……でも、凄い力を持ってる。転移魔法だとか、色々」

盗賊「そういえば、魔導の街に居る時に……枕とシーツを姫と魔王の姿に」

盗賊「変えたりしてたな」

鍛冶師「……何でもありだな」

神父「移し身……ですか。ええ、本当に…… ……しかし」

盗賊「神父さん?」

神父「……本当に、間近で見ると……不思議な瞳をしてあられた」

盗賊「紫の瞳、か」

神父「……前魔王、も。紫の瞳だったんでしょうか」

鍛冶師「そもそも、紫って……何なんだ?」

盗賊「え?」

鍛冶師「……僕はつい、さ。側近の持ってたボロボロの剣みたいなのばっかり見てたんだけど」
0562この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:13:46.14ID:BWf7keXA
鍛冶師「あれも、紫の色をしてた。あれは多分……魔法剣だ」

盗賊「魔王の剣、かな」

神父「魔王の剣……」

盗賊「……『魔王の全てが揃っていると大丈夫』だとか、なんかさ」

盗賊「使用人が言ってた」

盗賊「魔王自身、目を持ってる側近、で……」

神父「魔王の剣、ですか」

鍛冶師「……じゃあ、間違い無いな、多分」

盗賊「お前は全く……魔法剣の話になると、目の色が変わるんだから」ハァ

鍛冶師「でも、ぼろぼろだった。時間が許すなら、見せて貰いたかった」

神父「魔王の全て……と、言う事はあの剣も魔王自身、と言う事ですか?」
0563この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:14:41.74ID:1/7i2qM8
鍛冶師「さあ、僕にはそこまでは解らない。間近で見た訳でも無いし」

盗賊「でも、魔王の世代交代の時に、剣も継承されるってんなら」

盗賊「やっぱり、魔王の一部、なのかもな」

鍛冶師「……触りたいなぁ」

盗賊「おい……」

鍛冶師「もう今となっては叶わないって解ってるって」

神父「今となっては……ですか。そうですね」

神父「……」

盗賊「あ……それで、さ」

神父「はい?」

盗賊「女剣士、来なかったか?」

神父「いいえ……始まりの街へ行く前にお会いしたきりですね。そういえば……」

盗賊「……宿にも戻ってないみたいで、さ」

鍛冶師「僕はさっき……丁度盗賊とご飯食べる前、かな」

鍛冶師「街の外れで膝抱えて拗ねてるとこ、声かけたんだけどね」

盗賊「……トゲのある言い方やめろって」

鍛冶師「…… ……御免」

神父「気持ちはね。わかりますよ」

盗賊「女剣士の、か?」

神父「……鍛冶師さんの、ですかね」

神父「鍛冶師さんが仰る様に、こうしたい、ああしたい、は皆あったでしょう?」

神父「鍛冶師さんは、剣を見たかったでしょう。魔王や側近さんともお話したかったのでは?」

神父「盗賊さんだって……叶うなら、姫さんとお話したかったでしょう」

盗賊「……それは、まあ」

鍛冶師「……」

神父「少し、ね……子供過ぎると言うか」
0564この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:15:14.55ID:YbuRCqwu
鍛冶師「気持ちは解るんだよ。どうしても、会いたいって」

鍛冶師「色々話も聞いたしさ……でも」

鍛冶師「……ね」

盗賊「……ちょっと、言い過ぎたかな、て」

神父「……」

盗賊「皆がいい加減にしろよって思ったと思うんだけどさ」

盗賊「……寄ってたかって責めたみたいで、な」

鍛冶師「でも仕方無いよ。こればっかりはさ……」

神父「確かに、褒められた態度ではありませんでしたからね」

盗賊「魔王と姫には……もう、会えないんだろうな」

盗賊「側近と使用人にも……もう……」

神父「本当に……こればっかりは、願えば叶うとは言えないかもしれませんね」

神父「こちらからの連絡手段はありませんし……まさか」

神父「魔王の城まで行く訳にも、ね。でも……」

神父「……これが、そもそも本来なのでしょう」

鍛冶師「……」

盗賊「……本来、か」

神父「側近さんと使用人さんの話を全て信じる、との前提ですが」

神父「……真実ならば、世界は救われた、のですよ」

盗賊「……」

鍛冶師「……」
0565この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 15:16:29.07ID:dSMz+y2A
神父「交わるべきで無いとは……言いません」

神父「ですが……魔王が望んだと言う、徹底的な不干渉……」

神父「それが、双方にとって良い結果になるのでは無いでしょうか、ね」

盗賊「力を持った魔族ってさ。結局……みんないなくなちゃったんだよな」

盗賊「過激派……魔王に反旗翻した奴らも、魔王自身も」

神父「魔物が居なくなるのかどうかは解りませんが……」

鍛冶師「……もし、そうなったら、武器も魔法もいらない世界になるのかな」

鍛冶師「そうなったら……」

盗賊「……魔法剣も無くなる、とか言いたいんだろ」ハァ

鍛冶師「既に失われた技術に近いんだよ、今でさえ」フゥ

神父「…… ……」

盗賊「神父さん?」

神父「え? ……ああ、いえ。何でもありませんよ」

神父「所で、何かご用事があった訳ではないのですか?」

鍛冶師「あ、すみません……神父さんも休まないと、だよね」

神父「ああ、いえいえ。追い返すつもりで言ったのではありませんよ」

神父「すみません……こうして、お話に来て下さっただけでも、ありがたいのです」

神父「……私も、今日はあまり、眠れそうにありませんしね」
0566この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 18:19:17.64ID:71oK/tiG
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0567この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:41:53.49ID:4RKukA3a
盗賊「……その、さ」

神父「はい?」

盗賊「……」

鍛冶師「盗賊」

神父「? どうしました?」

盗賊「えっと……」

鍛冶師「あー……僕が言おうか?」

盗賊「……」

鍛冶師「えっとね。まだ随分先の話になると思うんだけど」

神父「はい?」

鍛冶師「……僕たち、始まりの街に引っ越そうかと思って」

神父「え……?」

鍛冶師「勿論、やめるかもしれない、話なんだけど」

盗賊「でも……ほら、さ。 婦可哀想じゃん」

盗賊「……知人の墓もある。ちょっと位さ……傍に、居たいって言うか」

神父「は、はあ……」

鍛冶師「そもそもは船長から持ちかけられた話なんだ」

鍛冶師「港街の町長を選出して、盗賊も手が掛からなくなったら、だけど」

鍛冶師「……お前達、一緒に始まりの街へ行かないか、てね」

神父「あちらも……街として機能させる、と言う事ですか?」

神父「私は……あのお墓のあるところまでしか行ってませんが」

神父「廃墟がある事は……知っています」

盗賊「ああ。俺もついこの間、鍛冶師から……その話を聞いたんだ」

盗賊「向こうに行かないか、てな」

鍛冶師「ここが大きくなれば、どうしても住居は足りなくなるし、てね」

神父「ふむ……」
0568この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:42:16.91ID:Nx5vJa8l
鍛冶師「さっきも言ったけど、勿論すぐに、なんて無理だ」

鍛冶師「何年も……ひょっとすれば、10年近く掛かるかも知れない」

鍛冶師「でも、何れ……盗賊も、考えてくれるって言ってくれたんだ」

盗賊「勿論、俺も鍛冶師も、港街は好きだ。だけど……さ」

盗賊「……あの墓の周辺は、手入れなんてしなくても花も枯れなかった」

盗賊「だけど、姫にエルフの加護を渡してしまったから、さ」

神父「成る程……ですが、私の許可を取る様な話ではないでしょう?」

鍛冶師「そういうつもりではないよ。相談、かな」

神父「……そうですか。正直、今は感傷的な部分も多いかと思います」

神父「ですが……良い事だと、思いますよ」

神父「すぐでは無いとはいえ……寂しくはなりますがね」

盗賊「神父さん……」

神父「……何時までも、この街も盗賊さんにおんぶに抱っこでは、ね」

神父「私も……一人になりましたし」

鍛冶師「……」

神父「頑張らねばなりませんね。何時までも……引きずっていては」

神父「怒られてしまいます。船長さんも旅立たれました」

盗賊「……船長は、 婦の事が好きだった、んだ……よ、な?」

神父「どうでしょうね……本人の口から何か聞いた訳ではありませんから」

鍛冶師「思い通りには行かないよね。『願えば叶う』なんて」

鍛冶師「……魔王ぐらい、力があればこその呪文なんだろうな」

神父「……」

盗賊「……地道に、少しずつ、さ。努力してこそ、なんだよ」

盗賊「夢を叶える、てのは……さ」
0569この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:42:37.75ID:FJDvIGlj
鍛冶師「……盗賊、そろそろ」

盗賊「あ……そうだな。御免、神父さん」

神父「いえいえ……ありがとうございました」

神父「お疲れでしょう。ゆっくり……身体を休めてください」

神父「『日常』は待ってはくれませんからね」

盗賊「ああ……じゃあ、おやすみ。ありがとう」

鍛冶師「また明日、神父さん」



スタスタ……パタン



神父「……おやすみなさい」

神父「…… ……」スタスタ コンコン



ガサ……



神父「……」キィ

神父「窓に影が映ってましたよ。そんな所に隠れてないで、入っていらっしゃい」

神父「ああ……扉からお願いしますよ?」パタン



カチャ



神父「突貫工事なのは否めませんからね。お話の内容、聞こえていらっしゃいましたか」

女剣士「…… ……」パタン

神父「どうぞ、こちらへ……女剣士さん。そんな所に立ってないで」

神父「……随分、目が腫れてしまっています。別嬪さんが台無しですよ」
0570この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:43:06.94ID:FJDvIGlj
女剣士「……」

神父「何か用事があったのでは無いんですか?」

女剣士「……」

神父「……」フゥ

女剣士「……御免、なさい」

神父「何を謝るのです?」

女剣士「え?」

神父「何に対してご免なさい、なんですか?」

女剣士「え……」

神父「悪い事をしたと思っていらっしゃるのでしょう……それはね、解りますよ」

神父「でも、ね。取りあえず『ご免なさい』だけを言われても。貴女が何について」

神父「悪いと思っていらっしゃるのか、解らない、でしょう」

神父「……その謝罪の相手が、私で良いのかどうかも、ね」

女剣士「……鍛冶師にも言われた。謝るのは……僕にじゃないだろうって」

神父「……で、取りあえず私に謝ってみた、んですか?」

女剣士「そ、そんなんじゃない!」

神父「では、何故私にご免なさいを言うのです?」

女剣士「…… ……」

神父「……」フゥ

神父「適当にお座りなさい。ずっと外に居たのでしょう」

神父「……お茶を、入れましょう」スタスタ。カチャカチャ
0571この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:43:45.91ID:ZQbIFaNo
女剣士「……」

神父「どうぞ……暖まります。気分も落ち着くでしょう」

女剣士「ありがとう……」

神父「……」

女剣士「……」

神父「……お話があったのでは無いのですか?」

女剣士「……」

神父「……」フゥ

女剣士「……迷惑かけたな、とは……思ってる、んだ」

神父「申し訳ないと言う気持ちがあるのはね、わかります」

神父「謝罪を口にする事で、貴女の気持ちは確かに楽になるでしょうしね」

神父「……良いですよ、と。許して欲しいと言う気持ちも痛い程解りますよ」

神父「ですが……中身が伴っていないと、意味が無いでしょう?」

女剣士「……」

神父「話したいと言うのであれば、お聞きしますよ」

女剣士「神父さん……」

神父「……眠れないのでしょう?」

女剣士「あ……ありがとう……!」

神父「神は全て、受け止めて下さいますよ」

女剣士「許して……くれるのか?」

神父「……私は聖職者です。神ではありませんよ」

女剣士「……」

神父「ですが……話してしまって、すっきりした後は……貴女次第ですよ、女剣士さん」

女剣士「…… ……そ、そう……だよな」

神父「……」
0572この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:44:15.70ID:ZSh1YRZ6
女剣士「…… ……」

神父「……」

女剣士「いざ、ってなると……何言って良いか、解らないな」

神父「……ゆっくりで良いのですよ」

神父「ちゃんと、聞いています。ですから……私の顔色など伺わず」

神父「……何でも、思う事をお言いなさい」

女剣士「あ…… ……う、うん」

女剣士「……北の街は、頻繁に魔物に襲われてた」

女剣士「街の人は根本的な解決を望んでたけど……アタシは」

女剣士「アタシは、その……」

神父「……」

女剣士「……アタシが、いるから。ちゃんと追い払ってやるからって」

女剣士「率先して街を守ってたんだ。皆感謝してくれてたよ」

女剣士「お前が居てくれるからって、さ」

女剣士「……側近が街に来た時、丁度蝙蝠の群れが街に来て」

女剣士「追い払うのを手伝ってくれた」

女剣士「……親父は町長なんだが、側近ならやれるだろうって」

女剣士「船を貸すって言ったんだ。側近は街の北にある塔に行きたがってたから」

神父「……」

女剣士「北の塔には魔物なんて居なかった」

女剣士「なんかの魔法が掛かってたらしいけど……側近も解らないって言ってたけど」

女剣士「……アタシは、安心したんだ」

女剣士「今までと、変わらない。アタシは……変わらず、街の人に」

女剣士「必要と、されるんだ……って……」

神父「……」
0573この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:44:41.12ID:nl0LGOW1
女剣士「……ほっとした様に見えた、のかな」

女剣士「側近には、そんな様な事……言われた」

女剣士「側近は……アタシを責めなかった。興味が無かっただけかもしれないけど」

神父「……」

女剣士「アタシ達は塔を出て、街に戻った。そうしたら親父が……」

女剣士「…… ……」

神父「……」

女剣士「……アタシと結婚して街を守らないか、なんてさ」

女剣士「側近はやんわりだけど断った。主がいるからって」

女剣士「……まさか魔王だとは思わなかったけどさ」

女剣士「親父は行きたいなら行けば良いって言ったんだ」

女剣士「お前にばかり任せてた。だから……街は、俺たちが頑張るからって」

女剣士「それで、居ても立ってもいれなくて飛び出した。結局……さっき迄会えなかったけど」

神父「……」

女剣士「……だから。使用人から聞いて、解って……解って、るつもりだったんだ!」

女剣士「でも……!!」

女剣士「……断られたのはショックだった。だけど、後から、あいつが魔族だって聞いて」

女剣士「『結婚して一緒に村を守る』のは無理でも、『アタシを否定した』訳じゃ無いって思ったら」

女剣士「……ッ それに、あの時……あの、チャンス逃したら、もう会えないかもって、思ったら……!」
0574この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:45:27.06ID:5gm3KBwa
神父「……」

女剣士「……」グスッ

神父「……お話は、以上ですか?」

女剣士「…… ……」

神父「……」フゥ

神父「主よ、神よ……愚かなる人の子を許し給え……」

女剣士「……」ゴシゴシ

神父「……少し、楽になりましたか?」

女剣士「……う、ん」

神父「先にも言いましたが……私は、神ではありません」

神父「ですから、これは……私の意見、になりますが」

神父「少なくとも、謝るのは私ではありませんよね?勿論、鍛冶師さんでも」

女剣士「……」コク

神父「貴女は……まだ、子供なのでしょう。普段はそうでは無いのかも知れませんが」

神父「こんな……特殊な状態、特殊な相手、ですから」

神父「我慢が効かなかったのだろうと想像はつきます……ですが」

神父「話してしまったから。聞いて貰ったから。反省したから……と」

神父「誰も、無かった事にはしてくれません」

女剣士「……そ……ッ ……う、ん。そう、だよな……」

神父「お父様の言葉や、状況に流され、煽られてしまったのでしょうね」

神父「……正直、貴女のその側近さんに対する気持ちが恋なのかどうかも判断が付きかねますよ」

女剣士「! 神父さん……ッ」

神父「勿論、それを判断するのは私ではありません。ですが、ね」

神父「もう一度、良く考えて見られるのも……」

女剣士「あ、アタシは、本当に……!」

神父「……強制等はしませんよ。ですが、貴女はまだ若い……いいえ、幼い。とても」

神父「それに、相手が相手です。魔族……生きてる世界が違うどころか」

神父「……もう、会うことすら叶わないでしょう」
0575この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:45:51.37ID:GjN/IaP3
女剣士「……ッ ね、願えば、叶う! ……ん、だろう!?」

神父「それは……私に尋ねられても、お答えしかねますよ、女剣士さん」

女剣士「……そ……ん、なぁ……」ヘタヘタ……ペタ

神父「…… ……」

神父「忘れなさい、と……言うのは簡単です……です、が」

神父「……すぐに叶えられるものでは無いでしょう、が……これ、ばっかりは」

女剣士「……なんで、だよ……何時も、何時も……願えば叶うとか、言っておいて」

女剣士「アタシには、何で、そんな……!」

神父「……では、どうやって逢いに行くのです?」

神父「船長さんも居ません。連絡手段もありません」

神父「……それに、魔王は眠ると言っていた。全てが揃っていれば大丈夫、とも」

女剣士「す、べて」

神父「そうです。魔王自身、魔王の剣……そして、魔王の目を持つ側近さん」

女剣士「!!」

神父「……今すぐにとは言いません。諦めなさい、女剣士さん」

神父「それもこれも、全てを含め……これから、誰に何を伝えどうしていくのか」

神父「……お考えになると、良い」

女剣士「…… ……」ポロポロポロ

神父「具体的には、一つだけ。 ……盗賊さんが、心配していました」

神父「貴女の姿が、宿屋にも無い、とね……ですから、まず」

神父「先ほどの『御免なさい』は……盗賊さんに、言うべきでしょう?」

女剣士「……う、ぅ……あ、 ……ッ ああァ……ッ」ポロポロポロ

神父「泣いて良いんですよ、女剣士さん。ですが……」

神父「……何れ、泣き止んでください。人は……何時までも泣いてばかりはいられないんです」

神父「こればかりは……仕方無いんです」

女剣士「…… ……」ヒック、ヒック

神父「何れ、感傷は風化する……記憶は、忘却するのです」

神父「……覚えておいて、ください」
0576この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:46:39.94ID:zEDfyZSs
側近「随分トゲがあるなぁ、神父さんよ」

神父「!? ……誰です!?」キョロキョロ

女剣士「……ッ この、こ……え……!!」バッ



シュウン……



側近「……あぁ、気持ち悪ぅ」スタッ

女剣士「!! ……そ、 ……そ、っきん……!!」ダダ……ガシッ!!

側近「おう……ッ ああ、はいはい」ナデナデ

神父「側近さん……貴方、どうして……!!」

神父「……魔王は、姫さんは……!!どう、したのです!?」

側近「神父さんは幽霊さん的なもの信じてるのか?俺はちゃんと足はあるぜ」

神父「……」

女剣士「側近!側近……ッ」

側近「ありがたい歓迎だけどな。取りあえず……あー。離れてくれる?」

女剣士「……」

側近「ほら。お話出来ないでしょ。我が儘言わないの」

女剣士「……うぅ……ッ 側近……!」

側近「顔拭きなさい、顔。 ……全く、どうしようも無いおこちゃまだね」
0577この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:47:59.31ID:yqPp4VqK
神父「……」

側近「ね? ……よいしょ」グイ

女剣士「あ…… ……」ゴシゴシ

側近「はい、良い子良い子……しかしあれだな」

側近「少し会わない内に随分印象変わったねお前は……随分偉そうだったのに」

女剣士「そ、そんな事無い!」

神父「……」

側近「んな睨まないでくれる、神父さん……聞きたけりゃ説明してやるってば」

神父「睨んで等……」

側近「聞き耳立てるつもりは無かったんだけどね」

側近「……まあ、その前に……女剣士」

女剣士「何……」

側近「もう少し大人になりなさい。以上!」

女剣士「……え?」

側近「神父さんが言ったことは俺も間違えちゃないと思うよ。俺らは割と必死だったからな。見方はちょっと違うけど」

側近「『ご免なさい』言いたくなるって事は、そういう事だろ?」

女剣士「……」

側近「神父さんは聖職者様だからな。がっつり俺ら……魔族に対して」

側近「好意的な見方も、歓迎も出来ないのは解る」

側近「…… 婦ちゃんの事もあるしな」

神父「……」

側近「でも、やっぱ間違えちゃないから」

女剣士「……うん。ごめんなさい」

側近「俺は良いよ。怒りはしても、それは許さないとイコールじゃないから」

側近「だけど、な?」

側近「ちゃんと、自分の我が儘だけ押しつけないで」

側近「旨く、要領よく『良いよ』って言ってくれる様に」

側近「考えて、行動しなさい」

女剣士「側近…… ……ッ」

側近「取りあえず泣き止め。泣きながらの謝罪は反則」
0578この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:49:04.82ID:gnrcQwuI
神父「……」

側近「何か納得いかないって顔してんな」

神父「お聞き、してましたから。魔王の全てが揃っていると……と」

側近「そうだな。少し長くなる……し」

側近「できれば盗賊と鍛冶師にも聞いて貰いたいんだ」

側近「……慌てて転移してきたは良いんだが、よく考えたら夜中だもんな」

神父「……構いません。喜ばれると思います」

側近「ありがとう……取りあえず、こいつを渡しとく」ドサ

神父「これは……」

側近「『約束』したろ」

神父「前後編……あの本ですか」

神父「……覚えて下さっていたのですね」

側近「明日、また来る。今日は宿に泊めて貰うよ」

女剣士「側近、あの……!」

側近「お前も疲れてるだろうから今日はちゃんと寝なさい」

女剣士「い、一緒に!?」

側近「阿呆! ……ガキが何言ってやがるか!」

女剣士「……なんだ」

側近「お前な……」

神父「では……女剣士さんを送っていって下さいますか?」

側近「ああ、元よりそのつもりだ。明日、此処に来れば良いか?」

神父「ええ、それで構いません」

側近「ん。 ……ほら、行くぞ女剣士。お前も宿か?」

女剣士「うん!」

側近「……現金な奴だな」
0579この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:51:00.60ID:GuSTvsN1
側近「……神父さん」

神父「はい……?」

側近「魔王様と姫様の為に……ありがとう」スタスタ

神父「……いいえ」

女剣士「あ、側近……待って!」タタタ

女剣士「あ……神父さん、ありがとう……おやすみなさい!」


パタン


神父「……」ハァ

神父「やれやれ……勝手な物です」

神父(私も……人の事は言えない)

神父(……勝手な、生き物です。人間は)

神父「……」パラ

神父(勇者が仲間を一人失って……それから……)
0580この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:51:11.92ID:tkT1hilA
……

………

…………

宿屋


キィ、パタン


側近「ほら、お前ももう…… ……」

女剣士「……側近」ギュ

側近「……あのね、離れて貰わないと俺、自分の部屋に戻れないんだけど」

女剣士「ここで寝ないのか?」

側近「お前な……」

女剣士「やっと、やっと会えたんだ!今日ぐらい良いだろう!?」

側近「イコールで結べないから、それ」

女剣士「でも……!」

側近「会いたかった、て言ってくれる気持ちは単純に嬉しいよ」

側近「好意を向けられるのは確かに、厭な気はしない」

女剣士「じゃあ……!」

側近「けど、な? ……あのさ、お前の気持ちしかないでしょ、そこに」

女剣士「え……」

側近「俺の意見は無視ですかい。 ……きつい言い方かもしれんが」

女剣士「側近は……アタシと一緒は厭なのか?」

側近「ここで一緒に寝る理由は無い。それだけだ」

側近「……話は明日でも出来るだろ?どうしても今日が、今が良いのか?」
0581この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:52:03.08ID:E2f3+oKC
女剣士「……だって、また何時居なくなるか分からないだろう」

側近「いや、だから明日はまだ……」

女剣士「話が終わったら、城に戻るんだろう!?」

側近「……そりゃそうだろうよ。だからって別に急がなきゃいけない訳じゃネェよ」

側近「お前と話す時間ぐらいはあるさ」

女剣士「だけど……」

側近「あのな、色々あってお前だって疲れてるんだろう?」

側近「無理する必要は無いだろ、って」

女剣士「…… ……」

側近「……」フゥ

女剣士「だって、だって、本当に……ッ」ポロポロポロ

側近「聞いてはやりたいよ。言いたいことあるんだろう。それも解る」

側近「……けどな。俺はお前だけに会いに来た訳じゃない。それは解っとけ」ドサッ

女剣士「……?」

側近「寝るまで此処に居てやるから。話したい事あるなら言いなさい」

側近「……んでお前は横になりなさい。寝たら部屋に戻るから」

女剣士「側近……!」

側近「抱きつくな!寝るの!コロンしなさい!」

女剣士「……」クスクス

側近「泣いたり笑ったり忙しい奴だね……全く」
0582この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:52:26.36ID:K3MehMKK
女剣士「……アタシ、側近が街を出てからすぐに後を追ったんだ」コロン

側近「……」

女剣士「急げば追いつくと思ったのに道に迷って……海に落ちた」

側近「……は!?」

女剣士「そんで、船長と鍛冶師に助けて貰った」

側近「随分あっさりと言うなぁ……」

女剣士「こうやって会えたんだ。だから良いんだ」

側近「あ、ああ、そう……お前が良いなら別に良いけどね」

女剣士「あの時、会えなかったのは……転移してどこかに行ったからだったんだな」

側近「……」

女剣士「魔族……なんだよな」

側近「そうだ」

女剣士「……人と魔族と、どう違うんだ?何が違う?」

側近「え?」

女剣士「こうして見ると、お前はアタシと違う様には見えない」

女剣士「……それは、お前が力の強い……魔族だから、なのか?」
0583この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:52:48.09ID:q2mIr6bx
側近「人間だって容姿の差ってのはあるだろうが。誰一人、全くの一緒なんてモンは無い」

側近「それと一緒さ。魔王様を見ただろう。一目見て魔族だと解ったか?」

女剣士「……」

側近「そういう事だ」

女剣士「……魔王は、どうなったんだ?」

側近「眠った……と、言うか、自分を自分で封印したんだろうな」

女剣士「じゃ、じゃあ……側近はもう、自由なのか!?」

側近「それは無い」

女剣士「……何で」

側近「お前なら自分が主と認めた奴を、今現在動けないからと言って放り出せるのか」

女剣士「……」

側近「俺は城に戻る。今回此処に来たのは……」

女剣士「……アタシに、会いに来てくれたんじゃ無いのか?」

側近「それもある。けどな……」

女剣士「け……ど?」

側近「神父さんにも言っただろう。話があるんだ。盗賊と鍛冶師にな」

女剣士「アタシ……は?」

側近「何でお前さんがここに居るかは不思議だったけど、それは漸く合点がいったよ」

側近「……気にはなってた。何でだ、てな」
0584この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:53:07.69ID:q2mIr6bx
側近「だけど、勘違いはするな。お前のあの……あの時の態度を見て」

側近「ちゃんと言っておかないと駄目だと思っただけだ」

女剣士「……ッ」ドキドキ

側近「好意は純粋に嬉しい。だがな、やめとけ」

女剣士「…… ……」ガバッ

側近「うお……ッ 何だよ、急に起き上がるなよ!」
0585この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:55:15.31ID:IeZh8Ifa
女剣士「や、やめとけって、なんでだよ!」

側近「お前は何聞いてたの。俺は城に戻る。魔王様の全てを見届ける義務がある」

側近「……俺は、魔王様の『側近』だからな」

女剣士「お、お前が、側近が……ッ 魔王の目、とやらを持ってるからなのか!?」

女剣士「だからって……!!」

側近「……」ハァ

女剣士「アタシ、アタシ……ッ側近が好きだ!ずっと一緒に居たい!」

側近「無理だ。お前は人間だろう。俺は……魔族だ」

女剣士「人種なんて関係無いだろう?ま、魔王だって……ッ エルフの、姫と……ッ」

側近「……そうだな。言い方が悪かった」

側近「俺はお前をそういう目では見れない。はっきりそう言うべきだった」

女剣士「……そ、っきん……」

側近「生きる長さも違う。生きる世界も違う……それ以上に」

側近「俺は、お前の想いには応えてやれん」

女剣士「そ……ん、なぁ……」

側近「……北の街に帰るのなら、船長に頼んでおいてやる」

女剣士「か、帰れって言うのか!?」

側近「帰るなら、だ。経緯を聞いた限りじゃ、お前何も持ってないだろ」

側近「帰れなんて俺に言う権利はネェだろ。それはお前が決める事だ、女剣士」

女剣士「……アタシ、が」

側近「子供じゃ無いんだ。まあ……今すぐ聞き分けろとは言わん、けど……さ」

側近「恋とか愛とか、俺にはわからんよ。それにさ」

側近「……お前だって、解ってないだろ?」

女剣士「え……」

側近「疑う訳じゃないよ。でもなぁ……親父さんにたきつけられて」

側近「その気になってるだけの様にも見えるよ」

側近「解ってるか?そんなに……お前が俺を気に入る理由ってのが」

側近「好きだと言うけど。俺の何処が好きなの?何が好きなの?」
0586この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:56:23.11ID:J+us+U5Q
女剣士「だ、だって……側近は……強い、し……さ」

側近「前に言っただろう。そもそも俺は戦闘向きじゃない」

側近「魔王様の目を持ってる。力の増幅はその所為だ」

側近「……俺自身の強さじゃ無い。そもそも『強い』ってのは何だ?」

側近「戦闘を旨くこなして、敵を倒すだけの純粋な力。それが……それだけが『強さ』か?」

女剣士「……ッ」

側近「だとすれば、俺は『強く』なんか無い」トン

女剣士「きゃ……ッ」ドサッ

側近「……変な顔しないの。何もしません。そんな気ありません」

女剣士「何で……何でだよ!こんなに……好き、なのに……!」

側近「恋に恋されてもね……」

女剣士「側近!」

側近「違うって言えるか? ……お前の望む形にはなってやれねぇよ」

側近「……寝ないなら、戻るぜ。この話は終わりだ」スッ

女剣士「……やだ、側近……ッ」

側近「…… ……ごめんな」



スタスタ、パタン



女剣士「側近!やっと会えたのに……ッ 何で、だよぉ……!」



ウワァァン……ッ



……

………

…………
0587この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:57:18.88ID:dcy0NOVz
船長「……なんだ、話って」

女海賊「まァまァ……飲むかい?」

船長「ん……随分上等な酒持ってんな」

女海賊「食堂に貰いに行ったら分けてくれたんだ」

船長「海賊相手に色気振りまいても仕方ねぇだろ」

女海賊「随分トゲがあるネェ……ほら、一杯やりなよ」

船長「……何の用だ。態々部屋に呼び出して」

女海賊「手伝わせたんだ。話聞く権利はあるだろう?」

船長「……魔法使いは?」

女海賊「一杯飲ませたら寝ちまったよ」

船長「確信犯だろう、お前……」

女海賊「別に独り占めしようってな訳じゃネェよ?」

女海賊「あいつには明日、ちゃんとアタシが話す」

女海賊「……エルフだとか、加護だとか。あの土地は何なんだ?」

女海賊「アタシ達が持ってきた地図には、『始まりの大地』ってあった」

女海賊「が、だ……街は愚か、港らしきモンはボロボロ」

女海賊「人が住んでる雰囲気も無い。確か、あのアタシにそっくりな女を埋めた先に」

女海賊「街と城があった、らしいが……滅びた街なのか」

船長「…… ……」

女海賊「……特別な土地なのか。だとすれば……あの隻腕の女は何者だ?」

船長「…… ……聞く権利がある、か」

女海賊「ネェとは言わせネェ」

船長「お宝の地図握りしめて海賊に志願してくる程のタマだ……が、過ぎた好奇心は身を滅ぼすぜ」

女海賊「ならなんで手伝わせた」

船長「……」

女海賊「……」
0588この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:58:18.79ID:SxlnviyB
船長「始まりの大陸が何で滅びたかなんて、俺はしらねぇよ」

船長「今世界に出回ってる地図にゃ殆ど乗ってないしな」

女海賊「……」

船長「……お前が言う様に、お飾り程度の港も、街も、城も」

船長「地図上から消えてしまう程度の昔に滅びた、んだろう」

船長「無人島だと思ってた俺たちが……あの、場所に」

船長「ちょっとした知り合いのエルフの死体を埋めたのも少し前の話だ」

女海賊「……」

船長「あそこは……エルフの加護に守られた良い場所だ」

船長「滅多な事じゃ花も枯れん。だから……埋めてやった」

船長「それだけだ」

女海賊「……何であんな場所を知ってる?」

船長「たまたま見つけただけだ。もう良いだろ」

女海賊「惚れてたのか」

船長「……悪いか」

女海賊「……別に」ス…ストン

船長「…… ……おい。何してる」

女海賊「惚れた女と同じ顔の女に、こうして膝に乗られると興奮するかい?」

船長「俺にまで色仕掛けか」

女海賊「おいおい、勘違いしないでくれよ? ……アタシは結構最初から」

女海賊「アンタの事、気に入ってたんだ、船長」

船長「…… ……退け」

女海賊「このでかい腹もその白髪交じりの髭もセクシーじゃネェか」

船長「……ッ 退けって言ってるだろ……!」

女海賊「良いぜ、変わりで。 婦、だっけ? ……無理すんなよ」
0589この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 19:59:23.97ID:kFYK0cFI
船長「やめろ、お前……ッ 俺は……!」

女海賊「ずっと船ン中じゃ出すモンも出せネェだろ?」

船長「そ……ッ その、顔で下品な事…… ……ッ ん、 ッ!?」チュ

女海賊「んン……ッ」チュ、チュ

船長「……ッ く、そ……ッ」ガシッ ……ガバッ

女海賊「ン……ふふ、そう急かな…… ……ン ……ッ」



……

………

…………



バタバタバタ……バタン!



盗賊「神父さん!」

鍛冶師「ちょ、盗賊……待って……」ハァハァ

側近「よう」

盗賊「側近!」タタタ……ッ

盗賊「……生きてる」ペタペタ

側近「殺さないでくれる……」

鍛冶師「……神父さん、は?」

側近「さぁな。今朝此処に来るって言っておいたんだが」
0590この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:00:06.91ID:1/FoPeOC
鍛冶師「……女剣士に会った?」

側近「ああ、昨日な。お前達の話、外で聞いてたから」

盗賊「え?」

側近「あんまり悪い方に取ってやるな。入るに入れなかったんだろ」

側近「……神父さんは気がついてたみたいだぜ」

盗賊「そっか……」

鍛冶師「一応、願いは叶った訳か」フゥ

側近「……さてな」

鍛冶師「?」

盗賊「今朝、早くに神父さんが俺たちの家に来たんだ」

盗賊「んで、側近が話があるからって……」

側近「俺『達』?」

盗賊「あ……そ、その……ッ」カァ

鍛冶師「転がり込んじゃったんだ、僕が」

側近「……あらまぁ」ニヤ

側近「あー、そう、そういう事」ニヤニヤ

盗賊「そ、その顔やめろよ!」

側近「良いじゃネェか、目出度い話じゃん」

側近「おめでとさん」

鍛冶師「……君だって、じゃないの」

側近「へ?俺? ……何で?」

鍛冶師「……気付いてる、んだろ?」

盗賊「……」

側近「ああ……あー。まあ、な」

側近「だが、だからって何だよ?」

盗賊「え?」
0591この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:01:03.74ID:D+Le8pBa
側近「皆幸せになりました、めでたしめでたし、なんて」

側近「そりゃ、御伽噺だけの特権だろ」

側近「……そういうこった」

盗賊「そ、うか……」

側近「昨日女剣士にも言ったがな。俺には恋だの愛だの、わかんねぇよ」

側近「あいつに対してそんな気にもなれん」

鍛冶師「……誰もが皆、ハッピーエンドにはなれないよね」

鍛冶師「そんな事言い出せば、魔王と姫だって……」

側近「……あれも、愛じゃネェさ」

鍛冶師「え?」



キィ



神父「ああ……おはようございます、皆さん」

神父「遅くなってすみません。さあ……どうぞ?」

女剣士「…… ……おはよう」

側近「よう。おはよう」

女剣士「…… ……ッ」プイ

盗賊「お前な……ッ」

鍛冶師「ちょ、盗賊……ッ」

側近「朝早くにすまんね。早速だが本題に入って良いか」

女剣士「あ……アタシも、良い……よな?」

神父「……」

側近「別に構わんよ?そのつもりで此処にいるんだろ」
0592この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:01:53.13ID:Ee4U2qkj
盗賊「良いのか?」

側近「追い返すのもね、今更。さて……具体的に聞きたいのはさ……鍛冶師」

鍛冶師「僕?」

側近「ああ……こいつを見て欲しい」ゴト

鍛冶師「あ……ッ これ、魔王の剣!?」

盗賊「……ぼろぼろだな」

神父「……ッ」

側近「そんな顔すんな、てのも酷なのは解ってる。が……我慢してくれ、神父さん」

側近「アンタにも見て欲しかったんだ」

神父「私、に?」

鍛冶師「うわ、うわああああ……ッ ま、まさか本当に間近で見れるなんて……!」

鍛冶師「さ、触って良いんだな!?」

盗賊「ちょ、落ち着け鍛冶師……ッ」

側近「構わネェよ。じっくり見てくれ……あ、そろっと頼むぜ?」

側近「……神父さん。どう思う?」

神父「ど、う……どう、と言われましても……これは……」

側近「インキュバスの魔石も見抜いたアンタを見込んで聞いてる」

側近「……姫様はもう居ないからな。できれば……先入観なしで」

側近「思う事を知りたいんだ」

女剣士「これが……魔王の剣。魔王の……欠片……」

神父「魔王の欠片?」

女剣士「え?あ……ご、ごめん……ッ」

鍛冶師「凄い……これは……ッ」ブツブツ

盗賊「おい、これちょっと!話聞けって……鍛冶師!」

側近「あー……良いよ、盗賊。取りあえず放っておいてやって」

盗賊「で、でも……」

側近「満足するまで良いって。どうせ聞こえちゃいねぇよ」
0593この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:03:22.96ID:9he9kJtS
神父「魔王の欠片……ですか。ふむ」

側近「まあ、間違っちゃないかもな」

女剣士「だ、だって……『魔王の全て』がどうとか言ってただろ」

女剣士「……お前の持ってる目と、魔王本人と、これ……」

神父「……強大な気を感じはします。以前此処で魔王本人にお会いした時にも」

神父「彼自身からも感じました。 ……なんと言うのか……闇、と言うか」

側近「闇?」

神父「はい。 ……そうですね、彼は……漆黒の髪に紫の瞳をしておられた」

神父「何を連想します?勿論、私は彼の正体が魔王であると知っていたので」

神父「先入観があった事は勿論ですが……」

盗賊「連想する物は、闇……か。確かに『魔王』には相応しい印象かもな」

側近「ほう……」

神父「……以前、お聞きしようと思っていてその侭になりました」

神父「側近さんはお言葉を濁された様な気もしますが……」

側近「ん?」

神父「魔王と言うのは、代々……紫の瞳をされている、のですか?」

側近「…… ……」

神父「貴方は先代から仕えているのでしょう。先代の力で人から魔へと変じたと」

女剣士「え!?」

神父「紫の瞳など、聞いた事も見た事も無かった。差し支えなければお聞かし願いたいです」

女剣士「そ、側近!お前、人間だったのか……!? 側近!」

盗賊「女剣士、その話は後!」

女剣士「で、でも……!」

盗賊「でもも糞もネェ!」

側近「……聞いてどうする?」

鍛冶師「これが……何でこの……」ブツブツ

盗賊「お前も!独り言はもう少し小さく!」

神父「……好奇心、です。剣を持参され、こうして……私に感じたことを尋ねると言う事は」

神父「何かを探られようとしているのでしょう」

神父「……ヒントは、多い方が良いでしょう?」
0594この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:04:37.14ID:vetojtg0
側近「ヒント、な……まあな」

側近「……前魔王様の瞳の色は赤だった。素晴らしい炎の使い手だったさ」

神父「……紫では、無い?紫の瞳は、魔王の特権では無いのですか?」

側近「俺にはノーともイエスとも言えん。魔王様が産まれた時、何で、と聞いたが」

側近「前魔王様も、初めて見たと言ってたよ。后様もな」

盗賊「后……えっと、魔王のお母さんだよな。お母さんも……」

側近「勿論、紫なんかじゃない。あの時城にいた奴みんなが驚いてたよ」

神父「そう……なのですか」

側近「いくら魔王……魔を統べる王だとは言え、複数の加護を持つなんて聞いた事が無い」

側近「魔王様は、小さい頃から規格外だったさ。前魔王様の力を受け継ぐ前から」

側近「歴代の中でも、多分……類を見ない程、強くなるだろう、てな」
0595この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:05:36.29ID:/3+Qa60P
盗賊「なのに、無能扱いされてたのか……」

側近「故に、だな。前魔王様はあまり、魔王様を表に引き摺り出さなかったし」

側近「……幼い子供を利用されるのは嫌だったんだろ。先代の頃の幹部クラスを全滅に近い状態に追い込んだとは言え」

側近「まだまだ混沌としてた。血生臭い時代だったのさ」

神父「では……あの、魔王の剣は?あれも紫色をしています……あれは、ずっとあのままだったのですか?」

側近「前魔王様があれを使っているのは殆ど見たことないんだ。前に話しただろ?……実際に敵味方として対峙した、あの時、一度だけだ」

側近「だが……前魔王様があの時手にしてた魔王の剣は赤かった。まさしく、前魔王様の瞳の色をしていたのさ」

鍛治師「持つ者に寄って、色が変わる……? 否、属性が変わるのか!」

盗賊「うわ!ビックリした! ……鍛治師、お前聞いてたのかよ……」

側近「間違えちゃ無いだろうな。魔王様が前魔王様から全てを受け継いだ時には」

側近「その剣は、既に今の色……紫になっていた」
0596この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:06:31.81ID:RDb1T7Lr
鍛治師「……魔王の全て、か。成る程な」

盗賊「何が成る程、なんだよ」

鍛治師「魔法剣って言うのは、もう既に……失われた技術なんだ。ほぼ、だけどね」

鍛治師「鍛える者の魔力を注ぎ、物理的にだけじゃなく強化を施し、更にその力……魔法そのものも閉じ込める」

側近「ほう」

鍛治師「僕は魔法は使えないけど、生きている以上、加護自体は持ってるだろ?だから」

鍛治師「例えば、だけど……僕が、魔法剣を作れたと仮定するなら、僕の属性の魔法剣になるんだ」

側近「何故失われた?その話だと鍛治の腕があれば不可能には聞こえないが」

鍛治師「問題の一つは素材そのものだ。鉄や鋼じゃ話にならない……希少な上に丈夫な物を、となるとやっぱり腕が居るだろ?扱いにくい素材を扱えるだけの腕」

鍛治師「……しかも、それを更に注ぐ魔法に耐え得る強度に出来る腕がいるんだ」

盗賊「流石に……限られるな」

鍛治師「昔は確かにいた。が……後続を育てるのも難しくなる、段々とね」
0597この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:07:32.07ID:ZsdB2Etz
神父「では……この、魔王の剣はいつかの魔王が自ら……?」

鍛治師「その可能性は高いんじゃないかな。多分……じゃ、無いと説明がつかない。でも……うーん……」

盗賊「何だよ」

鍛治師「持つ者に寄って属性が変わるなんて……聞いた事が無い。勿論見た事も、だ」

女剣士「でも、ここにあるじゃないか」

鍛治師「……これ以外に、だね。欠けてるどころか刀身が半分も残ってない」

鍛治師「……残りは、何処にあるんだ?」

側近「多分、だが……魔王様に吸収されたんだろう。剣の魔力を吸い取ってるみたいな事言ってたな」

神父「魔王の全て……ですか」

女剣士「え?」

神父「先程貴女が仰ったでしょう。これは魔王の欠片。で、あれば……魔王の全てが揃えば……」

神父「……彼は。魔王は、更に絶大な力を、手にいれた、のでしょうか」
0598この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:07:54.60ID:EktjVbMy
盗賊「で、でも……魔王は、全てが揃ってれば大丈夫って言ってたんじゃ無いのか?」

側近「で、あれば自我を保てる、て言う意味だろう。あの時は、な」

盗賊「あの時……?」

側近「魔王様は……この剣も俺も放り出して勝手に一人で眠りにつきやがった」

側近「……何かあったら、その剣と目で頼むだとか言い残してな」

神父「……」

鍛冶師「もし、この剣が魔王の欠片、と仮定するなら」

鍛冶師「……刀身も柄も残らず、魔王に飲み込まれてしまっていたら」

鍛冶師「さっき神父さんが言った事が、正解になったんじゃないかな」

側近「絶大な力を、か……って事は」

側近「……結果的には正しかった訳だ。俺とこの剣を残したってのは」フゥ

盗賊「側近……」

側近「魔王様が知ってたかどうかはわからんがな。だが……剣の魔力を吸い取るのが」

側近「良い結果を招かない、と言うのは解っていたのかもな」

鍛冶師「……で、これを君が持ってきたのは?」

側近「ん?」

鍛冶師「まさか店に来ただけじゃ無いでしょ?」

側近「まあ……どうにか出来るかな、ってのが本音だ。だが……」

側近「話を聞く限り、な……無理だって事は解ったさ」

鍛冶師「悔しいけれど、こればっかりは……腕が未熟だからだとか」

鍛冶師「そういう良い訳すらさせて貰えそうにないな」

女剣士「直せない、のか……?」

鍛冶師「……無理だ。直せるとすれば、魔王自身だけだろうね」

神父「もし、これを直せたとして……貴方は、どうするつもりだったのです、側近さん」
0599この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:08:16.96ID:HtFSXPbi
側近「……俺も魔王様も、望んで居たのは徹底的な不干渉、だ」

側近「魔王様が自らを封印して、魔力の暴走は押さえられただろう。暫くは、な」

盗賊「え、でも……」

側近「『全てが揃っていれば』だろ?確かに魔王様が居て、目を持つ俺が居て」

側近「剣も、ある。揃ってる。だが……絶対は無いからさ」

側近「……もし直せるなら、ってな。備えあれば何とやら」

盗賊「……そう、か。でもさ、嬉しいよ」

側近「ん?」

盗賊「もう会えないと思ったからさ」

女剣士「……」

側近「そっか。ありがとうな……ああ、姫様な」

盗賊「ん?」

側近「……無事に、北の塔で眠ってる。 婦ちゃんの石持ってさ」

鍛冶師「けどさ。魔王が眠るのなら、姫まで封印する必要、あったのか?」

側近「いつか、勇者が現れて自分を倒してくれるまで」

盗賊「え!?」

側近「……その後、守られたであろう美しい世界を見せてやりたいんだそうだ」

鍛冶師「……勇者じゃないか」

側近「ん?」

鍛冶師「勇者、なんだろう。港街の……魔王はさ」

側近「……こうも言ってたよ。魔王と言うのは、勇者に倒される為にあるのかも、てな」

女剣士「そんな!」

側近「そんな人間にだけ……勇者にだけ都合良い様には出来てないと思いたいよ」

神父「ですが、側近さん……貴方は……」

側近「……」

女剣士「そ、そうだよ!お前……元人間だったんだろ!?」
0600この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:08:43.91ID:4igT9YFn
側近「あ? あ、ああ……」

女剣士「あ、アタシも魔族になる!そうしたら一緒に居られる!」

鍛冶師「あのさぁ、女剣士……」

側近「まあ、まあ……鍛冶師。あのな、女剣士」

女剣士「なあ、良いだろう!?そうしたら……!」

側近「結論から言うと無理だ。そんな芸当、魔王様にしか出来ん」

神父「……」

側近「それに……物理的に可能であっても、だ。昨日も言った筈だ」

側近「俺は……俺には、どうすればお前を愛せるかなんて解らない」

盗賊「お、おい側近、お前、それはいくら何でも……」

女剣士「…… ……」ヘタヘタ

神父「……」

側近「諦めて貰わなきゃ困るんだ。そんなつもりで会いに来た訳じゃ無い」

側近「……サンキュ、鍛冶師。無理言って悪かったな」

鍛冶師「あ、ああ、いや僕は別に……どころか」

鍛冶師「こちらこそ、ありがとう……夢が叶ったよ」

盗賊「おい!」

鍛冶師「あ……!」チラ

女剣士「…… ……」

神父「もう……お帰り、ですか。側近さん」

側近「ああ……邪魔したな」

女剣士「待っ …… ……」

側近「……」

神父「女剣士さん……」

女剣士「……」

側近「神父さん」

神父「あ、は……はい」
0601この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:09:29.64ID:qtlLxOby
側近「……いや。良いわ。じゃ」クル

盗賊「側近!」

側近「……心配すんな。魔王様がどうにかなったって、俺がなんとかするよ」

側近「折角姫様の為に、魔王様が守ろうとしたんだ」

側近「俺だって全力で守ってやる」

鍛冶師「……」

神父「もう……お会いすることも無いのでしょうね」

側近「その方が良いだろう?徹底した不干渉、だ」

側近「……願えば、叶った。これで良いのさ」グッ

女剣士「……だ」

盗賊「ん?」

女剣士「厭だ!厭だ、厭だ………!」ダダダ……ッ ドンッ

側近「え!?ちょ、おま……ッ」


シュゥン……ッ


鍛冶師「女剣士ッ」

神父「女剣士さん!?」

盗賊「……う、そ……だろ」

鍛冶師「……」

神父「……」

盗賊「……」

鍛冶師「……側近、お気の毒に」

神父「腹をくくるしかないかもしれませんね、側近さん……」

盗賊「……願えば叶う、か」

盗賊「執念だな、もう……」
0602この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:13:30.26ID:CFoMXk3j
神父「……行動力は素晴らしいと思います、が……」

鍛冶師「帰ってこれるのかな」

盗賊「……転移の石も魔王が作ってた筈だ。ストックがあれば……だけど」

鍛冶師「帰ってくる気、無いんだろうね、そもそも」

神父「良いのですか?」

鍛冶師「ん?」

神父「いえ、まあ……色々と」

盗賊「もう居なくなっちまったモン、どうしようもないさ」ハァ

鍛冶師「しかしまぁ、とんでもない事やってくれるね」フゥ

神父「諦めきれない、のでしょうね」

盗賊「……すげぇな」

鍛冶師「うん……」

神父「あ……」

盗賊「どうした?」

神父「いえ、これ……」トン

盗賊「あ!続き!」

鍛冶師「ん?」ペラペラ

神父「お借りしたのですよ。側近さんにね」

鍛冶師「えーっと……?」

盗賊「勇者が魔王を倒しに行く話だ」

鍛冶師「え……これ側近の?」

神父「魔王の城にあったそうですよ」

盗賊「返せなくなっちゃった……のかな」

神父「…… 婦さんが魔王に頂いたと言う本も、ここにあるのですが」

神父「どうしましょう、ね……」

盗賊「良いんじゃネェ?つか……仕方無いよな」

盗賊「もう、流石に……本当に会う事無い……んだろう、しな」
0603この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:14:53.04ID:w0rup237
鍛冶師「魔法書とかなんだろ?教会に置いておいたら良いんじゃない?」

鍛冶師「魔除けの石とか……神父さん以外にも作れる人居たら助かるだろうし」

神父「ああ、そうそう。思い出しました」

神父「ここで修行したいと言う人が居ましてね」

盗賊「…… 婦の変わりか」

神父「変わり、ではありませんよ……誰も」

神父「誰の変わり、に等……なれません」

盗賊「……」

神父「私達は漸くスタートです、盗賊さん。側近さんの仰った、徹底した不干渉」

神父「……やはり、それが一番良い形なのかもしれません」

鍛冶師「僕も……頑張ろうかな」

盗賊「ん?」

鍛冶師「神父さん、良かったら、さ……何か作らせてくれない?」

神父「何か、とは?」

鍛冶師「僕、あんまり……その。神父さんや 婦ほど、信心って無いかも知れないけど」

鍛冶師「この教会のさ。装飾的な……」

盗賊「お前……鍛冶、やめるの!?」

鍛冶師「いや……そうじゃない!そうじゃないけど……」

鍛冶師「魔法剣を、いざ……あんな凄いものを、さ。触って見ると」

鍛冶師「ちょっと、気遅れ……てか」

盗賊「おいおい……」

鍛冶師「あ、勿論諦めるつもりなんてないよ!?」

鍛冶師「ちょっと休憩。船でさ、船長になんか石彫らされて」

鍛冶師「まあ……ちょっと楽しかった、と言うか」
0604この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:15:55.02ID:xFBbMU2R
盗賊「酔うの忘れてた、て奴か」

鍛冶師「そうそう。船長にそんな意思があったかどうかはわかんないけどね」

盗賊「鳥、作ったんだっけ?」

鍛冶師「うん……まあ、腕はまだまだ未熟だけどさ」

神父「ありがたいですよ。心がこもっていると言うのは何よりです」

神父「……過装飾は、とは思いますが……そういうのは大歓迎ですよ」

鍛冶師「ありがとう、神父さん」ホッ

盗賊「俺ももう少し、やる事残ってるしな……町長の役割努めてくれそうな奴も」

盗賊「見つかりそうだし」

神父「そうなのですか?」

盗賊「説得中だけどな。でもまあ……全部終わらせてからだ」

盗賊「ある程度形にしたら……」

神父「……始まりの街へ?」

盗賊「ああ……何年か先にはなるよ」

神父「……ええ」

盗賊「本、読み終わったら貸してくれよ?」

神父「勿論です」

鍛冶師「僕も廃材か何か漁ってこよう。盗賊は?」

盗賊「ああ、一緒に戻る」

神父「私も薬草を集めに行って参りましょう……やっと」

神父「やっと……本当に、平常になった、んですね」

盗賊「……ああ」



……

………

…………
0605この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:17:20.58ID:/rdtwzvs
魔法使い「おーい!飯出来たぞー!」

女海賊「おう!」

海賊「あれ、船長は?」

女海賊「部屋だろう。アタシが呼んでくるよ」スタスタ

魔法使い「すっかり女房気取り……」ボソ

女海賊「聞こえてんだよ!」ブン!

