「東京物語」と同じく一家の離散をテーマにした作品だが、「東京物語」とは
異なって、なにか「未来への希望」が感じられる映画。
老境に入る前の小津監督のまだ若いエネルギーが画面全体にあふれている。

見終わったあとの感慨はヴィンスコンティの「山猫」に近い充実感がある。、
「山猫」もまた没落していく貴族の悲哀を描いていたが、映像に力強さがみなぎっていて、
冬に向かいつつある季節の中にも晩秋の暖かさが感じられるという傑作だったが、
麦秋にもそれと全く同じ感慨を抱いた。
不思議と何回見ても見飽きないし、見るたびに新しい発見がある。

小津映画のベスト作品は世評では「東京物語」なのだろうが、自分にとっては
迷うことなく「麦秋」がずば抜けて最高傑作だと思う。