田園地帯で育った。
遊び仲間にまもるがいた。一つ年上だった。
まもるの家はおとっつぁんとおっかさんの三人だった。
おっかさんは継母だったが、まもるにはやさしかった。
「一緒に暮らすようになる前は飲み屋で働いていたらしい」 と
まわりの大人たちが話していた。
当時の田舎では婆ちゃんたちは夏は腰巻一枚というのが
普通だったが、まもるのおっかさんも暑い日は家では上は着てないことが多く、
三角形のおっぱいが目にはいった。日頃、婆ちゃんたちの
垂れたおっぱいや、授乳中の母親たちのぱんぱんに張ったおっぱいを
見慣れていたので、三角形のおっぱいは子供心に不思議に思った。
おとっつあんは無口な人で、仕事で家を留守にすることが多かった。

あるとき、遊びにまもるを呼ぼうということになって、友だちの一人が
家に行ったが、「いなかった」 と言って戻って来た。そして、
「おっかさんと正夫のおとっつぁんが焼酎を飲んでいた」 と付けくわえた。
数日後、その友だちが私にそっと、 「二人は裸だったよ」 と明かした。
あばら家だから家の中が見えたのだろう。

正夫は一つ年下で、住まいは隣の地域だった。彼のおとっつぁんは浅黒く、
がっちりした体つきの人で、昔、他所で闇屋をしていたと聞いた。こちらに来て、
道路沿いに小さな駄菓子屋兼雑貨屋を開いたが、繁盛は開店当時だけで、
閑散とした店内で店番のおばさんが近所の人と所在無げに世間話をする姿を
みかけたが、そのうち一家でどこかへ引っ越して行った。

田舎に帰ると、墓地にまもる一家の墓があった。まもるが建之とある。
墓碑銘に先祖と並んで、おっかさんの名前が刻んであった。
線香を一本お供えして、手を合わせた。