魔法使い「あ? ……ッ !!」ゴン!

魔法使い「は、灰皿ぶん投げる奴があるか! ……いってぇ……」

海賊「……ま、良いんじゃネェの。船長にも春が来たってこった」

魔法使い「春ねぇ……」

女海賊「ウルサイ男は嫌われるぜ……ッ と!」



ガチャ



船長「ウルセェのはお前だ、女海賊。甲板まで聞こえてら」

船長「……で、何の騒ぎだよ」

魔法使い「飯だよ、飯!」

女海賊「今呼びに行こうと思ってたんだよ」

船長「そうか……おい、飯食ったら上陸するぞ」

女海賊「もう着いたのかい?」

船長「これだろうって島があったから、着岸する」

魔法使い「やっほーい!お宝だな!」

船長「騒ぐな!まだ何があるかわからねぇんだから」

船長「おい、腕に自信のある奴数人集めとけ」

海賊「アイアイサ!」タタタ

船長「後は……」

魔法使い「俺と女海賊は行くぜ!地図持ってきたの俺なんだからな!」

船長「……来るななんか行ってネェだろ」
0606この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:18:17.53ID:osFN3fbX
女海賊「それらしい島ってのはどんなのなんだい?」

船長「地図自体が古いからな。正確さに欠けるのを考慮したとしても」

船長「……この大きさを考えると、これしか無いだろう、って程度だ」ガサ

魔法使い「こいつだろ?島の中心に×印が着いてる奴」トン

女海賊「ごちそうさん……この点々とした印は何だ?」

魔法使い「もう食わネェのか?珍しい……」

女海賊「この暑さでいまいち食欲がね」

船長「岩礁地帯なんだこの辺は。飯食ったら……とは言ったが」

船長「近くへ寄って、着岸できそうな場所探すのに時間がかかる可能性もある」

女海賊「着岸出来なかったら?」

船長「近くで碇を下ろして……小舟を下ろすか、泳ぐかだな」

女海賊「ひゃっほう!水着持って来なきゃ!」

魔法使い「何しに行くんだよ……」

船長「……ん?」



コツン、コツ……



女海賊「緑の……鳥!?」

船長「おい、窓開けてくれ……ヨシヨシ」ピィッ

魔法使い「何こいつ……可愛いなぁ……いてッ」ピー!

船長「手紙……ん?」カサ

女海賊「どれどれ……」



『お時間の許す時に城へお寄りください。お渡ししたい物があります』



魔法使い「……城!?」

女海賊「差出人は……書いてないな。迷い鳥……じゃネェよな」

船長「心配すんな……ん、もう一枚?」カサ



『可能でありましたら、花の苗を少々ご依頼したいです。無理ならば構いません』
0607この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:19:11.54ID:IXwJVznH
女海賊「花…… 女か?」ジロ

船長「……ご馳走さん」ガタ

船長「魔法使い、そいつに……」



シュゥン……ピィ……



魔法使い「き、消えた!?」

女海賊「!?」

船長「あー…… 良いわ」

魔法使い「よ、良くネェよ!?良くないよな!?」

女海賊「ま……魔法、か? いや……」

船長「……さっさと支度しろ」スタスタ

魔法使い「あ、おい、船長……!」



パタン



魔法使い「いっちまいやがった……」フゥ

女海賊「……何なんだ」

魔法使い「流石海の男。謎だらけだねぇ」

女海賊「魔法使い」

魔法使い「あ?」

女海賊「早く食っちまえ。問いただすぞ」

魔法使い「へ?」

女海賊「良いからさっさと食え!」

魔法使い「お前さぁ……本気な訳?」

女海賊「……何が」
0608この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:19:43.94ID:Xn3qQZ+U
魔法使い「何が、じゃネェだろ。船長の事だよ」

魔法使い「お得意の色仕掛けで迫ったんだろうがサァ」

女海賊「ウルセェ!」

魔法使い「趣味悪いとは言わネェよ。いい男だと思うよありゃ」

魔法使い「……ま、見た目はともかく」

女海賊「……」

魔法使い「ご馳走さん」ガタ

魔法使い「……誰も変わりになんてなれねぇぞ?」

女海賊「…… ……さっさと来い」スタスタ

魔法使い「へいへい……全く」フゥ

魔法使い「女は素直な方が可愛いとおも……ッ」



ブゥン……ゴン!



魔法使い「……だから、灰皿、投げるなよ……」カラーン……

女海賊「アタシが素直だと可愛いか?」

魔法使い「いや、可愛くな…… ……可愛い!ちょーかわいい!」

女海賊「……フン」ス……

魔法使い「流石に……剣は厭……死ぬ」



……

………

…………



船長「準備できたか?」
0609この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:20:24.60ID:vfzIm+cp
女海賊「おう」

船長「……お前、目の周り青くなってるぞ」

魔法使い「……気にしないで」

女海賊「島は……あれか。遠いな」

船長「これ以上は近づけネェ。泳ぐしかネェな」

魔法使い「小さ……く、ね?」

船長「あン?」

魔法使い「いや、島……さ?」

船長「しかしな。地図で見る限りあれぐらいしかな……」

女海賊「行ってみりゃ解るだろ。間違えてたら探せば良いだけだろ?」

船長「……」

女海賊「アタシらには、時間はたっぷりあるんだ」

魔法使い「ま、泳ぐには良い季節だしな」

女海賊「そういう事……おっ先ィ!」ドボン!

魔法使い「お、おい、お前……ッ しゃあねぇ」ドボン……

船長「……」ハァ。ドボン



バシャバシャ……



船長「あの海岸だぞ!女海賊!」

女海賊「わかってらー!」

魔法使い「なあ、船長」

船長「ん?」

魔法使い「さっきの鳥だけどさ」

船長「……依頼人が人間じゃネェだけだ」

魔法使い「人間じゃない!?」

船長「魔族の……なんだろうな。ま、知り合いだ」

魔法使い「はぁ……」
0610この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 20:21:24.89ID:IYFICD4r
魔法使い「……流石海の男?」

船長「俺に問われても」

魔法使い「いや、まあ……うん。顔広いんだな」

船長「……」

女海賊「おーい!早く来いよ!」

船長「……」ザバッ

魔法使い「よっと……」ザバザバ

船長「地図を見る限り……中心あたり、か」キョロキョロ

女海賊「あの辺りから上って行けそうだ。獣道……かな」

船長「気を抜くな……魔物が出たら、確実に一匹ずつ倒せよ」スタスタ

魔法使い「見た事の無い花が咲いてる……マッカッカだぞ、花弁」

女海賊「……持って行ってやれば。花の苗とか書いてたろ」ムス

船長「ああ……そうだな。良し、こいつを……」ガサガサ

魔法使い「おい。あの鳥の依頼人魔族だとよ」

女海賊「は!?」

船長「ちょっとした知り合いだ。金を払って貰えるなら仕事は選ばネェ」

船長「……それだけだ」

女海賊「魔族が……花の苗!?」

魔法使い「何か怪しげな実験でもするんじゃねぇの」

船長「ぐだぐだ行ってネェで手伝え。これも金の内だぞ」

魔法使い「はいはい……よっと」

女海賊「こっちも綺麗だな…… ……?」クラッ

魔法使い「……どした?」

女海賊「え?いや……」

船長「……顔色が悪いな」

女海賊「いや……大丈夫だ。海で冷やされたからだろ。この炎天下だしな」
0611この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:17:11.34ID:71oK/tiG
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0612この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:26:28.46ID:4RjSGDmL
船長「無理すんな。船に……」

女海賊「平気だっつってんだろ!」

魔法使い「何荒れてんだよお前は……」

女海賊「……悪い。も、もう良いだろう?持ちきれネェぞ」

船長「ああ……そうだな。行くか」スタスタ

魔法使い「……大丈夫か?」スタスタ

女海賊「ああ……お宝拝まネェと帰れないだろ」スタスタ

魔法使い「……強突く張り」

女海賊「お前にだけは言われたくないね…… ッ 船長、あれ……!」

船長「洞窟か……ん?」


グルルルルル……ッ


魔法使い「魔物だな」

女海賊「狼か……」

船長「頭が三つ程あるがな」

魔法使い「……やばくね?」

女海賊「任せろ……おい、魔法で援護しろよ」タッ

船長「あ、待て……ッ 糞、先走りやがって……ッ」

魔法使い「おいおいおい……ッ ああ、もう……ッ 雷よ!」


ピシャアアアンッ 

ギャアアアアアアアアアッ グルル……ッ


魔法使い「あ、あれ…… き、効いてる?」

女海賊「オラアアアアアアアァァァ!」ザシュッキィンッ

女海賊「!!」

船長「剣が……ッ」

魔法使い「嘘だろ、口で受け止めやがった……!」


グルル…… ブゥンッ


船長「!! ……ッ 手を離せ、女海賊!」
0613この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:28:25.54ID:1VCwwKsg
女海賊「え……ッ ……う、アァッ」ブゥン……  ドンッ

女海賊「い、ア……ッ 痛ゥ……ッ」

船長「女海賊……ッ手を……ッ ち、無理か……立て、走れッ」ガシッグイ

魔法使い「先に行け……ッ 雷よ!」


ピシャアアアアンッ
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


女海賊「う、ゥウ……ッ」

船長「早くッ」グイ、ダダ……ッ

魔法使い「良し、剣を通しゃちっとは……ッ」

船長「お前も早く来い、魔法使い!」


グルル……グル…… ガアアアアアッ


魔法使い「やべぇ、大して効いてネェよやっぱ……ッ」ダダダ

船長「海に飛び込め!水に入れば……ッ」ダダダ

ドボンッ

ザバァンッ

ギャアアアアアアアア!!

ガアアアアアアアアア!!!

魔法使い「あっちぃ! ……ひ、火拭きやがった!?」ドボン!

船長「……ッ ぷ、は……ッ 無事か!?」

魔法使い「お、おう……ッ ……追って、は来ない……か……?」

女海賊「……ッ」ゲホ、ゲホッ

船長「油断するな、船まで急げ!」

魔法使い「!! ……船長、こいつ……ッ」

船長「真っ青だな……良い、掴んで泳ぐ。船に着いたらお前先に上がって」

船長「こいつ、引き上げろ」

魔法使い「あ、ああ……」

ギャアアアアア!

ガアアア……

オオーン……
0614この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:29:21.57ID:2pl4ObMc
……

………

…………


側近「おわああああああああああああああ!」

使用人「!?」


シュウン……ドタ!ドサ!


女剣士「……」

側近「い、て、て…… ッ お前、何すんだよ!」

使用人「……私が聞きたいです、側近さん」

側近「重た……」ゴロン

女剣士「……」グッタリ

使用人「……気を失ってますね」

側近「無茶苦茶しやがる……」

使用人「……」

側近「んな顔すんなよ。連れてきた訳じゃネェよ」

使用人「ですが……では、何故一緒に?」

側近「転移した瞬間に抱きついて来やがったの!」

使用人「お断りされなかったのですか?」

側近「……割と冷たく突き放したつもりだったんだがな」

使用人「聞きませんでした、か」ガサガサ。カキカキ……

側近「何してんの」

使用人「転移石には限りがあります。もう……生産していただく訳にもいきませんし」

使用人「丁度、用事もありましたから」

『お時間の許す時に城へお寄りください。お渡ししたい物があります』

側近「手紙?」

使用人「はい。丁度書いていたところだったんです」

側近「何々……『可能でありましたら、花の苗を少々ご依頼したいです。無理ならば構いません』?」

側近「……船長、か」

使用人「はい。引き取って頂けるとすれば、彼ぐらいしか居ないでしょう」
0615この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:30:16.52ID:fg5B1cqd
側近「……」

使用人「転移で連れて行っても、また同じ事されるのは不毛なだけですしね」

側近「何で……花?」

使用人「……姫様が、庭のお手入れをされていたので」

使用人「枯らしてしまうのも、放っておくのも……幸い、もう少しスペースがありますし」

使用人「やる事も無いんです」

側近「……そうか。しかしどうやって届けるんだ?」

使用人「ご心配なさらず。残り少ない側近さんの髪、むしったりしませんよ」プチ

側近「す、すすすす、少なくないわ!」

使用人「……良し、これで。お願いね」パタパタ……ピィ

側近「しかしまぁ……本当に使用人ちゃんは優秀だな」

使用人「見よう見まねです……それに、一方通行ですよ」

使用人「以前も、戻っては来ませんでした。届くかどうかの保証も……」

側近「緑色の小鳥ね……俺もあんなんになるのかな」

使用人「やってみます?」

側近「……遠慮しとく」

使用人「時間は掛かるでしょうが……船長さんが来て下されば」

使用人「引き取って行って下さるでしょう」

側近「厭がらねぇかなぁ……」

使用人「正式に依頼をすれば厭とは言わないでしょう。仕事にはシビアな方でしょう?」

使用人「相当の額をお支払いすれば良いのです」

側近「……冷たく聞こえるな」

使用人「女剣士さん本人をどうこう思ってる訳ではありませんよ」

使用人「……理解しようとも思いませんけど」

側近「なんか……すみません」
0616この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:31:00.81ID:XYCZa+Gk
使用人「とりあえず……どうにかしましょう」

使用人「ここに転がして置くのも……」

側近「ああ……そうだよな」

使用人「お茶の準備をしておきます。ひとまず私の隣の部屋へ」

使用人「掃除は済んでますから」

側近「ん、っと……重……ッ」ズシ。ズルズルズル

使用人「……やっぱり手伝います」

側近「ん?大丈夫だよ?」

使用人「いえ……流石に、不憫です」ガシ

側近「そ、そうか……」

使用人「扉……開けますね」カチャ

側近「良し、ベッドの上に……よっと」


ドサッ


側近「……ふぅ」

使用人「で、どうするんです」

側近「え?船長に引き取って貰うんだろ?」

使用人「それはそうですけど……素直に、言う事聞いてくれますかね」

側近「無理だろうねぇ」

使用人「……愛されてますね」

側近「押しつけられてもな」

使用人「……相手を間違えましたね」

側近「……」

使用人「では、改めてお茶にしましょう。剣の話を聞かせてください」
0617この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:31:54.25ID:P5KLuJES
……

………

…………


使用人「……そうですか。鍛冶師さんでも……無理ですか」

側近「魔法剣ってのは鍛えるのも修理するのも難しいもんだってのは」

側近「知ってたが……流石にそれ以上は知らなかったからさ」

側近「ま……勉強にはなったよ」

使用人「魔法を込めると言うだけでも大変なのですね」

使用人「プラス、それに耐えうるだけの刀身を鍛える腕……」

側近「人間ってのは凄いよな。色々な事を考えるモンだ」

使用人「何言ってるんです」

側近「……」

使用人「……魔族、と言う者が凄いのだと言うべきなのでしょう。私達は」

側近「そうだよなぁ……」

使用人「側近様はともかく……私はまだ、つい最近ですから」

側近「力に頼っちまうんだよな。細かい技を使わなくても」

側近「力でどうにか乗り切っちまえる」

使用人「……はい」
0618この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:32:06.09ID:fDoq7KE+
側近「それがいつしか当たり前になって……繊細な部分を忘れるのさ」

使用人「……」

側近「……話が逸れたな」

使用人「? しかし、鍛冶師さんでも無理な以上、どうしようも無いのでは?」

使用人「……無くなってしまった訳でもありませんしね」

側近「魔王様に吸収されただけ、だからな。本人に剣、それから、目」

側近「全て揃ってる……でも、な?」

使用人「?」

側近「話しただろう。神父が言ってた事もあるが……」

使用人「魔王様の瞳の話、ですか?しかし……」

側近「ああ。それと誰が作ったか。何で作ったか」

使用人「……?」

側近「魔王の剣も魔法剣の部類だろう。魔族……元人間である俺たちですら」

側近「こんな有様だ。元々魔族として生まれついた奴らの技術だと思えるか?」

使用人「!」
0619この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:32:56.74ID:pk+yTdNN
側近「持つ物に寄って属性が変わる魔法剣」

側近「……魔王様の剣だから、何でもありだから、規格外だから」

側近「そんな事言っちまえばそれまでだけどさ」

使用人「……人が、作った、と?」

側近「否定は出来ないだろ」

使用人「……以前、側近様が『昔話』と称してお話して下さいましたよね」

側近「ん? ……ああ」

使用人「前魔王様の先代の魔王様は、人を滅ぼそうとしていた、んですよね」

使用人「その時代には、勿論……魔王様を倒そうと志す人間が多く居た筈ですよね」

側近「……」

使用人「そんな人達が作った物を……手に入れた、と言う可能性……」

側近「俺も同じ事考えたよ。先代は好戦的だったと聞いているしな」

側近「人が渾身の技術を結集して作った魔法剣を持って来た」

側近「そして返り討ちにあった勇者の物を……奪った」

使用人「勇者……」

側近「失われた技術に近い、とも言っていたからな」

側近「先代の時代と比べると、今なんて本当に平和なモンだ」

側近「……魔王様が眠りに着く前から考えても、だ」

側近「もっと血生臭い時代を生きてきた人間達の知恵や技術は比べものにならない程」

側近「今より高い水準にあったとしても不思議じゃないだろ?」

使用人「……はい」

側近「必要がなければ、後続を育てようと言う気を失ってもこれまた不思議な話じゃ無い」

使用人「必要がないから、ですか」

側近「さっき使用人ちゃんと話したとおり、で、さ……忘れていくのさ」

使用人「……」

側近「……」

使用人「では、魔王様の剣は遠い昔……まだ、鍛冶を生業とする者達の」

使用人「集大成であった……かもしれないですね」
0620この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:34:19.09ID:WowxWvaC
側近「……」

使用人「いえ。その可能性が高いと思います」

使用人「我こそは……と、魔王を倒そうとする者」

使用人「勇者の持つ、魔法の剣」

側近「勇者の剣……か」

使用人「……」

側近「……そりゃ、勇者の剣なんて物を魔王なんて存在に与えりゃ」

側近「たかだか人間に、勝てっこない」

使用人「……推測、ですけど」

側近「昔に逆戻りして、確かめる事なんかできやしないんだ」

側近「……推測で良いのさ。これからに生かしていけるなら充分だ」

側近「それに……案外真実に近いかもしれん」

使用人「……」

側近「正解じゃなくても、役に立てば良い。大事なのはこれからさ」

使用人「側近さんは……赤かったと言っていましたね」

側近「ん?前魔王様の瞳か?」

使用人「それもそうですが……剣、ですよ」

使用人「貴方が、まだ人間で……前魔王様に、勇者一行として……」



バタバタバタ…… バターン!



女剣士「側近!?」

使用人「…… ……」

側近「よう。起きたか」

女剣士「居た……側近……!? え、な、なんで……使用人が……!?」

使用人「貴女が転移の瞬間に飛び込んだのでしょう。此処は魔王様の城です」

使用人「私が居ない筈がありません」
0621この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:36:25.22ID:o8dOInHm
女剣士「あ……そ、そうか……御免……」

使用人「……」ハァ

使用人「どうぞ、お座りください。お茶をお入れします」

女剣士「あ、え……良いの?」

側近「放り出したらどうやって帰るの?」ハァ

女剣士「あ、ありがとう!」

側近「勘違いするな。足が到着するまでだ」

女剣士「え?」

使用人「どうぞ」カチャ

女剣士「あ、ありがとう……? …… ……」ジィ

使用人「何です?」

女剣士「う、ううん……あの……」チラ

側近「使用人ちゃん追い出そうとすんな。寧ろ俺らは話の途中」

使用人「…… ……ため息も出ませんね」ハァ

女剣士「でてんじゃん……」

使用人「揚げ足を取らないで下さい……まあ、良いです。覚めない内に召し上がってください」

女剣士「足……って? ……あ、美味しい」

側近「船長宛に使いを出した。ここへ寄って貰う用事があるから。船長が来たら、船に乗って北の街へ帰るんだ」

女剣士「い、厭だ!なんで!?」

側近「何で、じゃ無い。依頼料も渡航料もきっちり払ってやる。……ここは魔王様の城だ。お前を……人間を置いておく訳にはいかないんだ」

女剣士「だから、だから……ッ アタシも魔族になるって……!」

使用人「……」

側近「無理だってば。魔王様はもう……居ない。人を魔に変じるなんて真似は」

側近「魔王様にしか出来ないんだ!」

女剣士「じゃ、じゃあ……ッ人間の侭でも良い!良いから、此処に……ッ」

使用人「貴女がだんだん老いていき、私と側近様は何時までも若い侭ですけど?」

側近「使用人ちゃん……」

女剣士「え……」

使用人「私や側近様は不死ではありませんが、恐らくこれから数百年程度は老いていく事は考えられないでしょう。見た目も、力も」

側近「……」
0622この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:38:07.59ID:qqa6nquk
使用人「貴女がおばあちゃんになっても、私達は何も変わりません」

使用人「貴女が死ぬ時も、です。それに……私達にとってそれは」

使用人「瞬き程の時間です」

女剣士「……」

側近「言っただろう?俺は……どうやってお前を愛して良いかなんかわかんねぇって」

女剣士「で、でも傍に居れば分からないだろう!?もしかしたら……」

側近「……お前は?」

女剣士「え?」

側近「お前は、自分を変えようとしないのに?」

女剣士「え……え?」

側近「……」ハァ

側近「俺、言ったよな?要領よくやれよって」

側近「お前がやってるのは、子供の我が儘と一緒だよ」

側近「駄目だと言われても自分の欲望だけを押しつける」

側近「私が厭だから厭なんだ、って、地面でバタバタして泣く子供と一緒だ」

側近「自分の言う事は聞いてくれないと厭だ。でも私の言うことは何でも聞いてくれ」

側近「聞いてくれないなら実力行使、相手を変えようと押しつける」

側近「……お前は、変わらないの?」

使用人「……」

女剣士「で、でも……アタシは、ただ、側近と一緒に……」

側近「うん。気持ちは嬉しいって言ったよな。好いてくれるのは。それ自体は」

側近「……で。俺の気持ちはどこだ?」

女剣士「側近……」

側近「変わらないよ。これじゃ……何も。何時までたっても」カタン

側近「使用人ちゃん、話の続きはまただ。俺、ちょっと調べ物してくる」

女剣士「ま、待って!アタシ……ッ」

側近「着いてくるな!」

女剣士「!」ビクッ

側近「……」スタスタ


カチャ。パタン
0623この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:39:10.29ID:Q6c+BH/q
女剣士「……」ポロポロ

使用人「きついですね」

女剣士「使用人……」

使用人「勘違いなさいません様」

女剣士「え……」

使用人「こんな状況に置かれた、側近様が、です」

女剣士「……ッ」

使用人「……勿論、貴女に対する側近様の言葉もきついとは思います」

使用人「ですが、言わせたのは貴女自身ですよ」

女剣士「…… ……」

使用人「恋は盲目とは言いますが……これほどとはね」

女剣士「わ、わかッ わかん、ネェよ……ッ アンタら、魔族、に、は……ッ」ボロボロボロ

使用人「……では、『元人間』には解るのですか?」

女剣士「そ、側近……、は……ッ」

使用人「私もです。私も元人間です」

女剣士「……え!?」
0624この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:40:07.53ID:dZI2xvAe
使用人「私にも、解りません」

女剣士「……ズルイ、なぁ」

使用人「え?」

女剣士「アンタは、ずっと側近と一緒に居られるのか」

使用人「……」

女剣士「アンタも前に転移してきたよな?」

使用人「は? ……ああ、はい。何です、急に……」

女剣士「側近もだ。あれは……魔族は誰でも使える魔法なのか?」

使用人「いいえ。あれは……魔王様の残された魔力に寄る物です」

使用人「使い捨てのアイテムですよ」

女剣士「……そっか」

使用人「それが、どうかしたのですか」

女剣士「ううん……」

使用人「……」

女剣士「……側近は、どうやって人間から魔族になったの」

使用人「側近様に聞かれれば良いでしょう」

女剣士「……」
0625この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:40:17.22ID:iGUj65G+
使用人「私から言う話ではありませんよ」

女剣士「魔王は、どうして……」

使用人「?」

女剣士「側近と一緒に、眠らなかったんだろう」

使用人「……はい?」

女剣士「もし一緒だったら、諦められたのに……ッ」

使用人「…… ……何なのです、さっきから」

使用人「何が言いたいのです?」

女剣士「アタシにだってわかんないんだよ!!」

使用人「……」

女剣士「あ…… ……ご、ごめん」

使用人「……」ハァ。スタスタ

女剣士「ど、どこ行くんだよ!?」

使用人「一人にされるのは厭、ですか?」

女剣士「……わ、我が儘だって言いたいんだろ!?わかって……!」

使用人「解っていらっしゃるのなら、結構です」

使用人「先ほど焼いたケーキがあるのです。甘い物は好きですか?」
0626この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:41:17.21ID:tkCVJxDr
女剣士「……え?あ、ああ、うん、まあ……」

使用人「そうですか、良かった……すぐ戻ります」パタン

女剣士「……」ポカーン



カチャ



使用人「お待たせしま…… ……口開いてますよ」

女剣士「え、や……だって……」

使用人「どうぞ。杏ジャムのロールケーキです」

女剣士「あ、う、うん……ありがと……」

使用人「紅茶、お変わり入れますね」

女剣士「……」

使用人「…… ……うん。この間よりかは上手に出来ました」モグモグ

女剣士「いただきます……あ、美味しい……」

使用人「良かったです」

女剣士「……な、んで?」

使用人「何がです?」

女剣士「いや、これ……」

使用人「甘い物食べると、幸せな気分になりませんか?」

女剣士「うん、まあ……それはそうかもしれないけど」
0627この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:41:29.39ID:twAfJGwn
使用人「……今の貴女の態度とか。確かに褒められた物では無いと思います」

使用人「だけど、私は貴女の事あんまり……いえ、殆ど知りませんし」

使用人「そんな状態で責めても仕方ありませんから」

女剣士「…… ……」

使用人「情熱は素晴らしいと思います。素直に凄いな、と」

使用人「……理解は、できませんけど。押しつけるのが愛情では無いでしょうし」

女剣士「……押しつけ、て……る、のかな」

使用人「はい」

女剣士「!」

使用人「慰めて欲しかったのですか?」

女剣士「……違う」

使用人「嘘を吐いても仕方無いでしょう」

女剣士「……要領よく、て言われても、さ」

女剣士「好きな物は、好きなんだ……ッ」

使用人「……どうして、側近様なんです?」

女剣士「そ……」

使用人「て、聞かれても困りますよね」

女剣士「…… ……え?」

使用人「貴女程、良くも悪くも……行動的では無かったと思いますが」

使用人「私も一緒でした。だから」
0628この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:42:16.06ID:31OTaPv6
女剣士「一緒?アタシと……アンタが?」

使用人「はい。魔王様と一緒に居たくて」

女剣士「…… ……」

使用人「……別に、恋や愛ではありません」

使用人「お仕えしたかった。それだけです。別に、人間としての生に未練もありませんでしたし」

女剣士「……人間としての、生……?」

使用人「一度死ぬのです。簡単に言うと、ですけど……そうして、生まれ変わる」

女剣士「……じゃあ、側近も、アンタも……」

使用人「簡単に言うと、ですよ?」

使用人「……複雑な話しても解らなさそうじゃないですか、貴女」

女剣士「……なんか失礼な事言われてる気がするんだけど」

使用人「事実でしょう? ……人には向き不向きがあるだけです」

女剣士「え?」

使用人「私は貴女程無謀……積極的にはなれませんから」

女剣士「無謀……」

使用人「……言い直したのに何故拾うんですか」

女剣士「でもアンタは願いを叶えた。魔族に……なったんだろう」

使用人「先ほどの話ですが」

女剣士「え?」

使用人「人から、魔へ……の話ですよ」

使用人「可能か不可能かで言えば、可能です」

女剣士「え、え?」

使用人「……勿論。お勧めはしませんけど」

女剣士「そ、それは……ッ アタシも、魔族になれるって事か!?」

女剣士「あ……でも……」

使用人「何です?」
0629この頃流行の名無しの子垢版2021/02/20(土) 23:43:42.52ID:31OTaPv6
女剣士「……側近が、魔王しか無理だって言ってた」

使用人「……」

女剣士「アンタ、嘘吐いてるとは思えない。だから……」

女剣士「……側近は嘘吐いて迄……アタシが、魔族になるの……厭だったのかな」

使用人「側近様も嘘はついてませんよ」

女剣士「……?」

使用人「私達の様に……魔族へ変じるのには、魔王様にしか不可能でしょう」

使用人「……膨大で強力な魔力が必要です」

使用人「生半可な力では、人は……自我を失い、知能も持たない獣と化す可能性の方が高い」

女剣士「!」

使用人「勿論、前提として魔になりたいと言う強い意思が必要ですよ」

使用人「耐えられなければ、例え魔王様であっても……与えられた魔力に」

使用人「新しい魔と言う命自体に器が耐えれず……」

女剣士「死ぬ、のか」

使用人「……はい」

女剣士「……」

使用人「いくら目を持ってるとは言え、側近様でも不可能でしょうね」

使用人「貴女を完璧に……魔へと変じさせる事は」

女剣士「や、やってみないと……!」

使用人「解らない? ……確かに。この世に絶対はあり得ませんからね」

使用人「ですが、お勧めはしないと言ったでしょう?」

使用人「……ほぼ成功しません。だから、側近様が嘘を吐いた訳じゃありません」

使用人「貴女は、側近様の手で獣に堕とされ、そして屠られたいのですか?」

使用人「……違うでしょう?」

女剣士「…… ……」
0630この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 04:08:29.75ID:bcZcHt7k
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0631この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:29:07.13ID:zsqm73AT
使用人「此処に、居たいですか?」

女剣士「…… ……」

使用人「何もありませんよ。魔物が出る事も無い……そもそも、やる事がありません」

女剣士「え……?」

使用人「魔王様は……お眠りになったとは言え、ご不在な訳じゃありませんから」

使用人「……この城が襲われる事はありません。考えられるとしたら」

使用人「人間の襲来ぐらいでしょうが……私と側近様が居れば、負ける事は考えられません」

女剣士「……そういえば、魔王が復活するとか言う話があったな」

使用人「誰かが故意に流した可能性は否定できません」

女剣士「何の為に……」

使用人「長くなりますよ?」

女剣士「か、簡単に!」

使用人「……魔族、人間、エルフ……種族は一つじゃありません」

使用人「それすらも関係無く、生きる者同士……争いもありますよね?」

女剣士「う、うん……多分……」

使用人「友達同士の喧嘩も同じです。人……『生』ある者が二人以上居る限り」

使用人「皆が皆、同じ考え方をするはずが無い」

使用人「貴女は、こんなに愛しているのに、と言う。でも……側近様はそうでは無いと言う」

女剣士「……ッ」

使用人「では、振り向いて貰う為にどうしましょう」

使用人「自分の思うとおりの結果になるために、どうしましょう?」

女剣士「……」

使用人「情報を操作したり。体当たりでぶつかってみたり」

使用人「……色々、試行錯誤します」

女剣士「……うん」

使用人「そういう事なんです。何かが、誰かがどこかで良かれと行動した事に」

使用人「賛同し喜ぶ者ばかりでは無い、と言う事」

女剣士「……」
0632この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:29:30.17ID:RrB+7okv
使用人「魔王様が復活し、人間を支配しようとしていると聞いて」

使用人「……喜ぶ者も、悲しむ者も居る。勿論、額面通りじゃありませんけど」

使用人「色んな感情、色んな思惑があって当たり前ですからね」

女剣士「…… ……」

使用人「北の街……」

女剣士「え?」

使用人「離れられて、どうなってるか心配にはなりませんか?」

女剣士「あ……」

使用人「もう、どうでも良いですか?」

女剣士「そ、そんな事は……ッ」

使用人「そんな事は、考えもしなかった?」

女剣士「!!」

使用人「……ご免なさい。責めてる訳じゃありません」

使用人「気になるのでしたら、戻ってみられれば良いんです」

使用人「此処に、また戻ってくる事は可能でしょう?」

女剣士「え?でも……」

使用人「私はこの城の使用人です。さっきも言いましたけど、やる事、本当にありません」

使用人「船長さんには必要な物を届けてもらったりもします」

使用人「貴女が『要領よく』連れてきて貰うのが可能なら、また会えますよ」

使用人「……勿論、その時まだ魔王様にお変わり無ければ、と言う条件付きですけど」

女剣士「それは……帰れ、って言ってるのか」

使用人「いいえ。選択するのは貴女です。女剣士さん」

使用人「……転移石に余分があれば、私がお連れして、また一緒に戻る事もできますが」

使用人「それは……できませんから」

女剣士「余分が無い、から?」

使用人「はい。もし何かあった時、私や側近様は自分自身の力で転移する事はできません」

女剣士「魔族、なのに?」

使用人「……魔王様は規格外ですからね」
0633この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:31:41.56ID:PYlMMMR4
女剣士「目を持ってるのに、か?」

使用人「側近様ですか……」

女剣士「その気になれば出来そうじゃ無いか。魔王の欠片を持ってるんだろう?」

使用人「出来ると仮定しても、その気にならなければ一緒でしょう?」

女剣士「そ、そりゃそうだけど……」

使用人「必要に駆られれば、側近様でしたら、選択される方法かもしれません」

使用人「ですが……今、貴女の為にしてくれる、と思えます?」

女剣士「…… ……」

使用人「焦ってもろくな結果になりませんよ……それは、私と側近様には無限に近い時間が」

使用人「あるから、言える事かもしれません。ですが」

使用人「……明日、魔王様の身に変化があれば」

使用人「もし人間が攻めてきたら?」

使用人「……平穏が約束された訳ではありませんから。未来など、誰にも解りませんから」

女剣士「……」

使用人「無限と有限は決してイコールにはならないけど、そこに絶対の保証もあり得ないんです」

女剣士「……明日、魔王が目覚めたら」

使用人「はい?」

女剣士「今日、やっておけば良かったと思うかもしれないじゃないか」

使用人「ええ……そうですね」

女剣士「焦る必要は無いかもしれないけど、やらないで後悔するのはもっと厭だ!」

使用人「……では、確実に一つずつ、やりましょう」

女剣士「一つ、ずつ……」

使用人「はい。今貴女が一番したいことは?」

女剣士「…… ……側近と、話がしたい」

使用人「多分、ご機嫌斜めですよ」

女剣士「う…… ……」

使用人「それでも良いですか?」

女剣士「せ、せめて謝りたい!」

使用人「何を謝ります?」
0634この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:33:02.02ID:4/AKzUYC
使用人「意味の無い謝罪程、火に油を注ぎます」

使用人「貴女が謝りたいと思う理由は、何です?」

女剣士「む、無茶ばかり……言ったこと、とか」

女剣士「……側近の気持ち、無視した事、とか……皆に迷惑かけた事、とか」

使用人「皆、とは?」

女剣士「……盗賊とか」

使用人「謝ってこなかった、んですか?」

女剣士「た、タイミングが!」

使用人「それは言い訳でしょう。仕方無い部分もあったとは思いますけど」

女剣士「でも、もう……」

使用人「先ほども言いました。行って、戻ってこれる様に」

使用人「貴女が、すれば良いのです」

女剣士「……うん」

使用人「どうします?」

女剣士「側近に、話してくる!」

女剣士「……船長が来たら、一回帰る。でも……また、会いに来たい」

使用人「機嫌悪くても?」

女剣士「うん。やっぱり……アタシは、待てない」

使用人「側近様は多分、書庫でしょう。あの扉を出て、階段を上って」

使用人「左手の奥の扉です」

女剣士「ありがとう、使用人……!」カタン



タタタ……ッ バタン!



使用人「…… ……」フゥ



……

………

…………
0635この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:34:11.93ID:/nD0TIyP
側近「あった……!」バン!ペラペラ

側近(糞、所々掠れて読めないな……ッ 遙か、み……南、か?)ペラ

側近(島の奥のどう…… 洞窟、かな……)ペラ


タタタタ……


側近「ん?」


バタン!


女剣士「側近!」

側近「おわ……ッ お前……着いてくるなって行っただろうが……」

女剣士「御免!」ペコ

側近「へ?」

女剣士「アタシ、盗賊達に謝ってくるのも忘れたし、側近にも我が儘ばっか言った!」

女剣士「北の街もほったらかしだし、えっと……!」

側近「……お、おう。落ち着け?」

女剣士「取りあえず!」

側近「は、はい?」

女剣士「……船長の船で、一回帰る」

側近「……そう、か。 ……ん、一回?」

女剣士「ああ…… 会いたかったら、会いに来る。船長に頼んで、さ」

側近「……そうか」

女剣士「アタシ、やっぱり側近が好きだよ。だから、気が変わらない内は諦めない」

側近「……」

女剣士「でも、やり忘れた事、先に済ませてくる」

側近「……おう」ニッ

女剣士「……」ニコ

側近「取りあえず今、邪魔しないでくれるとありがたいな」

女剣士「解った……あ、でもさ。アタシ何かやる事ないか?」

側近「あー……使用人ちゃん手伝ってやれ……あ。待て、お前……」

女剣士「?」
0636この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:35:09.91ID:mH9+pw/i
側近「……お前、こいつ覚えてるか」ガサガサ

女剣士「え?」

側近「お前の親父さんに貰った地図だ。で、こっちが……」ポイ

女剣士「?」

側近「この城にあった地図。どっちも古いモンだ」

女剣士「あ、ああ……」

側近「多分、使用人ちゃんもやる事無くて庭いじりばっかしてると思うから」

側近「二人でこいつを検証してくれ」

女剣士「懸賞?」

側近「……見比べて見てくれ」

女剣士「わ、解った」

側近「使用人ちゃんに言えば解るよ。俺も後で行く」

女剣士「使用人は庭、か?」

側近「今まで食堂に居たのか?」

女剣士「あ、ああ……」

側近「食堂の奥にテラスに出る扉がある。そこから庭見渡せるから」

側近「庭に居たら呼び戻してくれ。頼んだ」

女剣士「わ、解った!」タタタ

側近「こ、こら!地図持ってって!」

女剣士「あ……ご、御免……」



パタン



側近「……いきなり物わかり良くなったな」

側近(使用人ちゃん……何吹き込んだんだか)ハァ



……

………

…………
0637この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:36:11.27ID:sw40Km4C
パタン



船長「おう……どうだ?」

魔法使い「手当受けて寝てるよ。打ち身だけだと思うが……」

船長「そうか……お前は大丈夫か?」

魔法使い「俺は軽い火傷ぐらいだ。ついでに手当して貰ったよ」

船長「……」フゥ

魔法使い「心配か?」

船長「仲間の心配しねぇ奴が居るか?」

魔法使い「嬉しいね、仲間って言って貰えるとは」

船長「……ありゃ、何だ?」

魔法使い「え?女海賊?」

船長「違うわ阿呆……あの三つ頭の化け物だ」

魔法使い「俺に聞かれて解る訳ねぇだろうが……」

魔法使い「魔族の知り合いが居るんだろ?そいつに聞いてみてくれよ」

魔法使い「……ああ、俺のお宝……」ハァ

船長「確かに、お宝の匂いはするがな」

船長「……手、出さない方が賢明だろう」

魔法使い「……そのお知り合いさんに、討伐とか頼めない訳?」

船長「……時期が悪いな。今は……無理だ」

魔法使い「何で」

船長「誰にでも事情ってのはあるもんだ」

魔法使い「まーじーかーよーォ……」

船長「……女海賊の様子次第だが、容態が変わらないとも限らんだろうし」

船長「一端、この海域を離れるぞ」

魔法使い「……だよな」

船長「様子を見ながら……最果ての大陸を目指す」

魔法使い「……はい?」
0638この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:37:24.53ID:6aBcTf/2
船長「聞こえなかったか?」

魔法使い「聞こえたから聞いてんだろうが!」

船長「依頼人は魔族だと言っただろう。花を届けにゃならん」

魔法使い「さ、さ、最果て!?最果て!?あんな所に住んでる魔族に」

魔法使い「え、知り合い!?マジで!?マジで言っちゃってんの!?」

船長「……お前もういい歳なんだろ?もうちょっと落ち着けよ」

魔法使い「歳関係ねぇだろ!びっくりするわー!」

船長「……お前も女海賊も幾つだよ」

魔法使い「話逸らすな!俺はもう30超えてるよ!」

魔法使い「女海賊は……あー、まだ20代半ばぐらいだと思うけど」

船長「……いい歳じゃネェかやっぱり」

魔法使い「ウルサイよ!夢追いかけるのに、歳なんか関係あるか!」

船長「夢、な……」

魔法使い「な、なあ……マジで言ってんのか?最果ての地に住む魔族って……」

船長「……マジだよ。行き先は魔王の城だ」

魔法使い「…… ……へ?」

船長「依頼主は魔王の使用人だ」

魔法使い「…… ……」ポカーン

船長「……口閉じろ、だらしねぇ」


コンコン


船長「おう」

魔法使い「……」ポカーン

海賊「船長……ちょっといいっすか」

船長「何だ?」

海賊「女海賊なんすけど」

船長「! ……どうした!?」
0639この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:38:24.70ID:CfK7nVLL
海賊「あ、いや……それが、どうもね?」

船長「何だ、早く言え!」

海賊「……●んでるみたいなんすけど」

船長「……は?」

魔法使い「ええええええええええええええええええええええ!?」

船長「うるせぇ!」ゴン!

