「...、トイレさわった後に、カレーなんてイヤだよねぇ...。」


伊藤さん、涙目になってる。
「いやいや大丈夫ですよ。気になりませんよ。全然平気。そんな繊細な神経じゃないですからwww」
「で、でも、ぐすぐす...、気が効かなかったね...。やっぱやだよねぇ。ごめんねぇぐすぐすぐず。」鼻声で目が真っ赤だ。
こんなトキになだめられるボキャブラリー、有るワケがない。
「早くください!お腹へって死にそうですっ!いつまでもそこに立ってるなら俺立ち上がって押し倒してその皿に口つけますよ!」
「...、ごめん。どうぞ...。」やっと座ってくれた。マジで皿に喰いつきそうだった。
スプーン取って「いただきます!」と叫ぶが早いかカレーにスプーン突っ込むが早いか、すくいとって口に放り込む。

その後の数分間は記憶にない。いや覚えてるけど現実とは思えない。

口に放り込んだカレーの香りと味の衝撃が、口の中から脳天延髄脊髄肋骨骨盤睾丸陰茎肛門大腿骨膝間接足首爪先まで、稲妻のように走った。
「おいしい」とか「ウマい」とかじゃない。鍵穴にCRC556吹きかけて合鍵つっこんで回したトキみたいに、「カチッ」と何かが一致した。
ジグソーパズルの一片一片のように、スプーンですくった一口一口が俺の体に組み込まれる。
3口食べてミネストローネに口をつけると、それが潤滑油になり体に組み込まれるのを更にスムーズにしてくれるコトに気付いた。
数十秒間、黙々とスプーンを皿と口の間を機械のように往復させ、合間にミネストローネのカップを口に運ぶ。
皿が空になると、自然と「おかわり」と言っていた。
伊藤さんが目を丸くしてごはんよそってる隙に、お盆の隅に忘れられてた缶ビールに口をつける。リセットボタンだったようだ。
2杯目のカレーが目の前に置かれた瞬間、「fight!」と言う声を聴いた。