★DVD/BDで十分、映画館に行く必要もなくなった。 韓流が“映画館文化”を崩す★
毎日新聞 2013年04月09日 東京夕刊

 映画館が好きだ。古びた映画館の“たたずまい”が好きだった。
 上映途中に客席の暗闇に潜り込み、手探りで「空いた席」を探す。やがてジ・エンド。場内が明るくなると……
明治・大正の“意匠”が目に飛び込んでくる。例えば……天井が幾何学模様だったり、アーチ型の窓、丸柱が幾
つも並んでいたり……和洋折衷の“たたずまい”が映画の余韻を醸し出す。

 昔の話で恐縮だが、昭和40年代、新潟支局勤務の駆け出し記者時代、休みが取れると列車に乗って高田駅近
くの「高田大映」に通った。古びた映画館だった。

 明治44(1911)年、芝居小屋「高田座」として建てられ、当時の新聞に「ルネサンス式白亜の劇場」と
称賛された超一流の建物。開業5年の大正5(1916)年、常設映画館「世界館」になり、その後「高田東宝
劇画劇場」「高田セントラルシネマ」「松竹館」「高田大映」と名前を変え、映画不況を乗り越えてきた。

 東京本社勤務になって一度だけ見に行ってみたら「高田日活」と看板を変え、ロマンポルノを上映していた。

 その「豪雪地の映画館」も老朽化が進み、平成19(2007)年に「常設映画館」としては廃業。今は「街
なか映画館再生委員会」という市民有志が自主映画、コンサート、寄席の発信基地にしているらしい。

 映画の殿堂・東京浅草六区も常設映画館ゼロになった。

 寂しい。が、映画館に行く必要もなくなった。最近はDVD、ブルーレイディスクで十分なのだ。

 友人がとりためてくれた韓流ドラマ。ともかく面白い。出生の秘密、復讐(ふくしゅう)、記憶喪失……いつ
も、同じような筋書きだが面白い。

 しかも「安上がり」である。

 韓国の制作会社は国内市場だけでは生きていけない。海外に活路を求め、放送番組の2次利用の著作権を低価
格に抑えている。

 「自社制作の番組を再放送するより、韓国のドラマの方が安上がり」と日本のテレビ関係者は明かす。

 韓流が“映画館文化”を崩す。

 名作「冬のソナタ」が日本で放送されてから10年。いつの間にか、我が家は映画館になってしまった。(専
門編集委員)

:http://mainichi.jp/opinion/news/20130409dde012070004000c.html