魔法使い「……痛い」

海賊「相手、心当たりあります?」

船長「…… ……」

魔法使い「……いい歳こいて、ってそのままそっくり返して良いよな、船長?」

船長「…… ……」



……

………

…………



盗賊「鍛冶師、入るぞ?」



コンコン、コツンコツン……



鍛冶師「…… ……」

盗賊「鍛冶師」

鍛冶師「あ……ッ 御免、盗賊……来たんだ」

盗賊「お前、本当に彫刻家かなんかに転職したら」

鍛冶師「冗談。僕は……」

盗賊「あれ、これ……」ヒョイ

鍛冶師「……聞いてる?」
0640この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:39:32.64ID:V7WRWibf
盗賊「これ、魔王が書いたエルフの本じゃネェか」

鍛冶師「聞いてないね……まあ良いけど」フゥ

鍛冶師「この絵、あんまり綺麗だからさ……教会に飾ったら良いかと思って」

盗賊「んでまた、こんなばかでかい石彫ってんのか……」

鍛冶師「定期便で石売りに来た人が居たからさ……でも」

盗賊「ん?」

鍛冶師「…… ……」

盗賊「何だよ……」

鍛冶師「……本当は、 婦ちゃんの顔にしようと思ってたんだ」

盗賊「……この像、か?」

鍛冶師「うん。だけど……」

盗賊「これ……姫にそっくりだ」

鍛冶師「……だよね。作って行けば行く程、この人の顔でしかあり得ない気になってきてさ」

盗賊「どっちにしたって、こんな大きいのあの教会にはおけないぞ」

鍛冶師「…… ……だ、よね」

盗賊「こっちの小さい石で作れば?」

鍛冶師「うん……」

盗賊「これはこれで、作れば良いじゃネェか」

鍛冶師「……そうだね」

盗賊「町長、決まったよ。まだ任せっきりにはできねぇけど」

鍛冶師「そうか。まあ、完成させるにも時間かかるしな……まだ」

鍛冶師「神父さんに約束しちゃったし……こっちは一端置いておいて」

鍛冶師「先に……ちっちゃいの作るかな」ハァ

盗賊「取りあえず飯にしようぜ?」

鍛冶師「え、もうそんな時間!?」

盗賊「おう。神父さんにも声かけたんだけどさ」

盗賊「……見習い神官共の世話で大変そうだったよ」

鍛冶師「え、また増えたの……」
0641この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:40:51.01ID:/kpcMmUj
盗賊「……気が紛れて良い、とか言ってたけどね」

鍛冶師「そっか……」

盗賊「ほら、アタシもまだやる事あるんだ」

盗賊「さっさと飯食いに行こうぜ」

鍛冶師「ん……なあ、盗賊」

盗賊「ん?」

鍛冶師「……この、小さい 婦ちゃんの出来たらさ」

盗賊「おう?」

鍛冶師「…… ……引っ越す前に、神父さんに式、挙げて貰わない?」

盗賊「式?何の?」

鍛冶師「…… ……け、けっこ、ん、しき……僕、達の」

盗賊「…… ……え、え!?」

鍛冶師「結婚、して欲しい。始まりの街に行く前に」

鍛冶師「向こうに、言ったら……その。こ、子供!とか!ほ、ほし、い!し!」

盗賊「お、おう!」

鍛冶師「え?」

盗賊「え!?」

鍛冶師「……」

盗賊「……」

鍛冶師「あー……えっと。もう一回、言うね」

鍛冶師「僕と、結婚して下さい」

盗賊「…… ……」ポカーン

鍛冶師「口開いてる」

盗賊「は、はい!」

鍛冶師「え、どっち!?」

盗賊「……ッ はい、つってんだろ!」

鍛冶師「……うん」ギュ

盗賊「……うん」ギュ

鍛冶師「幸せに……なろう、ね?」

盗賊「……うん!」
0642この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:41:46.20ID:baPqVC5i
……

………

…………


使用人「見比べろ、ですか」

女剣士「ああ。これが……アタシの親父が側近にあげた奴」

使用人「こっちが城の、で……これが、今のですね」ガサガサ

女剣士「随分……違うんだな。三枚比べると」

使用人「時代がかなり違いますからね……城の物も相当古い様ですが」

使用人「……側近様の地図は、さらに古い……様です」

女剣士「あれ?ここ……こっちは渦が書いてあるのに」

女剣士「……こっちは、島がある」

使用人「それは…… ……」


カチャ


側近「悪い、遅くなったな」

女剣士「側近!」

使用人「側近様、早速ですけど」
0643この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:41:55.87ID:z7TLT94i
側近「……おう」

女剣士「調べ物、終わったのか?」

側近「お前眠そうだな……」

女剣士「……だ、大丈夫だ!」

使用人「無理せず寝てください」

女剣士「で、でも……!」

側近「どうせこれから俺たちは地図とにらめっこだ」

女剣士「そ、その地図、アタシの親父がくれた奴だろ!?」

女剣士「アタシにも……」フワ……

側近「欠伸してんじゃねぇか……」

使用人「仲間はずれになんかしませんよ。明日、聞きたい事があれば」

使用人「お尋ねします。だから今日は、寝て下さい」

女剣士「……ん」

側近「……素直」
0644この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:42:48.65ID:A26vE/Y3
女剣士「我が儘言って、嫌われるのやだし……」

使用人「私の隣のお部屋、解ります?」

女剣士「さっき寝てたとこだよな?大丈夫……」スタスタ



パタン



側近「……何言ったの、使用人ちゃん」

使用人「これと言って、別に?」

側近「何か……急に聞き分け良くなったな」

使用人「一つずつちゃんと説明しただけです」

使用人「頭ごなしに否定し続けたら、余計意固地になりますしね」

側近「……お見事」

使用人「飴と鞭、のつもりだったんでしょう?」

側近「へ?」

使用人「きついなぁ、と思って聞いてましたけど、憎くて言ってる訳じゃないんだろうなって」

使用人「思ってたので」

側近「……まあ」

使用人「恋慕は抱けなくても、嫌う理由にはなりませんしね」

側近「程度はあるけどな」

使用人「私は嫌う程知りません。し……まあ、理解は出来ます」

使用人「同意はしかねますけど」

側近「……ありがとな」

使用人「どういたしまして」

側近「さて、話戻すか……で、どうだった?」

使用人「さっと見ただけですけど……これ、貰った地図の方が古いですね」

側近「だな」
0645この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:44:16.61ID:3O+EyZ1r
使用人「この……大海の渦。ここに島があります」

側近「…… ……」

使用人「この島……側近様の出身の島、ですね?」

使用人「……先代の魔王様に沈められた」

側近「何で……そう思う?」

使用人「単純な消去法です」

側近「……ま、そうだよな」

使用人「この地図にあって他に無いのが、この島と」

使用人「……ここ」トン

使用人「正確さがどれほどの物か解りませんが、小さな島ですね」

側近「……あと、こっちもだな」

使用人「あ、始まりの大陸……ですか」

側近「始まりの大陸は、俺がまだ人間だった頃にはもう……無かった筈だ」

使用人「……でも、地図には乗ってるんですね」

側近「先代に……直接的では無いにしても滅ぼされた、んだろう」

側近「……俺の住んでた島みたいに、沈められた訳じゃ無い」

使用人「……」

側近「違いはこれぐらいだな」

使用人「この……小さな島、岩礁地帯の中にありますね」

使用人「……エルフの森では無いのですか?」

側近「まあ、可能性はあるだろうが……ちょっとこの本を見てくれ」ドサ

使用人「これは?」

側近「さっき書庫で見つけたんだ。随分掠れてるが……」

使用人「……」ペラ

使用人「南の……に、眠……る?」

側近「多分、南の島の洞窟の奥に眠る鉱石、だ」

使用人「鉱石……」

側近「……問題は、次。ここ」

使用人「……魔法伝導率の高い…… ……石!」

側近「非常に脆く打つのは困難……とな」
使用人「……続きは読めませんね」
0646この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:46:07.47ID:O4ql8z3k
使用人「しかし……」

側近「……言いたい事は解る。調べてどうする、だろ?」

使用人「……」

側近「鍛冶師にその石を与えたとしても、だ」

側近「……まさか、魔王様の剣を打ち直せるとは思わん」

使用人「魔王様の剣の半身は、魔王様自身に取り込まれましたからね」

側近「石を用いて修理が叶ったとしても……それは、『魔王の剣』じゃ無い」

使用人「……」

側近「一つだけ解ったのは、やっぱり俺があのぼろぼろの剣で」

側近「魔王様に何かあった時、どうにかしないと行けネェ、って事だ」

使用人「…… ……側近様」

側近「大丈夫だ。この世界は守る。魔王様の思いを……無駄にはしないさ」

使用人「いえ、そうでは無くて」

側近「へ?」

使用人「……一つだけ、気になっていた事があるんです」

側近「な、何だよ」

使用人「エルフは、嘘は吐けない」

側近「……?」

使用人「嘘を吐いたら、それは本当になるのですよね?」

側近「あ、ああ……」

使用人「……姫様が眠られる時の事、覚えていますか?」

側近「……何が言いたい?」

使用人「…… ……」

使用人「『貴方は、れっきとした勇者。魔王であり勇者でもある』」

側近「…… ……」

使用人「…… ……」

側近「それは……『嘘』か?」

使用人「わかりません。ですが……」

側近「『勇者と言う存在でない』事は明白だな」

使用人「……はい」
0647この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:46:54.86ID:SX6P3VnS
側近「……『魔王』は」

使用人「?」

側近「『魔王』は『魔の王』だ。文字通りな」

側近「しかし、『勇者』てのは……」

使用人「……貴方は、『勇者』の仲間だったのでしょう、側近様」

側近「そうだ。だが……」

使用人「『勇者』と言う『者』自体は存在しない?」

側近「……ああ。勇者と呼ばれては居たが、ありゃただの人間だ」

側近「確かに強かった。魔法にも剣にも長けてたし、人を引きつける魅力もあった」

側近「だが……人間だった。ただの、な」

側近「勿論王に成る者でも無い。本当に、ただの人間だ」

使用人「……勇者と呼ばれて居ただけ、ですか」
0648この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 09:47:23.71ID:Vl7b+CHY
側近「『魔王』を倒して居れば、『勇者』と呼ばれ史実には残っただろうな」

側近「……あの時代、あのタイミング、でなしえていれば」

使用人「…… ……ですが」

側近「ん?」

使用人「魔王様の剣が、勇者の剣であったなら」

使用人「……いえ、すみません。忘れて下さい」

使用人「ちょっと……混乱してきました」

側近「……勇者の剣が魔王の剣になったなら」

側近「……『魔王であり勇者でもある』」

使用人「……?」

側近「姫様の言葉を……思い出しただけだ」

使用人「表裏一体」

側近「……」

側近「魔王様は勇者だ。確かに……」

使用人「そうです。私達……劣等種の、勇者」

使用人「港街の人々の、勇者です」

側近「使用人ちゃん……」

使用人「……姫様の言葉は、間違いではありません」

使用人「気に……しすぎです。大丈夫です」
0649この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 12:19:13.16ID:bcZcHt7k
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50
0651この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:57:13.09ID:bnE9n86b
側近「そ……う、だよな」

使用人「……すみません。気にしすぎは私ですね」

側近「いや……」

側近「……一つずつ、説明していけば良い、だろ?」

使用人「……はい」

側近「見に行くべき、か?」

使用人「?」

側近「南の島か……」

使用人「鉱石ですか……しかし」

使用人「手に入れたところで」

側近「……だよな」

使用人「余り、離れられない方がよろしいかと。様子なら私が、と言いたいですが」

側近「……転移石、か」

使用人「はい。残り少ないです。本当に必要な時に」

側近「……だな」
0652この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:57:22.65ID:HU9TUNok
使用人「さっき、女剣士さんと話していたのですが」

側近「ん?」

使用人「……出来ませんか?転移」

側近「……」

使用人「……」

側近「多分、目の力を使えば可能だろうと思う、が」

側近「……魔王様の力を引き出すのは怖いな」

使用人「そう……ですよね」

側近「それに……離れない方が良いってのも同意だ」

側近「……何時なにがあるかわからないからな」

側近「今は、女剣士も居るし」

使用人「……船長さんも何時になるかわかりませんしね」

側近「ああ……届く保証も無いんだろ?」

使用人「はい」

側近「……女剣士には?」

使用人「言っていません」

側近「…… ……そうか」
0653この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:57:45.05ID:KvvazRbb
使用人「言った方が良いでしょうか」

側近「どうかな……もし、手紙が届いていたとしても」

側近「時間は掛かるだろう。船長の居場所もわからねぇしな」

使用人「そうですね……」

側近「仕方ねぇさ。暫くは大人しくしてるしかなさそうだ」

使用人「……はい」

側近「女剣士が、死ぬまで此処に居たって」

側近「……俺たちには、それもあっと言う間、だろ?」

使用人「……」

側近「それも……あいつの運命だ」

使用人「受け入れるのですか、彼女を」

側近「……俺には、わからねぇよ。そういうの……は」



……

………

…………



魔法使い「起きてるか?」コンコン

女海賊「おう」



カチャ



女海賊「……今、どの辺だ?」

魔法使い「もうちょっとで北の街の岬を回るってよ」

魔法使い「一端降りるそうだ」

女海賊「え、なんで」

魔法使い「補給だろ。食料も仕入れないとな」
0654この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:58:05.46ID:Hyp7d3T7
女海賊「そっか」

魔法使い「……お前の腹がでかいってのもなぁ」

女海賊「毎日見てるのに解るもんか?」

魔法使い「そりゃな。自分でも気付くだろ?」

女海賊「……まあ」

魔法使い「……しかし、すげぇ確率だよな」

女海賊「何回目だよその話」

魔法使い「一回っきりなんだろ」

女海賊「……押し切ったみたいなもんだからな」

魔法使い「……」

女海賊「船長、は?」

魔法使い「舵握ってるよ、ずっと」

女海賊「……」

魔法使い「仕方ねぇだろ。惚れた女にそっくりなお前に迫られて」

魔法使い「……いや、まあ、押し切られたのは船長の所為だけどさ」

女海賊「……」

魔法使い「戸惑って当然だろ。愛し合ってる訳じゃネェのは理解してんだろ」

女海賊「……当たり前だ。ガキじゃネェんだ」

魔法使い「じゃあ……んな顔すんな。子供に罪はネェんだから」

女海賊「……そろそろ、半年か」

魔法使い「あの島を出てか?そうだな……最果ての城まで一年は掛からネェって」

魔法使い「言ってたからな」

魔法使い「波も良いみたいだぜ。ゆっくり進んでる割にゃ」

魔法使い「順調すぎる位早いんだ」
0655この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:58:24.43ID:OAB67ZUt
女海賊「そうか……」

魔法使い「で、どうすんだ」

女海賊「? 何がだよ」

魔法使い「……産んだ後、だよ」

女海賊「……」

魔法使い「……」

女海賊「港街、かな」

魔法使い「ん?」

女海賊「船に乗ってはいたいが迷惑だろうし」

女海賊「子供の事考えりゃ、な」

魔法使い「……ま、ゆっくり考えれば良いだろ。まだもう少し先だしな」

女海賊「ああ……ッ」



グラグラ……



魔法使い「な、何だ?」



チャクガンスルゾー!

アイアイサー!



魔法使い「……着いたのか」

女海賊「何処に、だ?」

魔法使い「北の街って所だそうだ。最果ての大陸に一番近い街だ」

女海賊「……」

魔法使い「あの有名な塔の傍の街さ」

女海賊「! 天まで届くって……あれか!」

魔法使い「どうする?気分転換に降りるか?」

女海賊「……ああ、良いなら」

魔法使い「すぐっつったって、夜まで位は掛かるだろうしな」

魔法使い「ほら、掴まれ」
0656この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:58:49.73ID:w3KILYD6
女海賊「サンキュ……っと」

女海賊「ったく、腹重くて厭んなるよ」

魔法使い「んなにやついた顔で言われてもな」

女海賊「……フン」

女海賊「そういえばお前、仕事は良いのか」

魔法使い「当分お前の世話係だとよ。他に女も居ネェしな」スタスタ

女海賊「……」スタスタ

魔法使い「お前でもやっぱ嬉しいモンかね」

女海賊「アタシでもってどういう意味だよ」

魔法使い「……俺は男だからナァ。わかんねぇしさ」

女海賊「この子が大きくなった頃、お前ジジィだな」

魔法使い「阿呆!俺はまだ若いわ!」

女海賊「……アタシぐらいの歳になったら、お前幾つだよ」

魔法使い「…… ……60位?」

女海賊「ジジィじゃネェかよ」

魔法使い「気持ちは若いの!何時までも!」

船長「おい、寝てなくて大丈夫なのか」

魔法使い「ずっと船の中じゃ気分も滅入るだろ?」

女海賊「無茶はしねぇよ……なあ、船長」

船長「ん?」

女海賊「最果ての地を出たら、港街に寄るか?」

船長「あ?ああ……まあ、一辺顔出さなきゃな。資材も下ろすし」

女海賊「……アタシと子供も下ろしてくれ」

船長「…… ……良いんだな」

女海賊「寂しさは我慢しろよ。子供の事考えりゃ一番良いだろう」

船長「阿呆…… 良いだろう。俺からも盗賊達に頼む」

女海賊「……ああ。魔法使い、どっかで休もうぜ」スタスタ

魔法使い「……本当に良いのか?」スタスタ

女海賊「優先事項はアタシじゃネェ。子供さ」
0657この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:59:38.47ID:gIc5kz6A
親父「失礼、今……あの船から下りてきましたな?」

女海賊「あ?ああ……どうした?」

魔法使い「何か問題でも?」

親父「あ、いや……以前も、確かあの船がこの街に寄ったことがあったはずだと」

親父「思いましてな……」

魔法使い「? 船長呼んで来ようか?」

親父「そうして頂けるとありがたい」

魔法使い「んじゃ、悪いけどどこかゆっくり休める所にこいつ案内してやって貰えないか?」

魔法使い「見ての通り身重だしよ」

親父「ああ……これは申し訳ない。宿をお探しですかな?」

女海賊「いや、補給だとか済ませたら発つって言ってたから……」

親父「では、良ければ我が家へどうぞ。あの赤い屋根です」

魔法使い「んじゃ、船長連れてそっち行くわ。悪いけど……えーと?」

親父「……失礼。私はこの街の町長です」

魔法使い「あいよ。んじゃ女海賊、先行っとけ」

女海賊「ああ……すみません。お世話かけます」

親父「いえいえ。どうぞ」スタスタ

女海賊「……あれ、噂の塔……か」スタスタ

親父「ん? ああ……近寄らない方が身のためですぞ。まあ、貴女は身重でいらっしゃるし」

親父「関係の無い話でしょうが……さ。どうぞ」カチャ

女海賊「あ……すみません」
0658この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 18:59:50.51ID:asqsrhwd
親父「今お茶を入れましょう」

女海賊「あ……お構いなく」

親父「……興味がおありか、あの塔に」

女海賊「有名ですよ。アタシ達、か……旅人にとっちゃ、ね」

女海賊「どんなお宝が眠ってるやら、てな」

親父「……少し前にね。あの塔に上った者が居りました」

女海賊「え!?」

親父「話に寄ると……」


カチャ


魔法使い「お待たせ!」

船長「アンタが町長か……」

親父「ああ、貴方が船長ですか。お呼びだてして申し訳ない」

親父「まあ、座って下さい」

女海賊「お、おい、続きは?」
0659この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:00:10.46ID:JkmULJjB
船長「続き?」

女海賊「少し前にあの……塔に上った奴が居るって」

魔法使い「まじで!?」

親父「あ、ああ……私の娘と、旅人がね」

船長「娘……女剣士か?」

女海賊「え!?」

魔法使い「知り合い?」

親父「娘をご存じなのですか!?」

船長「……この街を出て、鍛冶師の村へ行く途中だとか行ってた時にな」

船長「海に落ちて……」

親父「え!? ……そ、それで、娘は!?」

船長「……海に落ちた所を、俺の船が拾ったんだ」

親父「で、では……無事、なのですか……娘は、どこに?」

船長「……用事はそれじゃ無かったのか?」

親父「ま、まあ……そうなのですが……」

魔法使い「まあまあ、順番に聞こうぜ。塔の話も聞きてぇし」

船長「ああ……女剣士はもう船を降りた後だ。一緒じゃネェが」

船長「無事には違いネェよ」

親父「そうですか……」ホッ

親父「……一緒で無いのなら、良かった」

魔法使い「どういう意味だ?」

親父「……以前、貴方はこの街に側近と言う男を下ろしたでしょう」

船長「ああ」

親父「あの頃、頻繁にこの街は蝙蝠の群れに襲われていましてな」

親父「……それを退治し、街の治安維持に努めていたのが娘です」

親父「蝙蝠達はあの北の塔の方からやってくる」

親父「……興味本位で塔に行きたがる者は多かったが、行って帰ってくる者は居らず」
0660この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:00:47.40ID:XK9o87UY
親父「私どもも追い払うので精一杯だったんです。ですが」

親父「丁度襲撃を受けている時に居合わせた側近が……あっと言う間に倒してしまった」

船長「……」

親父「彼も塔に興味を持っていたのでね。私は、塔の様子見と」

親父「……もし、ボスの様な者が居たのなら倒して欲しいと依頼し、船を貸したんです」

魔法使い「……で、無事に倒してきたのか?」

親父「いや……話に寄ると」

親父「あの塔の入口は……娘には見えたが側近には見えなかったそうだ」

親父「二人はどうにか内部に入ったらしいのだが」

親父「塔の中にも何も無かったらしい」

女海賊「馬鹿な!天辺は雲の上だったぞ!?」

親父「入口も、あの見てくれも……なんらかの魔法が掛かっていたのでは無いかとの」

親父「話だった……娘と側近に何の違いがあるのかは分からないが」

親父「結局……今までと何も変わらない。街の事は街で守らなければ仕方無い」

船長「……」

親父「私は、側近にこの街に残ってくれと頼んだんだ。娘の婿にならないかとね」

親父「娘もまんざらではなさそうだったしな」

船長「…… ……原因はそれか」ハァ

親父「え?」

船長「いや、何でもない」

女海賊「で……その側近てのはどうしたんだ?」

親父「仕える者がいるからと出て行ったよ。娘も後を追っていった」

親父「……寂しいとは思ったが、この街に縛り付ける訳にもいかないし」

親父「今まで……娘にばかり街の治安維持を押しつけていたからな」
0661この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:05:21.21ID:R4Glvivg
船長「ふむ……で?用事ってのは娘を知らないか、か?」

親父「いや……そうじゃない」

女海賊「? じゃあ、何なんだよ」

親父「……あの後、蝙蝠の襲撃はぴたりと止んだんだ」

親父「身構えていた私達は安心した。側近はああは言ったが、実は解決してくれたんじゃないかとね」

魔法使い「なんだ、じゃあめでたしめでたし、じゃネェか」

親父「……最初は、な」

船長「?」

親父「ある日、また蝙蝠共がやってきた……んだが」

親父「数も少なく、力も弱い。酒場の女将でも追いやれる程度……なんだ」

女海賊「じゃあ……良いじゃネェかよ」

親父「……同時に、農作物が枯れ始めた」

船長「ん?」

親父「北の……最果ての大地の空を見た事はあるか?」

船長「……紫色の空か」

親父「あそこは昔からそうだ。だが……今では、北の塔の近くまであの闇色の雲が迫っている」

船長「…… ……」

親父「塔の魔法に惹かれ、蝙蝠達が集まっていたのでは無いかと言う」

親父「側近の推測はまだ納得が出来たんだ。だが……」

親父「彼と娘があそこへ言ってから、雲は広がりだし、街の農作物が枯れ出した」

親父「そして……止んでいた筈の蝙蝠達がまた集まり始めた」

女海賊「でも、随分弱くなったんだろう?」

船長「……一度平穏になっちまえば、再度、があれば必要以上に」

船長「不安になってもおかしくはないだろうな」

魔法使い「だが、その側近とやらも、女剣士って娘ももう居ないんだろう?」

魔法使い「だったら……」

船長「居ないから、だろう」

魔法使い「へ?」
0662この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:06:45.70ID:bce24S7X
船長「守ってくれてた筈の女剣士はもう居ない。自分たちでどうにかしなくちゃいけネェ」

船長「……不安と、疑心が浮き彫りになった、んだろう?」

親父「そうだ。側近と言う奴が……何かをしていったんじゃないか」

親父「女剣士は騙されてそそのかされて連れて行かれたのでは無いか」

親父「……いや、そもそも招き入れたのは女剣士じゃないか、とな」

魔法使い「んな無茶苦茶な……」

親父「勿論、言葉通り簡単にそうなった訳じゃ無い。だが……」

船長「一度火の付いた疑惑はそう簡単に止められない、か」

親父「ああ。側近は魔族だったんじゃないかと言い出す者も居た」

船長「…… ……」

親父「彼は……本当に強かった。だから……」

親父「塔の入口が見えなかったのも、人間では無かったからだ、とかな」

女海賊「そんな事言い出せば、側近とやらの言い分全て信じなくなりそうだがな」

親父「……街の人達は、私にも口を聞いてくれんよ、もう」フゥ

親父「だから、な……船長の船に見覚えがあったから、もし」

親父「もし、女剣士が居るのなら、降りて来るな、帰ってくるな、と」

親父「……伝えて貰おうと思ってな」

魔法使い「ひでぇ話だなぁ……」

船長「アンタはどうするんだ、町長さんよ」

親父「私ももうすぐ街を出るつもりだ。女剣士の無事が解れば……良いのだ」

親父「帰って来たら殺されかねん。私も……恐ろしい」

親父「もし、どこかで女剣士にあったら伝えて置いて欲しい」

親父「……船を下りたのは、遠い場所か?」

船長「港街……魔導の街のすぐ近くに出来た、新しい街に居るはずだ」

船長「そこから先は俺にもわからんが……此処へ戻ろうにも船がいる」

船長「……会えば、伝えておこう」

親父「そ、そうか……ありがとう」
0663この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:08:16.70ID:wvJIc8fT
船長「……用事はそれだけか?」

親父「ああ。君達も用事が済めば、すぐに出発した方が良い」

親父「街の人達は、余所者を嫌っている……害は無いと思うが」

親父「用心するに越したことは無い。妊婦さんもいるしね」

魔法使い「いや、女海賊と一緒に降りて正解、だろ」

魔法使い「身重の女連れた一行が、街を襲うとは思わないだろ、流石に」

女海賊「それすらも偽装と取られりゃ一緒さ……」

船長「そうだな。何もかも疑って掛かる連中に、普通、は通用しねぇ」

船長「魔法使い、女海賊を船室に連れて行ったら荷物の積み上げ手伝え」

魔法使い「あいよ」

女海賊「……お茶、ご馳走様でした」

親父「いや、こちらこそ……ありがとう」

親父「……肩の荷が下りた。娘の無事が解れば、後は……もう心配する事は無い」

女海賊「……」

魔法使い「オラ、行くぞ女海賊」

女海賊「あ、ああ……」

親父「ありがとう……」


パタン


船長「ジロジロ見られてると思ったら、そういう事か」スタスタ

魔法使い「襲いかかっては来ない……よな?」

女海賊「しがみつくな暑苦しいッ」

魔法使い「だ、だってよ……」

女海賊「ほら、荷下ろし手伝ってこい。アタシは一人で戻れるよ」

船長「船はそこだし……大丈夫、だな?」

女海賊「海賊共もウロウロしてるしな、平気だ」

女海賊「……さっさと出発しようぜ。空気が悪い」

魔法使い「気分が、だな……良し、ちゃっちゃっと終わらすか」

船長「おう!お前ら!手休めるなよ!」


アイアイサー!
0664この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:08:39.14ID:uZzqqmJn
……

………

…………



神父「……では、今日はここまでにしましょう、か」

新米神官「はい!ありがとうございました……あ、神父様」

神父「はい?」

新米神官「今日も本をお借りしてもよろしいですか?」

神父「ええ、どうぞ」

女神官「あ、私もお借りしたいです」

神父「ええ、どうぞ」

女神官「……こっち、読んだ?」

新米神官「あ、ええ……今日はこのエルフのお話をお借りしようかと」

女神官「じゃあ、私はこっち……この魔導書、お借り致します」

神父「ええ、順番に…… ……ッ」グラッ

新米神官「神父様……? 神父様!?」

女神官「え…… ……きゃあああああ!?」

神父(め、まい…… ……?)バタンッ

女神官「神父様!神父様!?」

新米神官「あ……ッ だ、誰か呼んできます!」バタバタバタッ

女神官「か、回復魔法……ッ」パアッ

神父(……からだが、うご、かな ……い…… ああ……)

神父(わたく、し ……は、 ……ま、だ…… ……)
0665この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:09:13.89ID:A9Ff0uay
女神官「神父様、神父様!!しっかりなさってください!!」パァアッ

女神官「神父さ……ッ」



バタバタバタ……ッ



盗賊「神父さん!」

鍛冶師「神父さん!」

神父「…… ……」

新米神官「女神官さん、神父様は……ッ」

女神官「……ッ みゃ、脈が、弱くて……ッ」

盗賊「神父さん……ッ 鍛冶師、医者はまだか!?」

鍛冶師「すぐ来る! ……どいて、取りあえずベッドに運ぼう」ヒョイ

鍛冶師「……神父さん、すぐ、お医者様来るから……ね」スタスタ

神父「…… ……」

新米神官「そんな……回復魔法、が……効かない、なんて……」

女神官「効かないんじゃないわ……命の炎が、もう……」

新米神官「え……?」

女神官「……追いつかないだけよ。死神の鎌から、逃げるお元気が、もう……」

新米神官「死神……そんな……ッ」

盗賊「静かにしてろ……もう、医者が来る」



バタンッ



医者「神父さんが倒れたって!?」

盗賊「奥の部屋だ。鍛冶師が着いてる」

医者「ん。ちょっと待ってなさい……ああ、そんな顔しなくて良い」

医者「……大丈夫、じゃよ」

新米神官「……」

女神官「……」


パタン
0666この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:09:37.30ID:6/PbapEr
盗賊「……お願いします」

新米神官「神父様……ッ」

女神官「…… ……」



カチャ……パタン



鍛冶師「……」フゥ

盗賊「鍛冶師、神父さんは……」

鍛冶師「……今、先生が見てくれてるけど、多分……」フルフル

女神官「そんな……ッ」

新米神官「神父様……ッ」



カチャ



医者「お入り……神父様、目を覚ましたよ」

盗賊「本当か……!?」

医者「……時間が無い。許す限り……話してやると良い」

盗賊「……!」

新米神官「神父様!」タタタ

女神官「神父、様……!」タタタ……ッ

鍛冶師「……」

神父「ご、めんなさい……ご心配、おかけ……しました……」

盗賊「全くだぜ、焦ったよ……びびらせんなよな」

新米神官「盗賊さ……ッ」

盗賊「まだ港街、できあがってネェんだ。神父さんには」ポロポロ

盗賊「魔除けの石、一杯作って貰って、売り上げに協力……し、して……ッ」ポロポロ

新米神官「…… ……ッ」

鍛冶師「そうだよ、神父さん。 婦ちゃんの像もこの間出来た所だ」

鍛冶師「ずっと見てたい位綺麗だって、褒めてくれたとこだろ?」
0667この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:10:23.55ID:ych+qOL3
神父「……ええ、そうですね。まだまだ、頑張らないと……」

神父「女神官さん、新米神官さん」

女神官「は、はい!」

新米神官「はい……ッ」

神父「私、暫くゆっくりしますから……魔石の作り方は、もう覚えました、ね?」

神父「私の……変わりに。街の為に、人の……冒険者や、力を持たない者の為に」

神父「頑張って下さい、ね……?」

新米神官「ぼ、僕はまだ、旨く出来ません!しん、神父様が、もっと、お、教えて……ッ」

新米神官「教えて、下さらない、と……ッ!!」

女神官「……ッ」ヒック、ヒック

神父「泣いて、いるのですか……? ……ああ、もう。見えて……」

神父「…… ……」

鍛冶師「神父さん?」

神父「盗賊、さん。鍛冶師……さん ……結婚式、どうぞ……」

神父「ここ、で……して下さい。見たかった、な……」

神父「…… ……娼、婦 ……さ  …… 待っ」

神父「…… ……」

女神官「神父様!神父様!?いやあああああああああああ!!」

新米神官「神父様!!」

盗賊「……」ポロポロ

鍛冶師「……」ギュ

医者「魔除けの石、てのは……魔力も精神力も随分消耗するんだろう」

医者「……体力の急激な衰えは、少し前から気になっておったんだ」

鍛冶師「先生……」

医者「自分で煎じて、薬草なども採っておった様じゃがな」

医者「……随分、しんどかったんじゃろう」

盗賊「そう……か……」

医者「もう……大丈夫じゃ。苦しみは去った」

医者「……見てみぃ。晴れやかな顔、しとるわい」

盗賊「神父さん……御免な。アタシら、無茶ばっか……」
0668この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:14:01.51ID:RcU3f8N0
医者「……私は、これで。もう出来る事は無いからの」スタスタ


パタン


女神官「……」ヒック、ヒック

新米神官「神父様、神父様……ッ」ポロポロ

盗賊「……鍛冶師」

鍛冶師「あの場所に、って訳にはいかないよな」

盗賊「うん……この、奥に墓地を作ろう」

盗賊「此処も……丘の上だし。気持ち良い風が吹くさ」ポロポロ

女神官「新米神官さん」

新米神官「は、はい……?」

女神官「皆を集めて下さい……これからの事を、話し合わなければ」

新米神官「……ッで、でも……ッ」
0669この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:14:10.69ID:W1yfXIJz
女神官「此処は、神父様の作った教会です!神父様は、神の御許へと」

女神官「……私達より先に旅立つ事を許された、それだけなのです!」

女神官「泣いて、いては行けない……の、です……!」

新米神官「……ッ」

女神官「さあ、皆を呼んできてください」

女神官「……盗賊さん、鍛冶師さん、お呼びだてして申し訳ありませんでした」

盗賊「……いや。呼んでくれてありがとう」

鍛冶師「何かあったら、呼んでくれよ?」

女神官「……はい」

盗賊「行こう……鍛冶師」スタスタ

鍛冶師「ああ……」スタスタ


パタン


盗賊「…… 婦の名前、呼んでたな。神父さん」

鍛冶師「会えたんじゃない? ……娘みたいだって言ってたしな」

盗賊「うん……」


タタタ……


盗賊「?」クル
0670この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:14:30.44ID:UZxcju2i
新米神官「盗賊さん、待って下さい!」

鍛冶師「……どうしたの、みんなを呼びに行くんじゃ?」

新米神官「はい……それは、そうですけど」

新米神官「……あの。魔石の事なんですが……お医者様が仰った様に」

新米神官「本当に……」

鍛冶師「精神力や魔力を消耗する、のか……か?」

新米神官「……はい」

盗賊「否定はしないよ。魔力を具現化する訳だしな」

盗賊「……神父さんは、徳の高い聖職者だった。込もる魔力も質の良い物だろう」

盗賊「加えて、高齢だった。アタシは……随分無茶をさせたのかもしれない」

新米神官「…… ……」

鍛冶師「だからって盗賊を責めるのは間違えてる」

盗賊「鍛冶師……良いんだ」

鍛冶師「僕は君の恋人だからって、ひいき目で言ってるんじゃない」

鍛冶師「……作ると言う選択肢を選んだのは神父さん自身だ」

鍛冶師「確かに、教えたのは盗賊だ。だけど……」

新米神官「……盗賊さんを非難すると、神父様の選択を……神父様自身を」

新米神官「否定する事になる、と言いたい、のですか」

鍛冶師「…… ……」

盗賊「……御免、な」

新米神官「……ッ 謝って頂きたい、訳じゃ……ッ …… ……」

新米神官「失礼……します」クル。スタスタ

盗賊「……」

鍛冶師「大丈夫?」

盗賊「気持ちは解るよ。あいつ……親みたいに慕ってたって話だし」

鍛冶師「……まあ、ね」

盗賊「教会の事はアタシらにはわかんねぇよ。コッチから率先して首突っ込むのもな」

鍛冶師「うん……でも……」

盗賊「勿論、ちゃんと見送ってから、の話だぜ?」

鍛冶師「…… ……」
0671この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:14:51.45ID:OR31rIXD
盗賊「みんな、居なくなって行くな」

鍛冶師「ん?」

盗賊「魔王、姫、側近……使用人も、か」

盗賊「……船長も行っちまったし、 婦と、神父さんは……もう……」

鍛冶師「…… ……」

盗賊「……なあ、鍛冶師」

鍛冶師「ん?」

盗賊「あのでっかい像、出来たのか?」

鍛冶師「あ、ああ……もう少しだよ」

盗賊「そっか……」

鍛冶師「何で?」

盗賊「ううん……もっと、時間かかるかと思ってたけどさ」

盗賊「よく考えたら、この街……完成するまで待つことも無いんだよな」

鍛冶師「……まあ、軌道にさえ乗っちゃえば、ね」

鍛冶師「けど、君の立場的に……」

盗賊「この間も言っただろ?町長も決まったんだ。魔導の街の役人とも」

盗賊「引き合わせたしな……」

鍛冶師「……出たいのかい?街」

盗賊「手を離れて言い頃合いかな、と思っただけだ」

盗賊「……て、言うのもな。別にアタシの街じゃ無いから」

盗賊「だから……さ。偉そうな言い方になった、けど……」

鍛冶師「うん。良いよ……解った」

鍛冶師「あれが完成したら、行こう。でも……その前に」

盗賊「ん?」

鍛冶師「約束しただろ。結婚式」

盗賊「……うん」



……

………

…………
0672この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:15:43.38ID:/HNoPh/8
使い魔「側近様?」コンコン

側近「おう。入れよ」

使い魔「失礼します……側近様、大陸の外れに船が見えるんですが」

側近「船? ……船長か!」ガタ

側近「急いで馬車を向かわせろ。客だよ」

使い魔「は、はい!」パタパタ……

側近「……使用人ちゃんは庭、かな」スタスタ

側近(どれぐらい時間が経ったんだかな……)
側近(ん……人影が、二つ。あれか)キィ

側近「使用人ちゃん。女剣士もいるか?」

使用人「側近様?どうされたんです……やっと手伝って頂ける気になりましたか」

側近「虫が撲滅されない限り俺は厭だってば」

女剣士「情けないなぁ……」

側近「うるさいな……それより、船長が来たみたいだぞ」

女剣士「え!?」

側近「馬車を向かわせた……船が着いた様だ」

使用人「そうですか……早かったですね」

側近「そうか?えっと……」

使用人「手紙を出してから、一年ぐらいですかね」

女剣士「……もう、一年経つのか」

側近「もう、かまだ、か……わかんねぇけどな」

女剣士「……」

側近「どうした」

女剣士「やっぱり……帰らないと駄目、か?」

側近「自分で決めた事だろう」

使用人「……お先に、準備してきます。後ほど、食堂に来て下さいね」スタスタ


カチャ、パタン


側近「……おう」

女剣士「……」

側近「女剣士?」
0673この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:16:28.19ID:RC3fX/NS
女剣士「……ううん。そうだよな」

側近「俺達……魔族と、人間のお前と、この侭此処で、ずっと……て訳には」

側近「いかねぇよ。毎日見てるからわかんねぇけど」

側近「……お前は、確実に一つずつ……大人になる」

女剣士「でも……アタシ、は……」

側近「中身がそう簡単に変わる訳じゃネェ。そりゃ解ってるよ」

側近「……だがな、最初に言われただろう?使用人ちゃんに」

側近「お前が……おばあちゃんになっても、俺はこのまんま、だ」

側近「……結論は後回しで良い。だけど、取りあえずは決めたとおりにしてみろよ」

側近「帰って来ようと思えば、何時でも帰ってこれる。だろ?」

女剣士「……うん。でも、でも…… ……もし、魔王に……ッ」

側近「魔王様に何かあれば、それは……お前が此処に居ようが否」

側近「……俺には、すべき事をするしかできん」

女剣士「…… ……」

側近「逃げろ、としか言ってやれない」

側近「……それはもし、俺とお前が愛し合っていたとしたって、同じだ」

女剣士「…… ……うん」

側近「……ありがとう。良し、行くか」

女剣士「ああ……そうだ、側近。賭けないか」

側近「あ?何をだ?」

女剣士「船長の腹が育ってるかどうか」

側近「……育ってる、に使用人ちゃんのケーキ」

女剣士「アタシもそっちだ」

側近「賭けにならねぇよ ……ん?」

バタバタバタ……ッ

使用人「側近様!早く来て下さい!私の部屋です!」

側近「え?え?」

使用人「女剣士さん、お湯を沸かして、持ってきて下さい!」バタバタ

女剣士「え!?あ、ああ……な、何だ!?」

側近「と、とにかく行くぞ!」
0674この頃流行の名無しの子垢版2021/02/21(日) 19:22:22.24ID:rH9kWT17
……

………

…………



船長「あ……そ、側近!」

側近「おう、船長久しぶりだな……一体何の騒ぎだ?」

側近「つか、使用人ちゃんは?」



ギャアギャア

オチツイテクダサイ!ダイジョウブデスカラ!

イタイ!イテェッテバー!

オ、オイオチツケ!オンナカイゾク!

ナンデオマエガココニイルンダ、デテケー!



ゴン!



側近「……な、何事?」



イテェッオマエ……ッ

イイカラ、デテイッテクダサイ!

シゲキシナイデ!



バタン!



魔法使い「……何で俺がこんな目に……」ハァ

船長「……お疲れ」

側近「えーっと……こいつ、は?」

船長「船の魔法使いだ」
0675この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 03:59:04.77ID:g2GH1fXF
ガボール ガボラトリー 雑談24
立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50




シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l50




マリガボが
ホールの歯が有る馬から型抜きしてパチを作ってた。
マリガボは歯が有る馬は持って無かったから動かぬ証拠バリバリ
https://www.instagram.com/tv/CLh31hhjylY/?igshid=fyek6ddojvgk
0676この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 18:49:50.32ID:3BKVafkZ
ガボール ガボラトリー 雑談24
スレ立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50
シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613628716/l50
シルバーアクセサリーなんでもスレッド76の
最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l
マリガボ成田怪奇コン尻エーレが偽生前フェイスリングを売ってバレて客がツイッターで騒いだからマリガボ恵比寿が客の個人情報を漏洩してパチ被害者の客から100万円取った。
その他鉄仮面スカルなどのヤフオクパチグループにも関与。
https://www.instagram.com/tv/CEym0DrjD_0/?igshid=1w1pm3bvlj0xe
前回パスカルザザがマリアの遺産相続人だと思ってピーターを訴えたらピーターがマリアの財産は相続してない財産管理人だと言って逃げたから今度はピーター個人とマリアの財産管理人のピーターを訴える書類。
https://www.instagram.com/p/CISgdrOD_7W/?igshid=1b03v9o0mjnmr
マリガボはウォータームーン渡辺と成田怪奇コン尻エーレがホールから473万円分仕入れて出来が良い生前と言ってマリガボの倍の値段で売ったりヘンテコなワニ、カエル、お岩さん、般若、ポセイドン、ケルティック、象さん等々、成田怪奇が捏造企画してデフブリで作売ってる。
マリガボの成田怪奇コン尻エーレが署名捺印した仕入れ伝票。
https://www.instagram.com/p/CJNM7pDDtOd/?igshid=g8wb3t5ir79y
0677この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 22:19:23.47ID:jP8P8/Wz
船長「こっちが…… ……側近だ」

魔法使い「側近!アンタが!」

側近「あ?ああ…… ……なんだ?」

魔法使い「へーぇ……」ジロジロ

側近「な、何だよ。気持ち悪ぃな」

魔法使い「いや。魔族っても……俺たちと変わらネェなぁ、と思って」

側近「はぁ?はあ……そりゃ」


バタバタ


女剣士「側近、お湯!」

側近「お、おう! ……て、どうすりゃ良いんだ、これ」

船長「女剣士!? お前、なんで此処に……!?」

魔法使い「え、え……ええ!?」

女剣士「な、な、何だよ!?」

側近「あー……えっと、な。使用人ちゃんはこの中、だよな?」

魔法使い「あ、ああ……えっと、持って行ってやってくれるか?」

女剣士「う、うん…… ??」


スタスタ。カチャ


イタアアアアアアアアアアアイ!

マダイキンジャダメ!


側近「いや、なあ……マジで、中で何やってんの!?」

魔法使い「……産気づいたんだよ。女海賊、って奴がな」

側近「……産気づいたぁ!?」

船長「馬車の中で苦しみだしてな、急に」

船長「……ああ、すまん。随分汚しちまった。血が……」

側近「おいおいおい、そんなのどうでも良いよ!」

側近「大丈夫なのか!?」
0678この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 22:19:58.24ID:LTZAVvkE
魔法使い「……随分出血が多かったんだ。使用人って子が慌てて運んでくれたんだが」

魔法使い「あんなけ叫んでるんだ。大丈夫……だろ」

魔法使い「遠慮無く俺の事ぶん殴りやがったし……」

側近「……」

船長「いざとなりゃ、お前……回復、出来るよな?」

側近「あ、ああ……そりゃそうだが……」



オギャアアアアアアアアアアアアア!



魔法使い「産まれた!」

船長「……」ホゥ

側近「いや、しかし……お前、あの船、女なんかいたか?」

魔法使い「俺とあいつは新参だよ。んで、子供は…… ……」

船長「魔法使い!」

魔法使い「…… ……んだよ」

側近「……?」



バタン!



使用人「側近様!早く!」

側近「な、何だ!?」

使用人「母体の出血が止まりません!」

側近「!! ……ッ 糞、俺は医者じゃねえぞ!?」バタバタ

船長「……」

魔法使い「おい」

船長「……」

魔法使い「おい!船長!」

魔法使い「聞いてんのか!!」

船長「……なんだよ」
0679この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 22:39:51.68ID:orY0O2ck
魔法使い「何だよ、じゃネェだろ、何とか言えよ!」

魔法使い「心配じゃねぇのか!?」

船長「…… ……側近がついてんだ。大丈夫だろ」

魔法使い「て、めぇ……ッ!!」グイッ

船長「……ッ」

魔法使い「テメェらの間に愛なんてネェのは知ってるよ!」

魔法使い「あいつが無理矢理、押し切ったってのも解ってるよ!」

魔法使い「だがなぁ、あいつは、マジで……ッ テメェの事……!!」

船長「…… ……」

魔法使い「何時まで死んだ女思ってやがるんだ!あいつは……ッ」

魔法使い「死んだ、 婦って女の変わりじゃネェぞ!!」ブン……ッ バキッ!

船長「……ッ」



ドン!

ガタガタ……ッ



女剣士「何やってんだ!」バタン! ……オギャア、オギャア

魔法使い「……ッ」

女剣士「ヨシヨシ。ウルサイおっさん共だなぁ」

船長「…… ……子供は、元気……なのか」

女剣士「……子供は、な」

魔法使い「女海賊は?」

女剣士「…… ……今、側近が魔法かけてるよ」

女剣士「船長。粉ミルクが無いんだ。船に無いのか?」

船長「あ……ああ…… ある、な」

女剣士「そうか、良かった」ホッ

女剣士「じゃあ、すぐに取ってきてくれ。母 は……無理だ」

魔法使い「無理って、何で……!」

女剣士「お母さんの体調、戻ってからじゃないと!」

魔法使い「…… ……あ、ああ……そういう意味、な」
0680この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 22:59:04.63ID:e+0iqgxA
船長「解った……すぐ、戻る」スタスタ


パタン


女剣士「頬、赤かったな。殴ったのか」

魔法使い「…… ……」

女剣士「父親、船長なんだな」

魔法使い「……何で」

女剣士「お母さん、言ってたよ。船長を責めないでって」

魔法使い「……ッ」

女剣士「……はい」

魔法使い「え、え!?」オギャアオギャア!

