それでは「抑圧移譲の原理」とは、どんなことなのでしょうか。

上に述べましたように、個人個人の内面的倫理が確立されておらず、
個人の行動規範が権力との一体化の中にある社会では、人は生き抜くためには、
常に上級者の顔色をうかがい、自分の行為が上から正当化されるのを求めます。
上から正当化されれば、それは自分の責任ではないのです。

でもこうした社会では、誰もが常に上からの圧迫を感じているので、
下へ威張り散らすことでそれを発散させようとするのです。
上からの圧迫は、常に下へ下へと送られ、最も弱い存在に責任転嫁されていくことになります。

またこうした社会では、法(規則)は上意下達の権力秩序を維持するための手段に過ぎませんから、
法を守ることを強要されるのは、もっぱら下の者で、権力者には極めてルーズになります。
ファシズム体質は、強者に優しく、弱者に残酷だと言われる所以です。

丸山氏はこう語っています。

「自らの良心に従って行動するのではなく、あくまでもより上級者(天皇により近い者)の存在によって
行動が規定されているから、独裁ではなく、抑圧の移譲による精神的均衡の保持とでもいうべき現象が生まれる。
つまり、上からの圧力を下の者へ威張り散らすことで解消しようという衝動である。」

理不尽と暴力が支配していた皇軍(大日本帝国の軍隊)の中身は、まさにこの通りであったと思います。