東洋英和女学院 論文ねつ造などで深井院長を懲戒解雇
2019年5月10日

東洋英和女学院のトップで、ドイツ宗教学が専門の深井智朗院長が、過去の著書でねつ造などの不正行為を行っていたとして、
学院は10日、懲戒解雇処分にすることを決めました。
院長は一部については「想像で書いた」などと話す一方、意図的な不正は認めていないということです。

東洋英和女学院の深井智朗院長(54)は、平成24年に出版したドイツ宗教学の専門書、
『ヴァイマールの聖なる政治的精神ードイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』の中で、
「カール・レーフラー」という人物を神学者として紹介し、この人物が書いたとする論文を取り上げています。
これについて、ほかの研究者が「実在しないのではないか」と指摘したことをきっかけに、東洋英和女学院は、
院長が教授を務める東洋英和女学院大学に調査委員会を設け、10日調査結果を公表しました。

それによりますと、「カール・レーフラー」という人物は存在せず、
この人物が書いたとする論文は院長によるねつ造と判断したということです。
また、この著書には別の研究者の論文とほぼ同じ内容の記述が10か所で認められ、盗用があったと判断しました。
さらに、院長が4年前に雑誌『図書』に発表した「エルンスト・トレルチの家計簿」についても、
院長が根拠として提出した資料は全く関係のないもので、ねつ造した資料によって書かれたと判断しました。
調査委員会は、これらの著書と論考で不正行為があったと認定し、学術的、社会的な影響が極めて大きく、
極めて悪質だと指摘しています。
これを受けて、東洋英和女学院は10日臨時理事会を開き、深井院長を懲戒解雇処分にすることを決めました。

深井院長はドイツ宗教学が専門で、多くの著作があり、おととし出版した新書『プロテスタンティズム』
は優れた論文や著作に与えられる「読売・吉野作造賞」を受賞しています。
調査に対して、一部については「想像で書いた」などと話す一方、意図的な不正は認めていないということです。

深井院長 不正発覚の経緯
深井智朗院長は『ヴァイマールの聖なる政治的精神』の中で、「カール・レーフラー」という人物が1924年に書いたとする論文
「今日の神学にとってのニーチェ」を取り上げています。
また、レーフラーという人物の考察に4ページを割き、神学者としての理念や境遇を具体的に記しています。
これについて、この本の書評を担当した北海学園大学の小柳敦史准教授が検証を進めたところ、
参考文献が明記されていなかったり、誤って表記されていたりする箇所が多数あり、
レーフラーの存在を証明する資料や論文そのものを見つけることができなかったということです。
このほか、雑誌『図書』に掲載された「エルンスト・トレルチの家計簿」についても、
論考の根拠が不明だったということです。
このため小柳准教授は、去年9月、日本基督教学会の学会誌に公開質問状を掲載し、
深井院長は同じ誌面で、カール・レーフラーという人物は存在し、論文はドイツの文献に載っているなどと主張していました。

こうした経緯を重くみた東洋英和女学院大学は、去年10月、外部の専門家を交えた調査委員会を立ち上げ、
深井院長に根拠となった資料の提出を求め、ヒアリングを行うなどして検証を進めてきました。
大学によりますと、この中で院長は、「カール・レーフラー」について名前が似ているドイツ人美術史家の名前を挙げて、
「同一人物だった」と主張しましたが、委員会の調べでは、この美術史家は実在するものの、
神学者としての研究や業績は確認されませんでした。
また、「エルンスト・トレルチの家計簿」の論考の根拠として院長が提出した資料は、
ある神学者が書き残した会議の議事録で、家計簿とは全く関係がなかったということです。
さらに、深井院長はこの論考の中で、ドイツにある大学の資料室で「興味深い資料を見つけた」
とみずから現地で発見したことを記していますが、この資料室に問い合わせたところ、
本人が訪れた記録はなかったということです。
調査委員会はこれらの行為について、「研究者としての倫理が欠如し、思い込みや伝聞を恣意(しい)的に解釈している」と厳しく批判しています。