女剣士「ちょっと抱っこしてな」

魔法使い「え、ちょ、俺、無理!」

女剣士「……これから、育てて行かなきゃいけないんだろ?」

魔法使い「……な、何でだよ。女海賊は……ッ」

女剣士「……側近は医者じゃない」

魔法使い「!」

女剣士「中、入って良いよ。アタシは此処で、船長待ってる」

魔法使い「赤ちゃん、預かってくれよ……」

女剣士「駄目。ちゃんと血も拭いたし、暖めたから大丈夫」

女剣士「どうせミルク飲む迄泣いてるよ。ちょっとは慣れな」

魔法使い「…… ……」スタスタ

キィ……

側近「…… ……魔法使いか。すまん」

魔法使い「いや……アンタの所為、じゃ……」

使用人「申し訳……ありません」

魔法使い「だから……謝るな、って……」

魔法使い「…… ……真っ青だな。女海賊」

側近「出血がひどかったみたいだな。回復魔法はかけたが……」

側近「……間に合わなかったみたいだ」
0681この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:00:23.24ID:tJnuuc8q
使用人「女剣士さんと、船長さんは?」

魔法使い「船長は……ミルク取りに、船に行った」

魔法使い「女剣士は外に居るよ。少し慣れろって……赤ちゃん、渡されたけど」

使用人「……預かります」オギャア……

側近「とにかく、赤ん坊寝かすのが先だな。後は……まあ、準備しとくわ」

使用人「……では」スタスタ。パタン

側近「……後で、呼びに来る」スタスタ



パタン



魔法使い「……冗談だろう、おい。お前……俺と宝探して」

魔法使い「派手に暴れて、世界の海渡ろうぜって……!!」

魔法使い「……何勝手に男に惚れて、何勝手にガキ作って」

魔法使い「何勝手に死んでんだよ!畜生!」

魔法使い「……しかも、ここ……魔王の城だぜ!?」

魔法使い「冗談、きっつい…… ……!?」



グラグラグラ……ッ



魔法使い「な、んだ……ッ ……地震……ッ !?」



グラグラグラ…… ……グラグラ…… …… ……



魔法使い「……収まった…… ……?」

魔法使い「何なんだよ……全く……ッ」

魔法使い「……女海賊」ナデ

魔法使い「…… ……」


キィ……


側近「おい、大丈夫か?」
0682この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:01:01.18ID:8wFZH9Yw
魔法使い「あ、ああ……地震だろ?平気だよ」

側近「……なら、良いが。落ち着いたら、食堂に来い。正面の扉だ」

魔法使い「……ああ」

側近「…… ……」



パタン



側近「ふぅ……」

使用人「側近様。船長さん、戻られましたよ」

側近「ああ、そうか……あれ、赤ん坊は?」

使用人「女剣士さんに任せました。慣れていらっしゃる様ですし」

側近「……意外な事実だな」

使用人「街で何度かお産は見られて居たようですしね」

側近「そっか……まあ、そうだな」

使用人「……気がつかれましたか?」

側近「さっきの地震か」

使用人「……封印の間から、魔王様の魔力が……感じられます」

側近「…… ……声が、聞こえた」

使用人「声?」

側近「『揃った』だそうだ」

使用人「……?」

側近「何が、かは解らネェがな」

使用人「……赤ちゃんが眠れば、皆を集め手短に用件を伝えましょう」

使用人「時間がなさそうです。それに……赤ちゃんに、良い環境じゃありません」

側近「……ああ。急いだ方が良さそうだ」

使用人「魔法使いさんを呼んできます」

側近「ああ、待て……あいつはそっとしておけ」

使用人「え、でも……」

側近「……船長だけで良い。今は……」

使用人「…… ……はい」
0683この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:02:26.83ID:3fKLeSge
……

………

…………


女剣士「そんな!」

船長「……事実だ。お前は、北の街には帰らない方が良い」

側近「まじかよ……」

使用人「……人間だって馬鹿じゃありませんよ。紫の空が広がっているのは事実です」

商人「恐らく、魔王様がお眠りにならなければ、さらに……広がって言っていたでしょう」

側近「……ついでに、インキュバスの野郎が流した『魔王の復活』の話が」

側近「信憑性を高める結果になってる、て訳か……」

女剣士「……親父まで……疑われてるのか」

船長「町長は街を出ると言ってた。お前が無事と解れば心配も無い、とな」

女剣士「……側近、アタシ……」

側近「ストップ。今から話そうと思ってたが……お前をこの城に置くことは出来ん」

女剣士「何で!?」

船長「しかし……いや、連れて出るのは構わん。好きなところで下ろしてやる、が……」

側近「……さっきの地震、気がついただろう?」

側近「魔王様の声が……聞こえたんだ」

船長「魔王の声?眠りについたんじゃ……」
0684この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:02:36.05ID:5lxYR8nL
使用人「期限が決まっている訳ではありません。今かもしれないし、何十年も後かもしれません」

使用人「ですが……確実に、魔王様の魔力が高まっています」

女剣士「…… ……」

側近「俺には、やる事がある。もし、魔王様に変化があれば」

側近「……使用人ちゃんの事すら、構ってる余裕は無い」

女剣士「……側近、顔色が悪い」

側近「ばれたか……」

船長「……どうした?」

側近「さっきから、体内で魔王様の目が……疼いてる」

側近「力が溢れそう……なんだ」


カチャ


使用人「! ……魔法使いさん」
0685この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:03:18.90ID:nH1mxmZu
魔法使い「船長、話が済んだら行くぞ。ここに、こいつを置いてはいけねぇだろ」

使用人「…… ……お連れする、のですか」

魔法使い「悪い。途中から聞いてた……俺は、事情は殆どわかんねぇけど」

魔法使い「……こいつを置いておいて、魔王とやらに取り込まれるのは御免だ」

魔法使い「女海賊は仲間だ。ちゃんと……俺たちで弔ってやらなきゃ」

女剣士「……アタシ、暫く船に乗ってて良いか」

船長「女剣士?」

女剣士「赤ちゃん、どうするんだよ。女いないんだろ?船に……」

船長「…… ……」

女剣士「誰かが、お母さんの変わりになってやらなきゃ」

使用人「…… ……」

側近「サンキュ、女剣士」

女剣士「落ち着いたら、会いに来て良いんだろ?」

女剣士「……ちゃんと連れていてくれよ、船長」

船長「……すまん」

側近「……追い出す様で悪いが…… ……ッ う、ぅッ」

使用人「側近様!?」

女剣士「側近!!」

側近「……ッ 早く行け!赤ん坊、居る、ん…… ……ッ 」ウゥ……ッ

側近「『揃った』…… ……」ハァ、ハァ……!

使用人「……ッ 早く、走って!」

魔法使い「……先に行くぜ!」タタタ

船長「女剣士、赤ん坊……貸せ!」ダダダッ

女剣士「側近……ッ 糞、絶対、会いに来るからな!」ダダダッ

使用人「馬車は乗り捨てて構いません、早く……ッ」



バタァン……ッ !



使用人「側近様……!」
0686この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:05:45.05ID:7EIBjczT
側近「う、ぅ……ッ」

側近「…… …… 『生と死』 ……ッ」

使用人「側近、様……?」

側近?「……『特異点』 ……『王』『拾う者』」

使用人「……ッ」

使用人(側近様の瞳が、紫に……!? ……これ、は……ッ)

側近?「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』」

側近?「『知を受け継ぐ者』……」ジッ

使用人「……ッ」ゾクッ

側近?「『光と闇』『勇者と魔王』」

使用人「……そ、側近……さ、ま……ッ」

側近?「『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」

側近?「『我が名は、勇者』」

側近?「『光に導かれし運命の子』」

側近?「『闇に抱かれし運命の子』」

側近?「『汝の名は、魔王』」

側近?「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」

側近?「『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者!』」



パアアアアアアアアアアッ!



使用人「な、に……ッ」

使用人(紫色の……ッ 光……ッ !!)

使用人(息が、つ、ま……ッ)



パキィィイイン!



使用人「ああああああああああああ!」

側近「うわあああああああああああああああああああああ!」
0687この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:06:27.01ID:23ZmJK5y
……

………

…………



船長「出せ! ……全速力でこの海域を離れろ!」

女剣士「よしよし、大丈夫だよ ……怖くない、怖くない……」フギャァ、フギャア……

魔法使い「……」ギュ

船長「! ……空が!」



キィイイイン!



女剣士「うわ!」ギャアア、ウワァアア!

魔法使い「何だ、この音……ッ」

女剣士「大丈夫……!大丈夫!!」ギュ。ナデナデ

船長「耳鳴り……!? ……あ!?」

女剣士「船長、何…… ああ!?」

魔法使い「紫の雲が……迫って……いや……!」

船長(……光、か!? 雲を、切り裂く光……!!)


パアアア……パァン!


船長「うわ!」

女剣士「!?」

魔法使い「ぎゃあ!」


ウワァアアン、アアン……


女剣士「あ、ぁあ……」ギュ

女剣士「……よし、よし」

魔法使い「な、何だったんだ、今のは……」

船長「魔王……」

船長(側近……無事、なのか!?)
0688この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:06:51.54ID:/pAU6tV1
……

………

…………



盗賊「な、何だ、今の……」

盗賊(北の方……まさか、魔王……!?)



バタバタバタ



鍛治師「盗賊!」

盗賊「……見たか、今の」

鍛治師「ああ……北の空の紫の雲の間を、光が走り抜けた」

盗賊「……」

鍛治師「魔王か……側近に、何か……」

盗賊「わからねぇ。わからねぇけど…… あ……」



ポツ……ポツポツ……ザアアア……ッ



盗賊「雨……」

鍛治師「濡れるよ、盗賊!ほら、走って!」

盗賊「あ、ああ……」タタタ

盗賊(側近……魔王……!)
0689この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:07:10.43ID:uDCM/gxB
……

………

…………



使用人「う、ぅ……ッ」ズキズキ

使用人(……生きて、る)ハッ

使用人(側近様!)ガバッキョロキョロ

使用人「……ッ 側近様!!」タタタ……ガバッ

使用人「側近様!側近様!?」

側近「……ぅう」

使用人(生きてる……)ホッ



ヒュウ……



使用人「寒…… ……!?」

使用人(風…… 城内なのに!?)バッ

使用人(でも……側近様……目を離す訳には)
0690この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:07:29.47ID:159m3acD
側近「そこに……い、るの……使用人ちゃん、か…… ……?」

使用人「側近様!」

側近「あ、あ…… 正解。怪我は……」

使用人「わ、私は大丈夫です!それより……ッ」

側近「う……ッ」ズキズキ

使用人「側近様!急に起き上がっては……」

側近「……目、が」パチパチ

使用人「……目?魔王様の目ですか……?」

側近「目が、見えない」

使用人「え……?」

側近「すげぇ光が見えた。輝く光……なのに、真っ暗だ」

使用人(光……確かに、あの時……まさか、あの光に焼かれて……?)

側近「……風が吹いてる。ここは……外、か?」

使用人「いいえ……ここは食堂です。風は多分、奥から……」

側近「奥……魔王様!!」ガバッ

側近「う、痛……ゥッ」

使用人「無茶しないで! ……私が見て来ます。側近様はここに。良いですね?」
0691この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:07:46.45ID:m4rFyHxp
側近「……やだ、て言っても聞かないわな」

側近「大人しく待ってるよ……でも」

使用人「確かめたらすぐ戻ります」

側近「……ん」

使用人「……」スタスタ

使用人(目が……見えない?)

使用人(魔王様の目は……関係ない?いや、でも……私も、あの光を浴びた)

使用人(……違う!光を発したのは、多分……側近様自身。やっぱり……ッ)ハッ

使用人「……!! 魔王様!?」タタタ

使用人(封印した筈の扉が開いてる……!!)

使用人「……ま、魔王、様……?」ソロ……

使用人(……寝具に人影……否、あれは、あの……黒い髪は魔王様)キョロ

使用人(……あれか。天井に、穴。 ……!?)

使用人「……下から、突き上げた様な」

使用人(魔王様の身に何か……しかし……)



カタン……



使用人「ひ……ッ」ビクッ

使用人「だ、誰です!?」
0692この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:08:31.30ID:T9Yb4ta9
使用人「……?」

使用人(気のせい…… ……?)ソロソロ……

使用人「!!」タタタッガバッ

使用人「……こ、れは……!!」

??「…… ……」スゥスゥ

使用人「あ、か……ちゃん?何で……?」ダッコ

使用人(寝てる……)ギュ

使用人(金の髪……いや、なんで、こんな所に……)

使用人(……!! ……『生と死』 ……まさか!?)タタタッ

使用人「魔王様!!」ソロリ……ナデ

使用人(暖かい……生きてる……? 否、でも……)

使用人「失礼します!」バッ バサバサッ

使用人(……微かだけど、胸が上下してる。考えすぎ?)

使用人「で、でも……じゃあ、この子は……!?」



カタン



使用人「!」ビクッ

側近「使用人ちゃん?大丈夫か……」

使用人「側近様!」

側近「ああ、居た……良かった。魔王様の部屋だよな、此処」

使用人「あ、あの、側近様!金色の、あか、赤ちゃんが!」

側近「…… お、落ち着け。何言ってるんだ?」

使用人「ここに赤ちゃんが落ちてたんです!」
0693この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:08:38.11ID:T9Yb4ta9
側近「赤ちゃん落としちゃ駄目だろ……」

使用人「そうじゃなくて!」

側近「……いや、御免。赤ちゃんならさっき、船長が……」

使用人「ここにも居るんですよ!金の髪の赤ん坊が!」

側近「な、なんで……幻覚じゃなくて!?」

使用人「貴方こそ落ち着いて下さい!」スタスタ

使用人「ほら、ここ……触って!」グイ

側近「……ふにふにしてる」カチャ

側近「おっと……」ギュ

使用人「それは、魔王様の剣!?」
0694この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:09:24.03ID:QLoyXLEy
??「……」スゥスゥ。パタ……トン

使用人「あ、危ない!手が……ッ」

側近「……傍に落ちてたから、拾って…… ……ッ」



パアアアアアアッ



使用人「うぅ……ッ」

側近「な、何だ……ッ」ドクンッ

使用人(また、光……ッ !?)

??「……」スゥスゥ

側近「……う、ぁ……ッ」

使用人「側近様!?」

側近?「……使用人、か」

使用人「え……」

使用人(この声……魔王様!?)

側近?「? ……目が見えん」

使用人「ま、魔王様!!魔王様ですか!?」

側近?「使用人、側近の目はどうした?」

使用人「…… ……」ポカーン

側近?「使用人?」

使用人「あ、ああ……すみません。余りに突飛な出来事が重なりすぎて……」
0695この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:09:35.13ID:BzyX47db
側近?「……無理も無い。そうか、側近の目は……そうか……」

使用人「あ、あの……魔王様?」

側近?「今私の手が剣に触れただろう……どうなっている?」

使用人「え? ……!! な、何故……!?」

側近?「…… ……」

使用人「……金、色…… ……に……」

側近?「ふむ……成る程」

使用人「あの……魔王様?」

側近?「余り長居すると側近の身に負担が掛かるな。すまんが使用人」

側近?「腕に掴まらせてくれ。この場所に居ない方が良い……そうだな」

使用人「あ、は、はい」

側近?「食堂の方へ案内してくれ。歩きながら……手短に話す」
0696この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:09:56.83ID:MpkbRhud
使用人「は、はい……」スタスタ

側近?「……どうやら私は、死んだ様だ」スタスタ

使用人「え!?」

側近?「否、違うな……それ、が私だ」ス……

使用人「それ……こ、この赤ちゃんですか!?」

側近?「証拠は剣だ。私の手が触れたら、金色になったのだろう」

使用人「は、はい」

側近?「……意識のある内に手短に話す」

側近?「失った『欠片』を探し出せ」

使用人「欠片……ですか」

側近?「……大きな光が、抜け出ていくのを感じた」

使用人(天井を突き破ったあの光……!)

側近?「恐らく、吸収してしまった……魔王の剣の欠片。歴代達の意識だ」

使用人「……歴代の意識?」

側近?「『生と死』『表裏一体』『光と闇』……」

使用人「さっきの……言葉ですね。側近様が発せられた……」

側近?「……私の身体に急速に『言葉』が流れ込んできた」

側近?「全て飲み込めば全てが消える……咄嗟に、願ったのだ」

使用人「……何を、です」

側近?「ただ……『否』と」

使用人「……」

側近?「世界は繰り返されている。何度も」

側近?「歴史は繰り返されている。生と死、破壊と再生……全て、表裏一体」

使用人「そ、れは……どういう……?」

側近?「私にもハッキリとは解らない。だが、あの部屋にあった私は死んだ『器』」
0697この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:10:21.32ID:elHkqmNm
側近?「そしてそれ……赤子は、生きた『中身』だ」

使用人「……」

側近?「欠片を探せ。器は何れ……内包する魔力を押さえきれなくなり」

側近?「暴走する」

使用人「!!」
0698この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:17:05.01ID:917ADWyn
側近?「……側近は私の目を持っていた」

使用人「何故、過去形なのです」

側近?「恐らく……私が言葉を、あの意識を撥ね除けた時に」

側近?「欠片が吸収して言ったのだろう」

使用人「そうか!あの光は、側近様の身体から……!」

側近?「……ついでに光を奪っていったのだろう」

側近?「剣を手にしていたのはあいつだろう?」

使用人「……で、では、側近様の目は……」

側近?「……今も見えていない。だが、残照がある」

使用人「え?」

側近?「長く体内に取り込まれていたからな。あいつの一部として残っているんだ」

側近?「で、なければ、こうして私が話すこと等できん」

使用人「……魔王様、規格外ですから」

側近?「……お前、酷いな」フフ

側近?「だがそれももう終わりだ。その赤子は……人間の筈だ」

使用人「え!?」

側近?「魔族が光等抱きえん。 ……目が覚めたら、瞳を覗き込んでみるが良い」

使用人「し、しかし!魔王様は魔族の王です!転生されたのなら、何故人間などに……!」

側近?「魔王は今や『器』だ。そして、すべて、は……表裏一……体 ……」

使用人「魔王様!?」

側近?「良いな、欠片……を、探し…… だ、せ。そして、必ず ……」

側近?「『魔王』を…… 倒、せ……! ……『勇者』!」バタン!

使用人「魔王様!」
0699この頃流行の名無しの子垢版2021/02/22(月) 23:17:22.46ID:hljHs6oB
側近「……いってえええええええええええええええええ!?」

使用人「!」ビクッ

??「……う、ァ ……うわああああああああああん!」

側近「わぁッ!?」

使用人「あ、ああ、えっと!? ……よ、ヨシヨシ……」

??「うわあああん、うわああああん」

側近「え、え、え!?」

使用人「……ん、冷たい…… ああ!?」

使用人「そ、側近様!お、おむつ!」

側近「え!?そ、ちょっと待っ」ガバッダダ……ゴン!

使用人「そこ、壁です!」

??「うわあああああああああああん!」

側近「あれ!?ここ何処!?」

使用人「あああ、ちょっと待ってね!?ええっと……ッ」

側近「何、何がどうなってるの!?」

使用人「あ……!と、取りあえず私が探してきますから、側近様抱っこ!」グイ
0700この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:51:14.85ID:MGc2IvPe
側近「ええええええええええええええ」ダキ

使用人「待ってて下さいね!」タタタタ……

側近「えええ!?よ、よーしよーし……?」

??「うわぁ……あ……ん」



……

………

…………



使用人「……」グッタリ

側近「……」グッタリ

??「…… ……」スゥスゥ

使用人「バタバタで、船長さんが粉ミルク置いて行ってくれて助かりました……」

側近「……で、こいつが……魔王様だって言ったのか。魔王様、が」

側近「ややこしい……」

使用人「はい……」

側近「で、こいつどうすんの」

使用人「どうするの、って放置しておく訳にいかないでしょう!」

使用人「魔王様ですよ!?」

側近「いや、そりゃまあ……魔王様じゃ無くても赤ちゃん放置する訳にはいかんけどもさ」

使用人「……そうですよ」

側近「とりあえず……整理しよう。うん」

側近「何がなにやらさっぱりだ」
0701この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:51:26.82ID:e53i6x0P
使用人「側近様の身体を借りて、魔王様が仰ったのはさっきの話で全部です」

使用人「……船長さん達がいらっしゃった時、ご自分で発せられた事は」

使用人「覚えてらっしゃらない、のですよね?」

側近「ああ……ええと、何だっけな」

使用人「『揃った』『生と死』『特異点』『王』『拾う者』」

使用人「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』知を受け継ぐ者』」

使用人「それから……『光と闇』『勇者と魔王』」

側近「『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」

側近「『我が名は、勇者』」

側近「『光に導かれし運命の子』」

使用人「『闇に抱かれし運命の子』」

使用人「『汝の名は、魔王』」

使用人「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」

側近「……で、『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者』か」

使用人「……『生と死』は、女海賊さんと、赤ちゃん……ですか」
0702この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:54:09.37ID:U4hm+9mM
側近「魔王様だろう。否……どっちも、かな」

使用人「女海賊さんの『死』と赤ちゃんの『生』」

側近「魔王様……『死』んで『器』になった。そして、転生……って言って良いかわからんけど」

側近「こいつ……が『生』まれた『中身』」

使用人「……表裏一体、ですか。『破壊と再生』にも当てはまりますね」

側近「さっき、ミルクやってる時に見たんだろう」

使用人「……はい。美しい金の瞳をしていらっしゃいましたよ」

側近「金……光、か」

使用人「『光と闇』『勇者と魔王』……こちらも、表裏一体」

側近「……姫様が言ってたこと、本当になっちまったな」

使用人「『貴方は魔王であり勇者だわ』……ですか?」

使用人「……こじつけ、とは言えませんね。もう」

側近「女海賊とあの赤ん坊の生と死が引き金になったか……」

使用人「その辺は何とも言えませんよ……わかりません」

側近「……で、欠片、てのが……俺から光を奪っていった、と」

使用人「先ほど、回復魔法使っていらっしゃったでしょう?」

側近「痛みは引いたが、目は見えん…… ……ま、仕方無いな。魔王様の所為じゃ」

使用人「……なんかトゲがありますね」

側近「当たり前だろう!?俺、またこいつ育てないといけないんだよ!?」

使用人「ま、まあ……そうですけど……」

側近「肝心の本人は消えちまいやがるしさああああああああ!」

使用人「……魔王様、本当に……」

側近「また、魔王様になるのさ。あ、いや……『魔王』じゃ無いんだな、もう……」

側近「……男だよな?」

使用人「はい。男の子です」

側近「また引っかけられるのかなぁ……」

使用人「何をです?」

側近「聞かないで!」
0703この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:57:35.95ID:Fz1EV7WA
側近「そ、それで……残りは何だ?」

使用人「え?あ、はい……えーっと」

使用人「『欠片』はそのまま……飛び出していった魔王様の『欠片』で良いのでしょう」

使用人「後は『特異点』『王』『拾う者』」

使用人「『受け入れる者』……『知を受け継ぐ者』ですが……」

側近「ん?」

使用人「……いえ、あの時『知を受け継ぐ者』と、じっと私を見据えて……言われた、ので」

側近「……ふーむ」

使用人「……」

側近「まあ、とにかく」フゥ

側近「こいつのおもりをしながら、俺たちは欠けたパズルのピースを集めて」

側近「完成させなきゃいかん、て事だな」

使用人「……やはり、そうなるのでしょうか」

側近「……魔王様、言ってたんだろう」

側近「欠片を探し出せ。そして……」

側近「『魔王を倒せ、勇者』」

使用人「……『勇者』」

側近「名前もつけてやらなきゃいかんだろ」

使用人「……」

側近「魔王様の命令は絶対だ。俺は……魔王様の『側近』だからな」
0704この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:57:47.53ID:oISrJfeb
使用人「……はい。私も、死ぬまで魔王様にお仕えします」

側近「良し!お前の名前は勇者だ!」

勇者「…… ……」スゥスゥ

使用人「『勇者が魔王を倒す』……『中身』が『器』を殺すのですか」

側近「『表裏一体』なんだろ? ……それにもう一度『揃え』にゃならん」

使用人「……『欠片』はどこに?」

側近「さあな……俺たちが探すのか、こいつが探すんだろう」

使用人「まずは、城の修復ですね」ハァ

側近「……使い魔共は?」

使用人「もうやらせてます……が、何人かはあの光に驚いて逃げ出したか」

使用人「……飲まれたか」

側近「勇者に必要な物も揃えないとな」
0705この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 13:59:03.40ID:yL8X4dme
使用人「……船長さんに、と言いたいところですが」

使用人「急を要しますね」

側近「ああ……転移石、まだあるか?」

使用人「行って帰る分ぐらいは」

側近「そうか、じゃあ……」

使用人「私が行きます」

側近「え。俺がこいつのおもり!?」

使用人「城の中は良いですが、どうするんです。貴方目が見えないでしょう?」

側近「……それこそ、こいつのおもりどうすんの」

使用人「使い魔が居ますよ」

側近「あ……そうか」

使用人「……その前に、もう一度剣を見せて下さい」

側近「? ああ……はい」

使用人(刀身が殆ど無い……亀裂も入っているし)

使用人「……これじゃ、魔王様は倒せませんね」

側近「……南の島!」

使用人「え?あ……!鉱石、ですか!」

側近「……しかし、鍛冶師には頼めないな」

使用人「え?何故です?」

側近「どうやって、誰が取りに行くんだよ」

使用人「あ……そ、そうか……流石に、あっちこっち回ってくる訳にはいきませんね」

側近「まあ、もし本当に剣が必要になる頃まで、まだ時間がある」

側近「ゆっくり考えても間に合うだろうさ」

使用人「……取りあえず、港街に行きます。街も大きくなったでしょうし」

使用人「勇者様に必要な物は一通り揃うでしょう」

側近「解った。俺は書庫で……あ、目、見えないのか」ガックリ

使用人「……なんか、すみません」

側近「いや、良いさ……使い魔に読んで貰うよ」

使用人「ものすごく嫌がられそうな気がしますけど」

側近「……やっぱりそう思う?」
0706この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:01:09.45ID:k2aUjgBB
勇者「うわあああ、うああああ……」

側近「お、腹が減ったか……ヨシヨシ、今作ってやるぞ」

使用人「お願いしますね……行ってきます」

側近「おう……あ、先におむつか」ゴソゴソ

使用人「適当に使い魔捕まえて下さいね!」シュゥン

側近「おう、まあこんぐらい……わぶっ」

勇者「うあーぁ……」

側近「…… ……」ベショベショ

側近「……誰かー」


……

………

…………


シュゥン


使用人(ええと……こっち……え!?)

使用人「ここが……港街!?」


ザワザワ……ガヤガヤ……
0707この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:01:16.13ID:k2aUjgBB
使用人(凄い人……随分、大きくなったのですね)

使用人(……確か、あっち……)スタスタ

使用人(ここ、盗賊さんの……)コンコン


カチャ


女「はい?」

使用人「!? ……お、恐れ入ります、あの、ここ……盗賊さん、の……?」

女「ああ!盗賊さんのお知り合い?」

女「あの方は結婚されて、隣の小さな島にお引っ越しされましたよ」

使用人「結婚……ですか……」

女「ええ。一日に一本、船も出てますよ」

使用人「そうですか……ありがとうございます。申し訳ありません」

女「いいえ。それじゃ」


パタン


使用人(隣の小さな島……始まりの大陸?)スタスタ

使用人(……船が、何隻もある。船長の船は……流石に無いか)

使用人(あの距離じゃ……まだまだかかる)
0708この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:02:37.92ID:N9VEpMxo
使用人(仕方無い……先に買い物……あ!)スタスタ

使用人(そうだ、教会に……)



コンコン。カチャ……



使用人「……失礼します」

女神官「ようこそ……何かご用でしょうか?」

使用人「? ……あの、神父さんはいらっしゃいますか」

女神官「……どっちの、でしょうか?」

使用人「どっち?」

女神官「あ……ご存じないのですね。ここを作られた神父様、でよろしいですか?」

使用人「え、ええ……多分」

女神官「……」ス

使用人(窓の外……? ……! あれは、十字架!?)

女神官「魔除けの石、と言う……石を作られていたことはご存じですか」

使用人「え、ええ……あれ、その……棚の上の、そうじゃないのですか……あ!」

使用人「この顔…… 婦さん!?」

女神官「まあ…… 婦様もご存じなのですか?」

使用人「……これ……誰が……」

女神官「大変敬虔な、隻腕の祈り女であられたと聞いております」
0709この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:02:48.27ID:uAl908Z5
女神官「……神父様が亡くなられる少し前に、鍛冶師さんと仰る方が作られたのですよ」

女神官「神父様が、娘さんの様に可愛がっていらっしゃった、とかで」

使用人「え、ええ…… ……やはり、亡くなられた、のですか」

使用人「神父さん……」

女神官「ええ。私達……神官の皆と、盗賊さんと仰られる方と鍛冶師さんと」

女神官「皆で……看取らせて頂きました」

使用人「そう……でした、か……」

女神官「あの、失礼ですがどういったご用件で……」

使用人「あ……いえ、昔、神父さんや盗賊さん、鍛冶師さんにお世話に、なったもので」

使用人「……近くまで来たので、お顔をと……思っただけです」

女神官「そうでしたか……盗賊さん達は……」

使用人「お引っ越しされた、と伺いましたが」
0710この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:04:04.50ID:XPBi4Aj7
女神官「ええ……ここで、結婚式を挙げられてすぐに」

使用人「……そう、ですか。あ!あの……すみません、話逸らせてしまって」

女神官「え?」

使用人「あの、魔除けの石……」

女神官「ああ……そうでしたね。神父様は、 婦様が亡くなられた後」

女神官「魔除けの石の生成に没頭されましてね」

使用人「……」

女神官「ご高齢であられたので……ご無理されていたのかもしれません」

使用人「そうですか……あ、あの」

使用人「差し支えなければ、で結構ですが、もう一人の神父さん、と言うのは?」

女神官「……神父様がご存命であられた頃……と、言っても」

女神官「 婦様が亡くなられた後、の話ですが」

女神官「私も含め、多くの聖職者を志す者が、神父様の元に集ったのです」

女神官「その中に、もう一人の神父……新米神官と言う者が居たのです」

使用人「……」

女神官「彼は優秀でしたし、誰よりも神父様を慕っていました。ですが」

女神官「魔除けの石の生成には反対していたのです」

使用人「何故……です?」

女神官「……神父様も、それを売買する事には否定的……であられました」

女神官「しかし、街を大きくする為と、一応了承はされていたのですが」

女神官「……娘の様に思っていた 婦様が亡くなってから、本当に……」

使用人「没頭されていた、と仰っていましたね」

女神官「はい。取り憑かれた様にと迄は申しませんが……」

使用人「……方法を教えたのが 婦さんだとお聞きしています」

女神官「ええ……寂しさを紛らわせていらっしゃったのかも知れません」

女神官「背景をしっているだけに、お止めして良い物かと私達も……」

使用人「……」

女神官「新米神官は神父様の身を案じていたのだと思います」

女神官「……優秀で、真面目でした。金銭に換える事も良く思っていなかった」

女神官「神聖な物なのに、と……何時もいっていましたから」
0711この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:06:07.23ID:LX+15+Lp
使用人「……」

女神官「神聖な物だからこそ、ある程度の金額をつけないと、と」

女神官「神父様は笑っていらっしゃいましたけれど、ね」

使用人「……偽物が出回らない様、ですか」

使用人(神父さんはインキュバスの魔石を知っている……彼が、 婦さんにした事も)

使用人(……神父さん)

女神官「それで……神父様の死を切欠に、此処を出て行くと、言って」

使用人「本当に……出て行かれた、のですか」

女神官「ええ……ただ、神父様の事は本当に尊敬しているのだと」

女神官「だから、神父様の教えは守っていくと。それで……」

使用人「?」

女神官「……神父、の名を名乗るのを許して欲しい、と……」

使用人「ああ……だからどちらの、とお聞きになったのですね」

女神官「……そうでないと、この 婦様の像を壊すのだと言われまして、ね」

使用人「そんな……」

女神官「彼には、魔除けの石の生成を教えた 婦様も、これを作った鍛冶師さんも」

女神官「……魔石を流通させようとする盗賊さんも、憎しみの対象になってしまっていた様でした」

女神官「私達、残された神官の中で、私は年齢が一番上だったので」

女神官「暫定的に此処を管理する立場になっています。ですから……」

女神官「私は、彼のその申し出を受け入れざるを得なかったんです」

女神官「……神父様が愛された 婦様の像を、壊されるのは阻止したかった」

使用人「……」

女神官「それに、ここから離れて言ってしまった者が、何処でなんと名乗ろうと」

女神官「止められる物ではありません……不器用ですが」

女神官「彼は……真面目故に、許しが欲しかったのでしょう」

使用人「そして、真面目故に本当に壊してしまう可能性もあった?」

女神官「……はい。多分」

使用人「愛し方の違い……ですね」

女神官「私達も確かに、神父様を敬愛して止みません。差違は無い筈なんですけれど……ね」

女神官「出来れば、何時か……彼の憎しみが溶けてしまう事を祈るばかりです」
0712この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:09:09.30ID:NK7FFae8
使用人「……ありがとうございます。お話下さって」

女神官「いいえ……お礼を言うのは此方です」

女神官「私も……誰かに話したかった、のかもしれません」

使用人「え?」

女神官「……鍛冶師さんや、盗賊さんには……言えなくて」

使用人「そうですか……いえ、そうですよね」

女神官「貴女は……盗賊さん達に会いに行かれるのですか?」

使用人「え、ああ……いえ。どうしようかな、と……」

女神官「もうすぐ、始まりの大陸行きの船が出ますよ」

女神官「あちらの街も、既に復興準備が始まっていますし……」

使用人「そうですか……ありがとうございます」

使用人「……神父さんのお墓、寄らせて貰っても?」

女神官「ええ、勿論です。喜ばれますよ」

使用人「ありがとうございます。それじゃ……」

女神官「貴女に、神のご加護があります様に……」



カチャ。パタン……
0713この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:09:19.78ID:sM4gcpTU
使用人(…… ……)スタスタ……ス

使用人(神父さん……)

使用人(貴方も、 婦さんを愛して居られた?)

使用人(否、娘の様……とは、嘘ではないのだろうけれど)

使用人(…… ……愛、か)

使用人(難しい、な)ス……

使用人「さて……急がないと。買い物済ませて……」タタタ



……

………

…………



盗賊「あー……これ、どうするよ、鍛冶師」

鍛冶師「城ねぇ……必要?」

盗賊「だよなぁ。王様っていやぁ、血がーとか血統がーとか……」

鍛冶師「一緒だから、それ」

盗賊「……うっせぇな」
0714この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:09:55.83ID:lFT6rn3i
鍛冶師「これだけの土地があれば結構家とか建てれると思うけど」

鍛冶師「……それ程要る、かな」

盗賊「だよな。移住希望する人達、殆ど船でこっち来たけど」

盗賊「足りてるしなぁ……しかし、城なんか建設しようと思ったら」

盗賊「それこそ、資材が……」


ポー……ゥ……


鍛冶師「お、汽笛だ……船が着いたよ」

盗賊「良し、資材運ぶか。あっちで余ったの回して貰えるのはありがたいね」

鍛冶師「魔石も順調に売れてるんだろ?」スタスタ

盗賊「……どうだかな。魔除けの石は何時の間にやら、結構な高額で」スタスタ

盗賊「取引されてるみたいだけどな」

鍛冶師「……神父さんが亡くなったから、か」

盗賊「こんな言い方したくは無いが……女神官のと比べるとな」

盗賊「まあ、彼女はまだまだこれから、だろう。まだ若いんだし」

鍛冶師「僕と同じぐらいだっけ?」

盗賊「20前後だろ?そんなもんじゃネェの」

鍛冶師「……一番優秀だったのって、新米神官なんだろ?」

盗賊「あいつは魔除けの石作るの嫌がってたからな」

盗賊「それに修行に出たんだろ?」

鍛冶師「らしいね」

盗賊「ま……仕方無いよ。魔石も最初程じゃないけど、そこそこ売れてるんだ」

盗賊「大事な収入源だけど、やろうと思えば誰にでも作れるし……」

盗賊「それだけ、港街が大きくなった。それだけ人が自立してきたって考えれば」

盗賊「嬉しいことだよ」

鍛冶師「まあ、ね……あれ!?」

盗賊「ん?」

使用人「お久しぶりです」

盗賊「使用人!」

鍛冶師「やっぱり使用人ちゃんか!」
0715この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:11:54.73ID:vQOh9t8n
使用人「……お元気そうで良かった。ご結婚おめでとう御座います」

鍛冶師「ありがとう」

盗賊「お、おう……」

盗賊「しかし、どうしたんだ?態々船で……」

使用人「港街に用事がありまして。こっちにお引っ越しされたと聞いたので……」

鍛冶師「転移石、は?」

使用人「……魔王様が眠られてからは、作る事ができませんから」

使用人「城に帰る分で、最後なんです」

鍛冶師「そ、そうか……」

盗賊「……でも、良かった。元気なんだな」ホッ

盗賊「……北の方で、さ……なんか、光が……」

使用人「…… ……」

鍛冶師「やっぱり……何かあった、のか」

使用人「お時間、あります?お仕事があるのでは?」

盗賊「あ、ああ……でも……」

鍛冶師「僕が行ってくるよ。盗賊は使用人ちゃんと一緒にいな」

盗賊「鍛冶師……」

鍛冶師「大丈夫。一人でもなんとかなる」

鍛冶師「使用人ちゃん、戻らなくて大丈夫なの?」

使用人「ええ。用事も済みましたし、私は大丈夫です」

盗賊「でっかい荷物だな…… ……粉ミルク!?」

使用人「……どこかで、お話しましょうか」

盗賊「あー……え、ええっと。じゃああっちの城跡んとこで」

盗賊「雨上がったばっかだから、影の下じゃ無いと濡れてるしな」

鍛冶師「じゃあ、行ってくる。後でね、使用人ちゃん!」タタタ

使用人「……さて、どこから話しましょう、か」
0716この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:12:52.04ID:rljBbPeu
盗賊「やっぱり何かあったんだな」スタスタ

使用人「まあ……一応、無事ですよ。私も側近様も」スタスタ

盗賊「お前が城を離れてるって事は魔王も……だろ?」

盗賊「……ここなら影になってるし……座れるな。よっと」トン

使用人「その、魔王様……なのですが……」トン

盗賊「……その粉ミルクと関係ある?」

使用人「まあ。そうですね。必要無ければ買いに来ませんし」

盗賊「……そりゃそうだ。 ……あ!」

使用人「?」

盗賊「あれか!?姫に子供が生まれたのか!?」

盗賊「……あ、でも姫は……産まれたら……」

使用人「盗賊さん、違いますよ」

盗賊「へ?」
0717この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:13:37.81ID:WfClm9Wy
盗賊「それに……姫様は50年程妊娠された侭、なんでしょう?」

盗賊「……あ、そうか」

盗賊「でも……完全なエルフだったら、の話だろう」

使用人「まあ……そうですけど。半分人間の血が入ってると考えて」

使用人「妊娠期間も半分としても、まだ20年以上ありますよ」

盗賊「……そ、そうか……じゃあ、誰の子……?」

使用人「…… ……ここ、お城なんですよね」

盗賊「あ?ああ……何だよ急に」

使用人「……『揃った』……『王』……」

盗賊「??」

使用人「……知人さんのお墓」

盗賊「おい?」

使用人「ここは……清浄な土地、何ですよね?」

盗賊「? あ!そうだよ、お前……ッ 大丈夫か!?」
0718この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:18:41.71ID:rljBbPeu
使用人「え?ええ……あ、そうか……いえ」

使用人「知人さんの加護はペンダントに移したましたから」

盗賊「あ……そうか……」

使用人「あの場所……何か、変化はありましたか?」

盗賊「……そうか、お前はしらないか」

盗賊「 婦も、あそこに埋めたんだ。寂しくない様に、って」

使用人「神父さんは……何故、あちらに?」

盗賊「聞いたのか」

使用人「ええ」

盗賊「……神官共もいたしな。単純に、定期便で……運んでくれとは」

盗賊「言えない、てのもあったさ」

使用人「……」

盗賊「確かに、此処は空気も環境も良いよ」

盗賊「あの丘の上に眠る二人のおかげ……かもな」

使用人「 婦さんも、ですか?」

盗賊「……魔王を愛してた、んだろう?」

盗賊「魔王が守りたいと思ってるなら、 婦だって同じ筈」

使用人「……魔王様の、為に」

盗賊「……」
0719この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:18:52.04ID:likBr+PO
使用人「愛…… ……」ブツブツ

盗賊「おい、使用人?」

使用人「……『王』!」

盗賊「何なんだよ、さっきから!オウ、てなんだ?」

使用人「『王』です!『王様』の『王』!」

盗賊「だから……!」

使用人「ここ、そもそもお城だったんですよね!?」

盗賊「おい!解る様に話せよ!」

使用人「……ッ」

使用人(一つ、欠片が揃う……!『欠片』その物じゃ無く、全てが欠片なのだとしたら)

使用人(些か……否、殆どこじつけに近いけれど……ッ)

使用人「盗賊さん!」

盗賊「んあ!? ……な、何だよ!」

使用人「……今から、全て話します。しっかり、聞いて下さい」
0720この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:20:52.94ID:n260jsMn
……

………

…………



魔法使い「おい、女剣士」

女剣士「ん? ……ああ、魔法使い。終わったの?」

魔法使い「ああ……船で死んだら、水葬ってのにする、て言うからさ」

女剣士「水葬……」

魔法使い「あいつは、海賊だったんだ。だから」

女剣士「……」

魔法使い「魔王に届けるはずだった花しか無かったけど。充分だろ」

女剣士「そうか……」

魔法使い「枯れさせるよりマシだ。あそこには当分……近づけねぇだろ」

魔法使い「……俺は、二度と行かネェ」

女剣士「好き、だったのか?」

魔法使い「……違うな。あいつは仲間だ。仲間として、大事だった。それは否定しねぇけど」

魔法使い「好きだの惚れただの、そんなんじゃネェ。男と女しか居ないからって」

魔法使い「愛か否か、単純に二分されるもんじゃネェってのは覚えておけ」

女剣士「…… ……」

魔法使い「チビは?」

女剣士「ちゃんと娘って名前があるだろ。寝てるよ、アタシの部屋で」

魔法使い「見て無くて大丈夫なのか?」

女剣士「海賊が一人、一緒に昼寝してる。アタシは、船長に呼ばれたんだよ」
0721この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:21:04.63ID:3zBgSyQa
魔法使い「お前もか」

女剣士「……アンタも?」

魔法使い「ああ。気が済んだら来い、てな」

女剣士「……今、どの辺なんだろ」

魔法使い「陸伝いに走ってる訳じゃなさそうだ。とにかくあそこから離れろとしか」

魔法使い「……言ってなかったからな」

女剣士「そっか……」

魔法使い「とにかく、行こうぜ。さっさと済ませて、寝たいよ俺は」スタスタ

女剣士「あ、ああ……」タタタ



コンコン



魔法使い「船長。入るぜ」
0722この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:21:28.21ID:dKWT16+P
船長「おう……ご苦労だった」

魔法使い「……嫁とは言わネェよ。愛が無かったのも」

魔法使い「あいつが押し切っただけなのも理解はしてら」

魔法使い「でもな、お前……!」

女剣士「お、おい、魔法使い、お前……そんないきなり……!」

船長「……構わん」

女剣士「……」

魔法使い「娘は……チビは間違い無くお前の子だろうが!」

魔法使い「お前の子供の母親だぞ!?女海賊は……!!」

船長「言い訳はせん。責めたい気持ちは当然だろうしな」

船長「だが……その娘を守る為にも、急いで離れる必要があっただろう」

船長「……俺が舵を握らなけりゃ進路を見失う」

魔法使い「……充分言い訳じゃネェか」チッ

魔法使い「……殴った事は謝らネェからな!」ドサッ

魔法使い「疲れたんだ。座らせて貰うぜ……さっさと用件言え」

女剣士「そ、そうだ……よ、用事って何なんだ?」
0723この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:22:29.27ID:OI4OhHrD
船長「魔法使い、お前……船、降りろ」

魔法使い「!?」

女剣士「な……ッ!?」

船長「……好きな場所まで連れて行ってやる」

魔法使い「……どういう意味だ」

船長「辛いだろう。無理に乗ってる必要はネェ」

魔法使い「…… ……邪魔になったのか」

船長「そういう意味じゃネェ」

魔法使い「じゃあ、どういう意味なんだ!」バン!

女剣士「!」ビクッ

船長「……蹴るな」

魔法使い「女海賊が、あいつが死んで、俺がこの船降りりゃ」

魔法使い「お前に文句言う奴も居なくなるってか!?」

船長「そんな意味じゃネェっつってんだろ!」

船長「……ここに残ったって、お前は辛いだけ……」

魔法使い「信じられるか!んな事!!最初っから、俺たち乗せるのに」

魔法使い「いい顔しなかったしな!これ幸いとお払い箱かよ!」
0724この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:22:38.03ID:npQzgq2Q
船長「……だから、違うって言ってんだろ」ハァ

船長「お前が乗っていたいと言うのなら、乗っていれば良い」

船長「確かに、お前の雷の魔法は助かる。海の魔物には良く効くからな」

船長「……降りない、と言うのなら歓迎するさ」

魔法使い「……ッ ふざけやがって!」バンッ

女剣士「蹴るな、って……」

魔法使い「煩ぇ!」

女剣士「…… ……」ハァ

魔法使い「俺はぜってぇ降りないからな!覚えとけ!」スタスタ


バターン!


