ここは私立南城高校1年B組。休み時間に、いつものようにクラスメイトたちと雑談を楽しんでいた防人蛍は
ふとカバンの中にわずかな振動を察知した。
(・・・あらっ?ゾボット?)
携帯用通信機ゾボットが信号を発しているのである。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるね」
蛍はゾボットを片手に教室を出ると、階段を駆け上がり、校舎の屋上に向かった。
期待どおり、そこには誰もいない。蛍はゾボットのスイッチを入れて通信を開始する。
「ランドスーピーよりミリファーへ。こちらゾーンエンジェル。応答願います」
「こちらミリファー」間髪置かず、父・陽一郎の声がゾボットから聞こえてきた。
「エンジェル、都内のB地区3243あたりで、数人の男たちの不穏な行動が確認された。
ガロガたちかもしれん。ただちに偵察に向かってくれ」
「了解。ただちに向かいます」蛍はゾボットのスイッチを切り、大きな声で派手なアクションをとる。
「ゾーン・ファイト・パワー!」
蛍の右手の指にはめられた指輪がまばゆい光を放ち、
蛍は瞬時に、ゾーンエンジェルの華麗な戦闘コスチュームを装着した。
「アストロ・ダッシュ!」
かけ声も勇ましく、大空に飛び立・・・とうとしたその時!
「こらあ〜!ソコでなにしてるんだっ!」
飛行ポーズをとった蛍は、その場で硬直した。「ええっ!?」
クチから心臓が飛び出すとはこのことだろうか。
誰もいないハズの校舎の屋上に一体だれが?
ピンクのマスクに包まれた蛍のクチの中が瞬時に渇き、ワキから大量のアセが流出した。
「もうすぐ授業が始まるというのにそんな格好でなにしてるんだ!?」
青い上下のジャージ姿のその青年は、校内でも厳格なことで有名な体育教師・山本だった。
彼は、生活指導の担当でもある。
「い、いや・・・わ・・・わ・・・わたしはその・・・この学校の生徒じゃ・・・」
蛍は、ゾーンエンジェルの姿のまま、ただおろおろと話し始める。
「ん?キミは確か・・・」
山本が蛍に近づいてきた。
(いや!先生!近づかないで!こんな格好はずかしい・・・)
「キミは確か1年の防人くんじゃないか」
(わあ、もうバレた!?どうして!?カンペキな武装なのに・・・)
「優等生のキミが、こんな時間にこんなところで何をしてるのかね?」
「・・・そ・・・それは・・・そのう・・・」
「だいたいその服装はなんだ!?校則違反じゃないか!?その妙なカタチのヘルメットはなにかね?」
幸か不幸か、山本は大きな勘違いをしてくれている。
こうなったら、なんとかピースランド星人である自分の正体を隠し通さねばならない。
「・・・あの・・・わたしおべんとうを忘れたんで、パンでも買いにいこうかと・・・」
ここは校舎の屋上である。かなり苦しい弁解だった。
「ウチの学校はバイクの使用は禁止だってこと知ってるだろうが!」
「いや、あの、じ・・・自転車で・・・わたし、これをかぶらないと自転車に乗れないんです・・・こわくて・・・」
「それじゃそのマスクはなにかね?」
「これはその・・・ちょっとカゼぎみで・・・ごほごほ」
「マスクなら普通のガーゼマスクでいいだろう!そして、そのハデな色のストッキングはなんだ!」
「こ、これは・・・」
「校則では黒またはベージュ以外は禁止しているハズだぞ!」
「いやその・・・たまには・・・こんな色もいいかなあって・・・」
「生徒の非行は服装の乱れから始まるんだ!ぼくといっしょに校長室に来たまえ!」
「ええっ?こんなかっこうで、ですか?」
「来なければ停学、場合によっては退学だ!このままだと内申書に影響するのは間違いないよ」
「そ、そんな・・・」

非行少女のレッテル!
内申書への影響!
停学処分!
ゾーンエンジェル、最大のピンチ!

はたして、どうなる?

(終)