【ある男の一生】

ボロアパートで息を潜めての一人暮らし。
「自分が得する事」だけを優先し続けてきたから妻子も友人もいない。
携帯もiPhoneも持っているが2chの書き込みにしか使った事がない。
親族からの冠婚葬祭の葉書や年賀状も来なくなった。
唯一の生き甲斐は2ちゃんで人気者になりきって他人を中傷する事だけ。

風俗以外でのセックスなんてもう18年くらいしていない。
ネット無料動画のAV女優やちょいブスAKBアイドルだけが俺の恋人。
ペニスの勃ちも悪く、尿漏れ、大便漏れが酷くなってきている。
虫歯だらけ、白髪は抜け落ち、唯一の自慢である糖質制限の知識。
もともと体力もないので最近じゃ駅の階段を上るだけで膝や関節が痛む。
重力に勝てないシミだらけの老いた肉体を鏡に映しては
男子にも女子にも仲間ハズレにされ続け屈折した少年時代を思い出す。

しかし若い頃はまだ良かった。
俺の趣味は糖質制限で〜す(笑)なんて笑える余裕があった。
あの頃のネラー仲間はもう皆結婚して孫を連れて遊園地にいくお爺ちゃんだ。
電話ももうずっと鳴っていない。

クラスメイトから嫌われて避けられてきた10代。
恋人なんてすぐ出来ると思って東京にやってきた20代。
結婚なんてしなくても生きていけると強がった30代。
周囲の人間から距離を置かれ始めた40代。
いよいよ社会との接触が希薄になり孤独が確定した50代。
そして週2回のヘルパー以外は周りに誰もいなくなった60歳。

一日中狂ったようにIDを切り替えて夢中で連投した後は、
ボロボロのカビ臭い布団に顔を隠して泣きながら眠りにつく毎日。
「早くお迎えが来て欲しい」と願いながら床に就く 。