女剣士「……船長」

船長「すまんな、女剣士」

女剣士「いや、アタシは良いけどさ……」
0725この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:23:11.16ID:0OtvErMJ
船長「……良かれと思って提案したんだがな」

女剣士「今は……そっとしておいてやれよ」

女剣士「多分、何言ったって……反発しかしないよ」

船長「お前は、ちょっと見ない内に随分物わかり良くなったジャネェか」

女剣士「……」

船長「ま……あんなの見せられちゃ、な」

女剣士「娘……どうするんだよ」

船長「どうするって……育てるさ。俺の娘だ」

船長「聞いてただろ、今」

女剣士「……アタシ、女海賊からも聞いてたよ」

船長「……何?」

女剣士「船長を怨むな、だっけ?あ、責めるな……だったかな」

女剣士「……なんか、そんな感じの事」

船長「そうか……」

女剣士「 婦、だっけ。そっくりだったな」

船長「……何が言いたい」

女剣士「いや……御免。何でも無い。何でも無いけど……」

船長「……暫く、娘を頼んでも良いのか?」
0726この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:23:23.82ID:XmYM6smF
女剣士「え? ……ああ。それは別に良いよ。子供好きだし」

船長「正直……助かる」

女剣士「アタシも、北の街には帰れないしな」

船長「取りあえずは……港街を目指そうと思う。お前も、降りたければそこで」

船長「降りれば良い……盗賊と鍛冶師がいるし、生活はどうにかなるだろう」

女剣士「そりゃ……まあ。だけど、娘はどうするんだよ」

船長「……急ぐ理由もネェ。随分変な航路通っちまってるからな」

船長「港街に着くまでに、一年以上はかかる。途中、補給も済ませないといかんしな」

女剣士「……北の街に、寄るのか?」

船長「否。ここからだと……そうだな。随分掛かるが」

船長「それでも鍛冶師の村が近いだろうな」

女剣士「……そうか」

船長「それまで、頼んで良いか」

女剣士「解った。娘に必要な物とかは揃ってるのか?」

船長「女海賊が随分買い込んでたからな」
0727この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:23:59.81ID:rZBar3QP
女剣士「そっか。ならまあ……心配無いな」

船長「魔法使いがいるから、戦闘もどうにかなるだろう」

船長「……素直に、言う事聞いてくれりゃ、だが」

女剣士「大丈夫だろ。娘が乗ってんだし」

船長「ん? ……ああ、成る程な」

女剣士「……なあ、船長」

船長「ん?」

女剣士「落ち着いたら……側近の所、連れてってくれよ」

船長「……料金は頂くぜ。娘に免じて、格安にはしてやるよ」

女剣士「……サンキュ。んじゃ、娘んとこ戻るな」スタスタ

船長「ああ……頼む」


パタン


船長「…… ……」ハァ


……

………

…………


鍛冶師「……は?」

盗賊「…… ……なあ」

使用人「無茶は、承知しています」

鍛冶師「無茶、て言うか……申し訳ないけど」

鍛冶師「流石にこじつけにも程がある、と思う……よ?」

使用人「…… ……」

鍛冶師「話は分かった。けど……魔王は『揃った』って言ったんだろう?」

鍛冶師「だったら……僕が、僕たちが此処の『王』になったところで」

鍛冶師「意味が……無いと思うんだ」

盗賊「……うん」

鍛冶師「『王』になる、なれる……うーんと、資格?のある人?が」

鍛冶師「どこかに、出てくるって事じゃ無いのかな」
0728この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:24:24.98ID:9SffDWmK
使用人「……やはり、そう……でしょうか」

盗賊「何か、お前らしくネェなあ、使用人……」

盗賊「……いや、まあ。流石に。聞く限り……そりゃ、慌てるってか」

盗賊「なんてっか……焦るのも解る、けど」

鍛冶師「それに、魔王だって『王』だろう?」

使用人「あ……!」

鍛冶師「『魔王と勇者』って対にされてるけど……」

盗賊「……人間の王、って限定されてる訳じゃないもんな」

使用人「……そうか。『王』はもう……居た、のですね」

盗賊「って、訳だ。悪いな。いきなり言われてっての除いても……」

盗賊「アタシ達、王様だとかそんな器じゃネェよ」

鍛冶師「そうだね。それに……いきなりこの島に住んで、中心になってるからって」

鍛冶師「『私が王様だ!』なんて言ったって、誰も着いて来ないよ」

使用人「それは……鍛冶師さんと盗賊さんなら問題無いと思いますけど」

盗賊「買いかぶり過ぎさ」

鍛冶師「そうだよ。しかし、まあ……今までの経緯知っててもおいそれとは信じがたいよな」

盗賊「何だよ、疑ってるのか?使用人達の事……」
0729この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 14:24:45.85ID:wl5neb8p
鍛冶師「いや、そういう訳じゃ無いけどね」

使用人「……私だって、信じられませんよ。ですが……確かに、赤ん坊の手が触れた途端」

使用人「魔王様の剣が、金に輝き出したんです。あれは……」

鍛冶師「……今、なんて言った?」

盗賊「あ、剣の話忘れてたな」

使用人「え、ええ、ですから……魔王様の『中身』だと言う赤ちゃんが……」

鍛冶師「その次!」

使用人「……ッ 輝き出したのですよ、剣……刀身が」

鍛冶師「紫だった刀身が、金に……闇が、光に転じた!?属性が、変わった!?」

使用人「え、ええ……だって、そういう剣なのでしょう、あれ……」

盗賊「落ち着け、鍛冶師……あれは魔王の持ち物だったから」

盗賊「その、『中身』?が……確かに、魔王だと確信した、んだよな」

鍛冶師「ちょ、初耳!」

盗賊「御免、忘れてた」
0730この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:04:40.41ID:KkIvmIvL
使用人「はい。側近様や私が触れた所で、何の変化もありませんでしたから」

鍛冶師「そ、その目で見たのか……! 良いなぁ……!」

盗賊「鍛冶師!」

使用人「……魔族が光など抱きえない、と。魔王様は仰っていました」

使用人「だから、中身は……人間であると。ですが……」

使用人「赤ん坊は、金の瞳をしていました……光の加護、と思って良い、んでしょうけど……」

盗賊「……魔王の紫の瞳が闇の加護だと考えれば、正反対だけど……」

盗賊「だからこそ、納得できる、のかもな。表裏一体……」

鍛冶師「……それで、魔王である器を倒せ、てか」

使用人「はい。欠片を探し出せ、そして倒せ、と」

使用人「……ですが、あれが……光の剣と仮定しても」

使用人「あの侭では……とても、魔王様を倒す事等できません」

使用人「そもそもあれでは剣とも呼べませんよ」

鍛冶師「……欠片が見つかれば、復活するんじゃ?」

使用人「と、思いたいですけどね。『欠片』だけで良いのか」

使用人「全てを欠片と捕らえて良いのか……」

盗賊「で、『王』に据えようとした訳な」

使用人「……すみません」

鍛冶師「光の剣……光の剣……」ブツブツ

盗賊「おーい、鍛冶師。戻って来い」

鍛冶師「どこかで、何かで読んだぞ、なんだっけな……!」

盗賊「聞けよ」

使用人「まあ、まあ……何か思い当たることがあるのでしたら」

使用人「聞かせて頂きたいですし」

盗賊「……長いぜ?大丈夫か?」

使用人「勇者様には側近様も使い魔も着いてますから」

鍛冶師「!! それだ!」

使用人「え?」

盗賊「わあッ ……急にでかい声だすな!」

鍛冶師「それだ!『勇者の剣』だ!」
0731この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:04:59.09ID:qoIPXCuz
鍛冶師「ずっと引っかかってたんだ……ッ」

鍛冶師「持つ者が持たなければ真価を発揮しない、幻の魔法剣」

鍛冶師「勇者のみが持つことを許され、勇者のみが使用する事ができる」

鍛冶師「勇者の剣……ッ 『光の剣』だ!」

盗賊「おい。盛り上がってるとこ申し訳無いんだけどな」

盗賊「それ……神父さんから借りたあの、物語の中の話じゃネェのか」

鍛冶師「……え?」

使用人「え? ……あ、側近様が持って言った……あれ、ですか」

盗賊「ああ。あれにそんな一節があったぞ」

鍛冶師「違う、違う違う!子供の頃に鍛冶師の村に居る時に読んだ」

鍛冶師「魔法剣に関する本で読んだんだ!」

盗賊「……それも、御伽噺じゃないって確証あんのか?」

鍛冶師「…… ……」
0732この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:05:16.93ID:SvUpewtd
使用人「ま、まあまあ……でも」

盗賊「ん?」

使用人「……モデルがあったから、お伽話になったのかもしれません。勿論……お伽話から、ヒントを得た可能性、も」

鍛治師「そ、そうだよね!そうだよ!」

盗賊「いや、そりゃ別に頭ごなしに否定する気はネェけどさ」

使用人「あの本は、私も読みました。まあ……だからと言ってはっきり覚えている訳じゃありませんけど」

使用人「それに……鍛治師さん程、剣に興味や知識がある訳じゃ無いので、その辺は特に曖昧ですが……」

鍛治師「……一応、僕の知識が、そのお伽話の類から得た物じゃない、と前置きしとくけど」

盗賊「拘るなぁ」

鍛治師「……ちょっと位プライド保たせて」

鍛治師「そ、それで、だ」
0733この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:05:33.34ID:nmULflh+
鍛治師「……鉄や鋼じゃ魔法剣には向かないんだ。かと言って、希少な鉱物は中々手に入らないし」

鍛治師「勿論、打つには腕もいる」

鍛治師「……そんな条件をクリアして、最高の鍛治師が鍛えた剣が世界の何処かにある、と言う」

盗賊「それが……持つ者が持てば真価を発揮する、勇者の剣?」

鍛治師「可能性はあるだろう。光の加護を持つその子が触れたら光の剣に変じたんだ!」

盗賊「けど、元は魔王が持ってたんだぜ?」

盗賊「魔王の剣、だったんだ」

鍛治師「……あ、そうか」

盗賊「しかも、前魔王の時は赤、魔王は紫に……それぞれ炎、闇に変じてるぞ?」

盗賊「選ばれた奴しか使えないんじゃ無いのかよ」

鍛治師「…… ……」
0734この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:05:50.04ID:9Y6WDaS6
使用人「……以前、側近様とお話してたのですが」

鍛治師「ん?」

使用人「魔族は、強大な力を有する故に、それに依存しがちです。側近様や、私ですらも」

盗賊「?」

使用人「要するに、技より力を選び……ます。勿論皆が皆そうでは無いしょうが……」

盗賊「ああ、まあ……そうだよな。弱い、ちゃ語弊があるが、細かい細工や技巧にゃ人間の方が長けそうだ、て事か」

使用人「はい。だから……魔族が作ったと考えるより、人が作った物を奪ったと言う方が」

使用人「……しっくり来ません?」
0735この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:06:08.03ID:AJtEiJqx
盗賊「……んん?」

鍛治師「……人間が作った勇者の為の剣を魔王が、勇者から奪った、と言いたいのか」

使用人「魔族が作ったと言うより納得できる、と思うだけです。先代……魔王様のお爺様ですね……は、好戦的であったとも聞きました」

使用人「本来の魔族の性質が先代様のものに近いなら、遥か昔……そうして魔王の剣と成した可能性は否定出来ないでしょう?」

鍛治師「し、しかし……勇者の剣は、勇者にしか……!」

使用人「表裏一体」

盗賊「魔王は……勇者になった」

使用人「魔王様はこうも言っておられました。世界は、歴史は繰り返される、と」

鍛治師「し、しかし、いや……えーと?」

盗賊「落ち着け、て」

鍛治師「わ、わかってるけど、ややこしくて……」
0736この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:06:27.21ID:d2ja88Mr
使用人「仕組みを理解している必要はありません。『勇者』の光の剣が『魔王』の手に渡り……」

鍛治師「持つ者に寄り、属性が変わる……だから必然的に闇の……『魔王の剣』になった、のか!」

使用人「表裏一体であるのなら。『勇者と魔王』がイコールで結ばれる存在ならば……考えられる話です」

盗賊「でもさ。前魔王は炎の加護を受けてた……んだろ?」

鍛治師「加護が何だろうが、魔王が使える……魔王の加護に変じる、てのが重要なんだよ」

盗賊「……あ、そっか」

使用人「繰り返されていると言うならば、歴代の中に闇の加護を持つ方がいらっしゃった可能性もあります」

使用人「まあ……全て推測、ですけどね」
0737この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:06:46.82ID:80IrYNMV
盗賊「んー……」

鍛治師「どした?」

盗賊「いや、剣の話は面白いし良いんだけどさ。話逸れてるなぁと」

鍛治師「え?」

盗賊「そりゃ無関係じゃないけどな。欠片を集めなきゃ、魔王の器だっけ?の……暴走を止められない、んだろ?」

使用人「はい」

鍛治師「それは確かな話なの?」

使用人「魔王様の言い置きですから……私は……」

鍛治師「あ、ごめん。疑ってる訳じゃ無いんだ」

使用人「いえ……何にしても見えない物が多すぎて、私も……混乱してます」

使用人「南の島に何やら不思議な鉱石があるらしいのですが」

使用人「取りに行くわけにも……」

鍛治師「……鉱石!?」

盗賊「何だそれ」
0738この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:07:09.33ID:D/8AGhCi
使用人「城の本の中にそう言うのが……」

鍛治師「希少な……鉱石?」

使用人「さ、さあ……私も見ましたが、そもそも掠れててはっきり読めませんし」

使用人「ただ、南の島に、えっと……魔法に強い?だとか……何だったか」

鍛治師「……」ブツブツ

使用人「鍛治師さん?」

盗賊「またどっかいっちゃってるからほっとけ」ハァ

盗賊「……で?」

使用人「それがあれば鍛治師さんならどうにかできるかな、とは思いましたけど……」

使用人「取りに行く手段が無いのです」

使用人「転移石ももう……」

鍛治師「場所は?」

使用人「え? ……あ、えっと。側近様が女剣士さんのお父様に頂いた地図にそれらしきものは載ってましたが……」

使用人「確証がありません。さっきも行った様に、手段も……」

鍛治師「足ならある。船長がいる」

盗賊「お前……」ハァ
0739この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:07:29.05ID:Vbk/O4V3
鍛冶師「その地図、今持ってたり……」

使用人「……流石に、しません」

鍛冶師「だよな……」

盗賊「地図があったとしても、船長がそんな依頼受けてくれるかわかんないだろ?」

鍛冶師「いやいや、それは……大丈夫だろう。魔王が世界を滅ぼすとあっちゃ、ね?」

盗賊「そんな事言えば、世界を滅ぼさない為に、王様になってくれって言われて」

盗賊「はい、って言うのかよお前は」

使用人「と、盗賊さん……」

盗賊「いや、別に船長に頼むのを反対してる訳じゃねぇんだ」

盗賊「……こいつ、本当に魔法剣の話になるとさ……」

鍛冶師「そうか!王様になったら可能か……!」

盗賊「血迷うな、阿呆!」

使用人「……」クスクス

盗賊「何で笑うんだよお前も……そもそも言い出したのは……!」

使用人「すみません……笑ってる場合じゃないんでしょうけど」

使用人「仲良しだなぁ、と思って」

盗賊「……あのな」

鍛冶師「御免、ちょっと話戻すけど」

使用人「はい?」

盗賊「何だよ」

鍛冶師「さっきのその、『王』の話だけどさ」

鍛冶師「魔王は確かに『王』だ。魔族の王」

鍛冶師「……人の世界に、王って……居るのか?」

盗賊「……ここに居た、んだろうな。城があるって事は、さ」

使用人「私も世界の全て、なんて知ってる訳ではありませんから、何とも言えませんが……」

使用人「……あ」

盗賊「何だ?」
0740この頃流行の名無しの子垢版2021/02/23(火) 22:08:06.25ID:teoAG0AC
使用人「……側近様が人間だった頃、住んでいらした街」

盗賊「ああ……前魔王、ん?先代だっけ、に吹き飛ばされたって奴な」

使用人「はい。王様に旅立ちを急かされた……とか」

盗賊「あ!」

鍛冶師「え、何それ」

盗賊「ああ、そうか……あん時、お前居なかったっけ?」

盗賊「まあ、その話は取りあえずややこしいから後な」

使用人「すみません……そうです。その街にも……『王』が居ました」

鍛冶師「……今はもう無い、んだよな」

使用人「はい。此処と違い……島毎沈められたと仰ってました」

盗賊「その側近の居た島と、此処には昔王が居た」

盗賊「……が、両方とも『魔王』に滅ぼされた、か」

使用人「何か理由があったのかもしれません。単純に邪魔、だっただけかもしれませんが」

鍛冶師「魔王が『王』に拘る理由って……これといって思いつかないな」

盗賊「え?」

鍛冶師「だって……人と魔を比べるだけでも、圧倒的な力の差がある訳だろ?」

鍛冶師「島まで沈めちゃうんだしさ」

使用人「……勇者に関係しているのかもしれませんよ」

使用人「側近様達も、王様に旅立ちを……と言ってましたし」

盗賊「指導者がいれば捗る、的な?」

鍛冶師「戦争とかだったらまあ、そうかもしれないけど……」

使用人「技術を持たれるのは厄介だった、とか……」

使用人「推測の域は出ませんけど、勇者の剣……光の剣、なんて物を作れる技術があるのなら」

使用人「立場を脅かされる可能性は否定は出来ません。やられる前にやっとけ、的な……」

鍛冶師「まあ……考えられなくは無い、かな」

盗賊「……勇者の剣を奪って、魔王の剣に変えちゃう位の力があっても、か?」
0741この頃流行の名無しの子垢版2021/02/24(水) 06:04:50.25ID:NnJhsjeo
ガボール ガボラトリー 雑談24
スレ立てたました。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1613479084/l50
シルバーアクセサリーなんでもスレッド77でも書いてます。
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最後の方の終わり方を見れば
マリガボパチ屋成田根シリエーレの汚い根性と手口が分かります。
https://itest.5ch.net/test/read.cgi/fashion/1604423365/l
マリガボ成田怪奇コン尻エーレが偽生前フェイスリングを売ってバレて客がツイッターで騒いだからマリガボ恵比寿が客の個人情報を漏洩してパチ被害者の客から100万円取った。
その他鉄仮面スカルなどのヤフオクパチグループにも関与。
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前回パスカルザザがマリアの遺産相続人だと思ってピーターを訴えたらピーターがマリアの財産は相続してない財産管理人だと言って逃げたから今度はピーター個人とマリアの財産管理人のピーターを訴える書類。
https://www.instagram.com/p/CISgdrOD_7W/?igshid=1b03v9o0mjnmr
マリガボはウォータームーン渡辺と成田怪奇コン尻エーレがホールから473万円分仕入れて出来が良い生前と言ってマリガボの倍の値段で売ったりヘンテコなワニ、カエル、お岩さん、般若、ポセイドン、ケルティック、象さん等々、成田怪奇が捏造企画してデフブリで作売ってる。
マリガボの成田怪奇コン尻エーレが署名捺印した仕入れ伝票。
https://www.instagram.com/p/CJNM7pDDtOd/?igshid=g8wb3t5ir79y
0743この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:44:47.43ID:sqYsK2+B
鍛冶師「その技術すら『人間』がもたらした物なら……重要だろう?」

盗賊「……ああ、そうか。だけど……いや、うーんと……」

使用人「乱暴な思考で多分正解です。勇者をけしかけられるのも、面倒」

使用人「だったら国を、人を纏める『王』を滅ぼしてしまえ……と」

鍛冶師「統率者が居なくなれば、魔王ほどの力を持っていれば」

鍛冶師「人を支配し、滅ぼすのも簡単、て事ね」

使用人「……それに、その南の島が乗っていた地図……女剣士さんのお父様にもらった地図には」

使用人「側近様の島も乗っていたのです」

盗賊「相当古い物なんだな」

鍛冶師「鉱石のある場所を記憶から消し去れば、まあ……でも」

鍛冶師「それこそ、吹き飛ばしちゃえば良かったんじゃ?」

鍛冶師「……いや、良くは無いけど」

使用人「側近様が魔王様のお城にたどり着いた時には、既に前魔王様に世代交代していたと言ってましたから」

使用人「前魔王様が地図を改ざんした可能性だってありますよ」

使用人「人の記憶から、とか、魔族に有利に、と言うより」

使用人「争いの記憶を消してしまいたかったのかも知れません」

使用人「……前魔王様は、人との共存を願っていらっしゃったらしいですし」

盗賊「複雑だなぁ……」

使用人「やはり……『王』は重要なのでは無いでしょうか」

盗賊「え?」

使用人「鍛冶師さんは、魔王様が既に『王』だと言われましたが」

使用人「人の子の『王』が……必要、なのでは」

鍛冶師「……そんなじっと見ないでよ」

盗賊「だ、だからって、さ……アタシらに王になれってのも暴論だって!」
0744この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:45:14.85ID:BB+B7MYy
使用人「充分承知してます。先ほどの話……じゃ無いですけど」

使用人「船長さんの……」

鍛冶師「世界を滅ぼすのを阻止するためなら……?」

使用人「……はい」

盗賊「鍛冶師!」

鍛冶師「自分で言っちゃった事だからね……」フゥ

鍛冶師「勿論、鉱石の話も魅力的さ。だからって、まあ……勿論解ったとは言えない」

盗賊「……そうだよ」ホッ

鍛冶師「言えない、し……こればっかりは、此処に住もうとしてる人に聞く必要もある」

盗賊「おいおいおいおいおい!」

鍛冶師「し、俺たち二人で話し合う必要もある、だろ?」

盗賊「……お、おう。だけど……!」

鍛冶師「確かに、そんな器じゃないさ。けど……イエスもノーも、今言う必要は無い、よね?」

使用人「勿論、です。無茶苦茶言ってる自覚はあります」

盗賊「……」ハァ

使用人「もし、そうなれば良いな、とは思ってます」

盗賊「お前達に取って都合が良い、だろ?」

使用人「姫様も喜びます」

盗賊「それは卑怯!」

使用人「……解ってますよ」

盗賊「……良く、話し合うよ。それで……勘弁してくれ」

使用人「当然です……それに」

使用人「別に、私に宣言する必要もありませんよ」

鍛冶師「不可能、の間違いだろ」

盗賊「え?」

使用人「…… ……」

鍛冶師「もう転移石が無いんだろ?」

盗賊「あ……」

使用人「船長さんに連絡が取れたら、必要な物を届けて貰います」

使用人「……良いと言ってくれたら、になりますけど」
0745この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:45:33.96ID:c7IUgruH
盗賊「勇者、だっけ……のだったら、請け負ってくれるんじゃね?」

鍛冶師「船長、優しいからね」

使用人「だと、良いですけど。当分の物はまあ……買いましたし」

使用人「……荷が重いです。子育てなんて」

鍛冶師「まあ……側近、いるんだろ?」

使用人「使い魔も居ますし、ね」

盗賊「……」

使用人「すみません、長々と」

盗賊「そんなの、良いよ。でも……」

使用人「はい?」

盗賊「……いや。頑張れよ」

使用人「貴方達こそ、です」

鍛冶師「……うん」

使用人「では、失礼致します……また」



シュゥン……



盗賊「……また、か」

鍛冶師「どうなんだろう、ね」

盗賊「何が」

鍛冶師「ん? ……んー。世界の謎?」

盗賊「解る訳ねぇだろ、んなもん……」

鍛冶師「明日……街の人達と話してみよう」

盗賊「え?何を?」

鍛冶師「城の再建。もし……必要って事になったらさ」
0746この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:46:11.87ID:jJXm2RCn
鍛冶師「誰かが……王、になる必要はある訳、だ」

盗賊「お前……まじで王になったら南の洞窟?行けるとか思ってるだろ」

鍛冶師「否定はしない。しない、けど」

鍛冶師「……なるとしたら僕じゃ無い」

盗賊「誰か祭り上げるつもりか!?」

鍛冶師「……君しか居ないでしょ」

盗賊「…… ……アタシ!?冗談……!!」

鍛冶師「必要とされるとしたら、だよ」

盗賊「…… ……」

鍛冶師「そういう声があれば、無視は出来ないだろ」

盗賊「……やだな。何か踊らされてるみたいだ」

鍛冶師「使用人ちゃんに?」

盗賊「魔王に……か?」

鍛冶師「世界に、かなぁ……」

盗賊「ついこの間まで、劣等種だなんだって蔑まれて来たアタシが」

盗賊「王様!冗談じゃないよ!」

鍛冶師「……解放したのは確かに君だろ?」

盗賊「劣等種達を、か? ……魔王だろ」

鍛冶師「でも、君が魔王を見込んで声をかけなかったら」

鍛冶師「こうはなって無かったんだ」

盗賊「……お前、何その気になってんだよ!」
0747この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:46:21.47ID:8nFwAcWd
鍛冶師「魔法剣だ鉱石だって……ま、関係無いよ。本当に」

盗賊「どうだか……」

鍛冶師「触れられる機会があれば、そりゃ嬉しいけどね」

盗賊「ほら見ろ!」

鍛冶師「でも、僕か君かで言うと……君だ」

鍛冶師「そこは……確かだと思うよ」

盗賊「…… ……」

鍛冶師「ま、明日だ。仕事は待ってくれないしさ」

盗賊「そりゃ、な……港街の勇者とまで言われた魔王の為、と思えば」

盗賊「頑張ってやりたいとは思うよ。思うけど……!!」
0748この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:46:43.79ID:zbznPaLP
鍛冶師「まあ、まあ」

鍛冶師「何にしたって街を作る。それが最優先だろ?」

鍛冶師「……港街だって、始めに比べれば立派になった」

鍛冶師「余計な事はおいておいても、城を再建しようとした時点でぶつかっても」

鍛冶師「おかしく無い問題だったってだけさ」

盗賊「……うん、まあ」

鍛冶師「使用人ちゃんも帰っちゃったし、僕たちも休もう」

鍛冶師「身体に触るよ」

盗賊「あ……使用人に言い忘れた」

鍛冶師「えー……」

盗賊「し、仕方無いだろう、あんな話……!」

鍛冶師「まあ……船長だって何れ戻ってくるし」

鍛冶師「伝えておけば、耳には入る……か、な?」

盗賊「……だったら良い、けど」ハァ

鍛冶師「……人と魔の共存、か」

盗賊「え?」

鍛冶師「皆が皆、使用人ちゃんや側近みたいな人なら」

鍛冶師「余裕で可能な気がするな、と思って」

盗賊「……側近は魔王と同じだぜ。徹底した不干渉、だ」

鍛冶師「そっか……て事は、使用人ちゃんも、か」
0749この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:47:05.11ID:cQDU0zrv
盗賊「魔王の意思に従って、こうやって……」

鍛冶師「盗賊……」

盗賊「徹底的な不干渉の為に、アタシ達に手を貸してくれる、に過ぎないんだよな」

鍛冶師「……世界を救う為、だろ?」

盗賊「最終的には……まあ、そうだよな。それすらも」

鍛冶師「勿論、魔王の為。でも……当然だよ」

鍛冶師「僕たちは人……人間達の為、引いてはやっぱ自分の為だろ?」

鍛冶師「大事な人の為、って言っても、結局は自分の為さ」

鍛冶師「『自分の大切な物』を『守りたい自分』の為」

盗賊「……うん」

鍛冶師「皆が自分勝手で良いんだよ……程度はあるけどね」

盗賊「だからって、王様になって魔法剣……とか駄目だからな!」

鍛冶師「解ってるってば」

鍛冶師「……技術が失われたは、勿論……利害とか、色々あったんだろうけどさ」

鍛冶師「世界が必要としない、からだろう。身に余る力を持つと」

鍛冶師「人……生き物、は狂うのさ」

盗賊「……魔導の街の人達、思い出す」

鍛冶師「力ある者に媚びて我先に、って?」

盗賊「それが全てとは思わないけど、さ」

鍛冶師「五年、だったっけ。保護期間って」

盗賊「ああ…… ……」

鍛冶師「どうした?」

盗賊「アタシが、その5年が過ぎるまでの間に」

盗賊「……王様になれば、抑止も効くか、と思って」

鍛冶師「結構その気なんじゃん」クス

盗賊「求められるのなら、だよ! ……ああ、でも」

盗賊「やっぱり踊らされてる様で、むかつく……!」

鍛冶師「何にだよ……ほら、イライラしないの」
0750この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:47:38.91ID:rK5618Ah
鍛冶師「本当に休もう……お腹冷やしちゃ駄目だよ」

盗賊「……ん」

鍛冶師「この子の為にも……一番良い方法をチョイスしよう。ね?」

鍛冶師「……世界が滅ぶのは、厭だ。子供には美しい世界を見せてやりたいよ」



……

………

…………



女剣士「大丈夫か?」

魔法使い「…… ……話かけんな」

女剣士「何だよ、冷たいな。なぁ?」

娘「あう?」

魔法使い「糞、船長の野郎……!こき使いやがって……!」

女剣士「仕方無いだろ、アタシ娘見てなきゃいけないんだし」

女剣士「アンタの魔法は海の魔物には有効なんだし」

魔法使い「…… ……」

女剣士「船降りないって決めたの、自分だろ」

魔法使い「……そうだけど」

女剣士「無事に鍛冶師の村に着いたんだから。飯でも行こうよ」
0751この頃流行の名無しの子垢版2021/02/25(木) 11:48:15.16ID:JZVgA6k0
娘「だー。う……」

女剣士「おう。ちゃんと娘のミルクも持ったからなー」

魔法使い「飯……ああ、腹減った……」

女剣士「だろ?ほら……行こうぜ。あそこに飯屋あるよ」スタスタ

魔法使い「……船長は?」

女剣士「船に居るってさ。補給とか済んだら声かけろって」

魔法使い「自分もちっとは動けよな……」カチャ



イラッシャイマセー



女剣士「あれ?」

魔法使い「おい、早く閉めろよ扉」
0752この頃流行の名無しの子垢版2021/02/26(金) 03:03:08.43ID:CAvBw6++
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スレ立てたました。
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マリガボ成田怪奇コン尻エーレが偽生前フェイスリングを売ってバレて客がツイッターで騒いだからマリガボ恵比寿が客の個人情報を漏洩してパチ被害者の客から100万円取った。
その他鉄仮面スカルなどのヤフオクパチグループにも関与。
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前回パスカルザザがマリアの遺産相続人だと思ってピーターを訴えたらピーターがマリアの財産は相続してない財産管理人だと言って逃げたから今度はピーター個人とマリアの財産管理人のピーターを訴える書類。
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マリガボはウォータームーン渡辺と成田怪奇コン尻エーレがホールから473万円分仕入れて出来が良い生前と言ってマリガボの倍の値段で売ったりヘンテコなワニ、カエル、お岩さん、般若、ポセイドン、ケルティック、象さん等々、成田怪奇が捏造企画してデフブリで作売ってる。
マリガボの成田怪奇コン尻エーレが署名捺印した仕入れ伝票。
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0753この頃流行の名無しの子垢版2021/02/26(金) 23:46:13.27ID:2KP0cArO
女剣士「あ、ああ……悪い」パタン

魔法使い「何だよ?」

女剣士「いや、教会?の前に随分人が居たからさ」

魔法使い「ふぅん……あ、おばちゃーん!注文良いー?」

おばちゃん「はいよ。何にする?」

魔法使い「えーっとねぇ……」

女剣士「あ、なあ……おばちゃん、あの教会ってさ……前からあったよな?」

おばちゃん「ああ、建物自体は古いよ。無人の期間が長かったけど」

魔法使い「ん?聖職者が居ないって事か?」

おばちゃん「……何年か前まで、男前の神父さんが居たんだけどねぇ」

おばちゃん「その神父さんの後追いかけてきたシスターと駆け落ちしたって噂でね」

女剣士「駆け落ち!」

娘「だぁ。あ〜」

女剣士「あ、ごめんごめん、ミルクだな」
0754この頃流行の名無しの子垢版2021/02/26(金) 23:46:22.48ID:EpQN3zKU
おばちゃん「おや可愛いお嬢ちゃんだね……若いお母さんで良いねぇ」

女剣士「いや、アタシの子じゃ……」

魔法使い「それより飯だって!俺、ペペロンチーノ」

おばちゃん「パンとサラダで良いかい?」

魔法使い「ああ……んで、駆け落ちして何だって?」

おばちゃん「いやね、二人ともある日突然消えちまったんだよ」

おばちゃん「神官とシスターの禁断の恋とか、羨ましいねって」

おばちゃん「一時期凄い噂になってたのさ」

女剣士「禁断の恋……」

おばちゃん「そりゃあもう綺麗な男だったんだよ!」

おばちゃん「この村の女は皆、魅入ってたしね」

魔法使い「不公平だなぁ、世の中ってのは」ハァ

おばちゃん「あら、お兄ちゃんも良い線言ってるって!」アハハ

魔法使い「……わっかりやすいお世辞ありがとよ」

おばちゃん「で、教会が何だって?」

女剣士「アタシカルボナーラ……ああ、いや。随分人が集まってたからさ」

おばちゃん「あいよ……ああ。そうそう。久しぶりに教会に神父さんが来たのさ」

魔法使い「またあれか。男前って騒いでんのか!」
0755この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:30:31.73ID:GuAeyVNC
おばちゃん「いやいや。まあ、可愛い顔してるけど」

おばちゃん「若い子だよ。真面目そうだったかな」

魔法使い「しっかりチェックしてるんだな」

おばちゃん「港街からの船で来たんだよ、あの子」

おばちゃん「新しくできた街だって言うから、みんな話を聞きたがるのさ」

女剣士「!」

魔法使い「へぇ……」

おばちゃん「まあ、心のよりどころが出来るのは嬉しい事だよ……ああ、ちょっと待ってね」

魔法使い「……港街から、ねぇ」

女剣士「 婦や……神父さんの事、知ってんのかな」

魔法使い「さあな。俺ゃ興味ねぇよ」

おばちゃん「はい、お待たせ!」

魔法使い「お。旨そう……いただきます」

女剣士「……頂きます」

魔法使い「気になるなら散歩がてら見てくりゃいいんじゃねぇ?」

魔法使い「俺は飯食ったら船に戻る。どうせまたこき使われんだろうからな」

女剣士「ああ……うん」

魔法使い「若いとミーハーだな。可愛い顔とやらに興味あんのか?」

女剣士「馬鹿!そんなんじゃネェよ!アタシは……」

魔法使い「側近が好きだから、かよ」

魔法使い「…… ……ま、良いさ。ご馳走さん」

女剣士「もう食ったの!?」

魔法使い「ゆっくり食ってけって……俺は眠いの!」スタスタ

女剣士「……すっかりひねくれたよな、あいつ」

女剣士「て、程……知らないけど……なぁ?」

娘(すやすや)

女剣士「……ありゃ、ミルク空っぽ。お前も良く飲むね」

女剣士「まあ……赤ちゃんは寝て飲んで、が仕事だな……」カタン

女剣士「おばちゃん、ご馳走様」
0756この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:31:27.44ID:J5MMvFyI
おばちゃん「はいよ、お粗末様」

おばちゃん「旦那は先に出てったのかい?」

女剣士「だ、旦那じゃ無いって!」

おばちゃん「なんだ、違うのかい」

女剣士「……やめてくれよ、もう」スタスタ

おばちゃん「また来ておくれよー?」



カチャ、パタン



女剣士「……お、さっきより減ってる」スタスタ

女剣士(神父さん、ね……港街から、か。アタシの知ってる人かな)

女剣士「あー、えっと……すみません。アンタが此処の……聖職者、さん?」

神父「おや、可愛い赤ちゃんですね……はい。と言っても」

神父「この間、この教会に居を移したばかりですが」

女剣士「……えっと、港街から、来た……って人、で良いんだよな?」

神父「ええ。そうです。神父、と言います」

女剣士「え!?」

神父「……え?」

女剣士「あ、いや……え?」

女剣士「港街の教会にも、神父って……高齢の、さ……」

神父「!!」

女剣士「……? どうした?」
0757この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:31:37.83ID:GtE5TVrd
神父「……いえ。今日は風も強いですし、どうぞ……よろしければ中へ」

女剣士「良いのか」

神父「ええ、赤ちゃんも居ますし」

女剣士「じゃあ……えっと、ちょっとだけ。準備が出来たら船に戻らないと行けないんだ」

神父「船……」カチャ

女剣士「お、お邪魔します……?」

神父「……貴女は、神父様にお会いした事が……?」

女剣士「あ、ああ……まあ。元気にしてんのかな」

女剣士「もう、随分前だけど……さ」

神父「……神父様はお亡くなりになりました」

女剣士「え!?」
0758この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:32:24.28ID:s3CUzO1L
神父「……僕は、新米神官、と言う者です」

神父「ですが……あの街を出る時に、神父様の教えを忘れない様」

神父「……敬愛する神父様を忘れない様、名前を頂いたんです」

女剣士「あ、ああ……そうだったんだ」

女剣士「そっか……神父さん……」

女剣士「あ、じゃあ……アンタはもう、港街には戻らないのか?」

神父「ええ。この街の奥に……小さな小屋があるのです」

神父「見晴らしの良い、丘の上です。あの街の教会とどこか似ていて……」

神父「……そこに、居を構えさせて頂ける事になったので」

女剣士「丘……へぇ?そんな場所あったっけ?」

神父「……貴女は、この村の方、ですか?」

女剣士「いや、違うよ。アタシは……出身は北の街だ」

神父「ああ……山の向こうの。そうですか……」

神父「小屋まで、結構歩きますよ。でも川沿いの……美しい場所です」

神父「僕は……あの場所に骨を埋めるつもりです」

女剣士「そっか……港街から来たって言えば、皆話を聞きたがるだろう?」

神父「そうですね。確かに活気のある街です」

女剣士「まじで?アタシが居た時は、まだまだ……作ってる途中!って感じだったのにな」
0759この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:32:36.13ID:zOe/oqWx
神父「……随分前に離れられたのですね」

女剣士「ああ。でも多分……これから港街に向かうんじゃないかな」

神父「そう……ですか……」

女剣士「……なんだ?」

神父「いえ。僕は……ああいう、活気のある場所より」

神父「こういう静かな方が好きなので……」

女剣士「……さっきちらっと見たけど、あれだけ騒がれてたら」

女剣士「充分煩いと思うけどな」

神父「物珍しいだけですよ。何れ落ち着きます」

女剣士「そういうモンかな」

神父「多分、ですけどね」

女剣士「……神父さんの、お墓は?」

神父「港街のあの教会の裏に」

女剣士「そっか……寄ったら、会いに行くよ」

神父「ええ……喜ばれますよ」

娘「ふえぇ……」

女剣士「お。起きちゃったか」
0760この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:33:19.14ID:V/QgK65p
女剣士「お邪魔しました。何か言われたら、元気だったって伝えておくよ」

神父「……ええ」

女剣士「じゃあ……頑張ってな」

神父「貴女の旅の無事を、お祈りしておきます」



カチャ、パタン



神父「…… ……」フゥ

神父「返すべき、だったか……」ガサガサ……トン

神父(黙って……持ってきてしまった、この本)

神父(……童話の類かと、軽い気持ちで……)ペラペラ

神父(神父様は、一度だけエルフの娘にお会いしたと言っていた)

神父(この絵の……お姫様の様に美しかったと)

神父「…… ……」

神父(皮肉だ……この村が、魔除けの石の発祥であっただなんて)フゥ

神父(否……僕には、寧ろ丁度良いのかもしれない)

神父(神父様の教えを広げ……魔石等。魔除けの石等……)

神父(人々の記憶から、払拭しないと……!)
0761この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:33:26.14ID:V/QgK65p
コンコン、カチャ



神父「はい?」

女「神父様、良ければ外でお茶にしませんか。良い天気ですし」

女「また、港街のお話をお聞かせ下さい」

神父「……ええ、良いですよ」

女「あら……綺麗な絵」

神父「あ……これは……」

女「教会に置かれる本ですか?」

神父「……これは、ただの童話ですよ。御伽噺です」

女「まあ!子供達が喜びますね!」

神父「子供に読ませる内容では……」

女「え……」

神父「……ああ、いえ。死等……なんて言うか」

神父「ちょっと、暴力的な表現も多いのですよ」

神父「めでたしめでたし、で終わる本では無いのでね」

女「ああ、そうなのですか……」

神父「僕も……頂き物、ですので」

神父「…… ……」

女「私は、読んでも……良いですか?」

神父「ええ……それは、ご自由にどうぞ。こちらに置いておきますから」

神父「とりあえず……行きましょうか」
0762この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:34:12.22ID:5r8q3MTM
女「ああ、そうですね。皆待ってますし」

神父「どうぞ、またお時間のある時にお越しになって下さい」

女「ええ、ありがとうございます!」

神父(焦る必要は無い……どうせ、港街の話と同じように)

神父(何れ……落ち着く)

女「では、行きましょう」スタスタ

神父「……はい」スタスタ

神父(神父様……僕は……)



カチャ

ボーゥ…… ……



女「あら、あの船……出発したんですね、もう」

神父「……便利になった物ですね」

女「ええ、本当に。私も何時か、港街に行ってみたいわ」

神父「賑やかで……良いところですよ」

女「今は神父様のお話を皆、楽しみにしていますよ」

神父「この間、何処まで話しましたっけ」

女「街がどうやって大きくなったか、です」

女「魔王の復活が囁かれている中、人が集まって」

女「こうして……力を合わせて街を作ったりできるのって素晴らしいですよね」
0763この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 10:34:40.33ID:pEttbPYQ
神父「……ええ。そうですね。人一人はか弱くても、力を合わせ」

神父「負けない、屈しないと言う意思が原動力になりますから」

女「此処の者は鍛冶を生業にしてますから。潤うのは嬉しいけど」

女「争いは厭ですものね」

神父「そうですね」

女「そういえば、以前此処に居られた神父様は魔除けの石を配っていらっしゃいました」

女「……お話しましたっけ」

神父「ええ。居なくなってしまった、と言うのは……残念ですけど」

神父「…… ……」

女「神父様?」

神父「あ……すみません。残念ですけど、あれは随分体力や精神力を消耗しますから」

女「まあ……!」

神父「ですから……僕は」

女「あ、ほら、神父様、あっち!皆待ってます!」タタタ……

神父「あ…… ……」ハァ

神父(焦らない、焦らない……何れ、風化する)

神父(僕は……僕の思うとおり。神父様の、様に……!)スタスタ

神父「お待たせ致しました。港街のお話、ですね」

女「ええ、お願い致します!」

おばさん「楽しみにしてたんだよ!ほら、神父さんも座って!」
0764この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 19:47:17.52ID:aEUMUbJ2
テンプレ

マリガボ詐欺事件の場合は、ほぼ全員が返金してもらえるはず。

通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点が有る場合は返金してもらえる。

マリガボがピーマincと知っていたら買わなかった場合。

マリガボがホールとかデフブリから仕入れてる事を知っていたら買わなかった場合。

カエルとか有ったんですよシリーズが成田企画だと知っていたら買わなかった場合。

反逆マルカンの生前が偽生前だった場合。

マリアさんの金庫から出て来た話が嘘だった場合。

マリガボ詐欺事件の場合は通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点満開だから
必ず返金してもらえる。

ギャランティはマリアピーターが作ってサインしてると案内してるが、それがウソでギャランティ偽造だった場合(コピー)
0765この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:46:36.95ID:EZafPHsM
……

………

…………



使用人「もうちょっと!もうちょっと……頑張って下さい、勇者様!」

側近「痛い痛い痛い!」

使用人「勇者様が頑張って立とうとしてるんですから、我慢して下さい」

側近「ちょ、爪切ってやってよ使用人ちゃん!」

側近「食い込んでる食い込んでる!」

勇者「うー!」

使用人「歩いた!コッチですよ、勇者様……っと!」ダキ!

勇者「あー!」

使用人「うんうん!凄いです!歩けましたね!」

側近「……痛かった」

使用人「よく頑張りましたー!」ナデナデ
0766この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:46:46.46ID:qiFB/RiX
側近「俺も撫でて欲しいわ……いてぇ」

使用人「何気持ち悪い事言ってるんですか」

側近「ひでえ!」

勇者「そっきんー」

側近「ん?」

勇者「かちこい」ナデ

側近「……ありがとよ」

使用人「にやけないで下さい、気持ち悪い」

側近「もうちょっと労れ!」

使用人「さて、じゃあ勇者様はそろそろねんねしましょうか」

勇者「うん」

側近「おう……俺もそろそろ休むかな」

使用人「あ、側近様はもうちょっと待ってて下さい」

使用人「……ちょっと気になる事があったので」

側近「ん?ああ……別に良いけど」

使用人「勇者様寝たら戻りますから」スタスタ

勇者「おやすみ!」

側近「あいよ、おやすみ」



パタン
0767この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:47:20.82ID:crwLysHd
側近「気になる事、ねぇ……」

側近「…… ……」

側近「茶でも入れておいてやるか……」スタスタ

側近(えーっと……)トン

側近(壁と……扉。って事はここから、いち、にい……)スタスタ

側近「……お、ビンゴ」

側近(コーヒーはどれかなーっと……)



カチャ



側近「ん?」

使用人「何やってるんです?」

側近「お茶でも入れてやろうかと」

使用人「……慣れ、って凄いですね」

側近「まあ、見えないは見えないなりに、な」

使用人「後は私がやります……大丈夫ですか?」

側近「俺?別に眠くないけど」

使用人「いえ……まあ、体調とか」
0768この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:47:29.70ID:cnsWu5A3
側近「……なんだよ、急に」

使用人「…… ……何時言おうかと迷っていたんです」

側近「?」

使用人「毎日見てますが……側近様……」

側近「な、何だよ」

使用人「……老けて、ます」

側近「…… ……俺が」

使用人「はい」

側近「えーと……それは、確か?」

使用人「嘘吐いても仕方無いでしょう……お茶、置きます」

側近「あ、ああサンキュ……老けた、てどんな風に?」

使用人「髪の色が……抜けてます」

側近「……はい?」

使用人「色がだんだん薄くなってます。目に見えて解る位だから」

使用人「……ちょっと、気になって」

側近「…… ……他に、変化は?」

使用人「…… ……」ゴトン

側近「何の音だ」
0769この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:47:54.80ID:TRaSENf8
使用人「ま……勇者様の剣です」

側近「……?」

使用人「微かに、何ですけど……光が、増えてます」

側近「何?」

使用人「感じる力……魔力、で良いのか解りませんが」

使用人「勇者様の成長に伴って、大きくなってます」

側近「…… ……ふむ」

使用人「以前、魔王様が仰ってました。側近様には残照があると」

側近「魔王様の目、のか」

使用人「はい。 ……側近様は、『欠片』に目の光を奪われた」

使用人「もし、残りの……その、残照とやらが」

使用人「……剣に、奪われて行っているのだと、したら」

側近「気がついたのは何時だ?」

使用人「本当についこの間、なんです」

使用人「急速に……なので。気になって……」

側近「勇者様の成長に合わせて、か?」

使用人「そんなに徐々に、だったら……毎日顔会わせてるのに」

使用人「気がつきませんよ、多分」

側近「…… ……」

使用人「私が港街から戻って、もうすぐ一年ぐらいです」

側近「まあ、勇者様が歩く様になる位だからなぁ」

使用人「あの時点で、船長さんには小鳥を飛ばしましたが」

側近「……たどり着いてると仮定しても、来るかどうかの保証は無い、だろ?」

使用人「はい。どこに居るのかもわかりませんからね」

側近「うん」

使用人「外の様子が全く分かりませんから……何とも言えませんが」

使用人「……お話、したじゃないですか」

使用人「盗賊さんと、鍛冶師さんに……」

側近「王になれ、て奴な」

使用人「はい」
0770この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:48:36.64ID:OU8yQ9+P
側近「それがどうした?」

使用人「それが、叶ったのかな、って……」

側近「ピースが一つはまった? ……しかしなぁ、都合良すぎないか」

使用人「……ですよね」

側近「それに、光は成長に伴って増えてるんだろ?」

使用人「と、思います……ただ、側近様の、その……変化が」

使用人「急に……だったので。確かめて見たら……その」

側近「別に気にしなくて良いだろ。俺は結構な時間生きてるしな」

側近「寿命的に、そろそろであったっておかしく無いんだぜ」

使用人「…… ……」

側近「で……何か外で変化があったのか、と思った訳ね」

側近「しかし……確かめる方法がネェからな」

使用人「そうなんです。もう少し勇者様が大きくなられたら」

使用人「船で出る事も可能なんですが……」

側近「……どうだかな」

使用人「え?」
0771この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:48:47.31ID:stX25itJ
側近「勇者様は人間なんだろう。此処にずっと……大きくなる迄置いとくってのは」

側近「どうだかな、て」

使用人「し、しかし……!」

側近「……場合に寄っちゃ、俺や使用人ちゃんだって敵になるんだ」

使用人「!」

側近「まだ何も解っちゃ居ない子供だ。だが……」

側近「『勇者』として育てるのなら……」

使用人「…… ……」

側近「……何れ、旅立たせないと行けないんじゃないか、と」

側近「思うんだけど、な」

使用人「…… ……その為の、王」

側近「…… ……」

使用人「やっぱり……私、もう一度、港街へ……!」

側近「まあ、待てって……後一年、待とう」

使用人「え?」
0772この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:49:10.62ID:ydpvOqTX
側近「……勇者様は、まだ子供だ。船長が一年、この城に来なかったら」

側近「俺が、勇者様を連れて此処を出る」

使用人「ど、どうやって、ですか!」

側近「残照がある内に……魔王様の目の残りの魔力を使えば」

側近「行くだけなら、どうにか……」

使用人「……ッ だ、駄目です、そんな事したら貴方の身が……!」

側近「…… ……お前なら、身を案じて違う方法を探すか?」

使用人「…… ……」

側近「一年。船長を待とう。来たら……」

使用人「私が、それで港街へ……」

側近「違う。俺が……勇者様を連れて此処を出るんだ」

使用人「!?」

側近「前に行っただろう。俺は『側近』の地位を使用人ちゃんに譲る、と」

使用人「そ、それはお断りした筈です!」

側近「『側近』の名を継ぐ事は、だろ? ……俺の仕事は全部」

側近「引き渡したつもりだぜ」

使用人「で、ですが……『魔王様』はどうするのですか!」

使用人「そ、そりゃ……全力で、どうにか、しようとは……」

側近「間に合わす為の勇者様、だろ?」

側近「……『中身』が『器』を倒さないと、多分意味が無い」

使用人「…… ……」

側近「俺は目が見えない。だから……申し訳無いが誰かを頼らざるを得ない、だろうが」

側近「ここを守る者も必要だろう。幸い、魔王様は眠ってる。動かない」

側近「……そんで、それはお前に任せる方が良いのさ」

使用人「城を……私が、守る、のですか」

側近「ああ……魔王様の目も、魔王様の剣も……もう」

側近「俺にはどうにも出来ない。なら」

側近「……勇者様を安全な場所に送り届けるのが、俺の最後の役目、だろうさ」

使用人「側近様……」
0773この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:49:59.14ID:7z88eaZU
側近「魔王様、言ってただろ?何かあったら、目と剣で自分をどうにかしろって」

使用人「……はい」

側近「魔王様は勇者様、だ。目と剣を必要とするのは?」

使用人「勇者様です。器を……魔王様を、倒す為に」

側近「ほら。俺の役目、だ」

使用人「……何も、文句などはありませんよ。ただ……」

側近「俺か? ……ま、大丈夫さ」

側近「俺は魔王様の側近だ。最期は……ちゃんと、帰ってくるさ」

使用人「さ、いご……だなんて」

側近「さて、寝ようぜ。明日も勇者様、早起きだろ」

使用人「……そう、ですね」

側近「転がって目瞑ってな。勇者様に蹴られネェようにな」

使用人「毎日ですから、慣れましたよ」

側近「……ご苦労さん」ハハ

使用人「……明日は側近様、一緒に寝ます?」

側近「使用人ちゃんと!?」

使用人「勇者様と、です!」

側近「ですよねー」

使用人「もう…… ……では、おやすみなさい」チラ

側近「おう。おやすみー」

使用人(…… ……もう一度、船長さんに手紙を出しておこう)

使用人(間に合って……!!)
0774この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:50:05.57ID:7z88eaZU
……

………

…………



女神官「まあ、船長さん!」

船長「……これ、神父さんの墓か」

女神官「……ええ」

船長「…… ……」

女神官「何時、お戻りに?」

船長「さっき、船で着いた。随分時間掛かったみたいだな」

船長「一瞬街を間違えたかと思ったぜ」

娘「とーちゃん!」タタタ

女神官「……? とー…… ……船長さんの、お子様ですか?」

船長「ああ、まあな……ほら、娘。こんにちは、は?」

娘「こんにちは!」

女神官「はい、こんにちは」ニコ
0775この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:50:39.26ID:Mc1nm9C0
女神官「吃驚しました……何時の間に、ご結婚されたのです?」

船長「ま、色々あってな……おい、女剣士は?」

娘「なんかくってた」

船長「『食べてた』 ……ったく」

娘「あ!おんなけんし!」タタタ……

女神官「可愛い……お母さん似、ですか?」

船長「……だな。俺に似てるのは口の悪さ位か」

船長「……否、あれの母親も大概だったが」

女剣士「急に走っていくから吃驚しただろ!もう!」タタ……

娘「えへ」

女剣士「あ、船長。なんか魔法使いがキレてたけど」

船長「あ?ああ……買い物頼んだからな……おい、娘と先に船に戻れ」

船長「用事済んだら出るぞ」

女剣士「え!?もう!?」

船長「のんびり……するつもりだったが、用事が出来た」

女剣士「用事、って?」

船長「女神官、だったな。始まりの街はどうなってる?」

女神官「あちらへも既に定期便が出ているらしいですね」

女神官「私も詳しくは解りませんが……でも」

女神官「確か、一週間後に戴冠式があったはずです」

船長「戴冠式……マジ、だったのか」
0776この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:51:00.57ID:K/3yQ0qt
女剣士「あ、そうそう!さっき、定食屋のおっさんが言ってたよ」

娘「おっさんー!」

女剣士「……アタシが悪かった。おじさん、な」

娘「おっさんー!!」

船長「何を、だ?」

女剣士「城が出来たって奴さ。王様に子供が生まれたとかさ」

船長「…… ……」

女神官「ええ、そうらしいですね。どちらに似ているのでしょうねぇ」

女剣士「へ?」

娘「あかちゃん!」

女剣士「あ、ああ。赤ちゃんだな。でも、どっちって……?」

船長「盗賊か、鍛冶師か……だろ?」

女神官「ええ、そうです」ニコ

女剣士「ええええええええ!?」
0777この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:51:25.32ID:g/SYPzuC
娘「おんなけんし、うるしゃい」

女剣士「ご、ごめん。でも……ええ?」

船長「俺に娘が居るぐらいだ。別におかしくネェだろ」

女剣士「そっちじゃ無いよ!」

船長「あ? ……ああ、そうか」

女神官「城を再建、となると……王を立てる必要が出てきます。妥当では?」

女神官「あの二人以外……おりますまい」

船長「一週間後、か……」

女神官「……喜ばれると思いますよ?」

船長「……」

女神官「火急の用事ならば仕方ないですけど……」

船長「女剣士」

女剣士「ん?」

船長「魔法使い手伝ってやってくれ。ついでに、この手紙渡してくれ」カサ

女剣士「あ、ああ……別に良いけど」

娘「むすめがもつ!」

船長「無くすなよ」

娘「おんなけんし、よんで!」

女剣士「見て良いのか?」

船長「構わん。使用人からだ」

女剣士「!」

船長「俺は出航急がせる……始まりの街に行くぞ」スタスタ
0778この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:51:48.43ID:qx9dPwjG
娘「よんでー」

女剣士「待て待て……えっと」カサ



『お買い物をお願いしたいです。リストは別紙にて』

『何度も申し訳ありません。港町まで二人、運んで頂きたいのです。叶う限り、早急に』



女剣士(二人……? 使用人と、側近?)

