ドストエフスキーの『虐げられた人々』でネリーは嫉妬心を爆発させて、洋服をズタズタに切り裂いてしまいます。
洋服に関するエピソードはこれで終わり。もう出てこない。
『赤ひげ』で二木てるみは、やはり嫉妬心に駆られて、着物を泥だらけにします。切り裂いたわけではないから、洗濯すれば元に戻る。
「まあ、こんな格好させられて」という杉村春子に向かって、「ちゃんとした着物だってあるんだ」と言えるわけです。
これは、黒澤の勝ちです。一回だけのエピソードにしてしまったドストエフスキーを凌駕しています。
おそらくは、小国英雄のアイデアだと思うのですが。