確かに弘樹は異常なレベルの泣き虫だった。
お人好しでいつもヘラヘラ、後輩にいじられても「やめろよー」と笑顔。でも30秒後には、ちょっと強くどつかれただけで号泣になっていた。
激しい大泣きになると涙が目から直接飛び散って、いじめっ子や野次馬を直撃して「きたねぇー」と冷やかされてますます号泣。
自分にもこの子の涙が飛んできたことがあって、大粒の雨が叩きつけたように軽く痛みを感じるほどだった。

寿恵は授業中も上の空で、消しゴムを分解したり枝毛を裂いたり。
自分も彼女もバス通学だったが、バスの運転手から「遅い便ですごい泣き虫の子がいるけど、同級生?」と聞かれたこともある。
多分、遅刻ギリギリのバスの中で毎日泣きじゃくってたんだろうね。
一応は進学校在籍、作文大会で毎年入賞したりと年齢以上な部分もあったが、その何倍も遅れた面が目立つ子だった。
母親から聞いたが、確かADHDか何かあったはず。小中時代は障害児教室に通ってたっぽいし。

彼女は一度、大掃除で机を二つも運ぼうとして、机ごと階段から落下した。
必死で堪えるもみるみる表情が崩れ、廊下で不特定多数の前で大号泣。
真っ赤に腫れ上がった瞼から、7mmくらいはありそうな特大の涙を溢れさせて、鼻水も糸を引いて顔はぐしょぐしょ。
教師に促されて戻ってきた後もしゃくりあげ続け、時々「うぇーぇぇーえーーーん」とか「痛かったー、痛かったー」とか泣き声を漏らしてた。
椅子に座らされて、スカートに涙ボトボト、じわっ、じわっ、と十円玉サイズのシミがどんどん癒合していく。
さりげなく、スカートにハンカチを畳んで置いてやったら、しゃくりあげを飲み込みながら涙いっぱいの目で見上げてきた。
「ありがとう」と泣き声飲み込んで言った途端、また喉がヒクヒク動いて、特大の涙が一気に4粒、飛沫をあげながらハンカチに勢い良く落ちていった。

中学時代の弘樹は、自席で泣くときはたまにティッシュを机の上に敷いてた。
それでも涙の量が多すぎて意味がなく、涙の勢いでティッシュがやぶれていた。
彼は泣き虫すぎる反面、すごく優しい子だったから、今は老人介護をやってる。
T子ちゃんやN子ちゃんは今はどうしてるんだろう?