女剣士(でも……何でわざわざ船で?)

娘「おかいもの!おかし!」

女剣士「え?あ、ああ……わかったわかった。とりあえず魔法使いんとこ行こうか」

娘「だっこ!」

女剣士「……歩いてよ。重いんだから」

娘「やだ」

女神官「ふふ……」

女剣士「……はいはい。よいしょ……じゃあ、えっと……」

女神官「ええ……あ、女神官と申します」

女剣士「……新米神官、に会ったよ」

女神官「……え?」

女剣士「神父さんの名前、貰って頑張る、てさ」

女神官「あ、あの……彼は、どこに!?」

女剣士「鍛治師の村に。ちょっと話しただけだけど、元気そうだったよ」

女神官「そうですか……あ、あの……それ、だけ……ですよね」

女剣士「ん?うん、まあ……?」

女神官「……いえ、良いのです」

女神官「教えて下さって、ありがとうございました」
0779この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:52:06.58ID:ItPwP/kE
女剣士「どういたしまして……じゃあ」

娘「はやくー」

女剣士「はいはい」スタスタ

女神官「貴女方に、神のご加護があります様に……」

女神官「……神父様。申し訳ありません」

女神官「あの本は……」

女神官(言付けてくれていないかと……思ったけれど)

女神官(……せめて、大事にして下さい。新米神官……)



……

………

…………



魔法使い「んで?後何だ?」

魔法使い「なんで俺がこんな事……」ブツブツ
0780この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:52:27.96ID:UaSKhfFE
魔法使い「これは買った、これも……後は……」

娘「まほうつかいー!」

魔法使い「お、娘……歩いて来たのか、賢い賢い」

女剣士「アンタが見える迄抱っこだよ……」

魔法使い「やっぱりか」ハハ

娘「おかいもの?」

魔法使い「後は花の苗だけだ。めんどくせぇし、お前が選べ、娘」

娘「ぴんくー!」

女剣士「買い物リストはやっぱり、魔法使いが持ってたんだな」

魔法使い「やっぱ?」

女剣士「船長が渡しとけ、て」カサ

魔法使い「…… ……」

魔法使い「……花の苗、で怪しいと思ってたよ」

魔法使い「使用人とやらからか……」

女剣士「……どうするんだ?」

魔法使い「……船長は?」
0781この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:52:47.82ID:WZ8VdNWp
女剣士「出航急がせるって戻ったよ」

娘「きいろ!みろり!」

女剣士「みどり、な」

娘「みろり。あと、しろー!」

女剣士「おいおい、んな一杯……」

魔法使い「とーちゃんの金だ。好きなだけ買え」

女剣士「……先に始まりの街だとさ」

魔法使い「戴冠式か。ガキも産まれたらしいな」

女剣士「知ってたのか」

魔法使い「噂で持ちきり、て奴だ」

娘「むらちゃき!」

女剣士「そんくらいにしな。持てないよ」
0782この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:53:08.09ID:1mkZHY+G
魔法使い「……良し。荷物運ぶか」

魔法使い「娘、船すぐそこだし歩けよ。俺も女剣士も荷物あるからな」

娘「えー」

女剣士「頑張れ。娘なら出来る!」

娘「……えー」

女剣士「……行く、だろ?」

魔法使い「どーすっかな」スタスタ

女剣士「……」スタスタ



……

………

…………



男「鍛治師様!花届きましたよ!」

鍛治師「あ、こっちに……て、凄い量になってきたなぁ」

男「そりゃ、祝い事続きだからねぇ」

鍛治師「後、様、て……やっぱさ……」

男「まだ言ってんですか。いい加減慣れて下さいよ」ハハハ

鍛治師「笑い事……かなぁ」

男「城の再建も、王になるのも、うちら街の人間皆が言い出した事だ」

男「鍛治師様達も気にしてたってなら」

男「何の問題も無いじゃないか」

男「……言っただろ。アンタ達二人しか居ない、てさ」

鍛治師「正確には王は僕じゃ無くて盗賊だけどね」

男「ああ、そうだ。二人はどうです?」
0783この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:53:41.35ID:3CjKO84a
鍛治師「さっき見に行ったけど、同じ格好して寝てたよ」

男「あはは!」

鍛治師「後……一週間、か」

男「派手にやりましょうや。盗賊様の言う通り、魔道の街の抑止効果も狙って、ね」

鍛治師「ああ……そうだね」

鍛治師「……」

男「鍛治師様?」

鍛治師「……いや。やっぱり、運命に踊らされてるのかな、て」

男「はい?」

鍛治師「ううん……何でもないさ」

鍛治師(運命、か……盗賊の言う通り)

鍛治師(……否。結局は使用人ちゃんの……魔王の言う通り。思う通り……願う通り)

鍛治師(叶った……満足か?魔王……)

男「ん?」

鍛治師「どうしたの?」

男「何か下が騒がしいな……見てきますわ」

鍛治師「ああ、僕が行くよ」

男「んじゃ俺は仕事に戻りますわ」

鍛治師「うん、無理しないでよ」スタスタ

鍛治師(玄関……じゃないや、城門の方か)

娘「かじしー?」タタタ

鍛治師「……え?何で僕の名前……」

娘「かじし?」

鍛治師「うん、そうだよ。君は何て言うの?」

娘「とーちゃん!かじし!いた!」

鍛治師「? お父さ……え!?」

船長「よう。久しぶりだな」

娘「とーちゃん!」

鍛治師「え、えええええ!?」
0784この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:54:02.01ID:YkbRWs0p
船長「何でそんな驚くんだよ」

船長「お前だって父親だろ、もう」

鍛治師「……だ、誰の子か聞いても良いかな」

船長「そこら辺も含めて話しようや」

船長「娘、女剣士んとこ……」

娘「やだ。とーちゃん」

鍛治師「……女剣士も居るのか!?」

鍛治師「あれ、て、事は……魔王の城に行ったんだ……よね?」

船長「ああ……色々あってな」

船長「その辺も含めて……」

鍛治師「じゃあ……勇者の事は知ってるんだな?」

船長「……勇者?」

鍛治師「……あれ?」

娘「とーちゃん!あちょぶ!」

船長「お、おう、ちょっと待て、娘」

船長「……勇者、て誰だ?」

鍛治師「え、え?だって城に寄ったんだろ?」

船長「……話を整理する必要があるな。女剣士を呼んで来る」

娘「とーちゃん!」

鍛治師「僕が呼んで来るよ。娘ちゃん?と居てあげなよ」

船長「盗賊は?」

鍛治師「1番上の寝室で子供と寝てるよ」

娘「あかちゃん!」

鍛治師「うん、赤ちゃんだよ……見てくるかい?」
0785この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:54:43.33ID:caCouuia
娘「あかちゃん!」

船長「駄目だって、こいつ起こしちまうぜ」

鍛治師「お話、の仲間はずれにする方が後が怖いよ」

鍛治師「呼んで来たらすぐに戻る。この奥に広い部屋があるから、そこに」スタスタ



カチャ、パタン



娘「とーちゃん、あかちゃん!」

船長「わかったわかった……起こすなよ?」

娘「つんつんする」

船長「駄目!」


……

………

…………


女剣士「じゃあ、アタシ達が城を出てすぐに……その、勇者ってのは産まれた、て事になるな」

船長「あの飛び出して行った光と関係は……ある、んだろうな。魔王の言うところの『欠片』」

鍛治師「探し出せ、か」

船長「一つは見つかっただろ?」

盗賊「……『王』か。断ったんだけどな。一応」

船長「結局はなった訳だろう。使用人は願いを叶えた」

鍛治師「引いては魔王が、だね」

盗賊「この件に関してはな……仕方なかった気はするが」

盗賊「あんな言い方されたら、身構えちまうよ……しかも、揃わなければどうなる?」

盗賊「……アタシ達は嫌と言う程、魔王の力を知ってる」

船長「ならざるを得ない?」

盗賊「状況を加味すりゃ、確かに……アタシ達しかいない」

鍛治師「盗賊が王に立てば助かるんだ、確かに」

船長「魔道の街への牽制、な」
0786この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 20:55:21.69ID:oqeVbRoB
盗賊「劣等種と呼ばれたアタシが街を作り、ついには王様になっちまった」

盗賊「……魔王の後ろ盾あってこそ、だ。感謝してもしきれネェ」

盗賊「やれる事ならしてやりたい。協力だって惜しまない」

盗賊「だがなぁ……何が出来る?」

船長「良いんだろうよ。出来る事をやる……それで、さ」

盗賊「……アタシが王になったのも、意味はある。死ぬ程厭って訳でも無い」

盗賊「もうすぐ、魔導の街からの援助も終わるんだ。タイミングも何もかも」

盗賊「上出来過ぎて怖くなるぐらいだ。だからこそ」

鍛冶師「しっくり来ない……んだよね」

女剣士「どういう意味だ?」

盗賊「……街を作り、国を作り、子供……未来を作るのさ。今、生きているって事はな」

盗賊「で、あれば……それを守って行きたい、良くしていってやりたいって思うのは当然だろう?」

鍛冶師「盗賊は頑張って……ここまで来たんだ。充足感だって随分あったんだと思う」

鍛冶師「……魔王から、使用人ちゃんから聞いた限りじゃさ……どうにも」

鍛冶師「敷かれたレールの上、歩いてる様な気にもなっちゃってさ」

船長「……気にしすぎ、とは言えんかもな」

女剣士「船長!?」

船長「だからといって、別に文句だとか言う気はネェぞ」

船長「……魔王の為なら、と思うのは俺も一緒……だ」

盗賊「ああ……ま、言っても仕方無い事なんだけどな」

盗賊「……良し。チビ共、寝てる間に本題に入ろうか」

鍛冶師「ああ……あ、そうだ、船長。魔法使いは?」

船長「俺よりそっちに聞いてくれ」チラ

女剣士「え? ああ……『俺には関係のネェ話だ』ってさ」

盗賊「……ま、ご尤も、だな」
0787この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:19:57.68ID:WIEcKSdu
テンプレ

マリガボ詐欺事件の場合は、ほぼ全員が返金してもらえるはず。

通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点が有る場合は返金してもらえる。

マリガボがピーマincと知っていたら買わなかった場合。

マリガボがホールとかデフブリから仕入れてる事を知っていたら買わなかった場合。

カエルとか有ったんですよシリーズが成田企画だと知っていたら買わなかった場合。

反逆マルカンの生前が偽生前だった場合。

マリアさんの金庫から出て来た話が嘘だった場合。

マリガボ詐欺事件の場合は通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点満開だから
必ず返金してもらえる。

ギャランティはマリアピーターが作ってサインしてると案内してるが、それがウソでギャランティ偽造だった場合(コピー)
0788この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:33:38.78ID:OWHo1q9w
船長「…… ……」

鍛冶師「起きるまでに相談しちゃおう。船長、もう一回手紙を見せてくれ」

船長「……おう」カサ

盗賊「『港街まで二人』か……側近と勇者、か使用人と勇者、だろうな」

女剣士「……だよな」

鍛冶師「勇者が人間で、子供である以上……あの城に置いてはおけないと判断した、のか」

盗賊「何かがあったか、だ。早急に、と言うのが気に掛かる」

船長「俺に頼むって事は、転移石はもう無いと考えて良いんだろうな」

盗賊「あいつらは『王』を探してた。魔王も王だろうとは言ったけれど」

盗賊「人の子の王、と言う意味なら……港街よりこっちに呼んだ方が良いだろう」

女剣士「城はどうするんだ?」

船長「『二人を運べ』ってあるだろ? ……どっちか残ってるじゃネェか」

女剣士「あ……そ、そっか」

船長「育てて、と考えると着いてくるのは使用人だろうな」

盗賊「ついでに、頼みたい事もあるんだ、船長」

船長「ん?」

盗賊「使用人でも側近でもどっちにでも良いんだが」

盗賊「南の島の洞窟、とやらを調べてくれないか?」

船長「……さっき行ってた魔法に強い鉱石だとか言う話だな」

鍛冶師「使用人の話では、古い地図の小さな南の島に×印だかが着いてたって言ってた」

船長「…… ……」

鍛冶師「現行の地図からは存在を消されたんだろうって話だ」

女剣士「アタシの親父から貰ったって奴だろ……側近の住んでた島も乗ってた、んだよな」

盗賊「そうだ。もしその鉱石とやらがあれば……」

船長「……無理だ、と言えば?」

女剣士「え?」

船長「女海賊と魔法使いが、俺の所に来た時に持ってきた地図に」

船長「……南の小さな島に、×印が着いていた」

女剣士「古い地図、だったのか」
0789この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:34:02.07ID:cEkTwV3V
船長「ああ。地図自体は……もう魔法使いに返しちまったが」

船長「船に乗せてくれたら、何でもする。だから連れて行け、とな」

船長「……持ち逃げもしネェ。だから……と」

鍛冶師「……行ったんだな?」

船長「理由も無く反対はしネェよ」

盗賊「……何があった?」

船長「三つ頭の魔物が居た。魔法使いの魔法も言う程効かなかった」

女剣士「……まじか」

船長「ああ。お前は……暫く船に乗ってたからあいつの実力は知ってるだろう」

船長「……女海賊が怪我したのもあの島だ」

船長「直接の死因だとは言えないが……出来れば、魔法使いの前で」

船長「あの島の話してやりたくは無いな」

盗賊「……」

船長「依頼なら受ける。だが……島へ渡すだけだ」

船長「生半可な腕なら……危険に飛び込むだけだと忠告はしておく」

鍛冶師「そう……か……」

船長「あいつは……魔王の城にももう行かんと言っている」

女剣士「…… ……」

盗賊「解った……悪かったな」

船長「俺は……良いさ」

盗賊「……娘の母親だろう。一度しか会った事無いけど、よく似てる」

船長「…… ……」

鍛冶師「船長、行って帰ってどれぐらいだ」

船長「幸い、潮の大人しい時期だ。行って帰って……1年半て所だな」

盗賊「娘はどうするんだ?」

船長「女剣士と置いて行っても良いが……」

女剣士「アタシはどっちでも良いよ。娘について行く」

女剣士「……娘は、とーちゃんと行くって言うと思うが」

船長「……だろうな」
0790この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:34:20.13ID:VQRSJsSb
鍛冶師「戴冠式……には、出られない、よな」

船長「一週間後だろう……出席したいのは山々だがな」

盗賊「仕方無いさ……次に会う頃には、王子も今の娘ぐらいになってるか」

船長「……良し、女剣士、娘連れて来い」

女剣士「もう行くのか!?」

船長「魔法使いにも話さなきゃならんだろう。あいつは……今度こそ、降りると言うだろう」

女剣士「…… ……」

盗賊「アタシ達は受け入れの準備をしておく」

盗賊「……人として、王として、出来るだけの事はする。惜しまない、と」

盗賊「伝えておいてくれ」

船長「……解った」

女剣士「娘……娘?」ユサユサ

娘(すうすう)

王子(ぐうぐう)

女剣士「……駄目か、よいしょっと」ダッコ

船長「ああ……すまん」

女剣士「抱き変えたら起きるだろ。このままで良いよ」

鍛冶師「慌ただしいな……久しぶりに会えたのに」

船長「依頼は依頼として、きちんと遂行しねぇとな」

女剣士「先行くぜ……準備しとくよ」スタスタ……パタン

盗賊「……なあ、船長」

船長「ん?」

盗賊「アタシ達は人間として……親として、さ」

盗賊「……出来る事、やれば良いんだよな」

船長「当たり前だ……そりゃ、王としての責任ってのはあるだろうが」

船長「……人として、ってのとそう変わりはしねぇだろ」

鍛冶師「今まで、君が街の為に、劣等種の為にとやってきた事と同じだ。そこは」
0791この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:35:08.17ID:hm/qPr5Q
盗賊「…… ……」

船長「どうした?珍しく不安そうな顔をして」

盗賊「こいつが……王子が居るからな」

盗賊「……意地でも守りたいと思うものが増えた。魔王が姫を、と」

盗賊「……美しい世界を、だっけ……思った様に、さ」

鍛冶師「…… ……」

盗賊「思う事は同じ筈、なのに……守りたいと動く、魔王が同時に滅ぼす者であるって」

盗賊「……思うと、やりきれないな」

鍛冶師「今なら、ちょっとは理解できるよ」

盗賊「え?」

鍛冶師「……徹底した不干渉、さ」

盗賊「…… ……ああ」

船長「……行くぜ」スタスタ

盗賊「あ……船長……気をつけてな!」

王子「ふ…… ふやあぁ、おぎゃああぁ」

盗賊「あ、お腹減ったか。よしよし」ダッコ

鍛冶師「……また、船長」

船長「おう……またな」パタン
0792この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:35:18.65ID:hm/qPr5Q
鍛冶師「勇者は……金の瞳をしているんだったね」

盗賊「ん?ああ……よっと、ほら、●●●●だよ、王子」

鍛冶師「……住居、少し離した方が良いだろう」

盗賊「え? ……城の中じゃ駄目か?」

鍛冶師「あんまり人目につかない方が良いだろう」

鍛冶師「……側近か使用人ちゃんか……どっちが来るかわかんないけど」

盗賊「……ああ、そうか」

鍛冶師「まあ、一年の間に考えよう」

盗賊「そうだな。まだもう少し……街だって、落ち着いて無いし」

盗賊「やる事は一杯だ」

鍛冶師「……後、もうちょっと胸元、しまって?」

盗賊「……お父ちゃん●●●だなぁ、王子」

王子「あー」

鍛冶師「え!?」



……

………

…………



魔法使い「俺は降りない、って言っただろ?」

船長「……魔王の城に行くんだぞ?」

魔法使い「城には行かネェよ。船で留守番してら」

魔法使い「話はそれだけか?」
0793この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:35:52.83ID:LPMjIx9Y
船長「……良いのか?」

魔法使い「何度も言うな」スタスタ

女剣士「……」


カチャ、パタン


船長「……」

女剣士「何でそんな……頑なに魔法使いを下ろしたがる、んだ?」

船長「そう言う訳じゃネェよ……娘は?」

女剣士「甲板で海賊と走り回ってるよ」

船長「……良かれ、と思ってんのは俺だけなのかね」

女剣士「半分、意地になってるのもあると思うけど」

船長「俺が?」

女剣士「向こうが……かな」

船長「…… ……」

女剣士「アタシも……船に居るよ。娘連れて行くのも大変だしな」

船長「お前も?」

女剣士「どうせ戻ってくるだろ、船長は」

船長「もし……一緒に来るのが使用人だったらどうするんだ」

女剣士「?」

船長「側近に会えないぞ」

女剣士「ああ……うん。だけど」

女剣士「……会っちゃったら、又……一緒に居たくなるだろ」

船長「……冷めたのか?いや……違うか」

女剣士「何だろうな。でも……流石に、な」

女剣士「もう随分……会ってない、しな」

船長「……そう、か」

女剣士「側近とか使用人にとっては、実感無いのかもしれないけどさ」

女剣士「一年、二年とか、って」

女剣士「けど……アタシ達は、アタシは、違う」

女剣士「人間と魔族の差、って奴、やっと、ちょっと解った気がするんだ」
0794この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:36:29.81ID:5/TB3CE1
船長「……お前が良いなら、良いさ」

女剣士「随分……色々あったな」

船長「…… ……」

女剣士「なあ、船長」

船長「ん?」

女剣士「ちょっと相談があるんだけどな」

船長「ああ……だが先に出港したい。後でも良いか?」

女剣士「何時でも良いよ。んじゃアタシも、娘を拾いに行ってくる」

船長「ああ……舵は俺が取る。寝でもしたらこっちへ来てくれ」

女剣士「ああ」スタスタ

カチャ、パタン

女剣士「えっと、娘、は……と」スタスタ

娘「きゃー!」

海賊「む、娘ちゃん、もうそろそろ……」ハァハァ

女剣士「……まだやってんのか」

女剣士「おーい、娘!そろそろバターになっちまうよ、お前」

娘「だいじょぶ!」

女剣士「海賊もしんどいってさ。それに船が出るよ」

女剣士「船室に戻らないと、落っこちちゃうぞ」

海賊「た、助かりました……」

女剣士「お疲れ……魔法使い知らねぇ?」

海賊「さあ……こっちには来てねぇっすよ」

女剣士「そっか、サンキュ……ほら、娘おいで」

娘「んー……」ゴシゴシ

女剣士「疲れて眠くなったか?」

娘「だっこー……」

女剣士「はいはい」ダキ

娘「……」ウトウト……ポテ

海賊「子供って凄いっすねぇ……」

女剣士「ん?」
0795この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:37:19.15ID:295F4FNA
海賊「チャージした体力、全部使い切って一気に燃料切れて寝るっていう……」

女剣士「ははは。止まらないからなぁ」

海賊「寝かしてきましょうか?」

女剣士「……がっしり捕まえられてるから良いよ。アンタも休んできなよ」

海賊「すんません。じゃあ……遠慮無く」

女剣士「さて、アタシらも早く中に入るか、娘」

娘(スゥスゥ)


シュッパツダー!

アイアイサー!


女剣士「…… ……」

女剣士「側近……」

女剣士「…… ……」スタスタ


……

………

…………


側近「はっくしょん!」

使用人「風邪ですか」

側近「……魔族って風邪引くのかね」

使用人「どうでしょうねぇ」

側近「……もうすぐ、一年だな」

使用人「…… ……」

側近「そんな顔すんなよ」

使用人「見えてないのに何言ってんですか」

側近「何となく解るよ……船長、間に合えば良いが」

使用人「待てない、んですか。来るまで……」

側近「何回目だよその話……」

使用人「……」
0796この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:43:01.49ID:SR6nehlP
側近「もうすぐ三歳だ、ぎりぎりだろ」

使用人「……です、けど」

側近「この間も話しただろう。三歳の誕生日まで、だ」

側近「……連れて行くぐらい、大丈夫だ。願えば叶う」

側近「魔王様の目の力……俺の中の残照とやらを使えば」

使用人「……」

側近「港街に着けば、どうにでもなる。誰か、居る」

側近「……勇者様が無事に、人として……成長さえ、してくれれば」

使用人「……もう、誰にも死んで欲しくないだけです」

側近「それも何度も話しただろう?」

側近「俺は、もうそろそろ寿命が来てもおかしく無いんだって」

使用人「……」

側近「お前には授けるだけの『知』を授けただろう」

使用人「……『知を受け継ぐ者』に私を無理矢理据える気ですか、やはり」

側近「無理矢理じゃネェだろ? ……魔王様は、お前を見据えて言ったんだろ」

側近「それに、盗賊と鍛冶師に『王』を押しつけようとしたお前が言うな」ハハ
0797この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:43:11.85ID:kbeBCn/g
使用人「……それを言われるとぐうの音も出ません」

側近「『側近』の名を受け継ぐのを拒否しただけで」

側近「その役目はもう、お前に譲ったんだよ、使用人ちゃん」

側近「相応しいのさ。充分に」

使用人「……」

側近「一人じゃ寂しいか?」

使用人「そういう問題じゃありません!」

側近「……城を。魔王様を……守ってくれ」

側近「俺は……勇者様を守る。だから……」



パタパタパタ……バタン!



使い魔「申し訳ありません、側近様、使用人様!」

側近「どうした?」

使い魔「……船が、見えます!」

使用人「!!」

側近「馬車を用意しろ。すぐにだ」ガタン

側近「使用人ちゃん、勇者様はまだ眠ってるな?」

使用人「は、はい」

側近「良し、じゃあ……起こさない様に連れてきてくれ」

使用人「え、でも、船長さんが此処に着く迄は……」

側近「こっちから出向く方が早い」

使用人「!」
0798この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:43:30.58ID:v1tfwZ5v
側近「……剣も忘れるなよ」

使用人「私も、行きます」

側近「へ?」

使用人「貴方は目が見えないんですよ、側近様」

使用人「……剣も勇者様も持たせては、不安です」

側近「寂しいなら寂しいって……」

使用人「違いますってば!」

側近「……悪い。じゃあ、頼む」

側近「馬車も、城に戻さないと行けないしな」

使用人「……そうですよ」

使い魔「ば、馬車でしたら僕が……」

側近「しぃ……」

使い魔「…… ……」

側近「そこは、察するところ」

使い魔「も、申し訳ありません」

使用人「違います! ……とにかく、勇者様をお連れします」

使用人「側近様、手を」

側近「ん?」ス……

使用人「……勇者様の、剣です」

側近「……ん」ギュ

使用人「使い魔、側近様を連れて先に城門へ」

使用人「……すぐに、行きます」スタスタ



パタン



側近「……頼んだぞ、使い魔」

使い魔「はい?」

側近「使用人ちゃん、多分泣いちゃうから」

使い魔「使用人様、お強いでは無いですか。まさか……」
0799この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:44:12.66ID:QQdkLHrM
側近「解ってないねぇ。女の子だよ?」

側近「……ついこの間まで、ただの人間の女の子だったんだよ」

使い魔「……泣き顔なんか見たら、ぶっとばされませんか」

側近「まあ、そこは責任持たないけど」

使い魔「そんな……行きましょう」スタスタ

側近「……おう、掴まらせてくれな」スタスタ

側近「使用人ちゃんには、結局全部押しつけちゃったからなぁ」

側近「…… ……」

使い魔「……側近様?」

側近「……何でもネェよ」



パタパタパタ
0800この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:44:21.46ID:NORGkspk
側近「お、来たか」

使い魔「はい。勇者様、起きてますよ」

側近「え!?」

使い魔「一緒に走ってきました」

使用人「すみません、起きちゃったみたいで」

勇者「そっきん、ぼく、ふねにのるの!?」

側近「お、おお……まあな」

勇者「どこいくの!?どこいくの!?」

側近「嬉しそうだなぁ……そうだな。ここから、ちょっとばかし遠い国だ」

側近「俺も一緒に行くからな」

勇者「うん!」

使用人「……ほら、勇者様。マントを……海の上は、冷えますから」

側近「良し、馬車に乗り込め。入れ違いになると面倒だ」

勇者「ぼく、しようにんのひざのうえ!」

使用人「はいはい。ちゃんと掴まってて下さいね」

使い魔「……では、出します!」



カラカラ……



側近「……」

使用人「……」

勇者「ねえ、そっきん、うみって、あのうみ!?」

勇者「まえにはなしてくれた、あの、うみ!?」
0801この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:45:06.70ID:8ODslVyL
側近「あんまり喋ると舌噛むぞ……ああ、そうだよ」

側近「青くて、広いでっかい海だ。船に乗ってな」

側近「……遠い街まで、行くのさ」

勇者「たのしみ!」

使用人「……勇者様、ちゃんと側近様の言う事を聞いて下さいね」

使用人「あんまり、我が儘言っちゃ駄目ですよ」

勇者「……しようにんは、いかないの?」

使用人「私には城を守る義務があります。ですが……」

勇者「……い、かないの……?」

使用人「そんな悲しそうな顔をしないで下さい、勇者様」

使用人「私は、ずっとあの城に居ますから。何時でも、会おうと思えば、会えますから」

勇者「……でも」

使用人「じゃあ、お約束、しましょう」

勇者「やくそく?」

使用人「はい。お約束……必ず、戻って来て下さい。会いに来て下さい」

使用人「……お友達、連れて。ね?」

勇者「……うん!」
0802この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:45:16.26ID:64CCyPs6
使用人「美味しいお茶と、美味しいフランボワーズケーキ、ご用意して」

使用人「……待ってます、から」

勇者「うん!うん!やくそく!ね!」

使用人「…… ……はい」

側近「そろそろ、か?」

使用人「はい……誰か歩いてきますね……船長です」

側近「良し、止めろ!」



カラカラ……カラ……



使用人「勇者様、掴まって……よい、しょ」

勇者「あ、うん……っと」

側近「…… ……」



タタタ



船長「使用人……! ……その、ガキが勇者、か……」

勇者「……」ジロジロ

使用人「勇者様、船長さん、です。こんにちは、は?」
0803この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:45:37.28ID:5tttGTH3
勇者「こん、にちは……」

船長「おう。こんにちは……娘と同じぐらい、か?」

使用人「そうですね……殆ど、同じに産まれた、と」

使用人「……言って、良いのだと思います」

側近「ある程度の話は聞いてるみたいだな」

船長「新しい王様から、な」

使用人「! ……では……!」

船長「お前さんの願いは叶った、てこった……使用人」

使用人「……魔王様の願い、ですね」

側近「『欠片』が一つ、か」

側近「……話は船でしよう。ほら、勇者様……行くぞ」

勇者「う、うん……!」

勇者「しようにん!またあとでね!」スタスタ

側近「あ、待って、手、手!」スタスタ

船長「……側近が一緒に行くのか」

使用人「女剣士さんは喜びますね……会える距離が近くなって」

使用人「港街に居るのですか?」

船長「否、結局……あれからずっと船に居てくれてるんだ」

船長「……ガキだガキだと思ってたが……頭があがらねぇよ」

使用人「そうですか……」

船長「側近……暫く見ない内に、老けたな」

使用人「…… ……彼の、魔族としての寿命は……もう」

船長「……それで早急に、か」

船長「やれやれ、ぶっとばしてきた甲斐があった……と」

船長「思って良いんだろうな」

使用人「間に合って良かったです。三歳になれば」

使用人「勇者様を連れて港街へ飛ぶと……仰ってました、から」

船長「転移石、まだあったのか」
0804この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:46:18.71ID:4nCbSTuL
使用人「いいえ……身の内にあるだろう、魔王様の目の残照で、と」

船長「……やばくないか、そんな事すりゃ」

使用人「ええ。ですから……助かりました」

船長「……アンタはどうするんだ」

使用人「私には、魔王様を守る義務があります。ですから……」

船長「……そんで赤い目してるのか」

使用人「ちょっと擦っちゃっただけです」

船長「……先に乗せちまって良かったのか」

使用人「約束しましたから」

船長「『またあとで』?」

使用人「…… ……はい」

船長「何かあれば、すぐに手紙寄越せよ」

船長「……一方通行だが、今までもちゃんと届いてる」

使用人「……はい。ありがとうございます」

海賊「船長、これ、荷物どうします!?」

船長「おう。馬車に積み込んでやれ」

使用人「え?」
0805この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:46:28.45ID:amN67kYa
船長「頼まれてたモンだ。勇者のだろうってのは、船に残してある」

船長「娘がやたらめったら花の苗を買いやがったからな」

使用人「……ありがとうございます」

船長「おう。代価は……側近から貰えば良いな」

使用人「あ、いえ……こちらでお支払いします」ジャラ

船長「え……おいおいおいおい。随分多いぞ」

使用人「二人分の渡航代も入ってます」

船長「それでも、だよ」

使用人「残りは側近様にお渡し下さい」

使用人「……詳しくは、側近様がお話しすると思いますが」

使用人「側近様……視力を失われています」

船長「!?」

使用人「……港街に着いたら、色々不便もおかけすると思いますが」

船長「……いや、行き先は始まりの街だ」

使用人「え?」

船長「こっちからも様子を知らせられると良いんだがな」
0806この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:47:34.94ID:JlTpwKBI
使用人「いえ、それは……」

船長「今は王政のあの街の方が、過ごしやすいだろう。それに」

船長「……あそこには、エルフの加護がある」

使用人「あ……!」

船長「『勇者』が育つには打って付けだろう」

使用人「…… ……ありがとうございます」

船長「俺に言うこっちゃネェだろ」

船長「……積み込みも終わったな。行くぜ」

使用人「勇者様を……宜しくお願い致します」

船長「心配すんな。世界を救う勇者様だ……無事に、港街に送り届けるさ」

使用人「……はい」

船長「じゃあな……元気で」

使用人「はい。また……です、船長さん」



スタスタ



使用人「…… ……」



フネヲダスゾー!

ジュンビハイイカ、ヤロウドモー!

アイアイサー!
0807この頃流行の名無しの子垢版2021/02/28(日) 23:47:42.50ID:JlTpwKBI
使用人「…… ……」

勇者「しようにーん!」

使用人「! 勇者様、そんなに甲板から身を乗り出したら、危ない……!」

勇者「ぼく、ぜったいかえってくるからねー!」

勇者「なかまと、いっしょにもどってくるから!」

勇者「だから、またあとでー!」

使用人「勇者様……」

勇者「やくそくだからー!だから……」

勇者「いってきまーす!」

使用人「……いって、らっしゃい。勇者様……」ポロポロ

勇者「ばいばーい!!」



ボオオォ……



使用人「お気をつけて、勇者様……」

使用人「…… ……」グイ。ゴシゴシ

使い魔「あの……使用人様……」

使用人「……城に戻りましょう……あ」

使用人「随分……一杯ありますね、花の苗」

使い魔「……」

使用人「戻ったら、植えてやらないと。手伝って下さいね?」

使い魔「は、はい!」
0808この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:18:17.09ID:+sGs61j5
……

………

…………



女剣士「側近!」

側近「よう……その声、女剣士か」

女剣士「え?」

側近「勇者様は?」

女剣士「娘と遊んでるよ、操舵室で走り回って船長がキレてたけど」

側近「はは……そうか。そりゃ良かった」

女剣士「……みんな吃驚してたよ」

側近「ん?」

女剣士「金の髪に、金の瞳……あんな神々しい子供、見た事無い、て」

側近「……目立つ、んだろうな」

女剣士「側近……目が、見えないって本当だったんだな」

側近「船長から聞いたのか」

女剣士「ああ……後、航路が落ち着いたら皆で話そうって言ってたから」

女剣士「迎えに来たんだ……食堂まで行こう」

側近「ああ……しかし」

女剣士「子供達は大丈夫だ。海賊達が遊んでてくれる」

側近「そうか……助かる」

側近「……始まりの街に行くんだってな?」

女剣士「ああ。盗賊と鍛冶師が居るからな」

側近「お前達もある程度……知識があると思って良い、んだよな?」
0809この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:18:29.20ID:3NlbQPoz
女剣士「うん。使用人があの二人に話した位は、かな」

側近「重畳……」

女剣士「あ、そこ柱……!」

側近「え? ……ッ」ゴン!

側近「……いってぇ」

女剣士「ご、ごめん……」

側近「あー大丈夫大丈夫……悪いけど、手、繋いで貰って良い?」

女剣士「え!?あ、うん!喜んで!」ギュ

側近「なんだそりゃ」ハハ
0810この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:19:19.65ID:d5SDQ0b2
女剣士「…… ……」ギュ

側近「老けただろ、俺」

女剣士「え!?」

側近「使用人ちゃんに言われたんだよ。急激に老けた、てな」

側近「何でも、勇者の剣に光が増えた、とかな」

女剣士「光……」

側近「まあ、ゆっくり話すよ ……ん?」

女剣士「魔法使い!」

魔法使い「…… ……」

側近「足音がすると思ったら。久しぶりだな」

魔法使い「……お前、目見えてない、ってマジ?」

側近「おう。マジ。だから……ほれ」ブンブン

側近「なれて無いから、手繋いで貰わないとな」

魔法使い「…… ……」

側近「これから話し合い、するけど。お前は来ないの?」

魔法使い「俺には関係ネェよ」

女剣士「魔法使い……」

魔法使い「……なあ」

側近「ん?」

魔法使い「何で、そこまで他人の為に必死になれるんだ?」

魔法使い「……何で、怒らないんだよ」

側近「何で、て言われてもなぁ……」
0811この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:19:29.25ID:YilSbadf
魔法使い「そりゃ、勇者とやらに罪はネェ……んだろうけどさ」

魔法使い「視力奪われて、さ…… ……ッ」

女剣士「…… ……」

魔法使い「厭にならネェのか!?」

魔法使い「こんな、こんな目に……ッ て、むかつかネェのかよ!!」

側近「魔王様だからなぁ。仕方無いだろ」

魔法使い「投げ出したくならネェの!?なるだろ!?」

側近「……じゃあ、なんでお前、まだ船に乗ってんの?」

魔法使い「……ッ お前に、関係ねぇだろ!」タタタ……

女剣士「あ、おい……!」
0812この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:19:55.14ID:gS1Rodx1
側近「……気持ちは解る、けどね」フゥ

女剣士「側近?」

側近「んや、何でもねぇよ……船長んとこ、急ごうぜ」


……

………

…………


船長「じゃあ……本当に見えてないのか」

側近「ああ。話したとおり、だ」

側近「……あの後、勇者様が産まれ……うーん、まあ、産まれた時には」

側近「もう、な……」

女剣士「その、老けだしたってのは……」

側近「使用人ちゃんも気がついたのは……話したとおり」

側近「急激だったから、って言ってたが」

船長「『王』と言う欠片がはまったから、か」

側近「……こじつけな様な気もするけどな」

女剣士「明確な時期がわからないからな……つっても、なあ」

側近「パズルが目の前にある訳じゃないからな」

船長「もう一回聞いても良いか?」

側近「おう。『揃った』」

側近「『生と死』『特異点』『王』『拾う者』」

側近「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』」

側近「『知を受け継ぐ者』『光と闇』『勇者と魔王』」

女剣士「揃った、てのが……『生と死』だって言ってたな」

側近「多分、だ。女海賊の死、娘の生」

側近「そして……勇者様の生。魔王様の死。『勇者と魔王』も消えるな」

船長「『光と闇』にも当てはまる」

船長「で……『王』か」

側近「『知を受け継ぐ者』 ……は、使用人ちゃんだ」

女剣士「『表裏一体』てのもじゃないか?」
0813この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:20:13.39ID:vq6NQ4QE
女剣士「……て言うかその後のがさっぱりわかんねぇな」

側近「『欠片』だってわかんねぇんだよ。飛び出していった『アレ』の事なのか」

側近「この言葉の全てを『欠片』と取って良いのか……前にも」

側近「使用人ちゃんと同じような話はしたがな」

船長「……考えても仕方無い、な。それで答えが出る様なモンじゃなさそうだ」

船長「剣に光が……と言うのも同じ、か」

側近「それについては一つ聞きたい事があるんだが」

船長「南の島の魔法の鉱石の話、だな」

側近「何だ、知って……ああ、そうか」

側近「……使用人ちゃんだな」

船長「ああ。盗賊達から聞いた」

側近「鍛冶師はキラキラしてたんだろうな」ハハ

女剣士「……でも、女海賊が怪我した、んだろう。そこで」

船長「……そうだ。あいつらが持って来た地図が……あ」

船長「見えなかったな……すまん」

側近「否、気にするな……場所が同じだったとすれば」

側近「もう一度、と言いたいが?」
0814この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:20:32.98ID:exn7HcYn
船長「俺たちは逃げ帰った、のさ」

船長「三つ頭の化け物が居た。剣も……魔法も、大して効かなかった」

側近「三つ頭……」

船長「お前さんだと解らんがな、俺たち三人じゃ歯も立たんかったよ」

側近「成る程な…… 解った。それも保留にしておこう」

女剣士「良いのか?」

側近「……この剣は勇者様のものだ。必要とあれば、勇者様が行けば良い」

女剣士「え!?」

側近「その……魔物も倒せない程度じゃ、魔王様を倒す事なんて」

側近「到底できねぇよ」

女剣士「そ、そりゃそうだろうけど……」

側近「してやれる事はしてやりたいが、な」

側近「あいつが……そうだなぁ。勇者として旅立つ頃まで」

側近「俺が無事でいれるかどうかなんかわかんねぇしな」

女剣士「……!」

船長「おい。女剣士」

女剣士「え?」

船長「……さっきの話、側近にしてみたらどうだ」

側近「ん?」

女剣士「アタシ……側近と一緒に、始まりの街で船を下りようと思ってるんだ」

側近「お前……」

女剣士「あ!勘違いするなよ! ……そりゃ、一緒に、てのが」

女剣士「無いとは言わない。言わないけど」

女剣士「……船長にも、一緒に鍛冶師と盗賊を説得して貰うつもりなんだ」

側近「……?」

船長「ちなみに、俺も女剣士の話には賛成だ」

女剣士「始まりの街に、城が出来ただろう。て、事は」

女剣士「それを守る……騎士みたいな奴ら、必要じゃないかなって」

側近「!」

女剣士「盗賊達の事だから、アタシなんかが言い出す前に考えてるかもしれないけど」
0815この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:22:08.22ID:Fs+dLElx
女剣士「もし、まだ考えられてないのなら、進言してみても良いかなって」

女剣士「で、もし……もう、案が出ていれば、アタシは志願するつもりなんだ」

側近「女剣士……」

女剣士「アタシはもう、北の街には帰れない」

女剣士「だけど……そりゃ、アンタほど強くは無いけれど」

女剣士「それでも、街の人や王様達を守る一段に入る位は可能だろうと思うんだ」

船長「女剣士の腕はお前も知ってるんだろ?」

船長「海の魔物退治に随分協力して貰ったからな。俺は充分だろうと思うよ」

側近「……成る程な。そっか……そうだな。自分で決めたんだな?」

女剣士「うん」

側近「……うん。良いと思うよ。できれば、勇者に剣を教えてやって欲しい」

側近「俺はもう目も見えない……し、ま、そもそもそっちは本職じゃないしな」

側近「しかし娘はどうするんだ?随分、お前になついてるんだろ?」

女剣士「アタシはお母さんじゃないし、一緒に降りるのはアタシは良いけど」

女剣士「娘本人が嫌がると思うよ」

船長「俺はどっちでも良いさ。娘がしたい方にすれば良い」

女剣士「それに……さっきも言ったけど」

女剣士「お母さん、海の女、て奴だろ?」

船長「…… ……」

側近「…… ……」

女剣士「てか、それはアタシが娘に聞く事じゃない」

女剣士「お父さんの役目。だろ?」

船長「……ああ」

側近「随分……」

女剣士「ん?」

側近「いや……随分。うん、そうだな。大人になったなぁ……」

女剣士「惚れ直した?」

側近「……ああ」

女剣士「え、え!?」

側近「聞いといて照れるなよ」
0816この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:22:38.54ID:VI+D9sgM
女剣士「え、あ、いや、うん……あの」


バタバタバタ……

コラ、マテオマエラ!


バターン!


魔法使い「待てってば!」

勇者「やーだよ!」

娘「まほうつかい、おそーい!」

側近「おっと……」

女剣士「こらこらこら、甲板以外で走り回っちゃ駄目って言ったろ!」

娘「だって、うごいてるあいだはだめっていうもーん」

女剣士「だからって部屋の中でおっかけっこするんじゃないの!」

魔法使い「こ、こいつら、すばしっこい……」ゼェゼェ

女剣士「あー、もう。ほら、あっちでおやつ貰おう、ね?」

勇者「おやつ!」

娘「おやつ!おやつ!」

女剣士「手洗ってからね!ちゃんと洗える人!」

娘「はーい!」

勇者「あ、は、はーい!」

女剣士「良し!じゃあ、二人とも着いておいで」

女剣士「走っちゃ駄目だよ!」スタスタ


パタン

キャッキャッ


側近「……」

船長「……」

魔法使い「……」

側近「生きてるか?」

魔法使い「水、くれ……」
0817この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:22:57.28ID:scTIhl/q
船長「子供の順応力ってのはすげぇな……ほらよ、水」

魔法使い「おう……サンキュ」

側近「…… ……良いのか。女剣士下ろして」

船長「本人が望んだ事だ。それに、あいつはそもそも海賊じゃネェよ」

魔法使い「始まりの街の騎士に、て話か……」

船長「聞いたのか」

魔法使い「ちらっとな……娘は、どうするんだ」

船長「…… ……あれの母親も海賊だ。それに、俺の娘だ」

魔法使い「!」

船長「……海賊は、海に生きるモンさ」

魔法使い「……フン。好きにしたら良いさ」

船長「女剣士が居なくなったら、皆で娘の面倒を見ないといけないな」

魔法使い「そりゃそうだろ。まだまだガキんちょ何だから」

船長「……頼むぞ、魔法使い」
0818この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:23:36.49ID:i4rnpHSz
魔法使い「何で俺が!」

船長「お前も海賊だろう。この船の。降りないと決めたのはお前自身だろ」

魔法使い「…… ……」

側近「……」

魔法使い「……側近」

側近「ん?」

魔法使い「さっき、悪かったな」スタスタ

側近「いや?」

船長「どこ行くんだ」

魔法使い「見張りだよ。これからは女剣士に頼れないだろ」

魔法使い「精々こき使われてやるよ、船長」



パタン



側近「……お前ら、もしかしてアレからずっと喧嘩してたのか?」
0819この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:40:46.26ID:Q/f9BFGi
船長「喧嘩って訳じゃネェだろ」

側近「……あいつ、女海賊に惚れてたのか?」

船長「さあな。だが……蟠りがあって当然だろう」

側近「……随分嬉しそうってか……すっきりした声してたジャネェか」

船長「そうか?」

側近「目が見えなくなってから、そういうの結構敏感になってね」

船長「…… ……」

側近「お前は……ふっきれたのか」

船長「……二人とも、死んじまったからな」

船長「本来なら……母親に似てきた、と思うべき何だろうな」

側近「俺には、見えないから解らないけどな」

船長「…… ……」

側近「でも、お前の娘だ」

船長「……ああ」

側近「それは、愛だろ?」

船長「…… ……ああ」

船長「何だったんだ?」

側近「ん?」

船長「魔法使いが悪かったな、て……奴だ」

側近「ああ……まあ、他人の為にそこまでして、振り回されて」

側近「それで良いのか、てさ」

船長「……鍛冶師と盗賊も言ってたな」

船長「運命に踊らされているみたいだ、てな」

側近「……『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」

船長「?」

側近「『我が名は、勇者』『光に導かれし運命の子』」

側近「『闇に抱かれし運命の子』『汝の名は、魔王』」

側近「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」

側近「『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者』」
0820この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:41:16.09ID:c9nthAZL
船長「魔王の言葉、か」

側近「ああ……全貌を紐解く事は、俺らには多分……出来んよ」

側近「確かに、踊らされてるのかもしれないがな」

側近「……俺の意思は、魔王様の意思だ」

船長「人と魔の違い……か?」

側近「個々の、だな。何もどれも一括りには出来ん」

船長「人に取っても、魔族に取っても……魔王が、意思もなく」

船長「この世界を滅ぼそうとするのは、阻止せねばならん」

側近「そうだな……」

船長「勇者に……『魔王』を倒す『勇者』に未来を託すために」

側近「……未来を守る為に」

船長「出来る事を無条件でしてやりたい、と思うのが『親』だな」

側近「俺は親じゃ無いけどねぇ……」

船長「勇者にとりゃ、親みたいなモンだろ」

側近「何。俺お父さん?使用人ちゃんはお母さんか……」

側近「……聞かれたらぶっ飛ばされそう」

船長「ははは!」

側近「何大笑いしてんだよ……」

船長「お前達はそういう関係じゃ無かったのか?」

側近「違うなぁ……同士、かな」

船長「……使用人も、魔王に惹かれてた?」

側近「俺も、みたいな言い方しないでくれる」

側近「あれも愛、だろうけどな。でも所謂男女の愛、じゃネェさ」

船長「姫も、 婦も……まあ、勇者様と考えれば、な」

船長「仕方ねぇんだろうけど、よ……」

側近「姫様のもちょっと違うと思うけどな」

側近「でも愛の形も千差万別。コレ、て決まってる訳じゃネェからな」

船長「……わかんないねぇ」

側近「俺もだよ」
0821この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:41:35.97ID:YPWIu3Gz
船長「……お前と、愛について語る日が来るとはな」

側近「俺も吃驚だよ」

船長「さて……始まりの街に着くまで、まだ暫く掛かる」

船長「船の中は自由に使え……この季節だと、一年は掛からずに着くだろう」

側近「そうか……」

船長「娘と遊んでりゃ、あっと言う間だと思うけどな」



コンコン



船長「はい?」

女剣士「船長、側近は……ああ、居た居た」

側近「女剣士か、どうした?」

女剣士「ずっと船の中も退屈だろう。娘との遊びに勇者も入れてやって良いかと」

女剣士「思ってさ」

側近「遊び?」

船長「丁度良いじゃネェか……まあ、遊びって言う名の剣の稽古、だな」

側近「お。そりゃ願っても無いね」

女剣士「娘用の小さい木刀もあるしな。側近が良いなら、一緒にやるよ」

側近「おう。是非是非頼むぜ。そろそろ体力もつけないとな」

女剣士「良し、じゃあ早速だ!邪魔したな!」



パタン



船長「お前も、遠慮無く何でもいえよ?」

船長「その目じゃ不便じゃネェことが寧ろ無いだろ」

側近「んじゃ、海賊一人貸してくれねぇ?」

船長「おう、適当にその辺のとっ捕まえていきゃ良い」

側近「この船には確か書庫があっただろう」

船長「……? あ、ああ……だが」

側近「借りて良いんだろ?読んで貰うさ」
0822この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:41:57.03ID:6KiFTR6h
船長「そ、そりゃ構わネェが……」

船長「……とりあえず、じゃあ書庫まで連れて行ってやるよ」

側近「おう、頼むぜ」

船長(側近に読み聞かせ……想像したら噴き出しそうだな)



……

………

…………



盗賊「あ……おい、鍛冶師知らないか?」

男「鍛冶師様は王子様を連れて、庭で遊んでましたよ」

盗賊「そうか……じゃあ良い。ありがとう」

男「それより盗賊様。魔導の街の使者が来てます」

盗賊「又かよ!用件は?」

男「直通の船がどうとか……」

盗賊「却下!船は全て要の港のある港街を通す以外は認めない」

盗賊「そう伝えて追い返せ」

男「は! ……それから、騎士団の件ですが」

盗賊「あー…何?」

男「街の人達からの嘆願書です」

盗賊「嘆願書!?」

男「街への出入りが激しくなって、人も物も情報も入ってきますから」

男「……魔王復活の噂がある以上、王を守る者は必要だと」

男「騎士団設立を願う声と、志願書、ですね」ドサ

盗賊「うわ……ッ こ、こんなに!?」

男「全て目を通して下さいね。では」スタスタ

盗賊「……こ、こういうのは鍛冶師に……あ……ッ」

盗賊「アタシがやらなきゃ行けない、んだ、よな……ッ 解ってる、けど!」
0823この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:42:41.60ID:ridqdOZv
盗賊「……ハァ」パラパラ


バタン!


