辛辣な批評で知られる米国の女性評論家・ポーリン・ケイルが、映画
『細雪』を日本映画の中で唯一絶賛しています──

「過去の階層性の家族の価値観にすがりついて、うやうやしいおじきと、
気取った顔のそむけかたをする伏し目がちな雪子…しかし、われわれは
雪子のしとやかさの中にお色気を見てとる。ふたりの姉の場合も、やはり
そこが魅力である。性の自由を謳歌している元気のいいモダンガールの
妙子が、いちばんコケティッシュでなく、お色気がないが、ほかの姉妹と
いっしょにキモノ姿でいるときの彼女は愛らしい。姉妹四人とも美しく、
完璧な肌色で、彼女たちの動きは、自分がビジュアルな詩であることを
つねに自覚しているようだ。(そう、彼女たちはまさに詩だ。)」
(朝倉久志・訳)

家の格が違うということで婿取りを拒否し続けた船場の商家の矜持の
せいで三十路を過ぎても結婚できなかった三女の雪子を演じたのが、
当時(1983年日本封切)38歳であった吉永小百合でした。

また日本人の中でも、出演していた俳優たちの関西弁がすばらしいと
いう高評価をしている人がいます──

「この作品の言葉の素晴らしさは、私が関西人なのでよく分かります。
あの上流階級特有の、一族内ではキモノの持つ典雅さに包まれ穏やか
だが、女中達には、関西弁特有の、突き刺さるような冷たさが放たれる。
少し一般の関西弁とは違う響きが恰好良い船場言葉。」「何よりも驚き
なのは、佐久間良子様と吉永小百合様が東京出身。岸恵子様がパリ在住
の横浜出身、古手川祐子様が大分出身という風に4人とも全く関西に縁
もゆかりもない人たちなのです。市川崑監督と方言指導の2人(大原穣子、
頭師孝雄)もさることながら、さすがこれが一流の女優様方の『華麗なる
変身』なのだなと感嘆させられます。もう一切の物腰に『いとすさまじい
もの』はございません。」
和を知る、市川崑 映画『細雪』投稿者・長谷 紅
http://cahiersdemode.com/sasameyuki1_japan3/

ソースは2chですが、こういう情報もあります──

「一番自然な大阪弁を喋っていたのは吉永小百合。 伊丹十三は元々西方
の人間なので上手いのは当たり前。」
https://rio2016.2ch.net/test/read.cgi/rmovie/1192353164/22/

因みに、映画で長女(鶴子)は、岸恵子でしたが、本来は山本富士子が
演じるはずだったそうです。下の三姉妹はどこか面影が似ているのに、
岸だけはちょっと違う感じがします(勿論、演技で岸を責めるつもりは
ありませんが…)。都合で出演できなかった山本が長女を演っていれば、
四姉妹としては完璧だったのではないでしょうか。
http://eiga-chirashi.jp/081017_2/sumimg/081017_2000069-0.jpg

また映画館で、思わず失笑が起こりましたが、雪子の見合いの最後となる
であろう相手が、あの江本孟紀だったのは全くのミスキャストであったと
言わざるを得ず、最後の最後で映画を台無しにしてしまいました(遊び心
を加味したご愛敬?)。吉永が知り合いの服飾デザイナー三宅一生に出演を
依頼したのですが、断られたそうです。従って、キャスティングの点でも
この映画は完璧であったとは言えません。

自分としては、市川崑監督・和田夏十脚本の映画であれば(『細雪』製作
の時には、和田は既に病床にあり、正式には脚本に名前を連ねていません
が、一部を実際に執筆しアドバイスも行っていたそうです)、市川雷蔵
主演・若尾文子・京マチ子・山田五十鈴などの一癖も二癖もある錚々たる
女優陣が出演した『ぼんち』こそ、女性たちの特有の底意地の悪さを十二分
に描いた作品として、『細雪』の上を行っているという評価をしております。