『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』を観てきた。もちろん奥西死刑囚
無罪の視点で描かれている。

しかしこの映画は、あまり事件に深入りすることなくさらりとかわし、母が悲
嘆にくれる場面や周辺部分を描くことに力を入れていて、ちょっと肩すかしを
くらわされたみたい。現実の映像と役者が演じる場面が混在し、あまり上出来
とはいえない。事件の真相を伝えるよりも、「お涙頂戴映画」に成り下がって
いる感は否めない。母親は事件とは無関係である。気持ちはわかるが、ドキュ
メンタリーならドキュメンタリー、ドラマならドラマに徹してほしかった。

奥西死刑囚は冤罪なのか、そうでないのかは観客にわかるはずはないのだ
から、一層不満が残る。有罪の判決を下した裁判官が栄転したなどと皮肉
ってみせるが、これも事件の真相とは無関係。

江川紹子の『名張毒ブドウ酒殺人事件』(岩波現代文庫)も読んだが、奥西
無罪の心証は得られなかった。真相はわからないとしか言いようがない。