盗賊「何……ッ」

王子「おかあさま!」パタパタ

盗賊「あ、ああ王子か……鍛冶師は?」

王子「ふねー!」

盗賊「船?」

王子「うん!こっち、こっち!」グイグイ

盗賊「え、ちょっとちょっと、アタシが此処を離れる訳に……」

王子「ほら!みて!」

盗賊「バルコニーか……ん? ……!あの船、は……!」


ザワザワザワ……

ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!


盗賊「な、何の騒ぎ……」


バタバタバタ……バタン!


男「失礼します、盗賊様!」

盗賊「何だ何だ!?」

男「……ッ ゆ、勇者様が現れました!」

盗賊「! ……落ち着け、勇者と名乗る者が現れた、のか?」

男「あ……ッ いえ、その……」

男「……船長様の船から、金の髪に金の瞳を持つ男の子を連れた者が……」

盗賊「!」

男「……街の者は、口々に……光の子だの、勇者様だの……と」

盗賊「……鍛冶師が港に向かったはずだが」

男「は……ッ」

盗賊「共に戻れば、通せ。後の者は皆下がれ!」

男「は!」
0824この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:43:10.30ID:HLxD9Cty
盗賊「…… ……」

王子「おかあさま?」

盗賊「ん?ああ……大丈夫。お友達がね……来るんだ」

王子「おともだち?」

盗賊「そう……お友達。ほら、こっちおいで」

王子「あそぶ?」

盗賊「ああ、そうだね……一緒に遊べるな。お兄ちゃんだよ、王子の」

王子「おにーちゃん!」


バタン!


鍛冶師「王子!」

王子「おとうさま!おにいちゃんは!?」

側近「よう、久しぶりだな」

勇者「そっきん、あかちゃんがいるよ!」

側近「……赤ちゃん、か?」

盗賊「赤ちゃんっていうにはもう大きいな」

女剣士「大きくなったなぁ……」

盗賊「女剣士!」


ボーォオオウ……


盗賊「……汽笛?」

女剣士「船長と魔法使いは、もう行ったよ」

盗賊「え!?」

側近「王城に海賊なんて出入りするもんじゃネェ、んだってよ」

盗賊「娘は?」

女剣士「……行っちゃヤダ、て泣いてたけどな……」

側近「勇者とも随分仲良くなってたからな……」

盗賊「……そう、か……ん?あれ、て事は……お前は?女剣士……」
0825この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:43:39.70ID:clsK2UsK
女剣士「えっと……」キョロ

盗賊「人払いはした。心配すんな」

鍛冶師「……良し、上の部屋で遊んでおいで、王子」

側近「勇者、一緒に行きな……面倒見てやれよ」

勇者「うん!えっと……おうじ?いこ!」

王子「うん!」


タタタ……


女剣士「船長にも一緒に説得して貰うつもりだったんだけどな」

女剣士「……盗賊、この城の騎士団を作るつもりは、無いか?」

盗賊「!」

鍛冶師「話ってそれか……」

盗賊「聞いてたのか?」

鍛冶師「いや、街の人に囲まれたからね。勇者の見かけがあれじゃ……」

側近「……魔王様の復活がどうとか、聞こえたな」

盗賊「ああ……この街も出入りが激しくなったからな」

盗賊「噂も……良くも悪くも色々入ってくるんだ」

鍛冶師「魔王が復活して、世界を滅ぼそうとしている」

鍛冶師「……人が増えたからかも知れないが、魔物の目撃情報も増えてるんだ」

鍛冶師「それも、噂に拍車をかけてる」

側近「成る程ね……」

盗賊「これを見てくれ」バサッ

女剣士「うわ、何この紙の束……」

盗賊「……騎士団設立の、嘆願書と志願書」ハァ

女剣士「……わーぉ」ペラペラ

側近「俺たちが言い出す迄も無かった、か」

盗賊「しかしな……今、そんな資金が出てこないんだ」

盗賊「給料は愚か、兵舎なんかも作ってやれないんだ」
0826この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:46:25.15ID:K7ep4hyZ
鍛冶師「……でも、逆に今しか無いんじゃないかな」

盗賊「え?」

鍛冶師「勇者を見た皆の様子をちらっとだけど見たけど……」

鍛冶師「……言い方は悪いが、利用させて貰ったら良いんじゃないかな」

側近「成る程な」

盗賊「え?え?」

側近「勇者は……まあ、見るからに神々しい、んだろう」

側近「その不穏な噂を利用して、最初は無給、もしくはただギリギリ、出せる分だけ、で」

側近「それでも良いならって交渉すれば良い」

盗賊「……お前、簡単に言うなぁ。見ろよその束……志願者だけでも凄い数なんだぞ?」

側近「そうなのか?」

女剣士「まあ……相当の数だな」

盗賊「? ……側近、お前」

側近「ああ、悪い。俺……目見えてないんだわ」

盗賊「え!?」

鍛冶師「え!?」

側近「……お前ら仲良いな」

女剣士「ふぅん……志願者の方はどうにかなるんじゃないか?」

盗賊「ん?」

女剣士「船で船長にも聞いたけど、この島の魔物は随分弱いんだろう?」
0827この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:46:48.44ID:GR4q34cZ
女剣士「その魔物に勝てる奴は一杯居るだろうが……」

女剣士「アタシは、北の街の出身だ。自分は強いって驕る気は無いけど」

女剣士「ここらで魔物を倒して満足してる奴よりかは、腕が立つと思う」

盗賊「ま、まあ……そりゃそうだろうな」

側近「それは俺も保証するよ。随分前だが一緒に戦闘した経験もあるしな」

側近「船長も言ってた。海の魔物を退治するにも、随分助けて貰ったってな」

鍛冶師「選出を任せても良い、て事……で良いのかな」

女剣士「ああ。アタシで良いなら、だが」

盗賊「そりゃ助かる……が、兵舎はどうすんだよそんな土地も、資金も……」

側近「強制にしなきゃ良い。城に開いている場所があれば」

側近「狭くても寝具だけぶちこみゃ良いんじゃないか?」

側近「基本この島の住人に限れば、その問題も解決するだろう」

盗賊「……ふむ」
0828この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:54:57.62ID:GR4q34cZ
鍛冶師「そうだな。仕事はこの街と城を守る事、だからな」

鍛冶師「……それなら、どうにかなる」

側近「さっき鍛冶師が言った通り、当分無給に近ければどうにかなるだろう?」

側近「……勇者の噂が広がれば、街に噂も人も、金も集まってくる」

盗賊「しかし……」

側近「ただでさえ、この街の世話になるつもりで来たんだ。それぐらい利用してくれて構わん」

側近「……俺がこんな状態で、何時どうなるかもわからん以上、どうせ守って貰わにゃならん」

盗賊「……え?」

鍛冶師「…… ……」

側近「老けたろ?俺……ま、詳しい話は後でな」

盗賊「アタシ達、一応さ」

側近「ん?」

盗賊「……この、城の横の細い道を上った先にある丘……の中程に」

盗賊「小さな小屋を建てておいたんだ」

盗賊「……お前の見た目は、時を重ねても変わらないだろう」

側近「…… ……」

盗賊「お前か使用人か解らなかったからな。勇者が大きくなるまで」

盗賊「この街で過ごすと言うのなら……人目に付かない方が良いと思ってな」
0829この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:55:07.60ID:hGmXvfYT
側近「そうか……なら、尚更だ。良い様に利用しろ」

側近「そこまでして貰って、アレは駄目コレは駄目、なんて言えないよ」

女剣士「……アタシは、騎士団に入れて貰えるのなら何だってする」

女剣士「盗賊達も、側近も勇者も、守ってみせる」

盗賊「女剣士……」

鍛冶師「盗賊」

盗賊「……女剣士。お前には、騎士団初代団長の地位を与える」

女剣士「え!?」

盗賊「今の段階では、どれほど腕の立つ奴が居ようとお前には敵わないだろ?」

盗賊「城の一室を使え。すぐに整えさせる……けど」

盗賊「……期待はすんなよ」

女剣士「アタシは……飯食わせてくれりゃ、給金なんていらねぇよ」

鍛冶師「女剣士?」

女剣士「……充分だ。守りたい者を守れる。それだけで良い」

盗賊「…… ……解った。足りない物があればすぐに言えよ?」
0830この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:57:01.45ID:m1Dip1Cp
女剣士「ああ」

盗賊「……女剣士、悪いがそこの階段を上がって、王子と勇者を呼んできてくれ」

女剣士「え?ああ……」スタスタ

盗賊「鍛冶師、城の者を集めろ」

鍛冶師「OK」スタスタ

側近「……すっかり王様らしくなったな」

盗賊「アタシはそんな器じゃないって言ってんのにな」

側近「そんな事ないさ。見えなくても解る」

盗賊「……アタシは、う……」

側近「『運命に踊らされてるみたい』?」

盗賊「…… ……ああ」

側近「存分に踊ってやれよ。舞台があって、じっとしてる方がもったいないぜ」

盗賊「側近……」

側近「……もし、俺に何かあれば、勇者様を頼む」

盗賊「…… ……ああ」
0831この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:57:12.45ID:1ZaGtDsm
トントン……


王子「おかあさま?」

勇者「そっきん、どうしたの?」

女剣士「呼んできたぞ」

側近「…… ……」スタスタ

側近「勇者様」ガシ

勇者「え? ……な、なに」

側近「いや……『勇者』」

勇者「……は、はい!」

側近「お前は、光に導かれし、運命の子……勇者だ」

勇者「ゆ、うしゃ」

側近「そうだ。今、魔王が世界を滅ぼそうとしている」

側近「……それを、阻止できる……止められるのは、お前だけなんだ。勇者」

勇者「ぼく……だけ……?」

側近「……そうだ。その為には、強くならなければいけない」

側近「皆を、街を、世界を……お前が、守るんだ」

勇者「ぼくが……まもる……」

盗賊「……」

女剣士「……」
0832この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:57:40.80ID:GFtFyLlE
側近「……大丈夫だ。お前なら出来る」

側近「俺も、女剣士も……ここに居る王様も、皆お前の味方だ」

側近「だから、強くなれ。最強の剣となれ」

側近「世界を守るんだ、勇者」

勇者「……うん!ぼく、つよくなる!」

勇者「しようにんとも、やくそくした。いつか、かえるって」

側近「…… ……ああ」

勇者「しようにん、とおいところにいるんでしょう?」

勇者「あいにいけるぐらい、つよくなる!」

側近「うん…… ……そうだな」

女剣士「明日から特訓だな、勇者」

勇者「うん!がんばる!」


コンコン


鍛冶師「集めたぞ、盗賊」

盗賊「良く聞け!ここに居るこの、光の子供は、魔王を倒すべく産まれた勇者だ!」


ザワザワザワ……!


盗賊「我が国は、この勇者を保護する事とする!」

盗賊「これを持って我が国の騎士団の設立を同時に宣言する!」


ザワザワザワ……!


盗賊「だが、恥ずかしい話、この国はできたての弱小国に過ぎない」

盗賊「資金も乏しいと言って過言では無い」

盗賊「……街の人や、皆からの嘆願書も読んだ」

盗賊「勝手な話だが、志願した者に充分な給金を出す余裕が無い」
0833この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:58:04.52ID:naWi3L09
盗賊「それでもと思う者は集え!ただし、この国に住居を構える者のみに」

盗賊「志願資格を与えるものとする」

盗賊「……そしてその中から、この騎士団長、女剣士の認めた者のみ」

盗賊「騎士団への入団を許可する者とする」



ザワザワザワ……!

ダレダアイツ、ミタコトナイゾ……!



女剣士「お、おい……!?」

側近「し……ッ」

女剣士「お前、何ニヤニヤしてんだよ……!」

鍛冶師「……」クスクス



盗賊「静かに!」



シー………ン



盗賊「……以上、街に向けて宣言を出してくれ」

盗賊「ああ、それから勇者は確かに保護するが、その確かな居所は内密とし」

盗賊「口外する事は相成らん。良いな!」



アレガ、ユウシャ……サマ?

シカシ、タシカニコウゴウシイ……

キンノカミニ、キンノヒトミ……

ヒカリ……ヒカリノカゴ?

ヒソヒソ……

ガヤガヤ……



盗賊「解散!」
0834この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 18:58:49.57ID:qkEdtboo
ザワザワ……

ヒソヒソ……

パタン


女剣士「……」ポカーン

側近「……」クック

王子「おかあさま、かっこういい!」

鍛冶師「ねー」クスクス

勇者「すごー……い……」

側近「そうだな」クックック

盗賊「……何時まで笑ってるんだよ」

勇者「ひと、いっぱいいた……!」

側近「そっち!?」

女剣士「おいおいおい、あんな事言って良いのかよ!?」

盗賊「ん?」

側近「良いんじゃないの、秘密は知りたいと思うのが真理だし」

側近「条件としちゃ、甘い位だと思うけどなぁ?」

女剣士「ち、違う違う!そうじゃなくて!」

女剣士「いきなり知りもしない女が騎士団長って……!」

盗賊「ああ、なんだそんな事か」

盗賊「そこは、実力でなんとかしてくれ。それこそ甘い条件だろ?」

側近「……食えない女だなぁ」

鍛冶師「だろ? ……僕よりよっぽど王様に相応しいよ」

盗賊「さて、じゃあ小屋に案内しようか」

盗賊「積もる話は夜にして、少し休んでくれ」

鍛冶師「女剣士もおいで。部屋を用意させてるから」

鍛冶師「そこを見たら少し……街を案内するよ」

女剣士「あ、ああ……」

鍛冶師「盗賊、そっちは任せたよ」

盗賊「おう。お互い様」スタスタ

側近「勇者、手繋いで?」
0835この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:00:38.62ID:u8aauN4e
勇者「うん」

鍛冶師「王子は僕と一緒に来るかい?」

王子「ゆ、ゆうしゃといっしょにいってもいい?」

鍛冶師「うん、行っておいで……じゃあ、盗賊、宜しく」

盗賊「あいよ」


パタン


鍛冶師「……何時まで口開けてんの。行くよ」スタスタ

女剣士「いや、その……ねぇ」スタスタ

鍛冶師「……今、盗賊達が行った方」

女剣士「え?」

鍛冶師「小屋までの途中に、小さな物置が設置してある」

鍛冶師「……そこに、勇者達の食料や、衣料品を届けるのは」

女剣士「アタシの役目、って言いたいのか」

鍛冶師「ああ。今の段階で……勇者が人目に触れる事は正直、メリットの方が」

鍛冶師「大きいと思う。目で見た物は信じるしかないのが人間だろ?」

女剣士「……」

鍛冶師「だけど、何年経っても見た目が変わらない側近を人前にさらす訳には、ね」

鍛冶師「……勇者が産まれたって噂は、あっと言う間に世界中に広がるだろう」

鍛冶師「利用しようと言う者だって、出てこないとは限らない」

女剣士「……ああ」

鍛冶師「その存在を明らかにする必要はあるが、さっき盗賊が言ったとおり」

鍛冶師「居所の詳細は……知らすべきじゃ無いと思う」

女剣士「…… ……」

鍛冶師「実力の件は勿論、疑っては居ないけど」

鍛冶師「今のところ、色んな意味で……君以上の人材は居ないんだ」

女剣士「……解ってる」

鍛冶師「まあ、でも本当に期待してるよ」

鍛冶師「……対魔族だけ……とは、限らないしね」

女剣士「え?」
0836この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:02:00.37ID:u8aauN4e
鍛冶師「人同士の争いの可能性をさ……100%否定できるとは言えないだろ?」

鍛冶師「僕らは厭でも『支配する側』なんだ」

女剣士「……ああ」


キィ


鍛冶師「良し……取りあえず、一杯やりますか。飲めるだろ?」

女剣士「街の案内じゃないのかよ」

鍛冶師「小さい街だ。すぐに終わる……あっちが、宿。あの奥が……」


タタタ……


鍛冶師「ん?」

女「あの!お城の方ですよね?」

女剣士「この人は……ッ」ムグッ

鍛冶師「お城の方に用事?」

女剣士「……ッ」ドンドン……ップハ!

女「あ……御免なさい、お城から出ていらっしゃったので……」

鍛冶師「いえいえ……貴女は、どこから?」

女「先日、船で観光に来ました。先ほど、港で……光の様な子供を見たと聞いたので」

女「勇者様がこの街にいらっしゃったと聞いたので……!」

女「是非……この、お花を!」

女剣士「……可愛い」

鍛冶師「摘んできたの?」

女「は、はい。川辺に、綺麗に咲いていたので……」

鍛冶師「ありがとう。僕は会えるかどうかわかんないけど……お城の人に渡しておくよ」

女「ありがとうございます!あ……!」

女「勇者様に……光の子、万歳!」
0837この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:03:37.06ID:evRkxDpE
バンザイ……ヒカリノコ……

バンザイ!ユウシャサマ、バンザイ!

ユウシャサマ、バンザーイ!

ユウシャサマ、バンザーイ!


ユウシャサマ、バンザーイ!


女剣士「…… ……」

鍛冶師「…… ……」

女「勇者様、万歳!」

鍛冶師「……飲みに入ろう。ね?」

女剣士「……ああ」


……

………

…………


側近「……街の方が随分騒がしいな」

盗賊「勇者様フィーバーだろうさ」

勇者「ふぃーばー?」

盗賊「……しかし良く聞こえるな」

側近「目が見えない分、だろうな」

勇者「…… ……」ウトウト

盗賊「眠いのか?」

勇者「ん……」

側近「布団入れ、寝て良いから」

盗賊「疲れた、んだろう」

側近「……当てられたんだろ。立派な王様の姿に」
0838この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:03:46.11ID:mgGMForo
盗賊「やめろよ……」

王子「ぼくも……」コテ

盗賊「おいおい……抱えて帰るのかよ……」

側近「ん? ……ああ、何だ。王子も寝たか?」

盗賊「いきなり燃料切れになるからな」

側近「子供はそんなもんだろう」

盗賊「……アタシや鍛冶師はあんまり城を開ける訳には行かないからな」

側近「そりゃそうだろう。あの城は誰でも入れるんだろ?」

盗賊「ああ。これからまた、志願だのなんだので煩くなるだろうしな」

側近「…… ……ま、仕方無いな」

盗賊「女剣士にも場所は教えておく。ちょこちょこ顔出して貰う様にするから」

盗賊「何かあれば言ってくれよ」

側近「ああ……あ、そうだ、これ」ジャラ

盗賊「…… ……何のつもりだ」

側近「当面の宿代にするつもりだったんだがな。預けておく」

盗賊「いや、しかし……」

側近「使い道は好きにしろ。余れば返してくれれば良い」

盗賊「側近!」

側近「……勇者の為に使う事も多いはずだ。俺にはもう、必要ない……し」

側近「使おうと思っても、俺はここから離れるのも侭ならん」

側近「やる、って言ったって受け取らないだろ?」

側近「……だから、預けておく」

盗賊「…… ……解った」

側近「使い道は……本当に、任せるから」

盗賊「阿呆……着服なんかしねぇよ」

側近「ハハ!」
0839この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:04:06.35ID:/ZXvJ9NS
盗賊「…… ……女剣士は」

側近「ん? ……俺とは、何の関係にも無いぞ?」

盗賊「そうなのか? ……随分、大人になったもんだ」

側近「そうだな……俺も驚いた」

盗賊「……言おうかどうしようか、迷ってたんだがな」

側近「ん?」

盗賊「……魔導の街との、約束の五年がもうすぐなんだ」

側近「もう、そんなになるのか」

盗賊「金銭面での押さえはきかなくなる。アタシが王に着いた事で」

盗賊「事情を知る者故の押さえにはなると思うんだが」

盗賊「……勇者の件を知れば何か企むかもしれん」

側近「何か動きがあるのか?」

盗賊「否……今のところ、そういうのは無いんだがな」

側近「……覚えとくよ」

盗賊「ああ……さて」

盗賊「……これ、抱えて帰るしかないかぁ……やっぱり」

側近「盗賊」

盗賊「ん?」

側近「…… ……もし、俺に何かあったら」

盗賊「…… ……心配すんな。そんなこと」

側近「……ああ」

盗賊「よ、いしょ……重ッ」

側近「なあ……」

盗賊「何だ?」

側近「勇者は……そんなに、神々しいのか」

盗賊「顔は……魔王にそっくりだぜ」

盗賊「髪や瞳の色が違うだけで、こんなに印象が違うモンなんだな」

側近「……そっか。引き留めて悪かったな」
0840この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:04:46.53ID:z35tFGZV
盗賊「いや……しかし本当に一人で大丈夫か?」

側近「場所に慣れればどうにでもなる。勇者も居るしな」

盗賊「ああ……本当に、何かあったらすぐ言えよ!」

側近「サンキュ……お休み」

盗賊「おやすみ……またな」パタン

側近「……」

側近(ここが……壁……いち、にい……)ソロソロ

側近(こっち、が……)トン

側近(扉。で…… ……いち、にい……)フニ

側近(……ふに?)

勇者「うーん」

側近(……)フニフニ

側近「……勇者の手か」

側近(小さい手だ…… ……俺は、見る事は叶わん)

側近(思い出すな、魔王様が……産まれた時の事)

側近(……昔話、か)

側近(……良い。もう、良いんだ。全て……使用人ちゃんに与えた)ストン

勇者「そ、っきん……」

側近「ここに居る」ポンポン

勇者(スウスウ)

側近「…… ……運命に導かれし光の子、か」

側近(……昔話、だ。もう)


……
………
…………


使用人「で、何のお話です……昔話って」

側近「それより、俺の作ったフランボワーズ、どう?」

使用人「美味しいですよ? ……魔王様のには、及びませんけど」

側近「あ……そう……糞、あいつは本当に魔王かよ」

使用人「ケーキの話、ですか?昔話って……」
0841この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:05:07.30ID:M9VF65z1
側近「阿呆か、違うわ」

側近「……俺が、まだ人間だった頃の話、だ」

使用人「…… ……」

側近「姫様も眠った。魔王様も……だ」

側近「俺と使用人ちゃん、二人っきりだし?愛でも語る方が良い?」

使用人「貴方には女剣士さんが居るでしょう」

側近「……やめてくれよ。俺にそんな気はネェって……」

使用人「じゃあ、ふざけてないで話して下さい」

使用人「……『側近』の名以外の全てを譲る……魔王様とチェスやら将棋やら」

使用人「オセロやらに興じている時に、いってらしたアレの一端、のつもりなのでしょう」

側近「……本当に、優秀だねぇ使用人ちゃんは」

使用人「……褒められてる、んですよね?」

側近「間違い無く、ね」

側近「……でも、愛を語る、も間違いじゃないんだぜ」

使用人「え?」

側近「俺が知る限り、愛って言えば、アレなんだ」

使用人「……?」

側近「前魔王様と、后様……あれこそが、愛、なんだ」

使用人「…… ……」

側近「……俺が産まれたのは、今はもう大海の大渦の底の小さな島だ」

側近「小さな街に小さな城。仲間と一緒に……旅立ってすぐ。先代様に沈められた街」

側近「今はもう、地図からも消えちまった……美しい島」

側近「そこで出会った勇者になるだろうと言われた剣士と、俺と……魔法使いの三人の」

側近「……弱い人間の下らない昔話さ」

使用人「…… ……」

側近「聞くか?」

使用人「勿論です。側近様の……名以外の全ては、私が『受け継ぎ』ます」

側近「……ああ。ありがとう。安心して逝ける」

使用人「まだ早いです!」

側近「怒るなよ……さて、どこから話そうかな」
0842この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:05:48.61ID:HosH0xud
側近「俺は……僧侶だった。それからさっきも言った剣士と、魔法使い」

側近「若いだけの、無鉄砲な……ちょっとばかし腕に覚えがあっただけの三人組」

側近「ある日、王様に呼ばれてさ。こんな話をされたんだ」


……

………

…………


王「良く来た、勇者達よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」

剣士「は……」

魔法使い「は、はい!」

僧侶「……はい」

王「魔王が力をつけだして久しい。以前勇者と呼ばれた者が旅立ってからも同じく、じゃ」

剣士「聞いております。勇者と呼ばれた若者が……帰る事は無かったと」

魔法使い「魔王は大変好戦的で、この人の世を支配せんと、恐怖を振りまこうとしていると」

僧侶「そして……その凶悪な爪が、今正に振り下ろされんとしていると」

王「今日そなた達ををここへ呼んだのは……分かるな?」

剣士「……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます」

魔法使い「旅立ちを許して頂いた名誉にかけて、必ず……!」

僧侶「今度こそ、本当の勇者、と呼ばれる為に!」

剣士「世界の平和の為に!」

王「うむ……頼んだぞ、選ばれし者達よ!」


……

………

…………


側近「……ここから、始まるんだ。物語は……ここから」
0843この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 19:19:06.95ID:RL9yozvs
魔王「私が勇者になる……だと?」



おしまい
0844この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:32:15.89ID:+A+FJMwx
王「良く来た、勇者達よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」

剣士「は……」

魔法使い「は、はい!」

僧侶「……はい」

王「魔王が力をつけだして久しい。以前勇者と呼ばれた者が旅立ってからも同じく、じゃ」

剣士「聞いております。勇者と呼ばれた若者が……帰る事は無かったと」

魔法使い「魔王は大変好戦的で、この人の世を支配せんと、恐怖を振りまこうとしていると」

僧侶「そして……その凶悪な爪が、今正に振り下ろされんとしていると」

王「今日そなた達ををここへ呼んだのは……分かるな?」

剣士「……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます」

魔法使い「旅立ちを許して頂いた名誉にかけて、必ず……!」

僧侶「今度こそ、本当の勇者、と呼ばれる為に!」

剣士「世界の平和の為に!」

王「うむ……頼んだぞ、選ばれし者達よ!」
0845この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:32:46.01ID:i67fwNSL
王「……勇者一行以下、全て下がれ!」

王「街の者に伝えよ……誉れある若かりし者の出立に光あれ、と!」

剣士「……」

魔法使い「……」

僧侶「……」

王「…… ……と、言う訳で、だ」

剣士「こういうパフォーマンス、必要だったんですかね、王様」

王「そういう事言うな、剣士。何事も形から、と言うだろう?」

魔法使い「なぁにが、『頼んだぞ、選ばれし者達よ!』だよ……恰好つけやがって」

僧侶「まあまあ、そう言うお年頃なんだって、王様もさ」

王「お前らなあああああ!」

剣士「うわ、外でわーわー言ってる……」

僧侶「そりゃそうだろ……勇気と未来ある勇者一行様方が」

僧侶「王様のお部屋で念入りに打ち合わせ、とでも思ってんだろ」

魔法使い「門からでりゃ、俺ら英雄扱いだなー!」

魔法使い「可愛い子から『魔法使い様!行かないで!』とかさ」

剣士「そこはあれだろう。『待ってますから……必ず帰って来て!』だろ」

僧侶「いっそ、『私も連れてって!』はどうだ?」

王「黙れ!この糞ガキども! ……全く」
0846この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:33:05.51ID:HZfbRuMn
王「だいたい、何が英雄、だ。そんなもん、魔王を倒してからだろうが!」

魔法使い「大丈夫だって。俺らならやれるって王様だって思ったから」

魔法使い「いきなり『お前ら旅立て』とか言ってきたんだろうが?」

王「本当に……お前達の脳天気さには呆れるわ……」

剣士「そうそう。あの『〜〜じゃ』とか言う、王様口調?やめた方が良いよ」

剣士「どうせ御伽噺の王様でも真似してるんだろうけどね」クスクス

僧侶「うん。全く似合わネェ。大体そんな歳じゃネェじゃん、お前さ」クスクス

王「う、うううううう、煩いわ!」

魔法使い「……ちょっと前まで、一緒に暴れ回ってたくせになぁ」

王「あーのーなー、お前に剣教えたのは俺だろう、剣士!」

剣士「感謝はしてるって。アンタ、俺の兄貴みたいなもんだしさ」

僧侶「みんなの兄貴、だろ。まあ……アンタが前王様の息子って知った時は驚いたな」

魔法使い「まだ寝込んでるんだろ?急に王位継がなくちゃ、とか言い出した時だって」

王「……誰も信じてくれなかったな」

僧侶「酔っ払ってたからナァ……ついでに一緒に朝まで飲んだじゃネェか」

剣士「戴冠式、二日酔いで出て、こっぴどく怒られたんだよな」

王「お前達が無理矢理飲ませたんだろうが!」

王「……忘れろよそんな事は。さっさと……」

僧侶「……そこで待ってろよ。さっさと魔王の首、取って帰ってくるからさ」

剣士「そうそう。俺たちは勇者様御一行だ」

剣士「……その名に恥じぬ様、きっちり魔王の首を持って帰って参ります」

剣士「……って、か」ハハ

王「全く……」フゥ
0847この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:33:28.47ID:CuET6L0i
魔法使い「ちゃんと病気の前王様、見てやれよ?」

魔法使い「……こっちは安心しとけ。俺たちなら大丈夫だからさ」

僧侶「そうそう。さくっと行って、さくっと帰ってくるしさ」

王「……これを持って行け。少しだけどな」

剣士「ん……? ……お、おい、これ!」

王「この国は小さな島国だからな。大した餞別も用意出来ん」

王「だったら、金の方が良いだろう」

僧侶「……少し、って結構な大金じゃネェかよ」

魔法使い「これで装備整えていけ、て奴?」

王「際限なく飲み食いすんなよ……頼むから」

剣士「しかし……これ、流石に多くないか?」

王「構わん。なんせ勇者ご一行様だからな」ハァ

僧侶「……嫌味にしか聞こえネェんだけど」

王「外に船も準備してある。ここから真っ直ぐ、北上すれば」

王「最果ての大陸の端に着くと言う。一応……地図も渡しておこう」

剣士「至れり尽くせりだな」

王「…… ……」ハァ

魔法使い「どうした?また二日酔いか?」

僧侶「お前が飲ませすぎるからだろ、魔法使い」

王「俺は酒は弱いんだよ……」

剣士「ありがとな、兄貴」

王「……一応王様って呼べ」

僧侶「本来なら、アンタも一緒に行く筈だったのにな」

王「そりゃ無理だ……それに、お前達はまあ……本当に強くなったよ」

王「俺を剣の師だ、兄貴だ……って、言ってくれるのは嬉しいけどな」

剣士「王様……」

王「俺は『勇者』じゃない。そんな器じゃない」

王「……そりゃ、お前達だ」

僧侶「…… ……なんだよ、改まって」
0848この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:33:49.87ID:cb5XHD9n
王「ほら、もうそろそろ行け。さっさと行け」シッシ

王「……頭痛いんだよ。俺は寝たいの!」

剣士「困った王様だよ、全く」

魔法使い「良し……行くか!」

王「おい」

僧侶「ん?」

王「いくら勇者ご一行様だとか言われても、強いと言っても」

王「お前達はまだ若い。未来もある」

王「……魔王は、強い。世界を滅ぼそうと出来る位に」

剣士「……」

王「敵わないと思えば、迷わず逃げろ」

王「……命あってこそだ。忘れるなよ」

魔法使い「……」

王「誰もお前達を責めない。倒せば確かに、本物の『勇者』として」

王「褒め、讃えられ、誰もがお前達に尊敬の眼差しを向けるだろう。だがな」

僧侶「……」

王「死んだら、そこから先は何も無いんだ。終わりなんだ」

王「帰ってくる所は、此処だけじゃない。お前達は何処にでも行けるんだ」

王「……それだけは、忘れるな」

剣士「何だよ……改まって」

魔法使い「そ、そうだよ……気持ち悪い」

僧侶「心配すんな。大丈夫だって」

王「……釘指しとかないと、お前ら暴走しそうで怖いもん」

王「…… ……もう行け。頼んだぞ、勇者達」

剣士「……ああ」

魔法使い「任せとけ!」

僧侶「待ってろよ。必ず、帰ってくるからな!」

王「…… ……期待してる、よ」



パタン
0849この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:34:53.82ID:IFA+KxNW
王「…… ……すまん、剣士、魔法使い……僧侶」

王「……すまん。頼むから……生きてくれ、希望の勇者達……ッ!」


……
………
…………


剣士「……スゲェ熱狂だったなぁ」

魔法使い「おい、あの赤い髪の可愛い子見たか?」

魔法使い「俺にしがみついて泣いてんの!」

僧侶「おい!お前ら手伝えよ!船ってどうやって動かすんだよ!」

剣士「ん?ああ……変わるよ……っと」

魔法使い「……お、すげぇ、進んだ」

僧侶「できるなら俺に任せてないで、最初っからやれよ剣士!」

剣士「俺がやるって張り切ってたのお前だろう、僧侶」

魔法使い「すげえな、ドンドン島が小さくなってく……」

剣士「帰った時の熱狂は、今日の非じゃないだろうな」

魔法使い「ひゃっほーぅ! 可愛い子、よりどりみどり!」

僧侶「お前は女の事しか頭にネェのかよ、魔法使い…… ……ん?」

剣士「どうした?」

僧侶「…… ……ありゃ、何だ?」

魔法使い「あ?」

僧侶「剣士、舵任せるぞ……おい、魔法使いあれ見ろ……北のそ……ら……!?」

魔法使い「何だよ珍しい鳥でも飛んでたか?」ヒョイ

魔法使い「……ッ な、ん ……ッ 火、の球……!?」

剣士「おい、どうした!?」

僧侶「剣士、スピード挙げろ!進め……ッ」


グラグラ、グラグラ……!


剣士「な、何だ……!?」

魔法使い「近づいてくる!」

僧侶「風……ッ 衝撃波か……!!」
0850この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:35:15.01ID:bcupeKil
魔法使い「……ッ やばい、でかい!!」

僧侶「……ッ 全速力だ、この海域を離れないと……!!」

僧侶「剣士!!どっち向いてんだ、前見ろ、前!!」

剣士「……島に向かってないか、あれ」

魔法使い「!!」

僧侶「戻ったって間に合わん!間に合ったところで……!!」

剣士「しかし……ッ !!」

魔法使い「糞、どけ、剣士!」ドン!

剣士「……ッ 何するんだ!」ドタ!

魔法使い「離れるんだ!逃げるんだよ!俺たちまで巻き込まれちまうだろ!?」

剣士「や、やめろ、魔法使い……ッ 島が、島の人達が……ッ」

僧侶「もう遅い……ッ 早くしろ、魔法使い!」

魔法使い「これ以上早くならねぇよ!畜生!」

剣士「戻れ、戻れー!!見殺しにする気か!! ……王……ッ兄貴が!」

僧侶「……ッ 糞ッ」



ズ、ズ…… ゴゴゴゴ……ッ



剣士「な、 ん……の、音……ッ !!」



グラグラグラ



魔法使い「う、うわあああああああああああああ!」

僧侶「く、そ……舵、が……ッ」

僧侶「あああああああああああああああ!」

剣士「兄貴、あに……ッ !! うわあああああああああああああああああ!」



……

………

…………
0851この頃流行の名無しの子垢版2021/03/01(月) 22:35:52.82ID:iA/KkBmy
僧侶「……ッ く、しゅんッ!!」

僧侶「……!!」

僧侶「冷た……ッ」ガバ!

僧侶(……生きて、る。びしょびしょ……ああ、そうだ、船の上……船……!!)

僧侶「魔法使い、剣士!」キョロキョロ

魔法使い「……よう。気がついたか」

僧侶「魔法使い……生きて、たか……」ホウ

僧侶「!! 剣士は……ッ!?」

魔法使い「……」ス……

僧侶(あっち……?船の……先、あ……)

剣士「…… ……」

魔法使い「一番最初に気がついたみたいだな。お前のそれ、あいつのマントだよ」

僧侶「あ……」

魔法使い「……話しかけても無駄だぜ。ああやって島の方見たまんま」

魔法使い「一っ言も喋らネェ……そっとしておいてやれよ」

僧侶「…… ……!!」

僧侶「ひ、火の玉は、島は……ッ!?」

魔法使い「黒煙、見えるだろ」

僧侶「…… ……」

魔法使い「多分、あれだ……そんで、多分……海の底、だ」

僧侶「……そ、こ」

魔法使い「……人も、家も、街も、城も……島毎全部、海の底だよ!!畜生!!」ガンッ

僧侶「…… ……」

魔法使い「黒煙と……熱された海からの熱で近づけネェな、多分」

僧侶「船は、動くのか」

魔法使い「無理じゃね? ……結構な衝撃だったろ」

魔法使い「海に落ちなかっただけ、船が壊れなかっただけ」

魔法使い「……俺たちは強運だ。流石『勇者様御一行』だぜ」

僧侶「魔法使い……」
0852この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:12:42.89ID:bZTIT+wN
テンプレ

マリガボ詐欺事件の場合は、ほぼ全員が返金してもらえるはず。

通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点が有る場合は返金してもらえる。

マリガボがピーマincと知っていたら買わなかった場合。

マリガボがホールとかデフブリから仕入れてる事を知っていたら買わなかった場合。

カエルとか有ったんですよシリーズが成田企画だと知っていたら買わなかった場合。

反逆マルカンの生前が偽生前だった場合。

マリアさんの金庫から出て来た話が嘘だった場合。

マリガボ詐欺事件の場合は通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点満開だから
必ず返金してもらえる。

ギャランティはマリアピーターが作ってサインしてると案内してるが、それがウソでギャランティ偽造だった場合(コピー)
0854この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:21:25.06ID:u+jkSaGj
剣士「…… ……兄貴は、知ってたんだろうか」

僧侶「え?」

剣士「魔王を倒せ。勇者になれる……俺たちならやれるって」

剣士「ずっと前から、色んな人達に言われてた」

僧侶「……」

魔法使い「その『俺たち』の中には、兄貴だって入ってたんだぜ」

剣士「解ってる……俺たちは阿呆みたいに、その気になってた」

剣士「酔った兄貴が、何時か四人で旅立とうとか言ってただろ」

僧侶「……『俺たちならやれる』」

剣士「ああ……」

魔法使い「あの日、兄貴が珍しくへこんでるから何かと思ったんだよな」

僧侶「悪い、俺、魔王倒せないや……だっけ」

剣士「楽しく飲んでた俺たちの傍まで来て、座りもせず突っ立ってたよな」

魔法使い「座らせて無理矢理飲ませて、口割らせたんだよな」

僧侶「実は王様の息子でした。親父は病気で寝込んじまって」

僧侶「明日から俺が王様なんだ……だったか」

剣士「呂律回ってなかったが、そんな感じだったな」

魔法使い「何とちくるってんだって、俺がさらに飲ませたんだよな」

僧侶「そしたら、本当に次の日から玉座に座ってたよな」

剣士「驚いたよ。何で……そんな急だったのか」

僧侶「今でもわかんねぇよ、そんなの」

魔法使い「……まさか、一人急に欠けるなんて思わなかったからな」

剣士「……勇者になるのは俺じゃ無い。兄貴だ」

剣士「なのに……あいつは……」

魔法使い「俺じゃ勇者になれない。なるとしたらお前だ、剣士」

僧侶「……そのしゃべり方、そっくりだな」クック

剣士「魔法使いと僧侶と、魔王を倒す旅に出ろ」

剣士「……お前達なら、勇者になれる」

魔法使い「俺の方が似てるよ」
0855この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:21:51.39ID:5++CHVd2
剣士「……チッ」

僧侶「急がせた、のかな。旅立ち」

剣士「…… ……」


僧侶「考えられるよな。大金与えて、あんな茶番までやってさ」

魔法使い「金なんて……何の役に立つんだよ……ッ」

剣士「思い出せよ、魔法使い。兄貴の言葉……」

魔法使い「え?」

剣士「『死んだら、そこから先は何も無いんだ。終わりなんだ』」

僧侶「『帰ってくる所は、此処だけじゃない。お前達は何処にでも行けるんだ』」

魔法使い「……だ、だからって、このまま俺たちだけでどっか行って」

魔法使い「のんびり暮らす為の資金にって、渡した訳じゃネェだろ!?」

僧侶「どういう風にも取れる、ってこった」

剣士「……それも一つの選択肢、だな」

魔法使い「お、おい……」

剣士「何も……そうしようって行ってる訳じゃない」

剣士「……確かに、普通の顔をしてどっかの街で何もせず生活していく事はできる」

僧侶「帰る所は……もう、無いからな」

魔法使い「……」

剣士「……」

僧侶「……」

魔法使い「だからって……だからって!!与えられた金で、悠々と何食わぬ顔して」

魔法使い「何も知らない振りして、過ごせって言うのか!?」

魔法使い「そんな選択肢、与えられたって拒否するしかネェだろ!?」

剣士「…… ……」

僧侶「…… ……」

魔法使い「お前……お前ら、悔しくないのかよ!?」

魔法使い「あんな……目の前で、あっちゅーまに消し飛ばされたんだぜ!?」

魔法使い「俺らの……家族も、家も……俺らの世界、全部!!」
0856この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:22:10.47ID:IP6SY3m9
剣士「……美しい島だったな」

魔法使い「……ッ おい、剣士……!!」

剣士「兄貴は、家族同然だった。剣の稽古つけてもらって、強くなって」

剣士「お前達とあって、馬鹿みたいな事やって騒いで……」

僧侶「……本当、あの人酒弱かったよな。なのに、俺らに付き合って飲んでさ」

剣士「何回介抱してやったかわかんないよな」

魔法使い「おいって!!」

僧侶「結構年上なのに可愛いとこあったよな」

剣士「…… ……あんな、糞でかい火の玉、軽々と北の果てから」

剣士「あんな、小さな島に綺麗にぶち当てて、しかも島毎沈めちまうような」

剣士「……信じられない力の持ち主だ。魔王ってのは」

僧侶「それを……たかだか糞ガキ三人、雁首揃えて殺して下さいって行く様なモンだ」

魔法使い「僧侶!!」

剣士「……だからって、黙ってられるか、ての」

魔法使い「……え?」

僧侶「……小さくてさ、美しいだけしか、取り柄のない島だったよな」

僧侶「それでも……俺たちにとって、あれが世界そのものだったんだ」

剣士「このまま俺たちが怖じ気づいて、尻尾巻いて逃げ出したら」

剣士「魔王の思うつぼだろうが……ッ」

魔法使い「剣士、僧侶……ッ」

魔法使い「そうだ……そうだぜ、俺たちだけじゃ無い!」

魔法使い「放っておけば、被害は全世界に広がるんだ」

魔法使い「魔族共が、好き勝手して良い世界じゃない」

魔法使い「……俺たちの世界なんだ……ッ」
0857この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:22:32.70ID:y3UtzNN0
剣士「……だが、生半可な覚悟じゃ倒せないぞ」

剣士「兄貴が居たら……否、あいつが居たって……!」

魔法使い「その兄貴の為にも……俺らがやらずに、誰がやるんだよ!」

魔法使い「……ッ放っておけるか……!!」

僧侶「ま……そうなるわな」

魔法使い「……ッ おう!」

僧侶「しかし……船、動くか?」

剣士「無理だな……目立った損傷は無いが……衝撃で随分やられたっぽい」

魔法使い「おい、お前風起こしてどうにかならねぇのかよ」

僧侶「無茶言うなよ!」

剣士「潮に流されて行って……どこに着くやら」

魔法使い「言う程離れてないよな……」

魔法使い「なあ、本当に無理なのかよ、僧侶」

僧侶「お前なぁ、いくら俺が緑の加護受けてるからって……」

剣士「……まあ、やってみても良いんじゃネェの」

僧侶「……出来なくても文句いうなよ」

魔法使い「補助魔法のつもりでさ……良し、俺も後押ししてやるよ」

僧侶「あーほーかー!お前炎使いでしょうが!」

僧侶「んなもんで炙ったら大火事だわ!」

剣士「……」クックック

僧侶「笑い事じゃねええええええ!」

魔法使い「…… ……おい」

僧侶「あ?」

剣士「何だよ」

魔法使い「陸が見える」

剣士「え……」

僧侶「……泳いで行くにしても、死ぬぞあの距離」

魔法使い「潮の流れはどうだ」
0858この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:23:52.83ID:nIwGOGK6
剣士「流石にわかんねぇって」

魔法使い「……近づいていかねぇかな」

僧侶「……風、よ……ッ」


シーン……


剣士「…… ……」

魔法使い「…… ……」

僧侶「笑いを堪えたけったいな顔すんな。いっそ笑え」

剣士「しかし、まあ……何時穴が開くかも解らんしな」

魔法使い「もし少しでも近づきそうなら、泳ぐか……」

僧侶「せめてつっこめ!!」


ススス……


僧侶「……ん?」

剣士「進んでる……な」

魔法使い「でかした!僧侶!」

僧侶「……い、いや、俺のアレかどうか……」


グラグラグラ……


僧侶「おい、何かやばくネェか」

剣士「ぐんぐん進んでる、ぞ?」

魔法使い「おー!すげぇすげぇ!まじで泳いでいけるんじゃね!?」

僧侶「……もう少し……もう少し……ッ」

魔法使い「近くなってきたぞ!やったな僧侶!お前すげぇよ!」

剣士「良し、頃合い見て、飛び込……む……ッ て、おい!」

僧侶「なんだよ?」

剣士「下見ろ、下! ……ッ 岩礁だ!」

僧侶「げ……ッ」


グラグラ、ガクガク…… ガリガリガリ……ッ
0859この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:24:53.82ID:pp9TOcbJ
魔法使い「うわ、やば……ッ」

剣士「……ッ 浸水してるぞ!船底に穴が……ッ」

僧侶「う、旨く岩避けて飛び込め!ぶつかる……ッ」

魔法使い「ごちゃごちゃ言ってんな!来い!」グイッ

剣士「うわ……ッ」ドボンッ

僧侶「おわああああああああああああああああ!」ザバン!

魔法使い「……ッ」ザバーン!


ガリガリ……ッ バキバキバキ……ッ!!

ドォ………ン!

ザバ……ッ ザザ…… ン、ザザ…… ……


剣士「…… ……」

僧侶「…… ……」

魔法使い「…… ……」

剣士「……何で生きてるんだろうな、俺たち」

僧侶「『勇者様御一行』だから……じゃ、ね?」

魔法使い「ちょっとばかし、神様信じてもいい気になるね、こりゃ」

剣士「……陸地はすぐそこだ。泳ぐぞ」

剣士「風邪引いちまうよ、このままじゃ」

魔法使い「ああ……」

僧侶「怪我確認して、火を起こせる所探そう。どこか痛かったらすぐ言えよ」


ザバザバ……


……
………
…………

パチパチ……


僧侶「へっくしょん!」ズズ……

剣士「ここ、何処なんだかな……」

魔法使い「腹減ったぁ……」

剣士「贅沢言うな、魔法使い。取りあえず火に当たれるだけ幸せだろう」
0860この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:25:56.78ID:ZjB85Hyg
僧侶「鬱蒼とした森の外れ……魔物に襲われるにはもってこい」

魔法使い「やめろよ、バカタレ!」

剣士「騒ぐなって……それこそ…… ……」

僧侶「どした?」

剣士「何か聞こえないか」


ガサガサ……ガサガサ……


魔法使い「……お前はあれか。予言師か何かか」

僧侶「褒めても何もでネェよ……おい、寄ってくんな」

剣士「騒ぐなって! ……おい、詠唱準備しとけよ」チャキ


ガサガサ……ガサ


少年「…… ……うわ!?」

剣士「……ッ !!」

僧侶「……ひ、と?」

魔法使い「何だ……ガキじゃネェか」フゥ

少年「お兄さん達……もしかして……あの、瓦礫に乗って来た人達?」

僧侶「……瓦礫に乗れる程器用じゃネェよ俺ら」

少年「……」ジロジロ

剣士「驚かせてすまんかった……君は?」

少年「凄い大きな音が聞こえて、振動がしたんだ」

少年「また魔王が何かしたのかと思って……」

魔法使い「また!?」

僧侶「魔王……って、言ったか?」
0861この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 13:26:03.13ID:ZjB85Hyg
少年「…… ……」

剣士「俺たちは怪しい者じゃ……って、言ったって信じない、よな」

少年「ここら辺は魔物も強いよ。そんな所で野宿してたら、死んじゃうと思うけど」

魔法使い「そんな場所でお前さんは何やってんだよ」

少年「……この岬から奥に入ったところに、小さな村があるんだ」

少年「僕はそこから来た。さっきも言っただろ?凄い音がしたから」

少年「……見に来たんだよ」

僧侶「お前……一人で、か?」

少年「僕は強いから大丈夫だよ」

剣士「…… ……」
0862この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 14:22:45.72ID:bZTIT+wN
テンプレ

マリガボ詐欺事件の場合は、ほぼ全員が返金してもらえるはず。

通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点が有る場合は返金してもらえる。

マリガボがピーマincと知っていたら買わなかった場合。

マリガボがホールとかデフブリから仕入れてる事を知っていたら買わなかった場合。

カエルとか有ったんですよシリーズが成田企画だと知っていたら買わなかった場合。

反逆マルカンの生前が偽生前だった場合。

マリアさんの金庫から出て来た話が嘘だった場合。

マリガボ詐欺事件の場合は通常の注意を払っても発見出来ない隠された問題点満開だから
必ず返金してもらえる。

ギャランティはマリアピーターが作ってサインしてると案内してるが、それがウソでギャランティ偽造だった場合(コピー)
0864この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:04:06.87ID:2oqMs//w
僧侶「そう睨んでやるな、剣士」

少年「……着いて来なよ。お姉ちゃんが、生存者が居たら拾ってこいって言ってた」

魔法使い「お姉さん!」

剣士「おい!」

少年「こっちだよ」スタスタ

剣士「……どうする?」

魔法使い「行くしかないっしょ」スタスタ

僧侶「お、おいこら、火消してけって……てか、お前は本当に……!」

剣士「色に惑わされて身を滅ぼすタイプだよな、こいつ」スタスタ

僧侶「お前も行くのかよ結局!」

剣士「野垂れ死ぬよりマシだ……相手は、人だ。言葉も通じない魔物じゃない」

僧侶「……糞ッ」スタスタ

少年「お兄さん達、人間だよね?」

魔法使い「どうやったら魔物に見えるんだよ」

少年「……魔族は、人と違わない姿をしてる奴らも多いよ」

剣士「そうなのか?」

少年「特に力の強い奴らはね……ああ、そうだ。名前教えてよ」

少年「僕は少年」

魔法使い「魔法使いだ」

剣士「俺は剣士。そっちは……」

僧侶「……僧侶」

少年「陽が落ちる前に。急ごう」スタスタ

魔法使い「……なぁんか、無愛想なガキだなぁ」

僧侶「聞こえるって……」

剣士「今の俺らには救世主だろ……取りあえず、助かったって言って良いんじゃないのか」

少年「あれだ。あの山の上」

僧侶「…… ……遠ッ」

少年「回り道してるからね」

魔法使い「何でだよ、態々……」

少年「さっきの十字路、左に曲がれば真っ直ぐ上るだけだけど」
0865この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:05:14.66ID:pyzFq7Vb
少年「魔物が多いんだ。こっちに行けば滝がある」

少年「音と水に怯えて、魔物はあんまり出ない」

少年「結果的に、回り道した方が時間短縮になるんだよ」

少年「疲労困憊っぽいし……戦いたかった?」

剣士「……」

魔法使い「……」

僧侶「……お気遣いありがとよ」

少年「僕一人でも大丈夫だけど……庇いながら戦うのは面倒臭いしね」

剣士(この糞ガキ……ッ)

魔法使い(お姉さんが美人だったら……許す!)

僧侶(我慢、我慢……ッ)

少年「道が悪くなるから、喋って舌噛まない様にね」


……

………

…………


剣士「つ…… ッ」ハアハア

魔法使い「……つ、い……た……」ハア……

僧侶「…… ……」グッタリ

少年「……体力無いね」


タタタ……


姉「少年!」

少年「ただいま、お姉ちゃん」

姉「この人達が……生存者?」
0866この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:05:45.87ID:Af3M+TLL
少年「うん……三人だけだったよ」

剣士「……君が、お姉さん、か」

魔法使い(確かに美人だけど……こりゃまた、気の強そうな……)

僧侶(水……水……ッ)

姉「何があったのか、詳しく聞かせて貰いたいところだけど……」

姉「お疲れでしょう。ひとまず私達の家へ。お食事とお酒をご用意致しますわ」

剣士「あ、ああ……ありがとうございます……でも、良いんですか」

剣士「見ず知らずの……俺たちに」

姉「困った時はお互い様、です。ご遠慮なさらずに、どうぞ?」

少年「喋ってる水色の瞳の人が剣士。赤い瞳の人が魔法使い」

少年「……地面に潰れてる、緑の瞳の人が僧侶、だってさ」

姉「青の剣士様に、赤い魔法使い様。緑の僧侶様、ですね」

姉「湯の準備もついでにして参ります……少年、連れてきて頂戴ね」

少年「うん…… 大丈夫、歩ける?僧侶さん」

僧侶「……俺、だけ……随分な、紹介、だ……な……」

魔法使い「……ほら、肩貸してやるよ」グイ

剣士「こっちも掴まれ」グイ

少年「……仕方無いと思うんだけど」ハァ
0867この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:06:13.31ID:qSs50pCk
……

………

…………


僧侶「い……ッ き、かえったー!!!」ハァ

魔法使い「風呂で泳ぐなガキか!」

剣士「……生きてて良かった」

魔法使い「大袈裟だなぁお前らは……」

僧侶「…… ……しかし、ここは何処なんだかな」

剣士「ついでにあいつら何者だ、だな」

魔法使い「まあ……命の恩人にゃ違いネェわな」

僧侶「手、出すなよ、魔法使い……」

魔法使い「阿呆か!んな事しねぇよ」

剣士「いーや、お前はわからん」

魔法使い「……煩ェ ……つか、ありゃ駄目だろ」

剣士「ん?」

魔法使い「もう忘れたのか?……『また魔王が何かしたのかと思った』」

僧侶「……」

剣士「……」

魔法使い「なァんか、匂うよな、あの二人……」

剣士「妙な呼び方、してたな」

僧侶「俺も気になった。青に、赤に、緑……」

魔法使い「加護の事じゃネェの?」

僧侶「だろうと思う、が……態々強調する事でもネェだろ?」

剣士「あの姉弟は茶色の瞳だったな、二人とも」

魔法使い「……雷、かな。妥当なところだと」

僧侶「雷使いか……別に珍しい属性じゃネェだろ」

剣士「ま、本人に聞けば一番早いだろ」ザバ

魔法使い「飯と酒の旨いアテになりゃ良いけどな」ザバン

僧侶「……口つける気か?二人とも」ザバー
0868この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:06:37.58ID:Bmp0zkvp
剣士「お前は最後な、僧侶」

魔法使い「俺たちの様子がおかしかったら、回復してくれよ」

僧侶「……そうなるのね、結局」ハァ


……

………

…………



姉「お疲れ様でした。ご馳走とは言いがたいですが……どうぞ、お座り下さい」

剣士「いやいやいや、コレは……」

魔法使い「旨そう」ヒュウ

僧侶「ご遠慮なく……と、言いたいですが、何故?」

姉「先ほども申しました。困った時は……です」

少年「頂きます」モグモグ

剣士「……頂きます」

魔法使い「いっただっきまーす」

僧侶「……いくつか、お聞きしたい事があるんですが」

姉「ええ、どうぞ?」

僧侶「少年が……『また魔王が何かしたかと思った』と」

僧侶「……どういう、意味です?」
0869この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:07:34.04ID:oTXGSM+E
姉「……貴方達は、船でいらした、のですよね?」

僧侶「…… ……ええ、そうです」

姉「弟が言っていました。海岸になにやら、瓦礫の様な物が見える、と」

僧侶「……」

姉「あの衝撃と音は、船が岩礁に乗り上げたか何かした音……なのでしょう」

姉「船はバランスを崩し横転したか何かで大破。そして……」

僧侶「失礼、質問には答えて頂けないのでしょうかね」

魔法使い「……お前も食えよ、僧侶。旨いぞ」

僧侶(……二人とも、大丈夫そう、だが…… しかし……)

少年「変な物は入れてないから大丈夫だよ」

少年「……ついでに、質問には僕が答えるよ」

剣士「君が?」

少年「お兄さん達に、また魔王が……って言ったのは僕だからね」

少年「10日程前かな。魔王が、一つの島を沈めたらしい」

剣士「!」

魔法使い「!!」

僧侶「……らしい、てのは何だ」

姉「ここは小さな村ですが、船で少し行った山の奥に……やはり小さいですが」

姉「街があります。北の街、と言う」

姉「そこは、最果ての地に一番近い街と言われています」

魔法使い「最果てに……近い!?」

少年「そう。僕たちは船で、そこまで食料の調達なんかに行くんだ」

少年「……村、とか言ってるけど、此処は僕たち一族しか住んでない」

剣士「…… ……それ、はどういう意味だ。一族?」

姉「勘違いなさらぬ様……私達は、人間ですよ」

僧侶「その……北の街とアンタら一族とやら、どう関係が……」

少年「今からちゃんと話してあげるよ。ちょっと待って」

少年「……丁度、10日程、前。さっき言った魔王が、て奴ね」

少年「ここいら一体の人…… ……ううん、あれほどの威力だ」
0870この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:08:15.77ID:NHUiP7K2
少年「多分、世界中の殆どの人が見ただろうね」

剣士「…… ……巨大な火の玉、か」

僧侶「剣士!」

少年「やっぱり、お兄さん達も見た?」

姉「……空を切り裂いて燃やさんばかりの火の玉は、轟音を立て」

姉「大海のどこかへと飛来し、そして落ちた……と」

姉「食料調達へでた一族の者が聞いたのです」

魔法使い「……それがどうして『島を沈めた』て話になるんだよ」

少年「北の街から南へと行商に出たって人が戻ってきてたんだ」

少年「海に大渦が出来た、てね」

剣士「大渦……」

少年「そう。だから、島が沈んだからじゃないか、て噂」

僧侶「…… ……」

魔法使い「…… ……」

剣士「…… ……」

姉「そして、あの衝撃と轟音……」

少年「『また』て考えたって、おかしく何か無いだろう?」

少年「ずっと前に、どこかの島が魔王に滅ぼされた、とか」

少年「色んな噂は知ってる筈だよ」

魔法使い「そりゃそうだ。魔王が人間を滅ぼそうとしてるってのは」

魔法使い「……知らない人間の方が少ないだろうよ」

剣士「……じゃあ、此処は、最果ての地に近い、んだな」

少年「最果ての地に一番近いと言われる、北の街に近い場所、が」

少年「正解だよ。此処は小さな島だ。北の街まで、小さな船でも時間はそんなに」

少年「かからないよ」

僧侶「……一族、てのは?」

姉「私達の祖先は、最果ての地の住民であったと言われています」

剣士「!」

魔法使い「な、に……!?」

僧侶「…… ……さっき、アンタ、自分たちは人間だと言ったな」
0871この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:09:22.45ID:qp0SICRG
姉「はい」

僧侶「最果ての地とやらは、魔族の住む土地だと言われている」

僧侶「……矛盾してるぞ」

姉「ですから、私達は……『選ばれた人間』なのです」

魔法使い「…… ……は?」

姉「最果ての地、魔族のみ住まうを許された禁断の地に」

姉「唯一、居住を許された選ばれた人間達……それが、私達の祖先です」

少年「……ま、正確に言うと『そう信じてる』てのが着くけどね」

姉「少年!」

剣士「…… ……」

姉「魔族と人間の争いが激化した頃、祖先の何人かが戦火を逃れ」

姉「此処へ移り住んだ……そう、言われています」

魔法使い「……証拠はある訳?」ハァ

姉「私達は皆、『優れた加護』を持っている。それを証拠として何と言いましょうか」

剣士「優れた加護……?」

姉「そうです。優れた加護は、それ故に持つ属性の干渉を受けません」

僧侶「……アンタらは雷の加護を持っているんだよな。雷を浴びても」

僧侶「平気、と言いたいのか」

姉「勿論です。自然の物は別ですが、魔法である限りは……決して」

剣士「……それは、まあ、良い。良いんだが……何故だ?」

姉「はい?」

剣士「戦火を逃れ、て、言うのだよ。許されて住んでたのなら」

剣士「お前達……その一族、てのは」

剣士「逃げる必要等無かったんじゃ無いのか?」

少年「いくら特別であっても、人は人……魔族と、決して相容れないのさ」

少年「だから、僕たちは僕たちだけで、僕たちの王国を作る」

少年「……そういう訳、らしいよ?」

僧侶「…… ……こんな、山奥の小さな集落で、か」

姉「近親婚も多かったと聞きます。私と弟の親も、異母姉弟でした」

魔法使い「……まじかよ」
0872この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:10:08.41ID:HzAYdc12
姉「他者の血を入れなくては、私達は繁栄できないのですよ」

少年「だから、生存者が居ないか、見に行ったのさ」

剣士「!」

魔法使い「!」

僧侶「……ちょ、ちょっと待てよ。外部の血を入れる為!?」

僧侶「冗談じゃネェ、俺たちは……!」

魔法使い「僧侶!」

少年「さっきも言った通り、近親婚を繰り返すとね」

少年「出生率そのものが悪くなる……産まれてきても、病弱ですぐ死んでしまう」

僧侶「おいおいおいおい、矛盾してるだろ。お前らその……何だっけ?」

剣士「『選ばれた一族』」

僧侶「そう、それだ!それなんだろ!?」

魔法使い「そうだよ。誰でも良いなら、血が薄まるじゃネェか」

姉「普通の人間の中にも、稀に優れた加護を持つ者が産まれるのです」

姉「そういう者を探して、私達は……仲間を増やします」

剣士「…… ……」

姉「単刀直入にお伺い致します。貴方達の中で、優れた加護を持つ方は?」

剣士「俺は魔法は使えない」

少年「残念には変わりないけど、優れた加護かそうじゃ無いかは解らないからね」

少年「剣士さん、貴方は海の魔物……水属性の魔物の魔法で怪我を負う?」

剣士「当たり前だろう!」

少年「……」ハァ

魔法使い「俺も残念だな。美人なお姉さんのお相手は是非お願いしたいが……」

魔法使い「自分の魔法で火傷した事もあるんでね」

姉「……貴方は?僧侶様」

僧侶「二人に同じく、だよ」

姉「…… ……そうですか、残念です」カタン

魔法使い「……?」

姉「明日、北の街までお送り致しましょう。今日はゆっくり、お休みになってください」

姉「少年……後は頼んだわよ」
0873この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:10:56.29ID:+DyfMnV6
少年「はいはい……だからそう、うまくいくはず無いって言っただろ」

姉「お黙り!」


スタスタ、パタン


僧侶「…… ……言葉が出ネェな」

剣士「全くだ」ハァ

少年「全く、お姉ちゃんにも困った物だよ」

魔法使い「……もし、俺らの中で優れた加護とやらを持ってたら」

魔法使い「どうなってたんだよ」

少年「想像したら解るでしょう」

僧侶「選ぶ権利ってのがだな」

少年「ある訳ないでしょ……『選ばれた人間』に逆らうなんて頭がイカレてる」

剣士「な……!」

少年「……て、言うよ。一族の人達はね」

魔法使い「イカレてやがるのは、どっちだ……」

少年「仕方無い。所謂……普通の人間、てのは劣等種、て奴だから」

僧侶「『劣等種』?」

少年「そう。僕たちは僕たちだけが特別。僕たちだけが全て」

少年「……選ばれた自分達が、何故魔族如きに許しを得る真似をしなくちゃならない」

少年「……て、ね」

剣士「お前も、そう思っているのか?」

少年「…… ……さてね」カタン

少年「さっさと寝て、さっさと起きて、さっさと出て行きなよ」

少年「多分、お姉ちゃん……明日からはお兄さん達の事見えても居ないよ」

魔法使い「極端だな」

剣士「送って貰えるだけありがたいって言うべきだ、ここは」

少年「船は準備しておくよ。じゃあね……お休み」



パタン
0874この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:12:56.91ID:GvAUEfz5
僧侶「……色んな人間が居るもんだ」ハァ

魔法使い「しかし……おかしく無いか?」

剣士「何がだよ」

魔法使い「…… ……10日前」

僧侶「それは俺も思った……が……」

剣士「気を失って、それぐらい彷徨っていたんじゃないのか」

僧侶「……死なないか、それ」

剣士「…… ……そう、か」

魔法使い「精々2、3日だぜ、納得できるのは」

僧侶「帰ろうとする気を削ぐ、為?」

剣士「まあ……考えられなくは無い、な」

僧侶「……だが、現実だ」

剣士「……」

魔法使い「だな…… 2日だろうが、一週間だろうが」

剣士「……俺たちの島は、もう……無いんだ」

魔法使い「…… ……」

僧侶「さっさと寝ちまおうぜ。明日にゃ放り出される、んだろ」

剣士「あの、少年ってガキは……」

魔法使い「あン?」

剣士「いや……姉に比べれば、まだまともそうに見えた、んだけどな」

僧侶「どっちもどっちさ…… ……お休み」

魔法使い「……ああ。お休み」

剣士「…… ……」


……

………

…………


少年「ほら、見えてきた。あれが北の街だよ」

剣士「近い、つってももう日暮れだぞ」
0875この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:13:42.04ID:GvAUEfz5
少年「まあ、半日……だね」

魔法使い「折角布団でゆっくり眠れると思ったのに……」ファア

僧侶「顎外れるぞお前……たたき起こされたから俺も眠いっての」

剣士「……おい、少年」

少年「何?あと半刻程で着くよ」

剣士「そうじゃない……お前達、ずっとあの村に居るのか?」

少年「さあね……人口が増えれば、どこかに移動するんじゃ無い」

魔法使い「ほっとけよ、剣士……」

剣士「……口ぶりからすれば、腕に自信はあるんだろう」

剣士「そういう一族なんだろう?それを……魔王討伐に向けようとは思わないのか?」

少年「そんな事してどうするのさ。僕たちが僕たちだけの王国を作れば」

少年「……僕たちの祖先を蔑んだ魔族も、足下にひれ伏すかもしれないのに?」

僧侶「そりゃ……嘘だな」

少年「…… ……」

魔法使い「僧侶?」

僧侶「対等な関係が結べれば、さらなる力をつける事ができる……の方が」

僧侶「正解に近いんじゃネェの」

剣士「……全滅されても困る、か」

少年「良くわかんないな、僕には」

魔法使い「……そうかよ」

剣士「…… ……」ハァ

僧侶「魔族も、魔王も利用するとか考えてるならやめておいた方が良いと思うぞ」

少年「…… ……」

魔法使い「そうそう。魔王は俺たちが……」

剣士「魔法使い」

少年「……倒す、とでも言いたいの?無理だよ」

少年「たかだか、劣等種のお兄さん達には」

僧侶「優れた人間である、自分達でも無理なのに?」

少年「……ッ 無理じゃない!何れ、一族が増えらた……!」

剣士「言い出したのが俺じゃ言いにくいが……やめとけ、僧侶」
0876この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:14:50.66ID:GvAUEfz5
少年「…… ……ッ ほら、さっさと降りて。着いたよ」

魔法使い「え、ちょ、入り江までつけてくれないの!?」

少年「足着くだろ。これ以上入っていくと、出る時面倒なんだよ」

剣士「……一晩の休息、恩に着るよ」

少年「……フン」

魔法使い「やれやれ……お前が期限損ねるからだぞ、僧侶」

僧侶「俺の所為!?」

少年「…… ……見てろ。僕は……そのうち王になってやるからな!」

魔法使い「捨て台詞吐いて行っちゃったなぁ」

剣士「……姉よりマシかと思ったが、同じ様なモンだったな」

僧侶「斜に構えたがるお年頃、ってね……さて」

僧侶「……北の街、とやらに着いたは良いが、どーすっかね」

剣士「あっちに船がある……あれ、借りられないか」

魔法使い「魔王倒しに行くから貸して下さい、って言うのか」

僧侶「案外、アリじゃね?」

魔法使い「え?」

僧侶「あの……火の玉は結構な人間が目撃してんだろ」

僧侶「素直に話して、あの島の出身です的な話すりゃ」

剣士「…… ……あり、かな」

魔法使い「えええええ、マジで!?」

僧侶「ついでに有り金全部置いてきゃ良いさ」

魔法使い「おいおいおいおい、戻って来た時どーすんだよ!」

魔法使い「俺ら一文無し!?」

剣士「そん時ゃ、まさしく英雄サマだ」

剣士「……どうにでもなるよ、金なんて」

魔法使い「あ……そっか……」

僧侶「生きて帰れたら、な」

剣士「死んだらどっちにしろ、金なんていらないさ」

魔法使い「……ご尤も」

剣士「良し、僧侶、任せた」
0877この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:14:58.25ID:GvAUEfz5
僧侶「えええええええええええええ!?」

魔法使い「口から出任せ、一番得意だろ」

僧侶「出任せじゃねぇだろ!」

魔法使い「俺らはその間に情報収集すっかね」

剣士「だな」

僧侶「まじかよ……お前ら」

剣士「船の持ち主……あの裏の家、かな」

魔法使い「良し、行ってこい!」バン!

僧侶「いってええええええええ!!」

僧侶「……くそったれぇ」ブツブツ……スタスタ


……

………

…………


僧侶「と、言う訳でして、ね」

町長「は、はあ……そりゃ、こんな大金積まれちゃ……」

町長「しかも、魔王を倒しに行くというのでしたら、船ぐらい差し上げますが……」

僧侶「本当ですが!」

町長「はあ……コレだけあれば、もう一隻船が買えますからね」

町長「しかし……その……大丈夫なのですか、三人で、と言うのは……」
0878この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:15:42.62ID:cuM4y9tV
僧侶「……まあ、やるだけやってみますよ」

町長「そうですか……解りました。では、帰られるまで、お金はお預かり致します」

僧侶「え、いえいえ、差し上げますって」

町長「いえ、あの、差し出がましいのですが……」チラ

僧侶「はい?」

町長「その……そちらの、腰に差していらっしゃるの……地図、ですよね?」

僧侶「え?あ……コレですか?」ガサ

町長「は、はい!よろしければ、そちらを頂けませんか」

僧侶「へ?」

町長「私は、その……地図を集めていまして」

僧侶「いやいやいや、これ、何処にでも売ってる地図ですよ!?」

町長「古い物はあるのですが、現行の物が今、中々手に入らないのですよ」

町長「魔王の城を目指された人も何人も知っています。大体、此処に寄られるのでね」

僧侶「はあ……」

町長「帰って来た者はおりませんが、大体こうやって皆お金を積まれて」

町長「船を貸してくれ、もしくは売ってくれと言うのです」

町長「土地柄、航行は盛んですので……それは構わないのですけどね」

僧侶(人の良さそうな顔して、結構がめついなぁ、この親父……)
0879この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 15:16:00.80ID:uZYIm7Ug
僧侶(帰って来ないから、お金はありがたく頂戴したって暴露してる様なモンじゃねぇか)

僧侶「まあ……どうぞ。こんなモンで良ければ」

町長「ありがとうございます!どうぞ、船はご自由にお使い下さい!」

僧侶「いえいえ……此方こそありがとうございます」

僧侶(まあ……結果オーライ、かな)



……

………

…………



剣士「……しっかしぼろい船だな」

魔法使い「文句言わない、言わない。生きて帰りゃ金も戻ってくるし」

僧侶「地図なんか集めてどーすんだかな」

剣士「コレクターって奴は、良くわかんないモンに価値を見いだしてこそ、なんじゃないのか」

僧侶「そういうモンかね……」
0881この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:39:47.89ID:bCLCkvDu
剣士「……あの大陸、か」

僧侶「……」

魔法使い「とうとう乗り込む……か」

剣士「……気合い、入れとけよ。多分、魔物の強さも桁外れだ」

魔法使い「だ、な」

僧侶「良し……そこだ、止めろ」

剣士「…… ……」

魔法使い「…… ……」

僧侶「…… ……」

剣士「降りろ……行くぞ」

魔法使い「おう」

僧侶「……ああ」

剣士「空が……真っ黒だな」

魔法使い「紫、だろ……黒に近いけど」

僧侶「…… ……あっちだ。屋根みたいなのが見える」スタスタ

剣士「僧侶、殿を行け……魔法使い、間に入れ」

魔法使い「あいよ……つか、妙に静か……じゃ、ね?」

僧侶「……風の音しかしないな」

剣士「! ……見ろ、街だ!」

僧侶「……ッ ……街、は街だが……」

魔法使い「気配はしないな…… ……あれ、十字架か?」

剣士「折れてる奴か……みたいだな」

僧侶「魔物達の街に、十字架? ……不似合いだな」

剣士「そろっと抜けよう……気は抜くなよ」
0882この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:39:56.58ID:GrRXJoak
……

………

…………



僧侶「城門だな」

魔法使い「ああ……そうだな」

剣士「此処まで……魔物にすら会わない、てのは……どういうことだ」

僧侶「でかいなぁ……」

魔法使い「ああ、でかいな」

剣士「漫才みたいな会話してないで、聞けよ!」
0883この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:40:19.95ID:OCP7mVAu
僧侶「でかい声出すなよ……聞いてるよ」

魔法使い「どう考えても罠……だわな」

剣士「……どうする?」

僧侶「今更それ、聞く?」

魔法使い「答える迄もネェわな」

剣士「良し……開けるぞ!」



ギィィイイ…… ……ッ



魔法使い「……広ッ」

僧侶「へえ、結構良い趣味してんなぁ」

剣士「お前らな……」

魔法使い「……で、此処にも気配無し、と」

剣士「どこから何が飛び出してくるかわかんないぞ」

僧侶「あの階段の上の扉……から行ってみるか」コツコツ



コツコツ……コツコツ……キィ



??「ようこそ、お客人」

剣士「!」

魔法使い「ど、何処だ!?」

僧侶「……ッ」

??「何だ……私を探していたのでは無いのか」



剣士(漆黒の髪、赤い目……真っ赤な、剣……!)

魔法使い(こ……ッ この、魔力……は……ッ!!)

僧侶(何で……ッ 何も、何も感じなかった……!!しかし、こいつは……!!)

僧侶「ま……おう…… ……?」
0884この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:41:17.01ID:8w7YZYq6
魔王「いかにも、私が魔王だ……勇者達よ」



魔法使い「う…… ……ッ うわああああああああああああああああッ!!」

剣士「魔法使い!?」

魔法使い「ほ、炎よ……ッ」ボオゥ……ッ

魔王「……ふむ。手荒いなあ」ス…… バチン!



シュウウゥ……



剣士「!」

剣士(あ……あんなに、簡単に……ッ)

僧侶「は……じ、いた……ッ」

魔法使い「あ、 ……あ、あああ。あああああああああああああ!」ボウッ

剣士「うわあああああああああああ!!」ダダダ……ッ ブゥン!!

僧侶「ちょ、ま……ッ ……う、うわあああああ!?」

魔王「……気持ちは解らなくも無いが……何を言っても、通じない、か」ブゥン

魔王「……はぁッ」



ザシュ……ッ ガキィィン……ッ



剣士「うわああああああああああああああああ!」ドン!

魔法使い「ぎゃああああああああ!!」バン!ズルズルズル…… ドサッ

僧侶「ああああああああああ……ッ あ、アァアアア!」ブン……ッドン!

魔王「……力加減がどうにも旨く行かんな」チラ

魔王「なあ、人間よ……こんな所で、無駄に命を散らす必要は無い」

魔王「死にたくは無いだろう……『生きたいか』」

剣士「ふ……ッ ざ、ける、な……ッ」

剣士「ま、おう……の、なさ……け、で ……ッ いき、てどうしろ……と……!」

魔法使い「お、前……を、たお ……な、きゃ……ッ し、ん……も、しにきれ ……る、か!」

僧侶「…… …… ……」
0885この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:41:32.93ID:KBowk+Hb
魔王「強情だな……まあ、そりゃそうだろうが」フゥ

剣士「ば……け、もの…… め……ッ!!」

魔法使い「おれ、た……ち、のせか……こわ ……し、やがっ ……て!!」ゲホッ

剣士「皆 ……を、かえせ ……!!しま、を……ッ」

剣士「親 ……を ……兄、 ……を、かえ ……ッ」ゴボゴボ……ゴフッ

魔王「……喋るな、と言っても無駄、かな」

魔王「……そこの。お前は?」

僧侶「…… …… ……」

剣士「おれ ……た、ちの ……しあわ ……う ……ッけん ……など!」

僧侶「…… …… ……」

魔法使い「ん、り ……など、おま ……に、な……!!」

魔王「『生きたいか』」
0886この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:42:00.22ID:oQ9QmFCv
僧侶(生きる……死ぬ……死ぬ、のか?俺は……)

僧侶(こんな、所…… で ……死ぬ、終わる……?)

僧侶「 ……だ」

魔王「ん?」

僧侶「い、や ……だ しに……く、な……ッ しぬ、の……は ……や、だ!!」

魔王「ふむ……ならば生きろ。強い意思を持ち、己が手を取るが良い……人の子よ」

僧侶「…… …… ……」

魔王「無理か……仕方無いな」フウ。スタスタ……ギュ

魔王「……生きろ。輝かしい、人の子よ」グッ

僧侶(……ッ 何だ?何か…… ……流れ、込んで…… ……ッ)

僧侶「うわあああああああああああああああああああああああ!!」ガタガタガタ

魔王「……ほう」

僧侶「ああ。ああああああ。 ……あああああああああああああああッ!!」ハアハア

僧侶「うわああああああああああああああ!!」ダダダ……ッ ゴオオオウ……ッ

魔王「あっはっはっはっは!元気があって何よりだな!」ドン!

僧侶「ぐ、う……ッ」ブウン……ドン!

僧侶「あ、ああ……ッ あ……」ズルズルズル……ベチャ

僧侶「あ…… ……アァ」ゲホゲホゲホッ

魔王「ふむ。落ち着いたか?」

僧侶「え…… ……お、れ……」ズキッ

僧侶「ぐ……ッ」

魔王「悪いなぁ、まだ余り力の加減が解って居なくてな」

魔王「お前、回復魔法は使えるか?城には回復できる奴なんか居ないから」

魔王「……出来ないなら、まあ、精のつく物ぐらい食わしてやるが」

僧侶「う、うぅ……う、ぅ……」パァ……

魔王「お……良かった良かった」

僧侶「良い事……ある、か……ッ」

魔王「生きたいと願ったのはお前だろう?」
0887この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:42:36.74ID:WM9LTTHU
僧侶「!」

僧侶(生きたい……そうだ、俺、死にたくない……って……!!)

僧侶「剣士!魔法使い……!」

魔王「…… ……」

僧侶「……あ、ァ」ヘタヘタ

魔王「気分はどうだ」

僧侶「ふ……ッ ふざけるな!どうして俺だけ助けた!?どうして二人を……!!」

僧侶「どうして、島を……!!」

魔王「……」ハァ

魔王「話をしようとしたら、先に仕掛けて来たのはお前の仲間の方だ」

魔王「……まあ、力の加減が出来なかった事は素直に謝ろう。すまんかった」

僧侶「…… ……ッ」

魔王「島の事も謝らねばならんな……しかし、アレは私の仕業では無い」

僧侶「お前……ッ この期に及んで……ッ」

魔王「……が、前『魔王』の仕業である事には違い無い」

魔王「悪かった。アレは……非常に好戦的な輩でな」

魔王「もう少し……私があいつを殺すのが早ければ…… ……すまなかった」ス……

僧侶「……な、何の真似……だ……!」

魔王「ん?土下座、と言うのはこうやってするんじゃ無いのか」

僧侶「は!?」

魔王「人に対して、誠心誠意わびる時には、こうして土下座、とやらをするのだろう」

僧侶「な……!!」

魔王「取りあえず……二人の亡骸を弔ってやらんか。そして……」

魔王「私の話を聞いて欲しい。人の子だった者よ」

僧侶「……ちょ、ちょい待て、今……なんつった?」

魔王「『私の話を聞いて欲しい。人の子だった者よ』……もう一回言うか?」

僧侶「……もう良い。その、人の子だった者……て、何だよ」

魔王「お前は、生きたいと願ったでは無いか」

僧侶「……ッ そ、そうだ!どうして……どうして、俺だけ助けた!?」

僧侶「魔法使いは、剣士……は……!」
0888この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:42:57.01ID:1i0BpvrX
魔王「さっきもそれ、聞かれたな」

魔王「……で、私も提案したんだがな。まあ良い……おい、そっちの奴、持てるか?」

僧侶「は!?」

魔王「弔ってやろう……庭へ行き、浄化する」ヒョイ

魔王「着いて来い」スタスタ

僧侶「あ、ちょ……ッ」

僧侶「…… ……魔法使い……」グイ……ッスタスタ

僧侶「お、おい!待てよ!」

魔王「走れるぐらい回復したか……ふむ、成功、かな」

僧侶「え?あ……」

僧侶(そうだ、俺……死にかけ、た筈だ)

僧侶(魔王に……命を、救われた……!?しかも、何だ……この)

僧侶(溢れんばかりの……魔力……体力……)

魔王「……此処で良いか。花を燃やすと怒られるしな」トン

僧侶「お、おい……!」

魔王「傍においてやれ」

僧侶「何するんだよ!」

魔王「弔うのだと言っているだろう。このままでは……余りにも不憫だろう?」

僧侶「……ど、どうやって……」

魔王「炎で燃やすのだ。器は土に還り、魂は空へ孵る……そして、全ての柵から解き放たれ」

魔王「……浄化される」

僧侶「浄化……」

魔王「火をつけるぞ。良いか?」

僧侶「…… ……」

魔王「…… ……」ボウ……ッ



パチ、パチ……ッ
0889この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 19:43:36.41ID:ZP5CthM8
僧侶「…… ……」ポロポロ

魔王「泣いているのか」

僧侶「…… ……何で、俺だけ助けた」

魔王「この二人は、生きたいか、との問いに」

魔王「否、と答えた。お前は応とした……だからだ」

僧侶「……」

魔王「人と言うのは解らんな。お前が強いのか弱いのか」

魔王「この二人が強いのか弱いのか……私には、解らん」

僧侶「俺は……強くなんかネェ。敵……魔王のお前に」

僧侶「助けてくれ、だなんて…… ……」

魔王「素直さは強さでは無いのか?」

僧侶「……弱いから、無様な命乞いでも平気で出来たんだろうよ」

魔王「ふむ……しかし、お前もう人では無いしなぁ」

僧侶「……は!?」

魔王「さっきも言ったが、魔族は回復魔法等と言う、器用な物は使えないのだ」

魔王「書物によれば、強くも弱くもある人である者の特権だと書かれていたがな」

僧侶「書物? ……いや、ちょっと待て」

僧侶「俺が人じゃ無いってどういうことだ!?」

魔王「お前、人の話聞いていたか?」

魔王「だから、魔族である私に、回復など出来んのだ、って」

僧侶「じゃ、じゃあ……俺は、何だって言うんだよ!」

魔王「……魔族?」

僧侶「首を傾げるな!いっこも可愛くねぇ!」

魔王「いや、それも書物にあってな」

僧侶「何だよ!人を魔に変える方法とか書いた本でも読んだってのか!」

魔王「凄いなお前。正解だ」

僧侶「……マジかよ」

僧侶「ちょ、じゃ……じゃあ、俺、魔族になったって事!?」
0890この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:45:42.13ID:ZP5CthM8
魔王「いやあ……こんなに旨く行くとはなぁ……」

僧侶「お、お前なあああああ!」

魔王「しかし、願いは叶っただろう?人としてのお前は死んだが、魔族として生き返った」

僧侶「……ッ」

魔王「強い意思がなければ、成功しないそうだ」

魔王「……私も、やっと魔王になったという実感が持てたよ」

僧侶「! そ、そうだ!お前……ッさっきの話は何なんだ!」

僧侶「前魔王がどうとか……!」

魔王「ん?ああ……言葉の通りなのだがな」

魔王「先代……まあ、親父だな」

魔王「親父は随分と好戦的でな……島を沈めたのも、親父の仕業だ」

僧侶「そんな、そんな話……ッ」

魔王「やはり……信じられないか?」

僧侶「…… ……」

魔王「……まあ、良い。聞くだけ聞くが良い」

魔王「親父が言うには、『王』と言うのは都合が悪いそうだ」

魔王「私がまだ子供だった頃、一つ……王の居た街を滅ぼしたとも言っていた」

魔王「そうして……お前達の居た、島だ」

魔王「『親切にも宣戦布告してやったのに、あの王は態々勇者達の旅立ちを早め』」

魔王「『私に、魔王に逆らった。焼くだけにしようと思ったが、見せしめだ』」

魔王「『……島毎、沈めてやったわ』 ……とな」

僧侶「……殺した、とか言ってたな。その、前魔王を……」

魔王「ああ。代々魔王と言うのは世襲制でな」

僧侶「……だい、だい?」

魔王「そうだ。魔王の子が魔王になるのだ……そして、交代の儀式は親殺し」

僧侶「!?」

魔王「そして先ほど……見たであろう。あの魔王の剣と魔王としての力を」

魔王「受け継いでゆくのだ」

僧侶「…… ……あっさり、言うなよ」

魔王「何故そんな顔をする?」
0891この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:46:18.05ID:g3ZzhcqS
魔王「お前達人間に取って、あの魔王は害悪以外の何物でもなかろう?」

僧侶「……俺は、もう人間じゃねぇんだろ」

魔王「ふむ……そうだったな」

僧侶「だが、お前が居るじゃないか。新たな……魔王、が」

魔王「まあ……確かにそうだ。だが……別に私は人を滅ぼそう等思わんよ」

僧侶「何……?」

魔王「……終わったな」

僧侶「あ…… ……」

魔王「安心しろ。二人は……もう、苦しまん」

僧侶「……」

魔王「で……お前、どうするんだ?」

僧侶「へ?」

魔王「いや、此処に居たければ居て良いけど」

僧侶「は!?」

魔王「…… ……」

僧侶「お、おいおいおい、放り出す気か!?」

魔王「だから、居たければ居て良いって」

僧侶「……俺、人間じゃなくなったんだろう」

僧侶「何処で、どうしろって言うんだよ……」

魔王「ふむ……私としては此処に居てくれれば助かるが」

僧侶「……?」

魔王「先代の腰巾着共は、過激な奴が多かったのでな」

魔王「ついでに殆ど殺してしまったんだ」

僧侶「…… ……は、はあ」

魔王「残しておいても、私には従わんだろうしな」

僧侶「……やっぱ、アンタ間違い無く魔王なんだな」

魔王「ん?」

僧侶「いや……何でもネェよ」

魔王「魔王の交代の儀式を知る者は少ないからな」

魔王「私が親父を殺したと言えば従うだろうが……あまり意味が無いしなぁ」
0892この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:47:01.04ID:g3ZzhcqS
僧侶「……? 何故だ?」

魔王「私の思想は、親父とは正反対、だからだな」

僧侶「正反対……?」

魔王「まあ、良い……お前、行くところが無いのなら」

魔王「私の『側近』にならないか」

僧侶「……は!?」

僧侶「『側近』!?俺が!?魔王の!?」

魔王「ふむ……まあ、厭なら無理強いはせんが」

僧侶「な、何だよ……断ったら殺すとか言わないだろうな」

魔王「阿呆。そんな事はせんわ。好きにすると良い」

僧侶「い、いや、だから……放り出されても、ね?」

魔王「煮え切らん奴だな。どうしたいかはっきり言え」

僧侶「……帰る場所なんか、だから、ネェって!」

魔王「まあ、そうだなぁ。何百年……もっとか。見かけも変わらないだろうしな」

僧侶「……まじで」

魔王「人の地を転々とするのも、面倒だろう」

僧侶「そりゃ、まあ……つか」

僧侶「……魔王を倒すって目標も……無くなった、しな」

僧侶「行きたい所も……」

魔王「ふむ。ならば遠慮せず、此処に居れば良い」

魔王「お前の名は今から側近、だ。良いな?」

側近「へ? ……つか、新しい名前とか意味あるのかよ」

魔王「意味があるかどうかは解らんが、新しい生のスタートとしてのけじめとして」

魔王「必要な事だと思うからな……気に入らんか?」

側近「い、いや……良いよ、それで」

魔王「ふむ」

側近「……解ったよ。どうせ行くところも、行ける所もない」

側近「この城に住んで、お前の傍に居てやるよ……魔王様」

魔王「うむ」

側近「嬉しそうにニコニコすんなよ……」
0893この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:48:06.49ID:tP5kFUKO
魔王「しかし、お前……僧侶だったんだよな」

側近「あ?ああ……まあ」

魔王「良し。属性は……緑か。風の攻撃魔法を教えてやろう」

側近「は!?無理無理無理!」

魔王「魔法なんて言う物は、要は使い方だ。それに、お前」

魔王「さっき暴走した時に、風の魔法を使おうとしてたぞ?」

側近「ぼう……そう? ……あ!」

魔王「なんと無く覚えてるか?」

側近「そ、うだ……お前……!笑いながら俺の事吹っ飛ばしやがったな……!」

魔王「何だ、覚えてるのか……そう、あの時だな」

魔王「お前はきっと素質があるよ。私がみっちり鍛えてやろう」

側近「じょ、冗談じゃねぇ!」

魔王「私の側近として走り回って貰うのだからな、回復や補助だけじゃ」

魔王「何の役にも立たん」

側近「……まじで言ってんの」

魔王「当然だ」

側近「…… ……さよですか」ハァ

魔王「取りあえず、私の右腕達を紹介しようか」

側近「右腕?」

魔王「まあ、友人であり頼れる部下だ」

魔王「魔導将軍と、鴉部隊長」

側近「……将軍に隊長、っすか」

魔王「何を言う。お前は側近だろう、私の」

側近「……前言撤回して良いか」

魔王「残念だな。もう遅い」ハハハ


……

………

…………
0894この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:49:22.24ID:LytJTMAj
側近「……ん」

勇者「側近!もう昼だ!」

側近「……俺、目見えないから、ずっと夜……」

勇者「……蹴るぞ」

側近「ご免なさい、起きます起きます……よいしょ」

勇者「さっき、倉庫に手紙置きに行ったら女剣士に会ったよ」

側近「おう……なんて?」

勇者「午後から王子と一緒に来るってさ」

側近「ん?王子も?」

勇者「ああ。誕生日なんだってさ、弟王子の」

側近「そうか……幾つになったんだ?」

勇者「俺?14歳」

側近「阿呆。弟王子だ」

勇者「ああ、なんだそっちかえっと……12歳って言ってたかな」

側近「へぇ……」

側近(夢……か。これまた、懐かしい夢みたもんだ……)

勇者「近い内に誕生パーティーするらしくてさ」

側近「ふぅん……」

側近(俺が……前魔王様に魔族にされた頃……)

勇者「それで…… ……」

側近(……ジジィの方の魔導将軍と、鴉のババァが……)

勇者「…… ……」

側近(懐かしいな……)

勇者「側近!!」ユサユサ

側近「起きてる起きてる、聞いてる聞いてる……揺らすなって」

勇者「俺たちも招待してくれるとか言ってたぞ」

側近「……えー」

勇者「えー、って」

側近「お前は良いけど……いや、良くないか……」
0895この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:50:44.83ID:P5JFvDsS
勇者「何でだよ」

側近「何時も言ってるだろ?お前は、魔王を倒す運命を持った……」

勇者「王様が是非にって言ってたんだって!」ユサユサ

側近「……だから、揺らすなって……」ガクガク

側近「解った解った、とにかく女剣士が来たらちゃんと聞くから、話すから」

勇者「絶対だぜ!」

側近「はいはい……とりあえず、飯にするか……」

勇者「疲れてるんだと思って待っててやったのに、それかよ……」

側近「悪かったって……ご高齢なんだから、大事にしてくれよ」

勇者「……じゃあ雑炊でも作ってやろうか、おじいちゃん」

側近「そんな歳よりじゃネェよ!」

側近(……しかし、見えないからわかんねぇけど)

側近(不自然に見えない程度に老けて行ってる、て行ってたな)

側近(……でも、まだ……生きてる)


コンコン


勇者「あ……はい!」

側近「どなたですか」

女剣士「王国騎士団、騎士団長の女剣士です」

女剣士「ご面会願えますか」

勇者「……は、はい」

側近「解ってると思うが、笑うなよ」

勇者「大丈夫だよ……」スタスタ、カチャ

女剣士「ごきげんよう、勇者様。お変わりありませんか」
0896この頃流行の名無しの子垢版2021/03/02(火) 20:50:57.05ID:uzQQwmEj
勇者「はい……大丈夫です」

女剣士「側近殿、入ってもよろしいでしょうか」

側近「ええ、どうぞ」

女剣士「騎士二人は少し離れて、待て! ……王子様、どうぞ」

王子「失礼します……勇者様、お久しぶりです」

勇者「これは王子様……態々ご足労頂き、恐縮です」

女剣士「何人も近づけるな。良いな!」

騎士「はッ」


パタン


勇者「……」

女剣士「……」

王子「……」

側近「……」



プッ……クスクスクス



側近「女剣士が一番笑えるな……」

女剣士「煩いな、側近!」

勇者「王子!久しぶりだな!」

王子「おう! ……お母様が煩いからな、中々来れないんだ」

側近「弟王子は元気か?」

王子「うん……一緒には来れなかったけどね」

側近「まだ体調悪いのか?」
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